今回あんまりシロッコの出番がありません。役割的に最後ら辺なのでね。次回からはもう少し活躍させてあげたいなーと思っております。
Xナンバー4機による突撃から始まった地球連合軍第八艦隊とクルーゼ隊との戦闘は苛烈を極め、アークエンジェルがアラスカへの直接降下を諦めて単艦での降下シークエンスに入ったことから更に熾烈さと激烈さを増して行っていた。
『メネラオスより各艦コントロール、ハルバートンだ。本艦隊はこれより大気圏突入限界点までのアークエンジェル援護防衛戦に移行する。厳しい戦闘であるとは思うが、彼の艦は明日の戦局のために決して失ってはならぬ艦である。
――陣形を立て直せ! 第八艦隊の意地に賭けて一機たりとも我らの後ろに敵を通すな! 地球軍の底力を見せてやれ!!』
艦隊司令官自身の口から発せされた叱咤激励により、Gの突撃に混乱しかけていた艦隊の統制を取り戻し、迎撃体制から防御陣形へスムーズな移行を可能ならしめたところは彼の艦隊指揮能力の高さを物語っていたと言えるだろう。それは腐った連合軍上層部に籍を置き続ける将として賞賛に値する成果だったと自負してもいい。
――が、しかし。
「・・・暇ですな」
「・・・ああ、そうだな・・・」
戦闘開始からこの方、艦砲の射程ギリギリの相対距離を保ちながら撃ち続けているだけのクルーゼ隊本体であるヴェサリウスとガモフの艦隊としては、やる事がなくて暇だというのがハルバートンと戦っている側の心情としては素直なところだった辺りに戦場の悲惨で滑稽な現実が現れていたとも言えるのだろう。
なにしろ彼らとしては、実弾兵器では効果の薄いGを相手に艦砲の主砲であるビーム砲を主軸に撃ちまくってくれているわけなのだから、遠目から見ても発砲位置は丸分かりなのだ。安全に遠くから発砲位置めがけて撃っていれば自然と当てられてしまう。
デブリがあればまだしも、沈めた船の残骸ぐらいしか漂っていない艦隊行動が可能な宙域で、コンピューターに計測させたポイントを機械にセットしてボタンを押すだけの流れ作業。
最大射程のビーム主砲に狙われる心配もなく、安全な距離から適当に撃っていれば自然とダメージを蓄積させていく敵を相手に緊張感を維持しながら戦うというのは意外と骨の折れる作業なのだなと、楽勝に慣れたクルーゼでさえそう思わずにはいられないほど簡単に事が運んでしまっていた。
「ハルバートンは、どうあっても足つきを地上に降ろすつもりらしい。奥にしまい込んで何もさせておらんのだからな」
頬杖をつきながらクルーゼは評し、続いて溜息交じりにこうつぶやく。
「要するに、最初から勝とうと思って戦っておらんのだよ。守り抜く事に意識が向かいすぎているから、足つきを狙って猪突し続けるイージスたちばかりに注目してしまい、我らの事は眼中にない。
艦隊を突入させれば別だったかも知れないが・・・遠くから撃ってるだけではな。大した損害も与えられておらんから全体に与える影響まで気が回らなくなっているのだろう。我々からの砲撃が攻撃ではなく突撃支援である事に気づけていない・・・」
「こちらは楽と言うか、楽すぎて暇なほどですがね・・・作戦を考案されたシロッコ副隊長の慧眼と言えばそれまでですが・・・艦砲射撃の演習代わりに的当てぐらいしかやることがありません」
「ストライクも名前の割には出てこないしな」
苦笑しながら友人の観察眼に心の中で賛辞を送っておく。
『敵将の心理を突いた見事な作戦だった』、と。
「アレを作らせたのも彼だという事だし、戦艦とモビルアーマーでは我らの全てに勝てぬと思い込みすぎているのだろう。
・・・別に我が軍の全てがモビルスーツ部隊というわけではないのだがね・・・」
苦笑するクルーゼの言は皮肉の極みだった。
彼は元地球の学生だった友人のお陰で、地球軍の軍事技術についても多少ながら知識と見識を得ており、それらとザフト軍の兵器を比較して性能の優劣が歪である事を知っていたから、ハルバートンからの高評価にはやや面はゆい気持ちにならざるをえかったのである。
実のところザフト軍の艦船建造技術はそれほど高くない。
無論、低いわけでは決してないし、建造し始めたばかりの急造軍隊としては優秀すぎる程のものだったが、それでも自分たち独自で1から造り上げたモビルスーツに比べると連合の十八番である艦船系ではどうしても後追いになってしまうのがプラントの置かれた実情だ。
