新年最初の更新なのに主人公の出番が少なくてゴメンナサイ。飛ばしてシロッコのシーンまで行こうかどうしようか迷ったんですけど、どうしても書きたい回でもありましたので書かせていただいてから次へ行きたいと思います。
次回こそ、シロッコ大活躍をがんばるぞ!と。
――遅ればせながら今年もよろしくお願い致しま~す(^O^)/
温暖な気候と、未だ戦火に巻き込まれずに済んでいる雄大な自然の海を魚たちが泳ぎ回るオーブ首長国連邦、近海の海域。
その海中に今、ザフト軍潜水艦が音もなく接近後退を繰り返しながら、領海の外縁部を出たり入ったりと示威行動を取り続けている。
その迂遠さに対する苛立ちを八つ当たりしたわけではないだろうが、イザーク・ジュールは手の平で握っていた紙切れを机に叩きつけ、鋭い罵声を同窓の上官に向け放っていた。
「こんな発表、素直に信じろって言うのか!?」
バンッ!!と、防音処置が整っている艦内全体に満ちるほどの大きな音を立てて叩きつけれた紙切れ。
それと同じ内容がコピーされている紙の書類を、皮肉気な視線と表情で眺め回してやってからディアッカ・エルスマンも友人に同調して毒を放つ。
「『足つきは既にオーブから離脱しました』・・・なんて本気で言ってんのォ~? それで済むって? オレたちバカにされてんのかねェ? やっぱ隊長が若いからかな?」
揶揄するような視線と態度。そして口調。
それらは多分に嘲りを含んでおり、彼らが“先日の失敗”について臨時の隊長であるアスラン・ザラを責めているのは明らかすぎるものだった。
先日、新設されたばかりのアスラン・ザラ率いるザラ隊は、連合の“足つき”――新造戦艦《アークエンジェル》追撃のため攻撃を仕掛け、戦闘を行い、あと一歩のところまで追い詰めながらも、オーブ軍の横やりによって相手の喉元を締め上げている最中にリングの外まで連れ出させれるのを黙ってみていることしか許されなかったという失態を犯している。彼らはそのことを言っているのだ。
無理もあるまい、あれほどまで足つきを追い詰められたことは、彼らでさえ出会って最初の頃以外には一度もなく。
あのまま数秒だけ攻撃を続けられていたならば、確実に沈めていた!と確信できる手応えを掴んでいたからこそ、それを横から割って入ってきて『自分勝手にバカな理屈をほざくばかりで戦う勇気も覚悟もない臆病きわまる中立国』なんて存在に配慮してやって退くしかないと判断して命令してきた隊長のアスラン・ザラを非難がましい目と態度で指弾してくるのは仕方のないことではあったのだから。
そして、だからこそ彼は言い切れる。
「そんなことはどうでもいい。オーブは建前を唱えているだけだからな。
この発表が嘘か真か、俺たちが議論しなくても向こうの方がよく理解しているさ」
オーブは中立国として建前を口にしているだけであり、こういう状況下での一般回答を返してきているだけでしかない。
仮にアスランがオーブ側の代表だったとしても、同じ回答を公式声明として発表していたことだろう。
何より、この場合はこれで十分なのである。
国の公式発表の真偽は自分たちの国の政府が判断することであって、軍の命令を実行するだけの軍人でしかない自分たちにはどうでもいいことでしかない。
重要なのは、この公式見解が自分たちの任務を阻害している。それをどう掻い潜って任務を果たすかの具体的な方法論であって、相手の主張が本当なのか嘘かだのと相手に聞こえない海の底で言い争ったところで時間の無駄でしかない。
アスランは部隊を率いる隊長を任せられた者として、そう判断していた。
だからこそイザークの感情を収まらせるため好きに言わせ続けていたのだが、どうやらこれも時間の無駄だったらしい。
「だが、これがオーブの正式回答だと言う以上、ここでいくら俺たちが嘘だと騒いだところで、どうにもならないと言うことだけは確かだろう」
「なにをぉっ!?」
「押し切って通れば、本国も巻き込む外交問題だ」
「・・・ぐっ」
アスランに冷静な大人の対応を示されたことで、馬鹿にされたように感じたイザークが衝動的にかっとなり食ってかかるのを正論でいなす。
疑いを強めているとはいえ、プラント政府はまだ現時点ではオーブの中立を尊重し、主権国家として対応している。
