ガンダム二次作   作:ひきがやもとまち

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お久しぶりです。長らく更新が止まったままで申し訳ありません。
次話はまだ出来てないのですが、そのお詫びに前回語った【悪意版ユニコーン】を書いてみましたので、ヒマ潰し用にでも軽く読み飛ばし下さい。

尚、作者自身がジオン派なためジオン贔屓の内容となっておりますが、別にそれでいいと思っております。
原作ユニコーンを始めとして、連邦ヒイキの作品はいっぱい出まくってる世の中ですので、ジオン贔屓の作品も少しぐらいないとフェアじゃないですからね。

そういう、連邦の象徴ガンダムさいきょー設定ばっかになってきた昨今の風潮が、今作を書きたくなった理由です…。


機動戦士ガンダムUCウィキッド(正規版)

 

(・・・・・・現在、グリニッジ標準時23時40分。今、一つの世界が終わり、新しい世界が生まれようとしています。まもなく首相官邸ラプラスにおいて、地球連邦政府主催の改暦セレモニーが執り行われます)

 

 地球は足下にあった。赤茶けた陸地と、雲を散らした青空のように見える海。高度二百キロメートルから見下ろすそれは、惑星というより地表だった。

 

(私たちは母なる地球の外に自らの世界を築く時代に足を踏み入れました。

 今宵、私たちは歴史の目撃者となります。この幸運を全ての人と分かち合い、去りゆく西暦の時代を感謝と感慨を持って見送ろうではありませんか。

 そして新たなる世界、宇宙世紀の始まりを笑顔で迎えましょう。

 さよなら西暦。ようこそ宇宙世紀)

 

 空々しいアナウンサーの声が続いていた。

 仲間たちの誰かが口笛を鳴らし、揶揄する声と、監督役から叱責する声とが、密閉された宇宙服のヘルメットで行き場をなくし、サイアムの心に空しく響いて滞留するだ。

 

『地球と宇宙に住む全ての皆さん、こんにちは。

 私は地球連邦政府首相リカルド・マーセナスです。

 まもなく西暦が終わり、我々は宇宙世紀という未知の世界に踏み出そうとしています。この記念すべき瞬間に地球連邦政府初代首相として「オール・ピープル(みなさん)」に語りかけることができる幸運に、まずは感謝を捧げたいと思います』

 

 勝手に喜んでいろ、と誰かが言った。

 無駄口を叩くなとリーダー格が叱責する声が、それに続く。

 

 彼らは、反政府テロリストだった。

 少なくとも世間的には、そう定義されている。

 

 たとえ、その一人であるサイアム自身は、三日前に職業斡旋所でスカウトされ、略式の宣誓式と仕事で必要な訓練だけ受けさせられて、その場で引き合わされた仲間たちと共に爆破テロに従事しただけの即席テロリストでしかなかったとしても。

 おそらくは仲間たちの大半も、同じような事情で寄せ集められた、出来合の集団に過ぎなかったとしても。

 

 それでも彼らはテロリストだった。

 歴史上に消せない悪名を刻み込み、許されざる蛮行と長く悪名を奉られる事は間違いようのない、悪行を実行しようとしている大悪党の群れたちなのである。

 

 何しろ彼らは、発足間もない連邦宇宙軍の監視を掻い潜り、首相を初めとして地球連邦構成国の代表たちが一堂に会した首相官邸ラプラスを爆破し、見物に集まった大勢の民間人を巻き添えにして虐殺してしまおうというのだ。

 これをテロリストと呼ばずして、何と呼べばいいだろう? 

 

『今日、ここには地球連邦政府を構成する百ヵ国あまりの代表が集い、吟味に吟味を重ねた宇宙世紀憲章にサインをしました。

 間もなく発表されるそれは、後にラプラス憲章と呼ばれ、人と世界の新たな契約の箱として機能することになるでしょう。

 地球連邦政府の総意のもと、そこに神の名はありません。人類の原罪についても言及されていません。

 これから先、もし最後の審判が訪れるとしたら、それは我々自身の心が招き寄せた破局となるでしょう。すべては我々が決めることなのです』

 

 サイアム個人としては、地球連邦政府がまっとうな仕事と生活を保障してくれるのなら、間違いなく彼らの主張を受け入れるつもりだった。

 ただ仕事も住む場所も奪うだけで与えてくれなかったから、“組織”に入って首相官邸を爆破するという「仕事」に従事する以外に、病気がちな母親と病弱な妹を養う手段が他になかった。それだけがテロ行為に参加した理由の全てである。

 

 ――そう、仕事だ・・・・・・。

 口の中でサイアムは、そう呟いていた。仕事だから耐えられると。

 そうでなければ、誰が好きこのんで、こんな所まで来て、こんな作業などやるものかと。

 

