ありふれた錬成士は最期のマスターと共に 作:見た目は子供、素顔は厨二
今回は完全にハジメのお話です。どうぞよろしくオネシャス。
ーーハジメside
立香との話し合いを終えて、ハジメと香織は城へと帰ることとなった。ーー香織と一緒に、しかも遅くに帰ってきたのだ。
これにより今の状況は作られていた。
クラスメイトにハジメが囲まれており、その視線は非難殺到。またハジメの姿勢は紛れもなく正座である。横に香織もいるが、香織にはむしろ同情とか好意の目しか行っていない。
そんな中ハジメは今、一人の男に説教されていた。
「南雲、いい加減に香織の優しさに漬け込むのもいい加減にしたらどうだ? 図書館で本でも読んでて、時間が遅くなったから香織が心配したんじゃないか。香織の大切な自主練の時間を削らせてまで何がしたいんだ? 俺だったらその時間は自主練にでも使うさ。何、これぐらい『使徒』として普通のことだろう? そうは思わないか、南雲?」
今、ハジメに説教をくどくどとしているのは香織と同等のスクールカーストの位置にいる男、
サラサラの茶髪と優しげな瞳、百八十センチメートル近い高身長に細身ながら引き締まった体。誰にでも優しく、正義感も強い。
小学生の頃から近くの道場に通う門下生で、全国クラスの猛者だ。ダース単位で惚れている女子生徒がいるそうだが、いつも一緒にいる雫や香織に気後れして告白に至っていない子は多いらしい。それでも月二回以上は学校に関係なく告白を受けるというのだから筋金入りのモテ男だ。
またこの世界に来てもそのチートぶりは変わらない。天職は勇者で訓練を始めて二週間少しの今でさえもステータスはオール200。完全なるチートである。またモテぶりも変わらず、彼が廊下を歩くだけでハートでその場が埋め尽くされる。
そんな光輝だが、難点が一つある。それは思い込みが激しい点だ。そのくせにその言葉には全く悪意は無く、本人のことを思った上で言っている。そのためハジメにとっては余計にタチが悪い。
光輝が掲げているのは基本的に「こうだったらいいなぁー」という理想論ばかり。しかし彼にはそれを実現できてしまうスペックがある。故にその発言は一見正論に見えても独り善がりで他人のことを表面的にしか捉えないお粗末なものだ。
そして光輝はあまりハジメを気に入っていない様子だった。どうやら光輝の目にはハジメは『香織に気を使ってもらっているのに全く態度を改善しようとしないサボリ魔』的な印象を持っているらしい。だからこそ彼が気がついているかは知らないが、ハジメに対する言葉には棘がある。
事実あまり自主練には顔を出していないハジメだが、それはハジメに実戦能力がなく、そのスペックの低さを他の点でカバーするためだ。図書館に通い詰めていることもそれが理由だ。またハジメの天職である錬成士としての訓練は個人的に試行錯誤している。
だがあくまでハジメは角を立たせないためにも極力反論はしない。ハジメは非暴力主義だ。そのためやんわりと光輝の言葉を肯定する。
「そうだね、僕も少し気をつけてみるよ。ハハハッ」
「少しじゃダメだ、南雲。お前には覚悟が足りない。この世界の人たちのために頑張ろうとは思わないのか!?」
正直、元の世界に帰りたい。ここの人達にはむしろ邪険にされた記憶しかない。しかしそれを実際に口にするとこれ以上に光輝の中でハジメが悪者になる。そして光輝に好意を寄せる女子達がハジメを校舎裏(ぽいところ)に連行するだろう。そのためハジメは逃げの一手を探し始める。
しかしハジメのその逃げの作戦の模索は無駄になることとなった。言わずと知れたもう一人よクラス二大女神の一柱によって。
「光輝、流石に南雲くんを責めすぎよ。あと香織の話によると南雲くんはずっと魔物みたいな迷宮についての情報を集めたり、“錬成”についての本を読んで自主練にふけているそうよ。それのどこが自主練じゃないのかしら?」
彼女の名は
