何度も書き直してるうちに支離滅裂な部分が出てしまったのは申し訳ございません。ハルバートン提督との戦いにはやく行きたがってしまいました。
以後気を付けます。
「そうおっしゃるなら、彼らは?」
ナタル・バジルール少尉の声が、アークエンジェルの艦橋に冷たく響き渡る。
「キラ・ヤマトや彼らを、やむを得ぬとは言え戦闘に参加させて、あの少女だけは巻き込みたくないとでもおっしゃるんですか?」
隠しようもない非難の意思を込めたバジルール少尉による糾弾の言葉。
クルーゼ隊からの追撃を躱し、デブリ帯での補給を無事終えられたアークエンジェルは一息つく間も与えられぬまま、次なる厄介ごとの種を内部に抱え込んでしまっていたのである。
「彼女はクラインの娘です。と、いうことは、その時点ですでに、ただの民間人ではないと言うことですよ」
彼女が言うところの『クラインの娘』。それはプラント最高評議会議長シーゲル・クラインの息女であり、先ほど補給中に漂流していたところを助けた少女ラクス・クラインの事を指していた。
彼女は『血のバレンタイン』で知られるコーディネーター側にとって悲劇の地『ユニウス・セブン』で追悼慰霊をおこなうため事前調査に来ていたところ連合の船に臨検を求められ、応じはしたものの追悼慰霊という目的自体が惨劇の加害者である連合兵士たちにとっては不快さの素であったためか別の理由によるものなのか戦闘が発生してしまい、部下たちが彼女だけでも生き延びさせようと脱出させていたのである。
それを補給作業途中のキラ・ヤマトが発見し、確保して持ち帰ってきた結果あらたな揉め事が艦内で起き始めている。そういう経緯だ。
「わかっているわ、バジルール少尉。でも・・・できればあの子を月本部には連れて行きたくないという私の思いは変わらないわ・・・たとえそれが甘さとわかっていようとも、ね・・・」
「・・・・・・」
艦長の言葉を聞き、これ以上は副長の口出しすべき事柄ではないと判断したらしいナタルは自分の席である副長席に座って担当作業を確認し始める。
“しこり”を残しながらアークエンジェルは、地球連合軍月本部へと向かっていく。
その先に何が待っているかを知らぬまま。
――そして、自分たちの行動と判断が“とある男”に、どう思われているかなど想像すら出来ぬまま、敵に気取られぬようゆっくりと・・・・・・。
「どうした、シロッコ? らしくもなく素直にガモフの指揮権を返してくれるじゃないか」
帰って来て早々、クルーゼが私にからかい口調で述べた内容がこれである。
やれやれ、天才はいつの時代も理解されぬものというのは確かな格言だったようだな。
「滅相もない。クルーゼ隊長がお使いになると言うのならば、ガモフは喜んで返上いたしますとも」
「潔いのだな」
「脚付きからは、知らない内にその中へ取り込まれそうになる奇妙な引力を感じる。あの感じは好きではないから、早く他人に押しつけてしまいたかっただけさ。それだけだよ」
軽く笑い合い、肩をたたき合う我々友人二人。裏がありそうな会話の方が逆に裏のあるなしが分かって楽でいいと言うあたり、つくづく謀略好きな人物だ。パプティマス・シロッコとラウ・ル・クルーゼと言うお二人はな。
「シロッコ、ラクス嬢のことは聞いているな?」
「無論だ。ヴェサリウスが捜索を引き継ぐと言う話だろう? ユン・ロー隊長から話は聞かされているよ」
公には乗船ごと消息不明と公表されているラクス・クライン嬢だが、原作にもあるとおりザフト軍はこの時点ですでに彼女の現在地を大凡ながら把握していた。
今では地球の引力に引かれてデブリ帯の中にいるユニウス・セブンである。
「少し前に脚付きに対してアスランたちを使って攻撃を仕掛けさせた。そのときニコルにはミラージュ・コロイドを使って戦場に最後まで留まり、脚付きの向かう方角を確認してから帰還するよう指示しておいたのだがな・・・ビンゴだ。実に嫌な位置に向かってくれたよ」
「・・・やはり、ラクス嬢は脚付きに発見されてしまっている可能性が高いのか・・・」
クルーゼは、ニコルが持ち帰った情報から推測した脚付きの予測進路と、撃墜された偵察用ジンが連絡を絶った場所とが表示されたディスプレイを見下ろしながら腕を組み、つぶやく。