 自分たちの人生を“ハズレ”だと認識し、金持ちたちエリートと自分は違うとコンプレックスに苛まれる彼らにとって、「家族を養う為やりたくもない仕事をして給料をもらうために働く」という現在の境遇を『トキョーグルッペ』『エコノミック・アニマル』と揶揄されていた東洋人と自分たちとを客観的視点で比べ見れる精神的余裕は持てていない。

 

 やがて合図が聞こえて作業が終了したことを知り、サイアムたちは母艦に戻っていく。

 

『今、我々の目の前には広大無辺な宇宙があります。

 あらゆる可能性を秘め、絶え間なく揺れ動く未来があります。どのような経緯で、その戸口に立ったにせよ、新しい世界に過去の宿業を持ち込むべきではありません。

 我々はスタート地点にいるのです。他人の書いた筋書きに惑わされることなく、内なる神の目でこれから始まる未来を見据えて下さい。

 現在、グリニッジ標準時23時59分。間もなくです。

 この放送をお聞きの皆さん、もしその余裕があるなら私と一緒に黙祷してください。去りゆく西暦、誰もがその一部である人類の歴史に思いを馳せ、そして祈りを捧げてください。

 我々の中に眠る、可能性という名の神を信じて―――』

 

 そして画面の中でカウントダウンが始まる。

 5、4、3、2、1・・・・・・0。零時零分。宇宙世紀0001。

 西暦が終わり、宇宙世紀元年1月1日が始まりを迎える。

 

 そして、それと同時に―――始まりを告げたマーセナス首相と、首相官邸《ラプラス》と、そこに集まっていた大勢の人間たち全ての生命の灯火が終わりを迎える。

 

『―――なっ!? あ―――』

 

 そんな声が、画面に映る向こう側から聞こえたような気がした。

 誰のものかは分からない。首相のものだったかも知れないし、別の誰かだったのかも知れない。或いは全員が同じ叫びを発した、断末魔の絶叫だった可能性も否定しきれない。

 

 円環を成していた首相官邸ラプラスは無様にひしゃげ、内側から破裂して、コロニーに空いた穴から大量の建造物や外板、ガラス片―――そして人間が生きたまま、恐怖の表情を浮かべながら真空中の宇宙に大勢吸い出されていく様が画面の中で生きているカメラ映像と彼らの前で映し出されている。

 

「ムッシュ・アラーッ!! やはり正義は、この世にあった!!!」

 

 歓声が上がった。

 無論、全員ではない。半数のものはなにも言わず、何も言えず、しわぶき一つ立てずに肩を寄せ合い、自分たちが行った成果として失われた大勢の死に見入っているだけだ。

 

 仕事仲間の中に混じっていた、真性のオカルトだけが喜色満面で騒いでいるのである。

 その声を聞かされたサイアムは、反射的に不快なものを感じて何かを言おうとして口を開き―――そして母艦であった作業艇は爆発して、彼の宇宙服は真空中へと弾き出される。真性のオカルトがどうなったかは分からない。

 

 なにが起きたのか分からなかった。首相官邸の警備艦隊が追いついてきたのか?

 いや、今のは内部からの爆発だった。裏切り、口封じ、爆弾での後始末・・・・・・。

 様々な言葉が視界と一緒にグルグルと廻る中、偶然にも破片となったラプラスの残骸を遠くに遠望する中で、サイアムは何故か先刻の首相のスピーチを思い出していた。

 

 新しい世界に、過去の宿業を持ち込んではならない、と。

 他人の書いた筋書きに惑わされるな、と。 

 

 全ては我々が決めることだ、と首相は言った。

 その我々とは、サイアムたちのことではなかったか?

 自分たち“ハズレ”の人間にこそ、あの首相は何か大事なことを伝えようとしていたのではなかったか―――そんなこと自分たちが破壊したラプラスの残骸を遠目に見ながらサイアムは考えていたのである。

 

 少なくとも本人は、そんなことを考えていたと、自分自身では思っていたし、信じてもいた。

 ――果たして、本当にそうだったのだろうか?

 

 既に爆破に成功して、殺し終わった相手に対して、口封じのため仲間に裏切られた後の立場で抱いた感慨に、客観性など期待できるものなのだろうか? 

 連邦の政策に恨みを抱かず、怒りもせず、ただ家族を養うために金が必要だっただけだと、自分では思っていた本心に、恨みの念を晴らしたことで清々した想いが宿り始めただけではなかっただろうか?

 あるいは母艦を爆発で失って、残り酸素だけで生存していく中、酸素欠乏症にかかって頭をヤラレタだけではないと、証明できた者はいたのであろうか?

