ガンダム二次作   作:ひきがやもとまち

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転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。第7章

「月本部へ向かうものと思っていたが・・・やつら、『足つき』をそのまま地球へ降ろすつもりとはな・・・」

 

 部下から艦隊集結完了の報告を聞きながらラウ・ル・クルーゼは顎に手をやり、小さく溜息をついていた。

 

 連合との一時的な蜜月の時を終え、ラクス嬢を後方へと搬送し、クルーゼがそれを確認した直後に別働隊を率いた私が背後から追い打ちをかけ、補給作業中だった連合艦は旗艦以外を全て撃沈させてから数時間あまりの時が過ぎている。

 

 クルーゼ隊はヴェサリウスとガモフの二隻しかいないと思い込んでいた連中は、その二隻がラクス嬢を連れて遠ざかっていくのを目視し安心しきっていたのだろう。

 合流予定だったローラシア級“ツィーグラー”に先行して到着していた私率いるジン部隊だけで損害もなく一撃離脱強襲が可能だった。

 

 『海軍の連中は船の数がそろっていれば安心するもの』・・・こうして、赤い彗星の自説は正しさを証明されたわけである。

 

「降下目標はアラスカですか」

「おそらくな」

 

 部下からの質問に、ラウはやや苦々い声と口調で応じる。

 

 アラスカは地球連合軍の最重要拠点である。半分近くを占領したとは言え、あくまでコーディネーターにとっての庭は宇宙。地上は勝手が違いすぎる。

 そこへ入り込まれてしまったら、確かに容易には手出しできまい。

 

「なんとかこっちの庭にいる内に沈めたいものだが・・・・・・」

 

 そこで彼は言葉を切り、こちらを向く。

 

「どうかなシロッコ? なにか妙案はないものだろうか?」

「させておけ」

「・・・なに?」

「したいようにさせておけと言っているのだよ、クルーゼ」

 

 聞かれて私は、友へと振り向く。

 

「安全な場所から書類仕事だけして戦争を遊びにしているような連中に、アレが渡ったところで何ほどのことがある? 天才の足を引っ張ることしか出来ない俗人どもに、何が出来るというのだ?

 せいぜい、ストライクの模造品でも大量生産しながら子供のような理屈をごねる程度が関の山だ。そんな賢しいだけの子供じみた連中の遊びに我々大人が付き合ってやる義理はない。

 我々は今現在、目の前に立ちはだかっている知将ハルバートン提督一人を倒せば十分なのだよ。違うか? クルーゼ」

「それは・・・そうかもしれないが・・・・・・」

 

 やや不満顔を浮かべるクルーゼ。

 優れたパイロットである彼は、己の“勘”を信じている。『足つきとストライクを見逃せば、いずれその代価を自分たちの命で支払うことになる』と感じた直感を。

 

 そして原作を見る限り、その勘は正しい。少なくとも彼の命と、彼の信じた数少ない人々』は、足つきとストライクを落とせなかったことへの代価として命を支払わされているのだから。

 

 だが・・・残念だが、この戦闘に限って言うなら正しい勘も手遅れだな。

 

「それに、今から追ってもどうせ間に合わん。敵は追い詰められれば足つきだけでも地上に降ろすだけだろう。ザフトの勢力圏内だろうと、地上は地上。安全に降下できる場所まで守ろうとして諸共に撃沈されるよりかは遙かにマシな結果だからな。

 その程度の判断が出来ぬ無能な相手を、君は知将などいう表現は使わないはずだ。違うかね?」

「むぅ・・・・・・」

「よしんば足つきが地上の現地部隊を無傷に近い状態で撤退に追い込みながら前進を続け、アラスカまで無事にたどり着けたとしたら、それはそれで一向に構わん。

 ここでハルバートンを討っておけば、連中は彼らを持て余すことは確実だからな。

 ・・・未だ連合の象徴である戦艦とモビルアーマーで我々に勝てると思い込み、モビルスーツをザフトが造ったコーディネーターの象徴のように捉えている俗人どもにとってあの船は、潜在的な敵も同然。味方同士で潰し合うことにしか使えはしないだろう。だからこそ、放っておけと言っているのだよ」

