4月 3週目
早くもひまりと付き合っているんじゃないかという噂が広まってしまっていた。誰が言い出したのかは知らないがとにかく毎日他の男共から冷やかされたりしてうんざりだ。
当の本人はというと女子から囲まれて色々と質問攻めにあっているようだ。
「イルダくんって何が好きなの!?」
「本当に付き合ってるの!?」
「モカちゃんのメロンパンは〜?」
「もうデート行ったって本当!?」
「キスはもう済ませたの!?」
何か変なのが混じってた気がするが一度にこう質問されてはアホなひまりの頭がもつはずが無い。
「ち、ち、ち...違うからぁ〜!そんなの全部誤解だよ〜!!!!」
最近は毎日こんな感じだ。そのためひまりとはここ数日あまり話せていない。
別にそれがどうとかでは無いがちょっと寂しい気もする。まあ授業中に邪魔されないだけマシだとは思うが。
結局この日も会話を交わすことなく放課後を迎えた。
部活も入らなかったので家に帰ったら何をするか考えつつ帰り支度を進めていると、後ろから久しぶりに肩をトントンとつつかれる。
「赤城.....その、今日一緒に帰っちゃダメ...かな?」
上目遣いでこちらに視線を向けているひまりはなんとも可愛いものだった。一応断っておくが俺も男だ、いくら相手がひまりだからといってもそういう言動を取られてドキッとしないわけない。
「ああ、いいよ。また冷やかされる前に行こうか」
俺とひまりはクラスの皆に気づかれる前にさっとバッグを持つと教室を後にした。幸い巴とモカ以外には気づかれなかったようで何事もなく校門の所まで出ることができた。ひまりは膝に手をついてゼーハーゼーハー言いながら肩で息をしている。そういえば運動音痴だったのをすっかり忘れていた。
「は...速いよ...!死ぬ...」
「このくらいで何息切らしてんだよ、とりあえず止まってると余計きつくなるから歩くぞ」
ひまりの腕を引いて近くの自販機のところまで連れていく。150円のポカリを購入して蓋を緩めてひまりに渡した。
「あ、ありがとう...」
ごくごくとラッパ飲みでポカリを飲んで少しは落ち着いたらしく、笑顔でありがとうと言ってきた。なんだか今日は妙にひまりの事を意識してしまう、今も胸が高鳴ってまともに視線を合わせられない。
「とりあえず帰るぞ、そういやひまりの家はどの辺なんだ?」
思えばひまりがどの辺に住んでるのかとか家族のことはまだ聞いたことがなかった。俺も教えてないのでおあいこだが自分だけ知っていいものなのだろうか。
「んー......教えてもいいけど、赤城の家に行ってもいいかな?」
「はい?何を言ってんだ?」
「だからー、赤城の家に行ってもいいなら教えてあげるー」
突然何を言い出すんだこの女の子は。女子が男子の家に行くなんて、しかも今の時間親はまだ仕事中で兄弟はいないので実質2人きりの状況になる。恋人同士ならまだしもそれはちょっと不味いだろう。
「いや、何で俺の家?」
「だって私だけが教えるなんてふこーへーだよ!先に赤城の家に行かせてくれたら私だって教えてあげる!」
「いやいや、それなら俺だって教えるだけ...」
「やだ!私は赤城の家に行きたい!」
グイッと顔を近づけて頬を膨らませる。ちょうど髪の毛あたりが鼻の高さにあるので柔らかくて甘いシャンプーの匂いが鼻についた。
「行きたい行きたいー!」
「子どもかよ......」
<<それからどうした>>
それから15分くらいひまりにわがままを言われ、結局家に連れてきてしまった。
俺の家は2階建てで、俺の部屋は2階の1番広い部屋だ。テレビ、ベッド、タンス、本棚と置いてあるものはごく普通の物ばかりだがドアの横に飾られたアスチルベの花が申し訳程度に部屋を彩っていた。
「わあー!すごーい、ひろーい!」
ひまりは部屋に入るなり子どものように目をキラキラとさせてはしゃいでいる。まったく、こちらはひまりが帰るより前に親が帰ってこないか心配しているというのに呑気なものだ。
「あんま散らかしてくれるなよ、掃除すんの面倒だから」
「わかってるー、けどもう少し散らかってると思ったから意外!綺麗好きなんだね」
部屋を常に綺麗に保つのは普通だと思うが、むしろ汚い部屋になど住みたくもない。
俺は着替える為に部屋着をタンスから取り出した。ただこの部屋にはひまりがいるわけでまさか目の前で服を脱ぐのは躊躇われる。
「あっちで着替えてくるからちょっと待ってろ、ついでに飲み物も取ってくるから」
「うん!ありがとうー」
1階のリビングで着替えることにした。俺はサッとリビングで着替え、来客用のトレイにお茶とコップを乗せると部屋に戻る。お菓子も何か持っていきたかったがあいにく今はストックが無かったので今回は諦めた。ひまりは本棚に置いてある本をじーっと眺めている、野球漫画と適当な小説ばかりで面白くないと思うが......
