「あ、唄さん! こんにちは」
「こんにちは、立花さん」
商店街を、向こうから駆け寄ってくる快活そうな少女に手を振って、僕は微笑んだ。
リハビリを終えた後でも、僕と彼女は、時折こうして会って話をしていた。自然とそんな仲になっていた。とは言っても、今回は本当にたまたまであったが。
立花響。僕の存在しない、戦姫絶唱シンフォギアシリーズにおいて、奏さんが命を投げ打って救い出した少女。そして、手を繋ぐことで、幾度となく世界を救ってきた少女。ある人物曰く、『英雄』と呼ばれる存在。
何も思うところがないわけではないが、僕は彼女の来歴を、これからを知っている。いや、現状を知っているが故に、彼女について、その境遇について、悪くああだこうだと言うつもりはない。それを言ってしまったなら、僕は戦姫絶唱シンフォギアシリーズのファンと名乗ることは出来ないだろう。まあ、ありえないことだが。
「唄さん? 大丈夫ですか?」
「大丈夫、なんでもないよ」
呆っとしていたら、視界に少女の顔が映った。心配をかけてしまったらしい。本当に、なんでもないんだ。
だから、そんな憔悴し切ったような顔で、僕を、誰かを心配しないでくれ。一番、心配されるべきは君なんだから。
⋯⋯なんて考えても、この現状が変わるわけもないのに、ね。
そして、僕はそれをどうこうするつもりもないし、どうこう出来る気もしない。
薄情だと思うが、僕はここで下手に何かを講じて、今後の未来が変わることを恐れているのだろう。もう既に、天羽奏の生存という原作にない出来事を引き起こしてはいるが。だけど、立花響に関して言えば、存在が大き過ぎる。奏さんも翼さんの回想やゲーム作品などでも登場し、やはり大きな存在に変わりはないのだが。でも、立花響だけは違い過ぎる。彼女の改変は、ごっそり二年後の未来を変える。未来を潰しかねない。だから、僕が不用意に彼女の状況をどうにかして、今後が大きく変わることを、避けたいのだ。
僕という異物が存在することでの、原作の改変について考えるだけでも手一杯なのに、それ以上は僕には出来ない。
⋯⋯正直に言えば、彼女を見ていると、何かが揺さぶられる。それも、僕の根幹にあるナニカを、強く揺さぶってくるのである。どうしてかは見当もつかないし、何を揺さぶられているのかも理解できない。
いや、本当は分かっているのかも知れない。それを認め、赦すわけにはいかないが。
でも、いつか役目を果たした時に異物の中の異物である
「今日は、時間は大丈夫なのかい?」
「はい。空いてますよ!」
だから、これはせめてもの僕から彼女への贖いのようなもの。いつかの日のための贖罪。甘えだと分かっていても、やっぱり完璧な役者にはなれないんだろうとも。
彼女に寄り添って、彼女の苦しみを取り払うことができるのは、彼女の仲間たちであり、彼女の友人たちであり、
でも、その時までは、僕も彼女の支えが一つになれるとするならば、と。僕は、そうも思う。これこそが偽善なんだろう。
こんな汚い人間でごめん、
ひびみくは、絶対に崩さない。公式、原作カップリングは極力壊さぬように行くのが、僕のスタンスである。後、
▽
僕達は、それなりに歩いて知った公園に着くと、手頃なベンチに座る。そこが、僕と彼女の会話の定位置であった。
職務上、僕の家に関係者以外を招くのは難しいし、そのまた逆も然り。肌寒くなってきた風に晒されるとしても、この公園くらいしか話をできる場所はなかったのだから仕方ないとも言えるが。結局は、いつのまにか此処が落ち着ける場所になっていたというだけのこと。
ちなみに、彼女のお見舞い自体、二課の面々には知らせていないことであったし、この会談についても、誰かが知っているということはない。はずである。OTONAとかNINJAとかには感づかれていそうではあるが。
「唄さんって、どこの高校に行くんですか?」
「もう高校の話なんてしているのかい?」
まさか、そんな話題を振られるとは思わなかった。
高校か⋯⋯考えてなかったけど、そう言えば受験か⋯⋯。まさか、二回も高校受験をすることになるとは⋯⋯。幸い、不知火唄自身も人並みには勉強が出来て、前世の男子高校生であった時の学力もある故に、今の学校生活では勉強面においては全くと言って良いほど苦労はしていない。だが、確かにそんな話はちょくちょく聞こえてくる。
