ブラック・ジャックをよろしく   作:ぱちぱち

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前後篇の後編

くー疲れました(ry

誤字修正。日向@様、adachi様、匿名鬼謀様、名無しの通りすがり様、酒井悠人様、佐藤東沙様、竜人機様、赤頭巾様、北犬様ありがとうございます!


オールマイト(後)

「オオオオオオオオオオッ!」

「フンッ!」

 

 連撃。両手足を含めた五体を用いたオールマイトの猛攻を気にもとめず、ワクチンマンは巨大化した拳の一振りを放つ。だが、その拳を振り抜いた先にはすでにオールマイトの姿はない。

 

「ちょこまかとっ!」

 

 苛立つワクチンマンとは対照的に、内心で冷や汗を流しながらオールマイトは余裕の笑みを浮かべ、自身に向けて放たれた光球を上空に弾き飛ばす。まだ近隣の救助作業が終わっていない。間違ってもこいつを地上で爆発させるわけにはいかないからだ。

 

「(とはいえこれ、痛いんだよな~!)」

 

 表情は変えず。内心で吐き出せる弱音を吐き出して。今の役割を全うするために、オールマイトは痺れる右手に力を込め直し、再びワクチンマンへと攻撃を始める。

 

 戦闘が始まってから数分。彼を最大の脅威と見たのだろう、ワクチンマンの注意は完全にオールマイトに向いている。戦闘が始まってからは周囲に気を配る事は出来ていないが、恐らくそろそろ――

 

「ちぃ! 良い加減にっ!」

「むっ!」

 

 我慢の限界が来たのか。叫ぶとともにオールマイトから距離を取り、ワクチンマンは己の形状を変化させる。メキメキと人形から巨大化し、全身に棘を生やした二足歩行の怪物のような姿に体を変化させると、咆哮を上げながら大きく口を開く。

 

 大技、恐らくブレスに類する攻撃動作。何度も相手した(・・・・・・)竜種によく似たその動作に、オールマイトを覆う白い光が輝きを増す。

 

 後ろに通せば、どうなるか。頭を過ぎったその考えに小さく首を振り――全てを受け止めるために、彼は両手を大きく広げた。

 

「死ねぇいっ!」

「テメーがなw」

 

 だが、彼の覚悟はどうやら杞憂に終わったようだ。

 

ドゴォオオオンッ!

 

 変化したワクチンマンの口腔から滅びの一閃が放たれる前に。嘲るかのような調子で放たれた言葉と、真っ赤な閃光がワクチンマンを襲う。意識外からの一撃、溜め込んでいたエネルギーの暴発。爆音。

 

 閃光の走った方向に目を向ければ、赤いマスクとスーツを着たヒーローがけらけらと笑いながらこちらに親指を立てる姿が目に映る。

 

「サンレッド君……!」

 

 救助に回っていた彼がこちらに来たということは、つまり。

 

「グ、グギギッ……お、オノレェ! 卑劣な、人間どもメェッ!」

「制限を気にせず、暴れられる」

 

 爆炎により舞い上がった煙が晴れていくと、自身とサンレッドの一撃を同時に受けた事になるワクチンマンは見るも無残な姿をオールマイトの前に晒した。

 

「――<能力向上>、<能力超向上>」

「死ぃネェエエエエッ!」

 

 吠え猛るワクチンマンは、目の前に立つオールマイトに向けて駆ける。ワクチンマンにとって余計な横槍を入れてきた人間よりも目の前に居る男こそが脅威であるからだ。

 

 こいつは先に殺さなければいけない。生物としての本能と存在理由がワクチンマンを突き動かす。

 

 だが、それは誤った選択であった。

 

「<肉体強化>、<肉体超強化>! そ、し、てぇぇぇえええええっ!!」

 

 その姿に憐れみがないと言えば嘘になる。生まれる事自体に罪はないのだから。

 

 だが、オールマイトはヒーローで、ワクチンマンは人類を脅かすヴィランだった。

 

 ならば――力の限り、戦うしかないのだ。

 

「< 爆 肉 鋼 体 >」

 

 全身から溢れ出すオーラ。友から手ほどきを受けた念を用いて膨れ上がった体と力を一つに束ね、振りかぶる。

 

「テキサス――ス マ ッ シ ュ ッ !」

「グギャアアアアアアアアッ!!?」

 

 放たれた一撃はワクチンマンを粉砕し、その衝撃波は周辺の瓦礫を薙ぎ払い、空を覆う雲を散り散りに吹き飛ばしていく。

 

