最近、30歳以上向けにばかりなっていた為少し最近の話からチョイス。
一人称オンリーで作ろうとしてるんですが、やはり難しいですね。
誤字修正、とくほ様、五武蓮様、ハクオロ様、佐藤東沙様、燃えるタンポポ様、椦紋様、不死蓬莱様、影鴉様、あまにた様、名無しの通りすがり様、竜人機様、匿名鬼謀様、名無しの通りすがり様、赤頭巾様ありがとうございました!
その人を姉さんが見つけてきたのは、ある雨の日の事だった。
当時の俺はまだまだ子供で家の手伝いも大してできず、雨の日は自宅の中で退屈を持て余していた。そんな時、薬草園の様子を見に行っていた姉さんが男を背負って家に飛び込んできたのだ。男はずぶ濡れで、顔の一部は黒く変色しており一見すると死んだようにしか見えなかった。
「大変……体が冷え切ってる」
姉さんは言って男の服を脱がせ始め、俺は姉さんの指示を受けて急いで暖炉に火をおこし、暖炉の前に毛布を並べた。毛布の上に男を寝かせた後、姉さんは薄着になって男の体の上に覆いかぶさる。少しでも温度を上げる為の知恵らしい。体温が低くなれば人は緩慢な死に向かう。
「狩人だった父さんが、そう教えてくれたの」
「……父さんが?」
物心付く前に亡くなった両親の事を俺は覚えていない。俺の問いに姉は少し寂しそうに頷いて、また男の体に自身の体を密着させる。
途中交代しながら、俺と姉さんは男の顔色に血の気が差すまで男の体を温め続けた。男の顔色が戻ったのを見計らって、姉さんは村長を呼びに行くと言って家を出て行った。俺はその間に男の衣服を纏めて置き、死んだ父さんの服を男に着せる。父さんと男の体格は似通っているらしく、着せるのに苦労する事はなかった。
「……すげっ」
男に服を着せながら、俺は彼の体を隅々まで見ることになった。彼の引き締まった体は全身に縫い合わせたかのような傷跡があり、更には痣か何かになって変色したと思っていた顔の一部は、全く違う肌色をしている事に気づいた。今までに見たことの無い、異貌の持ち主だ。そして彼の着ていたコートの中には沢山の刃物が入っていて、とてもまともな職業の人間だとは思えない。俺はこの時、もしかしたらとんでもない人物を助けてしまったのではないかと考えた。
それから程なく、姉さんは村長や隣家のおじさんを連れて帰ってきた。村長は男を一瞥し、こんな容姿の人間は見た事も聞いたことも無い。もしや魔族なのではないかと疑い始めた。隣家のおじさんは兵士だった経験がある為それを否定したが、しかし確かにこんな人間は見たことが無いと警戒感を露にした。
すぐに追放した方がいいのではないか、という村長の言葉に俺もその方が良いのではないかと思ったのだが、姉さんはその言葉に首を横に振る。
「この人の体からは……とても強い火酒の匂いと薬品の香りがします。もしかしたら、旅の途中のお医者様や薬師なのかもしれません」
「むぅ……もし、そうなら確かに、村にとって貴重な機会ではあるが……」
辺境の村では医者も薬師も居ないという場所もままある。幸いにもこの村には姉さんが居るが、その姉さん自体が母さんが病死した為に急場で薬師を継ぐ事になった半人前だ。もし、彼がそのどちらかであるならば、その知識の価値は計り知れない。
姉さんはそう言って村長達に目覚めるまで猶予が欲しいと訴えた。急に跡を継ぐ事になった姉さんはまだまだ薬師としての信頼度は低い。もしこの男が姉さんの言うとおりに医師や薬師なら万々歳。仮に違ってもたった一人くらいはどうとでもなる。村長はそう考えたらしく、姉さんの提案を受け入れた。
勿論、姉さんと俺の姉弟二人暮らしのこの家に、余所者の男が居て万が一があってはならない。兵士としての訓練を受けた事がある隣家のおじさんと村長の息子さんが念の為、今夜はうちにいてくれる事になった。姉さんは二人に頭を下げて、迷惑をかけたお詫びに、と夕食のシチューを二人に振る舞った。二人は美味しい美味しいと姉さんの手料理を食べ、交代で寝ずの番についた。
ここから先は村長の息子に後に聞いた話になるが、男が目覚めたのは夜更け過ぎだったらしい。その時分は子供だった俺はベッドの中に居て良く覚えていないが、男はいきなり跳ね起きると何かに怯えるようにベッドから転げ落ち、外に逃げようとしたらしい。その時当番だった村長の息子が慌てて取り押さえ、その騒ぎに起き出してきた隣家のおじさんと一緒に彼が落ち着くまで押さえ込む羽目になったと、後ほどこの時の事を語った村長の息子は愚痴っていた。
