最近色々ありまして……。
ただ書いてて思ったのですが……私ってガンダム書くにはSEEDが一番相性いいのかなーって。半ば専門にしちゃった方がいいのか少し悩み中…。
――その日が訪れたのだという証明は、僕は激しく揺れる振動という形で告げられることになる
「キャアっ!?」
「隕石かッ!?」
ドォンという、遠くから聞こえたからこそ小さな爆発音に少し遅れて、教授のラボ内で作業中だった僕たちは激しい揺れに見舞われた。
備品が倒れて、支えられるものがなかった人は近くにあったものに取り付くことで転倒を免れる。
僕自身も操作していたパソコンデスクへ前のめりになり、危うく頭からぶつかりそうなところを寸でで堪えて負傷を免れたけど・・・・・・隣に座って作業をしていたサイと違って、この揺れを隕石の衝突事故と思うことは不可能な事情が僕だけには――いや、僕と“彼女”だけは持っていた。
「な、なに・・・なんなの!?」
「分からないけど・・・・・・とにかく屋内に留まるのは危険だ、外に出よう」
そう言って比較的冷静さを保っていたサイが、普段通りのリーダーシップを発揮して部屋の外に出てエレベーターを目指し、みんなが彼に不安げな表情で付いていく。
僕も、その中の一人として普通の行動をとらざるを得ない。
たとえ、この後に起きる展開が分かっていても、“彼女が動き出すまで”は動くことが出来ないからだ。
偶然の流れ弾だろうと、彼女の身になにかあったら未来の歴史に支障が出すぎるから、目を離すわけにはいかなかったから・・・っ。
「どうしたんです? 何があったんですか?」
「知らんよ。どーせ隕石の衝突か工場区画で事故でも起こったんじゃないのか?」
非常階段に入ったとき、階段を下から上がってきている途中だった職員の一団と遭遇したサイが、手近に来た一人に声をかけたけれどぞんざいな口調であしらわれただけで碌な状況説明は得られなかったけど、続いて上がってきた別の職員の人は緊張し切った表情を浮かべながら、
「ザフト軍に攻撃されてるんだ! コロニーにモビルスーツが入ってきてるんだよ! 君たちも早くシェルターに避難しなさい!」
焦った口調で教えてくれた、先の人より詳しい情報と避難指示とのギャップから、僕は自分の中で危機感の上昇と油断していた自分の甘さを激しく後悔させられることになる。
・・・・・・原作を見ているときには、そこまでとは思ってなかったけど・・・実際に当事者としてヘリオポリスの内側からザフトの攻撃を受ける人たちを見せられると、アニメとは全く違った現状の危機的状況が理解させられずにはいられなかったからだ。
――同じ職場の職員同士でも、情報が共有されていない・・・っ。
なぜ自分たちが逃げているのか分かっている人と、分からずに指示されたから逃げてるだけの人との差が激し過ぎるんだ・・・!
後に本島を侵略されたときもそうだったけど、オーブ関連の施設は避難勧告を発令するのが遅れやすい悪癖は、こういう時に生き死にを左右する重要な要素だっていうのに!!
