ありふれた錬成士は最期のマスターと共に 作:見た目は子供、素顔は厨二
結構コピペも多いです。
なおシアは少し原作設定を変えてます。
…あまり大きい変化では無いのですが。
ーーハジメside
峡谷の中を走り抜ける黒い四輪車。もはや追跡者はいない。だというのに凄まじい速度を未だに続けている。
その原因はというと、
「ヒャッハー!! 俺たちは今風になるぅー!!」
世紀末のモブ達のようなセリフを叫びながら『
四輪車の中は阿鼻叫喚。何故かウサギさんと獅子王さんだけは「なんだかワクワクするですぅ〜」とか「流石は私のマスター!」とノリノリだが、他は違う。
ユエは盛大に酔い始め、ミレディ(ゴーレム)は己を挟むものも相まって気絶状態。オスカーはそんなミレディで愉悦しており、頼光は頼光で「マスター! 規定速度を守ってください!」とこれまたズレた発言を。どうやら風紀委員長さんは立香の変貌ぶりは不思議には思っていないご様子。
結果、通常の判断能力が残されているのは二人だけだった。
「畜生! 止まれ立香! どうなってんだ、キリエライト!」
「久しぶりに操縦を任せて忘れていたのですが…先輩は乗り物に乗ると性格が変わってしまわれるのです」
「それを先に言ってくれ!」
車が壁ギリギリを走行したり、壁を登ったり、ドリフトしたりなど危険運転ばかりの立香。宝具と化したことでの速度の上昇も相まって、ハジメ達の心臓に非常に悪い。
だがどれだけ言おうと立香の耳には届かず。峡谷の魔物を轢き潰しながら爆走する。すっかり立香さんの耳はギャルゲーの主人公イヤーになってしまったらしい。
「たく…キリエライト。あとで頼むぞ?」
「はい。皆さんで一緒に説教です」
後々、立香のSAN値が直葬することが決定。ついでに荒々しい運転により酔っているユエのため、酔い止め用のアーティファクトを作っておく。サラッとアーティファクト作りしているところがハジメクオリティー。更にはサラッとユエに膝枕をしているのも天然ジゴロなハジメクオリティーである。
すると気絶から回復したミレディがまだ多少プルプルしながらハジメの自重しないスタイルに感想を告げた。
「やー、本当にオーくんのお弟子さんだね〜。アーティファクトの扱いが軽いもん」
「心外だな、ニコちゃん仮面。立香ほどじゃない」
「僕もだね、ミレディ。リッカ君ほどじゃないね」
「待って、その子どんぐらいなの?」
主にただ鏡で己の着衣の乱れを確認するためだけに『水天日光天照八野鎮石』の発動を躊躇いなくする辺り、立香は本当に扱いが酷い。
「で、お前がミレディ・ライセンなのは確かなのか?」
「よくぞ聞いてくれましたー! 私こそ『解放者』リーダー、ミレディ・ライセンだぜ!」
「私はシアですぅ〜! 話を聞いてくださいですぅ〜」
なおそのリーダーさんは未だに己を挟む柔らかいものでプルプルしている。多分、ゴーレムでなければ涙目になっていたこと間違いなし。
ついでに発言の一つ一つがあまりにも軽く、何よりもウザい。
「…本当にコレ、リーダーなのか? 無能感凄まじいが…?」
「え? 白髪くん? 何でミレディちゃんを哀れんだような顔でみるの? ねぇってば」
「あれれ? 無視ですぅ? 話を〜」
正直に言ってハジメの想像していた秘密組織のリーダーとはあまりにも懸け離れていた。こう…もっとゲンド○ポーズが似合う感じの…。
それがどうだ。このうざったい感じの生物は。形だけの称号だったのでは、と哀れんでいるわけだ。
「これでもウチのリーダーなんだ。たとえこの世界で一番ウザいと言っても過言ではなく、ウザいグランプリなんて物があれば殿堂入りを果たすような人間でも。やる時はやるんだ…そう、やる時は」
「あれれ? オーくん? 何で同感した感じになってるの? そこはミレディちゃんを褒めるところでは? ねぇってば」
「話を聞いてくださいですぅ〜」
オスカーの目が遠い所を見るような感じになった。きっと昔の苦労を思い出してのことだろう。目が死んでいる。
「お前がリーダーやったらどうなんだ? マジでその方がいい感があるんだが」
「ミレディは人望はあるからね。あと魔法の力と…ウザさは」
「最後いるのか?」
「これを捨てたらミレディがただの美少女魔法使いになってしまうからね。アイデンティティの喪失だよ」
