なお、久しぶり過ぎたせいで今作が異常なほど書くのに時間がかかる書き方(それぞれの原作を確認する手間が半端ない)のを失念してたせいで予想外に時間がかかり過ぎてしまって他の作品に割くことができておりません。他作品はこれから、もしくは明日から頑張りますね~。
『オペレーション・スピットブレイク』開始に先立つ露払いとして、イザーク発案によりザラ隊長率いる“足つき”追撃隊が急きょ編成されアークエンジェル追討の任務に就いたのであったが。
現実問題として彼らが地球に降りてきて合流した場所はアフリカのジブラルタル基地であり、地球連合軍本部アラスカを目指しているアークエンジェルの現在地はインド洋のど真ん中である。モビルスーツよりも戦艦の方が推進力は上であることを考慮するなら、アスランたちは地上ザフト軍が保有している最大規模の海軍施設カーペンタリア基地まで輸送機で運んでもらい母艦を受領してからでないと追撃もなにも始めようがなかった。
ビー、ビー、ビー。神経質そうな響きの機械音が室内に鳴り響く。
「はい、こちら待機室。アスラン・ザラ」
『こちらコントロールルームだ。すまんな、君の機体を乗せた機は航法機材のトラブルで少し出発が遅れる。通達あるまで、そこで待機しててくれ』
連絡相手が言うところの機体――モビルスーツ一機のみを搭載可能な輸送機はザフト軍地上部隊で多く用いられている中型の飛行機で、垂直離陸機能はないものの小回りがきいて燃費も良く、コストパフォーマンス的に見ても補給という大量輸送に向いており、最新鋭を好むコーディネーターからもけっこう重宝されている機種のことだ。
だが、いつの時代の誰に造られた機械であろうとも、『安くて大量に運べる輸送用機械』に完全な安全性など求められる訳がないのは今更述べるまでもない。
飛行機としての性能は高いのだが、海もなければ雷も鳴らない宇宙空間をホームとするコーディネーターたちが造った航法機材は地球の気まぐれな気候の変化に弱く、ちょっとしたことでトラブルが起きやすいという欠点を有していたのである。
「わかりました。待機を継続いたします」
こういう事態はそれなりの頻度で発生していたため、対処する側も熟練してきており作戦に影響するほどの遅れを出した事例は今のところ起きておらず、アスランとしても地上に降りてきたばかりで勝手がわからず、事前に『そういうものだ』と通達を受けていたこともあってアッサリ受け入れて一人、思考の海に没頭する。
「・・・キラ・・・もし本当に、君を殺さなければならないのだとしたら――それは・・・ッ」
――自分の手で!
予定外のトラブルで与えられた待機時間延長を、彼は恐怖におののきつつも、きっぱりと彼は悲壮な覚悟で友を討つ決意を固めていく。
それは年若い彼なりの誠実さであり、組織全体のことを優先して友を討つというザフト軍人として正しい在り方ではあったがが、一方で“足つきとストライクを君が討て”と命じてきたシロッコの真意がどこにあろうとも職務の中で軍の意志に従うだけの手足になる道を自主的に選んで歩んでいた事実を示してもいた。
彼は自分だけでなく、ザフト軍全体が『体制を維持するための道具』に成り下がる道を選んでしまっている事実に気づいておらず。
自分たちと似たような組織構造を持つ組織が、自分たちとは異なる地球を舞台に覇権争いを繰り広げた末に内部崩壊で自滅に近い滅び方をした事実も知らない。
その組織が、『ティターンズ』と呼ばれていた歴史的事実をも、違う地球世界で生きる彼らは知ることなく、同じようにトップダウンの形で意思決定が行われている組織の命令に従って今日も地球を舞台に民族紛争ならぬ人種戦争を繰り広げ続けている・・・・・・。
一方、アラスカを目指してインド洋をいく途中のアークエンジェルにも、予定外のトラブルに見舞われつつあったことを、遙か遠くジブラルタルにいるアスランは“今の時点ではまだ”知らない。
