ありふれた錬成士は最期のマスターと共に   作:見た目は子供、素顔は厨二

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本日2話目。とはいえ相当短いです。
というのもここで区切った方がよくね? となったからです。
申し訳ありません。
おそらく明日中の投稿は難しいと思われます。
できるだけ、頑張りますが…


お誘いは突然に

 ーーハジメside

 

 特訓が始まりもう一週間ほどになる。相変わらずハジメに魔術回路が発現することは無いが、代わりに“錬成”の技術は王宮の人々に認められるまでになった。ただ相変わらず光輝や檜山を中心にしたメンバーはハジメに良い印象を抱いてはいないが。

 

「さて、迷宮に入る前の訓練はこれで終わりだ。各自気をつけて帰るように。特に南雲 ハジメ! 君は厄介な連中を出来るだけ避けて行動するように! また迷宮に入る当日まで自主練習を忘れるな。ただ白崎 香織、君の魔法陣を必要としない魔術の力はこの世界では異端だ。場を注意した上で使い給え」

「はい! 気をつけます」

「もちろん気をつけます! エミヤさん」

「それでは…解散!」

 

 ハジメと香織の特訓はこれでひとまず終了となる。流石に迷宮に行くまで残り数日となると様々な準備が必要となり、ここに来れる時間も無くなってくる。そのため魔術の訓練はこれから自主練となるのだ。

 

「にしてもしばらくハジメに会えなくなるのか…寂しいな」

「今生の別れじゃ無いんだから落ち着いてよ、立香くん。また地上に戻ったら図書館に行くからさ」

「そっか…そうだよね。何だかんだでハジメも強くなったしね」

「うん、本当にエミヤ師匠には頭が下がるよ」

 

 ここ一週間で相当に仲が良くなったハジメと立香。最早お互い、親友として相手を見ている。ハジメにとっては初めての友達であり、立香にとっては最早できないと思っていた友達。結果、お互いに特別として認識している。

 

 すると後ろから影を潜めていたかのように現れるエミヤ。二人の死角から現れたエミヤは当然のように話を始める」

 

「ふん。そう言って貰えるとは何よりだ、南雲 ハジメ。最後に一つ忠告しておこう」

「何ですか?」

「…はぁ。何というか、これを言うのは黒歴史のような気がせんでもないが…もし君が勝てないと思った相手と合間見えた時、せめてイメージしろ。現実で敵わない相手なら、勝てるものを幻想しろ。…以上だ、精進し給え」

「イメージ、ですか?」

「ああ、常に敵に勝てるビジョンを持ち給え。勝てない、などと思っていては以ての外だ」

「…今は何かピンと来ませんけど…それでも何か分かった気がします。ありがとうございます」

「ふん…それではこれで失礼しよう。武運を祈っている」

 

 そう言ってエミヤは虚空に消えていった。実際は立香が『座』に戻したのだが、まるでハジメには太陽の光へと溶けていったかのように見えた。

 

 ハジメは再び頭を下げた。今度は深々と、ハジメにとっての師匠の消えていった太陽に向かって。立香はハジメのそれを見て微笑んでいた。

 

 一方でマシュと香織もまた別れの挨拶をしていた。

 

「白崎さん、凄く見間違えたと思います。いえ、元々可愛らしかったですし、凄かったのですが…でも決意が変わったように思えます」

「ありがとうね、マシュさん。…って何か言いづらいね。ねえ、マシュって呼んでもいいかな? あとマシュさんにも私のことは香織って呼んで欲しいな」

「え? いえ…いいんですか、白崎さ…」

「香織」

「……香織…さん、ですか?」

「うん! よろしくね、マシュ!」

「はいっ! またいづれ会いましょう! …ところで香織さんはいつ南雲さんに告白を?」

「へ? へ? …何のことかな? かな?」

「分かりますよ、流石に。それでいつ頃、結婚される予定ですか?」

「と、飛びすぎだよ、マシュ!? あと私は告白の予定なんてまだ…」

「そう思っていると側室が大量にできてしまいますよ! それどころか自分が側室になる可能性すらあるのですから!」

「ま、マシュ…何というか現実味が溢れてるような気がするんだけど…」

「それはもちろんです。私は先輩の正妻で先輩には他に沢山奥さんがおられるのですから」

「へ? ………本当に?」

「はい、ですから早く攻めることをオススメいたします。少なからず告白までは行かずとも名前呼びは…」

「…うん、分かった。ありがとうマシュ。私、やってみるよ!」

「その心意気です! 頑張ってください! 結婚式には是非とも呼んでくださいね、香織さん!」

「うん! 絶対に呼ぶね!」

 