仮面に隠れて表情は見えないが、普段から見慣れている私はなんとなくの印象から“面倒くさそう”にしている時にまとう空気と似たものが感じられていた。
「ザラ委員長は、アスランがラクス嬢を連れ帰ってきてくれることをお望みなのだそうだ。
悪い地球連合から囚われの婚約者を助け出してヒーローのように戻ってくるか、婚約者を殺され号泣しながら亡骸を抱きしめ復讐に燃えて戻ってくるかのどちらかをリクエストしておられたよ。遠回しにだがね?」
「なるほど、政治家らしい。差し詰め戦争を続けるためには、生け贄となる悲劇のヒロインか、英雄物語の王子様のどちらかが必要になってきたと言うところかな」
プラントは自給自足が可能な人工の大地ではあるものの、生活必需品の中にはどうしても大量生産するのに広い土地が必要不可欠なものが多く存在している。
仮に完全な模倣品が造れたとしても、コストパフォーマンスを考えれば地球から輸入した方が遙かに安くなる品というのは意外に多い。
プラント理事国からの輸入により配給制になるまでには至っていないが、安全保障などの経費が上乗せされるため必然的に値段が高騰し、今では兵士の使うライフル弾より生活必需品の方が高くなってしまった物まで出てくる始末だ。
戦争などどうでもいいから、早く元の生活に戻りたいと言うのは人として自然な願いと言えなくもない。
私は友の言葉に肩をすくめて率直な意見を返して相手の苦笑を誘う。
「相変わらずハッキリとものを言う男だな、君は。
むしろ、こういう芝居じみたことこそ領分と言ったところか?」
「事実だろう? 私は歴史の立会人に過ぎないからこそ、よく判るのだよ。アイドルとは、民衆の想いを代弁させるための偶像・・・道化に過ぎないことが。
自分たちの主張を代表するものとして民衆が欲した結果として生み出されるのがアイドルなのだからな、それが政治的に利用されるのもまた人の世における必然だろう」
私は明朗快活に断言する。そして、過去の記憶を掘り起こしていく。
ミネバ・ザビもそうだった。セシリー・フェアチャイルドもそうだった。
リリーナ・ピースクラフトも、ディアナ・ソレルも。あの、ジオン・ズム・ダイクンでさえそうだった。民衆が望み、求め、応じる形でアイドルの役割を演じることにより人々の思いを集めて入れる入れ物としての機能を果たした民衆のための偶像たち。
そして同時に、愚民と化した民衆にとっては飽きたら捨てて次を求めればいいだけの、民衆の玩具となり得る存在・・・・・・。
ジオン・ダイクンの思想に賛同し、熱狂とともに担ぎ上げた民衆は彼を殺したザビ家の扇動に乗り、アッサリと公国制への移行とザビ家独裁を受け入れてしまった。
ティターンズを支持し、彼らの勢力を支える基盤となっていた人々はダカール演説以降は手のひらを返してエゥーゴ側に寝返った。エゥーゴに喝采を浴びせた人々はコロニーレーザー争奪戦で力を使い果たしたエゥーゴを見限りアクシズへと乗り換えた。そして三勢力いずれもが滅んだ後にエゥーゴの主要メンバーもまた連邦の体制に取り込まれ権力機構の一部に落ちた。
・・・これが宇宙世紀で難民となってきた人々の歴史である。
そんな彼らにとってアイドルとは、自分たち個人個人では言っても聞いてもらえない意見を代わりに社会に向かって叫んでくれる存在を差している。
自分たちの言っていないことを叫ぶアイドルなど求めていない。
彼らはアイドルに個性と人格を求めはするが、人格的欠陥があることを決して許さない。
そう言うものだ、人という生き物は。社会がなければ生きられない社会的動物でありながら、常にその個が内包する世界観は個の周囲だけで完結させてしまう悪癖を持っている。
社会があるから生きていられる現実を頭で解っていながら、それらを縦糸でつなげて考えようとはしない。自分の今見ている現象を理解するばかりに囚われて、大局と個の関わり方の基本を見失い、世界を歪ませていく。
そうやって、死者にしか心を開けない少年が今を生きている人々を殺す理由に死者の名を持ち出すような世の中になっていく。
まったく、寒い時代になったものだと奴らは思ったことがないのかな?
