ブラック・ジャックをよろしく   作:ぱちぱち

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※このお話は「如何にしてその吸血鬼はFire Bomberのおっかけとなったのか」「アーカード」の描写外のお話になります。

誤字修正、佐藤東沙様、匿名鬼謀様ありがとうございます!


本編で描写しきれなかった人たちの話

「私たち、正義のために戦います」

 

 凛とした声が、彼女の駆る光武二式のスピーカーから響き渡る。街全体に打ち込まれたスピーカー弾から流れる青年の声が、彼女の言葉を後押しするように暗く淀んだ空気を吹き飛ばしていく、そんな中。

 

 その声に、先程まで怯え、惑い、竦んでいた気配は微塵も感じられない。

 

「たとえそれが、命を懸ける戦いであっても」

 

 平和の祭典に、参加するはずだった。

 

 半年近くに渡って続いた、人類史初の異世界間における戦いの幕引きが行われる――はずだった。

 

 背後に居る彼ら彼女らはそのために近隣世界から呼び集められた音楽家や歌手であり、そんな彼ら彼女らの演奏を見るために数多の人々がこの日、ロンドンに集まっていた。その多くは戦う力を持たない一般市民であった。

 

 そして、そんな一般市民にも容赦なく。統合軍の悪意は牙を剥いた。

 

「目をそらしたくなるような――凄惨で、悲しい戦いであっても」

 

 人口密集地域への生物兵器(BOW)投入。最低限、守るべき線すらも超えたその蛮行によって、その日倫敦は地獄と化し。

 

 そして、自分たちは守るべきものを背に――本来ならば守るべきはずだったものたちの成れの果てに刃を向けている。

 

 ギリッと奥歯を噛みしめる。

 

 平和の祭典のはずだった。だからこそ、人同士の争いで心身を傷つけた彼女たちを、元気づけるためにも参加に賛成した。こんな悪意の塊を、見せるためではなかった。

 

 予想外の敵襲。予期せぬ戦い。

 

 そして――怪物と成り果てた一般民衆の姿。

 

 限りない悪夢にさらされ、一人、また一人と仲間(彼女)たちが膝を折っていく中。

 

 赤い激情が、街を貫いた。

 

 折れかけた少女の心を繋ぎ止め。絶望さえ抱いていた民衆の心に希望の光をみせ。

 

 怪物と成り果てた彼ら彼女らすらも引き付ける輝きを放ち、彼は歌った。

 

「私たちは、一歩も引きません」

 

 その唄に。そして彼女の言葉に。一人、また一人と傷つき心折られた仲間(彼女)たちの瞳が輝きを取り戻していく。

 

「それが」

 

 彼女の言葉を引き継ぐように、言葉を紡ぐ。役立たずな隊長であるが――だからこそこれ以上、彼女に全てを任せるわけにはいかない。隊長としての――男としての小さな意地を振り絞って、張り上げるように声をあげる。

 

 ちらりとこちらを向くピンク色の光武二式に感謝と謝意がこめて頷きを返す。通信回線を開き、すぅっと息を吸い込む。

 

 街の全てに届けと。ここに我々は居るのだぞと声を張り上げるために。未だに戦う友軍へ、一人じゃないぞと声を届けるために――

 

「帝国華撃団だ!!!」

 

 大神一郎は、魂を込めてそう叫んだ。

 

 

 

【もちろん後でオープン回線でやるんじゃねぇと怒られたの巻 完】

 

 

 

「…………嗚呼」

 

 上空をかける赤い戦闘機の姿。街に響き渡る優しい歌声。

 

 その姿に、小さく。ほんとうに小さく、自分の口から声が漏れ出るのを感じながら。

 

 天羽奏は手に持つ愛槍を強く握りしめた。

 

 あれは、理想だ。

 

 歌唄い(私たち)の、目指すべき――そうありたいと願い続けるべき到達点が、あそこにある。

 

 自由に、気ままに、ただ信じるものを歌に込めて、歌う。

 

「嗚呼――」

 

 そうあれれば、どれだけ楽だろうか。そうなれれば、どれほど良いだろうか。自らも歌唄いであるからこそ。誰かのために歌うことに目覚めた今の自分だからこそ、わかる。

 