「なっ!? ・・・・・・クソッ!」
「あ、カ――きみっ!!」
目の前で思い知らされた現実とフィクションとの違いすぎる差を目の当たりにして、備えているつもりでいただけだった自分にショックを受けている一瞬の隙を突かれるようにして、教授を訪ねてきていた金髪の客人の“男の子のような女の子”が、僕たちの輪を離れて工場区へと続く通路に向かって走り始めたのを見て、慌てて僕も彼女の後を追って走り始める。
「キラッ!? 危ないぞ! どこへ行く気だッ!?」
そんな僕に背後から、トールが強い口調で呼び止めようとする声が聞こえてきた。
おそらく警戒を緩めてしまった一瞬の隙に走り出したのを、慌てて追いかけたからなんだろう。
僕の動きはあまりにも突発的で余裕がなく、彼らの目にも映ったらしい。トールと一緒にミリアリアまで足を止めて心配そうな瞳で見つめてくるのに対して、僕は思わず「すぐに戻る」と答えそうになってしまい、ギリギリのところで精神と肉体に冷静さを取り戻すことに成功することができた。
それは後の展開を思い出した故でのことだった。
この後の紆余曲折を経た末、僕が操作することになる《Xー105ストライク》と《モビル・ジン》との戦闘中に、サイやトールたち友人一同はなぜか退避シェルターに行かず、あるいは空いている所を見つけられずに町の中を彷徨っていたせいで巻き込まれかかる運命にあるのを思いだしたのだ。
そうなっていた原因が、もしかしたら僕から「すぐ戻る」という言葉を言われたせいで、友人を待ち続けてしまったせいで避難が遅れたからだった可能性があることに思い至り、咄嗟に別の言葉で説明する必要性を感じたのが理由だった。
原作におけるキラ・ヤマトと違って、今ここにいる僕は自分が戻って来れないことを知っている。だとしたら最初から、戻ってこないが避難はすると納得できる説明にした方がいい。
「あの子だけを、放っておけないよ!!」
「だけど、お前――ッ!!」
「大丈夫! あっちの工場区にもシェルターはあるから! トールはミリアリアを退避シェルターに急いでっ!!」
「~~っ!! 分かった! 怪我なんかするんじゃねぇぞ!!」
状況的に僕を追っていきたいけど、恋人のミリアリアを放っておく訳にはいかないし、名前は知らなくてもカガリの事だって心配にはなるだろう心優しい友人の善意を利用するような言い分に、『キラ・ヤマトの肉体』が激しい嫌悪感を僕に与えてくるけど・・・・・・僕はかまわず走り出して彼女の後を追い続ける!!
「きみ! 何してるんだよ! そっちへ行ったって・・・っ」
「なんで付いてくる!? そっちこそ早く逃げろ――ウッ!?」
僕は先行していた相手に追いつくと、腕を掴んで足を止めさせながら原作通りの言葉を紡ぐ。
とはいえ言った言葉の内容そのものは方便だ。この会話の直後に僕たちの背後から爆発による爆風が生じることを、原作を知る僕は知っている。
全力で走りながら、追い風の激しい突風に見舞われるのは危険極まりない。ましてスーパーコーディネイターの肉体を生まれ持たされた僕ならまだしも、彼女はナチュラルなんだ。
僕としては走っている彼女を止められる口実だったら、何でもよかった。
・・・・・・そのせいなのだろう。ついつい、目の前で初めて露わになったリアルな金砂の髪と、間近に同年代の少女がいるというシチュエーションに、そんな場合ではないと知りながらも肉体は素直に反応してしまって・・・・・・この言葉を吐いてしまっていた。
「お・・・おんな・・・・・・の子?」
「――っ、なんだと思ってたんだ今までっ」
鋭い視線で睨まれながら、至極まっとうなことを言われてしまって思わず反論に困る僕。
いや、この場合反論する必要なんてないって言うか、全面的に僕が悪いんだけど・・・・・・いや、そうじゃなくて、そういう場合でもなく――ああ、クソッ!
前世の自分も、今生のキラ・ヤマトに生まれ変わってからも、同世代の美少女と間近で過ごした経験がない思春期男子の肉体が邪魔して思考が集中しきれない!!
