精進していきたいと思います。
「────Laevateinn tron」
シンフォギアを着装し、ノイズ群と対峙する。
正直言えば、やっぱり、翼さんのライブを見に行きたい気持ちもある。せっかくこの世界に転生したのだ。当たり前だと思う。
だけど、僕がこうして奴らを倒し続けている間は、翼さんが防人として身を窶す必要も無くなる。それなら、戦える限り、僕が奴らを倒し続ければ良いだけ。
「墜ちろッ!」
――BULLET>SKY――
ハンドガンを横薙ぎにするようにして連射した弾丸が、夜空を飛び交うノイズを射抜く。個人的には、ここ半年で、それなりの腕前になったと思う。
アームドギアであるハンドガンを、右手の義手で、腰のホルスターから抜き放つ。
「練習の成果、だよ⋯⋯ッ!」
――TWIN=BULLETS――
二丁の銃から乱射される弾丸が、小型から中型サイズまでのノイズを殲滅する。
残ったのは、巨大なノイズが三体。
少しキツいかも知れないが、最悪二回使えば勝てるだろう。
「⋯⋯大きい敵は⋯⋯」
――OVERHEAT>LAEVATEINN――
義手をパージし、機器が接続されたことを感じる。視界の砂嵐と身体を燃やし尽くすような熱を務めて無視。そんなものは、後で治療すれば、どうとでもなる。
ハンドガンを捨てて、肩からアームによって懸架されている大剣の柄を握る。
「⋯⋯フッ!!」
一瞬で肉薄し、赤熱した大剣を振り下ろした。
大型ノイズを一度で溶断出来るあたり、やはり威力はかなりのもの。さらに、近い方の別の大型ノイズへと接近、横薙ぎの一撃と振り下ろす二撃目でもって溶かし倒す。
「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」
そろそろタイムリミットか。
段々と寒くなる感覚は、やはりというか馴れない。馴れるべきじゃないのかもしれないが、毎度こんな調子では、やはり拙い。
「これで、最⋯⋯後ッ!」
重たい身体をどうにかこうにか動かして、最後の一体の側まで向かう。いくらか攻撃が掠るが、戦闘不能になるようなダメージは、全て回避出来ている。
「はぁあ!!」
半ば重心を任せるようにして大剣を振る。一発目は、その身体に吸い込まれるかのように溶け斬ったが、二発目が問題だった。
「くそ、ここで時間切れか」
大剣の熱が、急速に低下したのだ。そのせいで、トドメの一撃は、あまり力を込めていないただの一撃となって、僕の隙を晒すだけに終わった。
ノイズは未だ健在。これは、本格的にまずいかもしれない。
そう思って、もう一度大剣を使おうとした時、聞き覚えのある声が聞こえた。
「はぁあ!!」
――天ノ逆鱗――
目の前に現れた巨大な刀身が、大型ノイズを押し潰した。
こんなことが出来るのは、一人しかいない。
「翼さん!」
「唄⋯⋯!また一人で⋯⋯ッ!」
「そんなことより、ライブは⋯⋯!?」
「───唄くんの危機だったからな。翼には、抜け出してきてもらった。何、ファンのみんなも分かってくれるだろう」
翼さんに問い質すと、聞き覚えのある男性の声が、その問いに答えた。慌てて振り向けば、そこには、赤いシャツにネクタイを胸ポケットに入れた男、風鳴弦十郎司令の姿が。
「⋯⋯ボクなんかの為に、抜け出して⋯⋯?」
「⋯⋯唄なんかじゃないわ。唄だからこそ、よ」
「だ、だって、翼さんは歌が好きで⋯⋯!」
「だけれど、貴女の命には代えられないわ」
言葉を紡ぐことが出来ない。
どうして、翼さんが、好きな歌を中断してまで、僕のような
僕にとっては、歌っていてくれる事の方が、何よりも助けになるのに⋯⋯。
「分からないって顔だな。⋯⋯唄くん、君には一週間前後の謹慎をしてもらう。その間、シンフォギアは没収だ」
「どうしてですか!?」
「私も、歌を歌うだけじゃいられない。防人として、刃にならなければならないと、そう考えたのだ」
その凛とした姿勢は、まるで、戦姫絶唱シンフォギア一期の風鳴翼のようで。
それが、尚のこと、僕の何かを刺激した。
「なんで、翼さんが戦わなくちゃならないんですか⋯⋯!!」
