不明な転生者が接続されました。
この二人のカップリングを成せるのは、転生者である僕だけだと、僕だけが知っている。
いきなり何を言い出すとか、頭おかしいんじゃないかとか、そういうのはどうだって良い。
十四年を生きて、僕は自らが転生者であることを理解した。正確には思い出した。
現在、十四歳の少女
いや、それも重要じゃない。
何が重要なんだと聞かれたら、それはもう既に冒頭で語っている。
重要なのは、僕の生きるこの世界が生前に僕が好きで好きで堪らなかった戦姫絶唱シンフォギアであるということ。
もっと言えば、天羽奏がまだ健在であること。だが、あと少しした後には、櫻井理論の提唱者、特異災害対策機動部二課の出来る女こと
そこまでなら、良い。いや、それは僕自身の主観ではあるがまだ明るい物だ。
だが、僕はその先を良しとは出来なかった。
───天羽奏は、この時、自らの絶唱によって死ぬ。
その展開を、僕は許容出来なかったのである。どうして、ここで彼女が死ぬんだ?誰も死ななくたって良いじゃないか。それによって、風鳴翼という少女は辛く重たい二年を過ごすこととなる。
それが物語の出来事だとしても、僕は受け入れる事ができなかった。本当なら、彼女達はその後も笑い合い過ごし、歌を歌う最高の双翼であれたのだ。
この思いは、戦姫絶唱シンフォギアシリーズを視聴すればする程に強くなった。
最初は、フィーネという人物を強く恨めしく思った。だが、それは長くは続かなかった。彼女にも彼女なりの考えがあり、その結果、天羽奏は死んでしまう。それでも、フィーネという人物の一途さに僕はあろうことか感化されてしまった。
それから目を背けるかのように、その次に、僕は立花響を恨んだ。彼女が苦しむ度に、醜い感情が浮かんだ。しかし、後にそんな醜く汚い自分を殴りたくなった。殴って、顔の形が変形するくらいにボコボコにしてやろうかとまで考えた。
そして、結局のところ結論は出なかった。誰が悪いわけでもない。ただ単に、この物語の展開がそうであって、その中に恨むべき存在はいないのだとそう理解した。普通そうだ。だけど、この作品に、この物語に、この世界に入り込んでいた自分はその線引きすらも曖昧で。
この思いはどうにもならなかったが、それでも納得はした。
そうして、五期を待ち侘びる最中、僕は死んだ。
それで、お終いのはず⋯⋯だったのだが。
『不知火くん、準備は良いな?』
「OKです。ボクは、問題なく行けますよ」
こうして、僕は転生した。
転生、受け入れ難さよりも、転生した時期、転生した己の立ち位置が何よりも幸運と呼ばざるを得なかった。
特異災害対策機動部二課所属、LiNKERを使いはするものの、第六号聖遺物『レーヴァテイン』の装者であり、本性はFISから素性を隠して潜入しているレセプターチルドレンの一人。多分、二課の面々には勘づかれているのだろうが、櫻井了子によってなんとか誤魔化されている。
それこそが、この僕、不知火唄である。
前世男であった僕と、今世の彼女は、上手い具合に融合を果たすことで、こうしてどちらがどちらでもない自我を確立。見事に中で融合を果たしたのだ。正直言って、この娘の生を奪ってしまうことは、確かに心苦しいが、僕とこの娘は魂から同一人物であり、実質的には思い出しただけなのだから、あまり気に病むことは無いのかもしれない。
記憶によれば不知火唄と風鳴翼、天羽奏は親友と言っても差し支えないレベルの関係であり、僕が彼女たち、天羽奏を守っても違和感は無い。
だから、僕は思い出して、こうして、今日があのライブの日であることを認識し、警備の任もあって会場の端から見守っているのである。
「⋯⋯いざと言う時は、レーヴァテイン⋯⋯頼むよ」
そんな時である。
周りが大歓声に包まれ、僕は前世の僕が生で見たくてやまなかったその憧憬を目にした。
「ツヴァイ⋯⋯ウィング⋯⋯」
『見惚れるのは良いが、これより起動実験を始める。警戒、頼んだぞ』
「もちろん。任せてください」
もちろん任せてくださいとは言ったが、始まった歴史に、僕の目は引き寄せられたままだった。
これこそが、ツヴァイウィング。
いや、天羽奏と風鳴翼の歌。
テレビの中の出来事であったそれが、眼前で繰り広げられていることに、何よりも、この少女の身体に記憶された二人の、これ程までの神々しさを目の当たりにして、僕は歓喜に打ち震える。
