内容を要約するなら『アスラン、詭弁にもてあそばれる回』・・・ですかね?
アークエンジェル艦内の空気はピリピリして、帯電しているかの様になっていた。
無理もない、アルテミスで受けられる予定だった補給は受けられず、基地司令ガルシアの暴走により力尽くで艦内から追い出され掛かったところを連合クルーの機転に救われなんとか脱出したばかりという窮状にあるのだから・・・。
そんな中でムウ・ラ・フラガ大尉より提案された『デブリ帯に流れ着いた宇宙ゴミの中から、必要分の物資を拝借してくる』というアイデアが好意的に受け取られないのも仕方の無いことであった。
「しかたないだろ? そうでもしなきゃ、こっちがもたないんだから」
開き直ったように、あっけらかんと言うムウだが、本来この手法は妥当なものである。
戦場の何処ででも行われている平凡な行為に過ぎず、むしろ持っている他人を殺してでも奪おうとしないだけ人道的な範疇に属しいるとさえ言い切れるのが戦争というものの本当の醜さであるのだろう。
だが、そんな現実は戦争を『画面の向こう側で起きている無関係な出来事』としか見てこなかったヘリオポリス出身の少年少女たち現地徴用兵には理解できないし、したくもない。
アークエンジェル本来のクルーたちにしたところで、国運を賭けた一大プロジェクトであったため人選基準に意識の高さや使命感など人格的な面を優先せざるを得ず、実戦経験の有無については開発班の方まで配慮している余裕は今の連合になかった。
要するに、『これは戦争なんだ』と言いながら、泥臭い実戦を経験した者たちがほとんど存在しないのがアークエンジェルというエリートたちが乗る艦であり、『自分たちのしている苦労が一番大変だ』と思い込んでいる苦労知らずの艦だったと言うことでもあるのだろう。
「死者の眠りを妨げようというつもりはないわ。ただ、失われたものの中からほんの少し、いま私たちに必要なものをわけてもらうの。―――生きるために」
マリューは、自分の言葉を詭弁のように感じながらも断固とした口調でそう言った。
生き残りためにゴミを漁る盗掘者の汚名を得ることになる自分たちを恥じ入るが故の言葉。
だが、それは逆に自分たちの行う戦争が『自分たちが生き残るため敵の命を食らい合う大量殺戮者同士の殺し合い』だと認識できていなかったが故の発言でもあった。
・・・外観も中身も、乗っている搭乗員までもが純白の船アークエンジェルは、こうしてデブリ帯に向かって舵を切る。
流れ着いたゴミの巣窟を、墓標の群か何かのように思い込みながら粛々と重々しい機動でゆっくりと宙を泳ぎながらまっすぐに・・・・・・。
一方。
そのアークエンジェルを背後から追尾し続けるザフト艦ローラシア級ガモフの指揮官代理、パプティマス・シロッコは、この時ある決断を下していた。
「・・・少し仕掛けてみるか」
「は?」
隣で間の抜けた声を出すゼルマンを余所に、私は人には聞かせられない内容をはらんだ作戦案を自問自答することに没入していく。
前世における原作知識との辻褄合わせが、それである。
・・・現在、アークエンジェルはデブリ帯に向かっているところであるだろう。多少の誤差はあったが、それでも敵方の物資云々に関してまで私の影響は及ぶべくもないからな。窮乏しているはずだ。
冷たく暗い人の住めない場所、宇宙空間で人が生きていくために必要な物資が手に入る場所など、コロニーなど人工の大地以外では他にあるまい。
問題は、これを邪魔するため動くか否かだった。
原作だと、この時点で我々ザフトは攻撃を仕掛けていない。アルテミスの爆発によって脚付きの所在を見失っていたからである。
が、私は敵がどこに向かっているかを知っている。現在地が判らずとも、作戦目的と目的地さえ判れば十分すぎるのが戦争というものである以上は問題ないと言えるだろう。
問題があるとするなら、数である。
本音を言えばクルーゼが連れて帰ってくる大兵力を加えて一気呵成に攻め掛かり殲滅するつもりでいた。
最悪、アークエンジェルとストライクについては、ザフト艦として迎え入れることも今となっては可能なのである。
クワトロ大尉の例もあるし、二重スパイになるという口約束を口実に解放してやってもいい。どの道を辿ろうとも戦争の早期解決に役立ってくれさえすればそれで十分すぎる存在なのだから、歴史の誤差など無視すべしと断定していたのが私であったのだ。
それを今になって前言を撤回したのには、当然ながら訳がある。
