ブラック・ジャックをよろしく   作:ぱちぱち

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何度か修正を入れては消してを繰り返し何とか形になりました。
それでも違和感がある。流石に彼は難しかった!

誤字修正。Kimko様、佐藤東沙様、 オカムー様、椦紋様、名無しの通りすがり様、仔犬様、ハクオロ様ありがとうございます!


ルパン三世

「はっきり言えば少し驚いているよ。君がここに居るその事実にね。立ち話もなんだ。そこの椅子にでも腰かけたまえ」

 

 随分と不思議な空間だった。ギリシャ風の建築物が立ち並ぶ中。間違いなく屋内である筈なのに、何故か空があるその空間の中の一角。

 

 小高い丘の上にある彼お気に入りの場所で、彼は優雅にハープを奏でながらそう客人に話しかける。

 

 自身に向けられた銃口を気にする風でもないその態度に、客人は大きく鼻を鳴らした。

 

 歯牙にもかけられていない――わけではない。明らかに目の前の人物は自身を意識している。だが、その上でこの態度だという事は、だ。

 

「あららら。随分舐められちゃってまぁ……俺が引き金を引けないとでも思うのか?」

「君を信頼しているんだよ。例え未来がどうあれ、君が現在敵対している訳でもない人物にその引き金を引くことはない、とね」

「……俺はお前の死因だぞ」

「それは最早関係のない話だろう。君にとっても――私にとってもね」

 

 そう言ってハープを弾く老人。ハワード=ロックウッドと名乗る男は対面に立つ男に笑顔を向ける。

 

 

 

 

 世界が大きく変化した事に気づいたのは恐らく異変から数週間経った頃だろうか。後から思い返すと少し腹立たしいが、俺も世間一般で言う所の”常識”って奴に毒されていたのだろう。

 

 世界の外なんて物が本当にあるなんて想像する事が出来なかった。地球の果てなんてものが出来てしまうなんて思いもしなかった。

 

 だが、一度その事実に気付いてしまえば話は別だ。まだ見ぬ世界。誰も知らない新天地。そんな物が手を伸ばせば届く距離にあるんなら、手を出すのが人間というもの。

 

 かく言う俺もその口だった。数人の仲間と住み慣れた古巣を離れ、途中途中に拠点を作成して数か月。どこまでも続くゴムまりのような地面に飽き飽きしていた頃。

 

 少しこれまでと毛色の違う色合いの土地を見つけた俺達は期待に胸を膨らませてそこを訪れ、多くの驚きと感動、カワイ子ちゃんとの出会い……そして何よりも。これまでに想像したこともないお宝の数々と出会ったのだ。

 

 それらは俺達に確かな満足を与えてくれたが一つの成功では俺の冒険心を満たすことは出来なかった。

 

 そこを更に拠点として足を延ばし次、そのまた次の世界という形で行動範囲を広げていき、新たな冒険とロマンの数々を味わい七つの世界を股にかけ。

 

 やがて俺達は行く先々で小競り合いのような事象に巻き込まれることが多くなった。様々な世界を股にかける俺達と同じように、他世界にちょっかいをかけている連中が存在したのだ。

 

 統合軍。多数の世界を文字通り一つに云々とご高説を垂れるくそ共の集まりだ。

 

 元々はまた別の組織に所属していた連中の中でもはねっ返り共の集まりで、連中は自分たちが保有する武力と技術力をかさに着て別組織からの独立を図り。その結果、はた迷惑な人間同士の大きな戦争を引き起こす事になる。

 

 これが対岸の火事で済めば良かったんだが、連中は俺達が拠点にしていた世界にも粉をかけてきやがった。

 

 当然俺達にとって面白い事態じゃないが、仮にも相手は軍隊だ。一時的に出し抜くことは可能だろうが個人のグループが延々戦い続けられる相手じゃない。

 

 そいつらの敵対勢力に連中の情報を流し、それを対価に邪魔な連中を潰す。繋ぎを取ったバスクという将官は有能だった。

 

