ありふれた錬成士は最期のマスターと共に 作:見た目は子供、素顔は厨二
というかCCCクリアがーーー!!!
あとメルトの鍵をーー!!!
そんな感じの作者ですがお許しを!!
ーー立香side
「ーー我が道は今我等が覇道となる」
まどろっこしい。煩わしい。
立香はこの長い詠唱が早く終わらないかと、焦っていた。それは目の前で聖なる防壁を張り続ける少女を思ってのこと。
赤頭と緑頭に青頭が炎を吐き、風刃を散らし、氷の礫を放つ。それぞれが深層の怪物すらも比較にならないほどの威力を込めさせながらユエの“聖絶”を削り取っていく。
ユエはそれでも立香を信頼し、幾度も“聖絶”を張り続ける。それによりこの互いにノーダメージという状況は保たれている。
しかしその“聖絶”が途絶えて仕舞えば、きっと状況は一転する。だからこそ立香は焦っていた。
「
この詠唱の時間が全くもって長い。ハジメとの戦いでも痛く味わった。立香のネックがその詠唱の長さだと。ユエは今も闘っている。だと言うのに自分が今できるのは『座』に仰ぎ、力を請うことだけ。今までと同じく、守られているだけだ。
それが酷く立香に無力を感じさせる。
立香は守られてばかりだ。人理を取り戻す戦いでも、未来を修復する旅路でも。立香は守ろうとして、守られて、そしてその度に失ってきた。
だからこそ立香の意識の深層では嫌でも意識してしまう。立香が取りこぼしてきた過去を。
(今…『過去』を思い出すな! 目の前の戦いだけに意識を!!)
「汝は試練を超えし者、守り抜きし者。狂える者は抑止の輪より今ここにっ!」
立香は叫ぶ。力を請うのはかの英雄。他でもないヒュドラを倒してみせた偉大なる強靭な戦士。その者をこの身に宿す。
だがもうじき詠唱が完成するその頃に、状況は一変する。
絶叫が部屋一帯に響いたのだ。他でもないユエの声で。
「いやぁああああああああ!!!!!」
(っ!? ユエさん!!)
“聖絶”が虚空へと消えていく。それと同時にユエがその場で崩れ落ちた。立香には何が起きたのか判断できなかった。
ただヒュドラの能力であることはよく理解した。
ユエに青頭のヒュドラが迫る。牙でユエを噛み砕くつもりのようだ。そればかりはさせてなるものかと立香は走る。
(…“瞬光”っ!)
立香が己の技能を発動させると同時に、世界がグレーに染まる。そしてスローに時が流れ始めた。そんな世界でただ一人、凄まじい速度で走りながら立香は詠唱を叫ぶ。
「汝、この呼び掛けに応えるならば我が剣と成せ。我が身となれ。今ここに力は呼応する」
“瞬光”によりゆったりと流れる景色を立香は必死に駆ける。炎や風に身を晒されるが、致命傷に至るものだけ危なげなく避けるか、“ガンド”で吹き飛ばしていく。ただ大きな怪我に至らなそうならば肌を焦がしてでも無視した。
そしてギリギリのタイミングで立香はユエの元に辿り着くと、詠唱を完成させる。
「ーー来い、我が覇道を拓くが為に!!」
そして手に生み出させる金属塊とも言える歪な石斧。上半身はほぼ剥き出しで胸に百獣の王の胸鎧がつけられているだけ。下半身も腰当があるだけで、それ以外はほとんど何もない。
ただその分変質したかの如く、その体は巌のように引き締まり、肥大化している。更には血管も大きく脈動していた。まさしく別人のようだ。そんな立香からは歴戦の戦士のような狂気じみた存在感を感じさせた。
立香は石斧を振り上げると、青頭の顎を瞬く間に掻き飛ばし、その鎌げた首を大きく上に仰け反らせる。それだけで立香の身に宿った英霊の巨力の一部を理解できるというものだ。
