不明な転生者が接続されました。   作:ジャス、キディン

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大変遅れましたが更新です。
第五期PVの熱に当てられました。
と言うより、更新を待ってた人なんているのでしょうか?⋯⋯いたら、良いなあ。


より深く、深淵へ。

「はっ、なんだてめえ、湿気たツラしやがって」

「⋯⋯雪音さん」

 

 

 あのアパートにはもう居られない。そう述べただけで、フィーネは移転をすんなりと了承してくれた。今度は二課の力を以てしても早々見つかることは無いだろうとのこと。

 その鍵を受け取るためにフィーネの隠れ家へと訪れていた。この場所はいつ来ても馴れない。

 見れば、話し掛けてきた彼女はフィーネによる調教の後であったようだ。

 

 

「随分と⋯⋯」

「んだよ、てめえ。なんか、あたしに文句でもあんのか?」

「いや、全然」

 

 

 文句は無い。僕が何か文句を言える立場であるわけでもなし。雪音クリスは、まだまだフィーネの手中にある手駒状態。力による解決だけを是とする。そんな状態だ。どことなく、同じようにしか自分の想いを通せない僕と似通ったところがある、気がする。僕の場合は、彼女が目指すような平和ではなく、大分ささやかなものの為だが。

 

 

「フィーネが動き出すまであと一年ちょっとだ。てめえは、フィーネの協力者で、あたしの同僚だからな。裏切ったりとかはねえだろうけど、役には立てよ」

「⋯⋯ああ、分かってるさ。ボクにだって、貫く意地くらいはある」

 

 

 多分に迷走してしまったけれども、ここまで来たならやはり貫くしかないだろう。僕にはもうそれしかない。後には引けないんだから。本当のところは⋯⋯いや、そんなことは考えたくない。

 そうして、雪音クリスとの会話を打ち切り、しばらくの間の静寂を待つ。

 すると、奥の方から僕の待っていた人物である全裸の女、フィーネが現れた。どうして全裸なのか、とか、そういうのは聞かない。凄い嫌な予感がする。

 

 

「貴方達、お話は終わりよ。不知火唄、これが新しい隠れ家の鍵だ。今度はボロを出したり「分かってますよ」⋯⋯そう、それなら良いわ」

 

 

 僕はフィーネから投げ渡された鍵をキャッチすると、扉へ向けて無言で歩き出した。

 扉に手をかけた時、後ろから待ったの声が掛けられた。僕はまだ何かあるのかと後ろを振り返る。見えたフィーネのその手には二通の手紙があった。

 

 

「待て、不知火唄」

「?」

「忘れていたが、お前の大事な大事な家族からの手紙だぞ」

 

 

 フィーネはそう言って、手紙を手渡してきた。

 僕は、ボクは(・・・)受け取ったその手紙を、破り捨てた(・・・・・)

 

 

「あ⋯⋯」

「⋯⋯ほう」

 

 

 気がついた時にはもう遅かった。手紙は紙片と呼んでも差し支えない程に細かくなり、地面に散らばる。

 どうして、こんなことをしたのか。カデンツァヴナという珍しい差出人を見て、僕は罪悪感を覚え、それを否定するように城の外へ向かった。

 

 

 ▽

 

 

 空は曇天。今にも雨が降りそうだ。いつもは子供達の声で賑わうこの公園にも、人っ子一人居ない。

 ベンチに座って、肌寒い風に当たりながら、僕は瞑目した。

 

 

「⋯⋯はあ」

 

 

 全部に溜め息が漏れる。衝動的に何かをやっていつも後悔することや、戦姫絶唱シンフォギアシリーズについて知っている僕がフィーネに協力していることなど、僕の溜め息の種は尽きない。

 この調子ならまず間違いなくフィーネの計画は失敗に終わるだろう。原作通り、立花響は槍を秘めているのだから。それに、僕が動くことになっても、僕はそれほど役には立たない。なんと言っても、継戦力が皆無だからね。と言うより、僕が動く程度で翼さんと立花響の二人が負けるようには思えない。

 だけど、なんだろうかこの不安は。この寂寥感は。取り残されているような、そんな感覚が拭えない。

 

 

「僕にしか出来ないことは、無いんだろうか」

 

 

 この世界に転生してからの今までの僕は、何をやっても失敗や微妙な結果続きだった。そんな僕にしか出来ないこと、そんなものがあれば僕は一も二もなく飛び付くだろう。それが例え、僕自身の命を引き換えにするような事でも。僕にとっては、二度目の拾い物みたいな生だからこそ、生きるとか死ぬとか、そういうことには少しばかりルーズになっているみたいだ。

 そんなことを考えると、平然と僕の頭には死という言葉が過った。馬鹿だとは思っても、その考えを振り払えなかった。

 

 

「⋯⋯死ねたら、楽なのかな⋯⋯」

 

 

『───そんなこと、ボクが許すわけないだろう』

 