 こちらが渡した情報を有効に使い、ついでにこちらが望む報酬に対しても出し渋りしない。奴側からの余計な詮索もないという至れり尽くせりな関係だ。

 

 やがて統合軍と敵対組織……防衛機構の戦況は機構側が優勢となり、このまま押し切るのも時間の問題だと思われた、正にその時の事。

 

『見事。うぬらの妙技しかと堪能した』

『遊びが過ぎるぞ』

『許せウェスカー。戯れも時には良かろう』

 

 油断、だったのだろう。

 

 たった二人の男達に俺達は敗北し……薄れゆく意識の中海へと投げ出されたのがそこでの最後の記憶だった。

 

 

 

 

「さて、互いに忙しい身だ。用件を聞こうじゃないか」

 

 ハープを弾く手を止めてハワード=ロックウッド……マモーは客人にそう尋ねる。

 

 その言葉を聞いて嫌そうな顔を浮かべながら、客人は銃を下ろし、ドカリと椅子に座りこんだ。

 

「白々しいなぁとっちゃんぼうや」

「うふふふふ。君の口からその言葉を本当に聞くことになるとはな。彼との出会いは沢山の驚きを私に与えてくれる」

「ちっ、たくよぉ」

 

 皮肉気に語る言葉にもどこ吹く風とばかりに答えるマモーに客人は小さく舌打ちし悪態をつく。

 

 その様子を楽しそうに眺めながら、マモーはついっと手を上げて客人の背後を指さした。

 

「わかっているとも。そちらの彼に用があるんだろう?」

 

 マモーの言葉に釣られるように背後を向いた客人は、背後を振り返り。

 

「……先生」

 

 振り向いた先にあった懐かしい顔立ちに、客人は小さなため息をついた。

 

 

 

 

 最初に感じたのは、眩しさだった。

 

 浮き上がる意識の端を掴み、少しずつ眠りから覚める。感じる体の重さ。体中に巻き付けられた包帯の感触。自身が生きている事を五感で感じながら、俺は目を覚ました。

 

 知らない天井だ。少なくともどこかのアジトではない。体を動かそうにも固定されているらしく身動きが取れない。全身を貫く鈍痛から恐らくギプスで固定されていると仮定し、もどかしさを噛み殺しながら視線を周囲に配る。

 

 恐らく病室、だろうか。少し簡素だが白く、清潔な空間だと分かる。どうやら本当に一命を取り留めた状況らしい。

 

 動くにも動けず静かに周囲を見回していると、部屋のドアが開くような音が聞こえる。誰かが入室したようだ。

 

 医者だろうか、それとも。何ができるわけでもない状況だが、長年の癖が思考の回転を促す。

 

「どうやら意識を取り戻したようだな」

 

 思った以上に若い男の声。目だけを動かし、声のする方を見る。

 

 そこに居たのは、随分と奇妙な男だった。

 

「ああ、無理に動かなくとも良い。私は間。君の担当医だ」

 

 視界に入った男の顔には、大きな手術痕が刻まれていた。そこを境に色の違う皮膚が顔を包んでおり、また髪も一部分だけが白く変色している。

 

 間、という名前に恐らく日本人だろうと当たりを付け、言葉を発しようしてもがもがと口が動かない事に気付く。縫合されている、いや閉じられているというよりはむしろ顔の筋肉が動かない、と言うべきだろうか。

 

「喋らない方が良い。恐らく海に落ちた際の傷だろうが顔と胸、それに右腕と左の足は筋肉がズタズタになっていた。神経こそ繋いであるが、もう少し周囲が再生するまで魔法も使わん方が良いだろう」

 

 間と名乗る医師は淡々とした口調で今の俺の現状、そして何をしてはいけないのか、どこまでなら可能なのかを説明していく。

 

 それによると、基本的に体を動かすことは1週間は止めておいた方が良い事。今付けられている包帯は特殊なポーションが塗り込まれており、皮膚の再生をしてくれているので外してはいけない事。

 

 また、便意などがあった場合も最新鋭のスライム式おまるが装着されており、そのまま出してしまっても大丈夫だという。

 

