誤字修正。名無しの通りすがり様、椦紋様、化蛇様kuzuchi様、たまごん様、仔犬様ありがとうございました!
ブラック・ジャック
世界は物語に満ちている。
例えば本の中に、例えばテレビの中で、例えばインターネット上に、例えば人の話の中でもいい。
舞台は現実世界に近いものから近未来、過去であったり完全な異世界もあるだろう。
ちょっと想像するだけでも、頭の中に幾つも名前が出てくるはずだ。
そんな世界が一つに纏まったらどうなるだろうか。
ああ、言いたい事は分かる。そんなに世界が纏まるか、とかそもそも住む所が足りないだろうとか、普通に考えて問題は沢山出てくるだろうな。
この問題に対してこの事態を引き起こした奴の解答は、最高にクールだった。
グルメ界って知ってるかい?
ドンドン、ドンドン
詰らない考えで時間を潰している時は詰らない用事が入ってくるもんだ。玄関を叩く音に俺は顔の上に乗せていた雑誌を退けて起き上がる。
事務所兼住宅兼作業場にしているこの山荘に人が来ることなんて稀だ。たまに噂を聞いた
どいつもこいつも世間の慌しさに疲れ果ててセミリタイアしている世捨て人共だ。
「おい、レオリオ」
弟子志望だと名乗る小間使いの名を呼ぶが、返事が無い。そういえば麓の方まで買出しに行くとか言っていたな。明日まで戻る事はないだろう。
玄関のノック音は止む事がない。仕方なくソファから立ち上がって、俺は玄関に向かった。
時空統合事変から3年の時が経過した。
数多の世界、それこそ次元の違うような存在が犇く世界から現代日本と変わりない、しかし若干の違いを感じるような世界、海ばかりの世界、そもそも人の居ない世界。
いきなり発光現象のような物に包まれ、訳も分からず隣にいきなり現れた彼ら彼女らは、まず最初に最も原始的な対処を隣人達に行った。暴力による事態解決である。
勿論、互いに被害者同士で殴り合っても事態は元に戻らない。ある程度時間が経つと互いの状況が飲み込めてきて、自分達がやらかした事を理解できた連中は良い。
だが、飲み込めた後にこれはチャンスだと更に勢い良く闘い始めた連中も居た。人々は纏まることなく争いで無為な時間を過ごし、ついに破局を迎える。
大量の宇宙怪獣の進撃とBETAの来襲だ。
この宇宙から(世界によっては宇宙という概念すらなかったが)の侵略によって結構な数の世界や国が滅んで、そこでようやく人類や知的生命体は気がついた。
自分達は決して安全な揺り篭の中に居る訳ではないということに。
「・・・ここに居るんやね」
人間同士で争っている場合ではないと気づいた人類及び知的生命体の集団は互いに条約を結び無駄な争いを取りやめ、知性もつ存在にとっての害悪達に対して協力して当たる事を決定。
瞬く間に戦況を覆し、外敵の排除に成功。統合暦3年を迎えた今。この広大な世界は小康状態のような情勢を迎えていた。
「うん・・・・・教えてもらった座標はここで間違いない」
「こんな小さな村に・・・・・・」
さて、この人類及び知的生命体の集団、通称防衛機構は数多の政府や国家が所属しており、彼らの組織を一つに再編し戦力化することで強大な外敵に対抗しているのだが。
この政府の中でもとりわけ規模の大きな組織の一つに、時空管理局という数多の次元を管理していたという組織が存在する。
「・・・この家だ」
ドアノッカーを数回叩く。返事は無いが、内部には誰かが居る反応はある。時間帯は昼を少し過ぎた辺り。昼寝でもしていたのか、動きは鈍い。
もう一度ドアノッカーを叩くと、サーチャー越しにノロノロとした動きを感じる。どうやら本当に寝ていたようだ。
「良いご身分やなぁ・・・私らは激務の合間を縫って来とるのに・・・羨ましい」
「はやて。最近寝れてるの・・・?」
「タンクベッド睡眠を使ってようやく捻出した時間やで・・・・・・」
フェイトの言葉に八神はやてはため息をついた。
疲れは取れるけどなぁ・・・と思いながら、はやては自身の後ろに立つ少女を見る。彼女の親友、高町なのははずっと無言ではやて達の後ろに付いて来た。
その手には魔力封じの腕輪が付けられており、更にいつも彼女が身につけているレイジングハートは今はやてが預かっている状態だ。その顔には生気が無く、ただじっと暗い眼をして俯いている。
こんな顔の親友を見たくなかった。
自分の今までの馬鹿さ加減を振り返り、はやては歯噛みする思いだった。はやてが過去を振り返ろうとしたとき、山荘のドアが開かれた。
「・・・・・・どちら様かな?」