「ソナーに感! 7時の方向、モビルスーツです!」
「間違いないか!? 数は?」
「音紋照合、グーン2。それと不明1ですが、モビルスーツであることは間違いありません!」
「この前戦った敵かもしれないわね・・・総員、第1戦闘配備!!」
戦闘を避けるため、敵の警戒網がもっとも手薄と思われる大洋の真ん中を選んでアラスカへと向かっていたアークエンジェルは、ザフト軍カーペンタリア基地所属のモラシム隊から二度目の攻撃を受ける羽目になっていたのである。
バルトフェルド隊を撃破したとは言え、無傷というわけにはいかず、そのくせ連合本部からは救援どころか補給さえ寄越されないまま自力でアラスカまで来るよう指示されてしまったアークエンジェルは、敵と遭遇する可能性は低いが、何かあった際には逃げ込む場所がないインド洋を航路に選び、ハイリスク・ハイリターンの道を“運頼り”で進んできた訳であったが、それが二度続けて同じ敵に襲撃されるというのでは本末転倒も甚だしい。
戦いで疲れた心と体を、綺麗な海の景色で癒やされたかったクルーたちとしては、いささか“うんざりとした”心境でモラシム隊からの襲撃に応戦する準備へと走っていたのであるが。
攻め寄せる側の、モラシム隊を率いるマルコ・モラシム隊長にも今攻めなければならない事情が存在していたことをアークエンジェルのクルーたちは誰も知らない。
「フン! 浅い海を行ってくれるとは、この“ゾノ”には却って好都合だ。クルーゼも降りてきているそうだからな、今日こそ沈めてやるぞ! 足つきめ!」
水中用の新型モビルスーツ“ゾノ”のコクピット内で、モラシム隊長はそう宣言すると好戦的に髭面を歪めて笑う。
先だっての戦いで彼は、グーン2機、ディン1機を撃墜され、自らが搭乗していたディンも小破させられていたが、一方で上げた戦果といえば傷ついていた敵艦をさらに傷つけただけという、無様すぎる醜態を晒してしまった直後だった。
惨敗といって差し支えない結果であり、クルーゼの安っぽい挑発に乗ってしまったことが失態の要因だと自覚する彼のプライドは傷つかざるを得なかったが、それだけではない。
足つきを相手に失態を重ねながらも、国防委員長パトリック・ザラのお気に入りというだけで左遷もされずにヌケヌケとエリート部隊でいられ続けている恥知らずなコネだけで出世した仮面の男と陰で罵る声が大きくなっていたクルーゼに対する評価が彼の敗北によって再び復活の兆しを見せ始めているというのだから堪ったものではなかった。
バルトフェルド隊だけなら、『運が良かっただけ』だの『隊長の方に致命的ミスがあった』だのと理屈づけして笑っていられた者たちも、モラシムが再戦のためゾノを受領しにカーペンタリア基地へ帰還したときにはスッカリ静かになってしまい、遠回しにクルーゼ隊への再評価を口にしているのを聞かされた彼としては怒り心頭にならざるを得ない。
しかも、出撃に先立ちジブラルタルからもたらされた“例の男”からの通信が、彼の感情を激発させた。
彼は任務で忙しい上官のクルーゼの代理として、モラシムにこう伝えてきたのである。
「我が隊への援軍に貴様らの部隊のパイロットと機体を派遣しただと!?」
『はい。新しく編成した部隊ですので能力査定もおこなえておりませんが、優秀です。必ずや隊長のお役に立てるものと確信しております』
「そんなことを言っているのではない! 我々の仕事だぞ!
足つきの撃沈とアラスカ行き阻止はザフト軍上層部より我々が与えられ、必ずや討ち果たすと明言した任務なのだ! 技術屋上がりの成り上がりは軍の命令系統さえ心得んのか!」
『ですから、守っているじゃないですか。モラシム隊長への援軍に派遣したと知らせたつもりですが・・・?
