ありふれた錬成士は最期のマスターと共に   作:見た目は子供、素顔は厨二

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ミレディのセリフって割とムズイ…。

あとありふれた日常が…香織、調理されたのか否か。
そして美味しかったのか。
そこだけが問題だ。(そこか?)

あと久々に一万字突破。
当然その分、コピペも多いわけで…


ミレディ・ライセンェ 〜オルタを添えて〜(後編)

 ──立香side

 

 あの後も、立香達は迷宮の探索を続けた。案の定、ウザい物理トラップの数々とウザい文章の絶妙なコンビネーションは続いた。

 

 例えば罠の無かった廊下から大きな立方体の部屋に出た途端のこと。全方向から未知の溶解液がウォーターレーザーとも言える速さでハジメ達を襲ったのだ。

 

 ユエの“聖絶”とマシュの防御壁の展開が間に合わなければ死に掛けていたことだろう。

 

 そしてやはり恒例のリン鉱石の光が現れて…

 

 “探索してて汗かいたでしょ〜?”

 “それ浴びて、爽快になろうぜ!”

 “この世に生きるというしがらみから、さ?”

 

 謎にポエム口調な石板が立香達の目に飛び込んできた。

 

「「「「「「………」」」」」」

「これは間違いなくミレディ・オルタだよね」

『ああ。やはり字面だけだね。棒読み感が出ている』

 

 また天井ごと落としてくるという段違いの罠も発生した。シア、獅子王、頼光達による圧倒的粉砕が無ければ、今頃地中で永眠である。

 

 “慌てた? 慌てた?”

 “あんなしょっぼい小手先の罠で?”

 “ま、君たちは所詮そんなもんさ”

 “精進し給えよ”

 “身も心も”

 

 そして脱出した先の部屋の、やけに上から目線の石板メッセージが、天井落としから免れた彼らの視線に入った。

 

「「「「「「………」」」」」」

「…うっぜ。これ、ミレディだよね」

『ああ。流石はミレディ。格が違う』

 

 更にはシア、マシュ、頼光、獅子王の四名にのみ作動する罠が幾重にも、結構な頻度で仕掛けられており、その度に…

 

 “失せろ、贅肉共”

 “もげろ、豚肉共”

 “千切れろ、デブ”

 “爆ぜろ、肉の塊”

 “潰れてミンチになれ”

 “脂肪焼却希望”

 “削れて、痩せろ”

 “溶け──

 

 などなど、明確にとある部位に関しての殺意が込められた文章の数々が待ち受けていた。

 

 従来のウザ文章と違い、これの問題点はチームプレーが円滑に進まなくなる可能性が出てくる事である。主に若干三名との連携が。

 

「……チッ」

「(ジャキン)」

『ミレディちゃんだって…ブツブツ』

 

 そう、誰とは言わないが若干三名との連携が非常に不安となる。この三名的には普通の罠よりも心砕かれる台詞なのかもしれない。仲間割れの可能性すらも有り得ている。もしくはそれを誘導しているのか…。

 

 そして更にこの三名に追撃とばかりに、こんな文章も添えられていた。

 

 “この罠は男には掛かりません”

 “え? 女子もいる?”

 “ごめんね〜、これサイズで測ってるから〜”

 “何処が? とはあえて言わないけど!”

 

 という血痕の付いた石板が。…きっとこの血は書いているものがブーメランにより受けたダメージによるものだろう。…ゴーレムだったはずなのに。

 

 だが、たしかにその代償を払った甲斐はあったようだ。

 

「……ぐすっ」

「(…しおお)」

『ミレディちゃんは疲れたよ…真っ白に、ね』

「落ち着け、ユエ! 白崎! 傷は浅いぞ!」

『ミレディもだ! 胸の問題など今更だろう! メイルとか! リューティリスとか! あと大体君の自業自得だ!』

 

 少なからず特定の三名の心臓を深く抉っていた。

 

 その後も、とりもちの落下やとあるGが詰まりに詰まった落とし穴、毒の激流が部屋を満たしてくるなどという罠が続き、ウザい文章が量産され、ハジメ達は言わずもがな立香にもストレスは蓄積されていった。

 