イメージよりも大分若い声がはやて達の耳に届く。頭髪の半分が白髪で、もう半分は黒々とした黒髪が覆っている。
そして、顔の一部分は手術跡を刻まれており、褐色の肌をしている。間違いない。
「ブラック・ジャック先生・・・本当にここにいた」
この世界が統合した際、初めてドラえもんを見た時の感動が蘇ってくる。
自分達が知っている声よりは何故か高い声だったが、アニメで見るときと現実で見るときは違いがあって当然だ。世界の中には自分達がアニメになっていた場所も有ったらしいし、そちらは似通った声だったので少し驚いたが。
ブラックジャック、と言われて男性は少し苦々しそうな顔になった。厄介ごとだと思われたのだろう。事実、その通りだった。
「先生、お願いがあります。報酬はなんぼでも払います」
「・・・・・・人違いだ。私はブラック・ジャックなどという人間では」
「先生が統合軍に追われていたのは知っています。名前を隠して隠棲している事も。でも、お願いします。私達の、私の親友を助けてください・・・!」
防衛機構が発足される前。
地球系の組織を束ねた統合軍という組織があり、彼らはその名声からブラックジャックを追っていた。彼の医療技術はこの統合世界であっても決して色あせておらず、統合当初から各地を回って現地の医療技術を習得。
その地でも類稀な功績を挙げて惜しまれながらも世界を回り続け、当時は最も有名な地球系の人物として名前の挙がる人物だった。
だが、有名であったり実力があるという事は決して良い要素があるわけではない。
ついには魔法技術による医療まで習得したブラック・ジャックを、その名声と技術に目がくらんだ統合軍と名乗っていた武装組織が拉致しようとし、結果統合軍と幾つかの世界が戦争を開始。
彼の存在は、BETAの侵攻まで続く人類間の争いの一つの原因になってしまったのだ。
そして、そこから2年。防衛機構は隠棲している彼に対する、言わば御用伺いという形でエージェントを派遣する事を決定し、今私達はここに居る。
といっても、仕事なんて二の次だ。
自身に縋り付くはやてを見る彼の目は、幾分困惑気味だ。彼と面識のある人物や、彼の事が記されている書籍・・・漫画と言う物を読ませてもらったが、それらで知れる彼の人となりは決して悪性の人物ではない。
そんな彼が、年端も行かない少女に縋り付くように懇願されれば困惑もするだろう。
「一先ず、中に入りなさい。春とは言え山の風は冷たい。ああ、君らのバリアジャケットはそういった物は関係ないのだったか。1人だけバリアジャケットを着ていないようだが」
「・・・・・・お言葉に甘えさせていただきます」
「・・・・・・」
フェイトに促されるようになのはも後に従う。その様子をじっと見ているブラック・ジャック先生は、「さ。君も立ちなさい」とはやてに声をかけて室内へと促した。
はやてはぺこり、と頭を下げて、玄関のドアを潜る。
中はまさに山荘といった様相をしており、原作の彼が住んでいたボロ屋をイメージしていた私達の予想を良い方向に裏切っていた。室内も清潔で、掃除が行き届いた様子だ。
彼はまず、来客用だろう座り心地の良さそうなソファに3人を誘導し、テーブルの上に3人分のティーカップを置いた。
手伝おうとしたフェイトを手で制止し、魔法瓶のような形をしたポットをもってそれぞれのカップにお茶らしき飲み物を入れる。
「以前、とあるエルフ族の下で魔法を習っていた時に仕事の対価として貰った物でね。無限にお茶が湧き出るポットらしい」
「そんな物があるんですね。いただきます」
「ああ。味は保証しよう」
カップに一口つけて驚く。一口目はお茶だと言うのにすっきりとした甘みを感じ、二口目にはさっぱりとした喉越しを感じる。
一口ごとに味が変わるという不思議な体験に、同じく口をつけていたフェイトも驚いたのか目を白黒させながらカップを傾けていた。
「・・・君も飲むと良い。体を温めるのにはうってつけのお茶だ」
「・・・・・・頂きます」
それまでじっとブラック・ジャック先生を見ていたなのはちゃんの視線を受けて、彼はそう言った。
なのはちゃんはその言葉に従い、少し間をおいてカップに口をつける。
小さく「おいしい・・・」とだけ呟いて、無言のまま彼女は少しずつカップを傾けている。
彼ははやてを見るとおかわりは良いか?と尋ねてきた。気づいたら自身のカップの中身が無くなっていたのに気づき、はやては少し恥ずかしい思いをした。
結局、本題に入るまでの10数分の間。私達は言葉少なにお茶を楽しむ事になった。
