ありふれた錬成士は最期のマスターと共に   作:見た目は子供、素顔は厨二

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『回復魔法の間違った使い方』の日記方式で今回は進めます。
もしくは『ユエの日記』パロでも構いません。
これからもちょいちょいはこの方式を取ります。
やりやすかった。


シアの訓練模様

 ーーシアside

 

 とりあえず日記を書いてみます。

 成長が分かると、力が上がるとか聞きますし!

 

【一日目】

 早速始まったユエさんとの訓練ですぅ! あまりにも早速過ぎますけど! そこは気にしないですぅ!

 ただお父様方が非常に不安ですけど…ハジメさん達は何をするつもりでしょうか? 性格とか変わるって言ってましたけど…大丈夫でしょうか?

 あと立香さん、本当に人間です? 軽くで樹海一周って獣人の中でも出来ない人が多いような…。

 

 そんな私の疑問や心配はすぐ様に変えることとなりました。

 

「訓練その一、私の魔法受けまくれ」

 

 この一言が地獄の始まりでした。

 

 螺旋を描く炎が樹木を焦がし、大質量の激流に身を投げ出され、崩壊する地面が槍となり、大嵐にペイッとされて埃まみれになり、光の放流が降り注ぎ、輝く黄金の壁が私の退路を絶って…。

 兎に角、厄災の真の意味を知りました。

 

 ユエさん!?

 魔法教えてくれないんですか!?

 訓練手伝ってくれるって…

 エッ、感覚で分かれ!?

 無茶言うな! ですぅ!

 こっちとら自慢じゃないですが魔法なんざ知るか、なんですよ!?

 アッ、ウサミミがチリッて言ったですぅ!!

 私、ウサミミ無くなったらただの美少女ですよ!?

 

「……余裕? なら、サービスしてあげる」

 

 構築される魔法の数が二倍になりました。

 

 そんなサービスいらないですぅううう!!!

 ハジメさん! 助けてぇえええ!!!

 

「助けなど……来ないっ!!」

 

 アッーーーーーー!!!!

 

 

 とりあえずこの日、私は一糸纏わぬ状態でユエさんに担がれて、拠点に帰ってきたらしいですぅ。

 記憶が無いのですが…ハジメさんは一体、私を見てどんな反応をしたのでしょうか?

 少し気になってしまいます。

 

 なお僅かに記憶にある限りではマシュさんが面倒を見て下さっていました。

 感謝ばかりですぅ〜。

 

【二日目】

 

 昨日と何ら変わりません。

 吹き飛ばされ、消し飛ばされ、吹き飛ばされ、追い討ちをかけられ、吹き飛ばされ、弄ばれ、吹き飛ばされ、吹き飛ばされ、蹂躙され、ブン殴られ、吹き飛ばされ、十字固めされ、もがれかけ……

 

 なんだか悟りを開けそうな感じがするのですが?

 目の前に綺麗な川も見えてきましたし。

 その先にはお母様が…へ? こっち来るな?

 とりあえず何とか踏ん張れたですぅ。

 ユエさんが「コイツ…黒いアレみたいにしぶとい」とか言い出したのですが…。

 私、Gなんかじゃ無いですぅ!

 こんな美少女をアレと一緒にしないでくださいですぅ!

 

 それにしても吹き飛ばされてる合間に、特殊な感覚を覚えました。

 昼飯を一緒にしたハジメさん曰く、それが魔力らしいです。

 一歩前進です!

 ユエさん、あの訓練意味あったんですね!

 ただただ鬱憤晴らしだとばかり…なんで目を背けるんです?

 

 午後からは魔法を一通り使ってみました!

 …結果ですか?

 身体能力強化しか出来ないらしいです。

 もうちょっとファンタジーな感じのが欲しかったです。

 

「…お前の存在も大概ファンタジーだぞ、シア?」

 

 それを言うとハジメさんがこう言いました。

 なおハジメさんの目は私の視線よりもやけに上に…。

 何故でしょう?