 この戦いの中。誰も彼もが憎しみと殺意を振りかざす地獄の中、ただただ純粋な怒りと悲しみを歌に込めて歌う。それがどれだけ尊く、難しく――そして眩いことかを。

 

 空を飛ぶ赤い戦闘機から視線をそらす。眩しさで、眼が焼かれそうになってしまったから。

 

 翼。余りのことに止まっていた思考が回りだす。隣に立っているはずの翼の姿を、無意識のうちに求めたその視線は。

 

 だからこそ、その瞬間を目撃した。

 

「天高く、轟け――」

 

 スピーカー弾から響き渡る歌に呼応するように、自身の半身が、半翼が両手を広げた。己の誇りとも呼ぶべき刀すら手放して、見える全てを抱きしめるかのように。

 

「つば――」

「波打つ想い束ねて」

 

 声をかけようとして、言葉が歌にかき消される。いいや違う。私が、私の声が、言葉が止まったのだ。

 

 眼の前で歌う彼女は、誰だ。

 

 一秒ごとに進化するかのように、急速に成長し続ける彼女は、誰だ。

 

 天羽奏の視界に映る彼女は。あの泣き虫で、少し抜けているところがある、風鳴翼は。

 

「真実の音色は――」

 

 青いシンフォギアを纏った少女は歌う。天に向かい、街の全てに届けとばかりに歌う。その姿に呼応するように、自身らと戦っていた敵方の兵士たちが武器を取り落とす。あれは国歌だろうか。よくわからない歌を。あちらは聖歌か。どこか聞き覚えのある歌を口ずさみながら、叫びながら、涙を流しながら彼らは歌い始める。

 

 嗚呼。

 

 たかが数秒。されど数秒。その『たかが』『されど』の間に。

 

 涙がにじむ。眩しいほどに輝く彼女の姿に、焼かれた瞼の痛みで滲んだ涙が頬を伝う。

 

 たった数瞬で、私は置いていかれてしまった。

 

 たった数瞬で、彼女は遠くどれだけ手を伸ばしても届かない高みに登ってしまった。あの上空をかける赤い戦闘機。彼に触れ、彼に焦がれ、風鳴翼は"進んだ"のだ。目をそらしてしまった自分などとは違う。彼女は、前へ進めたのだ。

 

 歌の技術が、じゃない。才能なんかでももちろん無い。そんなどうでもいい所ではなく、もっと根本的な部分で。

 

 もう、彼女と私では――釣り合わな

 

「奏!!!」

 

 流れていた音楽が途切れ、叫び声が私の耳を打つ。急速にクリアになる世界。

 

「歌おう、奏。私達で――ツヴァイウィング(二対の翼)で!!!」

 

 涙で滲んだ視界の中、鮮明に映る彼女の姿。

 

「奏が何に涙してるのかは分からない」

 

 私の、右手にと彼女の左手が重なる。この暖かさを、私は知っている。この温もりを、私は覚えている。

 

「けれど――真実の音色()は」

 

 そう口にしながら、彼女は――風鳴翼は、私の右手を導くように自身の胸へと導いていく。胸の中央。心臓に一番近い場所。確かに感じる、彼女の脈動。

 

 ああ。ドクンドクンと波打つ心の音が、私の鼓動と重なって共鳴する。

 

 翼だ。翼がここにいる。私の中でぐじゅぐじゅと燻っていた劣等感のような感情を洗い流すかのように、互いのシンフォギアが共鳴し音を放つ。

 

「ここにあるから」

 

 差し伸ばされた左手が。私を信じる暖かさが。ああはなれないと諦めた天羽奏の弱い心を叱咤する。激励する。引き上げて――そして。

 

 私と翼(二対)の歌が重なり合って、私たちは天まで届けとばかりに声を張り上げた。

 

 街の全てに届けと。ここに我々は居るのだぞと叫ぶために。

 

 上空を飛ぶ、あの赤い戦闘機にまで届くように。

 

 

 

【後のFire Bomberの追っかけであるの巻 完】

 

