不明な転生者が接続されました。   作:ジャス、キディン

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は、はわ、はわわ⋯⋯(放心)


無駄な思考。

 シャワーから勢い良く出る適温のお湯が、自らの肌に当たり滴る感覚が心地好い。

 

 

「はぁ⋯⋯汚れが流れていく⋯⋯」

 

 

 防水式の義手だからこそ、こうして風呂に入ることも出来る。

 風呂に入るのに、いちいち右手を外さなければならなかったら、前世では五体満足であった僕自身、風呂に入るのにすら四苦八苦していたに違いない。

 これも、FISとフィーネが共同で作ったものだと言うのだから、流石は何度もリィンカーネーションしているだけあると感謝する。まあ、リィンカーネーションは関係無いのかも知れないが。

 

 

 

「女の身体にも慣れちゃったなぁ⋯⋯」

 

 

 

 思い出した当初こそ、前世男子高校生であった僕の記憶、感性と、現役女子中学生であるボクの記憶と感性との間に小さいながらもいくつかの違和が生じていたものだった。だが、半年という期間は、それらを全て解決した。要は、慣れた。

 少女の裸体を実際に見たことは無かった為、取り乱しこそしなくとも、内心では凄い焦っていたのだが⋯⋯適応とは怖い言葉だ。

 

 まあまあ短めに切りそろえた黒髪をシャンプーで綺麗に洗う。普段は結んで肩から垂らしている一房も丁寧に洗って、シャワーで流す。特に何かするわけでもないが、どういうわけか、とても綺麗な髪の毛をしている。二次元効果というやつか。

 そして、ボディソープを身体を洗う用のタオルに付けて、泡立たせる。身体を触ると、なんというか変な気分になりそうだったが、今となってはそういうことも無い。

 ⋯⋯前世の男は、枯れてしまったのだろうか⋯⋯。少しばかり悲しい気分になる。

 

 

 

「♪」

 

 

 

 根本的に、シンフォギア装者となる少女達は、歌うことが好きらしい。

 僕の意志とは関係無しに、ボクの身体は勝手に鼻歌を歌い始める。そうして、気分が乗ってくれば、歌をも口ずさむ。

 シンフォギアに適合するだけあって、不知火唄という少女も、歌はとても上手い。前世でも、テレビなどで名を聞くような歌手並みには、上手いだろう。

 

 

 

「──────」

 

 

 

 歌を歌って、何かをしている間は、僕が異物であるという感覚が薄れてくれる。異物であるという自覚は、謂わば戒めでもあるのだが、それは同時にかなりの重圧、ストレスでもある。

 だからというわけじゃないが、歌は僕も、ボクも好きだ。

 

 身体を洗い終わり、泡を流す。

 そして、それなりの温度でお湯をためた湯船に、ゆっくりと体を沈めていく。

 

 

 

「⋯⋯ふぅ」

 

 

 

 とても、快い。身体が温かくなって、気分もだいぶ楽になる。

 

 ⋯⋯お風呂⋯⋯銭湯⋯⋯。シンフォギア装者でなくなったら、銭湯で働いてみようか。まあ、ただの冗談だけど。

 シンフォギア装者でなくなったのなら、僕は翼さんや二課のメンバーとは必然的に縁が切れるだろう。そうしたら、僕は何をして生きていけば良いんだろうか。何か夢があるわけでもないし、各地でも転々としながら、働いたりしてみようか。

 ⋯⋯まあ、死んだりする可能性の方が高いだろうけど⋯⋯。

 

 取り留めもなく思考を回していると、ネガティブな考えが頭を過りそうになる。

 僕は、それを考えたくないがために、視線をあちらこちらに行き来させた。

 

 そして、浮力を感じるある箇所(・・・・)に、視線を落とした。

 

 

 

 

 

「はぁ⋯⋯まだ、胸が湯船に浮くなんて感覚には慣れないね」

 

 

 

 流石に、中学校三年生にしては、育ち過ぎなのではないか。そんな疑問を浮かべながら、湯船に浮かぶ胸を眺める。

 多分、現状で雪音クリスよりかは小さく、かといって立花響よりは大きいだろうサイズ。これが成長しないことを祈ろう。

 

 前世では、触れたこともなかったそれ。前世で出会った三次元の誰よりも大きなソレを、両手で持ち上げるようにして眺める。

 

 

 

「ん⋯⋯」

 

 

 

 変な感覚が走る。

 昔なら、刺激が強過ぎて目を逸らしていたのだろうが、自分に付いてしまってはそうでもない。肩は凝るし、蒸れるし、むしろ良いところなどないのではなかろうか?シンフォギアを纏っている時はそうでも無いのだが、それが逆に、私生活ではその存在感が微妙に強いが為に、煩わしく感じることもある。この脂肪の塊め。前世の僕は、ガタイは良いけど鍛えてない系男子だったが、その身体よりもふにふにしてるってなんなんだ。鍛えても、大して筋肉が主張することは無いだろうし⋯⋯。はぁ⋯⋯。

 

 ⋯⋯なんで、胸についてこんなに考え込んでいるんだろうか。

 

 のぼせたのかもしれない。

 

 

「ふう」

 

 

 僕は、サッとシャワーで汗を流して、風呂場を出る。

 備え付けられている洗面所で髪の毛の水分を絞り、手早く身体の水分をタオルで拭き取っていく。

 

 

 

「謹慎解除まで、まだあるし⋯⋯何をしよう」

 

 

 

