ガンダム二次作   作:ひきがやもとまち

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今日は休みなのに時間なかったと言う変な一日だったせいで、夜しか書く時間が得られず仕方なしに書き途中だった作品だけ完成させましたので投稿しておきます。

以前書いた、『旭日の艦隊・マイントイフェル大佐』×『ガンダムOO』コラボ作品の正規版です。

残りは明日以降! 夏休みはまだカー!です!


機動戦士ガンダムOO「誰かが変革をもたらさなくてはならないとしたら…」正規版

 西暦2407年。大きく三つの国家群に分かれた人類は、未だ戦争をやめられてはいなかった。

 …24世紀になっても、人類は未だ一つになりきれていなかったのである・・・。

 そんな世界に対して変革を促す者たちが現れる。

 

 私設武装組織《ソレスタル・ビーイング》

 世界から紛争をなくすため、民族、国家、宗教を超越した武力介入をおこなう者たち。

 

 だが、しかし。彼らは失念していた。

 現在を否定し、正しき未来へ導くため人類を変革しようと望む者が『過去に存在したかもしれない』可能性があることを・・・・・・。

 

 

 これは、そういう物語だ。

 過去から現在への否定。自分たちだけが世界の歪みを嘆いているわけではないという、ごく当たり前の出来事。

 神にすがり、神を否定し、自らを神たらんと願った少年を否定する一人の人間の物語・・・。

 現在を変えようと野望を胸に、過去と未来との戦いが今、幕を開けようとしていた・・・・・・

 

 

 

 抜けるような青空のもと、南アフリカにあるAEU演習用基地の市街地区画を最新鋭可変モビルスーツ・イナクトが縦横無尽に宙を舞っていた。

 その機動性や攻撃性能を見て、観客席に招かれていた来賓の軍関係者や高級官僚たちが一様に声を上げ、莫大な開発費を要した新型機の性能に感嘆と安堵が複雑に入り交じった吐息を漏らす。

 

「・・・モビルスーツ・イナクト。AEU初の太陽エネルギー対応型か・・・」

 

 その中でただ一人、冷静にイナクトの性能その全てを検分するかのように見つめていた男が声を発した。

 長身を白のスーツで固め、長い髪を後頭部でまとめて後ろに流している学者然とした男である。

 ビリー・カタギリ。

 今目の前で性能を披露している新型機を開発したAEUとは敵対関係にある三大国家の一つ『ユニオン』で、モビルスーツ開発技術顧問を務めている人物である。

 本来なら敵対しているユニオン軍の技術顧問が、宣戦布告をしていないだけで事実上の敵性国家であるAEUの新型完成披露演習の場にゲストとして招かれているのは、兵器製造最大手のアイリス社から特別に招待状を送られた身だからだ。

 軍と軍需産業との癒着はこういうところにも現れている。実際に砲火を交える戦闘をしていなくとも、戦争による腐敗や賄賂、横領や癒着というものは起こりうるのだという良い例証と言えるだろう。

 

「機体能力はいいようだね。空中性能も悪くない」

「AEUは軌道エレベータの開発で後れをとっている。せめてモビルスーツだけでもどうにかしたいのだろう」

 

 一人納得してうなずいている彼に、後ろから近づいてきた男が聞き覚えのある声をかけてきたので、ビリーは苦笑しながら男に顔を向ける。

 

「おや、いいのかい? MSWADのエースがこんな場所にいても」

「もちろん、よくはない」

 

 平然と答えて、ビリーの隣に腰を下ろす男の名はグラハム・エーカー。

 一見すると青年実業家を思わせる優男風の風貌の持ち主であるが、その実ユニオンが誇る精鋭部隊MSWADに所属するエースパイロットという肩書きを持つ、ビリーの親友。

 

 言うまでもなく、一科学者であるビリーよりもこんな場所に来ていていい立場にはいない男である。この場合、留意すべきは敵であるAEUよりも味方の方がやっかいな反応を示すだろう。

 人革こと「人類革新連盟」の記念式典に泥を塗っておきながら、ユニオン軍の要人をゲストとして招待しても見て見ぬフリをしてくれる軍高官たちの反応を見れば一目瞭然だ。

 

「しかし、AEUは剛毅だよ。人革の十周年記念式典に新型機の発表をぶつけてくるんだから。対抗意識を剥き出しにする気位の高さは欧州人らしいと言えばそうだけどね」

「ふっ。で、キミはどう見る? あの新型の性能を」

「どうもこうも」

 