語るまでもない、アスラン・ザラとキラ・ヤマトが接触してどの様な反応を示すのか確認しておくべきであることに思い至ったからだ。
・・・キラ・ヤマト。そして、アスラン・ザラ。
SEED世界におけるバケモノとしか表現しようのない、あの二人はコズミック・イラにおける最大にして最悪の不確定要素だ。接触したとき、どの様な化学反応を起こすのか確認しておかなければ怖くてとても使い物にならない危険物といえるだろう。
だから私は決断した。
多少の損害はやむを得ないし、実戦経験の少ない今ならまだイザークたちでも無傷で帰還できる可能性が高い。
撃墜できる可能性については・・・まぁ、無理だろうな。『未熟な内なら勝てる』のであるなら、歴代ガンダムシリーズの敵キャラたちは苦労しなかったであろうから。
才能のある人間はナニカ持っているものだという。
それが実力か、運の良さか、はたまた主人公補正によるものかは、この際どうでもいい。
戦争は結果であり、勝敗は結果であり、生き残れるか死ぬかは結果しか介入できない問題なのだ。気持ちなどいくらあっても意味はないのである。
カミーユでさえ愛し合う戦死者たちの魂を吸うことはできても、生き返らせることはできなかった。
それが人の限界だというなら、理由の如何に関わらず『勝って生き残れる力を持っているものは強い』。それだけで十分すぎる理屈だった。
だが、表向きの理由としてはこう言った。
「新しい機体で編成された部隊で能力査定を行っておきたい。その為に敵の実力を試す意味も含めた威力偵察を仕掛けようと思ったのだ。
敵と味方の強さの基準がわからなければ、作戦の立てようがないからな。
敵に余計な経験を積ませてやる義理はないが、クルーゼ隊長が戻られたときに参考資料として提出する分くらいは一応取っておきたいのだよ」
「確かに・・・。先日のアルテミスで垣間見た敵機の動きは尋常なものではありませんでした。初戦でラスティが取り逃した《ストライク》という名前らしい機体とはまるで別物です。モビルスーツ戦でどこまで力を発揮するのか調査しておく必要はあるでしょうが・・・」
「多少の危険は覚悟の上だ。たかが偵察任務のため、命までかけろなどと命令する気は私にもないよ。データ取りを優先させて危なくなったら、すぐに退かせる」
「・・・・・・うぅむ・・・」
「それにフェイズシフト装甲もある。あれは継戦能力が大きく損なわれる装備だが、一方でパイロットの生還率を飛躍的に高めてくれる代物でもある。
こういう任務にこそ打って付けの、アレはよい物だよ。艦長」
「なるほど」
懇切丁寧に意図を説明してやることで艦長は納得し、快諾してくれた。
なにかと言葉不足になりがちなクルーゼの補佐役を務めるに当たって私がつけた癖である。役に立ってくれて嬉しい限りだ。
分かり合うためテレパシーにばかり頼るから失敗するニュータイプパイロットとしては尚更に・・・な。
こうして実行された脚付きおよびストライクの威力偵察作戦。
その結果は、『原作のぶり返しが一気に来た』・・・と言ったところか。
「アスラン・ザラです! 通告を受け、出頭いたしました!」
臨時で副隊長室として使わせてもらっている申し訳程度の応接室に、しゃちほこばったアスランの声が響き渡り、「入りたまえ」と言った私の声が扉の開閉音に掻き消される。
クルーゼの真似をして、ゆったりと指を組み合わせながら相手の目を見つめ、私はただ一言。
「さて――弁明があれば聞こうか」
「――っ!!」
相手の顔が衝撃に歪む。
処罰を受けることは覚悟していたとはいえ、いきなり詰問口調で言い渡されるとは想像していなかったという風情だな。
ま、ガンダム作品主人公とは元来、そういう連中ではあるのだが。
「冗談だ。私はそんなつもりで君を呼んだのではない。
作戦失敗は立案者であり実行を命令した責任者たる私の責任だし、何の理由もなく君が命令違反を犯して勝手な行動をするなどとは思っていない。むしろ気になることがあるなら話してほしいと言いたくて呼んだのだよ」
意外そうな表情を浮かべる相手を、私は面白そうに見返す。
「君は作戦中、敵機と交信を行った挙げ句、命令にない敵の捕縛を独断で実行しようとした。これについてパイロットたちの間で君に対する不審が芽生えている。
互いに背中を預け合うべき者同士が疑い合うという状況はよろしくないと思うが、如何かな? アスラン君」
「はっ・・・命令に違反し、勝手なことをして申し訳ありませんでした!」