 頷くことも難しいので返事は瞬きで返し、思った以上に大事になっている自分の状態と少なくとも命を繋いだ事実に二重の意味でため息を吐き……シュコー、と大きく音を立てる呼吸器の音で更に気分を滅入らせる。

 

「喉が渇いたと感じたら口に入れてある管を吸えば良い。ああ、暇つぶしに何か映画でも流そう。暫くは身動きすらできないからな」

 

 間医師がぴっぴと何かを操作すると、俺の顔のすぐ前に空中に浮かぶ画面が現れる。驚いた俺に対して間医師は相変わらず淡々とした口調でこれはコミュニケという電子ツールの機能拡張版で、視線での操作が可能な事を説明してくれる。

 

「いくつか入れているがアニメの映画しかないから暫く我慢してくれ。次の回診までには他の映画も用意しておこう」

 

 そう言って間医師は外部端末でコミュニケを操作し、映画再生の手順を口頭で説明しながら映画の一つを起動させる。

 

 間医師はその後も何か説明を行っていたようだが、俺はその時すでに始まっていた映画に意識を奪われていて彼の姿が消えている事に映画が終わるまで気づくことはなかった。

 

 その時に流れていた映像は『ルパン三世 ルパンVS複製人間』

 

 俺の姿をした俺の知らない誰かが、その画面の中に立っていた。

 

 

 

 

「違うな。お前は間先生じゃない」

 

 振り向いた先に居た特徴的な外見の黒い医師――ブラック・ジャックの姿をした何者かに険しい視線を向けて、客人――ルパン三世はそう言葉を放った。

 

「流石はルパン君。一目で見抜くとは……いや、当然だろう。一度しか彼と会っていない私ですらそう感じたのだからね」

 

 その言葉にマモーは機嫌良く笑いながら肯定の言葉を口にし、そして今度は残念そうにため息を吐く。

 

 彼にとってのライフワークの一つ、偉人のクローンの収集。それがこんな形で失敗したのは随分と久しぶりの事だからだ。

 

「身体的な意味合いでは99.9%彼と同じ存在であるのだ。だが、それ以外の何もかもが再現できない……その身に纏う空気、独特の圧力を持った視線。そして、何よりもあの神業と言わんばかりの技術……」

 

 指折り数える様にマモーはそう語り、そして再度落胆のため息を吐く。

 

 勿論このブラック・ジャックには医療技術を習得させている。マモー自身の長い経験による知見なども含めたこの偽BJの技術は世に名医と言われる人間たちすらも凌駕しているのは間違いのない事だった。

 

 だが、それでも彼と比べられる領域には辿り着いていない。ただ一度見たあの手術の映像を再現する事は出来なかった。

 

「彼との出会いは私に沢山の新たな発見を促してくれる。自身のクローン技術には些かなりとも自信があったのだがね」

「所詮は偽物って事だろう」

「ああ。銭形警部を騙せる程度の偽物だよ」

 

 そう言って再び不気味に笑う小さな老人に、ルパン三世は厳しい視線を向けた後に席を立つ。

 

 見るべきものは見た。そして、やはりあの男の再現は出来なかったという事も確認した。マモーが自分を欺いているかもしれない、とも考えるがこのプライドの高い男が自分に対してそんな小さな嘘を吐く事はない。

 

 何度も繰り返し見たあの映画。そして実際に会ったマモーという男。それらを踏まえて、ルパン三世は宿敵となったかもしれない男に背を向ける。

 

「おや、もうお帰りかい」

「見るもんは見れたからな。邪魔したぜ」

「またいつでも来ると良い。君と不二子、それにブラック・ジャック君に対して我が屋敷の門はいつでも開いているよ」

「随分とまぁ入れ込んでいるもんだ」

 

 マモーの言葉に振り返り、ルパンは揶揄するようにそう口にする。そして振り返った先を見て、ルパンは毒気を抜かれたように笑みを消した。

 

「当然さ。彼は尊敬に値する人物だ……私の最も好きな人種の人間だよ、あれは」

「……ああ。そうだな」

 