ポニーテールにした長い黒髪がトレードマークである。切れ長の目は鋭く、しかしその奥には柔らかさも感じられるため、冷たいというよりカッコイイという印象を与える。
百七十二センチメートルという女子にしては高い身長と引き締まった体、凛とした雰囲気は侍を彷彿とさせる。
雫は香織と親友であり、光輝とも古くからの仲である。というのも光輝の通う道場の娘であり、そこで光輝とは知り合っている。光輝と同じく全国レベルの成績を残している。現代に現れた美少女剣士として雑誌の取材を受けることもしばしばあり、熱狂的なファンがいるらしい。後輩の女子生徒から熱を孕んだ瞳で〝お姉さま〟と慕われて頬を引き攣らせている光景はよく目撃されている。
そんな雫は何だかんだで香織と話すことでクラス中の批判を買うことが多いハジメの味方をしてくれる人間だ。ハジメはその理由が何故なのかは知らないが、それでもハジメとしては有り難い。
こちらに来てからの天職は剣士。これが女子に男らしいと言わせる要因を更に作り出してしまったのだが、今は言うまい。
「し、雫は南雲の味方をするのか!?」
「味方とかそんな問題じゃないでしょ? 第一、非戦闘職の彼に実戦訓練をさせてる時点でおかしいとは思わないの?」
「だが呼ばれた以上は彼らのために戦うべきだろ!?」
「高待遇されてる私たちは兎も角、非難の目を延々と向けられてる南雲くんにそんな余裕があるとでも思うの?」
「ッ!! でもそれは南雲の日頃の態度がーー」
「んなことどうでもいいだろうが、光輝。どちらにせよ訓練にやる気がねぇんじゃ意味がねぇだろ? そんな奴にどうもこうも言ったところで意味はねぇよ」
どんどんエスカレート(実際にしてるのは光輝だけ)していく口論に口を挟むのはこのクラスの光輝、香織、雫にならぶスクールカーストの頂点にいる男だ。
龍太郎は努力とか熱血とか根性とかそういうのが大好きな人間なので、ハジメのように学校に来ても寝てばかり、こちらでも訓練にやる気を見せない人間は嫌いなタイプらしい。現に今も口を挟んですぐにハジメを一瞥した後フンッと鼻で笑い興味ないとばかりに無視している。
だがその言葉もあり、今回はハジメは放置の方向で場は決定しようとしていた。ただ香織とハジメが共に行動するのはどうか、という意見は大きく、香織はハジメと強く関わらないようにという雰囲気になっていった。
こちらでの天職は拳士。脳筋をステータスにすら証明される男である。もっとも本人は気にしないだろうが。
「だから香織は南雲に気を使うのはもうやめろ。これ以上は香織のためにならない! 俺達と一緒に頑張ろう!」
光輝はそう言い切った。雫はもう頭が痛い!と眉の辺りを指圧する。檜山達は下卑たに笑っていた。場が満足行ったという方向になり、ハジメが安心したその時。
「え? 何でみんなに私の行動を決められないとならないの? 自主練なら間に合ってるよ?」
空気を読まない権化たる香織さんが思いっきりその場の決定をぶった斬った。流石のその場も硬直していた。
少し苦笑いしながら光輝は香織に尋ねる。
「で、でも俺達は呼ばれたんだぞ『使徒』として。ならこの世界の人のために行動すべきじゃないか?」
「でもこの世界の人みんな南雲くんに異様に厳しいし、むしろ私は嫌いだよ? だから私はこの世界の人のために戦おうとは思わないよ」
香織の言葉に一同絶句。ついでにハジメは更に絶句。ついでにもはや殺意へと進化した周りの視線に青く震える。今日はよく殺意を浴びる日だな、というのは今日のハジメの感想だ。
そしてついに光輝の硬直が溶ける。その瞬間、勇者のご都合解釈は爆発する!!
すなわちーーー
「南雲!! お前、香織に何をやったんだ!!?」
「〜〜ッ!!?」
ーーハジメが悪者だ!的な感じである! 急に光輝のタゲが再びハジメに向く! ハジメは「また僕ですか!?」と思わず自分を指差す。ついでに涙目になる!
だが勇者は止まらないっ!
