ガンダム二次作   作:ひきがやもとまち

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待ってて下さった方がいるかは分かりませんが…『クロスボーンW』更新です。
久々過ぎて原作をけっこう忘れてしまい、覚えてる範囲で書く羽目になったせいで範囲が狭くなりました…次話までには周辺の話だけでも見直してから書けるようにしておきますね(謝罪)


ガンダムW戦記~クロスボーン・バンガードの旗のもとに~7章

 昼間には灼熱の太陽が照りつける、中央アフリカのサバンナ地帯。

 夜になれば気温は一転して、旅慣れない者なら凍死してもおかしくないほどに冷え込む地。

 

 その場所に今。・・・・・・一人の少年が佇んでいた。

 

 気高い崖の岸に立ち、微動だにすることなく瞼を閉じて腕を組んだまま、塞いだ視界の先に空だけを映した姿勢で佇み続けている、黒い髪を首の後ろで結んだ東洋人の少年。

 

 張五飛。

 シェンロンガンダムのパイロットとして地球へ向け、五つの流星に偽装して発射された5機のガンダムたちの内1機を与えられていたモビルスーツパイロットにして、優れた武闘家でもある少年兵。

 

「・・・・・・」

 

 ・・・・・・だが今、『強さ』に高い価値を認めてきた彼の背中には、強者としての威厳も尊厳も誇りさえも感じられるものは無く。

 まるで雨の日に捨てられた子犬が、ただ飼い主が戻ってきてくれるのを待ち続けているかのような心細さと、これから始まる一人きりの日々の予感に震えている様にすら見えるほど。

 

 彼はひたすらに立ち続け、微動だにすることなく待ち続けていた。

 夜には氷点下近くにまで冷え込む場所に立ち続けながら、半袖シャツにチャイナ服のズボンだけという薄着で立ち尽くし、昼も夜も関係なく微動だにせぬまま。

“約束を果たすため自分を追ってくる男”の到着だけを、只ひたすらに待ち続けていたのである。

 

「・・・・・・・・・」

 

 昼が過ぎ、夜の帳が下りても彼は動かず。夜が終わり朝が来ても微動だにせず。

 そして再び昼が来て、夜が始まり夜が終わり、再び朝が始まりを迎える自然の営みの中。

 

 彼は待ち続けながら――同時に幾度も幾度も飽きることなく問いかけを続けていた。

 

 ――なぜ自分は、あの男を待ち続けているのか?――と。

 

 最初は自分を倒した彼を倒し、自分の強さを再確認するためだと考えていた。

 だが、待ち続ける中で問い続ける内、“彼を倒せば胸の内に生じた空洞は消えるのか?”という疑問が生じるようになり、その疑問に対する回答は「否」であった。

 

 ―――だとすれば何故? 俺はあの男に一体なにを求めているのだ――!?

 

 ウーフェイにはそれが分からず、あるいは分かっていながら確信が得られぬまま、その答えを求めてキンケドゥとの再会を待ち望んでいたのかもしれない。

 戦うにせよ、戦わぬにしろ、もう一度あの男に会うことが出来たなら、自分はまだ見ぬ何かの答えを見つけることが出来るかもしれない――と。そう感じて、只ひたすらにキンケドゥの到着だけを同じ場所で待ち続けていた彼だったが・・・・・・遂に終わりの時が訪れたことを彼は悟る。

 

「やはり・・・・・・やはり、お前は死んだという事なのか・・・?