「私が、第一号聖遺物、シンフォギア天羽々斬の適合者であり、防人であるからだ」
「それに、ここのところ、唄くんが出続けで、翼にも半年のブランクがあるからな。いざと言う時の為にも、ブランクを埋めておきたい」
そこまで言われたなら、仕方が無い。不服だが。本当に不服だが、仕方があるまい。これで、翼さんの感覚が鈍って、対処出来るところで対処出来なくなりでもしたら、僕は僕自身を恨む。
引き下がった僕を見て頷いた風鳴弦十郎司令は、無言で僕に掌を差し出してきた。
「⋯⋯緊急時には、返してください」
「ああ、勿論だとも」
首から下げていたギアを風鳴弦十郎司令に手渡して、僕はその場から足早に立ち去った。
さっさと帰って、洗浄をしたい。そして、自室に篭もりたい気分であった。
▽
二課の本部があるリディアン高校、僕の自室はその近くにあるちょっとしたマンションの一室。だが、時刻を見れば今はまだ、午後の八時を回ったばかり。
自室に篭もりたいとは宣ったが、それでも早過ぎはそれはそれで微妙な気分になりそうであった。
そんな理由で、僕は二課の通路にあるソファに座って、自販機で買った温かいロイヤルミルクティーを飲みながら、呆っとしていたところであった。
「⋯⋯はぁ」
「唄さん、どうかしたんですか?」
「⋯⋯緒川さん」
柔らかな物腰で「隣、良いですか?」と尋ねる緒川さんに頷き、僕はそっと横にずれる。
正直言って、緒川さんも苦手な部類だ。不知火唄という少女の記憶からすれば、今までにも何度か、自らが別の組織の間者であることがバレそうになってハラハラしたことがある。そういったところからも、この体自体が緒川さんを苦手としているのかもしれない。
だけど、彼自身の人となりなどは欠片も嫌いじゃないし―――と言うよりかは戦姫絶唱シンフォギアに登場する人物は、基本的には好きな人しかいないが―――邪険にするつもりもないのだが⋯⋯対面してみれば、思った以上に、彼らは優し過ぎた。
そういうのも、やっぱり苦手になる一因なのかもしれない。
現代社会、物語の外で生きてきた僕には、この世界に生きる人々は優し過ぎるのだ。
「謹慎、ひいては翼さんのことで悩んでいるのでしょう?」
「⋯⋯そうですね。確かに、心配です」
「でも、僕達は貴女の事が心配なんです」
緒川さんは真面目な顔でそう答えた。
あれ、なんでこんなに心配されてるんだ?本当にわからない。流石に、いくらなんでも転生者に対して優し過ぎじゃないのか?
「貴女の考えるべきこと。それは、自らについてだと、僕は思います」
「ボクについて⋯⋯」
ゆっくりと頷き、優しげに微笑んだ緒川さんを一瞥して、僕は俯いた。
正直言って、僕は、異物以外の何物でもない。奏さんの命を奪うことなく、あの時を凌げたのは良い。だけど、奏さんは目覚めていない。だからこそ、翼さんはやはり一人になった。
なればこそ、僕はこの二年間を彼女が彼女の為に使えるように命を使う所存であった。だけど、それをさせてもらえない。
これでは、二年後に立花響に翼さんを任せて僕がフェードアウトする予定が⋯⋯。
「翼さんは、風鳴翼という少女は、これ以上失いたくないんですよ」
「⋯⋯はぁ⋯⋯」
奏さんは死んだわけじゃないし、二課の他のメンバーも誰も死んでいないけど⋯⋯。失うのは怖いもの、というのはなんとなくわかった。僕も失うのは怖い。だから、転生者で不純物である僕が身を張るべきだと思うのだが⋯⋯。
なんで分からないんだ、みたいな顔をした緒川さんのことは、少しだけ気がかりだけど、聞いたって答えてはくれないだろう。
「貴女も、一人の人間であることを忘れないでください」
「⋯⋯肝に命じておきます」
緒川さんといると、なんというか、自分という異物を変に意識してしまう。俗に言うOTONAに分類される人物と相対した時は、必ずこんな気分になる。
やっぱり、苦手だ。
その言葉の意味を考えながら、今日は家に帰ることにした。
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