 まるで尊敬する偉人に出会った少年のようなマモーの表情にそう答える事しか出来ず、ルパンは曖昧な笑顔を浮かべてその場を後にした。

 

 

 

 

「ふむ。もう良かろう」

 

 俺が彼の患者になってから1週間。再生がある程度進んでからは魔法による治療へと移行し――先生は魔法での治療自体はそれほど好んでいないとの事だったが――そこから完治まではあっという間だった。

 

 ジョキジョキと包帯をハサミで切りながら、先生は俺の今後についてを語ってくれる。戦災被害者として救助された俺の身分は身元不明人のままになっており、登録や調査が必要なため専門部署に行って欲しい事。

 

 場合によってはすでに故郷が無くなっている、という事もあり、無策で戻ろうとするのはお勧めしないと彼はいつもの淡々とした口調で俺に告げる。

 

「戦sうは、まだ続いtいるのか」

 

 久しぶりに口の筋肉を動かしたからか、ろれつが怪しい事になっているが仕方あるまい。暫くはリハビリが必要だろう。

 

 幸い俺の質問は意味が通ったらしく、先生はいつもよりも眉間にしわを寄せながら戦乱は未だに続いている、と言葉少なに語ってくれた。

 

 この頃になると、どうやら目の前にいる先生は感情を表面に出すのが苦手なだけの割と他者にも気を配る普通の人物だというのが分かってきた。そして、びっくりするほどの腕前の医者であることも。

 

 動けない俺を気遣って彼は何くれと自分の話や知人の話をしてくれるのだが、その内容は新鮮を通り越して時折人間の限界とは何なのかを考えさせられるものが多かった。

 

 空中を飛び一度に数十人を殴り殺したという彼の友人。腰に佩いた二丁拳銃のみで一つの街を制圧した彼の同僚。果てには拳で山を吹き飛ばした男の話。

 

 彼自身の話も中々ぶっ飛んでいた。一度に200人の手術を行い成功させたという話を聞いた時はいくら何でも嘘だろうと思ったが、彼の助手らしきレオリオという男の口調からそれが事実だと知った時は頭の中を整理するのに少し時間が必要だった。

 

 世の中は広い、たった一人の男との遭遇が、改めてその事を俺に教えてくれる。自身の事を紛れもない天才だと思っていたが、己に匹敵する何かを持った者たちは数多いるのだ。

 

「ほう。随分と男前だったんだな、お前さん」

「おtこ、まえ?」

 

 体が治っていく事により抑えきれなくなった感情。まずは仲間たちとの合流、そして落とし前を付ける。頭の中でこれからの予定と段取りを整えているうちにどうやら包帯の切断が終わったらしい。

 

 感心したように呟く先生の言葉に違和感を覚え、俺はコミュニケを起動する。自分の顔にカメラを向け、今の自身の外観をコミュニケ越しに……

 

「bかな……」

「もしどこかを整形していたならすまんな。出来る限り元の状態に戻そうと思ったんだが」

 

 その画面に映る顔。幾度も変装し、変えていった顔。誰も知らない筈の素顔。

 

 完全に再現されたそれに衝撃を受けながら、彼はそれを為した医者へと目を向ける。

 

 間医師は手に持つカルテをいつもと同じような表情で記入しながら部屋に備え付けられた椅子に腰を下ろす。こちらに背を向けた彼の姿は完全な無防備だった。

 

 部屋には自分と彼の二人だけ。体の調子を確かめる様に足や腕を動かすが、1週間前に寝たきりになるほどの重傷を負ったとは思えない程に調子が良い。

 

 ――消すか?

