ありふれた錬成士は最期のマスターと共に 作:見た目は子供、素顔は厨二
ここ最近の連載ペースは遅いと自覚しています。
申し訳ないです。
とはいえ今回は楽しんでいただけるかと!
なお次回で樹海とはおさらば…その予定です!
※立香のメルトやプライドの憑依における女装は辞めさせました。
知らない人は別にいいです。
ーーシアside
目の前の光景は凄まじく『異常』の一言だった。
まずハウリアの様子がおかしい。殆どの者が煤けた黒ローブを被り、その片手にアーティファクトと伺える武器の数々を構えている。何故、亜人族がアーティファクトを扱えるのかはさて置く。というか、犯人ならば奉られている人間の所為だと十中八九断言できるので、敢えて無視する。
問題はハウリアが制圧している亜人達、そしてハウリアがハジメ、立香、オスカー、そして謎の褐色の少女にやたら熱っぽい視線を向けている事だ。ただし恋愛とかそんなんじゃない。もっと神聖化された、何かである。
なお向けられている側の大半は膝を折り、四つん這いで唸っている。唯一生き残っているのは、褐色の少女である。立香の看病を行なっている。
そしてそんな混沌極めた場所で、ハウリアの族長、カムが叫んだ。
「さあ! 祈りを捧げよ! 我らが主に永遠なる忠誠を!」
「「「「「永遠なる忠誠を!」」」」」
三人が若干、ビクッとした。どの三人かは敢えて言わない。というか言わなくても分かるのは道理であろう。
「破壊と創造の化身! 我らが
「グハッ!」
ハジメが吐血した。胸をギリギリと押さえつけ、四肢で支えていた体を地面に投げ出した。奈落で鍛え上げられた精神力がハジメを苦しみから逃さない。心の底に封印した何かが「呼んだ?」とひょこっと現れる。それにまたクリティカルヒットを食らう。
「百の顔を持つ英傑! 我らが
「ッ!!?」
立香が体をくの字に曲げ、吹き飛んだ。落ちてきた立香の体からは力が抜けていた。静謐は速攻で駆け寄るものの、立香の脈がない模様。静謐の体から霊子が漏れ始める。マスターである立香の気絶状態によるものか。
「叡智の象徴! 伝説の邪の権化! 我らが
「ぁっ…」
オスカーが力無くその場に倒れこんだ。眼鏡にピシッとヒビが入る。ついでにオスカーの体から段々と魔力の総量が減少していく。霊基のピンチが到来したらしい。マスターたるハジメもアウトなので、ガチで座に帰りそうである。
「毒の蝶! 夜闇の影に紛れし御方! 我らが
「あ、ありがとうございま…す?」
静謐、思わず言葉に詰まる。中々ここまで人に尊敬の意を受けることはあまりないので、ビビっている。ハサン時代でもここまでは…といった様子である。少しだけ後退している。
こんなカオスな状況。シアどころか、集まっていた他の一行も例外なく固まっていた。ユエの珍しい驚愕シーンも目撃された。
「何故、静謐さんが!?」
「馬鹿な! まだ静謐さんのシフトでは無かったはずでは!?」
「…マスターが逢引?」
「…ふふ。それでは、マスターに天誅を下しましょう」
もっとも、立香ブライズの方々は別ベクトルに、驚愕していたようだが。獅子王の推測に、頼光が殺意を解放した。紫電が散り、刃を抜く。勿論、獅子王もスタンバイ。マシュは追求に乗り出すことを決定した。
「オーくんが弱ってる…チャンス! 今こそオーくんに悪戯する時ぃ〜! フハハハハ!」
高笑いをしながら、オスカーへと爆走するのはゴーレムなミレディさんである。ゴーレムだというのに、跳ねる感情がダダ漏れである。…黙祷。
取り敢えず、この後色々追求されるであろう立香と霊基消滅寸前のオスカーは放っておき、子鹿の如くプルプルと四つん這いになって立とうとしているハジメをユエと共に回復させにかかる。主に精神的な、というか精神面だけを。
「ハジメさん! 無事ですか!?」
「……元気出して?」
「(ナデナデ)」
マフラーも合わさって、三人で背中とか頭とかをナデナデ。三人合わさってイチャコラしているように見える。もしオスカーが見ていれば、親指を下に落としたことだろう。
「アアア…ヤメロォオオオオオ!! シズマレ! オレェエエ!!」
しかしハジメには別効果のようだ。胸を押さえ、過去の忌々しき黒い歴史を鎮めにかかる。若干吐血しちゃってるのもハジメクオリティー。仕方ないもの、厨二ダメージがヤバイんだもの。
話が非常に進まない。信者なハウリアども。発狂する男ども。状況を飲み込めない静謐。立香を説教するブライズ。オスカーをおちょくるミレディさん。
正気なのはユエとシア(あとマフラー)だけ。
「ここに誰か状況説明を出来る人はいないですか!?」
「……ん! そこの虎! 何が起こってる!?」
ユエがハウリア周辺で土下座している虎人族を素早く捉える。逃げる暇もない。虎人族の男は、一瞬の間、呆然としていたがすぐにユエ達説明をし始めた。決してユエとマフラーがス○ンドを出していたからではない。八又の龍とか般若とかそういうのが現れた訳ではないのだ。ないったらない。