正直言って、これほどまでとは思わなかった。目が離せないというのは、このことを言うのか。離すことを、全身が拒んでいるかのようだ。
『起動実験は順調。そちらは?』
「⋯⋯今のところ、異常無し」
いや、そろそろか。逆光のフリューゲル、そのサビを経て、曲が締めくくられる直前だが、既に炭を感じ取っている。
⋯⋯憎き、ノイズ。
結論は出なかったと言ったが、それは嘘だ。
結論は出ている。全ては、ノイズが悪いのだ。そう考えると、自然と思考が冴えてきた。
歌が、終わる。熱が、冷める。
そして、その時は、来る。
「なんだっ!?」
会場に響き渡る爆音と、会場を破壊する程の揺れ。
鼻につく炭の臭い。
「ノ、ノイズだァ!?うぁぁあ!!」
誰かの悲鳴を皮切りにして、その存在に気が付いた観客達が、その場から我先にと逃げ出そうとする。そんな人々を嘲笑うかのように、様々な姿かたちの異形、ノイズが襲い掛かる。
逃げ遅れ、ノイズによって炭化した人々を見て、心が、痛んだ。
『不知火くん! ノイズの出現を感知! やってもらえるな!』
「その為のボクですから⋯⋯ッ!!」
シンフォギアを握りしめて、歌を歌おうと、口を開きかけた時、凛とした
「────Gungnir zizzl」
それは、聖詠。シンフォギアを起動するための詠唱式。
そして、この声の主は⋯⋯あの人以外にいない。
――STARDUST∞FOTON――
天から、無数に枝分かれした槍が降り注ぐ。
それらは、ノイズ達の一部とはいえ、それなりの数を瞬く間に穿った。
「奏さん!」
「唄! やるぞ、私達で!」
はい、と力強く応えて、僕はギアを引っ掴んで、今度こそ口を開いた。
「────Laevateinn tron」
その歌を唱えた瞬間、僕は一度一糸まとわぬ姿となり、次には、戦いの装束を身にまとっていた。体感的には初めてではない故に、それほど驚くことでもないが。
僕の左肩には、僕の今の背丈ほどはある物々しく物騒な何かが備え付けられ、左手にはハンドガンサイズの銃器が握られていた。どちらもレーヴァテインのアームドギアだ。形状的にどこかで見た気がするが、この際だから、そんなことはどうでも良い。
自らの詠唱に込められた意味は、僕には分からない。
だけど、今の僕がこの歌に意味を付けるなら、これ以上無いほどにぴったりなものがある。
「魂を薪に、燃ゆる限り護り抜く」
「ただ、守られるだけじゃないさ!」
そう言う奏さんに、僕の口角は自然と上がった。
こういうことを事も無げに言うから、僕は憧れを感じ、守り抜きたいと思ったんだ。だけど、一つ訂正するなら、その声を掛けられるべくは僕なんかじゃない。
そんな思いも混ぜて、僕は、ステージの上で狼狽える翼さんをちらりと見詰めた。
「唄、奏⋯⋯っ! ⋯⋯二人共⋯⋯!」
「さっさと倒しちまおうぜ」
「そうですよ、翼さん!」
槍でノイズを屠る奏さんに後れはとるまいと、立ち塞がるノイズ達を左手のハンドガンで正確に射抜く。
それを見て、決心したような顔になった翼さんを見て、安心する。
「────Amenohabakiri tron」
己のギア、天羽々斬を纏った彼女は、呆れるほどに美しかった。
ああ、これは僕がいるのもお邪魔かなぁ。そんなことを考える程に、天羽奏と風鳴翼の二人は、美しく、互いが互いを引き立たせていた。
それに比べて、鉄の色に暗い赤という全体的に重たい色合いの僕の悪目立ち様と言えば⋯⋯恥ずかしいくらいだ。
まあ、そんなことも言ってられないのだが。
眼前に現れた巨大なノイズの気を引くように、ハンドガンを連射する。
しかし、装甲の硬さゆえに、効いているようには見えなかった。
「ちょっと数が多いなぁ⋯⋯」
奏さんの言う通り、ノイズの数が多い。先程からハンドガンで撃ち落としてはいるものの、空を飛ぶノイズも未だ数多く残っている。
テレビで、傍観者として観ていた時よりも、二倍近くはいるのではないか。
「きゃぁあ!?」
そんなことを考えていると、観客席の方から、崩れる音と少女の悲鳴が聞こえる。
そこには、顔を恐怖に染めた、明るい色合いの茶髪の少女が居た。
「何してる!? 早く逃げろ!」
「あああ!!」
ターニングポイントだ。