 晴れ渡った空から降りしきる日差しの中。粉々になって消えていくワクチンマンの姿を見ながら、オールマイトは握りしめた拳を緩めた。

 

 

 

 

 その連絡が来た時。彼は持ちうる限りの全速で名刺に書かれた病院へと走った。

 

 車を病院前に乗り付けて中に走り込み、ぜぇぜぇと呼吸を切らしながら彼の部屋を尋ね、そして彼の部屋に駆け込む。

 

「間くんっ!」

「八木さん? はて、受付からは」

 

 部屋の中の彼は休憩中だったのだろう、机に座り新聞らしきものを広げながらコーヒーを啜っていた。怪訝そうな顔を浮かべる彼に駆け寄り――

 

「頼むっ……力を、貸してくれ……」

「……八木さん」

「私の友が……長年の友が、死んでしまうかもしれないんだ……」

 

 八木は彼の右手を両手で掴み、頼み込むように頭を下げる。

 

 彼の頭の中を電話口で応対していたバブルガールの言葉が過る。

 

 助からない。もう、幾ばくもない。ただ二言のその言葉が、何よりも重く八木の心を抉った。

 

 ヒーローという仕事は過酷だ。殉職率も高い。その端くれであった八木も勿論、いつ何時命を失うかもしれないという覚悟を持って生きてきた。

 

「頼む――」

 

 希望があるなら、縋りたい。助けることが出来るなら、助けたい。

 

 話したい事が沢山あるのだ。仲違いしてからの6年の事。共に戦った頃の事。自らの後継者、緑谷出久の事。自らの気まずさから会うことも出来ず、ズルズルとここまで引っ張ってしまって。そして今、死別しようとしている。

 

 そんな事が、そんな事を許してしまう事が。許してしまう八木 俊典(自分)が、オールマイト(自分)には許せない。

 

「ブラック・ジャック!」

 

 その名を八木が口にした瞬間。彼は小さく息を飲み、そして。

 

「――良いでしょう。ただし、私の医療費は高額だ」 

 

 少しだけ悲しそうな声音で、そう答えを返した。

 

 

 

 

「拳で天気変えるってマジで出来んだなぁ」

「修行の賜物さ!」

「いや修行でなんとかなる範囲じゃねーだろ」

 

 へらへらと笑うサンレッドの言葉にそうかなぁ、と返しながらオールマイトはワクチンマンの残骸に目を向ける。大部分はオールマイトの拳に発生した熱量によって灰となったが、胴体の下半分はその場に血肉となって残ってしまっている。

 

 これを補助として連れてきたAOG所属の人員――変身能力の有るモンスターだ――が丁寧に梱包して運び出していく。世界意思そのものとも言うべきワクチンマンは貴重な資料になるのだという。

 

「しっかしまぁ随分物騒な世界だな。あのレベルの奴がポンポン出てくんだろ、ここ」

「週刊地球の危機、という言葉がよく合う世界だそうだよ!」

「ほーん。怪人半殺しにしてしょっぴけば良い金になるし、面白そうな世界じゃねーの」

 

 根っこの部分で戦いが好きなサンレッドの言葉に苦笑を返す。力を振るう事はあくまでもオールマイトにとって手段の一つ。他者と競う事の面白さは理解しているが、どうもこの彼の血の気の多さは共感できない。

 

 まぁ、こんな事を言っているサンレッドだが。怪人を殺したことがほぼ無かったり奥さんに良い服を買ってあげたくてこんな危険な世界まで単身赴任してくるなど、対人関係が下手くそ過ぎて複雑骨折しているオールマイトでも、思わずにっこり笑顔のピースサインを向けてしまう位に微笑ましい部分を持ったヒーローでもある。

 

 戦闘能力、精神面。共にこの修羅が集う世界を任せるにたる力を持っている。とある事情によりオールマイトはこの世界に長居出来ないが、彼なら良くこの世界を守ってくれるだろう。

 

「あれ? もう終わってんのか」

 

 そんな二人の背後から、瓦礫だらけのその場に不釣り合いなほどの平坦な声が響き渡る。

 

「来たか」

 

 何度も耳にした声だった。彼が現在世話になっているAOGから渡された資料。ブルーレイディスクの中に収められた声と姿が頭の中に浮かび上がる。

 

 振り返り、その姿を瞼に移す。間違いない。黄色いヒーロースーツにたなびく白いマント。決して良いとは言えない体格。そして極めつけの髪一本生えない頭。

 

「あー、遅れちまったか。折角連絡貰えたのになー」

 

 見た目だけで言えば決して強いとは感じない。だが――

 

「……成程」

「納得したわ。こりゃアカン奴だ」

 