元々、虎人族と熊人族は『解放者』に対して、そこまで良い印象を持っていなかったらしい。虎人族と熊人族は【フェアベルゲン】の主な警備を務めているため、人による被害に遭う機会が多く、他の亜人族よりも数倍も人への恨みを抱いている。
だからこそ、高待遇を受けているオスカー達が気に入らなかったとのこと。だが、相手は『解放者』の試練を乗り越えた者達。見るだけで戦力差は理解できた。そんな相手に真正面から向き合う覚悟は無い。
そこで思い出したのが、彼らに懇意にされているハウリア族だ。彼らを懲らしめ、オスカー達へ晒せば少しは溜飲が下がるだろうと。
勿論、【フェアベルゲン】はそんなことは許さない。オスカーが保護を命じたのだ。それに刃向かう者などいないし、いたとすればその者達を全力で引き止めることは間違いない。
故に二つの種族は【フェアベルゲン】に悟られぬように九日間、入念に準備をし、本日ついにハウリア族を襲撃しようとーーしたのだが。
「だが…奴らは可笑しかった! 我々がハウリアを襲おうと動くよりも先に、我々の動きを全て読んでいたのだ! 一度、奴らは我々に「刃向かうならば、容赦はしない。最終勧告だ」と言った。…今思えば、アレは奴らなりの交渉だったのだろう。我々は弱者の最期の遠吠えだと思い、鼻で笑った。悔やまれる判断だった。そこから先は…地獄だった。いきなり死角から現れては、脚をへし折られ、関節を外され、脚の腱が切られた。更には、素手の真っ向勝負で我々を潰している者もいた。…恐ろしい豹変ぶりだった。奴ら全員は冷酷な顔だったのだ。喜びも悲しみも何も無い。能面のような…。無感情で殴ったり、蹴ったり、切り刻んで来るのだ。血がプシャーってなっても延々と攻撃して来るのだ! …そして我々は見事、敗北したのだ。死者がいないのが幸いだが…何があったというのだ!?」
虎人族の男はそこまで言い終える頃には、顔を青へと変色させていた。吐き気も催しているらしく、喉を締めて、なんとか堪えている。気が狂っている、とも言えるだろう。
ここまで来ればシア達も危機を覚える。先程までも十分にハウリアの豹変ぶりに驚いてはいたが、今はそうではない。ユエとシアの胸中は一致した。
ーーハジメ(さん)、何やってんの!? 何やってんの!?
なおその犯人達は、気絶してたり、発狂してたり、説教されたりしている。可哀想ではあるが、因果応報である。
ハウリア達も発狂メンツであり、ガチの方で説明が欲しい。
これじゃ情報足りないもの!
仕方な〜く、ユエさん溜息。そこでユエ的には取りたくなかったらしい方法を取るようだ。
「……香織、ハジメ達は何をやってた?」
「(ビュンビン! シュシュッヒュッ!)」
「……なるほど、ハジメは戦闘向きじゃないハウリア達の精神をぶっ壊し、立香は鬼的な筋トレを行い、オスカーは敵の心をへし折る方法、あの褐色の女がナイフや気配の扱いを教えた。その過程でハウリア達が四人に異常なまでの信仰心を持ち、ハジメ達的には嫌な感じのセリフを散々言われてああなった、ということか」
「(コクコク)」
「ユエさん!? 何で分かるんですぅ!?」
分かるもの、マフラーだもの。
むしろ「お前は何を言っているんだ?」的な目をシアが向けられる。誠に遺憾である。マフラー語が分からない方が普通の筈なのに…。
そこで儀式を終えたらしいハウリア総員がシア達に気がついたようで、素早く動作で近づいて来る。それはもう黒き冒涜的なあのカサカサした何かぐらい速く。
思わず「ヒィッ!?」って己の家族達に言わなかったのは、シアのガッツが成せた技である。
兎も角、ハウリア達は跪く。先程までの狂気的なものは無い。あくまでもアレは四人限定らしい。それでも十分にヤバイのはヤバイのだが。
「我らハウリア、奥方様が為に推参いたしました。どうか御命令を」
「……取り敢えず、今のハウリアのモットーを教えて?」
「ハッハッハッ。簡単ですな。何故ならばハジメ様、立香様、オスカー様、静謐様により、真理を掴んだのですから」
「…真理、ですか? お父様?」
「お前もすぐに分かるぞ、シア」
先程までに経過は聞いた。ならば結果を今度は聞き出したい。
訝しむシアを他所に、そんなユエさんの冷静な考え。既に嫌な予感もするが、気にしてはならない。
ハウリア達はいい笑顔でシンクロしながら言ってみせた。
「「「「「一に交渉! 二に脅迫! 三、四で暴力! 五にまた脅迫! ついでに六で拷問!」」」」」
「お父様ぁ!? 物騒すぎません!?本気でハジメさん達は何をやったんですぅ!?」
一応、話し合いが頭の内にあるのは善良的とは言えるが…そこから先が酷すぎる。ついでに脅迫と拷問の項目は絶対に眼鏡な悪魔の所為である。下町育ちで割と粗野なオスカーさんは人を痛めつけることに躊躇いがない。
もうシアが我慢できねぇ! とばかりにツッコミを放つ。しかし先天的なハウリアの能天気さがシアのツッコミなど意に返さない!