 更に言えばハジメの場合は“解析”を常時展開しているため、魔力と同時に集中力も削がれる上に、壁の奥にあるウザ文章により精神力も人一倍削られていっている。ハジメのストレスはマッハに達しようとしていた。

 

 それでも何とか耐え切り、現在一行はこの迷宮に入って一番大きな通路に出た。幅は六、七メートルといったところだろう。結構急なスロープ状の通路で緩やかに右に曲がっている。おそらく螺旋状に下っていく通路なのだろう。

 

 立香達は警戒する。こんな如何にもな通路で何のトラップも作動しないなど有り得ない。

 

「あー、そろそろだ。来るぞ」

 

 そして、その考えは正しかった。ハジメの声と共に、もう嫌というほど聞いてきた「ガコンッ!」という何かが作動する音が響く。既に、スイッチを押そうが押すまいが関係なく発動していることはハジメにより証明されている。なら、スイッチなんか作ってんじゃねぇよ! と盛大にツッコミたい一行だったが、きっとそんな思いもミレディを喜ばせるだけなので、グッと堪える。全ての制裁はクリア後に行うことなのだから。

 

 今度はどんなトラップなんだろうか? と周囲を警戒する立香達の耳にそれは聞こえてきた。

 

 ──ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 

 明らかに何か重たいものが転がってくる音である。

 

「「「「「「「……」」」」」」」

 

 一行全員が無言で顔を見合わせ、同時に頭上を見上げた。スロープの上方はカーブになっているため見えない。異音は次第に大きくなり、そして…カーブの奥から通路と同じ大きさの巨大な大岩が転がって来た。岩で出来た大玉である。全くもって定番のトラップだ。きっと、必死に逃げた先には、またあのウザイ文があるに違いない。

 

 だがここで立香は違和感を覚えた。何故ならば転がってくるのは、本当にただの岩であり、魔法が使える一行ならば対処は可能だ。その上ステータスさえあれば、腕力でも制圧は可能。

 

 しかも立香が見るからにこの罠はミレディ謹製。そしてあのウザ特級の彼女がこんなお粗末な物を仕上がるはずがない。

 

 故に立香の警鐘が派手に音を立てている。

 

 しかしハジメは過度の疲労からか、そのような状況判断がまともに効いていない。ヘルメスに“強化”の魔力光が宿ると同時に、ハジメの脚自体にも赤黒い血管が纏わりつく。“身体変形”による強化、それを行なっているのだろう。

 

「ハジメ! 罠だ! 相手の思うツボだぞ!」

 

 立香が思わず叫び、引き留めようとするが、ハジメは獰猛な笑みを口元に浮かべ、吠えた。

 

「いつもいつも、やられっぱなしじゃあなぁ! 性に合わねぇんだよぉ!」

 

 ハジメの怒りに呼応してか、真紅の魔力光は一層際立って光を放った。

 

 そして…

 

「ラァアアア!!」

 

 ハジメが裂帛の気合と共に蹴りを放った。一瞬の合間、岩と脚が拮抗したものの、そのような拮抗は瞬時に崩れた。そして、大玉は轟音を響かせながら木っ端微塵に砕け散った。

 

 ハジメは、片脚を上げた状態で残心し、やがてフッと気を抜くと体勢を立て直した。魔力光も失せて、赤黒い血管も脈動しなくなった。

 

 その顔は実に清々しいものだった。「やってやったぜ!」という気持ちが如実に表情に表れている。ハジメ自身も相当、感知できない上に作動させなくても作動するトラップとその後のウザイ文にストレスが溜まっていたようだ。

 

 立香は冷や汗を流す中、満足気な表情で戻って来たハジメを一行がはしゃいだ様子で迎えた。

 

「ハジメさ~ん! 誰にも出来ないこと、やりますねぇ! 痺れますぅ! 憧れますぅ!」

「……ん、すっきり」

「ナイスキックでした、南雲さん!」

「ふふっ、お見事です」

「素晴らしい腕前だ。賞賛を送ろう」

「ははは、そうだろう、そうだろう。これでゆっくりこの道……」

 

 数多くの称賛に気分よく答えるハジメ。しかし、その言葉は途中で遮られた。

 

 ──ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 

「「「「「「……」」」」」」

「…ほれ、見たことか」

 

