僕のシンフォギアへの熱意は、本物だと、自負してます。だから、翼さんは死にません!!(ネタバレ)
突貫と同時に振り下ろした大剣は、物の見事に翼さんの剣技でいなされる。まあ、当然だろう。こちらは、力を持っているだけ。特別な技術もなく、ノイズを屠る為だけの術しか持たないのだ。人間との戦いなど、ハナから想定していない。
このまま追撃を受けるのは拙い。飛び退いた僕に、翼さんは、悲しそうな顔をした。
「どうしても、戦うのか?」
「⋯⋯翼さん⋯⋯多少手荒になりますが、殺しはしません」
「⋯⋯唄に、人殺しなんてさせない」
「なら、折れてください」
「それは無理な相談だ。私は、唄だけが傷つくのを許容出来るほどに人として腐ってはいない」
翼さんは、優しい人だ。
だからこそ、僕は、貴女を傷付けなくてはならない。貴女は、貴女のやりたいことをしていれば良い。傷付くのは僕の役目だ。
『二人ともやめろ!! どうして、味方内で戦う!?』
インカムから聞こえる風鳴弦十郎司令の声を無視して、翼さんを見据える。
手持ちのLiNKERは四本。大剣の稼働時間は五十秒から一分の間。大剣以外に使える武装はない。つまり、最低で二百秒。最大でも二百四十秒が僕の戦える時間だ。
それまでに、翼さんには折れてもらうしかない。
「行くよ!」
「来いッ!!」
地面を踏み砕いて突貫。放たれた焔を纏う薙ぎ払いは、またも翼さんには回避され、空を焦がすことになる。流れるような動作で放たれた蹴りの直撃を食らってしまった腹部が、痛い。
衝撃と痛み、熱さで涙が滲む。
「ぐうっ⋯⋯!?」
「まだ、やるのか?」
「当たり前⋯⋯!」
今度は、片手で振り回し、そのまま遠心力に任せて翼さんへと接近。これならば、いなすことも避けることも出来まい。
「その程度の動きッ!」
「⋯⋯かかったね」
「くっ!?」
上に飛ぶ以外に回避する方法はない。だが、それこそが、僕の狙い。
僕の上空へと躍り出た翼さんへ向けて、力任せに大剣を真上に振り上げて、
「そんな使い方も⋯⋯」
「⋯⋯奇襲しても、それだけしかダメージを与えられない⋯⋯か」
「⋯⋯もう辞めにしよう。私と唄、そして奏の三人。一緒に戦えば、それで良いだろう?」
一緒に戦う。それじゃダメなんだ。
弱い僕では、翼さんと奏さんを守ることは出来ない。戦姫絶唱シンフォギアシリーズの翼さんを知っていても、この世界の翼さんが、同じ軌跡を辿るとは断言出来ない。むしろ、僕というイレギュラーが介在することで、原作とは違った展開を迎える可能性だってあるんだ。いや、もう既に奏さんの生存という原作とは違う展開を迎えている時点で、原作と違う展開を迎えるということは確定している。
だからこそ、死んでも問題ない僕が人柱となる必要がある。
僕は、戦姫絶唱シンフォギアをハッピーエンドにする為の保険。舞台装置にして、イレギュラーの歯車なのだから。
冷却が始まった大剣を見て舌打ちを漏らし、LiNKERを取り出して首に打ち込む。身体を酷使する感覚が分かる。いや、限界を超えていく感覚か。
「ぐっ⋯⋯う⋯⋯ッ!?」
「もう辞めろ!」
「まだ、ですよ。まだ、終わっていない⋯⋯!!」
僕は、守りたい人に武器を向けるなんていう最低な方法までやって、この世界に根付く
今の僕には、それが出来るだけの力がある。それをするだけの覚悟もしたつもりだ。
だから、目的を果たさない限りは、止まらない!!
