ブラック・ジャックをよろしく   作:ぱちぱち

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ちょっと思いついたので投稿。

誤字修正。佐藤東沙様、名無しの通りすがり様、オカムー様、亜蘭作務村様、タイガージョー様ありがとうございます!


番外編 原作ウォッチ

 防衛機構

 

 ごく近年、次元統合などという未曽有の災害に対処する為に場当たり的に設立され、拡大されていったその組織は幾つかの特権と義務を所属する職員に与えている。

 

 その中でも義務に、そしてある意味では特権にも当たるとある『知識』を得る際、職員は専用のブースに入り第三者からの監視を受けるよう指示が出される。

 

 これは絶望のあまり自殺しようとする人間が後を絶たなかった事から急遽義務付けられた事柄であった。勿論、監視者は同性となっている。

 

 とはいえ、だ。

 

「恥ずかしい事なのは変わらないの」

「うん……そうだね」

『ま、しょうがねーさ。我慢してくれ』

 

 なのはの言葉に隣に座るフェイトが頷き、彼女たちの会話を聞いていた第三者――今回の監視役である女性の声がブース内に入り込む。

 

「あ、リョーコちゃん」

『今回の監視者は私だから、まぁ気楽にしてくれや』

 

 声音に喜色を浮かべてなのはが監視役――スバル・リョーコの名前を呼ぶと、ブース内の空間に映像が浮かび上がり良く見知った緑色の髪が画面に現れた。

 

 彼女たちと同じく戦闘を専門とする部隊の一つ、カセイエリア第3機甲師団、通称ナデシコ戦隊と呼ばれる部隊の隊長格であり、自分たちと同じく『原作持ち』。

 

 カセイでは何かと肩身の狭い他エリアからの出向組であるなのはやフェイトにも他の隊員たちと同じように接してくれる、裏表のない女性だ。

 

「良かった……知らない人だと、やっぱり恥ずかしすぎるから」

「私、また叫んじゃいそう」

『ああ、うん。まぁ気持ちは分かるから安心してくれよ。あたしの番の時は……頼むぜ』

 

 そっと画面の中のリョーコが目をそらし、その様子に少しの安堵感とやっぱり湧き上がる羞恥心に身悶えしながら、なのはとフェイトはこくりと頷いて返す。

 

 その様子を見たリョーコは『じゃ……頼まぁ』とだけ返事をするとコミュニケを閉じる。

 

 さて……どうやら、もう時間が来てしまったようだ。

 

 なのはとフェイトが座る席はゆったりとしたシートになっており、ブースに入った人間に快適に『映像』を見せるよう考えられた造りになっている。

 

 また、一度映像が始まったら止まる事自体はトイレや何かの異常事態以外に起きないが、ジュースや軽くつまめるスナック菓子などは手を伸ばせば届く距離に設置されていて、補充まで行ってくれる親切仕様だ。

 

 人によってはこの時間が楽しみであるという者も居る位にそのブース内は快適な環境を保たれていた。なのはとフェイトにとっては牢獄に等しいが。

 

 そして、二人の心の準備が整う前にブース内は暗くなり――

 

 彼女たちの前にある大きな画面には、今のなのはより若干年上の姿をしたなのはが現れ、音楽が始まり。

 

【魔法少女リリカルなのはStrikerS】

 

「魔法少女じゃないのおぉぉぉぉぉ!!!」

「な、なのはー!!?」

 

 タイトルロゴを見るたびに毎回来る凄まじい羞恥心に今日も今日とて田村ゆかりボイスが叫び声をあげるのだった。

 

 

「フェイトちゃん、歌上手いんだね」

「私じゃなくて、声優の人だから……」

「それもそうだね。あ、フェイトちゃん変し」

「いやああああああ!!?」

 

 まぁ、作品が始まったら純粋に楽しめたりもしているようである。なんだかんだ言ってこの二人もまだ十代の少女。アニメを楽しむ余裕があるのは良い事だ。

 

 

 

【原作ウォッチ。なのはさんとフェイトさんの場合】

 

 

 

 自身の原作を見る。これは結構な人間にとって負担になる事柄だった。

 

