ありふれた錬成士は最期のマスターと共に   作:見た目は子供、素顔は厨二

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後半から大半コピペ。
仕方ないじゃん、変えづらいんだもの。
次のお話もそうなる可能性が高いよなぁ…。
一章はオリジナル成分が多かったから、コピペ問題はそんな起こらなかったけど…どうなることやら。


ハルツィナ樹海

 ーー立香side

 

 七大迷宮の一つにして、深部に亜人族の国フェアベルゲンを抱える【ハルツィナ樹海】が前方に確認できた。立香達一行は大型四輪車を二台使用し、ハウリア族を全員輸送していた。念のためにハジメがリムジンサイズにしていたのが、今回の場合利となったわけだ。

 

 そんなわけで片方をハジメが運転し、ユエとシアを主としたメンバー。もう片方をマシュを運転手とした、立香、ミレディ(ゴーレム)という結果となった。なお、英霊メンバーはそれぞれのマスターの方に、霊体化した上でついて行っている。なお立香の運転手希望は無視された。原因は立香の暴走ではあるが、それでもすごく悲しかった。

 

 代わりにハウリア族と別れた後、ハジメが立香の為に二輪車を専用改造してくれるとのこと。感情の振れ幅が凄くて、立香は軽めに発狂した。ついでにハジメの思い遣りが立香に対して異常であるのに対し、それぞれのメンバーが薔薇を見るような目をしだしたのは、立香持ち前のガッツで耐え切った。こういう時はハジメのスルースキルが途方もなく羨ましかった。

 

 そんなわけで立香は助手席に座っているわけだが、なんといっても後ろがワイワイしている。見たこともないようなアーティファクトなのだ。ハジメがこれを作ったというと、ハウリア男達は横に並ぶ車の方をキラキラとした目で見だした。やはりメカは万国万世界共通して、男の心を鷲掴みにするらしい。なお女子はふつうにソワソワしている。未知の乗り物に乗っているからだろうが、キラキラする気配は無い。

 

 一方で立香は隣の車両の運転席を見て、ニヤけた。立香の背後にはうにょんうにょん蠢く黒い髭のス○ンド。ハウリア族は若干、助手席の方から離れた。気持ち悪りぃという内心が凄く見て取れた。

 

 気づくと隣で運転するマシュが呆れたようにこちらを見ていた。

 

「…本当に先輩はハジメさんの情事がお好きですね」

「いやー、面白くない? アイツ、初々しいのにジゴロ体質なもんだから、周りにめちゃくちゃ集まるし…最終的には九人か十人とは関係持ってそう」

「先輩が仰られると、ジゴロの勘によって凄まじく当たりそうで怖いですね」

「当たるかどうかは知らない」

 

 そんな事を言っていると脳内からも『当たる(確信)』とか、『むしろ当たらなければ大厄災』とか聞こえてくる。

 

「それにしても、ミレディさんが居なければ久々にマシュと二人きりだったのに…残念だなぁ」

「ふふっ。それではまた何処かの街でデートと参りませんか、立香さん?」

 

 なおマシュはたまーに、極たまーにだが、普段の『先輩』呼びでなく、名前で呼んでくる時がある。他の英霊達も同様である。普段から名前を呼ばず、甘える時にだけ名前を呼ぶスタンスを彼女達は確立している。本人達曰く、『ぎゃっぷもえ』とやらを参考にしたらしい。それが立香に通用するかどうか…

 

「うん、もちろんでち」

 

 こうかは ばつぐんだ。

 

 少なくとも普段の語尾が化学変化を起こす程度には会心の一撃であったようだ。キラキラスマイルのサムズアップが決める立香さんだ。

 

「リッくん、鼻から赤いのが…」

「先輩、どうぞ」

「ありがとう、マシュ」

 

 立香の鼻から幸福の象徴が噴き出した。それにすぐさま反応し、どこから取り出したのかティッシュを差し出すマシュ。…やはり正妻力は侮れない。片手でちゃんと運転もこなしている。騎乗スキルは伊達ではない。

 

『如何致しましょう、ランサーさん! 正妻様が強すぎます!』

『落ち着け、頼光卿! 我々が勝てるところは……何処にあるのか』

『だ、大丈夫です! 防御は兎も角、攻撃力ならば何とか…』

『あの峡谷では私達は、無力らしいが…』

『………』

 

 マシュの正妻ぶりに頼光と獅子王が脳内で騒めく中、立香の関心はふと隣の車に向かった。

 