 ビリーは肩をすくめて友人からの質問に答えを返す。

 

「うちのフラッグの猿まねだよ。独創的なのはデザインだけだね」

 

 軽く後ろに上体を反らしてから目を細め、眉の角度を微妙に変えて、見た感じからして『見下してバカにしてます』と言いたげなジェスチャーも追加しながら最低限『周りに合わせてやっている』といった風情で返事をしてくる欧米人らしい傲慢さを体現したビリー・カタギリだが、彼の下した評価自体は間違っていない。

 

 実際問題、AEUが開発した最新型モビルスーツ・イナクトは、ユニオンの最新鋭量産機『ユニオンフラッグ』を表向き「参考にした」という建前のもと不正手段で入手したデータを設計図代わりに開発された機体だった。

 猿まねと言うよりパクリと表現した方が正確な機体でしかなく、性能的にもフラッグと比べて大差ないまでも、僅かに、だが確実に見劣りする程度の性能しか実現できていない。

 

 その僅かな差が、AEUとユニオンのモビルスーツ開発技術における現時点では追い抜きようがない決定的な差であることをAEUの技術部門関係者たちは思い知らされてしまった。

 それが今回の完成披露演習に影響を及ぼしている。人革連は挑発しても外交でケリがつけられるが、ユニオンは万が一にも敵対するのは避けたい。少なくとも現時点では。

 

 ・・・それがAEU首脳陣の正直すぎる思いであり、正直にそれを口に出来ないAEUのメンツが招待させた、今この場にいるビリー・カタギリと、見つけていないフリをされているグラハム・エーカー。

 

 そういう舞台裏がこの披露演習に存在していることは、畑違いの技術者と軍人である二人にさえ見え見えな事情。

 そして、だからこそ。

 

 ――こういう“アクシデント”はなかなかに面白いと感じられる・・・・・・。

 

『そこの、聞こえてっゾォ! いま、なんつった? え? コラ!?』

 

 突然、周りに響いてきた声に二人は意外そうな表情で顔を上げる。

 見ると、イナクトのコクピットが開いて中から飛び出してきたパイロットが自分たちを指さしながら怒鳴り声を上げている。

 まるで政治を理解していない率直な若者らしい、素直で感情的な怒り声。

 

 正直なところ地位に伴う様々な事情に縛られて、今この場にいることさえ厄介な立場になりかねない二人としては、「気楽でいいな」と下手な皮肉の一つも返してやりたくなるのだが。

 逆にここまでストレートに感情だけで怒鳴られると毒気を抜かれて苦笑するしかなくなってしまう、地位もあれば立場もあり自由な発言をすること事態が難しい二人であった。

 

「どうやら、集音性能は高いようだ」

「みたいだね」

 

 苦笑しながらも不愉快そうではない、ユニオン軍の将来を背負って立つ二人の軍関係者。

 

 ――そこに“第三の男”からの声が静かにかけられる・・・・・・。

 

 

「お褒めいただき感謝いたします。グラハム・エーカー中尉、ビリー・カタギリ技術顧問殿。

 フラッグを開発したユニオン軍にその人ありと謳われたお二人から、フラッグを猿まねしただけの機体に“集音機能だけでも賞賛の言葉を賜れた”と聞けば、我が軍の技術開発部の連中は喜びのあまり感動の涙で溺死するものが続出することでしょうからな」

 

 

 背後から聞こえてきた聞き覚えのない声に「はっ」としながら振り向かされた二人。

 

 

『げげッ!? ま、まま、マイントイフェル大佐殿ッ!? どど、どうしてここに!?』

 

 彼らとは対照的に、その人物についての情報をイヤと言うほど思い知らされているイナクトのテストパイロット、パトリック・コーラサワー少尉がビビったように声を上げているのが聞こえてきたことでグラハムは、記憶の図書館から目当ての人物について書かれた本を見つけだすことに成功したが、謎の人物の正体を暴き立てるより早く本人自身の口から敬礼とともに真相について語られてしまった。

 

「ワルター・G・F・マイントイフェル大佐であります、お二方。お初にお目にかかります。以後、お見知りおきの程を」

 