イザーク個人の主観的評価がどうであろうと、ザフト軍に所属している限りはプラント評議会の公式見解を彼は尊重しなければならず、これに異議を唱えることは国家の決定に疑義を抱いていることを意味し、彼の立場的にあまり好ましくない方向に事態が進展してしまう恐れがあった。
頭に上がっていた血を、わずかに掛けられた冷や水分だけ冷まさせられた後、
「ふーん・・・さすがに冷静な判断だな、アスラン。いや、ザラ隊長?」
それでもプライド故なのか、すぐに嘲笑するような顔つきになると、『隊長』の部分を敢えて強調した口調で嫌味を言ってくる。
――が、しかし。特に方針自体には意見や反論は持ち合わせていなかったのか、その後に続く言葉はなさそうでもあった。
要するに、ただの負け惜しみである。『子供か君は・・・』と言いたくなったのをぐっと堪えてアスランは言われたとおり隊長らしく振る舞うための返答として。
「俺の決定を理解してくれて嬉しいよ、イザーク。今後ともよろしく頼む」
「・・・・・・~~~っ!!!」
勝ち誇ったように嘲笑していた表情が引き攣りを起こし、ヒビ割れたような激情が溶岩のように火口から噴出するかとさえ思われたのだが。
「だから? はいそうですか? って帰るわけ?」
幸いなことにアスランに顔を向け、ディアッカには背中だけをさらす位置関係だったため顔を見られておらず、友人とは違った理由で反感を抱かされたらしい彼が別方向から反撃してきことで一時的な部下と上官の激突はギリギリのところで未然に防止することができたのだった。
「カーペンタリアから圧力をかけてもらうが、すぐに解決しないようなら潜入する。――それでいいか?」
『・・・・・・っ!!』
事も無げに言ってのけたアスランの言葉に、一瞬全員が『ギョッ』とさせられ絶句する。
「“足つき”の動向を探るんですね?」
中で一番最初に冷静さを取り戻したニコルから確認のための質問をされ、首肯して肯定するアスラン。
「どうあれ、相手は仮にも一主権国家なんだ。確証もないまま俺たちの独断で不用意なことはできない」
「突破していきゃ『足つき』がいるさ! それでいいじゃない!?」
「・・・・・・正気か? ディアッカ」
敢えてアスランは過激な表現を使ってディアッカに応えた。
侮蔑していると取られても仕方のない言葉であると承知はしていたが、せめてこれくらいのことは言ってやらないと彼らの感情的な暴走を抑止するための“脅し”にはならないだろう。
普段はおとなしいアスランでさえ、そう感じざるを得ないほど今の彼とイザークからは冷静さが枯渇しかけている。そう見ざるを得ない暴論がディアッカの唱えた説だったからである。
「軍人が国家の許可なく独断専行で中立国への攻撃をおこなって戦端を開き、政府は後追いで行動を承認し、戦争を開始する・・・・・・評議会の面目は丸つぶれになるぞ。
ただでさえ現政権は樹立してまがなく、選挙に勝ったばかりで内外の敵も少なくない情勢下で、君は自分の母親を破滅させたい願望でも抱いていたのか?」
「・・・・・・っ!! そ、それは・・・・・・けどさッ!!」
思わぬ角度からの不意打ちにたじろいで、精神的に蹈鞴を踏まされたディアッカは、それでも諦めることなく反論しようとしてくる。
が、それは彼がアスランの主張した内容自体を否定するためのものでないことは彼の立場と親子関係を鑑みれば明らかすぎるものであり、単にアスランに言い負かされて黙り込んでしまう自分がプライド的に納得できなかっただけだろう。
そう判断したアスランは、再び攻撃の方向性を変更させる。
彼はクルーゼ隊所属のパイロット達の中では実績・実力ともにトップガンであり、隊長と副隊長を除く隊内のナンバー3として内外にも知られている人物だ。
当然のように隊長達からパイロット達の指揮を任されることが多く、比較的彼らの戦略戦術思考などを耳にする機会も多くなり、若い少年パイロットたちの中では頭一つ二つ飛び抜けた政治的センスを持ち合わせるに至っている事実を、彼はまだ気づいていない・・・・・・。
「ヘリオポリスとは違うぞ、ディアッカ。同じに考えているなら止めておいた方がいい。
単純に軍の規模もそうだが、仮に攻め入って足つきを見つけ総攻撃を仕掛け、勝ったとしてだ。・・・その後はどうなる?
