ブラック・ジャックをよろしく   作:ぱちぱち

36 / 52
短くて申し訳ない。朝に一瞬だけ日間1位になってたので作成中の物の一つを仕上げてみました。
小ネタの一つなので本編とはまた別になります。掲示板のちょっとした流れみたいなものです。

3話くらいクロオが居ない気がする()

追記

左手と右手を間違えてたので修正。完全にボケてました(汗)


誤字修正。ソフィア様、名無しの通りすがり様、五武蓮様、佐藤東沙様、不死蓬莱様、kuzuchi様、亜蘭作務村様、ヒロシの腹様ありがとうございます!


とあるルポライターの話

とあるルポライターの話

 

 

「これでよし、と」

 

 今回の成果を掲示板に載せ、メガネ型PCを外す。どこにでも持ち運べる便利なPCなのだが、手書き癖が染み付いている彼には少し使い辛い。いや、これも時代の進歩なのだろう。自分の居た世界では金持ちくらいしか自宅に持っていなかったパソコンが、これほど小さく、しかも手軽に手に入るようになった。

 

 世界が違うといってしまえばそれまでだが、今では気軽に他所の世界に足を運ぶ事ができるようになった身としては、技術力が売りのはずが周回遅れになっている故郷に上手い事やってほしいと願う次第だ。帰ることは出来なくなったが、それ位の愛着は未だに彼も持っている。

 

「おじさん、電話だよ」

「ああ。ありがとう、桜ちゃん」

 

 部屋に据え付けられたコードレス電話機を持って、義娘がとてとてと駆けて来る。出来る限り穏やかな笑顔を浮かべて鈍色に輝く右手で電話機を受け取り、彼女の頭を撫でる。彼女は彼を義父と呼ぶ事は無い。恐らく生涯、そう呼んでくれる事はないだろう。

 自身がそんな。義理とは言え、父と呼ばれて良い人間ではないというのは……理解している。いや。理解させられた、か。自力で気づくことは恐らく出来なかっただろう。どれだけ自身が間桐を嫌っていようとも、どれだけ間桐を疎んでいようとも、彼は間桐の人間で、彼女は間桐の被害者だ。

 

 その事実から目を背けた。きっと救えると願ってしまった。そして……その結果がこの右腕と、実の父を殺した義理の父という歪な親子関係だった。たとえそれが事故の様な物であっても。半ば以上相手の自滅に近い物であったとしても、間桐雁夜が遠坂時臣の死因であると言う事は間違いないのだから。

 

「はい、こちら間桐です」

『お久しぶりです、雁夜さん』

「ああ、ジェノス君か。もしかしてアラレちゃんの事かな?」

 

 受話器から聞こえてくる声は以前聞いた事のある声だった。随分と若いが落ち着いている声。ヒーローという、自身がなりたくてもなれない職業に就いた若き俊英。以前、初めて会った時に面と向かって「貴方が有名なストーカーの」と罵倒なのか賞賛なのか良く分からない声音で言われた時はどうしようかと思ったが、良くも悪くも裏表の無い人物だ。

 彼の師匠も本当に考えた事をそのまま話すタイプなので、彼らの世界ではもしかしたらこれが普通なのかもしれない。

 

『はい。彼女の引き取りはそちらの艦で』

「ああ……移動の際は気をつけて。そっちは危ないだろうからな」

『ご心配には及びません。それではまた』

 

 用件だけを話して電話を切る。ジェノスとは一度縁が出来てからは何度かこうやって連絡を取り合っている。と言っても、こちらから連絡をかける割合が多い。雁夜自身が色々な地域を回る仕事についている為でもあるのだが、持ち前の悪運のせいか、雁夜はかなりの確率で危険な作品と遭遇する事が多いのだ。

 特に、何故か怨霊や悪霊と言った連中とは良く相対する羽目になる。まぁ、この悪運のお陰でモブ君や蒼月君……それに恩師と出会うことが出来たのだから差し引き0といった所だろうか。

 

「おじさん、お仕事ですか?」

「ん? いや。この間拾ったアラレちゃんの件だよ。彼女と一緒に行ってくれる人が見つかったんだ」

「アラレちゃん、帰っちゃうんですね……」

 