 俺に屈辱を与えながら、あの男に敗北して・・・・・・ッ」

 

 なにかの感情を必死に押さえる声音でウーフェイは呟き、ここ数日待ち続けた人物が、自分の下へ会いに来てくれることは二度とないのだという現実と、ようやく向かい合う日が訪れようとしていた。

 

 ――未帰還。

 

 それがキンケドゥ・ナウに与えられた、ウーフェイにとって彼の終わりを示す全てである。

 宇宙空間でのMS戦や艦隊戦が当たり前となった時代においては、よく在ることだった。戦死したか否かが判然とせぬまま、ただ救助作業が打ち切られ、行方不明が事実上の戦死として扱われ、帰りを待つ者たちには、ただ待ち人は帰ってこないまま日々が過ぎていく時間だけが与えられ続ける・・・・・・そういう形での宇宙戦争時代における「敗死」の在り方。

 

 地球連合によるコロニー支配への反発が、自分たちガンダムによる破壊活動という形で初めて行われたACの地球圏と異なり、幾度もの反発と武力衝突を重ね続けた歴史を持つUCのモビルスーツ乗りたちで在るならば、受け入れるしかない現実と割り切れたかもしれない、軍人にとっての日常の一つ。

 

 ――だが、ウーフェイには受け入れられなかった。

 この様な決着の仕方など、彼には決して受け入れていいものではなかったのだから――。

 

「こんな・・・・・・っ、こんな戦いの終わり方など、オレは認めんっ! 絶対に認められるものかぁッ!!」

 

 大空に向けて喝破し、世の不条理と理不尽さを天に向かって訴えかけるウーフェイ。

 彼にとって「勝敗」や「強弱」というものは、今まで常に結果がハッキリと目に見えて、身体で実感できる形でのみ与えられるべきものだった。

 

 敗者は骸をさらし、勝者は生き、死して後に屍を拾う者はなく。

 敗北もまた、明確な勝者の存在によって与えられる弱者である証明でしかなく。倒された敗者の前で立ち続けている者こそが勝者だった。

 そんな風に、勝ち負けと白黒がハッキリ付くのがウーフェイにとっての「戦い」というものだったのである。

 

 ・・・・・・だが、そんな彼だからこそ、こんな負け方は知らなかった。

 ただ、待てど暮らせど永遠に帰ってこないだけの敗北など、彼は知らない。

 自分を追ってこないことが、戦い敗れて戦死したことの証などという勝敗の付き方を彼は知らない。

 

「この俺を助けておきながら・・・・・・ッ、この俺に“逃げろ”を貸しを作っておきながら・・・・・・ッ、貴様は死んだというのか? 俺に雪辱戦の機会すら与えることなく、あの男に殺されて・・・・・・。

 く、くく、クソ―――――――ッッ!!!!!!」

 

 叫び、ただ叫び、この数日間ジっと待ち続けるだけで一言も口にすることなく、ただ内側に溜め続けてきた様々な感情を吐き出すため、ただ叫んで叫んで叫び続け!!

 

 ・・・・・・やがて、ウーフェイは歩き出す。歩き出さざるを得なくなる。

 どれほど待っても、もうキンケドゥと再会できることはなくなった今。生き残ってしまった彼には、何かしなければいけない人生だけが与えられていからだ。

 

 まるで親に置き去りにされた子犬のように、弱々しい足取りで歩みを進めていたウーフェイの周囲に、気がつくと数頭のハイエナたちが取り囲んで唸り声を上げて威嚇している姿が視界に映る。

 

 凶暴な見た目と、勇ましい鳴き声を張り上げながらも、弱った者を集団でしか襲わないハイエナたちの群れ。

 

「弱い者が・・・・・・うろうろするな―――ッ!!!」

 

 その存在を認識した瞬間、ウーフェイは思わず「カッ」となって一喝し、ハイエナたちを追い払わせる。

 その怒声は一見、迫力と威圧感に満ち満ちた普段の彼らしい力強い雄叫び。そのはずだったが・・・・・・。

 実際には、ただ無闇矢鱈と力を込めて、ただ脅しのために大声を張り上げて威嚇しただけの暴漢と大差ない、弱さを誤魔化す弱者の虚仮威しと同じものでしかない、大音量で放たれただけの叫び声に過ぎない代物だった。

 

「・・・俺も奴らと同じでしかなかったという事なのか・・・?