足つきの追撃は我々が担当していたとは言え、今ではモラシム隊長の方が専任であることは承知しておりますし、派遣した部下たちにも言い含めてあります。好きに使ってくれて構いませんよ。なんでしたら手柄も貴隊の隊員たちで山分けしていただいて構いません。
私の部下たちはどうやら、私的な復讐心で足つきの搭載機を落としたがっているだけのようでしたから大丈夫でしょう』
この場合、シロッコの冷徹で薄情な人の心を無視するがごとき言動は相手にとって、鼻先で赤い布を降られているのと同義であることは説明するまでもない。
「・・・わかった。だが、援軍は必要ない。あの船は最後まで我々の手で沈める。足つきを何度も取り逃してきた敗北の実績ばかり豊富な援軍など足手まといにしかならんからな。
貴様の派遣した援軍とやらには、黙って我々の戦いを空から観戦するよう伝えておけ。不用意に乱入されて貴隊を後ろからでも撃ってしまっては気の毒というものだろう。温室じみた研究所育ちの技術者は知らんかもしれんが、誤射というのは戦場だとよくある話なのだぞ・・・?」
最大限に悪意を込めて、露悪的な表情で言ってやった皮肉もこの男の皮肉そうな鉄面皮の微笑にはヒビ一つ入れられない。
『それは結構。貴官からそのような言葉を聞くのは嬉しい。未熟な若者たちに軍人の志を模範として示していただければ幸いであります、モラシム隊長殿。――フフフ・・・』
そして通信は、相手から一方的に切られてしまう。
灰色の板面と化したスクリーンにモラシム隊長が、通信が終わった直後に拳を叩き付けて砕いたこともまた今更言うまでもない必然的な帰結だったことだろう。
「あの若造! パプティマス・シロッコとかいう技術屋上がりで成り上がりの青二才めが!
ヤツの見ている前でクルーゼ隊が取り逃がし続けた“足つき”を私の手で討ちとり、奴らの無能さを証明してやらなくては気が済まん!
総員、抜かるなよ! 後がないと思え! ザフトのために!!」
『了解!! ザフトのために!!』
小気味良い部下たちからの唱和を聞きながら、モラシム隊長は勝利の確信とともに連合が開発した『白い新造戦艦』アークエンジェルを沈めるため突撃を仕掛けていく。
「クルーゼとシロッコが見ているのだ! たかが傷ついた戦艦一隻に、これほどまで手こずるなど笑い話にもならん! これ以上あの若造共ごときに舐められて堪るかよッ!!
私はザフト軍の隊長、マルコ・モラシムなのだァァァァァァァァッ!!!!!」
それから1時間ほど過ぎた頃。
ザフト軍ジブラルタル基地の一室にて。
ビー、ビー、ビー、・・・ガチャッ。
「こちらはクルーゼ隊のパプティマス・シロッコ副隊長である。隊長が所用で席を外しているため私が代わって用件を聞く。何か?」
『ハッ、報告致します。先ほどカーペンタリア基地より連絡が入りまして、足つき追討の任に当たっていたモラシム隊長が戦死されたとのことであります』
「そうか。ザフト軍人として名誉の戦死を遂げられたモラシム隊長の御遺族には、後ほど私と隊長の双方から哀悼の意を表する弔文を送っておこう」
『ハッ! 先方もお喜びになることでありましょう!
それから今ひとつ、クルーゼ隊宛に本国より通達が届いておりまして、戦死したモラシム隊長に代わって足つき追討の任務は再度クルーゼ隊に戻されることが内定しているため準備を整えて欲しいとのことであります。正式な辞令はオペレーション・スピットブレイク以後になるとの由。以上であります』
「ご苦労。後は私の方で隊長に報告しておく。下がっていい」
『ハッ!』
機体を微調整するため一時帰投していた私は、通信が切れて灰色の板面と化した通信パネルを見下ろしながら「フフフ・・・」と露悪的に笑って見せて、ソファに座ってくつろぎながらコーヒーを飲んでいた上官から唇を「へ」の字に曲げて酷評される。
「相変わらず、エゲツ無いことだな。我が悪友よ」
「心外だな、親友よ。私は友の名誉を回復するため、味方の兵まで騙す性に合わん手法を我慢してまで実行したというのに」
面倒ごとを部下に押しつけてコーヒータイムを楽しんでいた上官から酷評される不遇な天才の役を演じる自分を満喫したまま、私はうそぶいて嗤いガルマを謀殺したときのシャアの境遇を心置きなく満喫する。
彼であるならキシリア・ザビに向かって言っていたように、復讐のために味方を殺す行為を犯してしまった後に虚しさを感じることも出来たかもしれない。
だが私はパプティマス・シロッコであって、シャア・アズナブルではない。単に近藤和久が作画を担当していた漫画版『機動戦士Zガンダム』で敵の手を借りジャマイカンを謀殺していたシロッコのやり方を再現しただけのことでしかない。
