あれから半年が経った。ちょくちょく立花響のお見舞いに行ったり、奏さんの病室で一夜を明かしたり。そんなこんなで、僕は生きている。
そんな僕は、今日も今日とて学校から二課本部まで直行。ノイズが現れないか警戒待機しつつ、二課の中を歩き回っていた。
やっぱり、今世での少女の記憶があるといえど、前世の記憶を思い出してからというのも感慨深いものだ。
「不知火くん⋯⋯」
「どうかしたんですか?司令」
声を掛けてきた風鳴弦十郎司令は、僕を前にして何かを思い詰めているようであった。多分、僕がほとんど睡眠もとらずに、ノイズと戦っていることについて思うところがあるのだろう。
対して、僕はと言えば、戦姫絶唱シンフォギアシリーズを僕の知る四期まで円満に終える為に、ノイズとの戦いに明け暮れている最中なのだ。だから、僕は止まる訳にもいかない。
翼さんは原作通り、歌手を続けながら、防人としての戦いに身を置いている。だけれど、原作ほどに抜き身の刃状態でも無いし、あまり心配はしていない。
僕が心配するほど、風鳴翼というヒトは弱くない。
奏さんだって生きてるんだ。
なら、絶唱の間際に考えた、ツヴァイウィングの歌をもう一度聴く為にも、奏さんが目を覚ますことを信じて戦い抜くだけのこと。
僕は、何かを言おうとして口を噤んでを繰り返す風鳴弦十郎司令に一言言って、その場を後にした。
この後、
▽
「不知火唄、分かっているな?」
「⋯⋯うん」
全身を舐め回すような視線に晒されながら、僕は頷いた。
正直言って、フィーネの雰囲気は若干苦手だが、どうしてか安らげるのも事実。櫻井了子の時は、頼れる感じはあるのだが、フィーネの時とは違って安らぐとは違う感覚を覚える。
「受け取れ、FIS製のLiNKERだ。安心しろ、ドクターウェルの協力もある物だ。これで、まだ戦えるだろう?」
「⋯⋯うん。いつもすまない、
「貴様は、私の手駒だからな。早死されても困る」
そう言うフィーネからは、ちょっとした慈愛のようなものが感じられた。
何だかんだ言って、こういうところが、嫌いになれないところなのかも⋯⋯しれない。
本当なら、実験の前でも最中でも、櫻井了子、フィーネを道ずれにでもすれば良かったのかもしれないが⋯⋯そんなことをしても、根本的な解決にはならなかったのも事実。奏さんを生死の分岐点から救い出せたとしても、その後にどうなるかは未知数。そういった不安要素もあったのだろう。
この身体の記憶は、この人物を
だから、そんな人物を殺すことは出来なかった。というのもある、と僕は考えている。前世の記憶を思い出しはしても、やはりと言うべきか今世の、不知火唄という少女の方が権限が強いのだろう。
例えそれが哀れみや憐れみであったとしても、ナスターシャ教授や家族のような同じレセプターチルドレンからの愛しか知らないような少女であったこの娘からしてみれば、愛というものはそれだけで彼女の精神を支配せしめる劇物なのだ。
「あの⋯⋯皆は?」
「皆?⋯⋯ああ、チルドレンのことか。ナスターシャ教授からも手紙が届いている。正直言って、面倒なことだが、渡せと言ってきかんのでな」
「⋯⋯ありがとうございます」
フィーネから差し出された、『唄へ』と英語で綴られた手紙を受け取る。本当なら、渡さなくても良いだろうに。いや、僕が聞かなければ、捨てていたかもしれないが⋯⋯。
早速開いて、僕は中身を確認する。
「ではな。私は失礼させてもらうぞ」
「⋯⋯はい」
退室するフィーネの言葉に頷き、僕は手紙に視線を落とした。
▽
風鳴弦十郎にとって、不知火唄という少女は、二課に所属するシンフォギア装者であり、それ以上に己が身を賭してでも守るべき子供の一人である。それは、彼女が大人になるまで、ずっと変わらないことであるし、大人になったからと言って守る対象から外れることは無いと断言出来た。