 ただ自分より弱い者とだけ戦って倒し、己は強いと自惚れていただけの、真の強者を知らぬだけの弱者に過ぎないのが答えだったのか・・・・・・?」 

 

 震える手をウーフェイは、震える瞳で見下ろしていた。

 分からなかった。何が正しくて、何が間違いで、何が強くて弱いのか。自分が信じていた強さが自己満足のまやかしだったのか否かさえ、「答え」を出してくれる者が永遠に去っていってしまった後のウーフェイには、何一つ確かな事が分からなくなってしまっていた。

 

 ・・・あるいは、キンケドゥが敗北する場をウーフェイが目撃することが出来ていたなら、こうはならなかったかもしれない。

 自分を助けた相手を殺した男に復讐心を抱き、今の自分には勝てぬ相手と撤退したとしても、ウーフェイはひたすら強くなる道を進みながらザビーネとの決着とキンケドゥの仇を討つため邁進する事が出来ていたのかもしれない。

 

 だが現実には、そうはならなかった。

 ウーフェイは、キンケドゥが敗れ去る決定的な瞬間を目撃しておらず、クロスボーンガンダムのコクピットは血痕すら残さず焼き尽くされて、パイロットが戦死したのか脱出したのか、今から戦場跡に戻ったとしても判別することは不可能な現状。

 

 なにもかもが中途半端だった。

 ウーフェイには、自分が抱かされたこの感情がなんなのかさえ分からぬまま、決着も勝敗もキンケドゥへの想いでさえも、宙ぶらりんな状態で放置されたまま―――二度と再開する機会を奪われてしまい取り戻せない。

 

「――違うっ! あの男と俺との決着はまだ付いていない・・・ッ、俺は今も奴と戦える! そのはずだ! 戦えるはずなんだッ!!」

 

 自分自身に言い聞かせるように、ウーフェイは叫んで自己の価値観とキンケドゥに抱いた感情との妥協点を模索するため整合性を取り続ける。

 

 ・・・・・・実のところウーフェイがキンケドゥに望んでいたのは、彼に「勝つこと」でも「倒すこと」でもなく「超えること」だった。

 ウーフェイの人生で、初めて「勝てない」と思わされた相手よりも強くなって超えること。それこそが武術家であるウーフェイが抱かされた感情の正体。

 

 彼はただ、相手を超えることで勝ちたかったのだ。

 常識で計れぬ天才であるが故に、キンケドゥは彼に取って「師匠」と呼ぶに値する唯一の存在となれる――そうなる“はず”の人物だったのだ。

 

 それが、感情に形を与える寸前で永久に停止させられてしまっていた。

 キンケドゥと再会することで明確な形を取るはずだった感情は行き場を失い、別のナニカを得ることで足りない部分を補おうと、同じくらいに強大なナニカを本能的に求め始める。

 

 

「・・・・・・トレーズだ。OZ総帥のトレーズ・クシュリナーダ。

 あの男は、OZの援軍として現れた。ならばトレーズは、あの男よりも強い奴であるはずだ。

 あの男を倒した者より、更に強い者に勝利することでこそ、俺は奴への借りを返したことになる・・・・・・ッ」

 

 妄執に近い黒い炎を瞳に宿しながら、ウーフェイは真っ直ぐ近くに隠しておいた自身のガンダムへと走りよると、そのエンジンに火を入れて動き始める。

 今すぐには、トレーズのいる本丸へと切り込むことは出来ないだろう。

 だが、目的地は決まった。どれほど回り道をしようとも、それは目標へと至るための通過儀礼であり、もんの一つを通っただけに過ぎず、彼の中で《倒すべき存在》と、倒すことで得られるモノとは完全に固定され、揺らぐことは決してない。そう決めた。

 

 

 

「倒すべき敵を倒せば、俺の中に生まれた迷いも消滅する!! 問題はないッ!!!」

 

 

 

 

 

 ・・・・・・誰が悪で、何を倒せば望むモノを手に入れることが出来るのか。

 それを知ることは容易ではなく、得てして人は安易な敵を倒す道こそそれだと信じやすい。

 一人の少年が新たな道を得ようとして、その寸前に至るための道筋を永遠に断たれてしまったことで、安易な道へと歩み始める始まりの一歩目を踏み外してしまったのとほぼ同じ頃。

