ありふれた錬成士は最期のマスターと共に   作:見た目は子供、素顔は厨二

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相当遅くなったこと、お詫び申し上げます。
訳としましては…
・新学期スタート
・部活を久々にやったことによる疲労感
・一時的に書くテンションが下がった
・文字数が12241文字
・書くのに悪戦苦闘した
・面白い漫画を買い溜めした。
となっております。
…我ながらひでぇ有様だ。

あと総合評価、何だかんだで500到達した模様!
ありがとうございます!
下手な書き手ですが、これからも精進します!


何にも委ねる事なかれ

 ーーシアside

 

 その悪意に続々と兎人族が膝を崩した。酔うほどの血の匂い。頭が揺れるほどの人の悪意。そんな温和な日々を過ごしてきた彼らにとっては未知の恐怖を患うような凄惨さ。

 

 特にシア。視線の先にあるのは生首と成り果てた何か。

 

「なん…で? 母様ぁ…?」

 

 虚ろに呟かれる独り言。呟く度に滲んだ斑点が続々と地面に作られる。

 

 ただえさえ限界に差し掛かっている彼女の心。まだ壊れていないのはそれが本当に、彼女の思うそれなのか、確認が出来ていないからだろう。

 

 そんな彼女に狙ってかどうかまでは分からない。しかし確かな追い討ちがかけられた。

 

 一人の帝国兵が気がついたのだ。シアの視線の先にあるもの、シアの大切な者の遺体に。

 

 それに気がつくと帝国兵は唇を吊り上げて、死体の山場に徐ろに近づいた。そして乱暴にシアの母親の、兎人族特有のウサ耳を掴み、シアの前へと放り投げた。

 

 シアの瞳は放物線を描いて飛んでくる首を怯えた目で見ていた。認めたくない現実。必至に背けたそれが目の前からやって来るのだから。どうか来ないで。人違いであって。そうとだけ祈りを捧げる。

 

 しかしシアの願いは簡単に潰える。

 

 頭が重力に従い地面に叩きつけられた。

 

 ーーグチャッ

 

 生々しい音がシアの真横で鳴る。飛び散るぬるくて赤い水の感触。手がべとりと染まる。

 

 感触は右の方から。

 

 確かめようとする。しかし首が思うように動かない。

 

 体が拒否している。認めようとしない。頑なに逃れようとする。

 

 だが必至になって横にある何かを見ようとする。一縷の望みに縋り付くように、見た。

 

 まずそれは生首だった。体とはとうに離れている。流れ出る血も少し固まりかけている。

 

 次に紺色の髪の毛が目に入った。綺麗で透き通った長い髪。それはつい先日、シアがある人の為にすかせた髪に似ていて。

 

「ぁぁ…」

 

 頰が濡れていた。それは果たして伝う涙か、跳ねた血か。

 

 風が吹いた。強くて容赦の無い冷たい風が。それが生首の顔を見せた。その顔は早く会いたいと思っていた人のもの。

 

 言えることはただ一つ。僅かな希望は絶たれた、その事実のみ。

 

「い、いや! 母様!? 何で!? 何で!?」

 

 上手く情報が飲み込めない。塞いだ喉の奥から胃液が逆流する。涙を止めることなどもはや不可能。

 

 すると声がかかる。嗚咽が出るほどの充満した悪意を敷き詰めたような声。嘲笑と共に更なる現実を晒す。

 

「ハハハッ! やっぱりこの生首、お前のお母さんか!? こりゃあ傑作だ!」

 

 帝国の兵士達の強者としての立場から訪れる見下した空気。拒否するように首を振れど、続きは告げられる。

 

「女は愛玩用として本来なら国に送られるんだがなぁー。ソイツはもう衰弱してたからなぁ。…勿体ねぇが、犯して捨てたんだよ! ハハハ!!」

 

 狂気の嗤い声が伝播する。心の底から害意しかないそれ。今も己を舐めるように見つめている。

 

 ハウリア族はシアに逃げるように叫んだ。帝国兵の手が一歩、さらに一歩と近づいて来る。そんな中シアは、嫌悪感を抱くことも、怒りを覚えることもできずにいる。ただ呆然と膝立ちし、虚ろな瞳の親の顔を見続けている。

 

 そう、言うなればもう、折れてしまった。

 