 聞き覚えのある音に止まる一行。立香だけは頭に手を添え、溜息を吐いている。現実を静観する立香な目にはしっかりと映っていた。

 

 ──黒光りする金属製の大玉が。

 

「うそん」

 

 油を注し忘れたように首を動かしていたハジメが思わずそう呟いた。

 

「先輩…まさかこれを予見しておられたのですか?」

「ミレディお手製ならあんなもんじゃ済まない。それは自明の理だ!」

「マスターは何の専門家なのだ!? そしてあの大玉、何やら液体を散らしてはおらんか!?」

「…地面が溶けておりますね」

 

 そう、こともあろうに金属製の大玉は表面に空いた無数の小さな穴から液体を撒き散らしながら迫ってきており、その液体が付着した場所がシュワーという実にヤバイ音を響かせながら溶けているようなのである。

 

「くっ! まだだ! あれごときの玉ならシュラーゲンで──」

 

 しかしハジメ的には譲れないプライドがあるらしく、宝物庫から切り札の一つである対物ライフルを取り出し、“強化”の光を纏わせる。しかし、そこでまたもや静止した。原因はただ一つ…

 

 ──ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 ──ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 ──ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 ──ゴロゴロ…

 

 更に上のスロープから響く幾重にも重なる何かが転がってくる音である。その正体が何か、など言わずもがなだろう。

 

 流石のハジメも完全静止した。シュラーゲンから真紅の光が空中に粒子となって散る。ついでにシュラーゲンも宝物庫に仕舞われる。ハジメの中でも何か折れるものがあったらしい。

 

「……」

「おい、ハジメ…」

『ぶわっははは! ドンマイ、ハッちん! 一生懸命の抗いご苦労様だね〜、全部水の泡だけど。ププー!』

「ミレディいいいい!! ハジメにこれ以上追撃するな! 死ぬぞ!?」

 

 拳を震わせ、屈辱に歯噛みするハジメ。それは一行全員が同情できる心理である。全員が聞こえる規模の“念話”で笑っているミレディの声が非常に腹立たしい。

 

 ハジメは青筋をいくつもビキビキと額に浮き立たせる。身から溢れる殺気ばりの怒り。頰に魔術回路と赤黒い血管が混じり合い、浮かび出す。

 

 そうして高められた純粋な力。されど、ハジメは凄まじき忍耐力でそれを抑え…踵を返した。

 

「ハジメっ…」

「心配をかけて悪かったな、立香」

 

 立香はハジメが冷静を取り戻したことに安堵する。そして二人で不敵に笑い…

 

「じゃあ…逃げるぞ! チクショウ!」

「ミレディ! テメェ、覚えとけ!」

「クリアしたら絶対潰してやるですぅ!!」

「ん! ヤル時は当然手伝う!」

「私、マシュ・キリエライトも霊基に誓ってお手伝いいたします!」

「私も聖槍に誓おう!」

「これ以上風紀を乱させるわけには行きませんからね!」

 

 逃亡を開始した。当然、捨てゼリフはオプションである。

 

 なお彼らが逃げ延びた先にあったのは、溶解性のプールと一つの石板。溶解性のプールに関しては、頼光の雷が余すことなく焼き払ったが、問題は石板。

 

 “おめおめと逃げてきた感想プリーズ!”

 “あ、ちなみに玉は幾らでもお代わり御自由です”

 “好きなだけどうぞ!”

 “…ま、所詮全部割っても、その先は入り口です!”

 “もし岩割って、満足してた奴がいたら…オッツー!”

 “君の無駄な努力、このミレディちゃんが嘲笑ってやるぜい!”

