ブラック・ジャックをよろしく   作:ぱちぱち

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こちらは前後篇の後編になります。
こちらを先に開いてしまった方は、前編の「海賊王」から先に御覧ください。

女の子の方の名前間違ってたので修正。ミスターパンプキンさんありがとうございます!

誤字修正。佐藤東沙様、見習い様、酒井悠人様、ゴミ君様、椦紋様、竜人機様、タイガージョー様ありがとうございます!


ゴール・D・ロジャー

side.R あるいは……

 

 

 

「おれの財宝か? 欲しけりゃくれてやる!」

 

 全身を打つ雨。数千もの人間の視線。その全てを受けながら、顔は自然と笑顔を浮かべていた。

 

「探せ! この世のすべてをそこへおいてきた!」

 

 間に合った、という感覚。達成感。後に残す者たち。追いかけてくる者たち。それら全てが脳裏に浮かび、消えていく。

 

 ああ、あれはシャンクスか。バギーの奴も。ぶっさいくな面で泣いてやがる。次はテメェらの時代だっつうのに。

 

 音が聞こえる。振り上げた刃の音。どうせ放っといても死ぬ体。無駄に苦しまずに済むなら、それはありがたい。

 

 最後の最後。いよいよ死ぬ。ああ、そういえば。1年前。たった数週間の仲間だったクロオの奴が言っていた事があったな。

 

 あれは――確か――

 

「防げ!!! ロジャー!!!」

 

 雷雨の中、確かに響いた声。聞き間違えるはずのない仲間の声に、無意識に体が反応し全身をなけなしの覇気が駆け巡る。

 

 瞬間。

 

【 龍 雷 】(ドラゴン・ライトニング)

 

ドッゴォォォォォォン!!!

 

 派手な音と共に、自身が乗っていた処刑台をのたうつ雷が砕く。覇気で全身を覆ったとはいえ、死にかけの体には耐え難いほどの痛み。

 

 抗議の意思を込めて、上空に浮かぶ仲間(・・)へ叫び声を上げる。

 

「テメェサトル! 殺す気か!」

「死んでも復活させますんで大丈夫ですよ!」

「そういう問題じゃないわこの骨太郎!」

 

 ぐっと親指を立てる骨人間――サトルのどこかズレた回答にそう再び叫び、自然と口元が緩んでいくのを感じる。

 

 こいつが居るということは。

 

「いかん! 全海兵に告ぐ、ロジャーを――」

”神避”(かむさり)!」

「ぐぅっ!」

 

 視線の先。処刑の指揮をとっていたセンゴクに、見覚えのある男が一撃を入れているのが見える。絶、といったか。気配を薄めるあいつの技術は、なるほど。確かに奇襲めいた事をやるには便利な技能だろう。

 

 それは、良いんだが。

 

「俺の技パクってんじゃねぇぞ! ジン!」

「わり、便利だからつい!」

 

 謝ってるのか謝っていないのかよく分からん言葉を吐いて、ジンはセンゴクの周囲に居た海兵たちを薙ぎ払う。相変わらずの強さにくくっと笑いが漏れ出てくる。

 

「てーことは」

 

 そして。

 

「よぅ、クロオ」

「まだくたばっていなかったか。安心したぞ、ロジャー」

「抜かせ!」

 

 背後からかけられる声。聞き覚えのあるそれに振り返ると、あいも変わらず辛気臭い顔をした異形の男がそこに立っていた。

 

 居るだろうな、あいつらがこの場に居るのなら。お前が居ないわけがない。

 

 こみ上げてきた笑いがこらえきれなくなるのを感じながらふらつく足取りでクロオに近づき――肩に腕を回す。

 

「俺ァ死ぬ気だぜ?」

 

 腕に力を込め、そう呟くようにクロオに語りかける。もしかしたら仲間の誰かがこの場に来るかもしれないとは、思っていた。レイリーはない。相棒は、俺の意思を知っている。そして、ギャバンも同じく。

 

 だが、思い浮かべれば数名、この場に駆けつけそうな奴はいる。そいつらと、あとはバレットの野郎ももしかすれば。あいつの場合は、おそらく助けに、なんて殊勝なもんじゃないだろうが。