 何故ならば一族がこうなっているのも、母が死んだのも全て…

 

「私の…、私のせい」

 

 一族が【フェアルベン】を後にせざるを得なかったのも、帝国兵に目を付けられたのも。それらは全て、己が原因となって引き起こしたこと。彼女の心を苛むのはそれが理由。

 

 涙はついに枯れた。

 

 代わりに脳が世界を拒絶する。視界が蜃気楼に掛かる。声も騒音も耳鳴りで聞こえない。

 

 手が震えているような気がする。だが、気を配ることは不可能だった。

 

 やがてシアの心に、新たな刃が住み着いた。

 

「私が…私がいなければ、良かった」

 

 きっとそうであれば誰もが平和で生きられた。大好きな家族が傷付かずに過ごせた。追放されることもなく、平穏に【フェアルベン】で花や虫を愛でて、仲良く過ごせて行けたはずだ。

 

 帝国兵に追われることも無かった。命を落とすことは無かった。きっと母も父もその方が幸せだったに違いない。

 

「私なんか…いなければーー」

 

 やがて帝国兵の手がシアの肩を掴もうとした、その時。

 

 

「すまねぇが契約済みだ。相談も交渉もするつもりはねぇ。失せろ」

 

 

 紅の光を宿した黒の鋼鉄が、その手を拒んだ。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ーーハジメside

 

(聞かせるんじゃ無かったな。胸糞悪りぃ真似をしたもんだ、我ながら)

 

 頭を掻きながら、己の判断の甘さを悔やむハジメ。

 

 帝国兵の非道な行為に少しは目を瞑ったのには訳がある。

 

 これからハウリア族は他に頼ることなく生きて行かねばならない。【フェアルベン】の庇護は受けられない上、人からも狩られる存在である彼ら。勿論ハジメ達も世界を回らねばならないのだ。少し考慮することぐらいは出来るが、何から何まではできないし、当然ずっと見守れるわけでもない。

 

 そして彼らが単独で生きていくには、お人好しな性格は少し邪魔だった。交渉などといったケースでは相手を疑うことが定石だ。信頼を築くことも大切ではあるが、彼らは一方的に根拠もなく信じる。それがあまりにも無計画で、これから先の彼らを滅ぼしかねないものだった。

 

 故に帝国兵を最初に見たとき、これはその性格の矯正のチャンスでは? とハジメは考えた。つまりは人の悪意を見せて、疑うことを覚えさせようと言った考えでのものだ。

 

『解放者』や立香は何らかの訳はあるのだろうが、帝国兵の蛮行を見るに留まっていた。

 

 そうやってハジメの思う通りに物事は進み、ハウリアに少しは人を信じないことを覚えさせられたか、と思ったのだが、ここで計算外のことが一つ。

 

 シアの心を抉った傷の深さ。それがハジメの予想を遥かに上回ったのだ。

 

(自分は要らない…か)

 

 何処かで聞いた話だった。いや、知っている。それはかつて南雲ハジメの心に潜んでいた闇の一つであったものに他ならない。

 

 同時にそれは奈落の洞穴での自責の叫びの一つ。改めて孤独の辛さを知ったハジメが誰も助けに来てくれない、そんな暗闇の中で己を呪った時の言葉。

 

 シアのそれに気がつかなかったのはハジメは近頃、精神面が以前よりもなお硬く強くなっている。それはオスカーの隠れ家でもなおエミヤ式の訓練を積んでいたことによる副次的効果。精神に与えられる苦痛がハジメの感情の一部である恐怖や悲哀、嫉妬などといった感情を色褪せさせたのだ。

 

 勿論、立香達のお陰で怒りや喜び、そして情愛は色濃く残っているが、それでもハジメが他人の気をつかえなくなっていたのは事実だ。

 

(ちょっとこりゃあ後で反省だな。あの時の感情をまさかコイツに押し付けてたなんざ…クッソ)

 

 心の中で悪態を吐く。自分がしていたことは、目の前の帝国兵と同じことだったのだと改めて実感した。同時にハウリア族への謝罪も考えておこうと考える。

 

 すると手を握られている帝国兵が怒鳴り散らしてきた。

 

「何だお前? 何で峡谷から出てきたかはわからねぇが…奴隷商か? …ちっ、まあいい。金だ。代わりにそいつら全員ここにーー」

「断る」

 