 何せ、客観的に自身の行い、もしくはこれから起こる事を見てしまうのだ。人によってはそのまま死んでしまっている場合もあるのだから笑えない。

 

 まぁ死んでしまった方が良い、なんて場合もあるのがこの次元統合世界の恐ろしい所ではあるが、そういった事情からこの自身の原作確認は非常にストレスの高い物になりやすいのだが……世の中には例外と言える人物もまた、結構な割合で居たりする。

 

「懐かしいなぁ。キー坊に助けてもらったんだよね」

「そうそう。まさかあのキー坊があんなに立派になってるなんてねぇ」

 

 例えばこの人物などは正にその例外に当てはまると言える。

 チキュウエリア代表、野比のび太。

 

 数多の冒険を突破し、その全てで生き残り。次元統合という大災害すらも乗り越えた彼にとって、それらの冒険の数々は大事な思い出であり自身の血肉だった。

 

 隣に座る相棒を失いかけた時は流石の彼とて冷静では居られなかったが、それすらも乗り越えた今。

 

 彼にとってこの程度の思い出語り(原作確認)はむしろ激務の合間の骨休め程度にしかならないのだ。

 

「そういえば、結局今回も来なかったねぇ」

「あいつにとっては過去なんてどうでも良いんだろうさ。……次はどこまで行ったかな?」

 

 ドラえもんの言葉に過去、自分と何度もぶつかり合い、その度に和解し、そしてまたぶつかり合う。そんな悪友とも、親友とも呼べる巨漢の姿を思い浮かべて、のび太は朗らかな笑みを浮かべる。

 

 自分は友に恵まれている。こうやって振り返るたびにそう思う。経済に強い友は企業として、学力に優れた友は学者として。そして、誰よりも勇気を持っていた彼は戦場で共に自分を支えてくれた。

 

 尤も、その男は今頃自身に与えられたフネを使ってどこぞを旅しているのだろう。それでいい、とのび太は思っている。

 

 手が出るのこそ早いが、根っこの部分では正義感の強い男だ。ドラえもんを助けるというのび太の思いを知って協力してくれていたが、戦争という行為自体を苦々しく思っていたのは彼も感じ取っていた。

 

 恩は返し切れない程にある。なら、あいつのやりたい事を応援してやるのがせめてもの恩返しになるだろう。自分の中でそう結論づけて、のび太は画面へと視線を向ける。

 

 遥か遠くの空の下を翔ける友の姿を思い浮かべながら。

 

 

 

「へーっくし!」

「風邪か? タケシ」

「へっ。どっかのファンが俺様の噂をしてるんだよ。おい、バサラ! 次はどこで歌うんだ?」

「さぁな。俺は歌いたい時に歌うだけさ」

「……そりゃそうか。違いねぇ」

 

 ゲラゲラと旅の友の言葉に笑い声を上げて、大柄な男は頷いた。

 

 故郷を出て早幾月。

 

 旅は始まったばかりである。

 

 

 

【原作ウォッチ。のび太とドラえもん。或いは遥か空の下の友とその仲間(全劇場版終了後のジャイアン)

 

 

 

 

「……ひっく」

 

 映像の途切れた画面の前。

 

 暗いブースの中を、少女のしゃくりあげるような音が木霊する。

 

「ごめんね」

「……まどか」

「私のせいだよね。ほむらちゃん……ほむらちゃんが、あんな」

「違うわ! まどかの、まどかのせいなんかじゃない!」

 

 自らの隣の席ですすり泣く鹿目まどか(最愛の友)を抱きしめ、ほむらは強く否定の言葉を口にする。

 

 まどかの責任? ありえない。あれは徹頭徹尾インキュベーターが起こした悲劇だった。奴らが有史以来地球を食い物にしてきた責任を何故まどかが負わなければいけないのか。そんな事はありえない。絶対にだ。

 

 故にほむらは抱きしめる。少しでもその苦しみを拭い去ってあげたくて。自分はここに居るのだと、その思いを彼女に伝えたくて。

 