 

 そいつらが襲撃をかけてくる可能性は海軍側も想定していただろうし、仮にやってきたとしてもどうせ長い命じゃない。ならばどう使うのも俺の自由。

 

「そう、思っていたんだがなぁ」

「それがお前の”自由”だというなら好きにすればいい。私は、ただお前に確認をしにきただけだからな」

 

 そう静かに口にするクロオの瞳は、強い光を湛えながらこちらをまっすぐに見つめていた。ただ見つめているだけだというのに、重圧すらも感じる視線。ジンやサトルがただの医者である筈のコイツを、相棒と呼ぶ理由がようやく飲み込めた。

 

 ゴクリとツバを飲み込む俺に、クロオはふっと笑顔を浮かべて手に持った酒瓶をヒョイっと俺の前に差し出した。飲め、という事だろう。

 

 ――この乱戦の! この騒動の中で!

 

「大した度胸だな、お医者先生よぉ!」

「自分の死で時代を作ろうとした男には、言われたくないな」

 

 コツン、瓶同士を軽くぶつけ、瓶口を口に含み傾ける。よく冷えた――なんだこれは、ビールなのか? ガツン、とくる酒精!喉を焼くような発泡感!

 

 美味い!

 

 思わず叫び声を上げた俺に、クロオは「だろうな」とだけ感想を口にする。サトルの奴が酒が不味いと言っていたが、たしかにこれを飲み慣れればこの世界の酒は無味に感じるだろう。

 

 久しぶりの酒というのもある。一気に全て飲み干して、ゲフッとでかいゲップを吐き。

 

「別れた際の賭けを、覚えているか?」

 

 夢見心地だった世界に、クロオの言葉が入り込む。

 

 そうだ。別れ際の事だった。俺とクロオの間で交わした、賭けにもならないような”賭け”。今際の際に脳裏に浮かんだそれを思い出し、中身の無くなった瓶を放り投げてクロオを見る。

 

「私達は、その結果を見届けるために来た」

「……相棒」

「一年ぶりだな、ロジャー。ちなみにどうなるかの賭けは成立しなかった。クロオ一点買いばかりだ」

 

 懐かしい声。もう数十年を共にした声だ。聞き間違えるわけがないその声がした方向を見れば、そこには長年の相棒。シルバーズ・レイリーの姿があった。

 

 いや、違う。レイリーだけではない。

 

 ジンやサトルに目が行っていたが、警備の海兵と戦っているのは彼らだけではない。ジンと共に大将を抑えているのは、あれはギャバン。海兵を蹴散らしているのはノズドン、サンベル、ドンキーノ! いや、それだけじゃねぇ。どこから湧いてきたのか、バカヤロウども(ロジャー海賊団)の姿がそこかしこに見えている。

 

 一年前、解散したはずの海賊団の仲間達。そのほぼ全ての姿が、たしかにそこにあった。確かに、この場に彼らは来ていた。

 

「……バカヤロウどもが」

「そのバカヤロウどもの親玉に、さぁ。答えてもらおうか」

 

 ぐっと肩に腕を回されるのが分かる。クロオの腕だ。この雨の中、何故かやたらと熱を持ったその腕は、ただの医者とは思えないほどにこちらを力強く引き寄せてくる。

 

「最後の最後の瞬間まで」

 

 顔を寄せ、横目でこちらを見ながら。

 

「未練は、抱かなかったか」

 

 燃えるような輝きを放つ瞳でこちらを見ながら、有無を言わさぬ声音で、クロオはそう口にした。

 

「……未練、か」

 

 かつて船上で交わした言葉。脳裏を過ぎっていく、忘れもしない――在りし日の宴の後。

 

『賭けをしないか』

『賭けぇ?』

『もしも、だ』

 

 今と同じように酒瓶を手に、今と同じように肩を組合い。そして……そうだ。

 

 こいつの瞳は、あの時も燃えるような輝きを放っていた。

 

「もし、最後まで未練を抱かなければお前の勝ち。好きに生き、好きに死ねばいい。後のことは、任せろ」

 

