ありふれた錬成士は最期のマスターと共に   作:見た目は子供、素顔は厨二

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頑張った。
六千字超えた。
頑張った。
…後半辺り適当感ぱないけど。
許してね。


簡易召喚

 ーー立香side

 

 王立図書館の隅の机。そこには二人の陰がある。しかし誰一人目もくれることなく、己の作業に集中している。別に彼らの影が某深淵卿の如く薄いわけではない。

 

 その正体はやはり“認識阻害”を己らにかけた立香とマシュだ。二人は図書館に訪れる客の反応を見ては一安心をしている。

 

 なんといっても昨日に二人も“認識阻害”を軽々と突破する人間が現れたのだ。片方は『恋は盲目』パワーを使ったとはいえ、もう片方は素で、ごく当然のように破ったのだ。立香が神経質になるのも仕方がない。

 

 するとマシュが立香の様子を見て微笑ましそうに笑う。立香は思わずマシュの方を振り返った。

 

「…? どうしたのさ、マシュ。いきなり人の顔を見て笑って。顔に何か付いてる?」

「いえ、先輩の顔は変わらず整っていますよ!」

「お褒めの言葉ありがとうございます、マシュさんや。だけどそれなら一層なんで笑ったのか気になるのですが?」

 

 いきなり顔を褒められ、赤く顔を染める立香。だがやはり笑った理由は気になるようだ。再度立香はマシュに尋ねる。

 

 すると帰ってきた答えは、立香にとっては意外な言葉だった。

 

「単刀直入に言いますと…先輩が楽しそうだったからです」

「楽し、そう? 俺が? そんないつもしかめっ面だったけなぁ〜?」

「あ、いえ。そうではないんです。先輩はカルデアに来てからというものの『同年代の友人』という方と会っていませんでしたから。私や皆さんと会う時とは様子が違ったので楽しそうだな、と思っていたのです」

「…確かに、そうだなぁ」

 

 立香は元々は普通の中学生だった。もうじきに受験期に入るという頃にレイシフト適正が見つけられ、カルデアに連れてこられたのだ。

 

 今こそ後悔はないが最初の頃はカルデアの何もかもが新鮮で、驚きの連続だった。しかし苦痛や人の死を見る度に立香は家族や過去の友人の姿を幻視した。ある事件があって立香の家族は死に、友人とは連絡のつけられない立香にとってはハジメの存在は希少なものだと言えるだろう。

 

 それをマシュに言われるまで気がつかないとなると、立香自身あの頃に戻りたいとさほど思っていないのだろう。

 

 今はもう魔術師としての生活を基本としており、英霊の背中を追い続けている。また自分を肯定してくれる人も沢山いて、最愛の人も隣にいる。

 

 それでもマシュに気づかれるほど喜んでいたというならば、立香も少しは未練があるのかもしれない。

 

「うん、きっとそうだね」

「はい。先輩に大事な方が増えたこと、私は嬉しいです」

 

 屈託のない笑みを浮かべ、立香の幸せをまるで自分の幸せのように共有してくれるマシュ。彼女は花のように華やかな笑顔を浮かべていた。つられるようにまた立香も笑った。

 

「でもさ、マシュもじゃない? 白崎さんとは始めての女子友達でしょ?」

「そうなの、でしょうか? 私はその方がありがたいと思っているのですが、白崎さんが困らないかと…」

「マシュはそろそろ自分を低く見積もるのはやめた方がいいよ。自信、少しは持ちなよ」

「先輩はその方がいいですか?」

「うん、おしとやかなマシュもいいけど率先して進むマシュも見てみたい、彼氏としては」

「ふふ、それなら少し頑張ってみますね」

 

 今二人は“認識阻害”を使っている。故にこの静かなイチャイチャを知る者はいない。だが周りの男たちはどうしてか右手を握り、目から血を垂らして歯ぎしりする。桃色オーラはどうやら見えずとも有効であるようだ。

 

 周りに血の海を無自覚に作り上げる立香とマシュ。そんな二人の耳に図書館の扉が開く音が聞こえた。振り返るとそこには友人となった二人の姿があった。

 

 立香とマシュはその姿に顔を喜色に染めてから…硬直した。具体的に言えば混乱している。何アレ?と不可思議なものを見ているような、そんな感じだった。

 