 

 

 全ては可能性だ。可能性に過ぎないタラレバ話だ。

 これはそんな、宇宙世紀の歴史の中で付け足された“あったかもしれないし、なかったかも知れない”可能性上の幕間劇が“本当はこうだったかも知れない”という可能性を示しただけの、悪い方向にしか進むことができなかった、可能性の悪い部分が現実になってしまった。そういう物語である。

 

 

 

 やがて―――老人は眼を覚ます。

 出目が悪かった場合の、自分の計画が歩むことになったかも知れない“もう一つの可能性の物語”を始めるために・・・・・・揺り籠の中で、夢の中から覚醒する――――

 

 

 

 

 

 

『ミノフスキー粒子、戦闘濃度で散布いそげ!』

『敵艦は1。クラップ級と推定』

『ただのパトロールじゃない。当たりをつけて、この宙域を張ってた連中だ。モビルスーツが出てくるぞ、気を抜くな!!』

 

 アラートが鳴り響き、その耳障りな音色が肌を粟立たせるのを感じながら、少女は頭が冴えていくのを感じて舷窓に顔を寄せていた。

 ピンク色の光軸が窓の外を走ったのが見えた。メガ粒子の光だ。大出力の粒子ビーム兵器がもたらす光である。

 この船を追跡している地球連邦軍の戦艦が撃ってきたものだろう。停戦命令を無視して、ミノフスキー粒子をばらまきながら逃走を開始した以上、次は威嚇射撃では済まさず撃沈を狙ってくるはずだ。

 

 一瞬、彼らの自分の存在を伝えるべきか?という考えが頭に浮かぶ。

 そうなれば、ほぼ確実に予定を変更して船を港まで戻されてしまうかも知れないが、誰にも気付かれぬまま死んでしまっては元も子もない。それこそ犬死にというものだ。

 

「・・・いえ、ダメね」

 

 少女は一瞬の迷いを断ち切ると、持参してきたノーマルスーツだけ素早く身につけ、後は運に身を委ねる道を選択する。

 行くべきところに行き、会うべき人に会うため自分はここまで来たのだ。

 これが唯一のチャンスなのだ。より多くの人が犬死にするのを避けるためには、こうするしか他に道はない。

 

 それに・・・と、彼女は思う。

 人間、死ぬ時には死ぬものだ―――と。

 

『暗礁宙域に入る前に追いつかれるな・・・・・・マリーダを出せ。

 場合によっては、ハエを追っ払うだけでは済まないかもしれん』

 

 船内回線を介してオープンになった無線交話が耳に飛び込んでくる声の中に、この船の船長であるスベロア・ジンネマンのダミ声が聞こえた少女は、その攻撃的な方針に僅かに眉をひそめさせる。

 

 ジンネマンの野太い声で、自分とさして歳の変わらぬ無口が身上の女性パイロットの名が呼び出されるのが聞こえ、少女はもう一度だけ窓に顔を寄せて、一機の大型MSが鱗粉のような光を射出しながら銀色の帯を漆黒の海へ描いていく姿を視界の片隅に捉えた後。

 シャッターが下りて、全ての舷窓が閉ざされ。

 少女が密航するため乗り込んだ船―――特殊武装貨物船《ガランシェール》が戦闘態勢に入ったことを少女に告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 《航宙貨物船ガランシェール》は、全長二百メートルの船体はほぼ三角錐の形状をしている先端に張り出した航空機のようなブリッジを持つ、大気圏内でも飛行可能な宇宙と地球とを行き来できる旧式の船だ。

 かつては、どこかの運輸会社が使用していたもので、現在もブリッジの側面には『リバコーナ貨物』という会社名とロゴが記されており、船舶としても民間運輸会社の所属として登録されている。

 会社の所在地に電話をして問い合わせれば、受付が「現在ジンネマンは業務に出ております」と丁寧に回答し、要件を訪ねてさえくれるだろう。

 

 だが、それらは表向きのダミーに過ぎず、彼らが本当に所属する組織は別にある。

 今の時代、電話応対だけで給料がもらえるのなら雇い主の素性を調べ上げて、職を失うリスクを負いたくない若者など掃いて捨てるほど有り余っている。

 

「敵艦、高熱源体の射出を確認。数は二」

「モビルスーツです、《ゲタ》を履いている模様」

「《クシャトリヤ》発進準備よし」

 

 貨物船のクルーという肩書きとは裏腹に、誰もが実戦経験を持つブリッジ要員の声は冷静だった。

 