具体的にはローラシア級の1.3倍という建造費がかかるナスカ級が地球連合の主力艦である250m級戦艦を一撃で仕留めるに足る「120cm単装高エネルギー収束火線砲」を装備しており、砲撃戦能力ではほぼ互角と言える。
ましてナスカ級が高速戦闘艦であることを加味するなら、凌駕していると言ってもいいぐらいだ。
ローラシア級とて、区分としては戦艦ではなくMS搭載艦でありながら高い砲撃戦闘能力を有している。決して連合軍艦艇に遅れを取っているわけではない。
・・・とは言え、それらはあくまで艦隊同士が砲撃戦を行う艦隊戦で互角に戦えることを意味しており、性能がほぼ互角の艦船で数が圧倒的に上回る敵と戦えば引き算で自分たちが全滅させられるのは確実である。
しかも艦艇は、モビルスーツほど搭乗員の能力が性能に影響を与えられない類いの兵器である。数と性能と、なによりも砲の射程こそが重要となる兵器のジャンルなのだ。
乗組員たちが如何に早く敵の攻撃を察知しようとも、艦が避けるために動ける速度は艦船自体が持つ機動性の限界を越える事は出来ない。個人の能力よりも艦の性能と数を揃えることこそが何より重要なファクターとなってしまう分野。それが旧来の艦隊決戦思想の在り方なのである。
この問題を解決するため、数で圧倒的に劣るコーディネーターの国家プラントが造り出した兵器がモビルスーツだった。
あるいは、造り出さざるを得なかったと言うべきなのかも知れない。
彼らの技術を持ってしても数の差を覆せるほど優秀な性能を艦船に持たせることは出来なかったから、個人の資質で性能が大きく上下動するモビルスーツを投入し、一人の人間が操る一機のモビルスーツで多数の人間が乗り込んでいる艦船を撃沈させるといった費用対効果の法則を持ち出さざるをえないほどに連合とザフトの数の差は圧倒的すぎたのだから。
また、戦艦とモビルアーマーを主力とする連合軍は今まで培ってきたノウハウの蓄積によって戦艦を比較的安く大量生産できるという基礎から積み上げてきた実績があるのに対し、ザフト軍の艦船建造技術にはそれがない。どうしても一隻作るのに掛かる費用が同性能の連合艦より高くなってしまう。
元々が資源コロニーであり、資金的に豊かではあっても買い手がいなくては即座に干上がってしまう宇宙に浮かぶ小島のプラントとしては安くて高性能な兵器の開発に着手しなければ大国地球連合相手に全面戦争なんてとても無理だった・・・そう言う表側では決して語るわけにはいかない経済的に逼迫した事情がプラント側には常に存在していた。
「モビルスーツに対しては正当な評価をしてくれているようだが、我々コーディネーター全体に対しては過大評価だったようだな。ザフト軍は人の心を持たない機械人形だけで構成された軍隊ではないと言う事実がいまいち認識できていない。
知将ハルバートン・・・良い将ではあったが、自身の至った正しい答えに固執しすぎてしまった辺りは、やはり老人だな。頭が固い。老人に新しい兵器は造れても、新しい時代は創り出せないと言うことか」
それらの裏事情を知るクルーゼは、せせら笑いを浮かべて酷評する。
そんな彼にヴェサリウスの艦橋クルーが前線での戦果報告をもたらした。
「デュエルとバスターがそれぞれ一隻ずつ敵艦を轟沈。イージスとブリッツも一隻ずつに損害を与え、撤退を余儀なくさせた模様。二艦とも戦場を離脱していきます」
「艦型から見て、セレコウスとカサンドラですね・・・船乗りにはなんとなく分かるものです。
背中から撃って撃沈させますか? 離脱中であれば容易に撃沈できますが・・・」
観測班からもたらされた報告に、アデスが補足して指示を促す。
その声には微量であり、遠回しではあったが温情を与えてやりたいという思いが微かに読み取れた。
生真面目で実直な軍人である彼としては、戦闘不能に陥り逃げようとしている敵を背後から討つというのは命令であれば実行するが決して好みな行動ではなかったのである。
クルーゼは「ふっ」と嗤うと。
「イザークとディアッカは甘いな。完全に沈めてしまったのでは生存者に期待できず、敵は味方を見捨てて復讐心を掻き立てられるだけではないか。
敵というものは殺すのではなく、損傷させて足手まといを増やした方が無傷の味方の動きまでもを封じられて便利なのだぞ?」
平然と楽しそうな口調でヒトデナシ発言をする上官に白い視線を向けるアデス。
そんな艦長に対してクルーゼは、新たなヒトデナシ命令を下す。
