ブラック・ジャックをよろしく   作:ぱちぱち

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更新遅れている上に連続で番外編になり申し訳ありません(白目)

本編時間軸ですがとくに読んでも読まなくてもいいだらだらとした日常のお話です。

誤字修正、路徳様、酒井悠人様、佐藤東沙様、葵原てぃー様、名無しの通りすがり様ありがとうございます!


とあるルポライターの休日 間桐雁夜編

 ぎぃ、ぎぃ、と音を立ててワイヤーが軋む。

 

「ひっ……ひぃ……」

「大丈夫、落ち着いて」

 

 チラリと自身に抱きつく同乗者に視線を向ける。荒い息を吐き、自身に掴まる彼女の声にならない悲鳴に彼女を抱く手に力を込める。

 

「まだツイてる、か」

 

 落下したエレベーターが起こした破砕音。落下する直前に天井を右手で破壊し、とっさに飛び上がってみたが……もしあのままエレベーターの中に入れば、自分はともかく彼女は間違いなく死んでいただろう。

 

 さて、あれだけ大きな音が立てば確認に来る人間も居るだろう。ドアが開けば……いや。()()()()()()()()()()、と思い込みそうになったな。なら、このままでいたらそれは、酷い(悪手)ことになる。

 

 ぐっと体に力を入れてロープを揺らし、コンクリート壁に埋め込まれた梯子へと飛ぶ。腕の中の彼女の悲鳴を耳元で浴びながら、機械化した右手で梯子を掴む。

 

 背後で風を切る音――恐らく先程まで掴んでいたワイヤーが外れて落ちる音を背に、自身に抱きつく彼女を抱えたまま、このまま待機した方がいいという予感に逆らって彼は。

 

 間桐雁夜は、最も近いエレベーターの入り口へ向かって移動を始めた。

 

 

 

 

『――……』

「ああ、現象系だ。何かをきっかけに作動し、関連する人間を殺害する。そういう類のやつだろう。規模は分からないが」

 

 ウー、ウーとサイレンの音が鳴り響く。防衛機構から支給されたコミュニケの画面に向かって話しかけながら、雁夜はチラと地面にへたり込んだ、自身が助けた女性、水野沙苗に視線を向ける。

 

 ――なにも感じない。良い予感も、悪い予感も。であるならば、彼女はもう大丈夫だろう。

 

 そう確信を持った雁夜は、ではもうこの場から離れても良いな、と一歩足を踏み出そうとして。その予感に逆らうためにくるっとその場で振り返る。

 

 一拍おいて、彼が一歩踏み出そうとした場所に、花瓶が降ってきた。ガシャン、と大きな音を立てたそれに沙苗も含めた周囲の視線が集まった。

 

 おっと注目を集めてしまった。これは早く退散せねば。そう急かすように動きそうな足を()()()()()()()()させ、雁夜は沙苗に向き直る。

 

「水野さん、確か協力者が居ると言っていたが」

「え、あ、あの」

 

 雁夜の背後を、電信柱が掠めるようにして倒れ込む。

 

「現状、もうこれ以上の死者は出てこないと思う。ただ、藪を突けばどうなるか分からない。連絡が取れれば、暫くの間は大人しくしているように伝えてくれないか」

 

 そう口にしながら振り返りたくなる感情を押さえて、雁夜は一歩足を前へ進める。彼が立っていた場所を、ちぎれた電線が恨めしそうにしながら通り過ぎる。

 

 おっと、次は()()()()()()()()()()()()()()な。くるりと振り返ると、常軌を逸した形相を浮かべてこちらに走り寄る男の姿がある。右手には十徳ナイフ、振り返らなければ刺されていたかもしれない。

 

『――……』

「ああ。オカルト染みているが、これは鳴介では難しいだろう。現象ごと破壊できる人物か現象の根っこから弄れる人物が望ましい。遠野くんあたりは――」

 

 言葉にしながら、走り込んできた男を右手で頭から押さえ込み、地面に叩きつける。ゴスン、と凄まじい音を立てて男は動かなくなった。

 

