ブラック・ジャックをよろしく   作:ぱちぱち

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今回は過去の話と今の話が混合する形でまとめてみました。
『』で台詞が囲まれているあたりは過去になります。分かり辛いと意見があったら頭に【―2年前】とか入れようと思うのでお教えください。

誤字修正。竜人機様、亜蘭作務村様、とくほ様、kuzuchi様、日向@様ありがとうございました!


ジャギ

『アンナァ! どこに居るんだ!』

 

 全てが核の炎に焼き尽くされた廃墟の町を一台のバイクが駆ける。疾走するバイクに跨る男は必死の形相を浮かべて叫び続けた。この声が彼女に届くように。彼女が彼の声を聞いて姿を現してくれと、願いを込めて。

 すでに声は枯れ果てている。喉が裂けたのだろう、鉄の味を感じながら男は尚も声を上げて叫び続けた。リーダーから聞いた奴らのアジトはもぬけの空になっていた。その場に残された衣服の残骸を見た時には逆上しそうになったが、冷静さを失っては不味いと必死になって心を落ち着かせる。奴らの姿もないと言う事はアンナは何かしらの方法で逃げ出したと言う事だ。ならアンナはどこに逃げる。どこなら安全だと考える?

 

 脳裏に浮かび上がった北斗の寺院へとバイクの頭を向けて男は……ジャギはバイクのスロットルを開けた。アンナはあそこを知っている。この混沌とした時代に駆け込むとしたらあの場しかない。半ば信じ込むようにジャギはそう考えて、アンナの名前を叫び続けた。この叫びが続く限り彼女は無事なんじゃないかと。生きていてくれるのではないかと願うように

 

 ジャギの願いは、半分だけ叶う事になる。

 明らかに暴行を受けたと思われる裸の女とその女を抱える黒い男を見つけた時、彼の中に残っていた理性は限界を超えた。野獣のような咆哮をあげて襲い掛かるジャギに、男は強い眼差しを送る。それが黒い男とジャギの、短いようで長い日々の始まりだった。

 

 

 

「お偉いさんってのはどうも肩が凝るもんだなぁ。ええ? 野比よぅ」

「君も部下を持つ身だろうに」

 

 カチャ、カチャ、と機械を弄るような音が狭い室内に木霊する。野比と呼ばれた男はソファに座る男の声に答えながら、自身の親友の外装の一部を外し少し調子が悪いといっていた接触部分を弄る。一度機能停止してしまって以降、彼の親友は時たま不調を訴える事がある。製造元のマツシバ・ロボット工場も、彼らが知りえる最高の科学者である白眉博士も特に問題は無いと言っていたが、野比は自身の目で親友の状態を見たいと訴え、彼女にある程度のレクチャーを受けて以降は定期整備以外は全て行っているそうだ。

 

 故あれば一から親友を作り上げるつもりだったという野比からすればこの程度は造作も無い事だったらしい。以前酒の席で聞いた話では、別世界の野比のび太という男の中には、機能停止した親友を蘇らせる為だけに人生の全てを捧げた者も居たらしい。そんな彼に比べれば偉大な先達も居て、環境までも整っているこの世界で泣き言を言う訳には行かない、と野比は語った事がある。

 無論、その後に件の親友自体から口すっぱく注意をされたそうだが。あくまでもこの場に居る野比のび太と偉大な科学者・野比のび太はたどった歴史も違えば能力も違うのだ。自身を見失ってはいけない、と。とはいえその親友自体もこの野比に体を診てもらう事を喜んでいる節がある為、あくまでも口頭でのお小言程度しか効果はないようだが。

 

「あぁ、そこそこ。のび太君のマッサージはやっぱり気持ち良いねぇ」

「内部を弄られるマッサージねぇ」

「人間とおんなじさ。ロボットだって痛いものは痛いし気持ち良いものは気持ち良いんだ。そうだろう?」

 

 青狸にしか見えない猫型ロボットの言葉にへっ、と鼻で笑ってジャギはカップに手を伸ばす。相変わらずの人間臭さだと思いながらコーヒーを口に含み、ジャギは室内を見回す。ここは野比が昔住んでいた家の自室を模した部屋なのだという。押入れに寝かせたドラえもんの背中を弄り回しながら、野比は「ああ、そうだ」と振り返って机に座るジャギを見た。

 

「そこの引き出しはトラップになっているから開けないでくれ。この部屋を見たら皆そこを開こうとするから面白くて仕掛けてあるんだ」

「おいおい、物騒な部屋だな」

「こんな立場だとね。私生活なんてあってないようなものだが、どうにもそれを理解してくれない人が多い。どこかに隠された『と思われている』ものを暴こうとする連中へ備えをするのは当然だろう?」