 鍛え直す際に学んだ様々な技術、”念”や”気”。そして扱えこそしなかったが”魔法”という目では見えない概念を学んだ事により身についた、対峙した相手の大まかな実力を推し量る技術。幾つか存在するそれを持って彼を見たオールマイトとサンレッドは、共に一つの結論に達した。

 

「信じらんねぇエネルギーだ……人間の中に銀河一つ分は収まってやがる」

「詩的な表現だね! 惑星意思一つ程度じゃ、一蹴されるわけだ」

「ん? 誰だお前ら」

 

 ジロジロと自身を見る二人に気づいたのか。怪訝そうな声を上げる彼に、フッと笑みを浮かべてオールマイトがサンレッドの前に立つ。この世界に暫く赴任するサンレッドと違い、自分はただ彼に会いに来ただけなのだから。

 

「初めまして、サイタマくん。私はオールマイト」

「あ、おう。ん? なんで俺の名前を」

 

 首を傾げるサイタマの様子に、どうやら防衛機構は今回の件を伝えていなかったらしいと小さく安堵の息を漏らす。彼とはできるだけフラットな状態で話をしたいと思っていたからだ。

 

 故に、彼の質問に答える前に。

 

「ヒーローを生業としているものだ――君に会いたかった。ワンパンマン(ヒーロー)

 

 右手を差し出し、オールマイトはそう言って、微笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

side.K 或いは蛇足。もしくはある種の始まり

 

 

 

 手術着を脱ぎ捨て、両手を洗う。初めて降り立った四方世界の戦場を思い出す、久方ぶりのハードな手術だった。あと10分手術が遅ければ、恐らくナイトアイという人物は助からなかっただろう。

 

 神業だ、天才だと囃し立てる助手についてくれたこの病院の医師に患者の関係者への説明を任せ、足早に病院の廊下を歩く。なぜだか酷く苛立たしい。

 

「……」

 

 目に写った喫煙室と書かれた文字に、ふらりとそこへ入ってしまったのはそんな精神状態だったからだろうか。

 

 片隅に置かれていた自販機に八木から教わったスマホのICを通す。身分証明も一緒に行ってくれるらしく、特に支障もなく購入できたタバコ。パチリと指を鳴らし、とあるエルフにならった火起こしの呪文で指先に炎を作り、咥えたタバコを近づけ――

 

 ガチャリ

 

「間くん、ここに……?」

「ウェホゲホゲホゲホ」

 

 肺に煙を入れ込んだ瞬間に開くドア。顔を見せた知人が声掛けをしてくるが、咳き込んでそれに返答する余裕がない。

 

 大体3,4分ほど咳き込み、心配する八木の介抱を受けながら待合室へと移動し。ようやく息が整った瞬間、苛立ちを込めて購入したばかりのタバコをゴミ箱に投げ込んだ。

 

「もしかして、吸えないのかい?」

「……吸えるはず(・・・・・)なんですがね。いえ、この世界に来て初めて試しましたが」

 

 脳裏に浮かぶブラック・ジャックの喫煙姿を思い返しながらそう口にする。恐らく意味がわからなかったのだろうが、八木は何かを感じたのか口をつぐみ、手近にある自販機を操作し、冷たい缶コーヒーを持ってきた。

 

「微糖で良いかい?」

「ありがたい。糖分が欲しかったんです」

 

 手渡された缶コーヒーの冷たさに心地よさを感じながら、蓋を開けて口をつける。錯覚だろうがカフェインと糖分が同時に体に満ちていく感覚がする。

 

 少し気持ちをスッキリとさせながら、はたと気づく。

 

「患者さんの側についていなくても大丈夫なんですか?」

「ああ。ナイトアイはまだ眠っているからね。あんまり皆がベッド側に居ても迷惑になると思って」

「なるほど」

「それに」

 

 まぁあの病室に10人近くも居てはな、と頷いていると、八木は俺の隣の席に座り、水の入ったペットボトルに口をつける。

 

「ふぅ……今回は、ありがとう」

「いえ。依頼は依頼です。報酬はしっかり頂きますよ」

「勿論報酬はお支払するよ。私の用意できる全てでもって……ただ、その。不躾な頼み方をしてしまってすまない。苛立っているように見えたから、少し気になってね」

「……苛立つ? 俺が、ですか?」

 

 予想もしていなかった言葉にもたれかかった椅子から身を乗り出し、八木に視線を向ける。

 

「ああ。手術の依頼をしてから、どうもね。急な依頼だったのは、その。申し訳ない」

「いや、そこは良いんです。緊急手術は急なものですから、それは仕方がない」

 