 勝手に推測し、勝手に結論づけた小隊長は、さも自分の言う事を聞いて当たり前、断られることなど有り得ないと信じきった様子で、そうハジメに命令した。

 

 当然、ハジメが従うはずもない。言葉の途中で遮り、義手に込める力を強くした。

 

 苦悶の声が上がるが、流石は帝国兵。精神力で耐えきった。恐らくはプライドの類で、意地を張ったのだろうがそれでも流石と言えた。

 

「……今、何て言いった? あと手を離せ」

「断ると言ったんだ。勿論、それを聞いてくれるまでこの手は離さねぇな。こいつらは今は俺のもの。あんたらには一人として渡すつもりはない。諦めてさっさと国に帰ることをオススメする」

 

 聞き間違いかと問い返し、返って来たのは不遜な物言い。小隊長の額に青筋が浮かぶ。

 

「……小僧、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」

「十全に理解している。あんたらに頭が悪いとは誰も言われたくないだろうな」

 

 ハジメの言葉にスっと表情消す小隊長。周囲の兵士達も剣呑な雰囲気でハジメを睨んでいる。その時、小隊長が、剣呑な雰囲気に背中を押されたのか、ハジメの後ろから出てきたユエに気がついた。幼い容姿でありながら纏う雰囲気に艶があり、そのギャップからか、えもいわれぬ魅力を放っている美貌の少女に一瞬呆けるものの、ハジメの服の裾をギュッと握っていることからよほど近しい存在なのだろうと当たりをつけ、再び下碑た笑みを浮かべた。

 

 また後ろの方にいる三人の美少女にも気がついた。ちょくちょく男やゴーレムがいるが、なお目に宿る狂った何かが改めて強い光を放っただけ。恐らくは男だけは始末してーーとでも考えたのだろう。後ろの兵達もが、運が巡り回ってきたと思ったのか笑みを浮かべていた。

 

「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇが唯の世間知らず糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。くっくっく、そっちの嬢ちゃんえらい別嬪じゃねぇか。てめぇの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ。勿論その後ろのやつらもなぁ!!」

 

 その言葉に一行全体から剣呑さが湧き出した。特にゴーレムから湧き出る無慈悲な殺意が恐ろしい。まるで隠れていた本性が表に出たような、そんな雰囲気だ。帝国兵達は喉をしゃくらせたが、己達が未だに優位にあると勘違いし、剣を抜き出した。

 

「生意気に睨んでんじゃねぇぞ、オラァアアアア」

 

 そしてやがて掴まれていない手で剣を振るおうとした、その時。

 

「そうか。なら死ね」

 

 あっさりと男は右手を握りつぶされた。ただえさえオーバースペックな義手に、“強化”が付け足されたとあっては抵抗など不可能。紙屑のように、帝国兵の手は失われた。

 

 それを呆然と見る、小隊長。訳がわからないのか、痛覚の伝達が遅い。叫ぶことすらも出来てやいない。

 

 だがハジメはそんな猶予も待たない。呆けている小隊長の腹にキックを放った。所謂ヤクザキックと呼ばれるもので、衝撃を残さず小隊長へと伝える。

 

 結果、腹どころか体を消しとばすこととなる。もはや死に体となった小隊長は何も言うことは出来ない。先程までの喧しさが嘘のようだ。彼の最後は何と呆気ないことか。

 

 一方で何が起きたのかも分からず、呆然と倒れた小隊長を見る兵士達に追い打ちが掛けられた。

 

 ドパァァンッ!

 

 一発しか聞こえなかった銃声は、同時に、六人の帝国兵の頭部を吹き飛ばした。実際には六発撃ったのだが、ハジメの射撃速度が早すぎて射撃音が一発分しか聞こえなかったのだ。

 

 突然、小隊長を含め仲間の頭部が弾け飛ぶという異常事態に兵士達が半ばパニックになりながらも、武器をハジメ達に向ける。過程はわからなくても原因はわかっているが故の、中々に迅速な行動だ。人格面は褒められたものではないが、流石は帝国兵。実力は本物らしい。

 

「…すまねぇが、ここは俺にやらせてくれ。俺のミスだ。尻拭いも俺がする」

「ん。わかった」

「了解だ、マスター。君に任せよう」

「おう。ハジメ、任せた」

 

 ハジメの怒気に全員が頷く。ここはハジメに一任された。

 

 そう言っている間にも早速、帝国兵の前衛が飛び出し、後衛が詠唱を開始する。だが、その後衛組の足元に何かがコロンと転がってきた。黒い筒状の物体だ。何だこれ? と詠唱を中断せずに注視する後衛達だったが、次の瞬間には物言わぬ骸と化した。

 

 ドガァンッ!!