 ただその女子トークは本能的にハジメも立香も脳に入れることを避けているようだったが…仕方がないことだろう。

 

 

 そして立香に背負われて、降りた後ハジメと香織は並んで城までの帰宅路を歩んでいた。なお二人には“認識阻害”がかかってあるので周りの人間には見えない。もし見えていたものならば騒ぎが起き、香織にプロポーズの嵐が巻き起こったことだろう。もっとも香織の天然によりそれはプロポーズとすら認識されずお断りされるだろうが。

 

 すると香織は道の途中でとあるポスターを見つける。

 

「…花火大会」

「へえ、こっちにも花火ってあるんだね。誰かが“錬成”で作ったのかなぁ」

 

 それは丁寧なイラストで書かれた花火大会のポスター。どうやらこちらの世界にも花火はあるようだ。ハジメは錬成士として興味が湧く。

 

 やがて香織は尋ねた。

 

「…ねえ、ハジメくん。一緒に行かない?」

「………へ?」

 

 それはハジメの予期しないような質問、いやお誘い。思わずハジメはだらしない声を発してしまった。

 

 それでも香織は顔や耳を赤くしてまで再度問う。

 

「…私は、ハジメくんと、一緒に…花火大会に行きたい、です」

 

 声が詰まり、途切れ途切れの言葉。しかしそこには紛れも無い好意があった。流石のネガティブ思考なハジメも頰を染める。

 

 ハジメは“認識阻害”で誰にも見られていないはずだと言うのに周りの視線が気になった。それほどまでに動揺していると言ってもいい。

 

 やがてハジメの口から答えが返ってきた。

 

「僕で、よければ」

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ーー香織side

 

「ーーというわけで明日花火大会行ってくるね、雫ちゃん!」

「…本当にここ最近の香織は積極的ね。少し変わった?」

「あはは。雫ちゃんそれ、マシュにも言われたよ」

「ま、マシュ? 」

「うん、新しく出来たお友達だよ! 凄く可愛い子なんだよ!」

「そ、そう。良かったわね、香織」

「うん!」

 

 今、この場に男子が入れば「ご馳走さまでした!」と言って自主的に首を吊るだろう。なんといってもこの部屋は学校の二大女神が寝巻き姿できゃっきゃっと笑い合っているのだ。男子どころか下手な女子でも殺到ものである。

 

 そんな彼女たちの話題は香織の想い人の話だ。男子が聞けば、その男に嫉妬の炎を立ち上らせることは間違いないが、今ここでは無縁の話である。

 

「それで、南雲くんは香織のお誘いに乗ったのね」

「うん! 一緒に行きたい、って言ったらオッケーしてくれたよ!」

「…それにしてもあの(・・)南雲くんが、ねぇ」

 

 雫からすれば信じられない話だ。地球にいたころでは「他人と話すことより睡眠」といった感じで、香織とはそこまで友好関係を築けていないと思っていたのだが…どうやら杞憂だったらしい。

 

 香織の初恋に実りの可能性を感じた雫はホッと一安心する。まさしく…オカンだった。

 

「どうしたの、雫ちゃん?」

「いえ、なんでも無いわ。それで? どうするつもりなの? まさか…花火見て終わり、なんて言わないわよね?」

「うん! もちろんだよ! エミヤさんからこっそり教えてもらったからプレゼントは万全です!」

「へえー、プレゼントも用意してあるの?」

「うん、魔術による強化繊維を編み込んだものだから丈夫だし、しかも軽くできてるんだよ! だからきっとハジメくんも身につけやすいと思うし、ハジメくんが好きそうな本の主人公がよくつけてたからきっと間違いないよ!」

「…そう」

 

 香織は自信ありげに袋を取り出した。服ぐらいなら入りそうなほどの大きさである。

 

 しかし香織のセリフ的にそれはきっと厨二装備では無いか? そしてそれは間違いなくハジメ的には黒歴史ではないか? と瞬時に思う雫。同時にハジメにお詫びを心の中で告げた。

 

 あくまでも香織に注意はしない。親友が頑張って作り上げたものなのだ。たとえハジメ的には黒歴史であっても受け取って貰わねばならない。

 

 香織の涙は見たくない、そう切に思う雫はやはりエミヤと同質であった。

 

 そんなこんなでアーメンを告げている雫を脇に香織は呟く。

 

「絶対に、喜んでもらうんだからね!」




次回、原作の「月下の語らい」代わりの回です。
あくまでも今回はそれの前日談。
大体余分な感じです、今回は。

でもな、どうしても女子トーク入れたかってん!
しゃあないやん! あとマシュと香織の呼び名改善したかってん! なんだか回りくどいもん!

となわけで次回頑張りやーす!

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