 

 なおハジメさんは物を加工する力、立香さんはマジで何も無しから始まったらしいです。

 …立香さんはたった三年間程度で今の脳筋さんになったんですか?

 元々は瓦も割れなかった?

 …ゴリラって、すごい急激に進化するらしいです。

 

【三日目】

 

 ついに身体強化の魔法を本格的に学習です!

 魔力操作には昨日の内に慣れました。

 ユエさんの指導とハジメさんが魔力操作のイメージを“念話”で伝えてくれたお陰ですぅ〜。

 あの御二方、割とツンデレですねぇ〜。

 

 …ハッ!

 割と籠絡も簡単なのではっ!?

 

 

 ずびばぜんでじだ、ゆるじでぐだざい、ユエざん、マフラーざん。

 

 ハジメさんにハニートラップを仕掛けて、すぐに籠絡しようとしたのです。

 なおハジメさんは、仕掛けた途端に「コイツ、身の程知らずか?」と一切のテレも無く、見てきたのですが…すぐに理由が分かりました。

 …マフラーさんが私の首を絞め、ユエさんが日頃の比にならないくらいの魔法の数を撃ち込んできたんです。

 お陰で私はしばらく樹木の枝に洗濯物の如くぶらぶらと…。

 そしてそんな私の真下辺りでマフラーさんとユエさんとハジメさんがイチャイチャイチャイチャ…。

 …盛ってるんですか?

 

 

 ずびばぜんでじだ。もうあんなごどいいばぜん、バジメさん。

 

 あの時のハジメさんの神反応は今、思い出しても全身の毛が逆立つほどです。

 虎の亜人族の方々とか、帝国兵とかどうでもよくなるホラーです。

 ユエさんとマフラーさんとハジメさんがヤバイです。

 

 兎も角、今日はボロボロにされました。

 訓練二割、説教八割ぐらいのレベルで。

 

 …というかハジメさんってまだユエさんとそういう関係じゃないんですね!

 ということは私にも可能性が!

 ふっふっふっ。

 この残り七日間でハジメさんをメロメロにしてやるですぅ〜!!

 

【四日目】

 

 ずびばぜんでじだ。ユエざん。

 なのでどうか、「テメェ、盛ってんじゃねぇよ、このエロウサギが」的な目で見て見ないでくださいませんでしょうか?

 朝からハジメさんの部屋に入ろうとしたのは謝りますから。

 

 …え? この程度で済んだ私はまだマシ?

 中に入ればマフラーさんが襲撃しに来る?

 …今更ですが、本気で何でマフラーが動くんですか?

 というか何で殺生能力が備わってんです?

 いや、「大体、香織の所為」じゃなくてですね。

 気になりますけど、たしかに!

 まだライバル居たんですか!?

 ちゃんと答えてください! ユエさ〜〜ん!

 

 なおこの日は今まで通りの訓練でしたので、疲労感はあまり無いです。

 パンチの威力も上がって来ましたし!

 

 なおユエさん曰く、明日からスペシャルコーチが入る予定だそうです。

 誰でしょう?

 ワクワク。

 

【五日目】

 

「シアさん、俺急にここに呼ばれたんだけど…シアさんの“身体強化”の魔法の訓練でよかったよね?」

 

 目の前にいたのは、筋肉お化けこと立香さんでした。

 

 ユエさん!?

 計りましたね!

 こんな人の訓練とか鬼畜すぎません!?

 絶対今日は全身筋肉痛ですぅ!!

 

 …でも樹海一周ぐらいなら何とか行ける可能性がーーー。

 

「じゃ、とりあえず樹海一周を二時間以内(・・・・・)で」

 

 ーーーへ?

 

 …へ?

 

「大丈夫だよ! シアさんの“身体強化”ならそれぐらい行けるよ! 俺より適性あるっぽいし!」

 

 …いやいやいやいや。

 殺す気ですか?