 

 よし、と優しくドラえもんの外装を元に戻し、野比のび太は『のび太』から野比代表へと戻った。畳の上に座布団を二枚敷いて片方に座ると、椅子に座るジャギに目を向ける。その圧力に一瞬拳士としての本能がざわめき、慌てて浮き上がった腰を椅子に下ろす。丸腰のガンマンに釣られた未熟に歯噛みしながら、ジャギは誘いをかけてきた男にクレームをつける。

 

「おい、てめぇ自分の立場を考えろや」

「ふふっ。ここ最近慣れない仕事ばかりで肩が凝っていたからね。ここに君が居るとついつい互いの立場を忘れてしまうんだ、許してくれ」

「……どうしたんだい、二人とも」

 

 苛立つジャギとそれに笑顔で返す野比。その二人の様子を押入れから降りたドラえもんが怪訝な顔で眺めている。確かに、面子こそ違うが懐かしいと思える光景だ。ジャギがのび太に突っかかり、のび太がそれをあしらって。その様子を興味深そうにクロオが眺めている。レオリオの奴はたまに巻き込まれてはぶつぶつと文句をつけていた。思い出というにはまだ新しい記憶だ。

 

 

 

 ジャギは男を殴り飛ばした。黒い男は何かしらの武術を齧っているような動きを見せたが、ジャギの敵ではなかった。身を翻した男に蹴りを入れ、堪らずアンナを離して倒れこんだ男の体を数発蹴り上げる。黒いマントのようなコートは何かしらの特殊な素材で出来ているのか不可思議な感覚がジャギの足からは伝わってきたが、骨を折った感触は感じた為、ジャギは男を無視し、アンナへと駆け寄った。

 

『アン…ナ……』

 

 駆け寄って、ジャギは膝を地につけた。体中を汚された恋人は息も絶え絶えで、このまま放置すれば遠からず命を失うのは目に見えている。ジャギの心の中に残っていた理性が急速に力を取り戻した。医者を、医者を探さなければいけない。アンナが死んでしまう。

 恋人を抱き抱え、急いでバイクへ向かおうとしたジャギの足を誰かの手が掴んだ。目を向ければ、先ほどの黒い男が彼の足首を掴んでいる。顔を蹴り飛ばし突き放そうとするが、黒い男は頭や目から血を流しながらもその手を離そうとはしなかった。苛立ちを覚えたジャギは殺すつもりで彼の頭を踏み潰そうとして男の目を見た。いや、見てしまった。

 ただの一瞥で、北斗神拳の伝承者候補であったジャギは動きの全てを封じられてしまった。あれほどに心を暴れ狂っていた怒りは消え失せ、何故自分はこんなにも荒れ狂っていたのかと戸惑うほどに落ち着いていた。男の目は、殺されそうになって居る者が殺そうとしている者に向けるモノではなかった。もっと別の。あれは、親が悪さをした子供を見るような、そんな温度の視線だった。

 

『がぼっ……』

『あ、す、すまねぇ、大丈夫か?』

 

 血を吐き出しながら身を起こそうとした男に手を貸して立ち上がらせる。良く良く考えれば、この男は連中の仲間ではない。まず身なりからして全く別物だった。もっと早く気付くべきだったのに頭に血が上って遮二無二動いてしまった。彼はアンナを助けてくれたのかもしれないというのに!

 

『あ、あんたも医者に行かねぇと! さっき骨を折った感触がしたし、血、血も』

 

 ジャギの言葉に、黒い男は血を口から吐き出しながら首を横に振った。内臓を痛めているのかもしれない。焦るジャギに対して男は近くを見回してからこう答えた。

 

『その子の処置を……早くしなければ、間に合わん』

『処置? あ、あんたもしかして』

 

 ジャギの言葉に、男はふらつきながらも強い視線のまま頷いた。

 

『私は医者だ……げふっ。この子を、どこか寝かせられる場所へ』

 

 

 

「先生関連といえば」

「あん?」

 

 頭の中を過ぎった懐かしい出来事に思いを馳せていると、唐突に野比がそう口にした。

 

「実は頼まれ事をされていてね」

 

 そう言って立ち上がった野比は、部屋の隅に置かれている本棚から一冊の本を抜き出し、その中に挟んであった封筒を取り出した。電子式の封筒、開けば映像が流れるタイプの物だろう。随分と無用心な、とも思ったが見られて困るような代物でもないという事だろう。カセイの行政府からの書簡らしき印が入っていると言う事は向こうの人間も見ているという事なのだから。