 元々この手の旧式大型航宙貨物船のほとんどは、一年戦争末期にジオン公国軍が地球連邦との本土決戦のため宇宙へと戦力を引き上げさせる際に徴発されるか、買収されるかして《HLV》の数不足を補填するため使われてしまい、地上に残された物も、大型で金ばかりが掛かる《ガウ攻撃空母》を持たないジオン残党に運用されるケースが多く、サイズと性能の割に数多の戦乱の中で各軍が使用していたことは一度もなかった。

 所謂、曰く付きの船ばかりなのが実情なのだ。

 

 このガランシェールもその例に漏れず、せり出した後部ハッチからはスライド式の貨物用ハンガーが音もなく展張されており、本来であれば貨物が搭載されるべき荷揚げ要のリフトだったその場所には、今し方まで人型と思しき巨大なマシーンが係留されており、嘴状の装甲と桂冠とも角とも取れる長い突起を天に伸ばしながらモノアイを光らせて連邦軍モビルスーツ隊を撃退するため急速発進させた、反政府活動を行う武装勢力の母艦として機能していることは明らかだった。

 

 もっとも、表向きだけとはいえ貨物船のクルーとして偽装するのを当たり前としている部隊のため、半テロ集団と化しているとは言え仮にも軍隊の体を取っている組織風の堅さは薄く、他の部隊からは異端視される気配があり便利屋扱いされている趣が強い。

 

 だからこそ今回のような任務には適任とされた訳だが、なればこそ自分たちより先に張り込んでいたとしか思えない連邦軍の待ち伏せに対して単なる迎撃指示だけには留まらない、次のことを考えた対応を考えなければならないのがジンネマンの立場だった。

 

「《ジェガン》にしては脚の速いのがいます。特務仕様かもしれません」

 

 明らかに向こうは、こちらの正体と目的を知っていた。

 これを、どう取るべきだろうか?

 どこから情報が漏れたのかを推測していた彼の耳に部下からの続報が届き、決断と判断を船長は下す切っ掛けとなる。

 

「接近中の敵モビルスーツ部隊は適当に損傷を負わせて、経戦能力を奪うだけでいい。目標は敵母艦だ。

 帰る家を奪われて宇宙の迷子になる恐怖を味あわせれば、こちらを追う気など消え失せるっ」

『了解、マスター』

「追っ手を振り切って逃げるだけじゃねぇんですかキャプテン!?」

 

 指示を聞かされた航宙士のギルボア・サントが驚いたように声を上げる。

 別段、連邦の奴らに情けをかけろなどと言う男ではなく、また情けをかけてやる気になれない“事情”も持っている男な為、これは単なる博愛主義に基づく反問ではない。

 

 ただ自分たちには最優先すべき重要な特別任務に向かっている途上であり、ガランシェールは偽装とはいえ貨物船のため装甲が厚くはなく、艦砲もない。

 接近中のモビルスーツ部隊でも、損傷を負わせるだけなら十分に可能程度の防御能力しか持っていない船なのである。任務の内容上、貨物スペースは無事に空けたまま目的地に到着しなければならず、その為には余計な危険を背負い込まない方がいいのではないか? ――そういう意味を込めての確認の言葉だった。

 

「それは俺も考えた。だが、敵の戦力を聞いて状況が分かった以上、あの艦を生かして帰す訳にはいかん。

 確実に殺すんだマリーダ、出なければ俺たちの方がヤバい羽目になりかねん」

 

 強い口調で断言してからジンネマンは、不意に不快そうな渋面になった。

 部下の反問に苛立ったから、と言う訳ではない。

 今の自分が下した判断と思考が、比較的最近付き合いが深く“ならざるを得なくなった連中”との非友好的な交流が良くも悪くも自分に影響を及ぼしていることを実感せずにいられなかったからである。

 

「いつもはズボラなやっつけ仕事しかしない連邦艦が、珍しく熱心なパトロールをして、特務仕様のモビルスーツまで出してくる。

 挙げ句、《クラップ》級とくれば出張ってきてるのは“あの”ロンド・ベル隊だ。どう考えても単なる摘発強化じゃない、戦力が過剰すぎているからな。だが――」

 

 そこでジンネマンは一度言葉を切って、更に渋面を深くする。

 確かに今言ったとおり、規定の航路を航行中の貨物船を呼び止めて臨検にかけようとするマメさは尋常ではなく、連邦軍が予めこちらの目的と正体を知った上で張っていたとしか思えない。

 これから赴く先の交渉相手に実は騙されていて、売り飛ばされようとしている可能性だってあるだろう。

 ――だが、しかし。

 

 

「そうだった場合には逆に、あまりにも戦力がお粗末すぎる。

 無法者の『袖付き』が、表にゃ出てこない大財閥の総本山に向かっていて、なにかの密談をしようって情報を得ているなら、もう少しマシな戦力を投入してくるのが妥当な対応だ。