 謹慎を言い渡されてから数日が経ったわけだが、やることが無い。学校の宿題とかは特に無いし、立花響との会談は昨日やったし。そんな頻度が多くて良いことでもあるまい。何かを切らしてもいないから、買い物もする必要が無いし。翼さんは忙しいだろうから、迷惑をかけたくないので、遊びとかには誘えない。いや、恐れ多すぎて、ひまだったとしてもさそうことはできないだろう。

 

 そろそろ、本当に何も浮かばなくなってきた。

 

 

 ⋯⋯そうだ。奏さんのお見舞いに行こうか。ここのところ、足を運べていないし。うん、それが良いだろう。

 

 今後の予定を決めながら、右手の義手を念入りに拭いていたその時である。

 

 

 

「うわっ⋯⋯!?」

 

 

 

 スポッという小気味よい音を立てて、義手が外れてしまった。慌てて付け直すが、接続は出来ても、『欠陥的なエラーが発生しています。使用を中止し、担当者にご連絡ください』というアナウンスを流すだけ。力を入れようとしても、うんともすんとも言わない。

 あれ、これ壊したりしてない⋯⋯?何か、やばそうだ。確実に壊したような気がする。

 

 ああ、そう言えば、メンテナンスしてなかったなぁ。ここのところ、結構酷使してたし⋯⋯。少し便利な手足程度にしか考えてなかったけど、そう言えば、これは精密機械だった。

 

 ⋯⋯明日は、フィーネの所に行こう。

 

 

 

 

 ▽

 

 

 

 あの後、片手だけだったので、眠るまで若干の苦労をしながらも、昨日を過した僕。

 翌日、僕は、連絡を入れた通りの時間に、リディアンの地下に赴いていた。

 

 

 

「随分と派手にやったな⋯⋯」

「ごめんなさい⋯⋯」

 

 

 

 呆れた顔で義手を見つめるフィーネに、なんだか申し訳ない気持ちになる。

 義手をデスクの上に置いて、何やら機材を操作し始めたフィーネを見ながら、ふと考える。

 

 櫻井了子の人格ではなく、フィーネ単体の人格も、別に悪い人ではないのだろう。いや、行いなどは確かに悪いことであろうけれども、彼女自身の目的は別に非難することでもない。むしろ、僕からすれば、好きな人の為にそこまで出来るのは、素直に尊敬するし、憧れさえも抱く。僕の現状が現状なだけに、尚更だ。

 

 

 

「メンテナンス自体は、あと一時間程度もあれば終わる。本部を回ってくるでも、此処で待っているでも良いが⋯⋯」

「待ちます」

「⋯⋯そうか。貴様も、物好きなやつだ」

 

 

 

 まあ、特にやることもないのに、一時間も待ち続けるなんて、確かに物好きかもしれない。だけど、物好きだからって、それが悪いことというわけでも無いだろう。

 

 ⋯⋯技術者とか⋯⋯。別に頭が良いわけじゃないけど、やってみたいかもしれない。小さめの工具を用いて義手を弄るフィーネを見ながら、そんなことを考える。

 なんというか、昨日、片手無しで生活して思ったのだ。片手が無いと、とても不便だと。片手だけでは、生きていけないわけではなくとも、生きていくのに苦労すると。

 まあ、技術者になるなら、誰かから教えを請わなければいけないわけで⋯⋯。頼れそうなフィーネは十中八九死ぬし、ナスターシャ教授(マム)は確実に死ぬ。ウェル博士は頼れないし、エルフナインが仲間に加わるまで僕が生きているかもわからない。

 

 

 ⋯⋯あれ、僕、別に将来について考える必要なくないか?多分、僕は、そこに辿り着くまでに死ぬだろうし⋯⋯。身も蓋もないことを言えば、ボクっ娘は二人もいらない。

 

 はぁ。無駄な思考に無駄な労力を使った⋯⋯かな。最近、意味もないことを取り留めもなく思考し過ぎてる気がする。

 そんな暇は無いというのに。

 

 

 

 でも、なんだろうか、この喪失感は⋯⋯。自分が、そこまで生きていないだろうということを考えると、無性に心苦しくなってしまう。頭に過ぎるのは、翼さんや二課の面々、立花響。そして、奏さんの姿。

 

 僕は、フェードアウト必至の舞台装置(転生者)のはずなのに。僕が、この世界に私情で居残り続けて良いはずが⋯⋯。

 

 

 

 

 

「不知火唄。どうして、涙を流している」

 

「⋯⋯え?」

 

 

 

 言われて初めて気がついた。

 頬を伝う雫を、服の袖で拭う。どうして、涙なんか。涙を流す理由なんて、無いのに。

 少女の体になって、涙腺でも弱くなっているのだろうか。

 

 

 

「はぁ。そんな調子で、私の駒が努まるのか?」

「⋯⋯出来るとも」

「⋯⋯なら良いが」

 

 

 

 フィーネは、それ以上は言わずに、また作業に戻ってしまう。

 ⋯⋯訳が分からない。本当に、理解が及ばない。

 

 僕は、フィーネに一言告げて、その場を後にするのであった。今は、頭を冷やしたい気分だった。




な、なんでお気に入り登録数が100を超えてるんですかぁ⋯⋯!?
嬉しいけど、下手な作品は書けないなと戦々恐々。精進することを、再度決意致しました(真顔)


感想、誤字脱字報告、お気に入り登録や評価など、よろしくお願いします。

⋯⋯テンポ良く行きたい(願望)
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