 無理ですけど。

 絶対にむーーー

 

「シアさん今からスタートだけど、止まったらユエさんの魔法が乱れ飛んでくるからね」

 

 木の上で仁王立ちするユエがそこにはいました。

 今か今かと魔法を構築して待っています。

 それを見て、私は察しました。

 

 あ、これ。逃げ場ないです。

 

 ここまで来れば諦めもつきます。

 ここ数日間で学習したんです、理不尽は良くあることと。

 なので私はクラウチングスタートを行います。

 

 風の速さで行ってやる、こんちくしょうめがぁあああ!! ですぅううう!!!

 

 

 …はあ、はぁ。

 何とか魔法被弾五十以内で済みました〜。

 これぐらいなら許容範囲ですぅ!

 

 何度死ぬかとーー

 

「じゃ、次はこの重りを使って腕立てだよ!」

 

 立香さんの両手にあるのは巨大なブロック型の金属です。

 …立香さんは私を殺す気ですか?

 

 でも見た目は虫も殺せないようなお人好し感がありますし。

 なにか安全策はあるんでしょう!

 例えば土壇場で私を支えてくれたりとか…

 

「大丈夫、ハジメが作ったアーティファクトで安全装置を魔力を流すだけで使えるから、魔力操作の訓練にもなって一石二鳥だよ!」

 

 違う、そうじゃない。

 

 まさかのもしものための安全策も自給自足でした。

 割とこの人、見た目は一般人ですけど、素顔は野蛮人ですよ!?

 この人の訓練受けてるお父様達大丈夫!?

 死んでないですか!?

 最近、陰さえも見てねぇですよ!?

 生きてるんですか!? ねえってば!?

 

 この後、立香さんに色んな拳法の型を教えてもらいました。

 すごくありがたいです。

 …全身筋肉痛ですけど。

 

 なおこの日、最終的にハジメさんが膝枕を渋々してくださりました。

 ユエさんが何やら口伝てしてくださったようですぅ。

 …なんだかユエさんが聖人に見えて来ました。

 立香さんに比べれば数十倍も優しい方です。

 なお、立香さんは根本的にネジが外れていらっしゃるのでどうしようもないです。

 

 なお後日、マシュさんや頼光さん、獅子王さんに何処に惚れたのか聞きました。

 

「ふふっ、母とあの子の経緯は秘密ですよ」

「とりあえず私は一回、マスターに敗北してだな…」

 

 何を言っているんでしょう、この方々は。

 

 まず立香さんと頼光さんって親子なんですか?

 アブノーマルなんですか?

 獅子王さんは獅子王さんで、元々敵だったんですか?

 それで負けたんですか?

 それで惚れたんですか?

 

 …理解できねぇ、ですぅ。

 

 マシュさんは!?

 マシュさんはどんな経験を!?

 THE一般、このチームでの唯一の良心さん!

 どうか普通というオアシスを!!

 

「まず出会った時にビビっと来たのです! 彼が私の『先輩』だと!」

 

 …あれ? マシュさんも微妙にずれてます?

 …常識人、いないんですか。

 ハジメさんパーティーの普通は誰でしょうか?

 

 少なくとも後ろから農家の如く現れた男三人組は違いますね、分かります。

 マジでお父様達、どこに行かれておられるのでしょうか?

 

 それは兎も角、ハジメさんとの二人の時間は本当に安らぎました。

 ここ最近の訓練の所為でズタボロな私の心が、すぐに回復しました。

 ハジメさんの側は私にとっての特効薬です!

 

 …認めます。

 私はハジメさんが好きです。

 今までも「この人なら〜」ぐらいには思っていましたが、違います。

 

 この世できっと一番好きです。

 あの日、私が絶望していた時、手を取ってくれた。

 側にいてくれた。

 それだけのことなのに心に凪いだ風が吹いたような錯覚を覚えました。

 その時からこの想いは定まっていたのかもしれません。

 

 …覚悟します。

 ここから先の訓練はもっと強くなるために。

 ハジメさん達の側にいたいから。

 

 あの人達と一緒に歩けるぐらいに強くなってやるんです!