 あまりにも舐め腐った戦力の出し惜しみで逐次投入するのは愚策でしかない。ロンド・ベルのブライト・ノアが、そんな馬鹿をやる男だとは到底思えん。

 恐らく敵は俺たちのことを、全部知ってるって訳じゃないんだろう」

 

 下位に位置する航宙席から立ち上がっていたギルボアの瞳に、説明を受けて理解の色が急速に広がっていく光景をジンネマンは見下ろしていた。

 確かに連邦軍の対応は、普段と比べて数段上の警戒レベルまで引き上げられており、投じられた部隊も連邦軍内部では数少ない実戦経験豊富な精鋭部隊ロンド・ベルのモビルスーツ隊だ。たかが治安維持活動に出すには度が過ぎている過剰対応としか言い様がない。

 

 だが、それはあくまで『平時と比較すれば』の話であって、神出鬼没振りを正規軍である連邦軍からは毛嫌いされているジオン残党《袖付き》の浮沈が掛かっている大取引になるかもしれないという情報を得ていると想定して考えた場合には基準が変わる。

 せいぜいが、『いつもより少し警戒するか』という程度の極めて雑で適当なものだ。真面目にやる気など少しも感じられない。

 むしろ、情報が確かだったと確認した後にはロンド・ベル部隊総員を特攻させてでも相打ちで道連れにさせ、後顧の憂いを払うくらいが妥当だと思えるほどに。

 

「恐らく敵は、こちらの情報は正確に得ているが、情報の出所が曖昧で信じ切れていないが、無視するには大事過ぎるか上からの圧力でも掛かって、とりあえず確認のためにってところだろう。

 だとすれば本命が来るとしたら、次の第二波からになる。その時に戦力は少ない方がいい、全力で潰せ!!」

『了解!!』

 

 小気味よい声で部下たちが応じて、指示と応答のためマイクと怒鳴り合いを始める姿を見下ろしながら、ジンネマンは再び渋面を深くして、不快そうに呟きを吐き捨てる。

 

「・・・・・・まったく! フロンタルと連んでから、碌でもない奴ばかりと出会うようになってしまった。これも業と言うことなのか、それとも・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、ガランシェールから発した《クシャトリヤ》は、自機へ向かって真っ直ぐ接近してくる敵モビルスーツ隊に向かって、相手以上の速度で急速に機体を接近させつつあった。

 

 全長20メートルに達する巨大な人型のマシーンで、その巨体に匹敵する大きさのバインダーを四枚、肩口から生やしたような濃緑色のモビルスーツ。

 巨人と呼ぶには異形でありすぎ、他の形容をするには人型の生々しさを持ちすぎていた。

 

 この時代、主力兵器の地位を欲しいままにしている人型兵器モビルスーツの中にあって、なおも異形と呼ぶに相応しい形状を持つ機体のコクピット内で操縦席に座るマリーダ・クルスは、全天周モニターの中に映し出された光景にキツメの瞳を細めさせていた。

 

 敵部隊の全機が、《ゲタ》という俗称で呼ばれているサブ・フライト・ユニットを捨てて、三つに分かれて自分を取り囲むように接近する動きを示したのである。

 

「・・・経験が浅い。まるで素人同然だな、ザコという事か」

 

 冷静な頭で敵の動きを分析し、マリーダはそう結論づけた。

 《ゲタ》に乗って敵に接近する際、乗り捨てると同時にブースターを拭かして突撃させ、その後ろから接近してバリアーとして再利用するのが、マニュアルには載っていないパイロットたちが独自に編み出した空間戦闘での有効な基本戦術だった。

 これは先の《第二次ネオジオン紛争》において、ネオ・ジオン軍のパイロットたちが独自に編み出した工夫であり、戦争終盤ではロンド・ベル隊にも採用して使いこなす者が多く現れていた戦術だったのだが、先の戦いで負わされた被害は敵側であるロンド・ベルも少なくはなかったらしい。

 

「こんな士官学校出の実戦経験の乏しいパイロットに、特務仕様の機体を与えて隊長機扱いとは・・・・・・連邦も決して人材豊富という訳ではないと言うことか」

 

 敵の動きから恐れるまでもないと判断したマリーダは、機体を更に加速させ、半包囲体勢を取るため三方に別れながらも、陣形が完成するより先に射程圏内まで到達されてしまった敵機を前に方針を転換。

 ビームライフルを片手に持って、それぞれの位置から各の速度で以て接近しながらビーム射撃の雨を降らせてくる。

 

 その動きは実戦慣れしているものではなかったものの、よく訓練された練度の高いもので、精鋭部隊ロンド・ベルの名は伊達でないことを示しており、普段であればマリーダでさえそれなりの時間と手間暇をかけなければ落とせない強敵となり得たかもしれない相手だった。