 静かに、そう語りかけるように話すクロオ。その瞳から視線をそらし、海兵と戦う仲間たちへと向ける。

 

「もし……最後の最後。なにか未練を残しているのなら――」

「その先は、言わんでいい」

 

 ふっと息を吐き。ついで深く呼吸する。この問にだけは嘘を言ってはいけない。見抜かれるから、だとかそういった事ではない。

 

 一度でも。いや、今も仲間と思っている者が、己の魂を込めて問いかけている。それに嘘でしか答えられないようなら、そいつは男じゃない。

 

 そして、この質問に対する答えなど――今の俺には、たった一つしか存在しない。

 

 ふっと笑いながら息を吐き、俺は口を開いた。

 

「嫁さんは……ルージュの奴ぁ紅い髪が似合う美人でなぁ。笑顔が綺麗でよ」

 

 瞳を閉じれば瞼にはっきりと映るその笑顔。最後の最後、いよいよ死ぬと思った瞬間。思い浮かんだのは、半生をともにした相棒でも仲間たちでもなく。

 

「――俺によぅ。もうすぐガキが生まれるんだ」

 

 最後の別れだと告げた時。涙を浮かべながら、それでも笑って見送ってくれた最愛の女の姿。

 

「名前も決めてある。男ならエース、女ならアン」

 

 ぽつりぽつりと語るその言葉に、クロオも相棒も何一つ言葉を言わず。

 

 ただ、静かにこちらを見つめている。

 

「抱き上げてやりたかった……ああ」

 

 その視線に言葉を促されたわけではない。だが、たしかにそう。これは――

 

「――未練、だ……っ!」

「……その言葉が聴きたかった」

 

 俺の言葉を受け、クロオは小さく頷きを返した。

 

「ああ。私が見届けた。今回の賭けは、クロオの勝ちだ!!」

 

 俺たちのやり取りを眺めていた相棒が、大声でそう広間に向かって叫ぶ。

 

 その言葉に、その叫びに海兵達と戦っていた仲間たちが歓声を上げ、近隣の海兵を薙ぎ払うと嬉々とした表情でこちらに向かって駆けてくる。

 

 仲間たちを追おうと海兵達が広場に向かって走り込んでくるが、その直前。半透明の壁が広場を包み、海兵を遮った。おそらくは上空のサトル。相変わらずなんでも出来るやつだ。

 

「船長が負けたってのにやたらと嬉しそうにしやがって。なんて仲間甲斐のない奴らなんだ」

「ニヤついてるぞ、ロジャー」

 

 鼻頭が熱くなるのを感じながら憎まれ口を叩くと、それを見透かしたかのように相棒、レイリーがそう言ってこちらに拳を向ける。へっと鼻で返事を返し、互いの右手と右手をぶつけ合わせる。

 

 たった一年前までは日常のように隣りにいたその感覚が、何故かひどく懐かしい。そんな俺とレイリーを見ながら、クロオは淡々とした口調でこちらに話しかけてくる。

 

「賭けに負けた以上、お前の生殺与奪は俺が握った」

「そういう話だったか!?」

「無駄口を叩くな半死人。これから厳しい治療が待っているぞ、無駄に限界まで粘りやがって。数ヶ月どころか半年は入院させてやる」

 

 クロオの言葉にうへぇ、と舌を出す。今回のことで分かった。こいつは何があっても言葉を曲げることはない。特に、医療に関しては。

 

 やるといったら本当にやる。半年もベッドの上なんて冗談じゃないが、こいつは縛り付けてでも実行してくるだろう。

 

「自分の自由を通した結果だ。素直に受け入れろ」

「嫌だ」

「暇な時間に見る映像作品は用意する」

「よし!」

 

 クロオの言葉に親指を立てて頷くと、なんとも言えない表情でこちらを見てくる。ゲラゲラとその様子を笑いながら、視線だけを動かし、遠くこちらを腕を組んだまま見守るガープに向ける。

 

 その視線に含まれた複雑な感情につい頭を下げると、顔を真赤にして透明な壁を殴り始めた。解せん。

 