「なるほど。それは大切だ」
「話を聞いてくださいですぅ〜」
ウザい=ミレディのアイデンティティで納得する二人。一方で、
「…ねぇねぇ、そこの吸血鬼ちゃん。コイツらプチってしていいかな?」
「……ダメ」
「そんなことよりも話を〜」
ミレディさんがイラッと来ていた。ニコちゃん仮面なのに目が据わっている。酔っているユエさんもストップを入れた。流石に車内で暴れられるのは困る。
すると車内全体に啜り泣きの音が響き始めた。シクシクズビズビ。あらゆる物が垂れ流れる音だ。
「…話を…グスッ…聞いてください、ですぅ〜」
車の端っこで三角座りをしながら残念オーラを振りまくウサギ。顔からは穴という穴から垂れるものが垂れている。顔はいいのに残念極まりない。
ハジメはようやくその存在を思い出した。ああそういえば助けてたな、と。
樹海を渡るために彼女には協力して貰わねばならない。そんなわけでハジメはとりあえずコンタクトを取ることにした。
「えーっと? てめぇの名前なんだ?」
「さっき言いましたよ!? シアです!」
「……シワ? 名前も残念なウサギ」
「シ・ア・で・すぅ〜! というか誰が残念ですか!! 何が残念だっていうんです!?」
「……存在」
「まさかの存在全否定ですぅ!?」
ミレディのウザさに気を取られていたハジメさんはとりあえず名前リピートをお願いした。シアはそれにウサミミピーン! 信じられないとガバッと残念な表情をハジメに向けた。
続いて酔っているユエさんはハジメに膝枕をして貰いながら、天然失礼なことを言っちゃった。とはいえ酔っているので耳が遠いのは仕方がないこと。それを残念なウサギさんが考慮に入れるかは話が別ではあるが。
「さて、ウサギ。テメェ何でこんな所にいる? ワケありだろ、聞かせろ」
「はいっ! まず私達、ハウリア族はですね…」
シア達、ハウリアと名乗る兎人族達は【ハルツィナ樹海】にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。兎人族は、聴覚や隠密行動に優れているものの、他の亜人族に比べればスペックは低いらしく、突出したものがないので亜人族の中でも格下と見られる傾向が強いらしい。性格は総じて温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族だ。また、総じて容姿に優れており、エルフのような美しさとは異なった、可愛らしさがあるので、帝国などに捕まり奴隷にされたときは愛玩用として人気の商品となる。
そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪だったのだ。しかも、亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔法まで使えたのだ。
当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。
しかし、樹海深部に存在する亜人族の国【フェアベルゲン】に女の子の存在がばれれば間違いなく処刑される。魔物とはそれだけ忌み嫌われており、不倶戴天の敵なのである。国の規律にも魔物を見つけ次第、できる限り殲滅しなければならないと有り、過去にわざと魔物を逃がした人物が追放処分を受けたという記録もある。また、被差別種族ということもあり、魔法を振りかざして自分達亜人族を迫害する人間族や魔人族に対してもいい感情など持っていない。樹海に侵入した魔力を持つ他種族は、総じて即殺が暗黙の了解となっているほどだ。
故に、ハウリア族は女の子を隠し、十六年もの間ひっそりと育ててきた。だが、先日とうとう彼女の存在がばれてしまった。その為、ハウリア族はフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たのだ。
行く宛もない彼等は、一先ず北の山脈地帯を目指すことにした。山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだ。未開地ではあるが、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシだ。