「当たり前だろう! 香織は今までこんなことを言わなかった! なのにいきなりこんなことを言い始めたのはお前のせいだろう、南雲!」
「え? なんで光輝くんは私のことを全部わかった気でいるの? 私の本心は私しかわからないし、光輝くんもそうだよね? 勝手に否定されるのは何だかむすっとするんだけど…」
「香織、今は俺は南雲と話してる! 静かにしてくれ! それでだな、南雲! お前はやっぱり真面目に訓練に参加すべきだ! お前の不誠実ぶりが香織に移ったらどうする!」
「え、え、いや。あの〜」
「黙れ! こうとなったらお前を殴ってでも矯正してやる!」
まだ何も言ってないよ!?とハジメは心の中で否定する。が、ここで救済の手が二本伸びる。
「光輝!? 流石にそれは南雲くんが死ぬわ! 落ち着きなさい!」
「やりすぎだ、光輝! さっきも言ったがこんな奴は無視しとけ! 香織の方にもツテはあるって言ってたから考えはあるんだろうよ!」
「南雲ぉおおおお!!!」
雫と龍太郎が光輝を抑え込む。流石に二人ともやりすぎだと判断したらしい。ちなみに雫は途中から止めようと思ってはいたのだが、あまりもの旧友の意見にポカンと呆れていたのだ。
この後、ハジメは槍の雨の如き視線を潜り抜けて、自分の部屋まで戻らねばならないのだが…ハジメからすれば抜け出せるだけ良好と言うべきだった。
ちなみに場の喧騒からぬるっと抜け出したハジメにこれまたぬるっと抜け出した香織は笑顔で一言。
「また明日も立香くん達に会いに行こうね、南雲くん」
と、そう言って光輝たちを止めにまた戻っていった。
この騒動はあくまでも香織が八割方原因ではあるのだが…それでもハジメには少し最後の香織の言葉には救われたような気がしたのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ハジメは部屋に戻ると着替えることもせず、ベッドに寝そべった。ハジメの寝る布団は他のクラスメイトのものほど清潔なものではない。あくまでも世話をしてやっている感がそこにはある。ハジメからすればそれでも追い出されないだけまだマシなのだが…。
ふと今日知り合い、人生初の友人とも言える仲になった立香が別れ際に言った言葉を思い返す。
『また明日、ここに来てよ。こっちの言語、出来れば教えて欲しいんだ。それに二人にすごい魔術の先生を教えてあげたいしね!』
そう、香織のツテとはまさしくこれのことである。ハジメとしても何らかの魔法の手段を手に入れられることはとても有り難いので何としても城を抜け出して図書館に行こうと決意している。ただ今日の騒ぎでそれも厳しくなったのだが。
だがハジメは今日の出来事を思い返す。どれもろくなものではなく、驚きと恐怖の連続ばかり。ただ手に入れた物もあり、どうもそれは放し難いものだった。
『
立香の決意がふとハジメの脳裏で響く。
この時だ。ハジメが立香との間に大きな溝があると思ったのは。
立香の眼は膨大な熱を宿していた。
同時に立香の眼は哀しみも宿していた。
きっと立香はハジメのような人間とは無縁の人生を歩んでいる。立香が言っていたファンタジーよりももっと薄暗く、悲しい影の中を歩んだのだろう。
だからだろうか。ハジメがハジメをちっぽけに思うのは。
だが思うのだ。ハジメは立香の隣に並びたいと。
戦闘職でも、今まで戦ったこともないハジメがそう思うのはふざけているのかもしれない。
だが確かにハジメは立香の歩みに近づきたい。それ故に考える。己の戦う意味を。
その日は結局、ハジメは思考とともに夢の世界へと飛び立っていった。
しかし後に嫌でも戦う意志をハジメは持つこととなる。
その真実を知るのはまだ先のこと…
すごい先生、いったい誰だろな〜。
あ、ビックバンナンチャラコンチャラーじゃありませんよ。
…途中で書いていてみんなそう誤解しねぇかな、と考えたためここで否定させてもらいます。
ちゃうんやぞ!!
あと勇者のバカっぷりは書いていて楽しいです。
やー、アイツアホやわ。
これからも勇者(笑)を楽しくウザく書かせていただきます。