オーブから流出した難民にモルゲンレーテの技術者や《G》の開発スタッフ達が混じっていた場合に、連合へ走られたらどうするつもりなんだ? オーブの軍事技術の高さは言うまでもないだろう?」
「それは・・・・・・」
「祖国再興のため、あるいは復讐のため彼らが連合に降ってオーブが秘匿していた軍事技術のすべてを無償提供する可能性だってある。
表向きは平和ボケした中立国だが、裏ではどうなっているのか計り知れない厄介な国なんだ。ただ勝てばいいというほど単純な話ではないだろう。
まさか、オーブ国民を一人残らず殺す訳にもいかない以上、慎重にことを進めるしかない・・・」
それに、とアスランは悔しそうに口をつぐんだ皮肉屋の少年に苦笑する作り笑いを浮かべて見せながら、例え話を披露してやることで相手にとっても受け入れやすいよう調整する。
「二十世紀の後半・・・いや、中頃だな。占領後の予定もなしに自分の国土の何十倍もの領土と海上を制圧して、軍の補給は現地調達。そして結局、数年で潰された国があったそうだ」
「ああ・・・・・・、ダイニジセカイタイセン、ね」
士官学校時代、戦史の授業で教官から教わった内容をおぼろげに思い出したディアッカは理解の色を表情と瞳に宿してアスランを見返す。
たしか、ニホンとかいう地球上にかつて存在していた小さな島国だったと記憶している。教官達が『愚かなナチュラル共が起こした記念碑的な愚行』と激しく罵りまくっていた罵声の数々の方が記憶に残っていたため完全にはほど遠い記憶の再生しかできなかったが、これだけの情報が思い出せれば彼にはアスランの言わんとしていることは察することができる。
彼とて伊達に、アスランとイザークに次いで成績上位者グループの一角を占めていた優等生の一員だったわけではないのである。これだけの事前情報が与えられてさえいれば、頭を冷やして少し冷静に自分たちの状況を俯瞰視点で見下ろすことも可能になる。
「そういうことだ。自分たちが見下しているナチュラルの愚行をコーディネーターが模倣してやって、味方からもナチュラルからも笑い物になってやる義理は俺たちにないだろう? だからさ」
そう言って白い歯を見せて笑いかけるアスランに、ディアッカも目玉を軽く動かして返事とする。
・・・無駄に歴史好きな上官の影響を静かに、だが確かに受けてしまっていることまでは彼らも気づいていないようでもありはしたが・・・・・・。
「――ふん。OK、従おう」
むっつりと聞いていたイザークが、唯一の味方だった友人を陥落されたことで形勢不利と判断し、あきらめたように両手をあげて降参の意を示すことにしたようであった。
しょせん彼とて正論を説かれ、それについ感情のみで反対していたことに気づかぬには聡明すぎる頭脳を持つコーディネーターの少年である。
「俺なら突っ込んでますけどね。さすが、ザラ委員長閣下のご子息だ!」
とは言え、それでもちくりと皮肉を言うことは忘れないあたりに彼のプライドの高さが現され、その自尊心の高さこそが正論を素直に受け入れられずに感情的な反発をしてしまい、無意味だと冷静になれば判りそうな議論を繰り広げさせた原因になっていたことまでは気づけていないのも事実ではあった。
「ま、潜入ってのも面白そうだし・・・・・・」
そして、その近視眼的な思考こそが彼に、敵の実力を過小評価させたがり、敗北を受け入れられずにいつまでも固執し、敗北を重ねさせる遠因となっていることに繋がっているのだと学習するには、彼のプライドは高すぎたのである。
「案外ヤツの――“ストライク”のパイロットの顔を拝めるかもしれないぜ?」
それは発言者にとって、単なる嫌がらせの一言でしかなかったろうが、言われた方は思わず「ハッ」となると同時に「ギクリ」ともなり絶句させられてしまったが、イザークと彼に続くディアッカがそれに気づく様子はなく、彼らはそのまま部屋を出て行き、残されたニコルだけがアスランの表情に落とされた陰の色を見つけて、けげんそうな面持ちになるだけで終わった。
少なくとも、彼らクルーゼ隊所属の少年エースパイロットたちにとって今このときに起きた出来事は、これだけのことで完結したのだ。この先はない。
だが、世界は彼ら少年達だけで成立しているわけではない。他に二人の同席者達が存在していた。
それは彼らクルーゼ隊の面々が『お客様』として乗船している、潜水艦の艦長と副官たちの存在だった。
立場上、同席することだけは形式的な義務ではあったが、『本国から来たエリート部隊』が内輪だけで話し合っている会議の内容に割って入れるほどには彼らのプラント内における席次は高くなく、会議の間中じっと大人しく話を聞くだけに留めなければならなかったのは正直に白状して屈辱の極み以外の何者でもなかったのである・・・・・・。