「大体なんで付いてきたんだ、お前は! いいから早く行けっ!」
「行け・・・・・・ったってどこへ? もう前にしか行ける道は残ってないよ」
「・・・・・・っ」
咄嗟に口をついて出ただけの、言い訳じみた言葉だったけど相手にはそれなりに有効だったらしく、一瞬だけ口ごもって黙り込み、僕の目をジッと見つめながら黙り込んでくる。
「え、えっと・・・・・・とりあえず、ほら。こっちへ!」
なんとなく居心地の悪さも感じさせられてしまうようになっていた僕は、少しテンパり気味な自分を自覚しながらカガリの手を掴んで工場区の奥へと続く道へ――彼女と僕が行きたがってる方へと誘導する。
「離せ! このバカ! 私には、確かめねばならぬことが――!」
「だったら僕もついて行く! 女の子を一人でなんて行かせられないよッ!」
「お・・・おん、なッ!?」
相手に同行を受け入れさせるため、よくあるセリフで口ごもらせて大人しくさせる。
ジゴロ臭いと自分でも思わないわけじゃないけど、まさか未来を知っているからと言う訳にもいかない以上、面倒ごとを避けて目的地まで急いで到着するには、これぐらいしか思いつかなかったから・・・っ。
・・・・・・ただ走ってる途中で、最初は戸惑いながらだったカガリの抵抗が弱くなり、代わって涙声が混じり始めた嗚咽が聞こえだすと、さすがにイヤな思いが胸に去来せずにはいられなかった。
「――もう遅いのか・・・!? こんなことになってはと思って私は、ここへ来たのに・・・・・・!」
「・・・・・・」
――こういう時、何も知らないからこそ的外れな慰めを口にできてた原作におけるキラ・ヤマト本人が、少しだけ羨ましく感じずにはいられない。
無責任な気休めや、無意味な慰めでしかないと知っていれば言えなくなる言葉や優しさが、世の中には多すぎるんだと言うことを、僕はキラ・ヤマトとしては今生において初めて実感させられていた。
果たしてこの気づきが、僕とキラ・ヤマトの運命を変えてくれるのかどうか、代わった運命は吉と出るか凶と出るかは・・・・・・まだ出目次第の域を出ていない状況だったけれど――。
その頃、ヘリオポリスを襲撃したクルーゼ隊は、順調に作戦スケジュールを消化しつつあった。
モルゲンレーテ工廠への搬入口や、軍施設を含めたコロニー内の景色を一望できる丘の上に立てられた建造物の前で、赤と緑のノーマルスーツを身にまとった一団が望遠スコープを覗きながら戦況を観察していた。
「――アレだ。クルーゼ隊長の言ったとおりになったな」
冷徹そうな口調で言ったのは、彼らを率いる幹部クラスの少年『イザーク・ジュール』だった。
冷たく整った顔立ちが怜悧そうな印象を与える反面、プラチナブロンドの真っ直ぐ切りそろえられた髪型からは神経質そうな印象を受けなくもない。
「“つつけば慌てて巣穴から出てくる”ってヤツ? はは、確かに」
イザークの声に合わせるように、浅黒い肌の少年『ディアッカ・エルスマン』も皮肉気な笑みを浮かべながら、友人でもある同僚から敵への評価に同調を返す。
ザフト軍でエースの証と認められている赤色のノーマルスーツをまとった彼らも、その背後に控えて敵襲を警戒している緑色のスーツを着た兵士たちも皆、若い。
最年長でも20代半ばに達している者は一人もおらず、最年少の赤服パイロット『ニコル・アマルフィ』に至っては15歳でしかない。
一般的な軍隊であれば兵役にさえ含まれない、子供として扱われることが多い少年兵たちだったが、知力・体力の基本レベルが高いコーディネイターの社会では成人と見なされる年齢なのが今の彼らであった。だからこそ軍に志願して手柄を立て、士官になることを許された現在がある。
が、それ故に自らの成功を誇って、敵を見下したがるプライドの高さが鼻につくことも少なくはないのが、彼らの欠点でもあっただろう。
彼らと同じ隊に所属する『アスラン・ザラ』などは、明らかに同世代の同僚二人を苦手として敬遠していた。
精神的な圭角が、鋭く表面的な言動に出過ぎるタイプなのである。
特にイザークは彼をライバル視して、ことあるごとに突っかかってきては言葉でやりこめようとする部分があり、言葉によって自己の上位性を周囲に認めさせようとする悪癖があるのだ。
パイロットとしての腕は一流なのだが、他者の失敗をえぐるような一面が、彼らの印象をやや暗いものへと、アスランに感じさせていたようでもあった。