一度落ち着いた後の男は非常に理性的な人物だった。ニホンという遠国からとんでもない化け物の手でこの辺りに転移の魔法で飛ばされてしまったそうで、姉さんの考えていた通り母国では医者を営んでいたらしい。助けてもらった事には非常に感謝しており、何かできる事があれば何でもすると村長達に言ったらしい。良い方向に予想が当たった村長は気を良くして、村の空き家の一つを彼に貸し与えて体調の悪い者を診て欲しいと頼んだ。後、出来れば姉さんに手ほどきをして欲しい、とも。
知識は宝にも等しいものだ。特に医療や数学と言った知識、技術は精通すればそれだけで飯が食える。命の恩という大きな借りがあるとは言え、男は笑顔でその申し出を受け入れ、次の日からは姉さんと小間使いに俺を連れて村中の人間を診察していった。
間違いではない。村中の、だ。
「ほ、本当に今から全部?」
「無論だとも。時間が惜しい。道案内を頼む」
隣家のおじさんが畑に出る前に捕まえて軽く診断したのを皮切りに隣家のおばさん、その子供、そしてそれが終わったらまた次の家に、人が居なければその人物の畑に行き、といった具合に男は健康状態に問題があるかないかを歩いて見て回り、多少の風邪や持病の持ち主まで村人全員の健康状態を2、3日で把握すると、今度は狩人を捕まえて山の中に入っていった。
流石に山の中まで案内してくれと言われずにほっとした俺と、見るもの全てが勉強、といった具合でここ数日動き続けていた姉さんが家で体を休めていると、持っていった籠一杯に薬草やら虫やらを詰め込んだ男が家に戻ってきて、姉さんに声をかけた。
「調合をしたい。設備を借りてもいいかな?」
「……あの、その背中にあるのは。あと、蛇が籠から垂れて」
「全て薬になるものばかりだ。あと、その蛇は毒蛇だからすでに絞めてあるが、垂れる液体は猛毒らしい。気をつけてくれ」
「あ、はい」
笑顔を浮かべてそう言う男に姉さんは何かを言おうとして諦めた。俺は調合用に使っている部屋に案内される男の背後から付いてくる、大きな猪を背負った狩人を見た。非常に疲れた顔をしており、山の中で何があったのかがその表情だけで察せてしまった。彼はその後も男……先生の無茶振りに付き合わされるようになり、俺が知っている限りあの村で姉さんや俺の次に先生から影響を受けた人物だと思っている。今は王都で冒険者として名が通っているらしい。
そして、先生はその山から採取した怪しい物体を使って本当に色々な薬を作り出した。打ち身の薬、風邪の薬。下痢止めから頭痛止め。どれもこれも素晴らしい効き目だった。効き目がありすぎて今までに作っていた薬が無用の長物になったと姉さんが嘆いたほどだ。何でもサイテキカイという辞典から得た知識を元に作ったらしい。先生と別れた後に姉さんや諸国の医術者が探し回っているが、そんな辞典はどこを探しても見つからなかったそうだ。恐らく古の知識を纏められていたものではないかと今は言われている。現存するレシピは姉さんが知る僅かなものしか残っていない。
少し話が逸れてしまったな。そんな風に村の中で大暴れをしていた先生が近隣で噂になるのはそれほど時間も掛からなかった。辺境の村に名医が居る。しかも、とんでもないほどの。魔神との戦争の最中、そんな噂が流れれば当然その力に引き付けられる存在は居る。当時、激しくなる魔神軍との戦いで軍の消耗に頭を悩ませていた王国の首脳部は真偽を確かめる為と、もしも真であるならば軍医として雇い入れる事を目的に銀等級の冒険者チームを辺境の村に派遣した。
俺が初めて見た冒険者チームだ。今でも覚えている。森人の精霊使いをリーダーに只人の剣士、圃人の斥候、只人の女神官。彼らは村長にまず話を通すと、混乱する村長を道案内に先生の診療所と化していた俺達の家に訪ねてきた。その当時は近隣から噂を聞いてやってきた隣村の村人も先生の診察を受けに来ていた頃で、俺達の家の前には長蛇の列が出来ていた。その様子に彼らは噂が正しいと言う事を悟ったらしい。