 爽やかな微笑みとともに、誰一人マネしようがないほど完璧な形で敬礼を行い、二人の仮想敵国軍人たちに対して笑いかけてくる青年将校。

 金髪碧眼で、純粋なゲルマン系の見た目を持ち、戦傷によるものか頬に深く大きな傷跡がついていながらも精悍としか呼びようのない彫りの深い美麗な顔立ちをしており、やや時代がかったクラシックなデザインの特別軍服がよく似合う。

 

 これだけ条件がそろった中で名前まで出されたからには、仕事人間で自分が夢中になれる分野にしか興味を示そうとしないビリーにも相手が誰なのかぐらいは察しがつく。

 

「ワルター・G・F・マイントイフェル大佐・・・。

 OKRの俊英にして、AEU新貴族の筆頭か・・・」

「その呼ばれ方はあまり好きではありませんな。

 我が国は自由と国民主権を謳う民主主義国であって、時代錯誤な貴族制をしく専制国家に鞍替えした公式記録は存在しませんのでね」

 

 ビリーが思わず漏らしてしまった嫌悪感混じりの呟きに対して、相手は軽く肩をすくめると、わざとらしく韜晦してみせる。

 

 よく言う、と思わなくもなかったが、言ってること自体は事実ではあるので、それ以上この話題に深く突っ込む意思はビリーにもない。

 

 

 ・・・ワルター・G・F・マイントイフェル大佐。

 近年になってAEU各軍より選良のみを選抜して新設された参謀チーム『OKR』に所属する参謀長。

 通常の参謀本部とは別組織としか思えないほどの絶対的な権限を行使できることから『新貴族』と陰口をたたかれている、軍中枢近くの特権階級に属する一員。

 

 近年まで、他の二大国に後塵を拝してきたAEUが急激に差を縮めてきている要因と目されている新貴族の筆頭である彼の名は、研究一辺倒のビリーでさえ耳にせざるを得なくなっている。

 

 

 その彼は二人に対して好意的な笑顔で笑いかけた直後、打って変わって厳しい表情と口調で眼前のモビルスーツから間抜け面をさらし続けていたパトリックを激しく叱責する。

 

「コーラサワー少尉! デモンストレーションとはいえ、任務中である! 私語は慎みたまえ! 出戻りさせられたいのか!?」

『はっ!? はっ、ハッ! 了解であります大佐殿! AEUのエース、パトリック・コーラサワー、今すぐデモンストレーション任務へと戻りまっス!!』

 

 大慌てでコクピットの中へ転がり込むように戻っていったイナクト・パイロットの姿に毒気を抜かれた体で、ユニオン軍から来ていては不味い一人と、ギリギリ黙認してもらえる一人は一時の混乱を脱して、普段の不敵さと大胆さを取り戻していた。

 

「・・・しかし、いいんでしょうかね? OKRの若き英才がこんな場所で仮想敵国の軍人と技術顧問相手に話しかけていても。

 僕の友人と同じような理由で、上の人たちとかから睨まれるのでは?」

「無論、問題はありません」

「・・・・・・」

 

 友人相手には通用した軽い皮肉をアッサリと肯定で返されてしまったビリーは、思わず続けるはずだった言葉を言えずに口ごもると眼鏡を少しズリ落ちさせる。

 

「会場には正規の手順を守って入場しておりますし、VIP席の移動と歓談は基本自由と明記されておりますからな。法的に見てなんの問題もありません」

 

 相手の返事を聞いて、思わずビリーとグラハムは「そういう問題ではないだろう・・・」と、彼ららしくもないブーメランな感想を心の中で抱いてしまって口には出さずに仕舞いこむと、思わず納得させられてしまっていた。

 

(なるほど・・・噂に聞く人物像通りの男らしいな・・・。この実直さと裏表がなさ過ぎる部分は嫌いではないが、しかし・・・)

 

 グラハムは心中でつぶやきながら周囲を見渡し、AEUの礼服をまとった幾人かの高級将校たちから向けられる非好意的な視線を独占してしまっている事実を確認して溜息をつかざるを得なくされる。

 

(・・・私も自分のことを組織の中では生きづらい人間だと自覚していたのだがな・・・。彼を知った今では幾分かマシなのではと思えてきているのだから不思議なものだ。

 まさに、上には上がいる者・・・いや、この場合は下には下と表現する方が正しいのだろうか? なんにせよ難儀そうな男と知り合ってしまったものだ・・・・・・ん?)