「逃げようとする二艦に向けてレーザー照準を照射しろ。だが、すぐには撃つなよ? こちらの攻撃から逃げる味方を守るため盾になろうと前に出る艦を本命として狙い撃て。
援護に来る艦がいない場合に限り、離脱しようとする二艦に向けて攻撃を許可するが、当てるなよ? 威嚇射撃にとどめるのだ。逃げようとする味方が背中から撃たれ続けていればその内誰かが正義感に駆られて出てきてくれるだろうからな。遠すぎて届かない副砲の無駄撃ち相手としては丁度いい」
「・・・・・・」
無言のまま非難がましい視線で自分を見つめてくる部下に対してクルーゼは、肩をすくめて笑い返しながら誤魔化すように事情を口にする。
「言いたいことは分かるがね、アデス。これは、私が考えた作戦ではなくシロッコの発案したものなのだよ。“こういう場合にはこうするのが一番効率的で楽だ”とね。だから非難も苦情も私にではなく、私の親友に向けて言うのが人として通すべき筋だと思うのだが?」
「・・・セレコウスとカサンドラに向けて照準用レーザー照射。120cm単装高エネルギー収束火線砲は砲口を向けるだけでまだ撃つな。出てきた本命を狙い撃てるよう、砲手には目標の周囲から目を離すなと伝えておけ。副砲は主砲の邪魔にならん程度に適当に撃たせておけばそれでいい」
明らかに『類が呼んだ親友だ』と心の中で思っている表情のまま何も言わず、実直すぎる軍人のアデスは命令を実行するため実務的な指示を出すことに集中する。
そんな部下の心理を知ってか知らずか、仮面の男クルーゼは含み笑いを浮かべながら腕と足を組み直して頬杖をつき、乗艦のやや後方に追尾してきている“例の物”を眺めながら笑みを浮かべて独りごちる。
「どのみち我ら本体には、突入できない事情があるのだ。アレを敵に気づかせないまま戦う工夫は必要不可欠だからな。後は我らが信頼し尊敬している参謀殿に任せるとするさ」
軽く笑って気持ちを切り替え、僚艦のガモフにも先走らないよう指示を出すよう伝達しながら戦況を見守るクルーゼ。
その為の布石としてツィーグラーから借り受けた3機のジンであり、本当の目的を伝えぬまま突撃させた4機のGなのだ。彼としては万全を期したつもりであったし、それなりの自負も持ってはいた。
しかしこの時、彼は一つの大きな判断ミスをしていたことに気づいていなかった。
作戦内容に軍事機密に関わる秘匿兵器が関係しているため詳細を伝えていなかったガモフの艦長ゼルマンは、度重なる足つき撃沈の任を果たせぬまま地上というローラシア級では決して追いつけない場所まで逃げられてしまうことに表現しようもないほどの挫折感と屈辱と悲壮感に襲われて、胸が張り裂けそうになっていたのである・・・・・・。
「・・・このような事態になってしまったのも、もとはと言えば我らの不甲斐なさによるもの・・・。
かくなる上はザフト軍人の意地に賭けて底意地だけでも見せつけてやらねば立つ瀬がない・・・っ!!」
一方、アークエンジェルを援護防衛するため『死に場所』を定めた第八艦隊相手に陽動目的で突っ込んでいかされた4機のXナンバーもまた押し寄せる敵の物量を前に苦戦を強いられていた。
「グゥレイト! 数だけは多いぜ!」
ディアッカが叫び、腰だめに構えた砲を撃って敵を落とす。それでも全体としては敵の勢いに何らの変動もおとずれてくれない。変わらず猛攻を加え続けるため津波のように押し寄せてくる。
クルーゼ隊本体からの支援砲撃と、彼らの背後から回り込まれないよう撃ち漏らした敵を着実に落としながら追尾してくれている3機のジンによる援護もあり、彼らの活躍振りは獅子奮迅と呼ぶに相応しいものであったが、そのぶん反撃の勢いも凄まじく、クルーゼ隊本体が事実上戦場に参戦する意思を見せていないことも影響して彼らの負担は戦果と同じくらい凄まじい数に膨れ上がっていたのである。
「ビームを集中しろ! なんとしてもあの4機をアークエンジェルのもとに近づけてはならん!」
ハルバートンはそう厳命して、着実に増えていく艦隊先鋒の被害から遭えて目を逸らして気づかないフリをし続けていた。
これだけの被害に気づかない彼ではない。最初から気にはなっていた。
だが、一方で距離から見てもクルーゼ隊本体がアークエンジェルの降下を邪魔するためには4機のGが活路を開かなければならず、その4機を足止めし続けている限り敵艦隊はアークエンジェルを有効射程圏内に収めることは出来ない!