「・・・・・・なんとも感情的な少年達でしたな、艦長。あれで一応は本国でモテはやされているエリート部隊のエースパイロットたちとは、到底信じられません。ザフト軍の名誉も誇りも地に落ちたものです」
副官が背中の後ろで組んでいた指をほどきながら、イザークたちに続いて出て行ったアスランとニコルを背中が扉の外へ消えると同時に吐き捨てるようにつぶやいた苦々しい声が室内にむなしく響き渡った。
会議の間中、「ぐっ」と力を込めて組み続けて我慢していた指の痺れとともに抑圧されていた感情まで解放されたのか、いつもよりずっと口が悪くなっている副官に対して中年の艦長は宥めるように声をかけてやる。
「彼らも、まだ若いということさ。そう怒ってやるな。子供の言うことに大人がいちいち注意していたのでは若い世代は育つまいよ。
なにより、パイロットとしての実力があるのは間違いようのない事実でもあることだし・・・」
「腕は立つでしょうな、たしかに」
副官はにべもない。むしろ、『アレで腕すら立たないのでは新兵よりも役立たない』とまで言いたそうな不満げな表情を露骨に浮かべる。
「ですが、知性の方は年齢標準を下回っているのではありませんか? 艦長。
オーブの主張を信じるかどうかなど、今この場で彼らの主張を議論するだけの状況に陥らされている自分たちの醜態を客観視さえできれば、火を見るより明らかではありませんか。
それこそ子供でもわかる理屈なのですよ? それすら考え及ばぬ未熟な少年たちが戦争の主力として前線にまで駆り出されている現状を見るに、小官としましては戦争の行く末について楽観視する気になれません。寒い時代になったものだとお思いになりませんか?」
「それぐらいにしておけ、ヴォイチェフ」
艦長は、さすがに副官の口が過ぎてきていることに気づかざるをえず、注意を促すよう警告する。
「どうであれ、相手は仮にも本国のお偉いさんのご子息様なのだ。我々、前線の雇われ軍人風情が独断でどうこうできる立場でもなし、それこそ負け惜しみというものだよ副官。言うだけ言って矛を収めてやることだな」
朗らかに好々爺然として副官の肩をたたきながら笑いかける艦長だったが、その瞳には言葉とは裏腹に邪な光がわずかに灯っていることを相手の方は洞察して、鏡を見れない本人は気づくことができていなかった。
それは、『媚びる色』の光だった。
ザフト軍はコーディネーターだけで構成された軍隊であり、コーディネーターは宇宙の民である。
その彼らにとって地球上よりもさらに遠くにあると感じられているのが、海底という辺境の地であった。
その海底に隠れ潜んで敵を探して彷徨い泳ぎ、宇宙艦隊と違って戦争が勝利で終われば軍縮の憂き目にあわされるのは確実という『宇宙国家プラントが誇るザフト地上軍・潜水艦部隊の艦長』という辞令を与えられた時点で艦長は、左遷されたと判断せざるを得なくなっていたからである。
この認識は事実と異なるものではあったが、同時にザフト軍の兵士たちの多くが共有してしまっている誤解に満ちた共通認識であり、相互不信の種にもなっていた。
それは、MSという新機軸の最新鋭ロボットを開発したことにより、戦争の勝敗を『数よりも個人の技量』に比重の傾いた中世期の時代にまで巻き戻してしまった軍隊が必然的に持たざるを得ない悪弊なのかもしれない。
アスランたちが先ほど彼らを完全に意識外において、内輪の会話に終始してしまっていたのは、これが理由である。
自分たち『MSパイロットこそ』この戦争の主役と位置づけ、艦船をMS移送のための輸送船と認識して、それを操船する乗組員達を自分たちより格下と侮ってしまっている内心が程度の差こそあれ如実に現してしまっていたのが先ほどまでのアスランたちが行っていた会議の別側面から見た真実だったからである。
「さし当たって我々は自分たちの仕事を果たすとしようじゃないか。それが建設的な意見というもだ、違うかね? ヴォイチェフ副官」
「・・・失礼しました。さっそくオーブへ潜入するための偽造IDを調達する指示を出します。ただ、なにぶんにも急な話ですので軍人用のものは難しいかと思われます。整備士の一人ということであればなんとか・・・」
「それは仕方のないことだな、彼らにも我慢してもらうしかあるまい。さすがに彼らの年齢でオーブ軍のエースというのは無理がありすぎるからな」