「ひっ……」

「っと、ああ、殺しては居ないよ。その辺の力加減は慣れてるんだ」

 

 その光景を目の当たりにし、悲鳴をあげかける沙苗に安心するように語りかけ――

 

 自身に向かってどこからか飛んできた、包丁を右手ではたき落とす。

 

 乾いた音を立てて転がるステンレス製の刃物に苦笑を浮かべながら、どうやらネタ切れかな、と小さく呟いて。

 

 間桐雁夜は今度こそ、凄惨な事件現場になるはずだった場所に背を向けて歩き始めた。

 

 この事象を解決できる人間が来るまでおよそ48時間。その間、コレの標的を自身に向けさせなければならないが――

 

「まぁ、なんとかなるだろう」

 

 自身の胸の中。恐らく魂とでも呼ぶべきモノと同じ場所に在るナニカが、嬉しそうにニタニタと笑いながら雁夜の言葉に頷いたような感覚。悪寒とも呼ぶべきそれを自覚しながら、間桐雁夜はふぅ、と一つため息を吐く。

 

「慣れてるさ。ハードラック(悪運)と踊るのは」

 

 自身に言い聞かせるように吐いた言葉は、初夏の街並みの喧騒に混ざって消えていった。

 

 

 

 

 

「そこはヒロインと幸せなキスをして終了、じゃないのか?」

「お前は僕をなんだと思ってるんだ」

「……パニックホラー映画の」

「分かった、言わないで良い」

「拗ねるなよ。いい記事になりそうじゃないか」

 

 久方ぶりにあった友人、間黒夫の軽口に憮然とした表情を浮かべて、雁夜は同じく友人であり黒夫の助手であるレオリオが用意した茶請けに口をつける。ほんのりとした甘みの見慣れない菓子に口元を緩めて一口、二口。

 

 これはいい。後で桜ちゃんの分も用意してくれとレオリオに頼まなければ。

 

「そういえば、桜ちゃんは」

「ここに来る途中に、ほら。あの娘……ラスちゃんと呼ばれているあの娘だ。あの娘に腕を引かれて一緒に遊びに行ったよ。テンカワ飯店だっけ、そこの店長の子供がやってくるから、一緒に遊びに誘うそうだ」

「ああ……ラストオーダー(あの娘)か」

 

 雁夜の言葉に目を細めて黒夫はそう呟いて。

 

「暫くテンカワ飯店には近づかないようにしよう――なんだ、その顔は」

「いや……くっくっ」

 

 少し考えるそぶりを見せた後、黒夫は真面目くさった顔でそう口にした。その言葉に雁夜が思わずといった体で雁夜が失笑をこぼすと、黒夫は憮然とした表情を浮かべてふん、と鼻を鳴らす。

 

 ――押しの強い娘に弱いのは変わってないらしい。確か幼なじみを思い出すから、だったか。

 

 はて、ブラック・ジャック(彼の物語)にそのような人物が居たかな、と内心で考えながら雁夜はこの家に来た者すべてが絶品と断言するお茶を口に含んで口内をさっぱりとさせ。

 

「……所で平賀くん。いつまでそこで土下座しているつもりだい」

「いや、その。生まれてきてごめんなさい」

 

 共に黒夫を訪ねてきて即座に土下座を敢行した同僚に雁夜が声をかけると、彼は死んだような表情で、声を震わせながら、そう返事を返した。

 

 

 

「押しかけ女房は駄目じゃないかな」

 

 平賀サイトと、彼の婚約者家族が引き起こした一連の喜劇に一頻り笑った後、真顔でそう口にした雁夜にサイトはぐうの音も出ない、といった表情を浮かべてコメツキバッタのように頭を下げる。

 

「あれに関しては誤解もあった。それに、君が頭を下げるような事ではないだろう」

「いや……それでも、家族のやらかしだし……ですから」

「君は義理堅いんだな」

 