 

 わずかに時間は前後して、ウーフェイが崖の上でキンケドゥの到着を待ち望んでいた頃、地球の異なる場所では異なる男たちが、別の道を通って彼と同じ答えへと至る道のりの一歩目を踏み外そうとしていたのは歴史の皮肉であったかもしれない。

 

 その日、ルクセンブルクにある地球圏統一連合の本部ビルの一室では、連合加盟国の将軍たちが集められ、連合宇宙軍を指揮下に置くセプテム将軍と宇宙における軍備縮小のための会議が行われていた。

 

 軍縮案そのものは連合の最高司令ノベンタ元帥を始めとする重鎮たちから以前より提案されており、宇宙軍司令官のセプテム将軍を始めとする彼らより一つ若い世代の軍高官たちは反対の論陣を張っていたものだったのだが、現場の将軍たちの意見も一枚岩だった訳ではない。

 

【征服の時期は終わり、今はコロニーを支配する時代に変わりつつある】

 

 というのが、現場の将軍たちの中で軍縮に賛成する者達の主張だった。

 支配者は支配する民衆を保護しなければならず、民衆の信頼を得られなければ占領した土地が領土となることはない。

 武力制圧という手段は、恐怖支配の色が付きすぎている。恐怖によっては民衆の信頼は決して得られない。

 最初は恐怖をもって、それから恐怖を少しずつ緩めていき民心を安堵させ、新たな支配者の支配を受け入れさせていく・・・・・・古代より続く伝統的な階級支配の方法論が彼らの主張の根拠だった。

 

 それらは所詮、連合によるコロニー支配維持を前提としたものではあったが、軍縮は軍縮であり、一定の説得力も有していた事から他の将軍たちも一蹴することは出来ずにいた。

 

 自分たち現場の将軍たちの意見もまとめる必要がある―――それが今回の会議で話し合われる予定の議題であり、その目的のためコロニー側の意見まとめ役としてドーリアン外務次官も同席していた。

 リリーナ・ドーリアンの父親である。

 

 だが会議は、当初から建設的な方向には話が進まなかった。

 

 

「例の未確認モビルスーツのことで、新たな追加情報が入手できました。

 トレーズ上級特佐よりの報告です。やはりガンダニウム合金製だとのことです」

「なるほどな」

 

 会議が始まって誰かが最初に言った言葉に、セプテム将軍が頷くのを見て、ドーリアン外務次官は眉をひそめた。

 

(トレーズ? 《スペシャルズ》のトレーズ・クシュリナーダが何故――)

 

 その名前と報告の内容に、きな臭いものを感じて警戒心を強めた故であった。

 確かにスペシャルズ――即ちOZは連合の一組織ということに法律上はなっているものの、実際には完全な別組織であり、連合から分派して独立した新たな軍事勢力と言っていい。

 連合軍とは表だって対立してはいないものの、決して親密な関係ではなく、むしろ互いに相手のことを目の上のタンコブと見なし合っているような関係性でしかないのだ。この種の情報を連合に、なんの二心なく報告してくるとは考えにくい。

 

「ガンダニウム合金は、宇宙空間でしか精錬できないと聞いております」

「やはりコロニー側が送り込んできたモビルスーツと判断すべきですな」

 

 そんなドーリアンの懸念したとおり、会議は良くない方向へと急速に舵を切っていく。

 各国将軍たちの意見を聞きながら、セプテム将軍はテーブルの上で指を組み合わせると、沈痛さを装った声音でドーリアンを驚愕させる採決をくだした。

 

「これでは私の軍の武装解除は当分、先の事になりますな」

 

 ドーリアンが思わず愕然として言葉を失い、その隙に居並ぶ各国将軍たちからは賛成の声が口々に上がる。

 

「いや、その逆をすべきでしょう。我が国の宇宙軍をラグランジュ・ポイントに向けて、セプテム将軍の増援をしたいと考えています」

「我が国も、その準備は既にできております」

「し、しかし・・・」

 