 

 黒い物体、燃焼粉を詰め込んだ手榴弾が爆発したからだ。しかもご丁寧に金属片が仕込まれた破片手榴弾である。地球のものと比べても威力が段違いの自慢の逸品。燃焼石という異世界の不思議鉱物がなければ、ここまでの威力のものは作れなかっただろう。

 

 この一撃で、密集していた十人程の帝国兵が即死するか、手足を吹き飛ばされるか、内臓を粉砕されて絶命し、さらに七人程が巻き込まれ苦痛に呻き声を上げかける。しかしそれが声に出る前にすぐに彼らの後を追った。弾丸が脳髄が吹き飛んだが故に。

 

「せめて、一人残らず痛みも無く殺してやるよ。今回は俺も悪い。ま、許す気も一切ないわけだが」

 

 そうして奈落の怪物の蹂躙劇は開始される。慈悲はただ、苦痛も無く死ねることのみ。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ーー兵士side

 

 己の上司が血を吹き出して死んだ。その血を頭から被った生き残りの一人の兵士が、力を失ったように、その場にへたり込む。無理もない。ほんの一瞬で、仲間が殲滅されたのである。彼等は決して弱い部隊ではない。むしろ、上位に勘定しても文句が出ないくらいには精鋭だ。それ故に、その兵士は悪い夢でも見ているのでは? と呆然としながら視線を彷徨わせた。

 

 そしてハジメが他の兵士へと目を背けている合間に、なんとか逃げようとする兵士。しかしその前に黒色の服装の男が現れた。何ともなよっとした印象がある。

 

 これならば自分でも倒せると錯覚したのだろうか。剣を向けて、黒衣の男、オスカーへと突進した。

 

「どけェエエエエエエエエエ!!!!」

 

 本来ならば鬼気迫った気迫に退かざるを得ないだろう。血走った瞳といい、恐怖が倍速させた加速力も凄まじい。

 

 しかし兵士は気がつくべきであった。ハジメとともにしていた時点で、その男の実力に。

 

「やれやれ。醜いにも程がある」

 

 言った瞬間にオスカーは黒傘を取り出し、ハンドル部分から持ち替えて、J字の持ち手を兵士の足首に引っかける。

 

 剣をアッサリと避けられたことも然り。兵士は状況の一片すらも飲み込めず、一回転。間も無く地に体を落とした。

 

 先程の助走を活かした転倒で、地面が背中を打った。肺の中の空気が余さず口から漏れ出した。急な空気の移動に咳き込む兵士。衝撃の所為で剣も手からこぼれてしまった。

 

 オスカーは眼鏡をくいっ。

 

「君に眼鏡がない時点で負けは決まっている。大人しくしているといいさ」

 

 眼鏡はどうやら戦闘には必需らしい。

 

 言う間にも拾われた剣が“錬成”により原型を失わせた。また同様に兵士の胴体を峡谷の地面に埋め込んでいく。

 

 兵士は狼狽した。【ライセン大峡谷】という魔法が使えないはずの土地で悠々と物理を無視した力を放つ。間違えなく魔法を使用している目の前の黒衣の男に。しかも土地を大幅に変形させる魔法。土魔法でも中級に値する力だ。まさかただの“錬成”であるとは思いもしないだろう。

 

 とにかくようやく兵士は目の前の男に抗えない事実を悟る。同時にこのままでは自分が呆気なく死を迎えるということも。

 

 黒傘の切っ先が兵士の眉間に添えられる。何故傘の形かは分からないが、それでも凶器になり得るのは確か。急激に死に飢える兵士。口から出るのはなけなしの降伏の宣言。

 

「た、頼む! 殺さないでくれ! な、何でもするから! 頼む!」

「そうかい? なら、そこの間引きされた兎人族以外はどうしたんだい? 」

 

 オスカーが尋ねたのは死んだ者以外の安否。もっともその流れは大体目に見えていたが。それでも念のためもあるのだろう。

 