「・・・確かにな。アレを造らせたのは彼ということだし、戦艦とモビルアーマーでは、もはや我らに勝てぬと知っている良い将だと言える。

 目の前で戦う勇敢な敵よりも、嫉妬深い味方の方が目障りに感じやすいと言うのも納得できるところだが・・・・・・」

 

 SEED世界にあって、他の誰より人の心の醜さを知る彼は理屈の上で納得したようであったが、感情の面でしこりが残ると言いたげな表情を浮かべ小首をかしげる。

 

「・・・そううまく事が運ぶものかな?」

 

 根拠のない、だが外れようのない彼の懸念に私は微笑ひとつだけを返事として返し、彼の肩を叩いてやりながらブリッジを出て行った。

 

 ・・・親友には申し訳ないが、私は彼と別の評価を足つきとハルバートンに与えていた。

 私にとって、SEEDに出てくる登場キャラクターの中で誰より先に殺しておかなければならないと確信していたのはキラ・ヤマトでもアスラン・ザラでもない。

 いま目の前に立ちはだかる敵、知将ハルバートン提督その人だけだったのである。

 

 

 早い話、彼は『天才のなり損ない』だった。

 

 旧弊きわまる連合軍上層部にあって、誰より早くモビルスーツの有用性と、戦艦およびモビルアーマーの限界に気づいた人物であり、その身を捨て石にしてガンダムの開発計画を強行させ、その為にオーブの技術協力を得ているところから見ても、彼に対する各勢力の評価が極めて高いことが窺い知れる。

 

 そんな彼が、もしストライク・ダガーを始めとする連合製のモビルスーツ群を指揮して戦場に立った場合どうなるか?

 連合は核に頼ることなく自力でザフト軍と互角に戦えるようになるかも知れない。そうなってしまったら戦争の長期化と消耗戦への突入は避けられない。

 

 仮に彼が政治に対して口出しできる性格の持ち主だったなら、生き延びさせる方が有効だったかもしれない。

 彼の能力を持ってすれば、アズラエルやサザーラント大佐らのバカな愚行を止める一助にもなったであろうし、エマ中尉のように間違った組織に仕え続けることを由とせず、裏切ってくれる可能性すらあり得たかも知れないほどの才能を私は彼に感じさせられている。

 

 

 だが、それらの可能性を全て切って捨てられるほど彼は『軍人』だ。連合軍人として高潔な精神を持ち合わせすぎている。

 彼はたとえ上が間違っていようと、決して裏切ることを潔しとせぬまま間違った軍で最善を尽くすことに尽力して、組織に殉じることを償いと考える実直すぎる漢の類。

 

 謂わば、エギーユ・デラーズの亡霊がレビル将軍の才能を持ってコズミック・イラの世界に生まれ落ちてきたのが彼なのである。

 彼らと同じ階級と兵力を手に入れる前に叩かねばならない。ワッケイン司令でいる内に殺しておかなければ戦線は拡大してしまう。

 

 矛盾するようだが、彼は同士として迎え入れたい程に優秀であるが故、ここで殺しておかなければならない人物の筆頭になってしまっていたのだった。

 

「・・・ハルバートン、貴様は道を誤るべきだったのだよ。その手に世界を欲しがってくれていたら、共に世界の今後について考えられたかもしれんのにな・・・」

 

 『ちっぽけな感傷は世界を破滅に導くだけ』・・・原作シロッコの予言は図らずもコズミック・イラの地平で実現してしまうことを事実として知っている私としては苦いものを胸の内に抱かざるを得ない。

 

 勿体ないと思う。残念だとも感じている。

 だが、殺すしかない。殺さなければならんのだ。でなければ戦争の早期終結が実現できん。

 

「常に世の中を動かしてきたのは一握りの天才だとまでは自惚れまい・・・己の立場をそこまで過信はするまい。

 ――ただ、クズどもに権力を握らせておくより遙かにマシな結果をもたらすことまでは否定できないはずだ。優れた人の存在を冒涜する以外になんの存在価値もない人間はクズ以下ではないか。世界の事情を洞察できん権力者どもは排除すべきなのだ。

 ハルバートン、何故それがわからん・・・っ!!」

 

 天才に生まれながら、連合の一軍人としての在り方にこだわり続け、ホフマン大佐などという本部の飼い犬に鈴を付けられる身に甘んじて終わった『天才のなり損ないハルバートン提督』。彼をこの戦場で必ず討つ。