 

【六日目】

 

 早速私はハジメさん達と共に旅をする為に行動へと移します。

 とはいえ、ハジメさんに馬鹿正直に頼んだところで絶対に断られます。

 案外、純愛な方ですし。

 きっと「俺はユエか香織のどちらかしか選ばない。他の奴らは眼中にない」とか言います。

 …ハジメさんは『据え膳食わぬは男の恥』という言葉を知らないのでしょうか?

 

 というわけで外堀を埋めることにします。

 ハジメさん、身内の方には非常に弱いので!

 

 そんなわけで立香さんやマシュさんの許可を貰いました!

 …でも結局はユエさんの承諾を貰わない限りはハジメさんは首を縦に振らないでしょうね。

 しかしユエさんが素直に頷いてくれるわけがないですし…

 

 そうやって吹き飛ばされてる間にも考えた結果、名案が浮かびました!

 

「ユエさん! 私はハジメさんが好きです! なので賭けをしてください!」

「……ほう」

 

 言って、と先を促すユエさん。

 …なんだか木の枝に座って見下してるのも相まって、覇者といった感じの雰囲気が漂ってるのですが?

 兎も角、続けましょう。

 

「残り五日間でユエさんに一撃を入れます! もしそれができれば私の旅への同行の説得、手伝ってくれませんか!?」

 

 もちろんユエさんにはメリットは無い。

 得られるのは確実に私をハジメさんから遠ざけられること。

 でもこれを断れば、ハジメさんの旅について行くことは実質的に不可能。

 ユエさん的には断る理由しかない。

 

 そのはず、なのですが…

 

「……分かった」

 

 秒で決闘を許可してくださりました。

 …なんでですか?

 自然と口に出したその言葉、しかしユエさんはそれも鼻で笑って、

 

「知らないの? 正妻には誰も勝てないことを?」

 

 …自信満々、とのことです。

 なんて覇王じみたセリフでしょうか。

 一瞬、臆してしまいました。

 でもその目には少し、お母様のような暖かいものがあります。

 ユエさんも少しは私を認めてくださってるのでしょうか?

 

 だとしたら嬉しいですね!

 ユエさんのことも私は大好きですから!

 たとえ厳しくても!

 覇王じみてても!

 今も「ブッコロス」みたいな目で見てきてても!

 

 い・ち・お・う!

 優しい人ですから!

 

 ハジメさんと同じぐらい、同じ所にいたい人ですから!

 

 なお今日から始まった模擬戦では私は大槌を武器に戦ったのですが、結果は惨敗ですぅ。

 傷を付けるどころか近寄ることさえもできませんでした。

 …負けませんよー!!

 

【七日目】

 

 いっぱい、まけた。

 からだ、いたい。

 まほう、ひきょう。

 …グスッ。

 

 というか何ですか!?

 マジで魔法って反則ですぅ!

 近寄る間も無く天地が爆ぜるって!

 炎が、闇が、氷が、風が、岩が、光が、雷が、あらゆる方から容赦なく降り注ぐって!

 

 それでも当初よりも防げてる感はありますね!

 ポジティブに参りましょう!

 明日こそ負けませんよー!!

 

【八日目】

 

 …お胸の事を言ったら、ユエさんが暫く撃沈しました。

 冗談半分の口撃だったのですが…今も三角座りしてるですぅ。

 飴さん用意しても振り向いてさえもくれない…本当にダメージは深かったみたいです。

 この間にも攻撃しようとは思ったのですが、そればかりは女の矜持が許しませんでした!

 

 …なお、立ち直った後のユエさんは凄まじかったです。

 今こそ精神レベルが上がったので、泣き言言いながら土下座することはありませんが…昔なら絶対にカタコトで土下座してたですぅ!

 …絶対に胸のことは禁句、これを心に戒めるようにしました。

 

 それは兎も角、ユエさんって本当にお胸小さいですね!

 そこだけなら圧勝ですぅ!!