「……は、話せば殺さないか?」

 

 オスカーの顔に三日月が出来上がる。兵士はそれを無言の肯定としたのだろう。流暢に話し始めた。

 

「全部移送済みだ。奴隷以外に道は無いから。ここで間引きしたのは長旅に向かない奴らと商品価値の低そうな奴らだけだ…それからーー」

 

 そこから男はさまざまな事を話した。輸送のルートから他の兵士の捜索ルートまで。オスカーの尋ねていないことまで、事細かく話してくれた。

 

 そして全て話終わったのだろう。顔が喜色に染まる。これで解放されると思ったがためだ。

 

 ここから一刻も早く抜け出し、目の前に群がる死の権化達から逃れたい。もはや仕返しや復讐などは頭から抜け落ちている。それほどの恐怖を患った。

 

 しかし黒傘の切っ先がまたもや眉間に添えられる。先程殺そうとしてきたときの仕草だ。

 

「な、何故!? 俺は全て話たぞ!? 話せば殺さないと約束したじゃーー」

「すまないけれど、そんなこと承諾した覚えはないね」

 

 そう、オスカーはあくまでも微笑んだだけ。肯定の言葉は一切無い。つまりは勝手な兵士の思い違いだ。

 

 抵抗をしようとするものの、体はすでに埋まっていて、蠢くことすらも許されない。

 

 そしてハンドルは捻られた。

 

 パシュッと空気が吹き出す音と共に、兵士の意識はペンキに塗りたくられたように黒く染まった。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ーーハジメ&シアside

 

 ハジメが兵士の始末を終わらすと、オスカーもまた残党を刈り終わったらしい。埃一つも付いていないあたりが、圧勝ぶりを物語っている。

 

「こっちの始末は終わったよ、マスター。情報も引き出した。…ま、相手は国だ。まだ敵対するには無理があるだろうね」

「それは同感だ、オスカー。…それにしても何で俺が動くまで、お前も動かなかったんだ?」

「私は今は君の従者だ。それに、君も変な欲で彼らを追い詰めたわけじゃないだろう? なら、私がわざわざ君の意思に刃向かうには足りないよ」

「なるほどな」

 

 たしかにオスカーは今、サーヴァントたる身。『令呪』という代物がある限りはハジメには逆らえない。とはいえハジメがハウリア族を思いやっていたのは分かっていたため、逆らう気も起きなかったとのことだ。

 

 オスカーが己に対する絶対命令権である『令呪』を使用させないのにはわけがある。というのも、『解放者』の英霊が全力で戦うには最低でも『令呪』一画を必要とするからだ。つまりは最悪の事態に備えてのこと。

 

 一方で向こうで立香が掌を合わせ、黙祷を捧げているのが見えた。どんな時でも相手が『人間』である限りは彼のお人好しは治らないらしい。今回はその慈悲も、兵士の安否には関係しなかったようだが。

 

 とりあえず周りのメンバーの安否と兵士の全滅を改めて確認し終わると、ハジメはシアの方へと歩き始めた。

 

「……めんなさい。ごめんなさい。私のせいだ。私がいなければ…」

 

 彼女の目の焦点はもはや合っていない。頭を抱え、一人自責している。また他のハウリア族も彼女ほどではないものの、自身の行動を悔やみ、気を落としていた。他人を責めることができない温和な性格が裏目に出ていた。

 

 するとハジメはシアの方へと歩き始めた。足音は僅かにしか立っていないというのに目を向けてしまうほどの存在感。一時的にハウリア族もシアも負の感情を忘れ、ハジメに目を向けた。

 

 ハジメはそっとシアの肩を掴んだ。帝国兵にしていたような怒りを滲ませたものではない。包み込むような暖かさがある。

 

 しかしシアがその温もりに気を和らげさせたのは束の間。すぐにハジメに求める。

 

「お願いします、ハジメさん。…私を殺してください」

 

 それは断罪の要求。多くの罪を残したシアへの罰。

 

「…何でだ?」

「…わかるでしょう、ハジメさん。私は生きてはいけないんです。私が生きていれば多くの人が死んでいく。…私の『大切』が失われてしまう。みんなを不幸にしてしまうんです。だから…どうか…殺してください」

 

 ポツリポツリと日頃の煩いまでの明るさが失われていた。目からも光の反射が見受けられない。

 

 空は曇天で、彼女の心模様を指し示すよう。シアの首が、空から落ちた雨に濡れる。

 

 シアは介錯を求め、首をうなだらせる。瞼を閉じ、その時を待つ。痛みの先にある己がいるべき場所へと着くその時をーー

 

 ーービシッ!