 

「「「「「「「………」」」」」」」

 

 ついに立香さえも言葉を失った。もう、推理をする気にさえもならない。というか、これほどのウザさであればミレディで間違い無いのだが。

 

 立香は何とかトリップから逸早く離脱。頭を振って、「気にしたら負けだ…」と呟く。隣を見るとハジメの傷心具合が酷く、瞳から流れるものがあった。

 

 これからの進路について検討する。これだけウザ言葉を受けてもなお判断能力を残す立香が凄いのか、それともここまで立香を追い詰めているミレディが凄いのか。それは超次元過ぎて、誰にも分からない。

 

 立香の目先に映るのは今までとは比べ物にならない程に豪奢な廊下。そしてその奥にある一つの部屋だ。

 

 目の“強化”で覗くと、部屋は長方形型の奥行きがある大きな部屋だと分かった。壁の両サイドには無数の窪みがあり騎士甲冑を纏い大剣と盾を装備した身長二メートルほどの像が並び立っている。部屋の一番奥には大きな階段があり、その先には祭壇のような場所と奥の壁に荘厳な扉があった。祭壇の上には菱形の黄色い水晶のようなものが設置されている。

 

「…随分、如何にもな部屋だよな〜」

 

 両サイドに並ぶ騎士甲冑に視線を向けながら、立香はそんな事を呟いた。何たって、廊下の甲冑が動き出すなんて展開、立香的には良くある事なのだから!

 

 同時に扉の方にも目が行く。豪奢な扉である事から脳裏に浮かぶのは、解放者の隠れ家。つまりはゴール地点という事。

 

 まだオルタが姿さえも現していないことから、それは無いとは思うのだが、それでも「中ボス辺りには行ったかな…」とは思う。そうとでも思わねば、立香的にはやってられない。

 

 一人で進む訳にもいかないので、フリーズしているハジメ達を叩き起こす。…なおハジメにだけはジャベ(ルチャリブレでの絞め技)を行い、何やかんやして、漸く突入することにした。

 

 した、ところで…

 

「暫し待たれよ」

 

 ハジメがそんな事を言うと、一人でツカツカと部屋へと向かった。そして案の定、「ガコンッ!」とお馴染みの音が聞こえると、部屋の騎士像達が全員蠢き始め、侵入者であるハジメを襲おうと動き始めた。

 

 ゴーレムの数は多く、少なく見積もっても五十。されどハジメは驚いた様子もなく、歩き続ける。

 

「ハジメさん!?」

「シア……動かない方がいい」

「ユエさん! でもハジメさんが──」

 

 シ一人で進むハジメを止めに入ろうとするシア。しかしユエが氷の魔法でシアの足を止める。

 

 突然の妨害にシアは狼狽えるものの、足の氷の膜を剥がし、無理矢理前に進む。そしてユエの妨害も退け、ハジメの入っていった部屋に差しかかろうとして──

 

 ──ズガァアアアアアン!!

 

 ハジメが入っていった部屋から、爆裂が巻き起こり、巻き起こる炎が迷宮の壁ごと蹂躙した。

 

「ウサミミが〜! 私のウサミミが〜!!」

「……だから警告したのに」

「…何て言いました?」

「……本当に残念ウサギ」

 

 突然の爆音を間近で喰らったシアが地面を転げ回る。一方のユエもシアの残念さに呆れつつも、唯一のダメージ箇所である耳に黄金の癒しの光を灯した。

 

 なおこの間、ユエの太ももにシアの頭が乗っかっていると言う状況である。口では嫌と言いつつも、なんだかんだでユエはシアを気に入っているようだ。何処と無く、一行からストレスによる苛立った気配が消え、ほっこりとした感じになる。

 

「おーい! こっちのゴーレム一通り破壊したぞ。早くこっち来い」

「シアさん、只今ダメージ喰らってるんだけど? お前のせいで?」

「んなもん知らん」

 

 爆撃の原因たるハジメは床に移った炎の壁の向こうから、しれっと破壊行動を詫びることも無く現れる。手にはいくつか手榴弾があり、それがこの光景の原因である事を思い知らされる。

 

「…で? お前は今度は何をやらかした?」

「何、単純だ。手榴弾全部に爆発系魔法を付与した上で、“強化”で爆発力を増させてゴーレム全機にぶつけた。更に散らばった破片を“壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)”した。土塊ごときに耐えられるはずもないので、安心安全だ。何ら問題はない」

「…シアさん、ダメージ喰らってるけど?」

「戦場で犠牲は付き物って言うだろ?」

「それは決して、仲間の攻撃で犠牲を出していいって意味では無いんだけど?」

「気にしては負けだ」

 

 ハジメさんはシアから目を背け続ける。ある種、シアも軽率に飛び出したのも悪いとは言えなくは無いが、巻き込み事故で一切悪びれ無しなのも、立香的にはアウトである。

 