「⋯⋯オーバーヒートォ⋯⋯レェヴァァ⋯⋯テイン⋯⋯!!」
――OVERHEAT>LAEVATEINN――
大剣が加熱されると同時に、自らの肉が過熱する。この力を振るう時、僕は完全に麻痺している。だから、己のやっていることを半ば思考放棄して為そうとしている。だけれども、僕が今やっている事だけは、重大かつ原作ファンを語るには到底許し難い行い。それだけは分かっていた。
分かっていてなお、止まるつもりはなかった。
「唄⋯⋯」
「⋯⋯翼⋯⋯さん」
「⋯⋯お前が何を考えているのかは、私には分からない」
当たり前だ。僕は僕で、翼さんは翼さんなのだから。どう足掻いたって、僕の考えることは翼さんには分からないだろう。僕は、原作の記憶で、何となくこんなことを考えるだろうな、翼さんはこういう人だから、という予測しかできない。それでも予測であって、それが合っているとは限らないが。
だから、そんな悔いる顔を、しないで。貴女が気に病むことなんて、何一つ⋯⋯。
「だけど、お前がどれだけ悩んで、どれだけ悔いても」
「⋯⋯それ以上は⋯⋯」
それ以上は言わないで、翼さん。
僕が、僕を本当に殺したくなる。ただでさえ許せない僕を、本当にこの世界から消し去りたいと、それを実行しようと考えてしまう。
「私は、唄の味方だから。唄の重荷も、私が一緒に背負う。それは、奏だって絶対に「そこにボクの居場所は必要無い!!」⋯⋯唄⋯⋯」
僕は、ぽっと出の転生者だ。原作を破壊するイレギュラー。しかも、この身体の半生は、僕が積み上げてきたものじゃない。
僕とボクが根本的に同一な存在であったとしても、僕は、ボクじゃないんだ。だから、ボクが居る限り、僕が貴女達からの優しさを得ることなんて、まず有り得ない。
「唄は、私達のことをどう思っているんだ?」
「⋯⋯ッ! ボクは、翼さんと奏さんのことを大切なヒトだと思ってます!ボクは、ツヴァイウィングのファンでありたいから! それ以上に、貴女達を好きだから⋯⋯ッ!」
だから、二人を守るために、僕が命を張ってるんだ。一人のファンである僕が、引き裂かれる運命にあった二人を救えるだなんて、これに勝る光栄なことは無い。二人の為に原作を改変したことに、後悔なんてない。これほどまでに喜ばしいことなんてないんだ。
⋯⋯ない、はずなんだ。
「私達だって、唄のことが好きだ。背中を預ける仲間として、共に生きる家族のような存在として、唄のことを想っている!!」
「翼⋯⋯さん⋯⋯」
なんで、こうも、この人は優しい人なんだ。
いっそ、僕が嫌いになるような、そんな腐り果てた人間であってくれたら⋯⋯なんて思いはしない。この世界に生きる人々は、こんな異物である僕が居たところで、変わることは無いんだろう。
⋯⋯正直言えば、一度死んだからヤケになっているだけで、本当は怖い。傷付くのだって嫌だし、自分の力で自分が死にかけるのも嫌だ。
僕が、ボクじゃない。僕の中に違うボクがいることも、怖くて堪らない。
───だからこそ、尚更に引くことは出来ない。
何もせず、怯えてただこの世界に居座るだけの
「ボクは、貴女を全力で倒す。その上で、貴女を守る」
「なら、私は、お前を止める。お前の頭を冷やさせて、
「⋯⋯昔の⋯⋯よう⋯⋯」
⋯⋯ふざけるな。僕に、昔なんてものは無い。貴女達との思い出は、ここ半年分しかないんだよ。
怒りに、視界が狭まるような感覚を覚える。理不尽な、八つ当たりでしかないと、僕も分かってる。分かっているんだ。
だけど、この寂寥感と苛立ち、一人取り残される様な、そんな感覚を解放したい。
そんな思いが止まらないんだよ⋯⋯ッ!
一本を、無駄にした。手持ちのLiNKERは後二本。この二本で、何としてでも翼さんを折る。
LiNKERを首筋に打ち込む。朦朧とする意識を、頬の肉を噛みちぎることで繋ぎ止める。他の痛みが強過ぎたせいか、あまり痛くは感じなかったが、口に穴が空いた違和感のおかげで頭が妙に冴えた。
「⋯⋯翼、さん⋯⋯ッ!」
「⋯⋯唄」
地面を踏み砕く。今度の一太刀は外さない。致命傷は与えぬように、彼女を倒す。神経を集中させれば、初心者の僕でも出来る。
僕は、選ばれたのだから。
ツヴァイウィングを、翼さんと奏さんの笑顔を守る為に、数多いる原作の展開、天羽奏の死を好ましく思わない
なら、出来ないはずはない。出来ないのなら、僕が選ばれた意味が、僕が生き続ける意味が無い。
あの神話を、もう一度、僕が成してみせる。それ以外の未来などありえない。これは確定事項なのだ。
災厄の大剣が、
「───⋯⋯唄。私は、唄を信じているよ」
「⋯⋯え⋯⋯?」
───翼さんの身体が、夥しい程の血を撒き散らしながら宙を舞った。
そうして、地面に吸い込まれるように着地し、僕の身体に、血が付いた。
「嘘⋯⋯だ⋯⋯?」
訳が、分からない。なんで、翼さんが血を流している?なんで、僕の力、この大剣に、血が付いているんだ?
嘘だ。
嘘だ。
嘘。
嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘!!
「ボクが、翼さんを手にかけるはずがないッ!」
だって、僕は、翼さんと奏さんのカップリングを成立させる為の歯車で。それ以外の何者でもなくて⋯⋯ッ!
ありえないだろ。歯車が、本体の機械を自ら壊すなんて。イレギュラーだからなのか?僕が、イレギュラーで、ボクじゃなかったから、こんなことになったのか?
なら、なんで僕は転生したんだ?僕がここにいる意味は何なんだ⋯⋯!?
「何をやっている!! 今すぐに翼を運べ!! 聞いているのか、唄君っ!!」
「⋯⋯風鳴弦十郎司令⋯⋯僕、何をしたんですか?」
「⋯⋯っ!?」
焦りを孕んだ風鳴弦十郎司令の声が、聞こえる。
振り返った僕の顔を見て、額に汗を滲ませた彼は、その相貌を悲痛に歪めた。
「⋯⋯クソッ、嘆くのも呆けるのも、説教も後だ! 翼を死なせたくないなら、動け!!」
翼さんを、死なせたくないなら。
半ば、放心しながらも、その言葉だけを頼りに、僕は翼さんを丁寧に抱き抱え、風鳴弦十郎司令の車へと運び込んだ。
押し込まれるように助手席に座ったところで、僕の意識は途切れた。
本当なら、ランキング載ってたとかそういうことではわはわしてたんですけど、今回ばかりは真面目な顔で投稿しなくちゃいけないと思いまして。
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