気分は決して持ち上がっていないが、長旅の疲れが楽になった気がする。もしかしたらここまで視野に入れてお茶を入れてくれたのだろうか。期待と不安がより大きくなるのをはやては感じた。
「余命は2年という所か。良くぞここまで壊したものだ」
ブラック・ジャック先生になのはの診察を頼み、数十分。
診察室に通されたはやてとフェイトを待っていたのは、蒼白になったなのはと、無慈悲な宣告を告げるブラック・ジャックの言葉だった。
崩れ落ちそうになるフェイトをはやてが支える。
兆候はあったのだ。自身だって、フェイトだって気づいていた。なのはが無理をしているのは知っていた。
1年前の大戦終了間際。大きな戦いがあった。その時、彼女はBETAの大群に孤軍奮闘し、味方の救援が駆けつけるまで戦線を維持し続けていた。
撃墜判定を何度も受けるような大怪我を治療魔法で何度も癒し、彼女は闘い続け、戦線は維持され全体の戦局は防衛機構側に有利な形に持っていき。
最終決戦に繋げる事が出来たのには間違いなく彼女の存在が大きな要因だった。
管理局出身のエースオブエースの活躍は当時、大きな扱いになった。特に防衛機構は管理局のノウハウを元に形作られた部分も多い為、彼女は英雄として賞賛される事になった。
その英雄は、無理のしすぎが祟り重度の魔法障害を発生。魔法を使用するだけで全身に激痛が走り、しかも寿命をドンドン削っていく状態になった。
防衛機構側は彼女が無理をしなくても良いようにという名目で閑職の名誉職に彼女を押し込め、彼女を客寄せパンダとして式典などで使い倒す始末。
そしてつい先日。発作を起こし倒れた彼女を待っていたのは、栄誉ある引退という事実上の解雇通達であった。
「英雄が勤務中に病死なんて、そら堪らんやろうなぁ。でもなぁ、皆の為に体を張って、頑張って頑張って、頑張りすぎて。その後に待っている結末がこれって、あんまりや。あんまりやないか!」
慟哭するはやてに、フェイトはただ静かに涙を流してなのはを抱きしめる。
顔面蒼白状態のなのはは、ただぼうっとした表情で自身の体の内部を写したというレントゲンのような物を見る。
その写真には、心臓に近い部分にある何かを中心に、ボロボロになった自身の臓器や血管の画像だった。
「お前さん方のようなタイプはこのリンカーコアだったか。ここを中心に魔力を取り込み蓄積し、外部に放出するんだったな。これはこの器官が破壊されたせいで魔力を外部から取り込んだ瞬間に漏れた魔力の余波が周囲の臓器を傷つけているんだな。激痛どころか2、3日動けなくなってもおかしくない。場合によってはショック死しかねないはずだがな」
その魔力封じの腕輪が無ければここに来るまでに死んでいてもおかしくなかった。そう彼は言った。そして、よく治療されている、とも。
今この場に居ないはやての騎士、ヴォルケンリッターははやて達が抜けた穴を必死で埋めてくれているはずだ。
その内の1人、なのは達の主治医を勤めている湖の騎士の、無力さを悔やむ顔が思い出される。彼女が居なければ、なのははここまで命を繋ぐ事すら出来なかった。彼女の努力は、決して無駄ではなかったのだ。そして、彼女達の前には、間違いなく現在の世界でも最高峰に位置する医者が居る。
「先生・・・お願いします。どんな、どんな対価でも払います。なのはちゃんを、助けてください」
「駄目だ」
懇願するはやてに対してブラック・ジャックはバッサリと切り捨てた。
絶句するはやてとフェイトを尻目に、ブラックジャックはなのはを見る。
未だに顔を青くしたまま、友人にされるがまま流されている少女の目を、彼は見た。
「この世界で私の欲しいものなんて無い。金も名誉も、女も永遠の命だって私は興味が無い。だからお前さんを助ける理由が今、私には無い。わかるな?」
問いかけるように尋ねるブラック・ジャックの言葉に、無言のままなのははブラックジャックを見る。
「先ほどから見ていれば何を絶望しているのか知らんが、お前さんの態度は目に余る。親友の影に隠れて震えているのも良いが、結局お前さんは何をしたいんだ?どうなりたいんだ?」
恐らく、前の世界では高校生位の年齢の彼女に問いかけるには重い言葉かもしれない。
だが、ブラックジャックは聞いていないのだ。
彼を動かす為の彼女の言葉を。
「わ・・・・たしは・・・・・・」
「私はなんだ?」
急かす様に問いかけるブラック・ジャックにフェイトが声を上げそうになるが、はやてが押し止めた。