冗談口をたたいて先ほどまでの会話を笑ってなかったことにしようとしている艦長に副官は、謝意を示すため軽く頭を下げた後に思い出したことがあったのか顔を上げる。
「あの、艦長・・・」
「どうした?」
「指示を出してから資料室で、オーブの法律関連のデータを集めておきたいと思いますがよろしいでしょうか? 我々プラントの民にとって当たり前のことでも、地上に住むナチュラルたちにとっては異常なことがあるのかもしれません。そういった些細な事柄から彼らの身元がバレたら厄介な事態になります。これは知性とは関係のない事柄ですから・・・」
艦長は、わずかに思案してから頷いた。
「よかろう。0600時には彼らをオーブまで送り届けるため小型艇を発進させる予定でいる。それまでに資料をまとめておいてくれ。行く途中で彼らに読んでもらうとしよう」
「判りました」
そして両者は、それぞれの場所に向かった。
が、艦長の指示に従ってから副官が向かった先が、資料室ではなく別の部屋だったことに彼が気づくのは全てが手遅れになった後のことであった。
「アスラン・ザラ率いるザラ隊は、オーブへの潜入をおこなうようであります。潜入のための小型艇発進は0600時を予定しているとのことです」
『――そうか。それは結構。おそらく彼らはオーブで足つきを発見した後、自分たちだけで戦闘を行おうとするだろう。その時にはまた私に報告しろ』
「承知いたしました、パプティマス・シロッコ副隊長」
『期待しているぞ、ヴォイチェフ“艦長”』
ガタッ。
「・・・これは、テッド・アヤチ艦長。盗み聞きですか?」
「それが艦長に対しての態度か? どういう事か説明してもらおう、“反乱兵”ヴォイチェフ副官。君は資料室へ行っていたはずではなかったのかね?」
「ふ・・・」
――ゴリッ。
「!! 貴様! 一体どう言うつもりだ!? じ、上官に銃を突きつけるなど反逆行為に当たることだ! これは死刑に値する重罪なのだぞ! それを貴様らわかっているのか!?」
「艦長、貴方を除く本艦全ての乗員が既にパプティマス副隊長と、クルーゼ隊長の指揮下にあります。
この戦役終了時にザフト軍を掌握されるのは間違いなく、あのお二方です。
戦争といえば数のゴリ押しと騙し討ちしか知らぬ小策士のパトリック・ザラや、平和平和と口で唱えながら汚職と不正を蔓延らせる身内人事のクライン派ではありません。
我々はその様に確信してお二方の指揮の下、行動しております。・・・無論、無償奉仕というわけではありませんがね」
「ヴォイチェフ! 貴様ぁぁ・・・・・・っ!!」
「ご安心ください、艦長。我々は艦を乗っ取ろうなどと考えておりません。これまで通り大人しく艦長を演じておられれば、貴方を監禁したりは致しませんよ。
“子供たち”に怪しまれると、言い訳するのが面倒ですからね・・・」
「貴様、上官に向かって―――」
「上官だと思うからこそ、こういう話し方をしているのです。『プラント評議会への反乱を企む大罪人』に艦長の代理として副官が情報を流していた時点で、我々はすでにザフト軍人の道を踏み外しているのだという事実をお忘れなく」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ガクリと膝をついたアヤチ艦長の仕草と、それに続く沈黙が彼の全面降伏を現すものである事実を察して勝利の笑みを浮かべるヴォイチェフ副官。
そんな彼に対して、反逆した“かつての上官殿”は恨みがましい目線で上目遣いに見上げながら、まんざら負け惜しみとも言い切れない口調で呪うように吐き捨てた。
「・・・・・・ザフト軍の誇りを失った、獅子身中の虫どもめ・・・・・・っ」
それは彼の心にわずかに残っていた、最期の誇りが言わせた言葉。
ザフト軍のために戦ってきたザフトの軍人として、結果的に裏切らざるを得なくなってしまった古巣に対して最後の勤めを果たすための言葉であった。
言う方にとっては本人なりに誠実さが籠もった一言であったのだが、聞かされた方としては不快さをそそられずにはいられない最悪に耳障りの悪い侮蔑の言葉であったらしい。
ヴォイチェフは『ふん!』と思い切り鼻を鳴らして裏切った上官を見下ろしてやりながら、万感の思いを込めて彼ら前線で酷使されている兵士たちの嘘偽らざる心情をシンプルすぎる一言にまとめて吐き捨てた。
「愛国心を押しつけるなら、それに見合う給料ぐらい出すべきだ。いつでも売り払える側に立てると思っているから、金をケチって裏切られる。
一度ぐらい二束三文で売り飛ばされる国家っていうのも体験してみれば、お偉いさん方も愛国のために兵士の給料を増やす気にもなるってもんだろうさ。はははッ」
つづく