ならば突入してきた4機のGを落とすことに全戦力を集中させることこそが、アークエンジェルとストライクを安全に地上へ降ろすための最善策だと彼は固く信じて、失われゆく犠牲に対して哀悼の意を表するだけで無視する道を選んでいたのである。
敵がシロッコの提言により、足つきを狙うことを最初から諦めていることに考えが及んでいなかったのだ。
これは彼の読み違いから来る計算ミスと言えなくもなかったが、一方で彼の年齢的に難しい判断だったことも確かではある。
経験豊富で実績も才能もあふれる彼には、嫌が応にも経験則という名の固定概念が付きまとわれてしまう。完全に自由な発想と計算力とを維持し続けるのは老人には難しすぎる難事なのである。
ましてや、ここを死に場所と定めてアークエンジェルを地上に降ろすことが軍人として最後の勤めだと覚悟を決めた今の彼にとっては尚更だ。
覚悟を決めた彼の指揮する第八艦隊の反撃は、既存のモビルアーマーと艦船しか持ち合わせていない軍とは思えないほど苛烈さと粘り強さを持っており、性能に任せて突撃して突破できると確信していたアスランたちにとって思わぬ巨大な障壁として立ち塞がれていたのだった。
それでも機体の性能差から、被害は一方的に第八艦隊から出し続けられている。虐殺とも評すべき光景を前に、いてもいられなくなった二人のパイロット、ムウ・ラ・フラガのメビウス・ゼロとキラ・ヤマトのストライクが時間制限付きでアークエンジェルから発進したのだが、それでも目に見えるほどの救済効果はもたらされるこちはなかった。
たかがエースパイロットの乗ったモビルアーマー1機が参戦したぐらいで全体の戦況に影響を及ぼせるはずもなく、ストライクもまた復讐戦と雪辱に燃えるイザークのデュエルに付きまとわれて、思うように身動きが取れなくされていたからである。
「ようやくお出ましかぁストライクぅ・・・お前が出てくるのが遅すぎるから傷がうずいて仕方なかっただろうがぁぁぁぁぁっ!!!」
「デュエル!? 装備が・・・っ」
「この傷の礼だ! 受け取れぇぇぇぇぇぇっ!!!」
デュエルの火力不足を補うためプラント本国で開発された追加装備『アサルトシュラウド』が加わったデュエルを相手に文字通りの一騎打ちを演じざるをえなくされてしまい、第八艦隊の援護どころではなくされてしまったキラは内心で焦りを募らせていたのだが、彼もこのとき大きな勘違いとすれ違いをしてしまっていたことに気づけていない。
キラの目的は第八艦隊の犠牲を少しでも少なくすることであり、アークエンジェルを守り抜くことだったが、イザークの目的は自分に傷を負わせたストライクを落としたい、奴をこのてで殺してやりたいと言う、個人的復讐心から来ている暴走に過ぎなかったのである。
目的が別の者同士が戦い合うというのも戦場の常識から考えるとおかしなものではあったのだが、生憎とこの時のイザークにそんな理屈を考える理性など残っていない。
ただただ有り余る才能を、プライドという感情論で振りかざし、エゴを満足させられたらそれでいいと本気で思い込んでしまっている復讐鬼に理屈も理性も良識さえ意味がなく、価値もまた認めてもらえない。
ただ自己の欲求が満足すればそれでいい野蛮な子供にモビルスーツという名の銃を持たせてしまったからこうなっている状況の中で、キラが自分の目的を達するためには問答無用でイザークを撃ち殺す以外に他のては存在しておらず、それが出来ぬなら時間稼ぎに徹してタイムオーバーを狙った方が余程にマシな結果を得られたことだろう。
敵の狙いがアークエンジェルだと思い込んでしまったが故の判断ミス。
撃ちたくて撃っているわけではないからと、前回の戦いで自分が手傷を負わせた相手に恨まれているかもしれない可能性を考慮しなかった辺りはキラもまた幼さ故の純粋な傲慢さの持ち主だったことを意味していただろう。
そしてそれが最悪の結果をもたらしてしまうかもしれない可能性のことも・・・・・・
だが、そこに。
「!! ガモフが・・・っ!?」
「ローラシア級、本艦に接近!」
ディアッカとニコルが異口同音に疑問の声を発し、アークエンジェルでは自分たちに向かって真っ直ぐ突っ込んでくる敵艦を感知して警報が飛び交い、ヴェサリウスからは命令を無視して敵陣めがけて全速突入していった僚艦に対して制止を命じる通信がもたらされている事態。
クルーゼ隊を形成する一艦、ローラシア級ガモフがアークエンジェルに特攻をしかけるため、無謀としか言いようのない強行突撃を敢行しながら戦場を突っ切ってキラたちの前に躍り出てきたのだ!!