「ひまり、お茶置いとくぞ」
「うん、ありがとう。ねーねー、赤城って一人っ子?」
「ああ、兄妹はいない。親も大抵7時過ぎまで帰ってこないし暇を持て余さないようにテレビとか置いてんだ」
1人は気楽だがたまに弟や妹がいたらどうなんだろう、と考えたことはある。やはり憧れは持つものだ。
「部屋にテレビあるのはいいなー、羨ましい」
「そうか?あっても特になにか見るようなもの無いだろ」
「あるよ〜!月9とかお料理番組とかさ!」
それはお前の個人的な趣味だろ、と心の中でツッコミをいれる。俺は野球以外はあまり見てこなかったのでそういったのには興味はない。強いて言うならクイズ番組はちょいちょい見ているくらいだ。
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しばらくひまりと話し込み、1時間くらいが経った。俺たちはベッドに腰掛けて割といい雰囲気で話をしていた。
「それでねー、モカが蘭にねー」
話をしている、というよりはひまりのマシンガントークに相槌を打ちながら聞いてあげているというのが正しいかもしれない。一度喋り出すとポンポンと話が出てきて止まらなくなる。ある意味ではそこがひまりの良いところかもしれない。
俺の心情としてはこうして2人きりなのを意識してしまいどうも落ち着かない。外面は話を聞いているかのように振舞ってはいるが内心かなり緊張していて胸はドキドキしっぱなしだ。ただ、ずっとひまりの右手が俺の左手を触ってきてるのでもしかしたら内心では本人も意識しているかもしれない。
「はー、もうほんとさ、みんな面白いよねー」
「そうだな、けどひまりが1番面白いんじゃないのか?空気読めないし」
「それは関係ないー!もー、赤城のいじわるー」
ドサッとベッドの上で仰向けに倒れ込む。ひまりは制服のブレザーは脱いでいるので今はブラウスだけを来ている状態、なのでどうしても視線は胸元の2つの豊満な膨らみへといってしまう。
(こいつ、こんな胸デカかったんだな......)
あまり意識しないようにしてきたがこんな無防備な状態でベッドに横たわれると意識するなという方が無理な話だ。まじまじと見つめているとひまりもそれに気づいたのか顔を赤らめながら腕で顔を隠す。俺もサッと視線を逸らすが時既に遅し、部屋にはなんとも気まずい空気が流れる。
「赤城.....いいよ?」
ドクンっ、と今日1番の動悸、喉から心臓が飛び出てくるんじゃないかと思うくらい胸がドクンっドクンっと高鳴っている。
「わ...私だって女の子だもん......好きな人と2人きりで、期待しないわけないよ......」
いつもの元気な声とは違う、儚くて恥じらいを帯びた弱々しい声。ひまりは顔を赤く染めあげ俺に視線を送る。このまま動いたらもう後には戻れないだろう。
「い、いいのかよ......俺で」
「赤城じゃないと嫌......」
俺はひまりの上に覆い被さるように重なる。ひまりの顔とは数センチしかなくお互いに息は荒い、もう俺の理性は崩壊寸前だった。
「ひまり、好きだ...俺の恋人に、なってくれるか?」
人生で初めての告白。俺の言葉に、彼女は目から一筋の涙を流して小さく頷いた。自然と顔が更に近づいて唇が重なる。
彼女の唇は暖かく、とても柔らかいものだった。
そこからはもう理性なんてものは無い。お互い裸で初めて愛を求めあった。
終わったらどっと疲れに襲われる。ひまりは既に俺の胸の中でスヤスヤと寝息をたてていて、寒くないように布団を被せてやった。初めてできた彼女、そう思うと顔がにやけてしまう。
時計は夜の7時半を回っている。そろそろ親が帰ってくる時間のはずだ。とりあえず服を着て散らかっているひまりの服を畳んでバッグの上に置いてやるとリビングに向かう。
リビングでは、両親がニヤニヤと俺の方を見て、
「お盛んなのはいいけど勉強もちゃんとするのよ」
「赤城、お前もついにそんな歳になったか」
と、全てバレてしまっていた。
ひまりちゃんすきになろうぷろじぇくと
アスチルベの花言葉は、『恋の訪れ』