 旧合衆国の代表である将軍に続いて、旧フランスの将軍までもが同じような提案をし始めたことから、ドーリアンも流石にバカらしい好戦的議論を傍観している訳にもいかなくなり、歯止めをかける必要性に駆られたらしい。

 

「その一部の行動をコロニー全体の総意と考え、当面の問題をすり替えるのはどうかと思われます。まず我々が考えねばならないのは―――」

「すり替えなどではない!!」

 

 ドーリアンが発言する声を遮るようにして、先程の旧フランス将軍が指を突きつけながら怒鳴り声を上げる。

 

「ガンダムたちが、どこから発進した勢力か不明である以上、全てのコロニーを仮想敵と見なさざるを得ないのは至極当然であり、根を断てば枝葉は枯れてしまうもの。

 コロニーで造られたガンダムたちは、自分たちの本拠地さえ押さえれば降伏せざるを得えなくなる!」

「私が言いたいのは、コロニー側が地球圏の平和を他の誰より強く望んでいるという事です! 地球との戦争をはじめて彼らに一体なんの益がありましょう!?」

 

 正論に怯んだ旧フランス将軍から目を逸らし、セプテム将軍を真っ直ぐ見つめながら言いつのるドーリアン。

 だが残念なことに、彼と将軍は認識を同じくしていなかったらしい。

 

「我々の方こそ、平和を望んでいる。それともコロニー側が我々を妬んでの行動がガンダムによる攻撃という事なのかね?」

 

 冷ややかな瞳で、テーブル上に指を組みながら語られたセプテム将軍の言葉に、ドーリアンもまた自分の中で心の温度が急速に冷めていくのを実感させられざるを得なくなっていく。

 こうなると彼の方でも自然と、言葉も論調も攻撃的なものへと変化していってしまうようになる。

 

「いえ、違います。いずれも連合軍の一方的な武力制圧が先端の口火を切っているのです」

「それが貴様の本性だ! 貴様はコロニー側に内通したスパイではないのか!?」

 

 今度は隣に座っていた旧ドイツの将軍が立ち上がり、ドーリアンの胸倉を掴みあげながら怒鳴り声で彼をなじる。

 だが、その語調の強さとは裏腹に、相手の意見にはなんの論理もない言いがかりに過ぎない低レベルな発言でしかなかった。いい歳をした公職にある人間が公の場で口にする内容では全くない。

 ドーリアンとしては反論するより先に呆れざるを得ず、「なにを馬鹿な・・・」と呟き返す声が小さくなったのは、大人としてどういう表現で返せばいいのか咄嗟には解らなくなっただけでしかなかった。

 

「報告は承った。ドーリアン外務次官には退席を願おう」

 

 

「――いえ、この場合ドーリアン外務次官の仰ることこそ最重要事項と小官は愚考いたします」

 

 

 セプテム将軍がドーリアンに最終判定を与えた瞬間。

 今の今まで沈黙を貫いていた、古風な軍服を纏った若い将校が発言し、ドーリアンから自分へと周囲の視線が集まる先を変えてしまう事になる。

 

 だが、それらの視線には好意的なものは多くなかった。むしろドーリアンと同じか、それ以上に強い悪意と忌ま忌ましさを込めて彼を見るものの方が多いほどに。

 

「・・・・・・ドレル・ロナ上級特尉。貴官に発言まで許可した覚えはないのだがね」

 

 忌ま忌ましさを込めた口調でセプテムが名を呼んだ若手士官こそ、ドレル・ロナ。

 クロスボーンを率いるロナ家直系の嫡子でありながらも、権力者として後継の座に座るより、前線でコスモ貴族主義実現のため先兵となることを望んだ若者で、一時期はコスモ・バビロニアの女王として実妹のベラ・ロナことセシリー・フェアチャイルドに臣従することさえ受け入れていた事もある生粋の武人肌な人物だった。

 

 以前までは若さ故の傲慢さを垣間見せることも多かったが、幾度かの失敗が彼に落ち着きを与えさせ、叔父であるハウゼリー・ロナの代理として今日の会議に同席するよう命じられ、今日この場に馳せ参じる立場となっていた。