 

 マリーダの愛機《クシャトリヤ》は、ファンネルと呼ばれる特殊な移動砲台が搭載されており、複雑な機構を持った小型ミサイルの如く使用できるそれは整備が難しく、一度でも損傷するとガランシェールでは直しようがなくなってしまうため、普段は被害を少なくすることを第一に考えるよう戦うのが、補給の乏しい反政府勢力なりの基本戦闘姿勢となっていたのである。

 

 だが今は、ジンネマンから『全力戦闘』の命令が出されている。

 なんの遠慮も配慮も必要なく、命令されたとおりの敵部隊を壊せば、それでいいだけの事―――。

 

 

「こういう時に数を減らさなければ、次はマスターが撃たれる番になるかもしれない。

 悪く思うな。落ちろ、カトンボ」

 

 

 そう言って、呟くように小さく「ファンネル」と言った彼女の呼びかけに応え、バインダーの中から1枚ずつ二機の小型移動砲台が計四機射出され、自分を取り囲もうとしていた三機のジェガンの内二機へと突進し、通常型でしかない機体の手足の一部とバーニアに損傷を与え戦闘能力を激減させることに成功する。

 

 唯一残った特務仕様の隊長機は、無反動砲から発射した散弾を目眩ましに使い、バーニアを拭かして両肩にラックされたミサイルを放つため上方へと移動したが、それを全速力で追尾してきたクシャトリヤの速度によって接近戦の距離まで近づかれるのを許してしまう。

 

 それでもビームサーベルを抜いて、完全に相手の初撃を防ぎきったことまでは見事と言うべき仕事ぶりであったが・・・・・・彼の勇戦もここまでだったのも事実ではあった。

 

「――迂闊だな、連邦軍のパイロット」

『な、なんだとっ!?』

 

 装甲越しにお肌の触れあい回線で聞こえてきた、敵パイロットが驚愕する声と同時にマリーダは、鍔迫り合いで動きを止めた相手の四肢を撃ち抜かせたファンネルを回収すると、バインダーの中に収納して本命を目指して再び飛翔する。

 

 そう、彼女に与えられた命令は、あくまで敵母艦の撃沈。

 たとえ、どれほど訓練が行き届いた強敵だろうと、マスターからの命令と比べれば、目的達成を阻害しに来ただけの邪魔者でしかない。

 

 そんな純粋すぎるサイコ・マシーンの乗り手、マリーダ・クルスに接近されつつあった連邦艦《クラップ級》の艦橋では、年かさの艦長が部下からの報告に驚愕の悲鳴を上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

「は、半全滅だと!? 3機のジェガン部隊の内、2機が戦闘継続困難に陥らされたのか? 出撃から3分も経たずに!?」

「はいっ、現在は《スターク・ジェガン》が接近戦を開始した模様ですッ」

「ろ、碌な補給も受けられない残党軍の貨物船に、ジェガンが3機も・・・・・・? ば、化け物なのか・・・・・・?」

 

 目を白黒させながら、意外すぎる状況の激変振りに顔を強ばらせていた艦長の下へ、止めとも言うべき悲報が届けられたのは、まさにその瞬間のことだった。

 

「艦長! た、たった今スターク・ジェガンが行動不能に陥らされました! 救援を求めています!!」

「なんだと!?」

 

 ―――馬鹿な!ありえない!!と艦長は思った。

 いくら何でも早すぎる事態の展開速度だった。最初の二機は射撃戦の結果として戦闘不能にされたため、時間的には不可能とまでは言えないが、最後の一機はビームサーベルによる斬り合いで一瞬にして行動不能にされてしまっている。

 これは通常、モビルスーツ戦闘ではあり得ないことだ。

 一瞬で勝敗が決したなら、機体は超高熱の刃で両断され、爆発四散するのが普通であり、行動不能な状態で救助を求めるような、コクピットが無事なまま四肢だけ壊されて自分では動けなくなるなどという自体に、モビルスーツ同士によるビームサーベルでの斬り合いでは成りづらいものなのだ。

 

 仮になるとしても、それなりの時間は必須なはずで、それさえも超越するとなれば、もはや人の技ではない。完全に化け物の領域に達したナニカだけが、それを成すことを可能にするだろう。

 

 だが、それ程の存在が敵である《袖付き》にいるとしたら一人しかあり得ない。

 そして、潜入させている味方のスパイからの報告によれば、その人物は本拠地から動いたことは確認できていないという。

 だとすると、残る可能性としてあり得るのは一つだけ・・・・・・。

 

 

「さ、サイコミュ兵器だ・・・・・・サイコマシーンが投入されてきたんだッ!!