「そういうことさ。やっぱり間抜けなもんだ、ナチュラルなんて」
侮蔑する口調で冷たく言い放ちながら、イザーク・ジュールは手元の発信器のボタンを押す。
彼らの背後にある建物の内部では、オーブ政庁の制服を着た職員たちや、少数ながら連合軍の軍服を来た兵士たちが事切れて、敵に制圧された監視所の情報を送ることもできぬまま物言わぬ屍を晒していた。
崖と森の狭間に設置されて偽装された施設から、眼下に臨む施設の一つから巨大なコンテナを積載したトレーラーが出てくる光景をズームアップされたものが、イザークたちのスコープには映し出されている。
それが3台も続けて。
護衛の戦闘車両というオマケ付きで。
これだけの大型車両が短時間の間に続けて何台も出てくる光景を見せつけられれば、イザーク達でなくとも何かを慌てて運び出そうとする搬送作業中であるのは一目で分かる。
しばしの後、スコープの中に映っていたモルゲンレーテ工場区のあちこちから爆発が生じて誘爆し、炎上する施設や鉱山内部の岩盤が崩落する姿が視界に映し出される。
彼らが来る途中で仕掛けていた爆弾のカウントダウンが0になり、予定通り爆発連鎖して、モルゲンレーテに配備されていたらしい偽装した連合兵とおぼしき作業員たちを混乱のただ中へと突き落とすことに成功したのだ。
その爆発と前後して、港を突破した味方のモビルスーツ《ジン》もヘリオポリス内へと侵入を果たし、発信器によって位置を伝えたトレーラーの搬送部隊への攻撃を開始した。
「よし、敵の混乱に乗じて突入する。白兵戦で突破して連合のMSを奪取するんだ。
味方の攻撃に巻き込まれて死ぬ、ナチュラルみたいな間抜けぶりを晒すなよ!」
タイムスケジュール通りの展開にイザークは勝利を確信しながら、突入時期が訪れたことを味方に伝えて、威勢のいい応答に笑みを浮かべる。
「運べない部品と工場施設はすべて破壊しろ。
それと各自搭乗したら、すぐに自爆装置を解除するのを忘れるなよ!」
そんな間抜けは味方にいるはずがないと思いながらも、念のため今次作戦の最重要部分について念を押す。
ただ連合兵たちが工場内から運び出してきたモビルスーツを力ずくで奪うだけなら、彼ら潜入部隊だけでも出来ないことはない。だが、それでは時間がかかり、敵に対応策を考える余地を与えてしまうことにもなるだろう。
敵に奪われるくらいなら自爆する・・・・・・敵にその手を選ばせないためにも、まず混乱を起こしてからモビルスーツ隊で強襲をかけ、秩序だった真面な対応など出来ない状況へと追い込むのが彼らが行った破壊工作の主目的だったからだ。
――だが・・・・・・そんな彼にも懸念事項が一つだけ存在してもいた。
「報告では5機あるはずとの事だったが・・・・・・あとの2機は、まだ中に残ったままということか?」
個人用の小型バーニアを吹かせて空中浮遊を開始させ、敵輸送部隊へと発砲しながら接近しつつ、イザークはスコープで覗いていたときから気になっていた懸念事項が現実だったことを確認して、多少の不安を感じさせられていた。
なにしろモルゲンレーテの地下工場は、自分たちが仕掛けた爆弾で岩盤が崩され、瓦礫の下敷きに埋まり始めている。
今すぐ完全に崩壊するというわけではなかろうが、万が一にも化石となったモビルスーツの発掘作業などやらされるのは御免被りたいところでもあったのだ。
そんな彼のヘルメット内に聞き慣れた、だが多少勘に障る声が静かに響いてきたのは、その時だった。
『俺とラスティの班でいく。イザークたちは、そっちの3機を任せていいか?』
――アスラン・ザラ。
士官学校時代から自分より一つ上の数値を出し続けてきた、同世代の少年エースパイロット。
彼としては意識せざるを得ない存在であり、自分の母親も相手の父親もプラント評議会の議員であり、主戦派の政治家同士。
挙げ句の果てに、自分の母親は主戦派のエザリア・ジュール議員で、アスランの父親は主戦派の筆頭として次期評議会議長候補と呼び名も高いパトリック・ザラなのである。
政治的には、政治家の息子であっても安全な後方で守られ続けることなく、前線で兵士たちと苦労を共にしていると、能力主義に基づく公平性を国家も遵守していることをアピールする効果があったが、それを行う当事者たち自身は組織の合理的判断だけで自分たちの感情を抑えきれるほど精神的な成熟を身につけることは出来ていなかった。