 

 ――それが当初から私にとって、アークエンジェルの地球降下阻止攻撃における只一つの目標だったことを知る者は、この世界には他にいない・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「いや、ヘリオポリス報道の知らせを受けたときは、もうダメかと思ったよ! それがまさか、ここで諸君と会えるとはな・・・・・・」

 

 アークエンジェルの格納庫内に入ってきた連絡艇から長身の将校が降り立つと、気さくな様子でマリューたち一人一人と目線を合わせるように見つめながら挨拶してきた。

 年齢を感じさせない引き締まった体つきからは躍動感が感じられ、ふさふさした黄褐色の髭と、制帽の下に輝く悪戯っ子のような瞳が彼の性質を物語っていた。

 

 ハッキリ言えば子供っぽく、純粋なのである。そう言う面でも彼はワッケインよりも、レビルに似ていた。

 ルウム戦役で捕らわれた後の脱出劇に、後の“ジオンに兵なし”アジ演説。戦略家であり、アジテーターとしての側面も持ち、なおかつ風貌に似合わず興奮する性質。

 

 ――シロッコの言い分も、あながち間違っていない。もし事情の全てを把握できる神の立場にいるものが実在したら、そう評していたかも知れない人物。

 それこそれが彼、ハルバートン提督。月に駐留する第八艦隊の司令官だった。

 

「ありがとうございます、閣下。お久しぶりです」

 

 旧知の間柄で、恩師とも呼べる人物に対してマリューは彼女にしては珍しいほど軽い調子で敬礼し、直属の上官との絆の強さを示し合う。

 将校とは言え佐官クラスが将官にしてよい態度かと言われたら疑問が残るそれを、周囲の皆は驚きながらも不快な思いは抱くことなく受け入れられたが、中に一人だけ無礼だと感じた部外者が混じっていた。アラスカから送られてきた彼の副官ホフマン大佐である。

 

「しかしまあ、この艦一つと“G”一機のためにヘリオポリスの怒りを買い、アルテミスまで崩壊させるとはな・・・」

 

 会談のため艦長室へと入った途端に放たれた、彼の苦々しい口調の言葉に、マリューは言葉もなく項垂れる。

 G開発計画を主導したハルバートンがむっつりと彼女を擁護する言葉を口にした。

 

「だが、彼女らが“ストライク”とこの艦だけでも守ったことは、いずれ必ず我ら地球軍の利となる」

「アラスカは、そうは思っていないようですが?」

「ふん! やつらに宇宙の戦いの何がわかる!」

 

 侮るように鼻を鳴らすハルバートンと、白い視線で上官の顔を一撫でするホフマン。

 司令官と副官との間に漂うこの雰囲気こそ、最後方から安全に戦争を主導するアラスカと、最前線で指揮を執り続けてきた天才のなり損ないとの間に広がる絶対的な格差であることを、凡人の域を出ないマリューには察することが出来ず戸惑うことしか出来ないでいたのだが。

 そこで思わぬ救いの手が伸ばされた。

 

「いやいや、ホフマン大佐。提督と彼女がいてくれたお陰で私も娘も敵に殺されることなく、生きてここまで辿り着くことが出来ました。なんとお礼を申し上げて良いのかわかりません。

 あいにくと軍司令部のことは詳しく存じませんが、政府の方へは私の方から彼らのことはよく報告しておくつもりでいます。どうかご安心ください。悪いようにはされないよう、私の方でもできる限りのことはさせていただくつもりですからね」

 

 どこかのほほんとした口調で、先刻の戦いで死ぬことなく生き延びていた太平洋連邦の事務次官ジョージ・アルスターが、彼と彼の部下への弁護を口にしてくれたのである。

 これにはホフマン大佐も意表を突かれたし、ハルバートンもマリュー自身でさえビックリさせられていた。たぶん、シロッコが同席していたとしても同じような反応を示さざるを得なくなっていたであろう。

 

 彼としては政府の重鎮で苦労知らずのアルスターが、現場仕込みのハルバートンと、軍閥派のホフマンとの間で意見を分裂させて決定を遅らせる目論見から殺すことなく生き延びさせてやっただけだというのに、アルスターの反応は彼の想像を裏切ること甚だしいものがあった。