「しかしこの壁、雨は遮ってくれんのだな」

「どうせ散々っぱら濡れてるだろう」

「ああ。こんな嵐の中、どいつもこいつもご苦労なことだ」

「……そうだな。お前の船員らしいよ」

「へっ!」

 

 駆け寄ってくる仲間たちの顔につい憎まれ口を叩くと、さもありなん。とクロオが頷いてこちらを見る。

 

「『雨の中、傘も刺さずに踊る人間がいてもいい』」

「あん?」

「『自由とはそういうこと』らしいぞ、ロジャー」

「ほぉ……良い言葉じゃねぇか。誰の言葉だ?」

 

 ニヤリ、と笑ってそう口にするクロオに思わずそう尋ねるも、クロオはニヤニヤと笑ったまま首を横に振り。

 

ロジャー(・・・・)・スミスの言葉さ」

 

 そう言って、俺の肩を抱えたまま、仲間たちに向かってクロオは一歩足を踏み出した。

 

「……ック。クックック」

 

 クロオに体重を預け、引きずられるように歩きながら。

 

 口元から漏れ出てくる笑いが、止められない。

 

「会ってみてぇな。その、もうひとりのロジャーに。それにハーロックにもよ」

「会えるさ。生きてさえいればいつだって」

「……ああ、そうだな」

 

 どんどん膨れ上がっていく感情。抑えきれずにこみ上げてくる笑い。

 

「サトル! この膜みてぇなのは、音も遮るのか!?」

「あー……。通す、みたいですよ!」

 

 若干自信が無さそうな声に右手を上げて答え、クロオに呟くように一つ頼みごとをする。渋い顔をしたクロオになんとか、ともう一度頼み込んでいると、不意に左腕を持ち上げられる感覚。

 

「なにか悪巧みなら手伝おう」

「……すまねぇな、相棒」

 

 俺の左腕を肩に回し、支えるように立たせてくれるレイリーにただ一言そう伝える。その言葉に何も言わずに首を横に振り、俺たちは真っ直ぐ、未だに逃げずにいる群衆に向かって歩みをすすめる。

 

 こちらを見る群衆。海兵達との戦いが始まった後も逃げず、広場を囲むように様子を見ていた彼らに向かって、深く息を吸い込み、吐く。

 

「この世の全てをそこに置いてきたといったな!!」

 

 張り出せるだけの大声。先程飲んだ酒のお陰か、スムーズに出てくる声に内心で驚きながらも、こちらに視線を向ける群衆達に笑顔を向ける。

 

「――ありゃ嘘だ」

 

「「「ええええええええっ!!!?」」」

 

 ただ一言。自身の言葉の否定。それだけで、居並ぶ民衆も、すました顔でこちらを見ていた奴も、涙を流しながら話を聞いていた奴も全てが目ン玉を飛び出してこちらを見る。

 

 その様子につい口が歪むのを感じながら、俺は再び口を開いた。

 

「この世界の全てという意味なら、嘘じゃない。この世界の全てはあそこ。<ラフテル>に置いてきた」

 

 その光景の面白さにそのまま眺めていたい誘惑にかられるが、それじゃあ話は進まない。

 

 ジョイボーイの残したイタズラを、俺たちだけで終わらせるのは勿体ないにも程がある。

 

 だから、これは繋ぐため。俺の言葉は、後に続くものを作るためだけに残していく。

 

「世界政府が隠している事実がある! この世界の外には、無限に広がる荒野がある! 点在するように存在する幾つもの世界がある! この世界全てと同じだけの大きさの世界が、この世には無数に存在する!」

 

「一面が美味いもので埋め尽くされた世界! 国民全てが宝石の体を持つ人々! 数多の空駆ける船!! この世界では決して見ることの出来ない景色が、外の世界には有る!!」

 

この世界の全て(ワンピース)は<ラフテル>にある。俺は、全てを手に入れた! だから、この世界の全て(ワンピース)を越えて――俺は、外の世界へ行く!!!」

 

「まだ見ぬ世界を求めて――俺の自由(冒険)は、終わらない!!!」

 