 頭を下げる八木に手を向けてそう告げながらも、頭の中ではグルグルと様々な考えが巡っていく。苛立つ、か。成程、確かに傍から見ればそうなのかもしれない。ぽりぽりと頭をかきながら、ため息を一つ吐く。

 

 苛立っているわけではなければ御大層な代物でもないのだ。ましてや八木さんが後ろめたく思うようなことでもない。

 

「……俺は」

 

 俺は、度し難いことに。

 

「本当は、ブラック・ジャックなんて大層な人間じゃないんです」

 

 真摯に頼み込む、俺をブラック・ジャック先生だと思い込む人々の姿を見て、負の感情にかられてしまっていたのだ。ブラック・ジャックの名を騙りながら、その名声を浴びながら。

 

 タガが外れたように動き出す口。この世界に落ちてきて、とある姉弟に命を助けられてからこっち。人を癒やし、時には争いに巻き込まれ。友と出会い、そして追われる日々を過ごし。気づけば残ったのは、以前よりも格段に上がった医師としての腕前と技術。そして途方も無いブラック・ジャック(よく似た他人)としての業績。

 

 それが悪いとは言わない。医師としての研鑽は当然のことだ。技術は人を救うのだから。腕の良い医師と呼ばれるのも良い。それは誰かを救ったという確かな自負につながるのだから。

 

「最初は、彼に似通っているというだけで。実は、嬉しかったんです。俺にとって憧れの存在でしたから。でも、月日が経つごとに、どんどん虚名が大きくなるほどに」

「……」

「心の中に、一本の釘が打ち込まれてるんです。そいつが、どんどん大きくなってくのも。分かるんですよ、なんとなく」

「罪悪感、かな」

「そうでしょうね。多分、罪悪感なんでしょう。」

 

 飲みきった缶コーヒーを手の中で弄りながら、感情を言語化出来ずに押し黙る。

 

 そんな様子の俺を隣で見ながら、八木さんは小さく「ふむ」と呟くと、ペットボトルに口をつけて唇を湿らせ。

 

「つまり、恩師とヒーローネームが被って貴方ばかり有名になってるのが罪悪感がわく、と」

「大分違う気がするんですが」

「まぁ流石にこの表現は冗談だけどね!」

「あ、はい」

 

 力強い言葉と共にいきなりボンッと巨大化しアメリカナイズな姿に変わった八木さんに二の句も告げずに頷きを返すと、八木さんはまたシュポン、と元の骸骨めいた姿に戻る。

 

 こういう個性なんだろう。強く見える姿に変身するというのは中々面白い能力だ。

 

「でも、そういう事態ならば打てる手は2つだろう」

「2つ、ですか?」

 

 八木はいいながらピンっと2本の指を立てる。わらにも縋る思いでその先を尋ねると、彼は頷きながら指を一本折った。

 

「まず一つ。こちらは今からでも出来るのが……医師をやめ」

「それは出来ません」

「だよね」

 

 失礼だが、彼が言い終わる前にその発言を止めさせてもらう。考えたことも無かったが、確かにその道を選べば楽になるだろう。だが、それを選ぶことだけはありえない。医師を志すものが、自身の小さな見栄や罪悪感で道を諦めて良い訳がないのだ。

 

 医師が諦めれば、患者は一人ぼっちになる。医師が諦めれば、患者を殺してしまう。

 

 殺人者にだけはならない。それがこの過酷な世界で生きて、それでも一つだけ曲げずに来た。そして今後も絶対に曲げることが出来ない、間黒夫の意地なのだから。

 

「なら、後一つ」

 

 そんな俺の言葉を否定もせずに八木さんはもう一本の指を折る。心なしかほっとしたかのような彼の視線を受けながら、八木さんの言葉に耳を傾ける。

 

「現状維持のまま本物のブラック・ジャック先生を探して、交代してもらおう」

「……は?」

「今の間くんは言ってみれば他人のふりをして他人の名声を引き上げているわけで。要は替え玉みたいな状態だよね」

「替えだ……ま、まあ。そう、ですね?」

 

 首を傾げるように「間違ってますか?」と尋ねてくる八木さんの言葉に、よくよく考えてみればまあそうとも言える、のだろうか。

 

「じゃあ、替え玉である間くんが積み重ねた実績とかもいずれはその人に引き継がれるのが自然じゃないか。本人なんだから」

「…………本人、に」

「そ。まぁ、それが無理そうなら全力で逃げるのも手じゃないかな。別に逃げた先で医師を続けるんなら、君の信条ともぶつからないんだろう?」

 