「ガモフ、出過ぎだぞ! 何をしている!? ゼルマン!」
『ここまで追い詰めて・・・退くことは・・・もとはと言えば・・・我ら・・・・・・足つきは必ずや・・・っ!』
悪化する通信状態の中、ゼルマン艦長から最後にもたらされた内容が其れであり、その直後にムウのメビウスがしかけた攻撃によって多大な被害を被らされたガモフは通信が切れ、そのままガモフは足つきを庇うように立ちはだかってきた小型連合艦を沈めて前に出ると、アークエンジェルめがけて体当たりするため真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ突き進んでいく。
そんな彼の執念の前に立ちはだかるのは、彼と同じく命がけで執念を燃やす男ハルバートンの座乗艦にして、最後に残った栄光ある第八艦隊の生き残り戦艦メネラオス。
「すぐに避難民のシャトルを脱出させろ」
「閣下!?」
「ここまで来て、アレに落とされてたまるか・・・っ!!」
ノーマルスーツに包まれた拳を強く握り込み、決意と覚悟を胸に秘めて最後までカードを投げ出さないと決めた漢ハルバートンは、自らを捨て駒の盾として使い捨てガモフの特攻からアークエンジェルを守り抜くため残された全ての力で砲撃戦を行う準備を進めさせる。
その一環として、アルスター次官を乗せた民間脱出シャトルが艦底から射出させられていた。
本当なら護衛を付けて月基地まで送り届けるのが筋なのだが、戦力的にその余裕がなかったことと、時間的にも敵が余裕を与えてくれなかったことにより詰め込まざるをえなくなったという事情があったのだが、これが彼にとって幸となるか不幸となるか、正史は未だ判断を付けらていない。
なぜならこの時代、このコズミック・イラには歴史の立会人であり、介入者とも呼ぶべき漢が決然と佇み、薄ら笑いを浮かべていたのだから・・・・・・
「閣下! 脱出用シャトルの射出を完了しました!」
「よし、では本艦はこのまま直進してくる敵ローラシア級を迎撃してアークエンジェルを守り抜く―――」
悲壮な決意を固めて、祖国の勝利のため礎となる軍人の鏡としての人生を終えようとする地球連合最強の知将ハルバートン提督。
だが、現実の戦場はそれほど上手い具合に古典悲劇さながらのお涙頂戴劇を演じさせてはくれない。必ずや第三者の身勝手なエゴが誰かの使命感や犠牲を自らの益のために利しようと横やりを入れてくるのが常である。
「!! 高エネルギー反応感知! 本艦の直上! 真上です!」
「なんだと!?」
驚いてハルバートンは天頂方向にある装甲板しか見えない天上を見上げた。
彼の脳裏によぎったのは、一体どこから沸いて出た敵か?と言う疑問。
確かに敵は前方にいたはずだ。敵本体もまた遙か前方に位置したまま、動いていなかったはずである。
敵が他に豊富な別働隊を用意していたと言うことだろうか? あるいはクルーゼ隊とは関係のない、自分が感知していなかった余所の艦隊が騒ぎを聞きつけて急行してしまったのだろうか?