 野比から受け取った書面をなぞる。筆跡は覚えのある文字だった。どうやら、元気にしているらしい。書簡を開きながら、ジャギはここで読んでも良いのか、と問うつもりで野比を見る。その視線に野比は苦笑して頷いた。どうやらそれほど大きな問題ではないらしい。……いや。書面に出てきた人物にジャギは盛大に顔をしかめた。野郎、嵌めやがったな。

 

「おい、野比」

「じゃあ、今から迎えに行ってくれ。○○空港に今日到着予定なんだ」

「てめぇ、もうすぐじゃねぇか!」

「明日から数日休んでも良い。例の件もあるからわからんでもないが、最近うちの嫁が奥さんに愚痴られてるんだ。一緒に会って来いよ、家族だろう?」

 

 そう言って含み笑いを浮かべながら、野比は部屋の襖を開けて部屋から出て行った。それについていくように青狸も俺に手を振って意地の悪い笑みを浮かべて去っていった。最近嫁に尻に敷かれていると思われたのかもしれない。昼ドラとかの見すぎだろうあの狸。

 ため息をついて、ジャギは立ち上がった。今から急いでいけば、家に寄ってから空港へ行く事も可能だろう。携帯端末を開いて、アンナへ連絡を入れる。最近確かに忙しさにかまけてアンナへの対応を疎かにしていた気がする。野比なりの気遣いという奴なんだろうが、それにしたって少し意地が悪すぎる。

 

「ったく。この忙しい時期に」

 

 手紙の中で久方ぶりに見るクロオは相も変わらぬ様子だった。といっても何事も無いかのような表情で無茶を押し通す奴だ。今もあっちでは周りを振り回しているんだろう。

 何せカセイ行政府を巻き込んでトキの兄者とその弟子の世話を行ってくれというだけの依頼書を他のエリアに送りつけてくるのだ。この手紙一通の為にどれだけの人間が動いたのか……あいつは自分の影響力を分かっているんだろうか。多分分かっていないのだろうな。

 

『もしもし。ジャギ? どうしたの急に』

「ああ、アンナ。聞いてくれ、実は――」

 

 振り回された奴ら(だと思われる人間達)の顔を思い浮かべて意地の悪い笑みを浮かべ、ジャギは用件をアンナに話し始める。電話越しに伺える喜色に、野比に対して借りが出来てしまったと内心ため息をつきながらジャギはのび太の私室を出る。今日も忙しい一日になりそうだ。

 

 

 

『あんた、自分が死んだらどうするつもりなんだよ』

 

 原型が残っていた空き家の中。血を吐きながらアンナの手当てを行う黒い医師に対して、ジャギは畏れすら感じながらそう尋ねた。

 その問いに、黒い医師は一瞬だけ彼に目をむけ。静かに言葉を紡ぐ。

 

『……それでも、人を治したいんだ。私が私として生きる為に』

 

 彼がアンナを治療し終えるまで、ジャギはその場に佇んでいた。アンナを治療し終えた黒い医師が倒れた後ジャギは彼をベッドに寝かせ、3日後に彼とアンナが目覚めるまでその場に立ち続けて彼らを守った。そして、彼がこのチキュウエリアを離れるその日まで、彼の傍で彼を守り続けた。父の墓を守る為。アンナの為。チキュウエリアを彼が離れる際に、ジャギは船が見えなくなるまで頭を下げ続けた。それが、心の底から惚れ込んだ男に対する礼儀だと信じて。

 

 

 

side.K 或いは蛇足

 

「これが、最近流行の手紙か。ビデオメール的なものなんだろうか」

「どうですかねぇ」

 

 チキュウに居るジャギに対してトキと鑢姉弟をよろしく、とメッセージをこめて手紙を封筒に入れる。組織の長としてこういったやり取りに慣れてそうなオルガを捕まえて操作については尋ねる事が出来たのだが、どうも基本的にビスケットにその手の行動はやってもらっているらしく記憶があやふやで、結局終わるまでに2時間もかかってしまった。まぁ暇だったから特に時間については問題ないんだが。

 それにしてもジャギか。もう別れて1年も経つのか。トキさんといいジャギといい北斗神拳伝承者候補の連中は気の良い連中が多かったな。ラオウも敵だったからアレだが、何度か話した感じ一本筋の通った男のように感じたし。ケンシロウ君は良い人過ぎて逆に苦労しそうだなぁと思ったが、まぁ奥さんと仲良くしてるだろう。

 