ーーヘラクレス。第五次聖杯戦争において『最強』とされたギリシア神話の英霊。凄まじいのは【狂化】により衰えたはずの技の冴え。それはしっかりと立香にも受け継がれている。
まさしく『最強』の力を反映した立香はユエを片手で抱えこむ。片手で身の丈以上の石斧を扱うのは本来ならば無理ならば、今の立香ならば何ら問題はない。
迫り来る炎の渦を石斧で吹き飛ばし、風の刃を“瞬光”による身の加速で紙一重で回避する。“瞬光”を完全に制御しきる立香だからこそ長時間の使用を発動できる。今の出力は40%ほどのため、頭にダメージが入ることもない。まさしく天武の才である。
そしてその一方で抱え込むユエを揺さぶり、正気を取り戻させようとする。しかしユエは呻き声を上げるだけで、立香に答えることはない。
「ユエさん! ユエさん! 返事して!!」
「……ぁああぁあああ」
「くそっ! これじゃあ神水も使えない!!」
ヒュドラ達は立香に波状攻撃を仕掛けている。炎を凌いだかと思えば、風の刃が乱れ飛ぶ。風の刃を防げば、今度は氷の礫が降り注いだ。そしてそれを吹き飛ばしても赤頭が強襲を仕掛ける。
更にはその頭を吹き飛ばせど、次には白色の光に包まれてその頭を修復してしまう。六首のヒュドラの中で一番奥に控えている白頭によるものだろう。
その為立香は休む暇もなく、迎撃に身を費やさねばならない。少しでも時間があれば、ハジメから預かった神水でユエを回復させるというのに。
ヒュドラもきっとユエを警戒し、更には立香に遠距離攻撃が無いことを野生の勘で感じ、立香を休ませないようにしている。
ここで無理に攻めに出てもユエを抱えていることで身動きが効きづらく、どちらか二人の致命傷は間違いなく発生する。また白頭による治癒が相手側にある限り、いくら倒しても意味はない。
ここで攻めに出るにはユエの助けがどうしても必要だ。ユエの反則級の掃射があれば、敵側にも隙ができる。そうすれば白頭を吹き飛ばし、ワンサイドゲームに持ち込める。
(だから…早く目覚めてくれ、ユエさん!!)
立香はこの戦いの勝機になり得る少女に、そう叫んだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ーーユエside
ユエは暗闇の中、心を塞いでいた。
『アレーティア、お前のような怪物はもう、この世にはいらないのだ。精々、この奈落の奥で眠っているがいい』
ユエが見たのはあの日の悪夢。ただ女王としてその身を粉にし、弱音も吐かず、献身した己の末路。自分は確かに信じていた者全てに裏切られた。
そして味わったのは暗闇の世界、何一つの音も許さない世界。つまりは孤独だった。誰かに認められるために人生を費やしていたというのに、結果は真逆。なんとも酷いものだ。
更に時は流れ、無情にも心を満たすものは現れなかった。何度夢で笑顔に囲まれた昔の事を思い出したかは分からない。目覚めるたびにまた一歩、絶望へと自身を刻々と追いやって行ったことだけは覚えている。
いっそ狂えて仕舞えばどれほど楽だっただろうか。何度も何度もそう思った。
しかし狂うことは許されなかった。固有魔法、“自動再生”によって。その生まれながらの技能は体どころか精神さえも平静に戻させる。だからこそ感情を投げ出すことさえも許されず、一刻一刻と時が流れるのを待つしかなかった。
だからこそ、美しかった。鮮烈に輝く紅の瞳は。
名前も知らない人だった。色素の抜けた髪に、赤黒い血管が全身に浮かび上がっている。身長は高いといえるほどだった。そして彼の頰で煌めく瞳の色と同じ紅の紋様。首に巻かれた襟巻きもまた同じ紅の色。