(それにしてもハジメの方はどうなってるんだろう? …主にシアさんとユエの)

 

 修羅場かな〜? と、様々な意味での修羅場を経験している立香は取り敢えず、横のマシュとの時間を楽しむのであった。

 

「リッくん、マシュマシュ。ミレディさんは凄く寂しいのですが」

「我々ハウリアが居ます」

「ハウリアのみんな、大好きだよ〜〜〜!!」

 

 とりあえず脇のゴーレムさんは、後ろのハウリア族へと突撃するのであった。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ーーハジメside

 

 立香達の車が密かなイチャコラと賑やかな一団に分かれている合間、ハジメ組の方はというと、ハジメとユエの境遇の話となっていた。

 

 峡谷という土地でも魔法が使える理由など簡単なことしか話していなかった。きっと、シアは、ずっと気になっていたのだろう。というのもシアが尋ねてきたのだ。

 

 確かに、この世界で、魔物と同じ体質を持った人など受け入れがたい存在だろう。仲間意識を感じてしまうのも無理はない。かと言って、ユエが、シアに対して直ちに仲間意識を持つわけではないし、ハジメもあくまでもシアに対する対処の多くは同情。仲間意識はない。それでも樹海に到着するまで、まだ少し時間がかかる。特段隠すことでもないので、暇つぶしにいいだろうと、ハジメとユエはこれまでの経緯を語り始めた。

 

 言い終わると、シアは号泣した。それはもう残念なぐらいに。あらゆるものが垂れている。ただし、それは下手な同情などではないのも一目瞭然だった。

 

「…なんでバジメざんば、ぞんな仲間の人達に馬鹿にざれないどダメ何でずが!?」

 

 どうやら奈落などでの境遇よりも、むしろ元の居場所でのハジメへの評価に腹を立てていたらしい。なお、話した内容には立香から聞いた後の話もある。そこでの話はユエも「クラスメイトとやらと、勇者と……卑山? 許すまじ」とか言っていたが…ここまでとは思わなかった。

 

 確かに今でも思い出せば相当散々言われてたなぁ〜と思わないことはない。檜山に対する恨みは今でも煮えたぎっているし、他にも思うことがないわけではない。

 

 ただハジメ的には、人生においての初の親友の存在や初恋の人などの存在の方が印象が強いため、あまり気になっていない。…決して、そのメンバーのキャラが凄まじく強かったから、などと言うわけではない。ス○ンドが高い頻度で出現したり、図書館の壁を余裕で走ってくる一般人(自称)や大人しい顔をしつつも割とズレている友人がいたりしたが…それが原因ではないのだ!

 

 それに今は今で、油断すれば色々取られかねない吸血鬼様や自律稼働式のただのマフラー、眼鏡の存在感が異常な眼鏡などが足されたこともあり、元のクラスの思い出がもうそれほどない。香織を主とした、雫やメルド団長、あと怨みの対象である檜山ぐらいしか覚えていない。勇者? ………そういやいたような。

 

「落ち着け、シア。俺の名前が愉快な事になってんじゃねぇか。あと俺の腕がグジョグジョになるから、泣くのを止めるか腕離すかどっちかしてくれ」

「(ズビィッ)なぎまぜん!」

 

 と言いつつ、泣き止む気配が一向に無い。ただシアは同時にハジメが己を助けてくれた理由を理解した気がしたのか。シアは己の胸に抱えるようにしているハジメの腕(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)を一層強く抱きしめた。そう、抱きしめた。

 

 これにユエ様が神反応を見せる。目が座っていらっしゃる。本気(マジ)だ。ハジメは上半身を仰け反らせた。

 

「……もう離れろ、ヤンデレウサギ」

「(ズビッ!)い〜や〜で〜すぅ〜! ハジメさんが言ってくれたんですよ! 好き勝手にしろって! こればかりはたとえ“嵐帝”やられても、譲れません!」

「……やっぱりもぐか」

「もがれませんよ! そしてユエさんよりも先にハジメさんを籠絡するのですぅ!!」

「聞いていれば……」

 

 そして二者間で迸る稲妻。なお構図的には運転席に座るハジメの横でシアがハジメの片腕に自分のモノを密着させ、それを横からユエがブチ切れているという様である。

 