 

 OZと異なり、ブッホ・コンツェルンは連合正規軍にも人材を送り込むことで、現場の腐敗を肌で理解させるという教育方針を、この世界でも変わらず採用し続けていた。

 このため連合側にもOZ側にも幾つかの席を会議場に確保しており、経済支援や兵器供与など多くの利権をもたらしてくれている世界的コングロマリットを無碍にも出来ず、仕方なしに同席を許可して発言は許可しない妥協案を取っていたのだが。実情は現実を見れば誰の目にも一目瞭然であっただろう。

 

「・・・・・・何より、先の発言は反連合的と思われかねませんぞ? お爺様のお立場というものもある。今少し発言には気をつかっていただきたいものだ」

「失礼いたしました、将軍。ですが私はなにも、ドーリアン外務次官の発言すべてに賛同した訳ではありません。有効である部分は活かすべきだと主張したいだけなのです」

「と、言いますと?」

 

 些か胡散臭げな表情ではあったものの、とりあえずは場の最高位者であるセプテム将軍が聞く姿勢を取ったことで、他の将軍たちは何も言えなくなって沈黙し、そんな彼らに向けてドレルは皮肉めいた冷笑を貴公子的な面立ちに浮かべて、淡々と持論を主張する。

 

「先のドーリアン外務次官の発言にもありましたとおり、失礼ながらセプテム将軍への援軍を御提案された方々は問題をすり替えようとしていただけのように、私にも見えた次第・・・」

「ぶ、無礼なッ!!」

 

 顔を真っ赤に染め、旧フランス将軍が一瞬前までの自重を放棄して怒りを露わし、ドレルに向かって指を突きつけながら相手の不見識を口汚く罵倒する。

 ドレルは感情的な罵声、一つ一つには付き合うことなく、一通りの罵倒が言い終わるのを待ってから静かによく通る声で将軍に向かって確認のための質問を発する“フリ”をする。

 

「――将軍。先程あなたは、こう仰っていましたな。“我が国にはコロニー征伐のためセプテム将軍に増援する用意がある”と」

「一元一句その通りとは言いがたいが、それに類することは確かに言った。で? それが何だというのかね、ロナ家の血を引く御曹司殿」

 

 親の七光りでしかないケツの青い若造と、暗に罵る言葉を吐いた将軍の皮肉には気付かぬ風に、気付く必要もないままに、ドレルはさらりと問題点の本質を的確に穿ち抜いて見せたのだった。

 

 

「では、その戦力。あなた方の指揮の下、ガンダム討伐のため送っていただきたい。

 地球圏の平和を守るために。如何でしょう? 将軍閣下」

 

 

 ・・・・・・ドレルの一言だけで、場は静まりかえって反論はなかった。

 合衆国将軍も旧フランス将軍も、旧ドイツの将軍までもが顔を俯け目を逸らし、まともにドレルの視線と向き合おうとせず、セプテム将軍の厳しさを増した目付きに対してさえ、後ろめたそうにしながらも反対意見や賛成を口にしようとする者は誰一人いなくなってしまっていた。

 

 外交の専門家である外務次官のドーリアンでさえ、驚かされるほどの成果であった。

 ドレルが放った一言だけで、敵陣中央近くにまで攻め入られて蹂躙され、連合側の高官たちには反論の余地もなく、ただ沈黙することしか出来なくしてしまったのである。

 

 ドーリアンから見れば魔法としか思えぬ現象であったが、ドレルからすれば既知の出来事に過ぎぬ反応でしかなかった。

 

 

 ・・・・・・クロスボーンがフロンティア・サイドを強襲した時、地球連邦政府は自国の領土と国民たちと駐留軍とを救うため、すぐさま援軍を送って、反乱軍討伐のための大艦隊をクロスボーン・バンガード殲滅のため派遣しなければならない立場にあった。

 派遣“すべき”ではなく、“せねばならない責任”が統治者として義務づけられていたからだ。

 