「ふむ・・・しかし、シロッコ。ご高説は承ったが、それよりも今は目の前の現実を処理にしかからないかね? 人類全体のことを論議するのは未来でも出来るが、現在目の前にいるかもしれないラクス嬢は、こうしている今も我々の手が届かぬ連合艦隊月本部へと近づいていっているのだがね?」
「無論、承知しているとも。それに関連して思っていた事柄を述べたまでのことさ。まぁ、気にするな。焦ったところで主役の出番が早まるわけではなかろう」
「・・・??? ――まぁ、そうだな。それで? 先ほどの話と関連した事柄というのは?」
私が言った含みのある言葉に一瞬だけ怪訝そうにしたが、直ぐにいつもの調子で合わせてくれる愛しき友人ラウ・ル・クルーゼ。おおかた“どうせ直ぐに結果でわかるだろう”と割り切ったのだろう。物わかりのいい友人を持てて、私は心底から幸せ者だと信じているよ。
「脚付きがラクス嬢を確保している場合、まず間違いなく人質交渉に使ってくるだろう。当然だ、彼女は現プラント評議会議長、シーゲル・クラインの娘なのだからな。
である以上は、彼らとしては彼女が手元にある限り、いつかどこかで必ず交渉カードに持ち出してくるのだけは間違いない。
それが今すぐか、後になってかは定かでないが、使ってくることだけは確実だ。国家元首の娘に産まれるとは、そう言うことなのだから」
マリュー・ラミアスには彼女なりの正義感や倫理観があるのだろうとは思うが、こればかりは変え難い事実なのだから受け入れるより道はない。
・・・たとえ当人からみて不本意な決断で、強制されただけでしかなかったとしても、それが国家の名の下おこなわれたものである以上は、最高責任を取らねばならないのが元首の立場というものであり、その娘として生を受けた以上は親の恨みに巻き込まれるのはどうしようもない人の世の常であるからだ。
戦争を起こした国の元首一族に戦争責任がないのだとしたら、人の世に戦争責任など存在しなくなってしまうだろう。
そして、それこそ私がガンダムSEEDを許しがたく思う理由の一因であり、誤った歴史を正したいと感じさせられた最大理由の一つなのだ。これだけは断固として譲ることは出来ない。
だが―――
「しかし、それは別に悪いことではない。敵対国のVIPを捕えたときに互いの国が拘留している捕虜交換が行われるのはよくある話だし、停戦や休戦を申し出るときに使う交渉カードとしてなら、むしろ彼女の願いに沿ってもいる。終戦の道を模索する際に、相手国側の中枢近くに個人的窓口が存在しているかどうかで平和への道がどれだけ短縮できるかに至っては今更説明するまでもなかろう?
人質という言葉のイメージに囚われることなく、固定観念にこだわりすぎなければ、人質交渉が平和へと至る道になる可能性も存在しているのだよ。
そして、だからこそ重要になるのがタイミングであり、どう使うかなのだ。これ次第で人質は双方にとって最悪を避ける手段から、互いの憎しみを助長するだけの道具に成り下がりかねない。それこそ絶対に避けなければならない最悪の選択肢だ」
私は強く静かに断言して見せた。
先にも述べたが、私はナタル・バジルール少尉の取った『人質交渉』と言うやり方そのものを否定してはいない。あれは正当な手段だったと評価している。
だが、タイミングが最悪だった。自分たちが当初助けて救助した民間人を、危なくなったら人質として前に出すなど、まるでヤクザのやり口だ。カミーユの両親を人質に取ったティターンズと、やっていることは何ら変わらない。
それだけではない。
彼女はキラ・ヤマトの優れた資質に目をつけてコーディネーターであっても連合軍の戦力に迎え入れるべきと望む現実感覚を持ちながら、その手段として彼の両親を人質に取ることを進言するなど、目的は正しいにもかかわらず、やり方は最悪を極める悪癖を持っている軍人。それでいて自らの間違いに気づくのが手遅れになった後だという辺りに救いのなさが窺えるが、これは別に彼女の能力が劣っていたからではないと私は考えている。
単に、経験値が絶対的に不足していた、それだけだろうと。
それが私の下したナタル・バジルール少尉に対しての総評なのである。
忘れられがちだが、彼女は士官学校を優秀な成績で卒業した“ばかりの新米将校”でしかなく、階級としては尉官クラスでは底辺に近い少尉でしかない。
アークエンジェルで副長代理を任されて急速に成長したものの、『指揮官としての経験は皆無』なのがナタル・バジルール少尉という人物の、この時点における能力限界だったのだろうと。私はそう結論づけている。
あるいは彼女には名将と呼ばれるに足る才能があったのかもしれない。数十隻の艦隊を指揮統率する器が備わっていたのかもしれない。