 

 善良で親切な人柄の持ち主なのである。

 溺愛する娘と再会できたことへの恩もあるだろうが、それを差し引いてもアルスターの人の良さは連合の官僚として常軌を逸していた。

 専門家ではないからと、軍事に関してはハルバートンの言うことに首を振るだけのマシーンと化してくれるし、政治的な面での手続き等は意外と手早くこなしてくれる。その手腕は軍官僚タイプの軍人ホフマン大佐が必要なくなるほど鮮やかすぎるものであり、ハルバートンたちを大いに仰天させてくれまくっていた。

 

 ・・・正直、彼の生存こそがシロッコにとって最大の誤算と言えるほど、彼はお人好しで子煩悩で親馬鹿な性格をしており、だからこその事務“次官”だったのかもしれない。

 

 思えば、連邦の参謀次官アデナウアー・パラヤも無能ではあったが、お人好しで親切ではあった。視界が狭く、価値基準が完全に地球連邦政府高官のものではあったが、本気でシャアと戦後のバラ色生活を夢見てしまうほどバカなお人好しではあったのだ。

 

 その二面性がハルバートンにとっては最良の形で、シロッコにとっては最悪の形で裏目に出た結果。

 アークエンジェルを含む第八艦隊は、何の障害もないまま地球への降下ポイントへ向かうことが出来、準備を急がせたシロッコの頑張りはプラスマイナスで相殺され結果的には0になった。

 

 完全に原作通りの状況下で、足つきを含む第八艦隊と相対する羽目に陥ってしまったのである。

 

 

 

「チッ・・・アルスターめ、存外にやるではないか。原作では早々に死んでしまったからと見くびりすぎていたな・・・私もまたシャアと同じく若さ故の過ちを犯してしまったというわけだ・・・」

 

 先行させた部下からの報告により敵の配置を知った私は舌打ちをして、小声でつぶやきを漏らす。仲間割れを期待して殺さなかった敵が思いのほか活躍して厄介な敵になる・・・。

 悪役らしい失敗の仕方をした自分の無能さに腹が立たぬでもないが、失敗を悔やまず次のための糧にするのが大人の特権である以上は致し方あるまい。割り切るとしよう。

 

 ――それにどのみち作戦そのものに変更の必要は無い程度の誤差だ。次に続く戦闘で取り返してみせるさ。

 

 

「シロッコ副隊長、クルーゼ隊長より入電。“こちらは攻撃準備よし”です」

「ツィーゲル発進! 艦隊は横並びのまま敵艦隊へ突入する! ヴェサリウスのG部隊が発進した後、それに続く形でモビルスーツ部隊を発進させろ!」

「ハッ! 了解!」

「だが、無理はするな。こちらはジンしか積んでいないのだからな。

 フェイズシフトを持つGの突撃に引きつけられた敵を一隻ずつ安全に、かつ確実に船を沈めてゆくことだけに集中すればそれでいい。母艦を失った艦載機群など時間さえかければ無傷で無力化できる程度の戦力だ。恐るるに足らん」

「――っ! 副隊長! ガモフより入電。医務室で治療中だったイザークが、制止を振り切り出撃しようとしている。こちらで阻止して欲しいとのことですが・・・」

「構わん。行かせてやれ」

「・・・は?」

「イザークが自分から当て馬になってくれるのは本艦にとって、非常にありがたい。よくやってくれる良い部下であり、良いパイロットじゃないか・・・フフフフ」

「ら、ラジャーッ」

 

 私は復讐心に駆られて突撃していく、片目のイザークの姿を記憶の片隅から掘り起こしてせせら笑いを浮かべた。

 

 

「賢しいだけで目の前の現実しか見ようとしない近視眼な輩は、望みを叶えてやる形で勝利のために利用してやるのが一番ありがたい・・・。それで死ぬとするなら、彼もその程度の男だったと言うことだからな。

 戦争など所詮は政治の手段でしかないことも判らん子供は、どこへだろうと行きたいところへ逝き、母親の胸の中へでも還るのだな。マザーコンプレックスの少年パイロット君。

 ふふ、ふははははっ!!」

 

 

つづく

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