 

 今まで出会ったことのないタイプの特異な相手の言動に振り回されてしまい気づくのが遅れたグラハムだが、そこはやはり彼もユニオンを代表するフラッグ・ファイターだ。

 “異音”に対して抱く危険への感知能力は伊達ではない。

 マイントイフェルも同じように、目の前で見つめていた相手の頭を通り越した雲の先にある一点を、先ほどからジッと見つめ続け、睨み続けている。

 

 二人と違い、戦場経験のないビリーには空気の振動に乗って遠くから聞こえてくる「キィィィン」という既存の機体では聞くことがないはずの特殊なエンジン音を感知することは出来なかったが、それでも目視できる距離にまでモビルスーツが接近してきたら流石にわかる。

 

「モビルスーツ? スゴいな、もう一機新型があるのか・・・」

「・・・いや、違うな」

 

 グラハムが否定して、マイントイフェルが補足する。

 

「AEUの機体とは系統が異なりすぎたフォルムをしている」

「それに、別の新型機を造り出せる技術力が我が国にもあればフラッグの猿まね機など必要とはしなかったでしょうからな」

 

 グラハムはともかく、マイントイフェルからの返しには少しだけムッとさせられながら、それでもビリーは技術者としての本能に従って、新たに現れた謎の機体を観察しはじめていく。

 

 折しも、近くの席に座っていたAEU軍の将校がイナクトに向かって呼びかけているのに通信がつながらないという情報を、偶然にも聞こえる位置にいたため耳にしたことにより、ますます彼らの興味は新たに表れた機体に集約されていく。

 

 

 その機体の背部から吹き出す光の粒子を見て、グラハムがつぶやく。

 

「・・・あの光は・・・」

 

 

 その機体が持つ偏った装備を見て、マイントイフェルがつぶやく。

 

「・・・長銃身の射撃武装がない。シールドに付いた巨大な剣から見ても接近戦用の機体だな。

 援護射撃もない中で切り込み役だけが突っ込んでくるとは思えん・・・ならば本命は“アレ”か・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光の粒子を舞い散らせながら、天より降りてきた天使のような機体。

 そのコクピットに座りながらパイロットの少年は、努めて感情を悟らせないような冷たい声と表情で機械的に自分に与えられた『役割』に基づく言葉を、誰一人聞くものもいない狭苦しいコクピットの中で独り言のようにつぶやき捨てる。

 

「・・・24008、エクシア、目標値点に到達。GN粒子の散布を終結する。目標対象視認。

 予定通りファース・フェイズを開始する」

 

 つぶやきながらも、敵がこちらに合わせて接近戦用兵装ソニックブレードを抜き放ち、刺突の姿勢で突き込んでくる光景を、静かな瞳で見つめながら。

 

「・・・エクシア、目標を駆逐する」

 

 機体を操作して敵の攻撃を躱し、盾にラックされた巨大な剣を構えさせると同時に切り上げることにより、得物を持った相手の手首から先だけを切り飛ばす。

 次に、手首から先を失った左腕、ライフルを持った右腕、最後にメインカメラのある頭部を切り飛ばして地面に転ばし、機体本体もバランスを失って転倒を余儀なくさせられるのを黙って見送る。

 

 

「――失礼!」

「なにを・・・っ!?」

「失礼だと言った」

 

 あまりの圧倒的性能に見惚れていたグラハムが、ハッとなって我を取り戻すと前の席に座っていた見知らぬVIP客が双眼鏡を使って謎の機体を眺めていることに気づくと強引に借り受け機体を見る。

 

「・・・ガン、ダム・・・? あのモビルスーツの名前か・・・」

「ガンダム・・・」

 

 機体に意識と心を引き寄せられ、呆然と見つめ続けるしかない二人のユニオン軍人。

 だが、それ故にこのとき彼らは自分たちの隣から、“あの男”の姿を消していることに気づくことができず、その理由についても深く考えることはついぞなかった。

 

 そこが彼と彼らの違いであり、明確な差だったのかもしれない。

 このとき彼は、会場内に設置されていた電話機にとりついて、とある場所と通話をしている最中だったのだから。

 

「エクシア、ファース・フェイズ終了。セカンド・フェイズに移行する」

 

 つぶやいて、再び光の粒子をまとわせながら空へと向かって機体を飛翔させていくパイロット。

 それを追って追撃するため、次々と飛行場から出撃していくAEUヘリオンの飛行形態部隊。

 

 