 それには流石にユエやマフラー、そしてこの迷宮に入って以降ずっと人でなし扱いされているミレディさえもハジメにジト目を向けた。

 

 ハジメはそんな棘山のような視線の数々が鬱陶しかったのか、苦しかったのか。兎も角、シアの方に歩み寄って、ちょっとだけ撫でてやる。

 

「あ〜、癒されますぅ〜」

「…単純な奴だな」

 

 そうやって場に再度、微笑ましい感じの空気が流れ始めると、向こう側の扉が開いた。どうやらゴーレムを破壊した事が、認められたらしい。

 

『あれ? この部屋のゴーレムって再生機能付で、扉の封印を開けない限りクリア不可能なはずなのに…何で?』

 

 何と性の悪い事か。一応、『ゴーレム全部倒せばオッケー!』的な条件を付けつつも、それを不可能な状況にしていたらしい。ミレディのウザさは留まるところを知らない。

 

 それは兎も角、ハジメは種明かしを始める。

 

「その再生する鉱石を頂戴した。単純な話だ」

『…それ、修繕に必要だから後で返してね』

「…まあ、構造さえ分かれば“投影”出来るし、別にいいが」

 

 ハジメさんも“錬成”という、抜け技を使ってクリアしたらしい。卑怯な罠には裏技で。そんなハジメのスタンスがありありと見えるやり方だ。

 

「ま、とりあえず中ボスクリアか?」

「だな! よしっ! あの扉の奥へGO!」

「ですね! 先輩!」

「ん!」

「ひゃっふー! ですぅ!」

「一番乗りは私です!」

「母も負けませんよ!」

『『………』』

 

 だがハジメのお陰で大したストレスも無く、進む事が出来たのは有り難いとしか思えない。

 

 その為、全員揚々と階段を駆け上がっていく。やけにオスカーとミレディが静かな事はここでは誰も気にすることが無かった。

 

 部屋の中は、遠目に確認した通り何もない四角い部屋だった。てっきり、ミレディ・ライセンの部屋とまではいかなくとも、何かしらの手掛かりがあるのでは? と考えていたので少し拍子抜けする。

 

「これは、あれか? これみよがしに封印しておいて、実は何もありませんでしたっていうオチか? そういう系統なのか? ミレディ…」

「……ありえる」

「うぅ、ミレディめぇ。何処までもバカにしてぇ!」

「…本気でハジメさん。そろそろミレディさんを出してもらえないでしょうか? 一度お話がしたいのですが…」

「私も、マシュに賛成だ」

「母もです」

 

 一行が、一番あり得る可能性にガックリし、立香が「まさかっ」と何か真実に辿り着きそうになった瞬間だった。突如、もううんざりする程聞いているあの音が響き渡ったのは。

 

 ──ガコン!

 

「「「!?」」」

 

 仕掛けが作動する音と共に部屋全体がガタンッと揺れ動いた。そして、立香達の体に横向きのGがかかる。

 

「っ!? 何だ!? この部屋自体が移動してるのか!?」

「……そうみたッ!?」

「うきゃ!?」

 

 ハジメが推測を口にすると同時に、今度は真上からGがかる。急激な変化に、ユエが舌を噛んだのか涙目で口を抑えてぷるぷるしている。シアは、転倒してカエルのようなポーズで這いつくばっている。

 

「…まさか、本当に? …ミレディならやりかねないんだけど」

「先輩! これは一体!?」

「予想が付いているのか!? マスター!!」

「何やら嫌な予感が致しますが…」

 

 一方で立香達の方は長年のコンビネーションより、立香を中心として固まり、その立香はアイゼンを床に刺した上で、その自慢の筋肉で完全に静止していた。こんな事、レオニダストレーニングを受けていたら当たり前である。体幹はすんごいのだ。

 

 部屋は、その後も何度か方向を変えて移動しているようで、約四十秒程してから慣性の法則を完全に無視するようにピタリと止まった。立香やハジメは途中からスパイクを地面に立てて体を固定していたので急停止による衝撃にも耐えたが、シアは耐えられずゴロゴロと転がり部屋の壁に後頭部を強打した。方向転換する度に、あっちへゴロゴロ、そっちへゴロゴロと悲鳴を上げながら転がり続けていたので顔色が悪い。相当酔ったようだ。後頭部の激痛と酔いで完全にダウンしている。ちなみに、ユエは、最初の方でハジメの体に抱きついていたので問題ないし、前述の通り、マシュ達にも何ら問題はない。問題はシアだけである。