 果たして二人の視線の先にいたのは…。

 

「ごめんねハジメくん。光輝くんたちを撒くにはこうするしかなかったの。ごめんね」

「…(目がグルングルン)」

「「何があったの(ですか)!!?」」

 

 なんとも死屍累々としたハジメと申し訳なさそうにハジメを治癒する香織の姿だった。なんだか香織の後ろ側には某ラスボス系ヤンデレヒロインの姿がゆらゆらしていた。

 

 結果、またもや図書館から急いで抜け出し、壁をよじ登って屋根で会議することになるのであった。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ーーハジメside

 

「ーーというわけで僕がこっちに来るのが非常に厳しかったんだよね」

「だから私が南雲くんを担いで強行突破するしかなかったんだよ」

「それは(今日のハジメの帰ってからの心労が)お疲れ様」

「それは(白崎さんに担がれた際の南雲さんの心労が)ご愁傷様でしたね」

「うん。…ありがとう立香くん、キリエライトさん」

 

 ハジメの心はそれは本当に死んでいた。話を聞いている精神チートたる立香にもハジメのここ最近の苦労は厳しそうである。

 

 というのもつい先ほどまでハジメはご都合勇者モードの光輝と妬む男子を率先とした一団に追いかけられかつ罵られ、とある殿下に真の敵だと目をつけられ、香織に担がれた上に何故か発現している黒桜スタ◯ドの無機質な目をずっと見続けたのだ。しかも恐ろしいレベルの速さで。

 

 それに同情した立香はハジメと香織に救いの手を差し出した。

 

「明日からは俺が“認識阻害”かけてあげるよ」

「「ありがとうございます!!」」

 

 ハジメ、綺麗な土下座。思わず立香もマシュも黙り込む。この姿だけで英霊となれるのではないかと思わされるほどの芸術的な土下座。まさしく『黄金律(土下座)』だった。ちなみにこれを見た香織はうっとりとしている。謎の感性をお持ちのようだ。立香とマシュはそう判断しスルーした。ハジメは気がついていない。

 

「それでハジメ。ちょっと“言語理解”使ってこっちの言葉の日常語言ってみてくれない。日本語訳はつけないで」

「…? 日本語訳はつけないでいいの?」

「うん、そうしてくれると時短に繋がるので」

「わ、わかった。それじゃあ。『はじめまして、僕の名前は南雲 ハジメです。出身は地球です』とかーー」

 

 そこからハジメは猛烈な速度でこちらの言語を話していく。初めこそはゆっくり話していたのだが、他ならぬ立香のオーダーだ。聞かないわけにはいかなかった。

 

「ーー。これで日常生活に使えそうなものは全部言ったけど、これからどうするつもりなの、立香くん」

「うん、オッケー。大体わかった。今からトータス語でハジメと会話してみるよ」

「え、うん。分かったよ」

「じゃあ…『俺の名前は立香。地球出身の普通の子供さ!』」

「っ!? 」

 

 まさかの完コピ、どころかむしろアレンジを加えている。まさかの学習能力にマシュを除く二人が瞠目する。

 

 立香がハジメに目配せをする。きっと何か言ってこい、という合図なのだろう。

 

「ええっと。『貴方の好きな食べ物は何ですか?』」

「『エミヤのご飯。正直あれは麻薬レベルなんだよね〜。あ、禁断症状出てき始めてきたな…』」

「『何それ!? いったい日頃何を食べてるのさ、立香くんは!?』」

 

 何もそれも一般的な盛り付けのメニューである。あくまでも料理人が閻魔の孫と正義のヒーローというW料理チートとその補佐達が有能すぎるだけである。ちなみにこの二人についても『料理七番勝負 カルデア厨房(クッキング)』という場にて正統的に決まった地位である。二人の戦いは七日間ぶっ通しで行われたが決着は付かず。その結果、満腹によるダウンから唯一耐えていた立香さえもぶっ倒れ、カルデア全メンバーを行動不能にしたのはいい思い出だ。きっと、いい思い出だ。

 

 閑話休題

 

 ともかく、コミュニティーチートたる立香は速攻で言語をマスターしてしまった。どんな原理で理解したかまでは分からないが、本気で人間なのか!?とハジメと香織は戦慄した。

 