 あの後結局、シアがハジメから離れることはなく、飼い猫ならぬ飼い兎の如くベタベタベタベタ。結果、隣を奪われたユエさんが怒り心頭というわけだ。この構図はシアに手を繋ぐことを許して以降ずっと行われている。未だに凍土のような空間に引き込まれて、30分も経っていないという事実に、ハジメは困惑済みである。なおマフラーさんはシアの境遇に思うところがあるのか、静止している。非常に珍しい事態だ。

 

 ハジメ的には母親を失ったばかりの人間を蔑ろにはしづらかった。だからこそ日頃ならばアバババしたり、非殺傷弾をドパンドパンしたりするところを我慢しているのだ。

 

 だが、己の『大切』が怒っているとあらば、流石に看過し難い。ここは少し、離れてもらおうとハジメが口を開けた。

 

「…おいシア。流石にーー」

「……ハジメは黙っていて」

「こればかりは譲れない戦いですぅ!」

「………」

 

 まさかの開口一番をインターセプトされるという事態が発生。しかもユエからも言われる始末だ。運転楽しい。

 

 こうなったら何も言えない。ハジメさんは無心の境地へと挑み出した。目が若干死んでいる。マフラーがハジメの頰を撫でてくれた。温もりが暖かい。内心で「白崎ありがとう」と感謝する。心の中でも名前で呼ばない点は割愛だ。

 

 なおマフラーが風もなく動いている様に、ハウリア全体は騒めきに騒めいている。ハジメに対するキラキラ視線が増した。マフラーをアーティファクトとでも思ったのだろうか。まさかその実、ハジメでも正体不明の謎の布とは思うまい。

 

(にしてもユエは兎も角、何でシアの奴までバチバチしてんだ? )

 

 その時ふと思い出す、立香の『テメェは俺と同種じゃあ!!』という発言と、自身に好意を抱いてくれている二人の女性のジト目。ついでにオスカーの愉悦顔。

 

 無性に立香とオスカーに苛立ちを露わにするが、その前に最近己に付きつつある『ハジメ=ジゴロ』の評判が気になった。

 

(…まさかな)

 

 そんな訳はないと首を振り、右手だけでハンドルを握る。そうして“集中”を全力行使し、脇の会話を意識の彼方に吹き飛ばすと、前方だけに意識を向けて運転するハジメ。

 

 彼がその答えを知るのは、後もう少し先のお話。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ーーユエside

 

 ハジメがぐだぐたと悩む中、ユエは目の前のシアに(一部にだけ)殺意を露わにしていた。そこだけが、目の前の女に負ける点であると理解しているが為である。

 

(……ハジメは鈍感にも程がある)

 

 シアは明らかにハジメに好意を抱いている。しかも尊敬などの類ではない、真性のもの。自分や遥か彼方にいる恋敵と同じ気配。

 

 幸いにも、シアはまだ己の気持ちに完全には気がついてはいない。されど何かきっかけさえあれば、きっと己の想いを自覚するだろう領域。

 

 ハジメの正妻(自称)として見過ごす訳には行かないのだ! 重厚な殺意オープン! 後ろに蒼き炎を纏う大蛇スタンバイ! 生意気なウサギなんざ食ってやるゼェと言わんばりに瞳孔を縮小させる。後ろのハウリアのビクビク? 知ったものか! ユエさん的にはこちらの方が何十倍にも重要項目。周りに気を遣っている暇などない。

 

 さあ、生意気なウサギよ! 正妻の格、ここで見せつけてくれる!

 

「……?」

 

 コテンと可愛らしく首を傾げるシア。殺意など柳に風。普通にユエと目を合わせちゃっている。

 

 何故!? と動揺を隠せないユエ。しかし次の瞬間には気がついた。その原因。否、彼女にとってのヒーリングスポットの存在に。

 

(まさか……ハジメによる安心感で中和している!?)

 

 驚愕せずにはいられない。まさかハジメにそんな効能があったなんて。確かに、ハジメとくっついていたら、きっとヒュドラ戦もリラックスしながら行えた自信はあるが、まさかここまでとは。

 

 だがこのままでは舐められっぱなしだ。最初の方にかました“嵐帝”だけではユエさん的には非常に心細い。もう少し、シアの心にトラウーーもとい立場というものを知らしめねばならない。

 

 どうしたものかと考えていると、そういえばシアには強くなる気があることを思い出した。つまり稽古として痛めつければいいわけで…。

 

「……残念ウサギ、気には食わないけど同情はする。だからお前が強くなるために手伝ってあげる。感謝するといい」

「え! いいんですかぁ! 是非是非、お願いしますぅ〜!!」

「ん! ……言質は取った

「へ? 何か言いましたか?」

「……何でもない」

 