 

 むくり、と湧き上がった考えを頭から散らす。自身の素顔を知っている人物は可能な限り消さねばならない。だが、自分の信条と恩。その二つが頭に浮かび行動を取り止める。

 

「sん生……」

「うん?」

「sん生は、なぜ俺お助けたんですか」

 

 代わりに、言葉が出た。

 

 ベッドの中。声も手も足も出せない中、彼はずっと自分に語り掛けてくれた。そんな事は医者の仕事ではない筈だ。彼が忙しそうに他の患者を見回って、そして疲れた顔で自身の部屋に来る姿を見ていた。

 

 何故、ここまでしてくれるのか。彼の言葉を聞いていると彼は自分以外の患者にも同じように接しているという。一介の医者がそこまでする義理も義務もない筈だ。

 

 いつかは彼が潰れてしまうのではないか。柄にもなく男を心配してしまったが、恩があるのは事実。それを返す前に先生に死なれるのは寝覚めが悪すぎる。

 

 俺の質問に、椅子から振り返り先生がこちらを見る。患者であった頃は感じなかった独特の圧力のある視線に少しだけ驚く。

 

「一つ、勘違いがあるようだな」

「kん、違い?」

「医者はな。人を治す手伝いをするだけなんだ。治すのは本人で、本人の気力が治ろうとしているのを手助けするのが医者の仕事なんだ」

 

 そう言って言葉を切り、そして間医師は初めて俺が見る表情で笑顔を浮かべる。

 

「動かすなと言っていたのに、こまめに体を動かそうとしていただろう?」

「……sみ、まs」

「構わんさ……俺は、死に物狂いで治ろうとする患者と。その手助けをするのが好きなんだよ」

 

 リハビリも少なく済みそうだしなと冗談めかして笑いながら、先生はテーブルの上に置いてあったカップに何かを注ぎ「もう大丈夫だとは思うが」と言いながら俺の元へと持ってくる。

 

 持てるかい、と尋ねられたため頷きを返しそっと渡されたカップを手に持つ。久しぶりに感じる温かさ。豊かな香り。紅茶、だろうか。どこの茶葉かが判断出来ず、俺はそっとカップに口を付ける。

 

 そして、口の中に広がる豊かな味わいに思わずほぅっと息を吐いた。

 

「――u味い」

「そうだろう。そのティーポットからしか飲めないから余り人には勧められないが、滋養回復の効果もある」

「sごい……お宝」

「ああ……友人からの、大切な贈り物さ」

 

 そう言って先生は自分のカップにもそのお茶を注ぎ、飲み始める。

 

 消毒液や薬品の匂いで満たされていたその病室の中をお茶の匂いで上書きしながら。互いに会話をすることなく、ただ静かにお茶の味を楽しむ時間が過ぎていく。

 

 やがてお茶を飲み干し、先生が次の患者の回診があると席を立つ。

 

 部屋を出る際、先生は部屋の隅に置かれていたティーポットは自由に使って良いと言っていたが、これ以上飲むと欲しくなってしまいそうだから諦める事にした。人の思い出は盗めない。しかも恩のある相手だ。

 

 ベッドから起き上がり、全身をほぐす様に動かす。まだ固いがいずれ元通りにはなれそうだ。

 

「aりがとよ、sん生」

 

 ろれつの回らない口もどうにかしなければな、と思いながら病室から出る。まずは情報を集めよう。それと服を手に入れて変装もしなければ。それと俺の個人情報も出来る限り痕跡を消して――

 

 これから行わなければいけない山のような問題に少し頭を抱えながら、俺――ルパン三世は病院を後にした。

 

 いつか、この恩を必ず返しに来ると心に誓いながら。

 

 

 

side.K あるいは蛇足

 

「よぅクロちゃん。おっ久しぶりじゃな~いの」

「……お前か。茶しかないぞ」

「お、それそれ。俺そのお茶だぁいすき」

 

 唐突に来る客というのは大体が厄介な相手だったりするものだが、この男はその中でもブッチギリに厄介な男だった。

 

 その名をルパン三世。俺がこの世界に来る前から知っていた有名人の一人である。

 

 こいつとの因縁はあの忌々しい統合軍との争いの頃から始まった。連中、取り分けラオウやウェスカーとぶつかり合っていたこの男とその仲間達とはある時は協力し、またある時は利用し合う形で情報を共有。

 

 最終的にウェスカーが死亡しチキュウエリアでの騒乱が幕を閉じるまで、何かと世話になり、また世話をした関係である。

 