しかし、彼等の試みは、その帝国により潰えた。樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったのだ。巡回中だったのか訓練だったのかは分からないが、一個中隊規模と出くわしたハウリア族は南に逃げるしかなかった。
女子供を逃がすため男達が追っ手の妨害を試みるが、元々温厚で平和的な兎人族と魔法を使える訓練された帝国兵では比べるまでもない歴然とした戦力差があり、気がつけば半数以上が捕らわれてしまった。
全滅を避けるために必死に逃げ続け、ライセン大峡谷にたどり着いた彼等は、苦肉の策として峡谷へと逃げ込んだ。流石に、魔法の使えない峡谷にまで帝国兵も追って来ないだろうし、ほとぼりが冷めていなくなるのを待とうとしたのである。魔物に襲われるのと帝国兵がいなくなるのとどちらが早いかという賭けだった。
しかし、予測に反して帝国兵は一向に撤退しようとはしなかった。小隊が峡谷の出入り口である階段状に加工された崖の入口に陣取り、兎人族が魔物に襲われ出てくるのを待つことにしたのだ。
そうこうしている内に、案の定、魔物が襲来した。もう無理だと帝国に投降しようとしたが、峡谷から逃がすものかと魔物が回り込み、ハウリア族は峡谷の奥へと逃げるしかなかった。そうやって、追い立てられるように峡谷を逃げ惑い……
「そして逃げている内にお父様やお母様、家族達から離れてしまって…そんなこんなをしていたらそこの小さなゴーレムさんとさっきのデッカくておっかないゴーレムさんと出会ってしまいまして…」
「で、あんな残念な感じに逃げおおせたって訳か」
「何で残念ってつけたがるんですぅ!?」
仕方ないじゃん、残念なんだもの。
そしてシアは見事にソファの上で土下座という芸当を果たす。思わずハジメも「ほぅ」という感嘆の声を上げた。それはきっと南雲家が“黄金比(土下座)EX”のスキルを持つ家系なことが理由であろう。
「お願いしますぅ! 助けてください! このままじゃ家族全員が死んじゃうんですぅ!!」
土下座の気迫に見合うほど、シアは必死にハジメ達に頼み込んだ。車内に静寂が満ちた。ちなみにこの期に及んで立香さんは暴走している。
そしてこの静寂を打ち破ったのは立香の相棒であり、このパーティーの実質的リーダーであるハジメであった。
「よし、それじゃあ条件付きで助けてやる」
「………へ?」
シアはハジメを「ちょっと何言ってるのか分かんないですぅ」的な目で見てきた。
何の不満があるのだろうか? ギブアンドテイクという言葉を知らないの? という感じでハジメがシアを見た。
「あれですよ!? そこは「俺が助けてやる!」って感じで一言サラリと済ませてくれれば良い話ですよ! そこで私、多分速攻で惚れるタイプのチョロインですよ! 美少女ですよ!?」
「あ? 何でテメェがヒロイン前提だ、おら?」
「ハッ! もしや奴隷趣味の方ですか!?」
「俺に変な性癖を付けて来ようとすんじゃねぇよ、このウサギが!」
シアが変な抗議を申し上げる。サラッと美少女と言っちゃう辺り残念だ。その際にハジメにちゃっかり変な性癖を添えてくる。
溜息を吐き、「第一」とハジメが話を続けた。
「俺にはユエか……白崎、そのどちらかだけって己に決めてるんだ。俺の特別は一人にするつもりだ。それにユエを見てみろ。お前に勝てる要素なんざねぇほどに美少女だろうが。つまりお前にそんな話を持ちかける気はない。証明終了」
「うっ」
シアが未だに酔っていて膝枕をして貰っているユエさんを見る。確かにハジメと触れ合っているという幸福感を出していることも相まって、美少女であるはずのシアですらも息を飲む。少し勢いがたじろいだ。
たじろいだ隙にハジメは交渉を畳みかけようとしたが、その前にシアがハッとした。同時に地雷を踏み込んだ。己が美少女であるという下手なプライドによる地雷爆破が。それはもう、本当に弩級の。
「で、でも! この人に胸なら勝てるですぅ!」
ーー勝てるですぅ、勝てるですぅ、ですぅ、ですぅ…
ビクンッとユエが震えた。ブルッとマフラーが荒ぶった。ハジメは取り敢えず黙祷を捧げた。
しかし残念ウサギの権化であるシアは止まらない!!