 少なくともシアに手加減はしないでおこう。徹底的にしごいて差し上げよう。

 

 獲物を捉えた龍の瞳をしながら、そう決意を新たにするユエであった。

 

 すると緩やかに運転が止まった。どうしたのかと思ったユエであったが、ハジメが某豆腐の配達がすごい走り屋みたいな表情から元に戻ったことから気がついた。

 

「さあ、【ハルツィナ樹海】だ。案内…頼んだぞ?」

 

 片端を釣り上げるハジメは、後ろのハウリア達に降りろとジェスチャーをかましながら、そう言うのだった。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ーーハジメside

 

 それから数時間して、遂に一行は【ハルツィナ樹海】と平原の境界に到着した。樹海の外から見る限り、ただの鬱蒼とした森にしか見えないのだが、一度中に入ると直ぐさま霧に覆われるらしい。

 

「それでは、ハジメ殿、ユエ殿、リッカ殿、マシュ殿、ミレディ殿。中に入ったら決して我らから離れないで下さい。皆様を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

「ああ、聞いた限りじゃあ、そこが本当の迷宮と関係してそうだからな」

 

 カムが、ハジメに対して樹海での注意と行き先の確認をする。カムが言った“大樹”とは、【ハルツィナ樹海】の最深部にある巨大な一本樹木で、亜人達には“大樹ウーア・アルト”と呼ばれており、神聖な場所として滅多に近づくものはいないらしい。峡谷脱出時にカムから聞いた話だ。

 

 当初、ハジメは【ハルツィナ樹海】そのものが大迷宮かと思っていたのだが、よく考えれば、それなら奈落の底の魔物と同レベルの魔物が彷徨いている魔境ということになり、とても亜人達が住める場所ではなくなってしまう。なので、【オルクス大迷宮】のように真の迷宮の入口が何処かにあるのだろうと推測した。そして、カムから聞いた“大樹”が怪しいと踏んだのである。

 

 なおここでも英霊組は霊体化している。人数があまりに多いと、隠密行動には優れない為と立香がそうさせたのだ。なお、ハジメ的にはドパンドパンしちゃえばいいじゃない思考だったのだが、立香に全力で止められた。…一応非殺傷の奴なのに。

 

 カムは、ハジメの言葉に頷くと、周囲の兎人族に合図をしてハジメ達の周りを固めた。

 

「とりあえず皆様方、できる限り気配は消しもらえますかな。大樹は、神聖な場所とされておりますから、あまり近づくものはおりませんが、特別禁止されているわけでもないので、フェアベルゲンや、他の集落の者達と遭遇してしまうかもしれません。我々は、お尋ね者なので見つかると厄介です」

「ああ、承知している。俺もユエも、ある程度、隠密行動はできるから大丈夫だ。…立香達はどうだ? 特にミレディは」

「俺は大丈夫。“認識阻害”使えば、ミレディさんも問題ないよ。ハウリアにもかけるってなったら難しいけど」

 

 ハジメは、そう言うと“気配遮断”を使う。ユエも、奈落で培った方法で気配を薄くし、立香も“認識阻害”の魔術を発動した。

 

「ッ!? これは、また……ハジメ殿、できればユエ殿や立香殿くらいにしてもらえますかな?」

「ん? ……こんなもんか?」

「はい、結構です。さっきのレベルで気配を殺されては、我々でも見失いかねませんからな。いや、全く、流石ですな!」

 

 元々、兎人族は全体的にスペックが低い分、聴覚による索敵や気配を断つ隠密行動に秀でている。地上にいながら、奈落で鍛えたユエと気配操作の魔術を扱う立香と同レベルと言えば、その優秀さが分かるだろうか。達人級といえる。しかし、ハジメの“気配遮断”は更にその上を行く。普通の場所なら、一度認識すればそうそう見失うことはないが、樹海の中では、兎人族の索敵能力を以てしても見失いかねないハイレベルなものだった。

 

 カムは、人間族でありながら自分達の唯一の強みを凌駕され、もはや苦笑いだ。隣では、何故かユエが自慢げに胸を張っている。立香は立香で「お前、俺のこと非常識って言ってくるけど、お前の方が非常識の塊だからな」とジト目してくる。シアは、どこか複雑そうだった。ハジメの言う実力差を改めて示されたせいだろう。

 

「それでは、行きましょうか」

 