ここで、僕が何かを出来なければ、奏さんは死に、少女こと、立花響は迫害される。
それは、それだけは拙い。ここで、原作通りに事を進ませてしまえば、僕という存在は必要なかったことになる。それなら、転生などしなかった方がマシだ。⋯⋯いや、ツヴァイウィングを生で見れただけでも、前世よりかはマシかも知れないが⋯⋯。
「諦めるには、早い!!」
立花響が逃げ出したのを確認し、彼女を守る為にノイズの前に立ち塞がろうとする奏を手で制する。
「唄⋯⋯」
「僕が、やります。奏さんは、少女を安全な所まで、お願いします」
「だけど、お前⋯⋯
「使わなければ、この状況をどうにかすることは出来ない!少なくとも、一、二回なら、僕もやれます」
意思の固さをわかってくれたらしい。奏さんは、立花響を連れて、会場の出 出入口へと向かった。
それで良い。
「ノイズ、この僕が相手だ!」
「私もいるよ、唄!」
翼さんと背を合わせて戦えるなんて、光栄だ。まあ、恐れ多いけど。
僕は、ハンドガンを放り捨てて、覚悟を決めた。
「⋯⋯オーバーヒート・レーヴァテイン!!」
その掛け声に、右腕の義手がパージされ、その断面を塞ぐようにして、備え付けられた得物から伸びる機械がそこに接続される。
視界に移る砂嵐、耳障りな雑音。接続部から身体中に広がる、やけるような熱。
ソレの取手を左手で握り締める。
――OVERHEAT>LAEVATEINN――
「唄、危険そうだったら、すぐに辞めてね?」
「⋯⋯善処、するよ、翼、さん⋯⋯ッ!」
本当なら、今すぐにでも辞めたい程だ。だけど、僕に出来るのは、これくらいしかない。だから、僕は命を燃やす。前世、ただの男子高校生であっただけの僕には耐え難い苦痛。
まるで痛みを誤魔化すかのように、血に塗れた歌が口から零れた。
まるで、夢みたいだ。
あれほどまでに夢想した、天羽奏の生存を、今、僕がこの手で達成しようとしている。
「ぁぁあ!!」
燃ゆる衝動のままに、地面を蹴ってノイズに肉薄する。
振り下ろされた発熱した大剣は、巨大なノイズをいとも容易く溶断。そのまま、重さに身を任せて、辺りのノイズを同じように溶かして斬り捨てる。
その間、僕は焼けるような熱さ、いや、実際に焼ける身体の痛みに耐えながら、一心不乱に歌い続けた。
その甲斐あってか、ノイズの数は目に見えて減っていた。
「まだ、まだぁ!!」
油断はしない。全部溶かすつもりで行く。そうでもしなければ、奏さんの命が安心とは言えない。
全ての不安要素を消し去るのだ。僕の命と引き換えにしても。
「⋯⋯まだ、倒し切れてない⋯⋯! まだ、燃やせる!!」
口ではそう言うものの、しかし、身体はもう限界だったらしい。
赤熱する刀身が、急激に元の鉄の色を取り戻していく。それと同時に、底冷えするような寒さが、僕の身体を襲った。加熱された大剣から白煙が登る。
寒いな。身体がガクガクと震えるような悪寒だ。
「唄、休んでて! 私が!」
僕を守るかのように、翼さんが飛び出す。
――千ノ落涙――
顕現した無数の刃がノイズ達を貫き屠る。
自分の身体を削りでもしなくては、大技すら撃てない自分とは大違いだ。効率的にも、やり方的にも。
「くそっ!」
するとその時、焦りを孕んだ奏さんの声が聞こえた。
ばっとそちらを振り返れば、奏さんと立花響達の道を塞ぐかのようにノイズが立ち塞がっている。まだ、出入口までは三分の一ほどはある。
ノイズは待ってはくれない。溶解液ではないが、ノイズから吐き出された気味の悪い液体を、奏さんは槍を回して防御する。
だが、どう見ても劣勢であり、あと少しで、奏さんの槍は砕け散るだろう。
⋯⋯このままでは⋯⋯いけない。
何かを考えるよりも先に、身体が動き出していた。
「ぁぁぁぁあ!!」
「唄ッ!?」
もう一度接続の解かれた右の接続装置を作動させる。
彼女自身、2回も連続して使ったことは無いようだが、死ぬ気で行けば、もう一回は使えるだろう。
「オーバーヒートッ!! レーヴァテインッ!!!」
――OVERHEAT>LAEVATEINN――
体が、本当に悲鳴を上げている。軋む音、焦げた臭い。焼ける音。その全てが煩わしい。
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!