 

「いたぁ〜〜っ!」

 

 額に凄まじい衝撃が走る。破壊ではなく、あくまでも痛みを優先した指弾。しかもハジメの左腕、義手なのだから尚更である。シアが痛い痛いと泣き叫び、地面に転がる。

 

「ほれみろ。こんなもんにも耐えられねぇお前に、死ぬような痛みなんざ不相応ってもんだ」

 

 そんなシアに苦笑するハジメ。シアは視線をキッとハジメに向ける。しかし痛みによって涙で瞳が濡れており、上目遣いでハジメを見上げるという構図。むしろ可愛らしさが増しただけである。

 

 俯いていた顔を上げ、ようやく話を聞けるようになったシア。それを確認するとハジメは、気まずげに目を背け、話始めた。

 

「あー、今回ばかりは済まなかったな。あまりにもお前らがお人好しだったんで、しばらく帝国兵を放置していたんだが…お前らにゃあ劇毒の類だったらしい。判断ミスだ。……悪かった」

 

 仲間の視線が背中からヒシヒシと感じる。ミレディ、サーヴァント二人からは「ダレアレ」的な感じの視線が。他のメンバーとマフラーからは保護者のような生易しい視線が。なんとなくやるせない感を感じるハジメ。

 

「違います! 悪いのは全部私です! だから私はーー」

「死ぬべきだってか? だから殺せってか? 断る。全却下だ。諦めろ」

「ーーっ! なんで!? なんでわかってくれないんです!? 私は魔物と同じなんです! …忌み子なんですよ!? だっていうのになんでーー」

 

 ヒートアップする。シアの中にある深い闇が、罪の感覚が彼女に刺す光を途絶えさせる。その闇を知らない者には、どれだけ慰めの言葉を送ろうとなお届かぬ領域。

 

 しかし目の前の男は違う。彼も一度落とされたのだ。そこに。

 

「他人を死ぬ理由にするな! 甘えるな! 死ぬことで償おうなんざ、んな馬鹿なこと二度と言うんじゃねぇ!」

 

 激昂する。ハジメには似つかわしい激しい感情が渦巻いた。

 

 かつて奈落の底で絶望を味わい、無力を嘆いた少年の声がシアの闇を突き破っていく。

 

「ッ! ハジメさーー」

「第一、テメェなんだ!? テメェが人を不幸にする!? ほざけ! 周りをしっかり見ろ!」

「え? 何がーー」

 

 ようやくシアは気がつく。

 

 そこには確固たる決意があった。何処までも家族と運命を共にするというお人好しにも程がある、全てのハウリア族の決意が。それの何と愚かなことか。しかし馬鹿にできない思いの丈がある。

 

「みん…なぁ」

 

 枯れたと思っていたのに、瞳からまた一筋の雫がこぼれた。その雫のなんと暖かいことか。喉がしゃくりあげる。

 

「シア、我々はお前を一度も恨んだことなどない。死んだ者達もシアが死ぬことを望むことなどない。…どうか、そんな悲しいことを言わないでくれ」

「そうよ、シア。これからも一緒に、家族全員で生きるのよ。それがきっと貴女のお母さんの想いよ」

「死んじゃったらやだよ!」

「ダメだよ、シアお姉ちゃん! みんな一緒なんだよ!」

 

 カムに続き、ハウリア族の全員がシアの死を否定する。巫山戯るな、と。我々の愛を見縊るな、と。

 

 そんな彼らと驚くシアにハジメは唇の端を釣り上げる。

 

「人ってもんは、予想外な事をやってのける奴らばっかなんだよ。俺の周りにも、お前の周りにもそういう奴らがいる。な、絶望なんざしてらんねぇだろ?」

「ハジメさん…」

 

 そう、ハジメの周りには自分の予想など容易に超えてしまう者達ばかりだ。香織はハジメをハジメ以上に見て、認めてくれた。ユエは何処までもハジメを追い掛けて、支えてくれた。立香はハジメの為に難関を超え、抗ってくれた。