「……杏子。あたし」

「言うな。お前はここに居るんだろ。なら、良いよ」

 

 まどかとほむら達の座るブースの隣。彼女たちと同じく自らの『原作』と結末を見た二人の少女は、暗い表情のまま顔を俯かせる。一歩間違えれば殺し合っていた。その事実を飲み込んで、二人は静かに互いの手を取り合う。

 

 この温度は決して嘘ではない。その事を心に刻み込むように。

 

 そして、更にその隣。

 

「……ふぅ」

 

 人数の関係上ただ一人で自身の『原作』に触れる事になった少女は、小さく息をついて備え付けられたティーカップに手を伸ばした。

 

 一口、二口。味わうように暖かな紅茶を楽しんだ後。

 

「体が軽い……こんな幸せな気持ちは初めて」

 

 自身が死亡する未来をスルーしたと確信した彼女は小さく右手を握りしめる。

 

 その死亡の状況から、意地の悪い同じ職員から散々に「あ、マミるちゃんだ!」やら「口の大きな魔物には気を付けないとね!」等とネタバレを食らっていた彼女は、ここ数か月の眠れぬ日々が遂に終わる事を喜んだ。

 

 だが、彼女は一つだけ失念していた事がある。

 

「もう何も怖くない」

 

 安堵のあまり自身が特大のフラグを踏んでしまったという事に彼女が気づくのはもう少し先の話。

 

 

 

【原作ウォッチ。とあるフラグクラッシャー?】

 

 

 

 ブースの中は無言だった。

 

 特別に誂えてもらった『家族全員で入れる』映像ブース。最初の頃はわいわいと。途中からは沈痛な、そして最後の方では誰も言葉を発さなくなったそこで、八神はやてはぽつりと呟いた。

 

「25歳、か……」

 

 びくり、と隣に座るザフィーラが体を震わせる。その事を気にも留めずにはやては彼の背中を撫で上げるとブースの席から立ち上がる。

 

「え、映像の中のはやてちゃんは後数年後ってくらいかしらね?」

「あ、ああそうだな。あの年齢で部隊長、主の努力の成果だろう」

「そ、そうそう! それに見ない顔も結構いたな! ミッドチルダの方に居るかもしれねぇな」

「そやね。19歳まで必死に仕事に打ち込んだらきっと私もああなるんやろうね」

 

 にこやかなはやての一言に再びブースの中が沈黙に包まれる。

 

 といっても、別にはやて自身に悪気があるわけではない。彼女たちが変に気を使いすぎているだけ。そう、それだけだ。

 

「来週は、チキュウエリアに出張やな」

 

 静かな決意を胸にはやてはブースを後にする。

 

 25歳までに彼氏を。出来れば結婚まで行きたい。

 

 それは自身の未来図を見て最初に思った、彼女の心からの願いだった。

 

 

 

【原作ウォッチ。八神さん家】




なのはさんの出番がそろそろ欲しかったとかもある。
あとリョーコ忘れてたので追加

スバル・リョーコ:出典・機動戦艦ナデシコ
カセイエリア所属のエースパイロット。気になる男性が最近居るとの噂あり。

タケシ?:出典・ドラえもん?
 一体何ジャイアンなんだ……?

バサラ?:出典・マクロス7?
 歌が好きな人らしい

鹿目まどか:出典・魔法少女まどかマギカ
 アルティメットしなかった方。じゃああの災厄どうすんのかっていうとサイタマ

暁美ほむら:出典・魔法少女まどかマギカ
 デビル化しなかった方。ワンパンチで終わったので愕然としたが気を取り直して残った魔女の後処理などに奮闘している。

美樹さやか:出典・魔法少女まどかマギカ
 魔女化しなかった方。自分の末路を見て意気消沈していたが自身が手にかけたに等しい杏子からの友情で持ち直してきている。

佐倉杏子:出典・魔法少女まどかマギカ
 自身がさやかを止めるために死亡するシーンにショックを受けるも、それに耐えてさやかを気遣う。現状は互いに互いを支え合っている状況。

巴マミ:出典・魔法少女まどかマギカ
 もう何も怖くない

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