 己の中に宿る熱。それを言語化し、そして口から放たれた言葉を、民衆にぶつける。1万分の1でもいい。後に残る者たちに、この想いが届けばいい。

 

 ――これで良いだろ、ジョイボーイ

 

 叫び疲れ、ふぅ、と一息を入れる。そんな俺の様子に苦笑を浮かべながら、クロオが口を開いた。

 

「旅に出るならジンと共にするといい。あいつは今、世界を発見するためにあちこちを飛び回っているからな」

「ん? トリオは解散したのか?」

「……サトルの内縁の妻を甚く刺激するからな」

 

 あの息のあった3人組が、と疑問を口にするも、渋い顔をしてクロオは目をそらした。女の嫉妬か。確かにあれは怖い。

 

 だが、一先ずは体だ。今の叫び声で体力を使い切った感触が有る。流石にこの体では長期間の航海には耐えられんだろう。陸地の旅を航海と呼ぶかは分からんが、最悪オーロジャクソン号を飛べるようにすればいい。サトル辺りなら喜んで手伝ってくれるだろう。

 

 ああ、いや。その前にまずはサトルやジンが発見している世界を知ることが先か。なんせこの世界が幾つも、という規模だ。一つの世界を知るのも一苦労だろう。

 

「頭の中で皮算用を叩いている所、悪いんだがな」

「ん?」

 

 そうやって頭の中で今後の予定をたてていると、唐突にクロオが声をかけてくる。ここからの脱出についてなにかあるのか。いや、それとも。

 

 声に反応するように顔を上げて。そして――

 

「……ルージュ」

「ロジャー……」

 

 ギャバンに付き添われるように立つ最愛の女の姿に、全ての思考が止まるのを感じた。

 

「未練を残したままでは、治療もくそもあるまい」

 

 雨で濡れないように傘を指した彼女は、ふるふると体を震わせた後。傘を放り出し、こちらに向かって駆けてくる。

 

「治療は長期に渡るだろう。長年の心臓の負担。どこにどんな影響があるか分からない。奥さんと二人三脚で乗り越えることになるだろうな」

 

 隣に立つクロオが何事かを言っているが、よく聞き取れない。いや、聞き取るだけの思考力をそちらに回すことが出来ない。

 

 ふらつきながら、一歩。クロオとレイリーから腕を離し、自分の足で一歩踏み出した。体が重い、力が入らない。そんな事はどうでもいい。

 

「ルージュ!」

「ロジャー!」

 

 抱きつかれ、それを全身で受け止める。自分の女も抱きとめられず何が男、何が海賊。精神力のみで体を動かし、震える彼女の体に両腕を回す。

 

「それが全て終わった時。どこに行くも、誰と行くのもそれはお前さんの自由――ああ」

 

 抱きしめたルージュの感触と熱を確かめながら、ただ無言で泣きじゃくる彼女をあやす。

 

 ――ああ、たしかに。これは未練だ。

 

 この女を置いていくなんて、もうできそうにない。

 

「もしどこかの世界で俺のそっくりさんを見かけたら、こう伝えてくれ」

 

 背後にかけられるクロオの言葉が、徐々に聞こえなくなっていく。世界が、俺とルージュだけになる。

 

ブラック・ジャックをよろしく(あとはまかせました)……聞こえてないか」

 

 もう、この手を放すことはない。たとえどこまでも続く旅路の果てだとしても。

 

 きっと。




前話「海賊王」から一年後。黒夫くんがチキュウエリアに移るちょっと前くらいのお話です。
交渉中の世界になんでモモンガ様堂々とぶっぱしてるかって?
交渉決裂してるからです

ゴール・D・ロジャー:出典・ONE PIECE
 言わずとしれた海賊王。大海賊時代は不発した?が世界政府はそれどころじゃない騒動に巻き込まれるので最大最悪の犯罪者の名前は不動のものとなる

ロジャー海賊団の面々:出典・ONE PIECE
 さらなる冒険の旅路が待ってるぜ! 美味い飯ばっかの世界ってどこ?と割とノリよく異世界移動。なお見習いはまだ早いと置いていかれた模様。

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