 

 このハジメがいるのは全て、その出会いのお陰だ。だからハジメは誰よりも知っている。人の強さというものを。真の希望というものを。

 

「それに、未だに罪の意識があるっていうなら…強くなればいい。強くなって、今度こそ大事なものを失わないぐらいに、強くなれ。お前にはその力があるんだ」

 

 ハジメは己の手を差し出した。立て、暗にそうシアに告げている。意識せぬままに、シアはその手を取った。

 

 重ねられるハジメの手は、心強くて、それでも優しくて、そして力をくれた。勇気を与えてくれる。

 

「…本当に、助けてくれますか?」

「ああ。そういう契約だろ?」

「そこは『お前の為!』とか言うところじゃないですかね〜?」

「前も言ったが、お前に惚れられたところで邪魔なだけだ」

「酷くないですか!? これでも私、美少女ですけど!?」

「…自分でそう言う所が厚かましいんだよ」

 

 そうやって明るく振る舞う少女の手は、未だに震えている。罪を超えることはできても、未だに恐怖はあるらしい。次に来るかもしれない誰かの死を。

 

 ハジメは少し迷い、ユエに目を向ける。ユエは次に何をやるつもりか察して、不服そうにしながらも頷いた。マフラーも同様である。

 

 小刻みに震える少女の手を握る己の指に、少し力を込める。びくっと肩を揺らす少女。

 

「…まだ怖いか?」

「…そうですね。きっと…怖いんだと思います」

「そうか…」

 

 ハジメはまたもや少し迷ったが、少女の顔に残る影に思う所があった。過去の己が見たそれに、眉をひそめ、やがて実行に移すことにした。

 

「なら、もう少しこうしといてやる。怖くなくなったら言え。それまで勝手にしろ」

「…いいんですか?」

「ああ。別にどうともない。樹海に着くまでに傷ついて貰っちゃあ困るんだ。この場で早急に直せ」

 

 シアは少し頰を桃色に染めた。やがて少し気まずそうに目をあっちこっちに向け始める。

 

 だがそれでも今、この手が離れてしまうのは何か辛くて…離したく無かった。

 

 だからシアはその己の気持ちにしっかりと従った。

 

「はい…しばらくこうさせて貰いますね!」

「ああ…勝手にしろ」

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ーー立香side

 

「…ハジメさん、マジパネッス」

「それを先輩が言いますか?」

「少し他人事にし過ぎかと思いますよ、母は」

「私も同感だ、マスター」

「解せぬ」

「「「こちらのセリフです(だ)」」」

 

 立香はシアの手を嫌々感を出しつつもしっかりと握るハジメと幸せそうにその手の温もりを感じるシアをちゃっかり観察していた。

 

 同時に尊敬の眼差しを向けるが、それにより、マシュ達ブライズが立香にジト目を向けた。たしかに人の事は全く言えない。

 

「……何であの女にあそこまで? ……胸?」

 

 一方で不思議そうに、かつシアの一部を殺意を乗せて見るのはユエだ。ハジメはてっきり「仲間以外はどうでもいいんだよ! ケッ!」的な生き方をすると思っていたので、それから外れたハジメの行動に困惑しているらしい。

 

 事実ハジメの行動原理はまさしくそれであり、帝国兵を殺すのに躊躇いが無かったのはそれからであり、シア達を助けたのもあくまでも樹海の探索の為。

 

 だからこそユエは不思議なのだろう。ハジメの今のシアへの対応はそれに合わないものであったからこそ。

 

 でもそれはユエが過去のハジメを知らなかったから。豹変する前のハジメを知る立香には何故、ハジメがそこまでするかは分かっている。

 

「多分、無意識だろうけど…昔のハジメぽいからだと思うよ、シアさんが」

「……ハジメ、あんな残念だったの?」

「そっちじゃないです。残念なのは鈍感ぶりと周りの環境だけです」

「なら……何が?」

 

 立香は遠くを眺めるように視線を見上げ、過去のハジメを思い出した。やはりあの日のハジメは…

 

「他人の為に傷つける、多分そんな所がシアさんそっくりなんだよ」

 

 ハジメはあの日、無力の身でありながら立ち上がった。

 シアは周りが不幸にならない為に、己の身を犠牲にしようとした。

 