 か、勝てる訳がない! あんな化け物相手に我々のような通常の部隊で勝てるものか!

 に、逃げろ―――――ッッ!?」

 

 

 その臆病とも取れる艦長の命令に、クルー達は眉をしかめながらも一応は指示に従った。

 それが結果として彼らの命を最も多く救うことになる英断だとは思いもよらず、命令が徹底しないままの撤退命令ながらも脱出艇が逃げ延びれる程度の距離までは何とか稼ぐことができたからだった。

 

 《シャアの反乱》の以降に配属されてきた若者たちにとって 核ミサイルの群れを1機だけで全機撃墜したネオ・ジオンの《ヤクト・ドーガ》や、コンペイトウと名を変えた元ジオンの宇宙要塞ソロモン海域の周辺で多数の艦船を轟沈させた《トンガリ帽子》といった存在は既に過去のものとなり、敗戦国の記憶と共に忘れられつつある『所詮は諦め悪いジオン残党の兵器』というイメージだけでしか想像することができない時代に今日ではなってしまっている。

 

 

『――マリーダ、戻れ。それ以上深追いすると合流できなくなる』

「了解、マスター。帰投する」

 

 

 そう告げて、ジオン最後の残党軍《袖付き》のパイロット、マリーダ・クルスは暗礁宙域近くまで逃げ延びていたガランシェールと合流すべく機体を走らせた。

 途中で、母艦を破壊され、脱出艇にも置いて行かれたことで帰る家を失ってしまった連邦軍のパイロットたちが、恐怖と混乱の中で助けを求めて泣き叫んでいる姿が見えたが、マリーダは歯牙にもかけずに機体を進ませていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・双方の姿が暗礁宙域からいなくなり、連邦のモビルスーツも何処かえと流されていった後。

 

 一隻の小型貨物船が、民間会社のロゴマークと社名とを記したままの姿でガランシェールと同じ目的地に向かって航行する姿を、どちらかの軍が残っていた時には見ることが出来たかもしれない。

 

 その船はガランシェールと違って、正規に注文された品を納品しに行く途中の民間貨物船で、法律的にも乗っている積み荷も完全に合法な存在で、法律違反やテロリズムに該当するような代物は一つも搭載していなかった。

 搭乗員のパスポート、入港許可証、登録ID、全て正規のものだけで揃っている。偽造されたものは一つもないく、無論モビルスーツを隠し持っている偽装ハンガーだって存在していない。

 完全に、ただの民間輸送会社が保有する貨物船そのものな存在だった。

 

 

 ・・・・・・ただし、もしこの船に違法な点があるとしたら一点だけ。

 

 ブリッジの操縦席に座る男性コ・パイロットの背中から、一本のナイフが柄を逆さまになった状態で刺し込まれ続け、抉るように念入りに息の根を止めようと背後から覆い被さった同じ制服を着た男に笑いながら刺殺されているということ。

 その男の死体と同様になった物が、適当な場所に放置されて、彼らの着ている物と同じ服を着た男たちが我が物顔で新たな搭乗員として、正規の法的審査に必要な確認書類の全てを乗っ取ってしまった後だった・・・・・・という一点だけだろう。

 

 乗っている船舶そのものに違法な点は一つもなく、乗っている人間たちだけが犯罪者たちの集まりしか乗っていなくなっていた。

 それだけがこの貨物船、《アガーベルテ》が背負った罪であり、背負わされた罪でもあったのだ。

 

 

「ニアー・ライド大尉、どうやらガランシェールの連中は予定通り《インダストリアル7》に向かう航海を続けるようです」

「そう。じゃあコチラも予定通り後に付いていって目的地に着いてから別行動といきましょう。それまで道案内は水先案内人共に任せるとしましょ」

 

 先に死んでいたメインパイロットの死体に変わって、操縦席に腰掛けていた男が背後に立ったままの上官に話しかけ、興味なさそうな声での回答をもらって操縦レバーを握りしめる。

 そのレバーには、今し方自分自身が殺した相手の赤い血が付着したままになっていたが、彼は特に気にすることなくコンピュータを操作して、目的地に関する情報を盗み出すのに忙しいようだった。

 

「しっかし、ホントに大丈夫なんですかね? ロンド・ベル艦の待ち伏せなんてのは、当初の垂れ込みにはなかったはずです。

 ビスト財団会長サマ直々の招きで事前の書類審査やらなんやらを全部あっち持ちで反政府テロリストを、自分とこのコロニーに入港させちまう抜け作過ぎるバカですよ? 今度の取引き先は間違いなくね。

 そんなアホの安全管理を当てにして、モビルスーツなしで赴いちまってホントに大丈夫なんでしょうか?」

「ノーテンキな連中って事なんでしょ、きっと」

 