尋ねてきた彼らは非常に丁寧な対応で先生に接していた。困惑する先生に対し、森人の精霊使いは現在の魔神と人類の戦いの状況を語り、先生の力が必要なのだと力説していた。森人というのは随分情熱的な種族なんだなとその時は思ったものだ。後ほど、他の森人と出会ってあの精霊使いが特殊なんだと分かったが。
「……話は、わかりました」
「ではっ!」
「いえ。その前に……村長。私は恩を返しきれたでしょうか」
彼らの言葉に先生はため息を吐くと、村長に対してそう問いかける。その言葉に、村長は動揺したようだった。この時、村に彼が来てから一月程が過ぎていた。その間の彼の働きは、全て姉とこの村に救われた命の恩を返す為だけに行われていた。その事を、恐らく村長は彼の口から言われて思い出したのかもしれない。
たった一月だけだというのに、それだけ村に彼が馴染んでいた、というのもある。ただ、恐らく村長はこの時まで、彼が務めを終えたら帰ってくるとでも思っていたのだろう。だが、ここで彼を手放せばもう戻ってくる事はない。そもそも、この村は彼には狭すぎる。そんな事はその場にいる全ての人間が感じていた。恐らく、村人全てがそう感じていた。
だから、あの時姉さんは笑顔でああ言ったのだろう。
「先生。先生の力は、もっと大きな場面で使うべきです……十分すぎるほどに、恩を返していただきました」
「……今まで、世話になった」
先生は数瞬無言で姉を見て、静かにそう言った。それから先生はいつにもまして診察の速度を上げ、日が落ちる前に全ての患者を診終わると村の面々に別れを告げて村を去っていった。最初に着ていたコートだけを持って。残り全ての荷物は村の物だと、診察のお礼に近隣の村の者が置いて行った財貨や食べ物などは全て家に置かれていた。この村で行っていた事は村への恩返しであると。最後まで先生はその姿勢を崩さなかった。
去っていく馬車を村人総出で見送りながら、俺は姉さんと並んで手を振り続けた。先生は一度だけこちらを振り向き小さく手を振って、そして木々の中へと馬車は消えていった。泣きじゃくる姉さんの手を引きながら、俺達は先生の居ない家へと帰った。
そして、その晩。俺達の村はゴブリンの群れに襲われた。
「はぁ!?」
「え、その、今の流れで、ですか」
「……ああ。奴らにとって俺たちの営みなどは関係ない。隙を見出したならばそこに付け込んでくる」
俺の話を聞いていた妖精弓手と女神官が驚きの声を上げるが、奴らの生態を調べれば調べるほど当時の俺達の村の無用心さは際立ってくる。元兵士が居るとは言え防備もおざなり。周囲の森から村までの距離も近く、接近に気づくことが出来ない。仮に気づいたとしてもそれを周囲に知らせる手段が人の声だけだ。これではいつでも襲ってくれと言っているようなものだろう。
そして、奴らはそんな状況に付け込んだ。その結果があの夜の襲撃だった、というわけだ。
「え。じゃあその村ってどうなったの? あんたが生き残ってるって事は」
「ああ。襲撃を無事に乗り切った。といっても数年帰っていないから今はどうなっているかわからんがな」
「そ、そうだったんですか……びっくりしました」
俺の言葉に安堵したように二人がため息を吐く。そう、無事に襲撃を乗り切る事ができた。村の中まで入り込まれてしまったせいで数人の犠牲は出てしまったが、ゴブリンが村まで入り込んだ後と考えればないに等しいレベルの被害だ。全滅していてもおかしくなかったのだから。
今でもあの夜の光景は目に浮かぶ。押さえつけられた俺の前で衣服を破り捨てられ、ゴブリンに嬲り者にされそうになっていた姉さん。先生が残した財貨を手に姉さんに覆いかぶさったゴブリン。そして、先生の名前を叫ぶ姉さんの声に、静かに応える声。
「本当の英雄というものは、ああいう人の事を言うんだろう。俺は、ああはなれない」
「……ゴブリンスレイヤーさん?」
「なんでもない」
席を立ち、カウンターへと向かう。受付嬢が俺の姿を見て頬を緩める。恐らく、ゴブリン退治があるのだろう。
幼い頃。たとえ勇者になれなくても冒険者として人々を守りたいと夢を見た。その夢は今もこの心に宿っている。俺には才覚は無い。一流の冒険者と皆は言ってくれるがとてもそんな力は持っていないと自覚している。だが、そんなものは関係ないのだ。