 雁夜の言葉に、桜は少し残念そうな顔を見せる。年恰好が近いせいか、随分と彼女に懐いているようだ。あれであの子は、一応高校生なんだが……いや、原作によれば生まれてすぐだろうから3,4歳か? どちらにしろ年齢は大分違うはずだが、彼女達の間には確かな友情が芽生えているようだ。よくよく考えてみると彼女の大らかな態度は、そのはた迷惑な行動を抜きにすれば魅力的なのかもしれない。何かある度にこの艦を落としそうになるのは本当に止めて欲しいのだが。

 「調査官と飛ぶ以上危険は付き物」とグローバル艦長は言ってくれているが、流石に朝一で艦の底が抜けたりする昨今の状況は肩身が狭い。早めにジェノス君とサイタマ君には彼女を連れて行って欲しいものである。

 

trrrr……

 

 机に置いたコードレスの電話がまた鳴り始める。この短時間に二度もかかるとは珍しい事もあるものだ。受話器を取り、耳に当てる。

 

「はい、こちら間桐です」

『ああ、間桐殿か! 私だ、八雲藍だ! 実は』

「駄目です。引き取ってください」

『そんな殺生な!』

 

 ため息をついて電話を切る。彼女の騒動を起こす能力は雁夜以上だ。それこそ音に聞く人間台風(ヒューマノイドタイフーン)をも上回るとさえ言われる程の。しかし、自身が生まれた世界から疎まれる悲しさという物を知っている雁夜としては、出来れば彼女には大人しくゲンソウエリアで暮らして欲しいと思っている。

 ……恐らく、無理だろうが。それが叶わぬ望みと分かっていてもつい願ってしまうのは、間桐の性のせいだろうか。深く知った今となっては父と間桐のしてきた事を全て否定するつもりはない。しかし、腐れ果てた末の父の末路は当然の報いだという感情もある。

 

 こんな自分の葛藤を、先生は笑うだろうか。

 右腕を見る。先日連絡を取った時、恩師はこの手を治せるといった。ようやく元に戻してやれる、と。あの時はそれが最善だったとは言え、彼の右腕は先生にとっては自身の力不足の象徴なのだろう。令呪ごと切り離された右腕に身体を蝕んでいた刻印虫が流れていき、雁夜は呪縛から解き放たれた。だが、あの人にとってはそれすらも満足のいく結果ではなかったということだ。思わず雁夜の口元に笑みが浮かぶ。嫉妬する気持ちすらわかない。

 本当に人を救える人間というのは、ああいう人の事を言うのだろう。

 成る程。自分は偽者止まりが精々の器だった、という事だ。

 

「……おじさん?」

 

 桜の声に、ふと我に返る。少し暗い方向へ考えが陥っていたようだ。何でもないと答えて、時計を見る。そろそろ昼時か。

 

「お昼は中華にしようか」

「うん! 娘々に行こう! アラレちゃんも誘っていい?」

「……あ。ああ、わかった。誘って、来ようか」

 

 思わず顔が引きつりそうになるが、桜を不安にさせないように気合を込めて笑顔を維持する。そんな雁夜の様子に桜は笑顔を浮かべて外出の準備を始めた。

 ため息をつきそうになるのを堪える。この年頃の子は敏感だ。余り歓迎していないような空気を出すだけでも遠慮してしまうかもしれない……桜には、自由に生きてほしい。自分につき合わせる形で様々な場所を巡る生活を送らせてしまっている。せめて、友人との時間位は確保してやらなければ。

 出来れば、本当に出来ればで良いのだ。何も壊さず、無事に食事を終えられますよう。

 ここには居ない恩師に神頼みがてら願掛けを行い、雁夜は桜の待つ玄関へと足を向けた。

 




間桐雁夜:ルポライターのおじさん。zeroは終わっている。桜を引き取って防衛機構に所属し、現在はマクロス級にのって各エリアの調査を行っている。平たく言うと危険人物や作品に対する撒き餌。右腕は義手。

間桐桜:雁夜に正式に引き取られて養子入り。頑なに彼の事を父と呼ばない理由は不明。ただ、彼の事を嫌っているわけではない模様。流石に調査中は同行することはなく、普段はマクロス内部の学校に通っている。

ジェノス:ゲンソウエリア所属のヒーロー。師と一緒にマカイエリアの応援に行っていた。

則巻アラレ:名前だけ登場。桜と仲良くしている模様。ジェノスたちが合流するまでにマクロスを落とさないかは不明。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。