 ちなみにマシュは今更のことなので黙っている。なんといってもバーサーカー語やら古代ウルク語すらもマスターしているマスターだ。しかも聖徳太子レベルの聞き分けもできる。サーヴァントはここ最近マスターの超人ぶりに頭を抱えていたりするが、立香は気にしない。

 

「さてマシュには後々伝えたらいいし、今から二人の訓練を開始するぞ〜」

「本当に訳が分からないんだけど…それで先生っていう人は今どこにいるの?」

「今から召喚する」

「「へ?」」

 

 そしてハジメと香織の混乱の声を無視し、右手を差し出して立香は詠唱を始める。

 

「今我はここに。我が唯一にして無限の宝具は我が絆。来たれ覇道よ、今呼び起こせ。我が道は今我等が覇道となる。来たれ(聞け)来たれ(聞け)。汝は正義の志を持つ者、未だ己の道を歩む者。愚者は抑止の輪より今ここにっ!」

 

 それはいつかハジメが聞いた詠唱。多少違ってはいるが、ハジメはまた不思議な道具でも出すのかと考えた。

 

 しかしここまでが立香が独自に編み出した前詠唱。ここから始まるは本来の『座)に呼びかける真詠唱。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師アニムスフィア。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 立香の腕にうっすらと光が満ち始める。同時に立香の足元に魔法陣が展開される。精密で巨大な魔法陣。しかし異世界召喚とはまた別種の独特の雰囲気がそれにはある。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。 ただ、満たされる刻を破却する」

 

 詠唱が繰り返される度に光は鼓動する。光そのものが生きているかの如く。緩やかな血脈の如く。

 

「ーーー告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。人理の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 立香に纏わりつく光は応えるように光を増させる。脈動も一層激しく揺れる。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 立香は光る右手を額の前に。言葉を紡ぎ、呼び立てる。信頼なる立香の英霊(サーヴァント)を。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

 立香の腕が焼けそうなほどに光り輝き、辺りを埋め尽くす。しかし彼は最後の一節を告げる。

 

「汝は今ここに身を墜とし、顕現せよーーー!!」

 

 光は今満ちた。降り立つ者は風と共に。陰は風に姿を隠し存在を確定させる。

 

 ハジメはその姿を二度と忘れることはないだろう。始めて見た真の神秘に胸を高鳴らせる。見れば隣の香織も満ちる光に、風に瞳を輝かせていた。

 

 そして呼ばれた存在は今、マスター(立香)に問うた。

 

「サーヴァント・アーチャー、エミヤ。召喚に応じ参上した。…といっても君は知っているのだろうがね、我がマスター」

 

 その人は白髪で褐色だ。髪型はオールバックで、赤いコートをまとった長身の男。引き締まった筋肉は膨大でないものの鍛え上げられたものだと理解できる。

 

「もっちろん! お久しぶりー、エミヤ!」

「エミヤさん! お久しぶりです!」

「ああ、マシュ・キリエライトもいるのか。後ろにいる者達については後々聞かせてもらうとしよう。それでだなマスター。一つ言いたいことがあるのだが、宜しいかな?」

「どうしたのさ、エミヤ?」

 

 エミヤと言った男は立香の承諾を受けると、立香の前まで進み歩く。不思議そうに何が起こるか理解していない立香。そしてついにそれは起きた。

 

「この…大馬鹿マスターめがっ!!」

 

 思いっきり拳骨を落とした! エミヤの拳骨は立香にクリティカルヒット! スタン状態に陥る! だがエミヤはそのまま説教を始める。

 

「担当マスターが少し少し変わることは構わないとしよう! しかし君はそれを私達に伝えんか! 報!連!相! 社会での基本だ! それを少しは学ばんか! アホタレマスターめっ!!」

「え、エミヤさん! 先輩が、先輩が動いていません! 止まってください! 死んでしまいます!」

「マシュ・キリエライト。これ如きで死ぬのであればマスターはとうの昔に死んでいる。それにマスターが一番死にかけたのは『正妻戦争』の時だろうよ」

「確かにそれはそうですね(即断)」

 

 気になるワードをまるで当たり前のように流し、会話を続ける立香とマシュとエミヤ。ハジメは困惑を隠せない。

 

 しばらくスルーされ続けながらハジメと香織は気長に待つのであった。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ーー立香side

 