「こなくそォ!!!」
「唄、もうやめろっ!!」
自然と汚い言葉遣いが出てしまったが、そんなことは気にしていられない。
このままじゃ足りない。
アレだ。アレを、僕が代わりに歌うんだ!
そうすれば、奏さんは歌わずに済む!
「───Gatrandis────────」
「唄、いけない! 歌っては駄目!」
いや、歌わなければならない。歌わなければ、僕が思い出した意味が無い。この改変で、どれだけのバタフライなんとかが起きるかは知らないが、だけど、二人の歌なら、それを乗り越えて、せかいをすくえる。
「────────」
「やめろ! 唄!!」
ああ、思い出してから、ほんの少しだけだったけど、素晴らしい人生だった。
「────────」
「頼むから、止めてくれ⋯⋯!」
だって、僕なんかが、こうして奏さんの代わりに死ねるんだ。
こうして、奏さんと翼さんは生き残って、僕みたいな異物は消える。多少、この身体に罪悪感を抱かないわけではないが⋯⋯。それでも、望んでいることだと、断言出来る。
「Emustolronzen──────」
ああ、だけど、出来ることなら。だめだ、そんなこと、考えたら⋯⋯。
だけど⋯⋯だけど⋯⋯ッ!!
「────────」
「「唄ぁぁぁあ!!」」
⋯⋯もう一回くらい、二人の歌が、聞きたかったなぁ。
「───zizzl」
こうして、僕は幸福感と少しの後悔を胸に、意識を失った。
▽
そうして、目が覚めて。
僕は己が生きていることに知らず知らずの内に安堵し、司令の姿を認めて、奏さんについて問うた。
いや、問うてしまった。
「嘘、ですよね?」
「唄くん⋯⋯君のせいではない⋯⋯責任は、我々大人にある⋯⋯だから」
───天羽奏は、目覚める見込みのほとんどない昏睡状態。所謂、植物状態となって、僕の隣のベッドで横たわっていた。
「⋯⋯ぁあ!ぁぁぁあ!!!!!」
僕は、慟哭し、己の無様を嘆いた。
ここでキャラクター設定を投げていくスタイル。
名前 不知火(しらぬい)唄(うた)
身長 154cm
体重 41kg
年齢 15
概要
肩までの黒い髪に、蒼色の眼のミステリアスな雰囲気の少女。とある事故で右腕の切断を余儀なくされ、今は特殊合金製の義手を装着している。
特異災害対策機動部二課所属及び、FIS所属。シンフォギアとの適合率は比較的高いのだが、LiNKERを用いなければ主武装である大剣を使うことが出来ない。第六号聖遺物『レーヴァテイン』の装者であり、本性はFISから素性を隠して潜入しているレセプターチルドレンの一人。二課の面々、風鳴弦十郎などには薄々勘づかれているのだが、櫻井了子によってなんとか誤魔化されている。
天羽奏と風鳴翼とは、二課に所属した当初はあまり上手くいっていなかったが、今では親友と呼べる仲。また、一番年下であるため、多少は妹の様にも見られている。
今回、前世が男の転生者であることを自覚し、タイミング的にも丁度良く、天羽奏を生存させる為に戦った。だが、絶唱し、意識を失っている最中に、原作通りに立花響の体内に砕けたガングニールの破片が侵入。奏本人も、絶唱はせずとも、何とかノイズ達を退ける。だが、その時の無理によって、天羽奏は意識不明、目覚める見込みのない昏睡状態となったことを知る。
失意の中、彼、いや、彼女は己を責め続け、戦場に身を置き続けることとなる。
前世、戦姫絶唱シンフォギアにのめり込む男子高校生であった彼と、この世界の装者である彼女は、根本的には一緒であり、性格なども似ている。馬鹿ではないが、逆に思考が複雑化しがち。また、多少男っぽさ、少女のような恥じらいを持ち合わせていない部分もある。
ギア レーヴァテイン
聖詠 『Ruineus Laevateinn tron』
意味 『魂を薪に、燃ゆる限り護り抜く』
絶唱特性 『破滅』
歌 『災剣・レーヴァテイン』『愛、何度でも』