 

【九日目】

 

 ナマイキイッテ、スミマセンデシタ。

 

 まさか日記の内容が読まれているとは思いませんでした。

 というかプライバシーは何処へ!?

 …などという疑問は全て、ユエさんの前では無駄なのは分かってます。

 覇王様ですから。

 というか改めてハジメさん達一行に常識人が一人たりともいないことに気がつきました。

 

 魔王様なハジメさん、覇王なユエさん、勝手に動くマフラーさん、筋肉ゴリラの立香さん、ズレてるマシュさん、親子な頼光さん、よく分からない獅子王さん、眼鏡なオスカーさん、ゴーレム且つウザいミレディさん。

 …どうしましょ?

 

 にしてもここで改めて立香さんとの修行が役立ちました!

 地面割って相手の注意を削いだり、大槌を失った際の攻撃としては拳法は凄まじく便利です。

 また大槌でも効率の良い攻撃方法を学べたので、感謝せねばなりません。

 筋トレ大切。

 これからは毎日しましょう。

 

 …立香さん、「ようこそ筋肉の世界へ」的な目線しないでください。

 一緒にしないでください!

 立香さんほどゴリラじゃないですぅー!!

 

【十日目】

 

 ついに最終決戦です。

 それでも急激な覚醒、なんて都合のいい展開はありませんでした。

 魔法とかを殴り飛ばしたり、“聖絶”という防御壁を吹き飛ばしたりするぐらいには成長しましたけど。

 

 でも学んだ全てを生かし、全力全霊でユエさんに攻撃を入れ続けます。

 それでも衰えないユエさんの魔力。

 後に聞いたのですが、日々成長していた私に抜かれないために苦渋の判断の末、ミレディさんに指導を仰いでいたそうです。

 …そりゃあ倒せない訳ですよ。

 

 でも、いよいよその時はやってきました。

 夕暮れ時、もう約束の日が過ぎようとしたその時でした。

 

 私の動きが急に今までと一線を越えるまでに加速したのです。

 自分でも何が起こったのか一切分かりませんでした。

 

 それでも分かりました。

 これが最後のチャンスだと。

 目の前で驚愕に目を剥くユエさんに一撃を入れる時なのだと。

 

 踏み込む足。

 

 爆ぜる地面。

 

 腰を捻って、

 

 槌を握る拳に力を込める。

 

 そして弾丸になる一瞬の間。

 私は叫んだのです。

 

「シャオラァアアアア、ですぅうう!!!」

 

 異常なまでの加速。

 今まで起きたことのない爆発的な速度に、ユエさんは初めて防御の側へと回りました。

 

「ッ! “聖絶”」

 

 何重にも展開される障壁。

 私の槌とユエさんの防御の合間で火花が散る。

 ミシミシと鳴る互いの武器。

 

 やがてそのどちらもが崩壊を迎えました。

 

 木っ端微塵となる槌、ガラスの音を立て壊れる障壁。

 

 ユエさんが魔法を構築し始めました。

 初級魔法でしょうが、このリーチで最速の攻撃であれば有効打です。

 事実今までの私なら、やられていたでしょう。

 

 しかし今は違います。

 

「“炎弾”!」

 

 炎の弾丸が私に向かって打ち出される。

 最速の弾丸は不可避。

 空中で舞い、獲物を失った私など捉えることでしょう。

 

 しかしだからといって、必中でもないのです。

 

 立香さんから教えてもらいました。

 拳法の一種には受け流す技もあるのだと。

 ただただ力任せではない分、習得は難しかったです。

 しかしこの土壇場で、私はそれを掴み取ったのです。

 

 結果、炎の弾丸は私の手で脇にまで流されました。

 素手で逸らされたことに目を剥くユエさん。

 

 それが最大の隙でした。

 

「フッ!」

「ッーー!!?」

 

 空中で回転し、その勢いでユエさんの腹部に蹴りを放ちます。

 魔法で仕留め切るつもりでいたユエさんはその一撃をモロで食らい、壁へと放り出されます。

 

 岩の壁へと衝突し、苦悶の声を上げるユエさん。

 目は明らかに私に「やってくれやがった…」的な目を向けています。

 …絶対に後で痛い目に合うんですね、分かります。

 

 でも私の心はそれを見てようやく分かりました。

 

「…ユエさんを…倒した?」

 

 思わず出てしまった呟き。

 アッと声を上げ、口を閉じる私。

 あのプライド高めのユエさんがこのままで許すはずがありません!