彼も入ってすぐに自分に気づいてくれた。目を見開いて驚愕していたのが新鮮な空気の揺らぎから手に取るようにわかった。
ーー何故あなたはこんな所にいるのか。
ーー何故あなたは奈落の底で生き延びているのか。
ーーあなたの頰の紋様はいったい何か。
ーーどうしてあなたの肌には魔物のような血管が全身に張り巡っているのか。
ーーあなたはどれだけ悲しい過去を背負っているのか。
胸から湧き上がるいくらでも疑問は尽きなかった。ただ全身に雷が落ちた。そんな錯覚を覚えた。同時に理解したのだ。
ーーこの人こそが、運命の人。
安直に助けが来た、と思ったからではない。この人だからだ。きっと自分がここで待ち続けていたのはこの人だった。それをこの全身が感じとった。
だから彼が外に出ようとしたのは許容できなかった。付いて行きたかったから。彼に自身の一生をかけると決めたから。ろくに動きもしない喉を必死に開けて叫んだ。
『……裏切られただけ』
こちらを見向きもしなかった彼がその一言で不意に止まった。蹲り、脂汗をかいて、それでもどこか同情心を覚えたのかこちらに向かってきた。
そこから大まかな自身の人生について話した。能力のことも、反乱のことも全部。
嘘はつかなかった。むしろつけなかったの方が近い。生涯共に居たいと願う人に嘘をつくなど以ての外だと感じたから。もし話を聞いて、それでも助けないと彼が断じるならばそれもそうだと納得できただろう。
でも彼はその過去も全て許容した。そして彼が長い間不動であった檻に手をかけた。
そして、忘れもしない。奈落の闇を切り裂く紅き稲妻を。
あっさりと檻は彼の“錬成”により溶解していく。やがて堅固を誇っていた檻は瞬く間に金属片へと成り代わり、床に散っていった。
奈落の底でただの『錬成士』が生き残っていることも驚いた。でもそれ以上に紅く光る魔力光は永く持つことがなかった安堵の感情をくれた。心に温もりが灯る。
でも目の前に凶悪なサソリ型の怪物が現れた時には終わりかと思った。彼は錬成士、戦える技能などないと思っていたから。自身は魔力さえ回復すれば戦える自信はあった。ただ、その魔力が著しく足りない。だからこそ世界がまた自身の幸福を拒むのかと、そう思った。
しかし予想は裏切られた。彼は錬成士でありながら、凶悪な魔物の装甲を瞬く間に剥がし、その命を絶った。錬成士としての技量もおかしかったが、それ以上に錬成士ではあり得ない動きであった。
その後、脇に抱えられまるで荷物のように運ばれたことで少し不満に思ったり、マフラーから若めの女の匂いを敏感に察知したりもした。だが久しぶりの人との温もり、それを手放すなど不可能だった。
だが、彼は自身の手を離した。
目の前に現れた大きな大きな壁。彼の意思によって生み出された心の心象風景。ようは己を拒んだ証明に他ならない。
捨てられた。
再び。
あの日のように。
分かり合える誰かだと思っていたのに。
己の手は、誰にも掴まれない。
だから己は泣くことしかできなかった。彼を追うこともできず、奈落の底で再び捨てられたことに絶望することしかできなかった。
そして今も、もしかしたら捨てられるかもしれない。迷宮を踏破した後、「バケモノ」と罵られ、捨てられるかもしれない。そう思うと心がひどい虚無感に襲われる。
弱い、己でもそう思う。
再び手に入れた温もりは己を弱くした。
「……誰か、助けてぇ。ハジメぇ…」
闇の中、ユエは泣き言をこぼした。
誰かに手を取ってほしい。またあの手で、もう一度。温もりが欲しい。もう彼がいなければ、ユエは絶望することしかできないのだから。
……本当に?