「ーーまぁ、そんなところだ。気をつけ給え、我がマスター」

「はい、ごめんなさい。気をつけます。これから永遠に」

「いい心がけかと思われます、先輩。私もまだ先輩を死なせたくありませんから!」

 

 ようやくエミヤとマシュによる説教が終わり、口からエクトプラズムの生産を終了した立香。ようやく解放されたとばかりに肩をぐるぐる回す。

 

「さて、私が今回呼ばれた理由とは何かね? どうやら今回の私は戦闘能力に関してはほぼ与えられていない様子なのだが。どういうことかね、マスター?」

「ああ、『簡易召喚』だからね。戦闘能力に関してはほぼ皆無。でも魔術はしっかりと使えると思うよ」

 

『簡易召喚』。これは立香の魔術回路が有する固有魔術の一つ。サーヴァントの霊基を意図的に下げることで少ない魔力量の消費でやりくりをすることができる。代わりに性能を生贄にするのもこの召喚の特徴である。

 

 今回の召喚ではエミヤの『魔力』以外のステータスを何段階か下げている。チンピラ相手には十分、程度の実力だ。

 

 早速エミヤが召喚結果がどのようなものか確認する。

 

「どれ…『投影開始(トレース・オン)』。…ふむ、しっかり使えるようだね。だが何故戦闘能力は省いたにも関わらず、魔術は使えるようにしてあるのだね?」

「それはですな…ハジメ、白崎さん。こっち来て」

「う、うん。わかった」

「今行くね、藤丸くん」

 

 今の今まで空気だったハジメと香織が呼ばれたことに驚きながらも立香達の元へとたどり着く。エミヤはハジメと香織を一瞥する。

 

「…ふむ、二人ともまともに魔術回路すら開いていないな。酷いものだ。まさかマスター、こんな者達に魔術の仕方を教えろとでも言うのかね?」

「その通りにてございますよ、エミヤセンセッ」

「はぁ…ふざけるのもよし給え、マスター。まさか一般人に魔術を教えるなどということをわざわざすると思うかね?」

「それが残念ながら必要なんですよ。実はねーー」

 

 エミヤに一通り説明していく。異世界召喚が起きたこと。神から魔術とは別種の力を受け取ったハジメ達は戦線に送られるということ。この世界では魔術回路が開いていないのが普通だということ。神がとても胡散臭いこと。etc…

 

 話を聞くたびにエミヤの顔がどんどん曇っていく。特に勇者(笑)の話の辺りなど「黒歴史の私でもそんな馬鹿ではなかった…筈だよな?」と自問自答していた。ただエミヤの若い頃は現実や自分の弱さを含めてなお決意したのに対し、勇者はただ夢を見ての、自身の力に酔っての決意。両者の決意の違いは明らかだ。

 

 そこまで聞いてエミヤは二人を改めて見る。今度はじっくりと観察をするように目を細め、注意深く二人を直視する。

 

 ハジメとエミヤの目が合った。エミヤの目はまるで問いかけているかのようだった。「お前は何故力を求めるか?」と。

 

 ハジメは未だに戦う理由は出せていない。そもそも戦う決意など出来ているかすら怪しい。未だに戦いの渦中に己がいることを認められずにいた。

 

 だがハジメは同時に思う。死にたくない、と。こんな望んでもいない世界で死にたくはない、と。

 

 だからハジメは瞳に決意を宿す。「死にたくないからだ」と。純粋で幼稚で、それでも己に忠実な命の覚悟を込めて、エミヤを見る。エミヤは「ほぅ」と笑うだけでそれ以上のことは何も言わず、今度は香織の方を見た。

 

 エミヤと香織の視線の邂逅が終わり、エミヤは一度腕を組むと言い放った。

 

「合格だ。君達に魔術を教えよう」

「そんな簡単にいいの、エミヤ?」

「ああ、少なくとも己を騙す輩では二人ともないようだからね。とりあえずは、と言ったところだが」

「そっかそっか。それじゃ、よろしくね」

「「よろしくお願いします!」」

「ああ、私に出来る限り頑張らせてもらおうか」

 

 こうしてエミヤによる魔術の訓練が始まった。




次回からエミヤさんによる魔術レッスンです。
多分短めになるかと。
…というかエミヤさんの教室コーナーは今回で終わらせる気だったんだよなぁ…
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