あの時。無力だった自分。何も出来なかった自分が許せなかった。ゴブリンに拘り続けているのも、もしかしたらそんな女々しい心情故なのかもしれない。師匠はそんな俺を嘲笑っていた。そして、ただ一言、やれとだけ言って俺に訓練をつけた。
力が無くて何も出来なかった自分はもう居ない。憧れは遥か遠く。恐らく俺の歩みでは到達できない場所にあるだろう。だが、決して見失う事はない。あの人のように大勢の人を救うことはできなくても。俺は俺のやり方で道を行く。
それが、俺なりの彼への恩返しなのだから。
side.K あるいは蛇足。
随分と懐かしい夢を見た。あれは統合に巻き込まれた最初の頃だったろうか。
あのクソみたいな神だかなんだかわからない化け物に絡まれて住み慣れた日本から遠い場所にぶっ飛ばされたのが全ての始まりだった。三日三晩山の中をさまよい歩いた俺は三日目にしてようやく『最適解』さんの存在に気づき、人里にたどりつく事が出来た。ぶっちゃけ死ぬかと思っていた。
当時はまだ『最適解』さんの切り方も分からなかったし、ずっとONにしたまま過ごしてたんだよな。暴走ってああいう事を言うんだろう。なんだよ半日で山を一周って。この体の体力は確かに優れてるが当時は念も魔法も習得してなかったし死ぬかと思ったわ。
あの頃といえば、やっぱり思い出すのはあの娘の事だ。可愛かった……今にして思えばあの娘俺に惚れてたのかも知れん。ゴブリンに襲われそうになった時めっちゃ俺の名前叫んでたし。いや、でも、ないか。純粋に医者として尊敬してるって感じだったしな。
盛大に見送って貰ったのにコートの中身を忘れて戻ってきた俺を優しく抱き締めてくれたっけ。凄く恥ずかしかったが、まぁ、役得だったな。結局あの後は王国に雇われることになったのだが、ゴブリンに襲われた事がトラウマになったのか震えて縋り付いてくるから、あの世界を出るまでずっと彼女に助手をお願いしていた。魔神との戦いとやらで七日七晩徹夜で治療して三日三晩寝るというとんでもない荒行に耐えられたのも、彼女の献身的なサポートがあったからこそだ。
……また、会えれば嬉しいんだがな。
あの子といえば弟君も元気だろうか。いっつもむすっとした顔をしてるが、姉思いの優しい子だった。最後にゴブリンに襲われてた時、連中の返り血浴びせちゃって怖がらせちゃったからな。悪い事をしてしまった。確か最後にあった時は冒険者になるって子供みたいな背格好の爺さんに弟子入りしてたっけ。お姉さんが心配してたけど、元気で居てくれれば良いんだが。
さて、今日は地主の依頼で診察が数件か。何だか隠居したのに以前とあんまり忙しさが変わってないんだが。偶にはのんびりと休ませて欲しいぜ。クソったれな神様以外の神様、頼む! 早くのんびりする為にも次の統合ではブラック・ジャックをよろしく! でも火の鳥は勘弁な!
因みにゴブスレさんとクロオの時間軸は大分ずれてます。ゴブスレさんは統合から10年後位。
とある少年改めゴブリンスレイヤー:出展・ゴブリンスレイヤー
ぱちぱちの脳内だとさまようよろいの額に殺の文字で出てくる人。狂気に走るきっかけが大分マイルドになった為ゴブリンにかける情熱もマイルドに。でも全力で殺しにいくスタイルは変わらない。
少年の姉:出展・ゴブリンスレイヤー
原作では死亡。この話では最初のフラグ・ブレイカー。ゴブリンに玩具にされて惨殺される所をクロオの投げナイフで危機を脱した。その後、その時のトラウマが、という口実を得てクロオに付き従い王国軍に参加。彼の医療技術を間近で学び『神医の愛弟子』の称号を得る。
現在は王都で王宮の典医長を勤めており、何とか防衛機構に参加できないかと躍起になっている模様。
女神官:出展・ゴブリンスレイヤー
少しだけ登場。この話でも原作の流れ沿いで救出されるが、ゴブスレさんが大分マイルドな為早めに打ち解けた模様。
妖精弓手:出展・ゴブリンスレイヤー
少しだけ登場。女神官に同じくゴブスレさんが大分マイルドな為打ち解けるのも早かった模様。また、ゴブスレさんも冒険自体に興味が無い状態ではない為何度かゴブリン抜きの冒険に誘う事に成功している。