 その光景を、遙か頭上の天高く大気層の上から見下ろしていた輸送艦からの作戦指揮の下、謎の機体はAEUが保有する軌道エレベーターに接近して防衛部隊と戦闘を開始。

 

 本来、条約によって戦力を入れてはならないとされているピラーの中からも迎撃部隊を出撃させて謎の機体を落とそうと試みられていたのだが、その姿を彼の遙か下方から見上げていた彼の仲間は賞賛の言葉とともに楽しげに笑って全機撃墜することになる。

 

 これにより、『デモンストレーションに乱入して暴れ回った機体で戦力をあぶり出し、AEUが条約で規定されている以上の軍事力を保有していると世界に知らしめる』ことを目的とした《私設武装組織ソレスタル・ビーイング》が世界に変革をもたらすために始めてしまった戦争。その最初の作戦を成功裏に終了して終わる。・・・はずだった。

 

 

 だが、しかし。

 彼らが立てて実行に移した大いなる計画は、彼らが知るよしもない場所と理由により巨大な歪みという形で最初の第一歩目から狂わされていたのだという事実を、作戦遂行中の彼らは誰も知らない。

 未来で失敗に終わったことが明かされることなど今を生きる誰にもわかるはずがないのだから――。

 

 

 《エクシア》という名の機体に乗った少年パイロットが軌道エレベーターに向けて機体を接近させていたのと丁度同じ頃。

 

 軌道エレベーター防衛司令部と、デモンストレーションに選ばれた会場の電話機との間でこのような会話が交わされ合っていたことなど、彼らは誰一人知ることが出来なかったのだから・・・・・・。

 

 

「――条約で規定されている定数通りの、軌道エレベーター守備隊だけで対応しろだと・・・? どういうことかね、マイントイフェル大佐。

 AEU参謀本部の俊英と名高い貴官の言葉とも思えんが・・・どうしたのかね?」

『情報が足りません。ユニオンフラッグの猿まねとはいえ、我が軍の最新鋭機イナクトが圧倒されるような敵が相手では、ノコノコと迎撃のため出撃していった挙げ句、一方的に撃墜されて我が国が条約違反の戦力をピラーの中に隠していたことを世間に知らしめるだけで終わらせられる可能性が大きいかと』

「あれほどの機体が量産できるとも思えんが・・・」

『逆であります、基地司令官殿。あのような機体をデモンストレーションを襲撃するためだけに使ってきた敵が同じ物を一機だけしか保有していないなどと言う幻想は捨て去るべきだと小官は愚考いたしますが?』

「ぐ・・・」

『それに敵の目標が軌道エレベーターそのものである場合には、ピラーにある戦力を出撃させた程度では、どうせ防ぎきれません。あの巨大建造物の脆さをお忘れですか? 一発でも高威力の攻撃を中心部近くに当てられただけで倒壊してしまいかねない守るには脆すぎる巨大塔です。

 守れもしない物を無理して守ろうとするより、ここで世界に我が国の国防機密を知られる危険性をこそ回避すべきでしょう』

「・・・・・・」

 

 確かに相手の言うことには一理ある。むしろ軍事的に考えた場合にはまっとうで正しかろう。

 本気で軌道エレベーターを壊す気できた敵ならば、演習場を襲って派手にこちらの注意を引きつけてから本命を攻撃しに来るバカな行為などするわけがない。

 まして自分たちは奇襲されている側。奇襲を仕掛けてきている敵の情報など何一つ知ることは不可能な以上、あの機体が後どれぐらいあったとしても可能性だけを考慮するなら不思議ではない。

 

 ・・・だが、彼の意見は正しいが故に防衛基地司令官にとって絶対に突っぱねなければならなかった。そうしなければいけない理由が彼にはあったからだ。

 

「この軌道エレベーターは、AEUにとっての要なのだ! たとえ僅かと言えども危険が迫っているなら全戦力を以て迎撃して守り抜くことこそAEU軍人の使命なのだ!」

 

 成り上がりで前線暮らしの苦労も知らない若造に、これ以上デカい顔をさせてなるものかという意地が、基地司令官に覚悟と決意を与えていた。

 そうでなくとも最近のAEU軍は、古き良き秩序が失われ始めており、その象徴とも呼ぶべき【総統の息子たち】新貴族の筆頭に借りを作ることなどAEU軍人として許されることでは決してない。

 

 

(いざとなったら私一人が詰め腹を切れば済む!