「アスラン・・・私をあまり失望させないでくれ。まさか私が、そのような誤魔化し目的での詭弁を聞くために君をここに呼んだと思っている訳ではないのだろう?」
「・・・・・・」
明らかに鼻白んだ様子で黙り込むアスラン。
キツい言い方になってしまったが、“予定通り”だ。ここで優しくしたところで私の求める結果のためには役に立つまい。
「――ふむ。答えはなし、か・・・なにか深い事情があるようだな」
しばらく黙って返事を待ってみたが“予想通り”返事は帰ってこなかったので、勝手に話を進めさせてもらうとする。
「私としても部下のプライベートまで詮索する趣味はないし、できれば尊重してやりたいところだが、何分にも立場というものがあるのでね。そう甘いことばかりは言っていられん。
敵と内通している恐れのあるパイロットは当然出撃させるわけにはいかんし、自室での謹慎だけで済ませられるかどうかはクルーの反応次第だ。
スパイの疑いが晴れるまでは拘束させてもらうこともありえるだろうし、場合によっては後方への後送も視野に入れておく必要がある」
「・・・そんなっ!?」
相手が慌てた様子で、ようやく取り乱し始める。
よもやそれほど大袈裟なことになるとは思っていなかったので焦っているらしい。前線から退かされてはアークエンジェルにいるキラを救い出すことは不可能になるからな。
だからこそ、この揺さぶりには効果がある。
連合と違い、上から命令されなくても個々人の判断で正しい行動ができるからと、階級による立場の違いさえ明確に定められていないザフト軍の緩い規律も、こういう場合には役に立ってくれるものだ。
「無論、ご子息が起こした問題である以上は、ザラ国防委員長閣下へも報告が届くだろうし、当然閣下にも累が及ぶだろう。それが血の繋がりというものだからな」
「!! 父は関係ありません! 私が独断でしでかした私の問題です! 処分されるのでしたら、どうか私一人に厳罰をお与えください副隊長!!!」
燃えるような瞳で私を睨み付けてくるアスラン・ザラ。
帯する私はシロッコらしく、涼やかな瞳で眺めるだけだ。相手の焦るさまをジックリと・・・な。
「違うな、アスラン。そうではない、君だけの問題では済まされないのだよ。
これはザフト軍クルーゼ隊で赤服を着るエースパイロット、パトリック・ザラ国防委員長閣下のご子息アスラン・ザラの起こした問題なのだから、その累は隊の仲間や上官たち、引いては親類縁者と国家の戦略にまで影響しかねない」
「そんな・・・・・・」
唖然とするアスラン。私は容赦なくたたみかける。
「組織とはそう言うものなのだ、アスラン。君がどう言うつもりで、敵の誰と接触したのかは知らないが・・・・・・ハッキリ言っておく。
“国家間戦争の中で、君たち二人だけの戦争はあり得ない”のだよ」
「・・・っ!!」
「ザフト軍の軍服をまとった者が取るすべての行動はザフト軍が命じた作戦であると解釈され、連合の軍服をまとう者がおこなった愚行はすべて連合の総意であると判断されてしまう。それが戦争というものなんだ。
個人の都合を押しつぶし、一人一人の違いを否定しながら突き進む、血と炎に染まった暁の車のごとく、戦争は個人というものを許容しない。
君らがどれだけ『子供の都合と、身勝手な大人の傲慢』を叫んだところで、個人が唱えるだけでは声の大きい小さいしか違いはない。
戦いを否定するにも、終わらせるためにも必要となるのは数だ。それだけなのだよ、アスラン」
「・・・・・・」
「そして数を集めるには、他人に自分の思いを伝えて理解を得なければならない。
自分は相手の主張を否定しているのに、自分には言いたくないことを言わなくていい権利を求めるなど筋が通らないだろう?
“言わなくてもわかって欲しいが、自分には口に出して伝えてくれなければ解らない”などと言う、身勝手でバカな理由に巻き込まれて味方を死なせたくはあるまい?
・・・なにしろ、一人の我が侭を通すことが僚友を殺し、部隊の全滅を招き、ひいては師団、軍の敗北。国家の滅亡を招く恐れがあるのが戦争なのだからな。
私としても臆病にならざるをえんのだ。わかってくれ、アスラン・・・」
「・・・・・・・・・はい、わかり・・・ました。お話しいたします・・・。
ストライクに乗っていた敵のパイロット、キラ・ヤマト――月の幼年学校で私の友人であった、友達のことを・・・」
こうして私は現時点における、アスランからキラ・ヤマトへの好感度チェックを完了させた。
結果から言えば・・・・・・ま、伝説の鐘を鳴らすにも爆弾処置に手間取るのにも程遠かったようだがね。
つづく