だが、現実に彼女が経験した役職と権限は明記されている範囲内で、アークエンジェルの副長と、ドミニオンの艦長の二つのみ。その合間の時期に何か別の役職に就いていたとしても、経験値と呼びうるものが得られるほど長くいられる時間的余裕は原作が与えてくれていない。
彼女には才能を生かせるようになるだけの経験と時間が圧倒的に不足していた。
その為に彼女の視野は自分の経験した一少尉として眼前の戦場と、自身の担当する戦域での勝敗を至高価値と捉えさせ、巨大な戦局全体を見下ろして判断することが出来ない。一士官としての視点でしか戦争を見る能力が育てられないまま長くもない生涯が終わってしまった。
そんな今の彼女では『単なる戦闘屋』にしかなることはできない。だからあんな暴挙にも平然と出れる。
「人は、『これしか他に道はない』と思い込むと平和を阻む一番の敵になりやすい。道は常にいくつも前にあることに気づかぬまま、他人の引いたレールを爆走しやすく、間違いに気づいても途中からでは修正しづらい。そう言う輩が脚付きに乗っていた場合には最悪の事態を招きかねない。
それを避けるためには、専門家の登場を願うのが一番だとは思わないか? クルーゼ」
「ふむ? 理屈はわかるが、そんな都合のいい人物がいったいどこから―――」
「隊長!」
アデスが叫び、私とクルーゼが彼に向き直る。
「レーダーが艦影を捉えました。合計三隻。地球軍の艦隊のようですが、こんなところでいったい何を・・・・・・」
「ほう、やっと来てくれたか。存外に待たせてくれるゲスト殿だな」
アデスの言葉にクルーゼが答えるより早く私が口にした言葉に注目が集まる。
「どういう事だ、シロッコ。説明してもらえるのだろうな?」
「勿論だ。だからそう怖い目で睨むなよ、クルーゼ。別に君を謀っていたわけではない。なにしろ、隊長代理としてやっておいた仕事の一つに過ぎないのだから」
「・・・その報告を隊長の私は受けた覚えがないのだがな? パプティマス・シロッコ隊長代理殿?」
「だから今しているだろう? 説明より先に策が成ってしまった様だが、順番が逆になったぐらいでそう怒るなクルーゼ。シワが増えるぞ?」
「・・・・・・」
「・・・すまなかった、謝る。今後は二度とこんな真似はせん。許して欲しい、この通りだ。もう二度と君に嘘はつかないと約束しよう。血判書を書いて渡しても構わない」
「・・・・・・・・・・・・はぁ」
頭を下げて謝ると友人はしばらく沈黙した後、見せつけるように大きなため息をつくことで許すと言う意思表示をしてくれた。
「・・・で? 今度は何を企んだのだ?」
「いや、大したことではない。本当だぞ? ただ、ヘリオポリスにイザークたちを潜入させたとき、たまたま手に入れた情報の一つに面白いものが混ざっていたから使ってみただけのことさ」
嘘だがね。本当は原作知識です、だなどと言ったところで信じてもらえるはずもないので死んでも言わないが。
「いったい、何をどのように使ったというのだ?」
「中継装置を使って連合軍宛に、脚付きが救助したとおぼしき避難民の候補を一人だけ通報してやっただけさ。中立国のコロニー市民が連合に危害を加えられないよう気遣うのはザフト軍の軍記に違反してはいなかろう?」
嘘だがね。本当は何も送ってなどいないのだが、こうでも言わんと言葉に説得力が持たせられん。
「誰だ? その避難民の一人というのは?」
「フレイ・アルスター。大西洋連邦事務次官ジョージ・アルスター殿のご息女さ。戦闘指揮はド素人でも、地位身分では現場であろうと最高位の方だ。
非常事態に陥らん限りは、彼が連合側の責任者兼代表と言うことになる。そう、敵との戦闘のような非常事態に陥らん限りは絶対に、な・・・?」
『・・・・・・・・・』
もはや言葉もない、と言いたげなクルー一同に背を向けて私は嗤う。
消えなくてすんだ光たちの幸運に、敬意と感謝を込めて心の中で敬礼を送りながら。
「無論、彼との交渉が終わった後は我々ははれて敵同士に逆戻りとなるだろう。敵と味方が戦争している状況の中、我々だけが敵との一時的な休戦というわけだ。なかなかの美談になりそうじゃないか。なぁ、クルーゼ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ」
極上のつもりだった友人に向けた笑顔に対して返されたのは、何故だか知らぬが疲れたような溜息一つだけだった。いったい何故だ? 理不尽な。
つづく
書き忘れてた追記:
*この後、ラクスは政治利用されてるのが我慢ならないキラによって無事ヴェサリウスに引き渡されました。