これは、知力や体力の優劣とは関係のない問題だからである。
だがザフト軍とプラントの政治システムは、この問題を軽視していた。知力の高さで補いがつく類いの判断を、精神的成長の速さ故と誤認していたからだ。
コーディネイターたちは確かに、理性的に判断できる限りにおいて独自の判断により、他者からの指図なしでも動くことが可能な能力を有してはいる。
だが、そもそも精神的成長が求められるのは『感情的にならざるを得ない事態に直面した時』であって、感情に駆られていない平常心で行えるときの判断が如何に冷静沈着で優れていようと意味はなかったのだが・・・・・・。
一方で、ザフト軍に襲いかかられた側の連合軍を指揮する者たちにとって、ザフト軍隊長ラウ・ル・クルーゼからの酷評は些か不本意なものであったかもしれない。
「――ラミアス大尉! 艦との通信途絶、状況不明!」
「くっ・・・、やはりザフトに!」
作業服を身につけた男性が、軍用の回線でアクセスし続けていた結果を絶望的な声で、自分たちの現場監督に報告を上げ、それを受けた栗色の髪の女性現場監督は悔しげに歯がみしながらも、激変した戦況に対処する術が見いだせず身動きが取れなくなってしまっていた。
彼女たちは、モルゲンレーテ工場に勤める作業員と同じ作業服を身にまとい、オーブ政府発行の公式な身分証も所持してはいたものの、実際の身分は一人残らず大西洋連合の軍人たちであり、地球連合第八艦隊に所属する正規軍の兵たちだった。
オーブ政府と――正確には、オーブ政府の一部と結託して極秘裏に連合軍初のモビルスーツ開発計画と、それを運用するための母艦建造計画に初期から参加していたスタッフたちであり、こと開発と整備と輸送などの業務には相応以上の実績と自信を有する後方支援のプロたちが彼らであったのだ。
「・・・やむを得ないわね。Xー105と303を起動させて! とにかく工場区から出すわッ!!」
「分かりました!」
意を決して、表向きは現場監督ということになっている、この部隊の女性指揮官『マリュー・ラミアス大尉』は、完成したばかりの秘匿兵器《Xナンバー》のモビルスーツたちの中で、まだ工場内から運び出すことが出来ていない残り2機を起動させ、自力で移動させることを部下に命じた。
彼女としては、OSが未完成な上にモビルスーツ操縦の訓練を受けたパイロットたちが到着していない状態で、作ることは出来ても動かすことなど考えたこともない自分たち整備要員が起動させたところで満足に歩かせることすら出来ないだろうと決断を躊躇っていたのだが、事ここに至ってはやむを得まいと腹をくくることに決めたのである。
だが、どちらにしろ今さら手遅れだったことは言うまでもない。
なぜなら彼女の判断は、自分たちが《Xナンバー》を乗せた偽装トレーラーが、敵に察知されていないことを前提として考えられたものだったからだ。
既にバレてしまっている以上、敵に狙われる美味い獲物を増やすだけでしかなく、手元にある3機を起動させて1機でも脱出させる道に賭けた方が、まだしも気の利いた判断だったと言えるかもしれない。
だが、その責任を彼女に求めるのは酷というものでもあっただろう。
なにしろ彼女が指揮していたXナンバーの移送作業は、モルゲンレーテ工場内に置かれたアークエンジェル建造施設内にある指令ブースから届けられた艦長からの最後の命令を実行しようとする途中だったからだ。
それが、この混乱する状況を招いていた一番の原因でもあった。
地下深くの穴蔵から、全体への指揮などするべきではなかったのである。
せめてヘリオポリス全体の状況を見渡せる中央管制センターに、現場の最高位士官だけでも常駐しておくべきだったのだ。
それをオーブ軍はオーブ軍、連合の指揮は連合がという、所属別の指揮系統をそのまま持ち込んでしまったせいで、ヘリオポリスに存在する連合オーブ両軍は部隊ごとに情報面で孤立してしまう羽目に陥り、なにが正しい最新情報なのかさえ分からぬまま目の前の事態に対処するだけしか出来ることがなくされてしまっていたのである。
「それに空襲警報まで響いてるってことは・・・・・・危ない、みんな伏せてッ!!」
「え? たい――う、ウワァァァッ!?」
ダダダダダッ!!!