 彼の上官である、同じ作業服を纏った人物は男であったが、言葉遣いはいつも女性的な人物だった。言葉だけでなく物腰までもがそうなのである。

 元々はそうでは無かったらしいのだが、いつ頃からか従兄がやってたという仕草を真似するようになり、今では本人ソックリだという者もいるが本人を知らない彼や上司にとってはどうでも良いことであり、仮に知っていたとしてもどうでも良いことには変わりなかっただろう。

 

 彼らにとって『自分以外の他人』とは、そういう存在だった。

 心底から、どうでもよい存在としか思っていない集団なのである。

 それは同じ部隊内の仲間同士であってさえ例外はない。互いに互いを見下し合って、能力のみを評価して、『自分が生きるために、勝つために必要だから“使っている”』

 

 それ以上の意味など、どこにもなかったし必要もなかった。

 そして彼らにとって、自分たちのような状況の組織は、非常に好ましいものだと感じてもいる。

 互いに互いを全く信用できないと、最初から分かりきっている人間同士の関係ならば、一切の信頼も信用も幻想も、相手との関係構築にまったく必要のないゴミとして扱って構わない代物にして問題なくなるのだから―――

 

 

「いーのよ別に。そうなった時のために、私たちは派遣されて来てるのだからね。

 連邦の連中も、ビスト財団の爺と部下たちも、そしてガランシェール隊のお人好しバカ共も。いざって時には全部敵になる前提で行動しなさい。味方と思って油断して死ぬのは私は真っ平ゴメンなのよ」

 

 

 そう言って、ガランシェール隊には伝えられることなく、取引相手のビスト財団にも一切の通知なく、袖付きの首魁であるフル・フロンタル直属の特殊部隊はインダストリアル7へ続く航路を、民間貨物船として民間貨物船のまま当初の予定されていたとおりに真っ直ぐ進ませ続けていた。

 

 それはジオンの―――否、ザビ家の亡霊を復活させた袖付きだけの局地戦戦技研究特別小隊《マッチモニード》が、民間コロニーの内部へと侵入するための措置。

 

 十分に警戒しながらであっても、とりあえずは相手を信じて相手のは梨野ってやったジンネマンとは違い、袖付きの総帥は最初からビスト財団からの申し出など、一切全くコレッポッチモ信用してなどいなかった。

 その生きた証拠こそが彼らという、人でなし集団の存在だったのだ。

 

 

「ですが、大尉。もしビスト財団が先に裏切って、連邦軍がなだれ込んできて戦闘状態になっちまった時にはどうされるので?」

「あら、そんなの決まっているじゃないの」

 

 

 取引の対象だという、連邦政府を根底から揺るがし、地球圏に変革をもたらせるだけの宝。

 玉手箱になりえる《ラプラスの箱》とやらを、袖付き勝利という大目標達成のため、命がけでも奪取して逃げ延びるか否か? そういう意味で聞いた部下の質問に対して、大尉の返答は部下たちを納得させ破顔させるに十分すぎるものを持っていた。

 

 

 

「危なくなったら、逃げるだけよ。その為なら、こんなボロっちいコロニーなんて幾らブッ壊したって構いやしないわ。私たちさえ逃げ延びられれば、それでいいのよ」

 

 

 

 

つづく

 

 

 

オマケ『今作版のオリジナル悪意設定』

 

【マリーダ・クルス】

 原作ではプル・シリーズの生き残りがマスターシステムによって、マスター不在となった状況下で依存する対象を求めさせ、更には男たちに肉便器として使われることさえ受け入れたという設定になっていたキャラクター。

 今作では前者の設定はそのままに、後者の設定は変更されている。

 何故なら強化人間に、そんな設定があったキャラクターが他にいなかったから。

 強いて言えば、『刻に抗いし者』『エゥーゴの蒼翼』に登場していた【ロスヴァイセ】こと【ユズ】が近いが、彼女の場合は担当スタッフで父親でもあったイシロギ博士によって、マスター処置が施されていなかったことが語られているため、比較対象としては使えない。

 

 おそらくは、戦争被害者の悲惨を演出するためと、袖付きのロクデナシさを分かり易く表現するために採用された設定だったと推測される。

 今作の場合は『ウィキッド(悪意)』の名に相応しく、【プルツー】が攻撃的だった時の性格設定が多く用いられる予定になっている。

 とは言え本質的には原作通りの女性であり、プルツーも悪人では決してなかったため、原作の流れを踏襲して裏切ることには変わりはないのだが・・・・・・。

 

 ・・・・・・とは言え、ジオン残党の強化人間が彼女一人だけかどうかは、今作版だと今のところ不明でもある・・・・・・。

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