少なくとも、クルーゼ隊の艦艇数は最初から最後まで確認し続けたとおり『三隻のまま』増えても減ってもいなかったはずだ。
ならば一体どこから誰が、なんの目的で・・・・・・
「この質量はまさか・・・戦艦クラスのものを越えている!?」
「目標至近! 回避間に合いません! 本艦に命中します! うわぁぁぁっ!?」
様々な疑問が脳裏をかすめては過ぎ去っていく中で、ハルバートンの肉体は大出力ビームによって包まれて、艦橋もろとも跡形もなく気づかぬ内に蒸発させられてしまっていたのだった。
艦橋を直撃したビーム攻撃の後、しばらくして第二射、第三射目が最初のものより大分細く短い形で撃ち込まれ、メネラオスの推進部とメインエンジンとを順番に刳り抜いて撃沈し、足つきが落とせぬのならせめてコイツだけでもと覚悟を決めていた傷つき負傷したゼルマン艦長の下に、生き残っていた通信装置から最近聞き慣れされてしまった冷たい声の優しい言葉が紡ぎ出されてくるのを耳にする。
『こちらはツィーグラーのパプティマス・シロッコ副隊長だ。ゼルマン艦長、聞こえているな?
そこからでは足つきを追ったとしても、どうせ何も出来ん。大人しく艦を修復し、味方の救援を待て。それ以上少しでも進んでしまうと地球の引力に魂を引っ張られて死ぬだけだぞ』
「シロッコ副隊長・・・ですが! ですが自分は・・・! せめて! せめて足つきと差し違えて役目の半分だけでも果たさせていただきたく・・・っ!!」
『その損傷で大気圏内に突入し、体当たりするまで艦が保てると本気で思っているのかね? 途中で爆発四散し、無駄死にに終わるだけだと思うがね』
「ぐ・・・っ」
『無論、死にたいのなら止めはしない。無駄死にだがね。
自己満足のため部下を無駄に死なせる無能が部下にいたというのは私にとっても痛恨の極みではあるが、まぁ指揮官の責務だからな。貴様の心中に付き合わされる部下たちの遺族には私から手紙を書いておいてやる。存分に死んでくるがいい』
「・・・・・・・・・」
ここまで言われて死を選べるほど、ゼルマンは無責任な男にはなれない程度には男だった。
彼は艦を可能な限り修復しながら救助を待つと同時に、シロッコが連れてきたツィーグラーのジン3機が残敵を掃討し終えた後に着艦して休ませてやれるようデッキを最小限使えるよう整備を急がせる指示を出していった。
そして、思い出す。
「そう言えばシロッコ副隊長。一体どこから沸いて出てこられたのでありますか? 私は確かにあなたの搭乗していたツィーグラーを置いて先行したはずだと思っていたのですが・・・」
『なに、ちょっとしたロストテクロノジーを使ってみただけのことさ。単なる手品みたいなものだよ。気にしなくていい』
「はぁ」
『では、連れてきた部下たちのことを頼む。私は最後にもう一つだけやっておきたい野暮用があるので少々散歩をさせてもらいに行く。後は任せた』
「承知しました、シロッコ副隊長。無事なお帰りをお祈りしております」
第八艦隊とクルーゼ隊による艦隊戦は、シロッコの突然の奇襲によって旗艦を撃沈され、指揮系統をいきなり損失させられた残存兵力が統制を取り戻す余裕を与えることなくクルーゼ隊本体とツィーグラーによって殲滅させられたことで終結し、決着はついていたのだが。
もう一つの戦闘は一向に決着の時を迎えられてはいなかった。
キラとイザークによる、戦闘終結後にも行われ続けていた完全なる私闘という名の決闘は、未だ決着がついていなかったのだ・・・・・・。
「コイツぅ!」
「お前なんかにーっ!」
感情と感情、私怨と使命感。どちらもともに個人的欲望と願望に端を発する戦略とも戦術とも次元の異なる私的感情同士のぶつかり合いの中、既にタイムリミットが過ぎていることを理解する程度には冷静さを残していたキラが前方の空域に見えるアークエンジェルにたどり着くためにも体当たりするかの如く敵に向かって突撃し、重力の中ではまともに狙いもつけられないイザークの連続射撃を突破して一撃をかまし、距離を無理矢理引き離す。
「ぐぅっ!?」
体勢を崩したところを、顔面に蹴りでの追撃。遠心力を利用してイザークの乗るデュエルを、完全にストライクのもとにまで追いつけない距離まで吹き飛ばす。
「く・・・そぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
だが、イザークは諦めない。諦めきれない。なんとかしてコイツを殺して、自分の傷つけられたプライドを癒やしたい。自分は母親にだって叩かれたことがないのに、そんな自分の顔に初めて傷を付けた奴がバカでのろまなナチュラルだなんて絶対に絶対に許すわけになんかいかなかったから!