 絶対にこんなこと言ったら報復が…

 

 そうやって来るであろう魔法の雨を恐れていたわけですが、いつまで待っても来る様子は無いです。

 あれ? ユエさん、気絶した?

 恐る恐るユエさんの方に目線を向けます。

 

 ーーやろう、ブッコロしてやる

 

 こんな概念が顕現したかのようなユエさんがそこにはいました。

 目が! 目が! 今までとは桁違いなぐらいに険しいですぅ!!

 

 あー! ツカツカとこっちに!

 ヤバイヤバイ! 死んじゃうですぅーー!

 こっちはさっきの戦いで限界なんですってばぁ〜〜!!

 

 こうやって私はダンゴムシガードで身を固めたのですが、衝撃が来ることはありませんでした。

 代わりに首が暖かい感触で包まれたんです。

 

「……ん。よく頑張りました」

「ユエざん…ぅうう」

「ん。泣くといい。むしろ私との賭けに勝ったなら、感動して貰わないと困る」

「はいぃいいい!!」

 

 一気に心が氾濫を起こしました。

 ここ数日間は本気で地獄と言っても違いないものでした。

 今までは『強くなる』という覚悟があったからこそ我慢できましたが…優しい言葉を掛けられるとついつい泣いてしまいます。

 もう涙は止まりません。

 ついでに鼻水も止まりません。

 ユエさんのお腹にぐりぐり。

 …鼻水まみれになっているのは知らないです。

 

 この後、「よくも私の服を……」と嵐に吹き飛ばされましたが、すぐに回復していただけたので大丈夫です。

 

 そしてついにハジメさんとの交渉です!

 ユエさんも認めてくださりました!

 なら、あとはハジメさんの籠絡のみですぅ!

 

 …あ、そういえばお父様達の訓練をなさっていたんですよね?

 お父様達も強くなったのでしょうか?

 立香さんが指導してたなら…もしかしたら木をパンチで砕くぐらいに成長してたり…。

 

 まあ、流石にそれはないでしょう!

 私があくまでも魔法適正があるだけなので!

 お父様達まではーー

 

 と、ここまで思考してハジメさん達の訓練所へと辿り着いたわけですが。

 そこには私の予想外の光景があったのです。

 木を割っているだけならばどれだけ有り難かったことか。

 今ならそう思います。

 

 何故なら視線の先におられましたのは……

 

「貴様らぁっ! 我らが主であるハジメ様、リッカ様、オスカー様、静謐様をしっかりと崇めんかぁあああ!! 頭を垂れよっ! 不敬であろう! この『ピー』どもがぁ! それでも貴様らは亜人最強と呼び高い虎人族と熊人族かぁあ!?」

「「「「「すんません!!」」」」」

「返事は『Sir、yes、sir!!』だ、この『ピー』な『ピー』共がぁ!!」

「「「「「さ、Sir、yes、sir!」

「声が小さぁあいっ!!」」」」」

「「「「「Sir、yes、sir!!」」」」」

 

 お父様が【フェアベルゲン】において位の高いはずの虎人族と熊人族の皆様を変なテンションで叱咤している様なのですから。

 

「…何これ、ですぅ?」

 

 地獄を潜り抜けた後は…そう、悪魔の始まりなのでした。




ハウリア、結果。
信仰対象が四人に増えた。
何故『静謐様』がおられるのか。
これも次回判明です。
ヒャッハーな彼ら、本格登場です。
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