「いずれお前も分かる時が来るさ、シア」
「分からない方がいいですぅ!」
「そうよ、シア。筋肉は裏切らないわ」
「立香さんですね! 立香さんの影響ですよね!? 絶対にそうですよね!?」
「ほら、シア。ジュリアもこう言ってるだろ?」
「落ち着いてください、ヨルさん。それナイフです。まさかナイフに名前つけてるわけじゃ無いですよね? ね?」
「テキ、オデコロス。カゾクキズツケルヤツ、ユルサナイ」
「片言過ぎますよ!? 皆さん正気を取り戻してくださ〜〜い!」
全員、こんな感じである。普通な奴がいない。シア的な希望がどんどん消えていく。
小さな影の方は咄嗟にバランスをとったのか転倒せずに持ちこたえ、倒れたシアに手を差し出した。
「あっ、ありがとうございます」
「いや、気にしないでくれ、シアの姐御。男として当然のことをしたまでさ」
「あ、姐御?」
霧の奥から現れたのは未だ子供と言っていいハウリア族の少年だった。その肩には大型のクロスボウーー恐らくはアーティファクトーーが担がれており、腰には二本のナイフとスリングショットらしきこれまたアーティファクトらしき武器が装着されている。随分ニヒルな笑みを見せる少年だった。シアは、未だかつて“姉御”などという呼ばれ方はしたことがない上、目の前の少年は確か自分のことを“シアお姉ちゃん”と呼んでいたことから戸惑いの表情を浮かべる。
そして名前は確かパル君だった少年は、未だに狂気しているハウリア達にこれまたニヒルな笑みを浮かべて告げた。
「家族の野郎ども、いい話持ってきたぜ? 【フェアベルゲン】の野郎どもと交渉の結果、樹海付近は俺たちのものとなった。ついでに他の兎人族の指導も任された。…まっ、結果は上々。ボス達の為の兵士も更に増強できるってもんだね」
「流石は『必滅のバルトフェルド』、といった所か…しかし…フッ、言うようになったものだな」
「いや、かの『深淵蠢動の闇狩鬼、カームバンティス・エルファライト・ローデリア・ハウリア』に比べちゃあまだまだだね。精進すしていくに限る」
「誰!? パル君もお父様も凄い名前になってるんですが!? ラナさん! この人達に突っ込んでください! 私だけじゃあ足りません!」
口調も内容も非常に気になる。気になる所だが、今一番気にすべきは改名されすぎぃ〜、な名前達である。原型もクソもなく、スンゴイことになっている。
ツッコミの嵐な現状。ハウリア内でお姉さんしていたラナに助けを求める。少しはツッコミを休みたいシアだから。
しかし終わらない。終わるわけが…ないっ!
「……シア。ラナじゃないわ……『疾影のラナインフェリナ』よ」
「!? ラナさん!? 何を言って……」
予想の斜め上を行くまさかの返し、シアが頬を引き攣らせる。しかし、ハウリアの猛攻は止まらない。連携による怒涛の攻撃こそが彼等の強みなのだ。
「私は、『空裂のミナステリア』!」
「!?」
「俺は、『幻武のヤオゼリアス』!」
「!?」
「僕は、『這斬のヨルガンダル』!」
「!?」
「ふっ、『霧雨のリキッドブレイク”』だ」
「!?」
全員が凄まじいドヤ顔でそれぞれジョ○的な香ばしいポーズを取りながら、二つ名を名乗った。シアの表情が絶望に染まる。どうやら、ハウリアの中では二つ名(厨二)ブームが来ているらしい。この分だと、一族全員が二つ名を持っている可能性が高い。ちなみに、彼等の正式名は、頭の二文字だけだ。
久しぶりに再会した家族が、ドヤ顔でポーズを決めながら二つ名を名乗ってきましたという状況に、口からエクトプラズムを吐き出しているシアの姿は実に哀れだった。
ついでに外野のユエはしっかりと理解した。何故、ハジメ達が発狂したりしているのかを。恐らくはシアと同様に怒涛の攻撃で傷口をグチャグチャに抉られたに違いない。精神ガードMAX値の立香までこれなのも、日頃全く持って受けていないダメージだからだろう。
そんなこんなであらゆる方面でダメージ甚大な今回。
なおその後、ハジメ達が復活した途端にハウリア全員に八つ当たりをかましたことは言うまでも無い。
結局シアの本題に移るのはもう少し後の話となった。
え? ここで厨二病が発生してるハウリアがどうなるって?
当然彼らはまだ研鑽の途中。
つまりはまだまだ悪化します。