「ぺったんこじゃないですか! 圧勝ですぅ!!」
ーー圧勝ですぅ、圧勝ですぅ、ですぅ、ですぅ…
車内にシアの声が木霊した。同時に車内に再び静寂が訪れる。ただし、この静まりはあくまでもこの後起こるであろう災害級の何かの予兆。すなわち嵐の前の静けさである。
やがてユエがハジメの膝からむくりと予備動作無しに浮き上がった。マフラーも風が無いのにフワッとハジメの首元から離れる。前髪がユエの顔を隠しているため、表情が確認できず余計に怖い。ゆらりと立ち上がり、シアではなく立香の方に向かい、命令する。
「……止めろ」
「ぁあん? 今良いところなんだ! 邪魔するってんならーー」
「……止めろ」
「はい、分かりました! 止めさせていただくのであります!」
世紀末なチンピラ風になっていた立香さんがユエさんにより黙らされる。そして微妙なガクブル。精神力カンストの立香が恐怖を抱いた瞬間である。
そしてマフラーにより四肢を捕縛されているシアのウサミミをぶっきらぼうに掴み、車の外まで引き摺り下ろす。途中シアが猛抗議を申し立てるが、般若マフラーによる捕縛と吸血鬼姫の威圧の前では全ては無意味。抵抗虚しく四輪車の外に投げ出された。
ついでにマシュによって立香も車内の奥の方で土下座中だ。きっとマシュと頼光だけでなく、残り十名も立香を叱っているに違いない。さっきまでの世紀末感を霧散させ、しょんぼりしている。
一方でユエ達の方はと言うと…
ーーー ……お祈りは済ませた?
ーーー(シュッ! シュッ!)
ーーー あの〜、謝ったら許してくれますぅ?
ーーー ……………知ってる、残念ウサギ?
ーーー …何ですぅ?
ーーー 謝罪だけで済むなら、戦争はこの世にない!
ーーー(チャキンッ!)
ーーー 死にたくなぁい! 死にたくなぁい!
「“嵐帝”」
「(ズバッ! ズバッ! シュバババ!!)」
ーーー アッーーーー!!!