 カムの号令と共に準備を整えた一行は、カムとシアを先頭に樹海へと踏み込んだ。

 

 暫く、道ならぬ道を突き進む。直ぐに濃い霧が発生し視界を塞いでくる。しかし、カムの足取りに迷いは全くなかった。現在位置も方角も完全に把握しているようだ。理由は分かっていないが、亜人族は、亜人族であるというだけで、樹海の中でも正確に現在地も方角も把握できるらしい。

 

 順調に進んでいると、突然カム達が立止り、周囲を警戒し始めた。魔物の気配だ。当然、ハジメとユエも感知している。どうやら複数匹の魔物に囲まれているようだ。樹海に入るに当たって、ハジメが貸し与えたナイフ類を構える兎人族達。彼等は本来なら、その優秀な隠密能力で逃走を図るのだそうだが、今回はそういうわけには行かない。皆、一様に緊張の表情を浮かべている。

 

 と、突然ハジメが左手を素早く水平に振った。微かに、パシュという射出音が連続で響く。

 

 直後、

 

 ドサッ、ドサッ、ドサッ

「「「キィイイイ!?」」」

 

 三つの何かが倒れる音と、悲鳴が聞こえた。そして、慌てたように霧をかき分けて、腕を四本生やした体長六十センチ程の猿が三匹踊りかかってきた。

 

 内、一匹に向けてユエが手をかざし、一言囁くように呟く。

 

「“風刃”」

 

 魔法名と共に風の刃が高速で飛び出し、空中にある猿を何の抵抗も許さずに上下に分断する。その猿は悲鳴も上げられずにドシャと音を立てて地に落ちた。

 

 残り二匹は二手に分かれた。一匹は近くの子供に、もう一匹はシアに向かって鋭い爪の生えた四本の腕を振るおうとする。シアも子供も、突然のことに思わず硬直し身動きが取れない。咄嗟に、近くの大人が庇おうとするが……無用の心配だった。

 

 再度、ハジメが左腕を振ると、パシュ! という音と共にシアと子供へと迫っていた猿の頭部に十センチ程の針が無数に突き刺さって絶命させたからだ。

 

 ハジメが使ったのは、左腕の義手に内蔵されたニードルガンである。かつて戦ったサソリモドキからヒントを得て、散弾式のニードルガンを内蔵した。射出には、“纏雷”を使っておりドンナー・シュラークには全く及ばないものの、それなりの威力がある。射程が10m程しかないが、静音性には優れており、毒系の針もあるので中々に便利である。暗器の一種とも言えるだろう。樹海中では、発砲音で目立ちたくなかったのでドンナー・シュラークは使わなかった。

 

 立香が横で構えを解いた。…何の魔術も発動していないのに、目の前に立てば死ぬと思うような見事な構えである。

 

「あ、ありがとうございます、ハジメさん」

「お兄ちゃん、ありがと!」

 

 シアと子供(男の子)が窮地を救われ礼を言う。立香の非常識ぶりに意識を割いていたハジメは気にするなと手をひらひらと振った。男の子のハジメを見る目はキラキラだ。シアは、突然の危機に硬直するしかなかった自分にガックリと肩を落とした。

 

 その様子に、カムは苦笑いする。ハジメから促されて、先導を再開した。

 

 その後も、ちょくちょく魔物に襲われたが、ハジメとユエ、立香、マシュが静かに片付けていく。樹海の魔物は、一般的には相当厄介なものとして認識されているのだが、何の問題もなかった。なおミレディが戦わないのは、ゴーレム体に残された魔力を、後に迫るはずの巨大ゴーレム戦で使いたいからだ。いずれ戦う敵のため、対抗できる力は少しでも残しておきたいのが一行の総意なのだから。

 

 しかし、樹海に入って数時間が過ぎた頃、今までにない無数の気配に囲まれ、ハジメ達は歩みを止める。数も殺気も、連携の練度も、今までの魔物とは比べ物にならない。カム達は忙しなくウサミミを動かし索敵をしている。

 

 そして、何かを掴んだのか苦虫を噛み潰したような表情を見せた。シアに至っては、その顔を青ざめさせている。

 

 ハジメとユエも相手の正体に気がつき、面倒そうな表情になった。

 

 その相手の正体は……

 

「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

 虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人だった。




え? 英霊組が全然出てきてない?
まだ戦闘じゃないからな〜。
二章後半から活躍予定。
やはり戦闘で活躍するものよ、彼らは。
あと幕間の物語だな。(つまりはギャグ要員)

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