虚しさを覚える理由など一切もたない私は、モラシム隊長が死ぬ前より少しだけ風通しが良くなった基地内の空気に深い満足感を覚えていた。
・・・宇宙でこそエース部隊として知られていた我々クルーゼ隊ではあったが、降りてきたばかりの地球上、連合軍と戦う最前線である地上では完全に新参者。
ましてやアークエンジェルに出会って以降、ケチが付きっぱなしの戦績だけが知られていたということもあり、安全な後方で楽な相手とばかり戦ってきた『苦労知らずのキャリア組』というレッテルを張られながら動かざるを得なかったのだが、これからは多少やりやすくなることだろう。職場の空気が仕事をしやすいものになるのは素直に歓迎すべき事柄だからな。
しばらくの間、穏やかな沈黙が流れて私もクルーゼも互いに何を思っているのか判然としないまま、特に気にすることなく曖昧な今という時間を無為に過ごす余暇を楽しんでいる最中。
クルーゼが何を思ったのか、このような言葉を口にするのが聞こえてくる。
「・・・モラシム隊長も無能とはほど遠い人物だったのだがな。それでも戦死を免れることはできなかった。
やはり目の前の敵しか見ることのできない軍人では、それが限界ということなのかもしれんな・・・」
感慨深げな声音でつぶやかれたクルーゼの発言が、何を意図したものであったのかは、その仮面と私のニュータイプ能力を持ってしても今一判然としないものであったが、それでも私は表面的な字面の中だけに訂正すべき点を感じざるを得ず一部修正を彼の発言に加えるため声をかける。
「少し違うな。彼は目の前の敵をふくめた現実を見ながら、戦いの場に赴いたわけではあるまい」
「・・・?? では、彼は何のために、何を見ながら戦っていたと君は思うのかね?」
「無論、過去だよ。彼は、その手に失われつつあった自分の輝かしい過去を取り戻したがっていた。だから足つきに戦いを挑み、そして過去の栄光の夢を見ながら死んでいったのだ」
私はそう断言して窓により、眼下に映るオペレーション・スピットブレイクのために掻き集められた膨大な兵力を見下ろしながら、自説の続きを口に出す。
「手に入るはずだった勝利、メンツに泥を塗りつけられた我々の悔しがる顔、ザフト軍地球侵攻部隊の中でも勇名を馳せていた輝かしい栄光の過去、黄金時代。
それら敗北によって失われてしまった大切な過去が、今を生きる人を間違わせる。
誰だって失敗したときには、“あの時あちらを選んでさえいれば・・・”と思いたがるものだろう? アレと同じだよ。
失敗した今の自分という現実を認めたくないから、取りこぼしてしまった勝利を“まだ取り戻せるはずだ”と信じたいから信じて戦いを挑んでしまえば負けもする。現実の今を見ようとしない人間に、現実を生きている敵を倒すことが出来るはずはないからな」
「・・・・・・」
「失われてしまったモノを嘆く心、失ったモノが全てだったとする思い込み、二度と手に入らないモノにもう一度手を伸ばそうとする執着。
それら損失への嘆きを、プライドという一般論で綺麗に飾り立てることで正当化した愚考。
即ち、『感傷』だよ。それが人を愚行の虜にする。
ちっぽけな感傷が人に破滅をもたらし、国を滅ぼし、やがては世界を破滅に導くことになるだろう・・・・・・と私は予言しておこう」
そう締めて、私は座っていた椅子から立ち上がり部屋の扉へと歩み寄る。
任せていた整備が終わると指定されていた時間帯になったからだ。私は私で次の戦いのためにやることはそれなりに多いのだよ。
「行くのか、シロッコ」
「ああ、行く。アスランたちが気になるからな。おそらく彼らでは足つきとストライクは落とすまでには至れまい。とすれば次のための布石は打っておくにしくはない」
「では、グゥルを用意するよう手配するかね? 幸いスピットブレイクを前にして過剰に集めすぎてしまったとかで、多少の数なら使い捨ててしまって構わんとオフレコで言われている身だ。足の遅い輸送機よりかは燃料を無駄遣いすることなくアスランたちに追いつけると思われるが?」
「せっかくのご好意だが、好意だけ頂いておくとしよう」
そう言って私はクルーゼに向かって白い歯を光らせながら笑いかけると、シロッコらしく傲慢なセリフを、シロッコらしい口調で親友に宣言しながら再出撃しに向かって歩き出す。
「私の《メッサーラ》だけで済むのならば、グゥルのような旧式の支援機を使うことはないだろう?
木星近くで使うモビルスーツとして私自らが設計したメッサーラと比べたら、ザフト地上軍が必須としているグゥルでさえ、あまりにも足が遅すぎる」
つづく