残念ウサギが空を舞った。やはり乙女の怒りは恐ろしいというべきか。魔力の分解効果がある峡谷にも関わらず、魔法の威力が衰えを知らない。そしてシアにまるで某格闘術のように空中での見事な立ち回りにより翻弄し、追撃を加えていくマフラー。紅色のマフラーが別のマフラーで染め上がっていく。…何故糸で出来たマフラーが人の肌を突き破るのかは気にしてはならない。というかマフラーの非常識ぶりには慣れてきたハジメ達は現にスルーしていた。ミレディだけが「あれもアーティファクトなの!?」とつっこんでいる。
そのまま空中から力無く落ちてきたシアはグシャッと音を立てて、地面にめり込んだ。まるで犬○家のあの人のように頭部を地面に埋もれさせビクンッビクンッと痙攣している。完全にギャグだった。その神秘的な容姿とは相反する途轍もなく残念な少女である。唯でさえボロボロの衣服? が更にダメージを受けて、もはやまっぱである。逆さまなども関係なく見えてはいけないものも丸見えである。百年の恋も覚める姿とはこの事だろう。
取り敢えずユエとマフラーが「良い仕事をした!」と言わんばかりにハイタッチする。日頃から喧嘩やらキャッツファイトが絶えない様を見ているハジメからするととても新鮮な光景だ。
そしてハジメの膝の上と首に改めて移動するユエとマフラー。やがてユエは肩越しにハジメを見上げて尋ねた。
「……大きい方が、好き?」
実に困った質問だった。ハジメとしては「YES!」と答えたい所だったが、それを言えば未だ前方で痙攣している残念ウサギと仲良く犬○家、及び空中殺法である。それは避けたいところ。あと尋問であるかのように首をギリギリしてくるのも勘弁して欲しかった。
「大きさじゃない。重要なのは誰のであるかだ」
「「………」」
肯定も否定もしない。所謂避けの戦法。実に今のハジメはヘタレであった。ユエとマフラーからジト目が捧げられる。汗ダクダクのハジメさん。ただ、一応満足はしてもらえたのか。首のギリギリは何とか解除され、ユエも引き続きハジメの膝を枕にして寝転がった。
そこで何とか話題転換を行おうとするハジメ。しかしハジメのラ○フカードは役立たず。何にも選択肢が出てこない。
立香に助けを求めようとするが…
「先輩? どうしていつもハンドルを握ると人の話を聞かなくなるのですか?」
「い、いや。俺も悪意があるわけではなく…」
「母は悲しいです。まず運転免許を持っているわけでもないのに…更に規則速度の違反など…」
「こっちの世界に違反は無いし…」
『はい、こちらジャンヌよ。マスターちゃんを乗り回してたのは黒の王様が原因よ。というわけで制裁を下す権利をこちらに。正妻様?』
『聞け! 私はあくまでもマスターとツーリングをしただけだ! それが何故罪科となるのだ!?』
「ジャンヌさん、処罰しちゃってください」
『マシュ!? 貴様!?』
『了解よ、正妻様。これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮ーー』
『やめろぉおおおお!!!!』
「…無理だな、ありゃ」
立香の魂が抜けている上に、立香ブライズの一人が死刑されようとしていた。さっさと諦めることを決意した。
一方でオスカーにも目を向けたが、あっちはあっちで獅子王に抱き抱えられているミレディが再び気絶したことで愉悦していた。やはり助けはいない、それを悟ったハジメである。
どうしようものかと悩んでいた頃、車の外から何かが這い、体を引き摺るような音が聞こえてきた。何かと思い外を見るとそこには、
「助けてぇええ〜ですぅ」
其処には車の床に手をかけ、車内へと入って来ようとしているボロボロ出血状態のウサギさんがいた。頭から血がコメディ風に噴き出していることもあり、非常に不気味だ。テレビから這い出てくる幽霊風にペタペタと地を這う姿が余計ホラー加減を増倍させている。
「…ホラーか何かか?」
「……ホラーウサギ」
「(ブンブン)」
「そっちでしょう!? 散々吹き飛ばしたの!? 死ぬかと思いましたよ!!」
むしろよく死ななかったね、そう思わざるを得ない。割と頑丈さは立香に並ぶ可能性がある。…残念な癖に。
だがこうなったお陰で漸く本題に入れるというもの。つまりは交渉に臨めるわけだ。取り敢えず宝物庫からハジメ特性回復薬をポイっとシアに放り投げる。