低空飛行で滑空するような飛び方をしながら、ザフト軍のモビルスーツ・ジンが自分たちの頭上10数メートル程度の高度を素早く飛び去りながら、下方に向けて右手に持ったマシンガンを乱射し、幾つかのダミー用のコンテナと牽引用のトレーラーが破損し、その被害と敵からの銃撃に巻き込まれた部下たち数名が肉片となって周囲に飛び散る。
「ザフトの・・・っ!!」
地に伏せて、なんとか初檄を生き延びることができたラミアス大尉が、悠々と空を征く巨人を憎々しげに見上げながら、吐き捨てるように声を上げるが―――再度の降下と二撃目はなかった。
だが、その事実は彼女を安心させてくれるものにはならず、むしろ冷たい不安が背筋を辿って心胆を寒からしめる理由となってしまう。
この動きは、まさか―――そう思った彼女の予測は、不幸なことに部下からの報告によって肯定されることになる。
「た、大尉! ザフト軍のノーマルスーツ部隊がッ!?」
「なんですって!? やはり敵の狙いは・・・っ」
部下の一人からの悲鳴じみた声を耳にした瞬間、空を見上げた彼女の視界に、数名の赤色のノーマルスーツに導かれるようにして、緑色のノーマルスーツを着た集団が自分たちに向かって空から襲いかかるため接近しつつある姿が目に映ったのだ。
「くっ・・・迎撃! 総員、白兵戦用意!!」
「り、了解ッ!!」
上官からの命令に一瞬だけ躊躇する気配を見せた後、移送作業中だった連合軍人たちは銃火器を肩から下ろして、敵に向かって砲火を浴びせ始める。
だが、機先を制されている上に心理的に追い詰められた状態で、正確な射撃など満足にできるものではなく、もともと後方支援が主任務だった者が大半の彼らに白兵戦など「やれ」と命じたところで急には出来るようになるものでもない。
次々と撃ち倒され、残った者も個々の判断に応じてバラバラに行動し始めてしまい、まとまった迎撃火線や統制射撃など夢のまた夢の有様。
ジンからの援護射撃でミサイル車両も破壊され、一瞬で粉砕されてしまったトレーラーの護衛部隊は敵部隊の侵入を許すしかなくなってしまい、コンテナに残されていた《Xナンバー》たちも敵に奪われる惨状を呈することになる。
「チィッ!! ここはもう駄目よ! モルゲンレーテ工場内まで後退して体勢を整えるわ!
《Xー102》《103》《207》は遺憾ながら全て放棄! 総員後退しなさい! 急いでッ!!」
戦況不利と見て取ったマリューは、残存戦力もしくは生存者たちに呼びかけながら後退を指示すると、自分は真っ先に出てきたばかりのモルゲンレーテ工場のシャッター内へと全速力で走り始める。
一見すると無責任にも見える行為だったが、こういうとき誰かが率先して動かなければ自分の意思で動こうとする者はほとんどいないのが人間の現実だった。
実際どうすればいいのか分からぬまま、命令に従っても大丈夫なのかさえ不明な状況下で不安に怯えて動くに動けなくなっていた兵士たちも、最高位のマリューが後ろを向いて真っ直ぐ逃げ出す姿を見せられれば、即座に後を追いかけ始める者が続出し、結果的にそれなりの数がモルゲンレーテ内へと逃げ込むことが可能となっていた。
それぞれが連合軍から奪取したモビルスーツを、母艦であるヴェサリウスに持ち帰ることを優先したという事情もあり、シャッターが再び閉ざされた工場内へモビルスーツ部隊で連合軍の残存部隊が追撃されることだけはなかった。
「いいんですか? イザーク。彼らはあのまま放置しておいても・・・」
「別にいいさニコル。既にアスランとラスティの隊が別口から潜入してるんだ。あの程度の連中ぐらい、あの二人なら片手で捻り潰すだろうさ」
「そーそー。あんま手柄横取りしちゃ可哀想だしな? オレたちはオレたちでクルーゼ隊長からの命令を全うすること優先するのが軍人として正しい道ってヤツなんじゃねぇノ~」
「・・・・・・」
イザークとディアッカから揶揄するような口調でからかわれ、最年少の赤服エースであり少女めいた美貌を持つ『ニコル・アマルフィ』は不機嫌そうな表情になって沈黙したが、反対や反論まではしなかった。
ただ心の中で、この場にいない二人の同僚の作戦成功と無事な帰還を祈るだけだ。
(アスラン・・・・・・)