本当にそれでいいのだろうか。
ハジメという自身の手を握った少年もまた、弱かった。孤独ということに恐怖を覚え、故に仲間を感情を手放そうとした。
ならば、彼の隣に立つというならば。自分が今の位置に甘んじていていいのか。
彼の温もりに触れ、己の孤独を埋めるだけでいいというのか。
「……わけが、ない」
彼の隣に立つというならばハジメの親友のように、立香のように隣で支えるような存在にならなければならないのではないか?
ならばここでうずくまっている時間はあるのか?
「……ない。そんな、時間!!」
ユエの周りを取り囲んでいた闇がひび割れ、晴れていく。そして震えていた足に力を込めて立ち上がった。
声が聞こえる。己を呼ぶ
ならばと魔力が吹き荒れた。黄金の魔力光だ。
そして己の愛しき人の為に、ユエは立ち上がる。ハジメを二度と、悲しませない為にも。
「私はユエ! ……絶望には、屈しない!!」
心の闇が音を立てて瓦解する。
ユエはもう、囚われの姫などではない。戦う女なのだから。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ーー立香side
ユエが戦闘不能になってから五分が経過した。その間立香はヒュドラに何一つ致命傷を負わせられていない。
それも白頭のせいで、頭を潰しても片っ端から回復させて行く。白頭を狙おうと氷の礫を弾き返したこともあったが、丈夫な黄頭によりそれは塞がれた。
防御、回復、攻撃。見事にそれらが揃っている為、立香は攻めるにも攻められない。
「はぁはぁはぁはぁ…」
魔力は相当減っている。“英霊憑依”と“瞬光”の能力は凄まじいものだ。故にそれに払う代償も非常に大きい。“瞬光”の方も出力を減らしているとはいえ、頭にダメージが少しずつ入ってきてしまっている。長時間の戦い故の“瞬光”の欠点が今ここで現れ始める。
だが、諦める動機などない。不屈を体現したような男が今更逃げるはずなど無いのだから。
「ォオオオオオオオオ!!!!!」
獣のような唸りを上げ、立香は来る炎の渦と風の刃、氷の棘の波状攻撃を迎撃していく。
しかし精神的な面が無事だからとはいえ、体が無事とはいえない。それは立香の膝が不意に折れたことから証明される。
(まずっ!!)
地面に倒れこむ立香。抱えるユエは何とか己の身で庇って、地面への直撃を防いだものの、それでも大きな隙。ヒュドラが見逃すはずがない。
今までと比較にならないほどの火炎が地面を爆進し、立香へと目掛けて迸る。熱波がブワッと立香を襲う。
立香は何とか立ち上がろうとするも膝が言うことを聞かない。体に余りある力が立香の身を滅ぼしたのだ。その弊害もあり、立香はすぐに立ち上がることができない。
「くそっ!! 立てよ、俺ぇえ!!!」
だがそんな叫びも虚しく、膝は動かない。
石斧を杖に立ち上がろうとしても、回避には間に合わない。
いっそ擬似魔術回路を作り、防御力の底上げを図ろうとする。後ろにいるユエをせめて無傷で済ますためにも己を盾にする。
しかしその前に吸血鬼の女王の鍵言が放たれる。
「……“聖絶”!」
聖なる防御壁が炎を断割し、立香を避けて這い進む。
呆然とする立香の肩に小さな手が置かれる。
「……待たせた、リッカ。神水飲んで」
ユエから試験管が渡される。中に神水が入った超絶回復薬だ。
今の立香は火傷どころか、膝が壊れ、魔力ももう微弱だ。神水の残り本数を考慮しても飲むべきだ。
立香はユエの血色の戻った顔を見てニカッと笑う。そして神水を受け取り、一気揚々と叫んだ。
「…プハァッ! 了解!! ぶっ潰しますよ、あのトカゲ!!」
「……上等!」
なお次回が立香&ユエの中編or後編です。
作者、どちらにするか未定です。
…まあ、字数しだい?