 

「え⋯⋯?」

 

 

 唐突に聞こえた聞き覚えのある声に、僕は周囲を見渡す。

 だが、どこにも声の主らしき存在は見られなかった。

 

 

『探さなくて良い。ボクは僕の中にいる』

「⋯⋯」

 

 

 唐突に僕へと声を掛けてきたその正体には、当たりがついている。きっと、僕の身体と切っても切れない縁を持つ存在。そんな存在は、一人だけしかいない。

 

 

「不知火、唄」

『ああ、そうだとも。ボクこそが、不知火唄だ。キミみたいな変な偽物と違って、ね』

「⋯⋯そうか」

『そうだとも。僕がどうして表出したのか、分かってるんだろ? さあ、ボクの身体を返してもらおうか』

 

 

 偽物、か。

 ⋯⋯ははは。偽物、ね。本人に言われてしまうと、偽物の僕としては辛いところだ。この世界に根付いていることすら、幻想のような僕だ。元よりこの世界に根付いていた本当の不知火唄は、死んではいなかったのだろう。ただ、僕という異物が混ざってしまっただけで。

 だから、その求めも至極当然で当たり前のものなのだろう。

 

 

『そうさ。だから、ボクの身体を返してもらう。自己嫌悪と下らない使命感で死なれたら、たまったものじゃないからね』

「⋯⋯分かった。後はもう、任せるよ」

 

 

 半ば、どうでも良くなってしまった。言い方は悪いが、もう疲れたんだ、二度目の生に。

 僕は脱力して、ベンチの背もたれに背を預けた。すると、唐突な眠気に襲われる。多分、これは眠気だ。当分起きることは無いだろうし、もしかすればもう僕はこれで終わりになるかも。

 だけど、もう良い。もう良いんだ。悔しいけど、僕には何も出来なかった。僕は、役立たず(・・・・)だ。

 奏さんは、死んじゃいない。希望はある。後は、本人に身体を託してしまっても良いだろう。もう目覚めることはないだろうけど、奏さんは生きて歌い続けてくれるさ、きっと。なんと言っても、僕の憧れたツヴァイウィングの片翼なのだから。

 さあ、もう眠ろう。何もかも投げ出して僕は退場するとしよう。それが、当然で最善なんだ。

 

 

 もう、疲れ、た────。

 

 

 

 ▽

 

 

 

 その日、立花響は久しく会っていなかった少女を見掛けた。

 ベンチから立ち上がり、公園を後にしようとするその少女、不知火唄の背中がどうにも弱々しいものに見えて、咄嗟に声を掛けたのは必然なのだろう。

 

 

「唄さん⋯⋯!」

「⋯⋯ああ、立花響さんか」

「⋯⋯唄、さん⋯⋯?」

 

 

 果たして、振り向いた彼女のことを、立花響は本当に自分の知る不知火唄だと理解出来たのであろうか。否、少なくとも、立花響という少女の目から見て、振り向いて薄く張りつけたような微笑を浮かべた彼女のことを不知火唄だと理解するまで、しばらくの時間を要しなおかつ確証を持つことは叶わなかった。

 

 

「あの、私、翼さんや唄さんと同じリディアンを目指すことにしたんです!」

「そうか。頑張ってね」

「⋯⋯唄さん、どうかしたんです、か?」

 

 

 どこまでも普段とは違う冷たさを纏った酷薄な雰囲気に、響はとうとう彼女へと問う。普段の彼女なら、自分の言葉にここまで冷淡に返しはしない。それも、前に自らが誘ってきたリディアンへの進学の話題なら尚更だろう。

 その質問に、不知火唄はニヤリと嗤って口を開いた。

 

 

「ああ、憑き物が晴れたような気分なんだ。どうにも、今のボクは最高にキてる。ああ、キてるんだよ」

「⋯⋯貴方は、本当に唄さん、なんですか?」

「そうさ、ボクこそが不知火唄そのもの。本人だよ」

 

 

 どうせなら、容姿が似ているだけの別人だと有り得なくとも否定して欲しかった。自らの知る不知火唄は、こんなにも冷たく嘲るような笑みを浮かべる人間じゃない。少なくとも、今まで言葉を交わしてきた彼女はもっと不器用で、優しさに満ちた人間だった。

 それを、立花響は知っている。

 

 

「唄さん⋯⋯」

「悪いね、そろそろ時間だ。ボクはここらでお暇させてもらうよ。受験勉強、頑張ってね」

 

 

 後ろ背に手を振りながら公園を去っていく彼女。どうしてか、その後ろ姿からは、これで最後になる、といった雰囲気が感じ取れた。感じ取れてしまった。

 何か、言葉をかけなくちゃいけないのに。肝心のその言葉が出てこない。喉が詰まるような息苦しさを覚えながら、立花響は疑念渦巻く胸中に葛藤して帰路に着いた。




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