だが、それと同時に、何もしてやれない自分が嫌という程思い知らされるのだ。
風鳴弦十郎という男に、ノイズと戦う術はない。多少、使える格闘術などで応戦することは出来ても、勝つことは出来ないし、もっと言えば、触れた瞬間に炭となって死ぬことだろう。
必然的に、ノイズと戦う術を持つ、弦十郎からすればまだ年端もいかない子供でしかない彼女達が、ノイズとの戦いに身を投じなくてはならないのが現状であった。
この二課には、今現在、不知火唄を含めて三人の子供がいる。
一人は先述した不知火唄という少女。
前から誰かを守るために躍起になって、己を省みないところが多々見られたが、あの時から、それが輪にかけて酷くなった。正直言ってしまえば、見ていられないほどだ。
翼が仕事を抜けてノイズを討伐にし向かった頃には、もう既に片付いていたり、一人では対処は困難なノイズ群を相手にしても、禁じ手とすら言われ使用を控えるように注意されている
その度に、彼女の身体は物理的に焼けていくというのにだ。彼女を戦線に立たせなないように図らおうにも、それも難しいのが現状だ。
そして、二人目が自らの姪、と呼べるかどうかは微妙なところではあるが、それでも彼からすれば真の意味での家族である風鳴翼という少女。
彼女のマネージャーも兼任している緒川慎次からの話によれば、昏睡状態となった奏の容態や、彼女の分まで戦って負担を肩代わりしようとしているような唄のことが気がかりとなっているとか。その結果、ライブ中でも小さなミスが増え始めているらしい。
正直言って、唄よりかはあまり問題がないようにも思えるが、そんなことは無い。奏や唄を、二課の皆を、人々を守るのだと、彼女も行き過ぎた精神を見せ始めている。
さらに言うと、最近では何やら悩みを抱えて悶々としているらしく、こちらもかなりの悩みの種となっている。
そして、最後に天羽奏という少女。
三人の中で最も年長であり、風鳴翼の良き相棒にして、不知火唄の良き先輩、何より二人の良き姉貴分でもあった彼女。実際に、その面倒みの良さは、彼女自身が姉であったこともあるのは確実だ。そんな彼女に、弦十郎は、密かに二人の少女を託していた。
当初こそ、ノイズへの復讐心から、誰よりも苛烈に戦っていた奏。
だが、翼との関わりや、年下の、ともすれば妹の様でもある唄との関わり、人々とのそれぞれの関わりを経て、彼女は良い方向に変わった。
そんな彼女は、半年前のネフシュタンの鎧の起動実験の時に、逃げ遅れた少女を庇う形で重傷を負い、今では昏睡状態となって、病院で眠りについている。死んではいなくとも、目覚める可能性も絶望的とのこと。
弦十郎自身は、彼女なら目覚めるであろうと信じている。それがいつになるのかは、誰も分からないが。
いつ死ぬとも分からない恐怖もある。仲の良い、背中を預けた仲間が明日には死んでいるかもしれないという恐怖もだ。奏の一件で、彼女達はさらにそれを理解した。
それでも、彼女たちは、それらに揺さぶられながら、戦場に立ち続けているのだ。
だから、後ろで彼女達に指示を出すだけの大人ではなく、彼女達の出来る限りの力にならんと、弦十郎も努力を怠ったことは無い。
そのどれもが、実ったことなどほとんどないが。
「ったく、ままならないもんだ」
難儀する子供達を思い浮かべ、風鳴弦十郎はため息を吐く。
そして、頬をパシッと両手で叩いて、決意を新たに本部の廊下を歩き出した。
「子供が、死んででも守るだなんて言うんじゃないよ」
先程、すれ違いざまに唄が零した一言。
それは、風鳴弦十郎の闘志を掻き立てるのに大いに助力した。
大人として、手を差し伸べることが、何よりも大切なのだ。だから、風鳴弦十郎という男は、止まらない。
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