 

 

 それが始まったとき。彼は、脇目も振らずに自身の愛機に駆け込んだ。

 

 戦争が終わったと聞いていた。彼の歌を、傷つき疲れ果てた人々に聞かせて欲しいと頼まれた。だから彼は、この街にやってきた。彼の歌をこの街に響かせるために。

 

 けれど――戦争は終わっていなかった

 

 眼の前で、男が泣いている。

 

 野戦服というのだろうか。軍人が身につける服を身にまとい、頭に回転するプロペラのようなものをつけた恰幅のいい男だ。

 

 彼は、男に助けられた。上空から街中にスピーカーをばら撒き、胸を燃やす感情を声に乗せて歌っていた彼を、複数のミサイルが襲った。そのミサイルを、目の前の男が視覚化した声、としか言いようのないナニかを使って撃ち落としたのだ。

 

 礼を言わなければ。ちょうど歌い終わった所でもあった。通信越しに一言かけるくらいは。そう思ってギターを掻き鳴らし、ファイターからガウォーク形態へとファイヤーバルキリーを変形させた時。

 

 通信機ごしに、男の慟哭が響き渡った。

 

「俺は……俺たちは、ミュージシャンは……っ!!」

 

 途切れ途切れに。

 

「お前が正しい! そうなんだ、ミュージシャンってのは……アーティストってのは自由で!! こんな、こんな戦いなんか!!」

 

 ただただ、激情を言葉にしただけのその男の哭く声が。意味をなさない一つひとつの言葉が通信機越しに彼の耳と、心を打つ。

 

 大の大人が、顔をグシャグシャにして。嗚咽混じりに叫び声をあげて。傍から見れば、ずいぶんと情けない姿に見えるかもしれない。

 

 けれど――何故だろうか。

 

「分かる」

 

 マイクに向かって、彼はそう言葉を口にする。

 

 男の言葉は、まるで意味をなしていなかった。言葉としては、まるで意味がわからないそれらだけれど。

 

「分かるよ、おっさんの気持ち」

 

 眼の前で、涙を流す男の感情は。憤りと、悲しみと、後悔が。

 

 彼に言葉の限界を超えて、男の意思を伝えた。

 

「おお…………おおおぉぉぉっ!!」

 

 その事に、男は歓喜したように声を震わせた。死にそうなほどにクシャクシャになっていた顔に満面の喜色を浮かべて。

 

「分かるか、分かってくれるか……!」

「ああ、分かる。俺たちは、歌わなきゃいけない」

 

 こいつと。このおっさんと、歌いたい。

 

 きっと楽しい時間になるだろう。

 

 その彼の気持が、伝わったのだろうか。雄叫びを上げて。この街の全てに届けと言わんばかりに声を張り上げて、男は吠えた。

 

「そうだ――歌え! 何も気にせず! ただ心のままに歌え熱気バサラ!! 無粋な飛び入りは俺様が片付けてやる! だからお前は――歌え!!」

「ああ。わかった」

 

 元よりそのつもりであった。けれど、手伝ってくれるというのなら断る理由はない。

 

 ああ、だが。

 

「デュエットしたくなりゃいつでも入っていいぜ。おっさんがついてこれるなら、な」

「……はっ! おっさんじゃねぇ!」

 

 軽く笑みを滲ませてそう口にすると、おっさんが愉快でたまらない、といった声をあげる。

 

 そしてすぅっと息を吸い込み。

 

「オッレはジャイアーン!」

 

 高らかに。誇りと高揚を声に乗せて。

 

「剛田武。親しい友人は、ジャイアンと呼ぶ。よろしくな、熱気バサラ!」

 

 全劇場版終了後のジャイアン(剛田武)は、親指をたててそう言った。

 

 

 

【「わかった。じゃあタケシな!」「お、おう」の巻 完】




大神一郎:出典・サクラ大戦シリーズ
 帝国華撃団花組隊長。本来は自身がやるべき事を部下にやらせてしまい少し後悔している。戦闘後にオープン回線で叫ぶなと関係各所に怒られ、そして感謝された。彼の言葉に元気づけられた人も、居たのだ。