多分、後数ヶ月勉強して、私立リディアン音楽院高等部に行くことになるだろう。その方が都合も良い。と言うより、フィーネにそうしろと言われている。
「ボクは多分、リディアンっていうところを受験するかな」
「リディアン⋯⋯あ、翼さんの在学している高校ですよね!?」
「⋯⋯そうだね」
この展開の、この世界の立花響も、翼さんの歌を聴いていて、憧れを持っているのだろうか。
そんなことが気になった僕は、彼女へと問いかけてみることにした。
「立花さんは、翼さんの歌とか、聞いたりするのかい?」
「もちろんですよ! 翼さんの歌だけじゃない。ツヴァイウィングの歌に、私は元気付けられてます!」
「⋯⋯そうか。ツヴァイウィングの⋯⋯」
これは、僕が原作を改変したことで起きた差異か。
差異、と呼ぶには微々たるものかもしれないが、僕個人としては、とても嬉しいことだ。
「なら、キミもリディアンに来ると良い」
「⋯⋯」
気が付けば、僕の口を突いて勧誘の言葉が飛び出していた。
何をやっているんだ、僕は。
普通、小日向未来が行くから行くというのに、僕が勧誘してどうする?
立花響は、しばらく逡巡する様子を見せる。
正直言って、ぼかしてほしい。ここで、「行きます!」なんて言われてもちょっと困る。で、小日向未来と一緒に来るんだ。
「未来⋯⋯あ、私の友達の進路とか気になるから、すぐには答えられませんけど⋯⋯もしかしたら⋯⋯」
「アハハ。冗談だよ。キミの進む道だ。キミが答えを見つけると良い」
困ったように笑いながら頷いた立花響を見て、僕は内心でほっとため息をついた。
良かった。こんな異物よりも、小日向未来を選んでくれたこと。そして、彼女が原作から全く逸脱していないであろうことが知れて。
すると、先程までの雰囲気から一転して、立花響は真剣な顔で僕を見つめてきた。
「私、今、迷ってるんです」
「⋯⋯学校のこと? それとも家のことかな?」
「⋯⋯どっちもです」
⋯⋯これは、十中八九、迫害のことだろう。多分、父親の蒸発もあったんじゃないのか。時期的には、いつ起きてもおかしくはない。
こういう時、何かをできるというのは、凄いことだと、思う。
だけど、僕は、こういう時に自分の言葉で何かを伝えるのが得意じゃない。
「⋯⋯立花さんはさ、一人、君を大切に思ってくれる友達がいるんだろう?」
「⋯⋯未来⋯⋯のことですか?」
「⋯⋯その未来さんを、大切にしたら、良いと思う⋯⋯かな」
「未来を⋯⋯大切⋯⋯に⋯⋯」
正直言って、戦姫絶唱シンフォギアシリーズを知らなければ、言葉を濁して、その場をなあなあにしていたに違いない。
僕は、薄情だから。これも、中身の篭もっていない薄っぺらい言葉だけど。でも、立花響という少女は、小日向未来という陽だまりを知っている。だからこそ、僕の薄い言葉であっても、彼女には届いてくれるだろう。
変に口下手な自分が恨めしい。
どうして、僕は、何も伝えられないんだろうか。いや、伝える言葉を、伝える何かを持っていないだけ、かな。
「唄さん! 私、ちょっと用事が出来ました!!」
「⋯⋯うん」
「だから⋯⋯その⋯⋯」
もじもじとしながら、僕の顔色を伺う立花響。
とても居心地が悪い。遠慮がちとはいえ、じろじろと見られるのは好きじゃない。
「行っておいで」
「はい!」
だから、僕は微笑みで立花響を押し出した。
足早に去っていく少女の後ろ姿を見ながら。何でだろうか、心が締め付けられるような感覚を抱いてしまった。
⋯⋯いや、まさかね。
僕が、彼女達と同じ世界に居ていいはずもあるまいし。ただの錯覚、または、僕の心の弱さだろう。
雑念、祓うべし。
この身は、『かなつば』を為すためだけの
し、知らぬ間にひょ、評価欄に色が付いてえっ!?し、しかもお気に入り登録数が60を超えてますよ!?何があったんですか!?エイプリルフールですか!?
はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯。
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