これは邪魔してはいけない。これは、試練であり儀式なのだ。
なのはが生まれ変わる為の。生き直す為の。
「わたし、は・・・・・・」
「大きな声で言ってみろ!」
「私は、生きたい!まだ、死にたくない!」
堰が切れたように彼女は叫んだ。
「まだ、生きていたい!お父さんやお母さんに甘えたい!お兄ちゃんやお姉ちゃんと話したい!フェイトちゃんやはやてちゃんともっと一緒に居たい!すずかちゃんやアリサちゃんと笑いあいたい!素敵な人と出会って、恋をして、結婚をして、子供を生んで、幸せに生きたい!まだ・・・・・・死にたくない!」
「そうか。なら、聞かなければいけないな」
なのはの叫びを聞いたブラック・ジャックは、彼女の涙に濡れた目を真っ直ぐ見つめた。
「私の報酬は高額だ。一生かかっても払いきれない人物も居る。貴女に払いきれますかい?」
「・・・払います。一生かかっても、必ずお支払いします!だから・・・・・・助けて!」
「その言葉が聞きたかった」
結論から言えば、彼女は助かった。
魔術を用いた壊れたリンカーコアの摘出手術を行い、これを除去。
彼女は魔法を使えなくなったが、これ以上内臓や体を傷つける事はなくなった。
といってもここからが本題で、傷ついた状態が常態化した内臓のリハビリと治療を行わなければならない。魔法による病状でもっとも面倒なのは、治療魔法という便利な存在による安易な回復の結果、体が変質してしまう事だろう。まぁ、病状を悪化させる物を取り除いてよかっただけ今回はマシだ。気長に治して行けば良い。
「レオリオ、なのは君はどこに居る?」
「ああ、何でも七実さんに稽古をつけてもらうんだと」
「止めろ馬鹿。あの子は病人だぞ」
「いや、そう言われても止まらないものは止まらないですよ先生。ああいう奴他にも知ってますがね。あの手の奴はぶっ飛ばさないと」
そのぶっ飛ばして止める役割をお前に担って欲しいんだが。
いや、そうか。こいつああいう可愛い子には極端に弱いんだったな。人選ミスだったか。今度はトキ先生に頼もう。
「しょうがないか。診察があると言ってつれて来い。七実君も合わせて検査を受けろと言っておけ」
「了解です。ブラック・ジャック先生が呼んでるとあればすぐに来てくれるでしょうね」
「七実君も気難しい子だからな」
後、俺はブラック・ジャックじゃないんだが。
何度言っても信じてもらえない言葉を飲み込んで、間黒夫(あいだくろお)は空を見る。
こんな奴が1人居ても良いよね、等と言って彼をこの世界に送り込んだ超存在に向かって呪詛を送ってみるも返事は来ない。
ため息をついて、ならば他の神やら何やら何でも良い。
次の統合があるというなら、ブラック・ジャックをよろしく。
間黒夫(あいだくろお):ブラック・ジャックにそっくりな外見でこの世界に落とされた転生者。医療に関してのみ適用される能力『最適解』を有しており、どんな病気も怪我も命が繋がる状況なら直す為の道筋を見つける事ができる。その為に必要な技術や魔法の習得の『最適解』も分かる為、当初は調子に乗っていたが統合軍を名乗る組織に狙われた際に全部嫌になって逃亡。彼に命を救われた人物や彼の技術を尊敬し手助けする人々に匿われながらとある山に隠棲している。外科手術の腕前は本当にブラック・ジャック級のため、違うといっても信じられない。
レオリオ:黒夫の医療技術に魅せられて弟子入りを志願。ピノ子枠だけど可愛くない。キメラアント編終了時点位で世界が統合されてしまい、右往左往しているときに黒夫の手術を垣間見る機会がありシンパ化。
高町なのは:リハビリとして村に住み着く。最終的には外部で修復したリンカーコアを入れて魔法を使えるようになる、と言われているが、防衛機構に戻るつもりは無い。黒夫の「その言葉が聞きたかった」と言った時の微笑みにキュンとなった模様。
フェイト・T・ハラオウン:防衛機構の法務執行官。親友が無事助かったのはいいが、戻ってこなさそうだなぁと寂しいやら応援したいやら複雑な気分。
八神はやて:三人で一番忙しいはずの自分に何故春が訪れないのか。おかしい、こんなことは許されない。
トキ先生:名前だけ登場。北斗の拳出身。医者として黒夫の技術に魅了されたが、同時に危うい所も感じており何かと彼を助けている。
鑢七実:お前のような病人がいるか枠。生来の病を複数患っている為長生きは出来ないと諦めていた所に唐突に生存の道筋を出された。今は弟と一緒に村で療養をしている。毎晩黒夫の寝所に忍び込もうとしてトキ先生とやりあっている。