だからこそ彼は、凶行に走る。
プライドのため人を殺していいと思い込める、幼すぎる心が彼を一時的に暴君へ駆り立てる。
自尊心はあっても自制心のない野獣に彼を変えてしまう。知識はあっても教養はない野蛮な猿に彼を変貌させてしまう。
「!? メネラオスのシャトル・・・っ!」
安全な地上へと降りて戦争から逃げるため、避難民を乗せたシャトルが彼とイザークとが私闘を繰り広げている決闘場を横切るように降下してきて、ストライクに狙いを定めようとしていたデェエルの照準の前を塞いでしまって彼を更にイラ立たせる。
「・・・クソォォ・・・・・・よくも邪魔をぉぉっ!!」
恨みと憎しみに凝り固まった声が端正な唇から漏れ出し、ストライクを狙って撃った弾がかすりもしない理由を、『今さっき確実に当てられていた攻撃を撃つのに邪魔した奴等のせい』だと断じて、ライフルの銃口が向けられた先を敵機であるストライクから、逃げ出した非武装のシャトルへと変更させる。
「!! やめろぉぉぉぉ! それにはぁぁぁぁぁっっ!!!」
「逃げ出した腰抜け兵がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつっ!!!」
二人の少年の叫びが重なり、一発の弾丸が無音の宇宙を走り抜け、一隻のシャトルに乗せられた様々な希望を個人的恨みと八つ当たりで撃ち抜こうとした、その瞬間。
上方から飛来した高出力ビームが、イザークの放ったビームとぶつかり衝突して弾け合い、比較的発砲場所から近かったのもあってデュエルは衝撃で吹き飛ばされ、シャトルを救おうと接近しかけていたキラもまた逆方向へと弾き飛ばされてしまうのだった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!? な、なんだ!? なにが起こったんだぁぁぁぁぁぁっ!?」
異なる二人の悲鳴が宇宙に走り、地上へと落ちていくのを見送りながら一人の立会人はメガランチャーの銃口を降ろし、コクピットの中で「くく・・・」と冷たくせせら笑うのだった。
「良い旅を、今はまだ愚かなる少年たちよ。しばらくの間、お別れだ。カミーユやバナージと同じく、重力の井戸の底で戦争の現実を学んでくるといい。
その結果が彼らと同じ、人の心とちっぽけな感傷とをごっちゃにして世界を破滅に導く手助けしかしない子供であることを武器に使う小賢しい大人でないことを、心より祈っておいてやるよ・・・ふふふ、ははは、ハハハハッ!!」
つづく
オマケ『今話で転生憑依シロッコが使った宇宙世紀アイテム』
バルーン:第二次ネオ・ジオン紛争とバビロニア戦争で活躍しまくったアレ。作者お気に入りの逸品。
メガバズーカランチャー:カミーユがZで使っていた奴・・・では残念ながらない。百式がゲルググと繋いで使っていたのを再現した物。動力はツィーグラーから提供させていたため艦から離れすぎることができないのが難点。最後の超絶狙撃はシロッコのエース級ニュータイプ能力によってはじめて成せる神業なので現時点ではシード化してもキラには多分無理。
ゼルマン艦長、生存確定。でも別に今後活躍するわけでもないので意味ないっちゃ意味ありません。
シャトルの女の子も死にませんでした。彼女の場合は完全に巻き込まれた被害者でしたので、知っていて見殺しにするのはシロッコも目覚めが悪かったと言う設定です。
今回の人助けは計画にも戦局にも一切影響しない私情と言う生の感情に基づく行動だったため『野暮用』と称しておりました。彼にとっては割と恥ずかしいことだったのでね。
謝罪文:
指摘されましたので謝罪と、念のための説明補足です。
今話の最後でシロッコがつぶやくセリフに、『バナージ君をカミーユに同列に扱っている』描写がありますが、『重力の井戸の底で』に関連付けて出したのが一番の理由です。必ずしも彼に対して悪意があるわけではありませんので誤解なさいませぬようお願いいたします。