 ジャギといえば初対面の時にボコボコにされたのはキツかった。いや、あれはまあしょうがないんだ。あいつの嫁さんが敵対組織に暴行されてた所を通りかかり、流石に見過ごせずに上手い事助ける事が出来たまでは良かったんだが、その際にレオリオと逸れてしまいアンナちゃんを俺が抱えて移動している時にあいつと出会っちまったんだ。そりゃ俺が襲ったと思うわ。身体能力にはそこそこ自信があったんだが、そんなの関係ねぇとばかりにボコられてオリハルコン製のコートでガードしてたのにそのガード越しに骨を折ってくるという圧倒的な戦力差に本気で死ぬかと思った。

 

 あの時は内臓も痛めてしまったので密かに『治癒(リカバリィ)』の魔法を使って傷を癒した後、『念』まで使って何とか鎮静化させたんだが、『最適解』さんの助けが無ければ本当に途中で死んでたかも知れん。『治癒(リカバリィ)』の魔法を使ったせいで体力が尽きて、ジャギを沈静化させた後の事は夢うつつでよく覚えてないんだが、あいつがガードしてくれたおかげで倒れた後も暴漢に襲われることも無かったしその後に北斗の寺院という寝泊りできる拠点も手に入り、あの出会いは俺にとって万々歳な結果に終わった。でもあそこで『最適解』さんの力を過信してその後かけっ放しにしたせいでオルガの時にトラウマを植えつけられたんだがな。

 

 あいつにも後で土下座までされて謝罪されたし俺としてはあいつの件は気にしてないつもりなんだが……今回も同行するかと問われたときに二の足を踏んでしまったのは、ああも連続で死に掛けたのが原因かもしれんな。鷲羽さんには会いたいが、暫くあのエリアには行きたくない。カセイエリアを離れるのにも何かと理由は必要だし、早くブラック・ジャック先生と交代して気軽な身分になりたい。邪神とかじゃなくもっと普通の神様、お願いします! 次の統合では何卒、ブラック・ジャックをよろしく!

 




ジャギ様:出展・北斗の拳(極悪ノ華仕様)
 道を踏み外せば北斗の拳最悪の外道になれた男。最後の一線を越える前に恋人を救出され、人間の枠に踏み止まった。なお、この話では最初から最後までプライベートの為いつものヘルメットは着けておらず、のび太の私室から出て来る時も誰なのか分からず誰何される羽目になる。治安維持局の暗部側に籍を置いている為、彼が連絡も無く現れる事をチキュウエリアの高官は恐怖している。アンナとの間に男の子がおり、ジャギはこの男の子に羅門と名をつけている。羅漢撃は極めた模様。

野比のび太:出展・ドラえもん(全劇場版終了後)
 現チキュウエリアの代表。ジャギとは統合軍が暴れていた頃からの悪友。当時前線指揮官として動いていた彼とジャギはクロオを通して知り合い、以後何かと張り合う間柄になった。ジャギがヘルメットで現れると趣味が悪いとせせら笑うため、彼の前ではジャギはヘルメットをつけない。

ドラえもん:出展・ドラえもん(全劇場版終了後)
 野比のび太の親友にして秘書。統合軍に良いように扱われていた際に一度機能停止をしており、その際にクロオと鷲羽ちゃんに助けられた。ただ、それ以降何か体の一部がむずがゆく感じる時があるらしく、現在はのび太が時間があるときにマッサージとしてその部分を調整して貰っている。

アンナ:出展・北斗の拳 外伝極悪ノ華
 極悪ノ華の(悲劇の)ヒロイン。極悪ノ華では敵対組織に集団暴行を受けて、最後の力でジャギに会いたいと北斗の寺院までたどり着くもジャギに会う前に力尽きた。今作では暴行を受けている最中にクロオとレオリオ(ガチギレ)が乱入。レオリオが全力で暴れている間に助け出され、その後紆余曲折あったが現在はジャギの妻として、ジャギとの子、羅門の母として北斗の寺院を切り盛りしている。

オルガ・イツカ:出展・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
 割とポンコツだという事が判明。

トキ:出展・北斗の拳
 ニートをしているケンシロウに弟子を見せる為にチキュウエリアにやってきた。いつの間にか叔父さんになっていた事に密かにショックを受ける。

鑢七実:出展・北斗のじゃなくて刀語
 自身が初めて使った北斗神拳の使い手に会えると大喜びで『勿論』羅漢撃をジャギに打ち、指先一つで全て返されて更にテンションが上がった所をトキに鎮圧される。

鑢七花:出展・刀語
 大暴れをした姉の代わりに周囲に謝罪し、「姉より(人格的に)優れた弟だ」とジャギ様から褒められるという快挙を達成。

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