「ほらよ。回復薬…あと替えの服だ。とっとと飲んで着替えろ。そんで交渉だ。ソファにはよ座れ」
「あ、ありがとうございますぅ〜。…もしやもうデレてきました、白髪さん」
「デレてねぇよ。あと俺の名前はハジメだ。膝枕してるのがユエ。あっちで説教受けてる男が立香で…」
シアが飲んだり着替えたりする合間に一行の紹介をしていくハジメ。一行の人物が存外多い為、全員を紹介するのに時間かかるなぁ〜と思うハジメ。なので一度で覚えろと威圧しながらシアに名前を伝えていく。
「そんで俺たちの条件は樹海の案内、そんでもって大樹へまでのガイドだ。代わりにそれまでのお前らの身の安全は保証してやる。…どうだ? 悪い話じゃ無いだろ?」
「私達はフェアベルゲンから追放されたのですが〜」
「安心しろ、そいつらは全員俺たちが吹き飛ばす。そんで…一応安全な所までは保護してやるよ」
「ありがとうございますぅ〜!!」
速攻で応じてきた。相手が嘘を付いているとかそんなことは考えないのだろうか。そこの辺りは不思議に思わざるを得ないハジメである。
一方でシアは豊満な胸を撫でながら安心しきったように息を吐いた。ウサミミは機嫌よくピクピク。並みのものならば心奪われずにはいられない様子である。
「よかったですぅ〜。ちゃんと『見た』通り、助けてもらえましたですぅ〜」
「…見た? 何をだ?」
「あ、はい。私の固有魔法が関係していてですねぇ〜」
胸を張って説明するシア。またもや殺気が再発するユエ達を撫でることで何とか抑える中、その話を聞いた。
というのも彼女の固有魔法、“未来視”は、任意で発動する場合は、仮定した選択の結果としての未来が見えるというものだ。これには莫大な魔力を消費する。一回で枯渇寸前になるほどである。また、自動で発動する場合もあり、これは直接・間接を問わず、シアにとって危険と思える状況が急迫している場合に発動する。これも多大な魔力を消費するが、任意発動程ではなく三分の一程消費するらしい。
どうやら、シアは巨大ゴーレムから逃げている途中で急に“未来視”が発動し、その際に、自分と家族を守るハジメの姿が見えたようだ。そして、ハジメ達を探しながらミレディと共に全力ダッシュして来たらしい。それだけを聞けば中々ガッツがある話だ。
凄まじい固有魔法にハジメは感心したが、すぐに疑問を覚えた。
「ん? ならそんなすごい固有魔法持ってて、何でバレたんだよ。危険を察知できるならフェアベルゲンの連中にもバレなかったんじゃないか?」
ハジメの指摘に「うっ」と唸った後、シアは目を泳がせてポツリと零した。
「じ、自分で使った場合は暫く使えなくて……」
「バレた時、既に使った後だったと……何に使ったんだよ?」
「ちょ~とですね、友人の恋路が気になりまして……」
「ただの出歯亀じゃねぇか! 貴重な魔法何に使ってんだよ」
「うぅ~猛省しておりますぅ~」
「…まあいい。ともかく契約は成立でいいか?」
「はい〜! 是非ともお助けを〜!!」
一応ハジメはユエに視線で是非を尋ねておく。ユエは勿論ハジメの意思を肯定した。ただしシアの一部に殺意は未だに持ち合わせているらしいが。立香には聞かない。聞いたところでだ。お人好しが擬人化したような人間なのだから断るはずもないだろう。
そして契約終了後、見計らったようにちょうど立香の説教もオスカーの愉悦タイムも終わりを告げた。とはいえ立香とミレディの周りには黒い瘴気のようなものがモヤモヤしていたが。
そして目指すはハウリア族の元。契約を果たすがためにハジメ達は進む。
なお運転手役から立香は勿論解雇。結果、ハジメが無難に務めることとなった。
というわけで暴走族立香さんとうぜぇミレディさん、残念ウサギなシアの回でした〜。
え? マフラーがもはや奈落の魔物でも倒せそうなことしてる?
…まあ、ハジメの首を絞めてる時点で、ね?
あとシアのチェンジポイントはこの時点では母親が生きていることです。
原作ではずっと前に病死でしたから。
あとお気に入りお陰様で400突破です!
ありがとうございます!
これから三年で受験期ですがちょくちょく頑張りますね!
…ま、訳ありです。
主にシアがハジメに惚れる理由です。
下手したらあのウサギ立香の方に行きかねなかったから!