 

「ふぅ~、漸く止まったか…ユエ、大丈夫か?」

「……ん、平気」

「立香は?」

「無事だぞ。マシュ達も無事」

 

 立香とハジメは各々の武装を解除して立ち上がった。周囲を観察するが特に変化はない。先ほどの移動を考えると、入ってきた時の扉を開ければ別の場所ということだろう。

 

「ハ、ハジメさん。私に掛ける言葉はないので?」

 

 青い顔で口元を抑えているシアが、ジト目でハジメを見る。ユエだけに声を掛けたのがお気に召さなかったらしい。

 

「いや、今のお前に声かけたら弾みでリバースしそうだしな……ゲロ吐きウサギという新たな称号はいらないだろ?」

「当たり前です! それでも、声をかけて欲しいというのが乙女ごこっうっぷ」

「ほれみろ、いいから少し休んでろ」

「うぅ。うっぷ」

 

 今にも吐きそうな様子で四つん這い状態のシアを放置して、ハジメは周囲を確認していく。ユエとマシュと頼光は何だかんだと看病に取り掛かった。流石にこれ以上、精神衛生を悪くしたく無い、という面もあるだろうが。

 

 ハジメが確認するからに、やっぱり何もないようだ。なので扉へと向かうこととしたようだ。立香もケロッとシアを無視している。筋肉あれば大丈夫! というレオニダスブートキャンプの欠点による思考である。是非とも立香には元の優しい性格を取り戻してほしいものだ。

 

「さて、何が出るかな?」

「オルタか?」

「そうであって欲しいけどな。…ま、まだ無いだろ。石板が出てきて嫌がらせしてくるのがオチじゃねぇか?」

「ま、何が出てきても俺らなら大丈夫だろ」

「だな」

 

 いつも通り、立香とハジメが不敵な笑みで笑い合う。どちらとも弩級の信頼が相手に注がれている。そして扉に手を掛けようとした、その時。

 

「…前から言おうと思っていたのですが、唐突に男子同士の癖に二人の世界作るのやめてもらえませんか? 何ていうか、私だけが誰とも二人っきりの世界を作れない現在の状況に疎外感が半端ない上に物凄く寂しい気持ちになるんです、うっぷ。勿論、ハジメさんと作りたいのですが、おえっぷ」

 

 吐き気を堪えながら、仲間はずれは嫌! と四つん這いのまま這いずってくるシア。そのシアを抑える形で付いている女性陣も少し、批判がましそうな目で二人を見る。

 

 また薔薇と怪しまれているのか…と立香の顔が引き攣るが、ハジメは咳払いをするとシアに話し始める。

 

「…前から言おうと思っていたんだが、時々出る、お前のそのホラーチックな動きやめてもらえないか? 何ていうか、背筋が寒くなる上に夢に出てきそうなんだ」

「な、何たる言い様。少しでも傍に行きたいという乙女心を何だと、うぷ。私もユエさんみたいにナデナデされたいですぅ。立香さんみたいに長年連れ添った相棒感出したいですぅ。抱きしめてナデナデして下さい! うぇ、うっぷ」

「今にも吐きそうな顔で、そんなこと言われてもな…つーか、さっきやったろ。あと立香に嫉妬すんじゃねーよ。しかもさり気なく要求が追加されてるし」

「……シアは後数年間は不可。立香の件に関しては後々追求」

 

 シアが根性でハジメ達の傍までやって来て、期待した目と青白い顔でハジメを見上げる。ハジメはそっと、視線を逸らして扉へと向き直った。背後で「そんなっ! うぇっぷ」という声が聞こえるがスルーする。

 

 なお男子二人は「ライセン大迷宮出たくねぇ」とこの後起きる面倒な事項に現実逃避を始めながら、扉を開けた。

 

 そこには…

 