 この言葉だけなら割といい関係を築いているように思えるかもしれないがどっこい。この男がこちらを利用する形で接触してくると大概被害を受けるのは俺かオルガである。

 

 繰り返す。俺か、オルガである。あの軍事基地でトラウマを植え付けられたのを皮切りに、この男は何かと「クロちゃんなら死なないだろ」というノリで俺をとんでもない相手とぶつけてくるのだ。主にラオウとかな。

 

 剛掌波ってな。音が凄いんだぞ、ゴオウンって来るんだ。人の出して良い音じゃない。

 

 まぁ最終的に生き残っていたしアフターフォローはしていく奴だったので後で文句を言う位で済ませていたがな。

 

「そういえばクロちゃんさぁ。マモーって知ってるかい?」

「マモー……ああ、あのマモーミモーの」

 

 父親があのコントを好きだったからよく覚えている。俺も子供の頃は「マ! モー!」とか言ってたよ。ウッ〇ャンのコントでも特に有名な方の奴だったよな、確か。

 

「……俺の映画を見た事あったよな」

「子供の頃にな。ああ、そういえばその中にいたな、そんな名前の奴。モクセイエリアによく似た人が居るんで覚えているよ」

「あれ本人な」

「……マジで?」

 

 衝撃の事実に思わず尋ね返すと、呆れたような表情を浮かべてルパンが首を縦に振る。うわー、マジか。あの人本体脳みそなんだよな。

 

 うん? でもよくよく考えれば管理局のトップも確か脳みそ連中だったし別に次元世界では珍しい事でもない、のか?

 

「色々飛び回ってると常識が崩れるよなぁ」

「その言葉で済ませる辺り、クロちゃんは大物だわ。また恩を返しそびれたかねぇ

 

 ため息を吐く様にルパンが息を吐き、カップに入れたお茶を美味しそうに飲む。こいつこのお茶が本当に好きで、姿を現すときは大概3、4杯飲んでいくんだ。

 

 こんだけ美味しそうに飲む人は他に見た事……あ、居たな。防衛機構の病院で臨時勤めしてた時に。やたらと男前な青年だったからあのまま入院してたらさぞや看護師たちに大人気になってたろうって青年が。

 

 何故か記録が残ってない上に在院中は殆ど包帯でぐるぐる巻きだったから彼の素顔を俺以外は知らなくて、この話をするたびにその病院の看護師に残念がられたんだものだ。忽然と姿を消したが、彼は元気だろうか。

 

 というかあの病院良かったなぁ。何よりも危険から遠いのが良かった。二か月くらいしか居なかったがその後のトラウマ連発戦場勤務に比べたら天国としか言えない場所だったよ。少し忙しかったけど。

 

 やっぱり俺、この世界で医者やってくのは無理なんじゃないかと何度思ったことか。ここは一刻も早く神様に新しい統合を起こしてもらってブラック・ジャック先生を呼んでもらうしかないな。

 

 神様、神様! お願いします、次こそはブラック・ジャック先生を! ブラック・ジャックをよろしく!

 

 

 

「先生~患者が……何してるんですかね、あれ」

「お、レオリオか。ひっさしぶり。いつもの病気だよ」

 




ルパン三世:出典・ルパン三世
ご存じ世界的に有名な大泥棒。因みにマモーと戦う数年前くらいをイメージしてます。
今回の話の流れとしてはウェスカーとラオウという怪物二名とブッキングし抗戦するも敗北、大怪我を負った所を防衛機構側に救助された。
因みに本人的には恩返しをしようとして毎回酷い目に合わせてしまってる形なので少し気まずかったりする。多分クロオの運命力の問題だったり。
以後ウェスカーと次元、ラオウと五右衛門という人外対決が数回行われた(なおラオウ側は決着つかず)

ラオウ:出典・北斗の拳
故人。何かと名前が出てくるのはクロオ達が居る地域は彼らの担当だった為です

ウェスカー:出典・バイオハザードシリーズ
故人。この方も良く出てくる。彼の場合戦争序盤から最後まで実働部隊を率いていたというのもある。

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