 その姿はまさしく昔のハジメのそれである。きっと、同じ状況ならばあの頃のハジメもそうしただろうから。

 

 だから手を伸ばしたのだろう。昔の自分を重ねたから、シアを必死になって心ごと助けようとした。

 

「……なるほど」

 

 ユエも微かにハジメから、その姿を察したのだろう。ハジメの背中に暖かい視線を乗せる。

 

 しかしすぐに立香の方を振り向くと…凄くジト目をしてきた。そして、次の瞬間にとんでもない爆弾発言を落とした。

 

「……薔薇」

「……………は?」

「ハジメと立香は……薔薇?」

 

 薔薇、つまりそれはBLな関係のことを指す。

 

 ユエがハジメと立香の間につまりはそういった関係(・・・・・・・)を見ているというわけだ。凄く鳥肌が立香の肌にブツブツっとな。ついでに膝にダメージ! ガクブルだ!

 

「何でそんな話になるんですか!?」

「でもそれならハジメが私のお誘いに乗らない理由も分かる」

「そんな腐ったワケがあるかぁあああああ!!!」

 

 立香の額に青筋が浮かんだ。それはくっきりと。立香にブライズがいる時点でそれは解消されるはずだというのにだ。

 

 しかしここで思わぬ追撃が放たれた。

 

「そういえば先輩、最近私たちを構ってくれませんし(・・・・・・・・・)

「!?」

「確かにそうですね。しかも御禁制である夜更かしまでなさる次第で…」

「!!?」

「ああ。しかもこの前、懲りずに三人で『めいどろぼ』とやらを作っていたのもこれでワケが付く」

「味方が…いないっ!!?」

 

 三発連続の嫁からのボディーブロー。こっちはただ友人と仲良くやっていただけだというのに…凄くやるせない感がハンパではない。立香の青筋が更にくっきりと浮かび出す。

 

 そんな立香の肩に優しい手がポンと。見ればいい笑顔のオスカーだ。

 

 こっち側に遂に増援が! と希望を見た立香。

 

 しかし立香は知らない。

 

「確かに僕が知らない間に二人でどっかに行っていることがあったね。…そういうことだったのか」

「眼鏡ぇええええ!!!」

 

 眼鏡を付ける者たれば、腹黒を常に抱えているということを!

 

 思わず発狂する立香。実にレアなシーンだ。

 なおその際にはあくまでハジメと立香は二人で地球のロマン武器を面白半分で作っていただけだ。某死神の変形する剣とか、某宇宙戦士の付けるだけで合体できるピアスとか。なお再現は不可能だった。

 

 それに呼ばれなかったオスカーの腹いせだろう。立香に薔薇の容疑が発生する。青筋からは血が。立香の知らない類の精神攻撃に体が悲鳴を上げたのだ!

 

 そしてそんな立香で愉悦するオスカー。器用なことに表情はただのいい笑顔だが、細められた目に「ザマァ見ろ」的な大人気ない感じが見て取れる。

 

 立香の右の拳が握られる。最近脳筋と表されるこのストレートを受けるがいい!

 

 魔術回路は準備オッケー。眼鏡を砕く準備もオッケーだ!

 

「死すべし! 慈悲は無いっ!!」

 

 兎も角狙いはオスカー。ボッコボコにしてやると決意を新たに、某スレイヤーさんの如く疾走したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? ミレディさん、忘れられてる?」

 

 そんな中、一人疎外感を覚えるミレディであった。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 おまけ

 ーーハイヒリ王国にて

 

 香織「…こればかりはシアさんが可哀想だし…でもまた新しいゴキーー女の子が纏わりつくのは許せないし…」

 雫「…不思議ね。少し慣れてきてしまったわ。あの般若さんに」

 エミヤ「(霊体化しながらコクコク)」

 香織「でも…とりあえず目の前に現れたら…フフフフフ」

 雫「待ちなさい、香織! さっきからサムズアップしては首搔き切って、落とすジェスチャーしまくってるわよ!? それはハジメくんへ!? それともその女の子に!? どっちなの!?」

 エミヤ「とりあえず…少年に冥福を祈ろう」




…最後まで存在を忘れていたミレディさん。
あれ? 残念属性、こっちにもあるぞ?
シア、なんか属性足そうかな?
スタ○ドとか。
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