「…何か見覚えないか? この部屋。」

「……物凄くある。特にあの石板」

「…そう、ですね。数時間前ほどにこれに近い部屋を…」

「…似たような構造の部屋か?」

「…かもしれませんね」

 

 扉を開けた先は、別の部屋に繋がっていた。その部屋は中央に石板が立っており左側に通路がある。

 

 立香は思う。見覚えがあるはずだ、と。なぜなら、その部屋は、

 

「最初の部屋……みたいですね?」

 

 シアが、思っていても口に出したくなかった事を言ってしまう。だが、確かに、シアの言う通り最初に入ったウザイ文が彫り込まれた石板のある部屋だった。よく似た部屋ではない。それは、扉を開いて数秒後に元の部屋の床に浮き出た文字が証明していた。

 

 “ねぇ、今、どんな気持ち?”

 “苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時って、どんな気持ち?”

 “ねぇ、ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ちなの? ねぇ、ねぇ”

 

「「「「「「「……」」」」」」」

 

 立香達の顔から表情がストンと抜け落ちる。能面という言葉がピッタリと当てはまる表情だ。全員が微動だにせず無言で文字を見つめているという状況は何とも不気味だ。普段正気に満ち溢れているマフラーさえも、活動を停止している。すると、更に文字が浮き出始めた。

 

 “あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化します”

 “いつでも、新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうというミレディちゃんの心遣いです”

 “嬉しい? 嬉しいよね? お礼なんていいよぉ! 好きでやってるだけだからぁ!”

 “ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄です”

 “ひょっとして作ちゃった? 苦労しちゃった? 残念! プギャァー”

 

「は、ははは」

「あっははははは」

「フフフフ」

「フヒ、フヒヒヒ」

「(ブンブンブンブン)」

「ふ、ふふふ」

「ハハハハハ」

「あらあらあらあら」

 

 ようやくここで、ここ最近解放者二名が静まっていた理由が理解できた。不必要に一行を煽らないようにして、こちらに殺意を向けない為である。その判断は正しい。特にミレディなど、一言発せば殺されかねなかったに違いない。

 

 七人の笑い声がやけに部屋の中響く。されど状況は変わるはずもなく、腹が立つ現状はまんまである。

 

 そこでようやく立香が復帰し、一言。

 

「やってくれたな! ミレディぃいいいいいい!!!」

 

 そしてそれに続くように怒号が響いたのは言うまでもない。迷宮自体が震撼を起こし、下手したら奥に眠るミレディ・オルタにまで聞こえそうである。

 

 兎も角、こうして迷宮探索は振り出しに戻ったのであった。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ──ハイリヒ王国にて

 

 香織「ミレディぃいいいいいいい!!!」

 勇者一行「「「「「「「!?」」」」」」」

 雫「みんな落ち着いて! 香織は最近よくこうなるのよ!」

 光輝「雫!? それは全く落ち着けないぞ!?」

 鈴「カオリン、落ち着い…って、え!? カオリンが人殺しみたいな目してる!?」

 恵里「(ガクブルガクブル)」

 メルド「ええいっ! 落ち着かんか! 目の前から魔物が──」

 香織「…爆光刃」

 ──ドドドドドッ!!

 勇者一行「「「「「「「…へ?」」」」」」」

 香織「ふふふっ。いつかゴキ…金髪ロリと一緒に八つ裂きにしてあげるよ、ミレディさん」

 光輝「え!? 今無詠唱…って香織!? 一体何の話をしてるんだ、香織! 俺で良ければ相談を…」

 香織「光輝くんは黙っててくれないかな?(ギロリ)」

 光輝「あっ、はい」

 雫(早く戻って来なさいよ! ハジメくん!)

 

 以上、やさぐれた香織さんの現在の状況でした。




そういや最近、個人的にキャラ付けの一環としてそれぞれのキャラの歌って何だろって遊び感覚で考えてるんですよね〜。
断定しているのは四人。
・立香『ブレイバー(ラックライフ)』
・マシュ『色彩(坂本真綾)』
・園部優花『I beg you(Aimer)』
・白崎香織『Rising Hope(LiSA)』
って感じかなぁ〜、と思ってる。
この四人に関しては変えないと思うけど、『このキャラはこれじゃね?』っていう意見あったら、是非とも麻婆と共にヨロシク。

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