 サイトの言葉に呆れたような表情を浮かべ、口元を緩ませながら黒夫がそう口にする。少し軽率なところもあるが、平賀くんの人となりは黒夫が好むたぐいのものだと断言できる。だからこそ雁夜はサイトの求めに応えて、黒夫を紹介したのだ。

 

 まぁ、それが原因で今回のような面白……問題が起きてしまうとは思っていなかったが。

 

「おい。面白がっているな?」

「いいや。さっきから胸の中で悪い予感がズグズグと急き立てているよ。早く席を立て、この場から離れろ――ってね」

悪運(ハードラック)は変わらず、か」

 

 口元を歪ませる雁夜の言葉に、黒夫が再び表情を仏頂面に切り替えた。

 

 そして――その瞬間。

 

 至近距離で空気が爆発したかのような衝撃が、彼らを揺らす。

 

「平賀くん、落ち着け」

 

 体の芯から根こそぎ吹っ飛ばされるような衝撃にガタリ、と立ち上がったサイトを、黒夫が言葉で制止する。

 

 その言葉に怪訝そうな表情を浮かべてサイトは黒夫と雁夜を見比べ、どちらも取り乱してない事に気づいたのか不承不承、といった体で椅子に腰を下ろした。

 

「覚えがあるな、今の衝撃は」

「覇王色の覇気、とやらだ。おおかたジンとロジャーが殴り合ってるんだろう」

「ああ……アースラが戻ってきてるんだったか。ここに居たんだな、アイツら」

「会って行くか? おそらくは"運動用”の広場に居るはずだ」

「そうだな。そうしようか」

 

 懐かしい名前を聞いた、と小さく笑みを浮かべる雁夜に黒夫がそう尋ねると、彼は特に悩む素振りも見せずに頷きを返す。

 

「ご一緒してもいいですか?」

「構わんよ。ただ……ああ、いや。君はそこそこに動けそうだし問題ないか――レオリオ! 少し出てくる」

 

 どうにも熟れてない敬語で黒夫に話しかけるサイトに少し口ごもりながら黒夫がそう答えて、席を立つ。

 

 ――話に聞くメンツを考えるに、平賀くんを連れて行くと酷いことになりそうだが……

 

 主に可愛がり方面での危惧を抱きながら、雁夜は黒夫に続くように席を立つ。雁夜はロジャーが黒夫の治療を受けている間に知己となっており、彼と彼が率いる一味がどういう連中であるかを良く知っていた。連中に彼を引き合わせたら、どう反応するかも予測は出来た。出来たのだが。

 

 ――忠告してどうにかなる連中でもない、か。流石に命を落とすようなことはないだろう、多少の怪我も黒夫が居るし。

 

 そう自身の中で結論をつけて。ぽん、とサイトの肩を叩き、雁夜は口を開いた。

 

「じゃあ、逝こうか。いい経験になると思うよ」

「あ、はい」

 

 できるだけ優しい笑みを浮かべてそう声をかける雁夜の姿に、怪訝そうな表情を浮かべるサイト。

 

 10分後、彼はこの時の雁夜の表情の意味を知ることになる。




間黒夫:出展・なし
友人が遊びに来たので実はテンション上がってる

間桐雁夜:出展・Fate/Zero
本職はルポライターのおじさん。現在のお仕事は未調査のエリアの世界をまわり危険がないかの確認を行っている。そこで知り得た情報は文章で纏めて周知のために防衛機構が発行する情報媒体で掲載しているが、だいたい『いやそうはならんやろ』『なっとるやろがい』と突っ込まれる名物おじさん。悪運が全部悪い

平賀才人:出展・ゼロの使い魔
ロジャーさんに可愛がりを受けた。武装色の才能があるらしい

水野沙苗:出展・Another
本来ならばこのエレベーター事故によって圧死するはずだったが間桐雁夜の悪運に巻き込まれ生還。その後彼を襲う現象化した殺意とも呼ぶべき代物を間近で目撃し、趣味だったホラー作品を見ることができなくなった。

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