 だが現実に連邦政府がクロスボーンの侵攻に対して行っていたのは、対策を『議論すること』であり。

 意見した作戦の実行と成功を確約させられ、失敗責任を負わされるのを恐れた将軍たちによる『自分たちが何もしないで済む理論を考えて語ること』それだけだった。

 

 政敵に非難されないため、間違った言動や意見をしないことに重点が置かれ、次の選挙に勝つための対策案や意見を述べることに終始し、事態の対策を講じるための発言などは中央議会で全く出ることはなかった。

 

 これらの行為を、それなり以上に頭が良くて弁が立つ人々が、テレビ中継でやり取りしている姿を見ていた大衆たちは熱狂し、連邦政府の戦略議論に是々非々の議論を巷で交わし合い、その間にフロンティア・サイドの大部分はクロスボーンの手中に収まってしまっていったのだ。

 

 山のような言葉と議論が飛び交い、言葉だけが現実を構築する。欺瞞の構造。

 それがドレルたちが実体験した、バビロニア戦役における地球連邦の対応であり、最終的には世論の突き上げを受けて月からの援軍艦隊が送られてはきたものの、質の上では全く話にならずレジスタンスたちの方がよほど良くフロンティアサイド防衛を成し遂げていたと、付きからの援軍を撃滅した張本人であるドレル自身がそう感じさせられていた程だ。

 

 地球連合を構成する各国将軍たちも、かつての地球連邦と大差ない理屈で行動していたのが、先のドーリアンに対する対応だった。

 

 誰もガンダム対策に名乗りを上げて失敗したくなかったから、セプテム将軍に従軍して無力なコロニーを弾圧する安全な作戦にだけ参加したいと願っていた。

 結果として、手薄になった地球の各基地をガンダムが攻撃しやすくなるなどという事態まで、考えた作戦を言っていた訳ではなかったのが本心だったのである。

 

 セプテムの表情が更に強ばりを増していく。

 彼は、自分の考えに反対する部下が嫌いなタイプの軍人ではあったが、国家に寄生する肥え太ったブタが好きという訳でもなかったので、普通の軍人らしく保身的な責任者たちには悪感情を抱かされたのだ。

 

 

「・・・・・・そこで私からの提案です。我々ブッコ・コンツェルンは、ガンダム対策のため皆様に提供できる有効な新兵器を開発いたしました。是非とも、これの採用のため性能テストを行っていただきたいのです」

「ほう・・・。それはどのような物ですかな? ドレル上級特尉。是非にも詳しくお聞かせ願いたい」

 

 先程よりずっと好意的な態度と口調で、ドレルに対して親しげに語りかけてくるセプテム将軍に対して、微妙な表情を浮かべたまま無言でい続けていたドーリアンだったが・・・・・・今度は彼もまた、驚愕の表情を浮かべる一員となることになる。

 

 ドレルは静かな口調で、こう述べたのだ。

 それは歴史が大きく変わり始める、始まりの一弾になる存在。

 ガンダムが、絶対的存在としての地位を奪われ始める、その最初の一撃がこの時ACの世界にもたらされた瞬間であった。

 

 

 

「我々は、MSでも携行可能な小型ビームライフルの量産に成功いたしました。

 これでガンダニウム合金を持つ機体にも、既存MSで対抗することが可能となりましょう。

 今こそガンダムパイロットたちにも、思い知らせるべき時が来たのです。

 傲慢がほころびを生むのだという事実をね―――」

 

 

 

つづく

 

 

 

オマケ設定説明『量産型ビームライフル』

 

細かい説明はまたにしますけど、今作でのコンセプトとしては、OOの《ジンクス》を応用したかったというもの。

ガンダム絶対だった世界に、ガンダムには及ばない物の絶対的ではなくせる兵器を持った存在を投入させてみたい。そういう願望で採用した次第です。




注:ドーリアンの『死』そのものは揺らぎません。が、内訳に違いが生じる予定です。


……次の更新作品は、【ジャンヌIS】を予定してます。
長らく止まってる作品たちを進めてから、他のを考えた方がよさそうでしたので…。
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