そう心の中で呼びかけながら、イザークの号令のもとニコルたち連合モビルスーツ奪取班は作戦を成功して悠々と母艦に帰投。彼らにとって最初の作戦は、この時点で終わりを迎えることになる。
――ここまでの流れを見れば一見して、ザフト軍だけが一方的に連合軍を手玉にとって、自分たちの作戦通りに事を運んでいるようにしか、見えなかったかもしれない。
だが戦場というものは、何が起きるか分からない場所であり、予想外のことが起きてしまう特殊な空間でもある。
実のところザフト軍側でも、想定外だった事態が生じつつあり、それによって生じる問題について旗艦のブリッジ内で艦長と隊長が対応策の協議を行っている真っ最中だった。
「全体として我が軍の優勢は動かしようがありませんが、予想以上に敵は抵抗を諦めません。このまま行っても最終的な勝利が我が方に帰することは確実でしょうが、しかし・・・」
「・・・・・・」
旗艦ヴェサリウスの艦長アデスからの躊躇いがちな問題定義に、クルーゼ隊の隊長であるラウ・ル・クルーゼは答えることなく無言を貫く。
答えようがなかったからである。
このまま戦闘が継続しつづければ、いずれ月基地なりヘリオポリスそのものからオーブ本国へ連絡が行き、オーブからプラント評議会へと正式な抗議と戦闘停止を求めてくる事態になるのは明白だ。
そうなると、穏健派にして講和論者でもあるシーゲル・クライン議長は、オーブからの要請を無碍にはしないだろうし、国防委員長のパトリック・ザラも現段階でクライン議長と明確に対立するのは避けたいところでもある。
そうなると、クルーゼとしてはプラント本国からの戦闘停止命令を無視し続けることは難しく、また自分の立場を不利にする要因にしかならなくなってくる可能性が非常に高い。
オーブは確かに中立国でありながらも、ヘリオポリス内で密かに連合のモビルスーツ開発に手を貸していた。
これは間違いなく条約違反であり、オーブ側の一方的な過失によるものではあったが・・・・・・ただ一方で、それを示す証拠があった上でヘリオポリスを攻め込だかと問われれば、実は無いのがクルーゼの立場でもあった。
無論ヘリオポリスからは実際に、《Xナンバー》というオーブの中立違反を示す物的証拠が出てきているはいる。
だがそれは結果論であって、証拠もなく見込みだけで攻め込んで証拠が出てきたのだから、正規の手順など踏む必要は無いのだ――という言い分が通るのであれば、端から中立違反など問題視する理由の方が正当性を持たなくなるだけでしかない。
プラント評議会からの回答も攻撃命令も待たずに、独断でヘリオポリスへの攻撃を強行したという負い目もある。
何かしらの理由と、手柄が必要な事態になりつつあったのだ。
何かしら、免罪の口実となり得る理由と、自分の行動をザラに事後承諾で許させるだけの餌となり得る美味な手柄が・・・・・・。
そんな時だった。
旗艦ヴェサリウスのCIC担当が、驚いた声で上官二人に報告をあげてきた。
『味方の敗報』という報告をである。
「オロール機大破、帰投する模様です」
「オロールが大破だと!? こんな戦闘でか!?」
「・・・・・・どうやら些か、うるさいハエが一匹飛んでいるようだな・・・」
フッと笑いながら、クルーゼだけが味方の予期せぬ敗報に笑みを浮かべて指揮シートを立ち上がりながら、予期せぬ美味しい獲物が自分の計画を阻害するため、敵の中に混じっていてくれたことに、怒りと憎しみと喜びと安堵を二律背反で感じさせられながらクルーゼは命じる。
「私が出る。
それから、モビルスーツをいったん呼び戻し、D装備に換装させるのだ。
地球軍の新型、なんとしても今この場で討たせてもらわねばならんのだからな――」
そう言ってクルーゼは、肉体と心で同時に同じ笑みを浮かべ合い、心の中の笑みでだけ口を動かし、言葉を紡がせるのだった。
―――こうなればヘリポリスを完全崩壊させ、国際問題にさせてしまった方が楽でいい。
密かに地球連合に協力していた地球の一国ともなれば、プラントの市民たちは勝手に想像の翼を広げて敵を憎み、パトリックは彼らの人気と支持を欲するだろうからな。
憎しみという名の支持率を――――
つづく