 たとえ死すとも、AEU軍人の誇りと魂を守り抜く一助となれるのなら本望である!)

 

 

 ――その様に彼は考えていた。自分のやろうとしていることがAEUという国にとって、どれほど政治的不利をもたらしてしまうのかなど考えようともせず。

 

『政治は政治家がやるべきこと』『軍人が考えてなければならぬ事ではない』――そう信じ切って疑わない、前線暮らしが長すぎて外交感覚が錆び付いてしまった老将の瞳には、自分の担当する戦域での勝利と、自分たちが属する軍隊を正常に戻すことだけしか映っていなかったのである・・・・・・。

 

「忘れないでくれたまえ。OKRの参謀とはいえ、前線指揮に口を出す権限はないはずだぞ? 弁えたまえ」

 

 傘にかかって止めを刺したつもりでいた基地司令官の心と未来に、退路を断つ止めの一言が返事として帰ってきたのはこの次の瞬間のことである。

 

『おや、まだ基地指令はご存じありませんでしたか。

 先日のことですが、大統領閣下より【ライセンス】を拝領いたしました。小官には今後、命令権とまではいかずども、AEU軍に属するあらゆる部隊の指揮に口を出す権限が公式に与えられたのです』

「な・・・にィ・・・・っ!?」

 

 喘ぐように老将は叫んでいた。自分たち古参の将校たちへ命令する権限が、この生意気な若造に与えられたという現実がどうしても受け入れられなかった。

 

『今の時点で既にライセンスは有効です。・・・とは言え、特権乱用は小官の望むところではありません。出来ますなら閣下には、閣下に与えられている規定通りの戦力だけで職務を全うしていただけるよう願うばかりでありますが・・・如何でしょう、閣下。返答は如何に?』

「・・・・・・ヤー・ヘルコマンダール。了解したよ、マイントイフェル大佐・・・すべて貴官の言うとおりに従おう・・・」

 

 苦渋の呻き声とともに返された返事に気をよくした相手は、軽くねぎらいの言葉をかけて電話を切り、基地指令はしばしの間しゃべることも動くこともせず沈黙したまま時を過ごし、おそらくは最後になるであろう命令を部下たちに下した。

 

「・・・総員出撃せよ! 軌道エレベーターに接近しているアンノウンをなんとしても落とすのだ! ピラーに伏せてある兵力も出せ!

 たとえ一機残らず撃墜させられようともAEU軍人の誇りと魂を後に続く者たちに残すため、必ずやこの敵だけは落としてみせねばならんのだぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」

 

 

 怒号する基地指令の言葉に熱狂的な叫びで大勢の中年士官たちが応じて、自分の機体に飛び乗りながら我先にと空へ向かって飛び立っていっていた頃。

 

 演習場に備え付けられていた電話機に受話器を戻すとマイントイフェルは、別の場所へ電話をつなぎ即座に返ってきた返答に用件のみを手短に伝える。

 

「私だ。今の会話は録音していたな? SSを出動させ、迎撃部隊が全滅させられた後、基地司令以下全員を逮捕するのだ。容疑は『国家資産を私的流用しての反乱未遂』。

 ピラーに隠されていた戦力は、彼ら現体制に不満を持つ一部過激思想を持った将校たちによるクーデターのため横流ししていたという証拠を作ることも忘れるなよ。――行けッ!」

『ハッ! 了解であります大佐殿! ジーク・ハイル!!』

 

 

 

「世界大戦の過ちを経て、百年以上の時代を閲しても尚、前線にはあのような輩が蔓延り続けているのか・・・。

 やはり誰かが変革をしてやらねば、人も時代も世界も変われんと言うことかな・・・。そう、誰かが・・・」

 

「その為にも、役に立つがいい《ソレスタル・ビーイング》。

 そして、《イノベイター》。

 戦争と大艦巨砲しか取り柄のない、無能きわまるサルどもよ。

 人類の変革、戦争根絶、世界統一、世界平和・・・それらを免罪符として否定し合い、殺し合うことしか知らぬ時代錯誤な劣等人種どもよ。

 せめて、変革という名の血の色をした夢を見ながら、目覚めることなくヴァルハラへと旅立つがいい。

 子供の見る夢は、夢のままで終わるからこそ美しいままでいられるものだ。現実世界に覚醒させてはロマンがなくなる。

 アウフ・ヴィーダーゼン」

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