天羽奏:出典・戦姫絶唱シンフォギア
 ツヴァイウィングの赤い方。厄介系吸血鬼に目をつけられたり平和の祭典に参加したと思ったら地獄みたいな状況に放り込まれることになったり相棒が階段飛ばしで進化して置いてかれそうになったりと今作中一番可愛そうな目にあってる。この後Fire Bomberの追っかけになる。

風鳴翼:出典・戦姫絶唱シンフォギア
 ツヴァイウィングの青い方。原作軸と違い奏を失っていないため若干精神的な弱さが見えていたが、熱気バサラに充てられジョグレス進化を果たす。この後Fire Bomberの追っかけになる。

熱気バサラ:出典・マクロス7
 人も軍人も怪物も、この街にいる何もかもが彼の歌を聴いた。この話はこれだけの話。

剛田武:出典・ドラえもん
 全劇場版終了後のジャイアン。つおい。バサラを狙うミサイルはコエカタマリンで全部撃ち落としたしこの後絡んできた敵空戦部隊は全部彼が片付けた(エース級含む)






描写外の大まかな倫敦攻防戦の流れ

統合軍、チキュウエリアから撤退。残存勢力をまとめてツキエリアを経由してモクセイエリアへ移動

防衛機構チキュウエリア支部、統合軍の撤退を“再三”確認し内戦終結を宣言。

終結記念に激戦区となったエリアで祭典を開催。各地のアーティストを招待

祭典の開催日、開催都市となった倫敦の各所にどこでもドアが出現。防衛機構支部の司令を統合軍首魁蘇妲己が襲撃。野比のび太、蘇妲己と対峙。

蘇妲己のテンプテーション(誘惑の術)で連合軍の半数が離反。倫敦に攻撃を開始。警備隊として配備されていた連邦軍部隊と戦闘開始。アムロ・レイ、キラ・ヤマトが交戦

離反した電脳対策班.hackersにより倫敦全域の電子装備がダウン。長谷川千雨、メインサーバーを犠牲に一時的に.hackersの攻勢をシャットアウトする。が、倫敦全域の電子網を失う

“少佐”率いる最後の大隊が倫敦上空に侵入。倫敦全域に無差別攻撃。及び各地のどこでもドアから統合軍所属部隊が出現。“ウェスカー”、“白銀”、その他ネームド

会場警備部隊が接敵。“烈火の将”、倫敦上空にて“白銀”率いる第二〇三航空魔導大隊と激突。

一部参加者、会場警備に合力。“ウェスカー”によりBOWが放たれる。アーカード、“ウェスカー”と接敵・撃退するも取り逃がす。

ヘルシング邸襲撃。風見農華、セラス・ヴィクトリアによって迎撃、撃滅。暁の出撃。

ブラック・ジャック(間黒夫)と愉快な仲間たち、戦闘に巻き込まれる。霞ジャギ、ユダと交戦、勝利。ブラック・ジャック(間黒夫)、銃弾で心臓を撃ち抜かれ意識不明の重体に

バサラ降臨

各戦線が停止。戦意喪失者多数。司令部にてテンプテーション(誘惑の術)から逃れたシェルビー・M・ペンウッド(英国無双)が蘇妲己を銃撃。蘇妲己負傷。タイヨウ系エリア郡代表太公望(伏犠)、司令部内に突入。蘇妲己撤退。ブラック・ジャック(間黒夫)復活

蘇妲己撤退によりテンプテーション(誘惑の術)の影響下にあった部隊が戦闘放棄。9割の戦線で戦闘が終結。

アーカード、シュレディンガーによって敗北

ブラック・ジャック(間黒夫)、アーカードの内部にあったシュレディンガー(患部)を切除。少佐、完全敗北

太公望(伏犠)、野比のび太と共に最後の大隊旗艦へ。“止まれない”残り一割の統合軍残存戦力に旗艦へ向かうよう呼びかけ。のび太、風見農華と共に1割の統合軍残存戦力を撃滅。戦闘終了。



これ全部書くとどのくらいかかるかわからなくなったので()歌に関係がある部分だけ抜き出しました

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