 ブラック・ジャック本人に後を任せる。今まで考えもしなかった自分の責任を全力でぶん投げるその行動に、呆けたように小さく相槌を返す。

 

 良いのか、そんな事が。許されるのだろうか、そんな事が。

 

 どうしようもない程の魅力的な彼の言葉に思わず首を縦に振りそうになりながら、けれども僅かに感じる責任感がそれを押し留める中。

 

「許されるさ。だって君はブラック・ジャックじゃない。今私の目の前に立っている、間黒夫なんだから」

 

 まぁ、名前を勝手に騙るのは悪い事だから、そこは謝らないといけないかもしれないが。

 

 そう締めくくる八木さんの言葉が、一年近くもの間積もり続けた心の中の汚泥を洗い流していく。

 

「……ヒーロー、か」

 

 たった2度しか会っていない人物の言葉。だが、そんな事は関係がない。

 

「――八木さん。貴方の治療は、全力で行わせていただきます」

「え、うん。よろしくおねがいします、間先生!」

「ええ、こちらこそ――貴方をきっと、オールマイト(最高のヒーロー)に……いえ」

 

 骸骨のような容貌で笑顔を浮かべる八木に最高のヒーローの姿を幻視し、右手に力を込める。

 

「貴方は今も最高のヒーローですかね」

 

 こういう時にもう何も怖くない、と言うべきだったかな。ここ一年感じたこともない全能感に包まれながら、八木さんに声をかけて診察室へと向かう。まずは現状を見てからの判断だが、臓器系の再生治療は少々時間がかかる。恐らく彼も俺も長丁場になるだろう。

 

 だが、そんな事はもうどうでもいい。重要なことじゃない。

 

「まずは神造臓器を……AOGからのアイテムも借り受けて……融合……」

「あの、間くーん? なんだか怖い言葉がでてきてるんだけど?」

 

 この最高のヒーローを万全の状態で世に送り出す。そのためなら出来うる手段は取らなければいけない。

 

 さて、最終的にぶん投げる事が確定した以上、下手に大人しく動いても後を引き継ぐブラック・ジャック先生に悪いからな。ここ最近ちょっと大人しくしてた分、今回は一切手を抜かずに対処しよう。内臓器官の再生、もしくは代替の用意。使える伝手をすべて使ってそれらを完璧に成し遂げなければいけない。

 

 ああ、ブラック・ジャック先生の宣伝もしておくべきだろうか。自分からこういう事を言っておけば先生と入れ替わる際も「ああ、あの言葉はそういうことだったんだ」とかいう話にきっとなるはず。多分、きっとメイビー。

 

 そうだな、ならば手術の度にこう口にするとしようか。

 

「ブラック・ジャックをよろしく」

「え、あ。ええと、よろしく?」

「貴方に言ったんじゃないですよ、八木さん」

 

 

――side.K 或いは蛇足。もしくはある種の始まり 終――

 




八木 俊典(オールマイト):出典・僕のヒーローアカデミア
 原作ではおっさん系メインヒロイン(勝手な解釈)、作中世界では一言で黒夫さんの背中を押して2年目の暴走を促した元凶。
 なお3年目に隠居する所までこの人のアドバイス通りなので今現在も最高のヒーロー枠は彼のままの模様。BJ(本)? あっちは黒夫にとって神なので比較されるレベルで尊敬はされている。
 受け継がせたOFAを流石に再度発現させることは出来なかったが、代替の技術を複数用いて過去の自分と戦えるレベルにまで力を取り戻した。が、まだまだどの技術も磨いている最中の為、全盛期8割くらいだと自分では思っている(なお周囲の目は)

ワクチンマン:出典・ワンパンマン
 原作ワンパンマン第一話に登場する地球意思によって生み出された人類文明絶対滅ぼすマン。なおワンパンでサイタマの前に沈んだ。
 作中ではサイタマと遭遇する前にオールマイトと戦闘。オールマイトとサンレッドのタッグの前に敗北し、その残骸はAOGによって回収された。

緑谷出久:出典・僕のヒーローアカデミア
 僕アカの主人公にしてオールマイトの後継者。今回の話ではほぼ出番はないがこの後師匠と共に絶対絶命魔界巡りや暗黒大陸横断ウルトラバトルに参加することになり良く掲示板でグチるようになる。

サンレッド:出典・天体戦士サンレッド
 溝の口発のヒーロー(真っ赤)。原作では嫁(彼女)のヒモだが今作では単身赴任中。怪人をボコれてお金まで貰える環境にニッコリ

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