ガンダム二次作   作:ひきがやもとまち

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補足:言うまでもないと思ったのですが、念の為に。

今話の話は『Zガンダム』における『ブレックス准将の暗殺』をオマージュしたものです。
宇宙世紀ガンダムで主人公が属する民主主義勢力が、どーにも胡散臭い部分と軍事色強すぎな面を持ってたのをドーリアン外務次官で体現させてみた次第。


ガンダムW戦記~クロスボーン・バンガードの旗のもとに~9章

 各国将軍たちと交わした会議での結果を受けてから数日後。

 ドーリアン外務次官の姿は、ラグランジュ・ポイントに浮かぶコロニー群の政治的中心《ベータ3》に向かうシャトルの中にあった。

 

【コロニー側が地球に攻め込もうとしている。

 ガンダムはそのためにコロニー側が地球へと送り込んだ先遣部隊だ】

 

 ・・・・・・という、連合内部に広まりつつある噂の真偽を確かめるため、というのが訪問の目的だった。

 会議結果として、連合宇宙軍の増強は一時見送られ、クロスボーンから提供された新型ビームライフルの量産配備という形で妥協する方針が決定されはしたものの、それはあくまで『コロニー側がガンダムを送り込んだ主犯とは限らない』という前提条件のもとに辛うじて成り立っていた不安定な方針によるものでしかなかったからである

 

 コロニー側の内情次第では、大幅な方針転換も十分すぎるほど有り得るのが現在の情勢なのだ。

 だからこそドーリアンは、至急にコロニー側の真意を確かめ、地球の人々を安心させてやれる条件をコロニーへと探しにいかなければならないという危機感を抱かずにはいられなかったのである。

 

 

「ドーリアン外務次官、快適な旅になるといいですわね」

 

 そんな思い悩むドーリアンに、話しかけてくる人物がいた。

 音楽的な響きは良いが、人を人とも思っていないように聞こえる氷のように冷たい声音に、ドーリアンは隣の席に座る娘共々二人そろって不快さを感じずにはいられなかった。

 

 自分たちの監視任務を帯びてシャトルに同乗してきたOZの士官、レディ・アン特佐と名乗る女性軍人が、その不快さの元凶だった。

 女性として見た目は良いのだろうが、誰彼なく不愉快な気分にさせずにはいられないかのような刺々しい態度が勘に障る、鋭利な美女軍人だ。

 

「・・・・・・」

「そう、棘のある態度で無視をなさらず、旅を共にすることになった者同士として世間話ぐらいよろしいのではありませんか?」

「あいにく、《スペシャルズ》の将校殿と合う話題など、私は持ち合わせていないので」

 

 ついついドーリアンも歳を忘れて、レディ・アンに視線だけを向けて吐き捨てるような口調で応じてしまう。

 彼としては、なにも感情だけで言っているわけでなく、相手の存在が不気味だからこそ馴れ合いを避け、できるだけ距離を置いて警戒したいと思っていた事も影響していた。

 

「ずいぶんと酷いお言葉ですね。――ですが失礼ながら、監視されるだけの“失言”を仰ってしまったのは閣下ご自身です。

 それをご自身も御自覚しておられるからこそ、小官らの監視を許可して下さったのではありませんか? 外務次官閣下」

 

 だが、続く言葉で痛いところを突かれてドーリアンは、表情を歪ませながらも相手の要求を完全無視し続けるわけにもいかなくなってしまう。

 それは先日おこなわれた会議場での各国将軍たちに放った彼の発言が影響してのものだった。

 

 

 あの席上でドーリアンにかけられた『コロニー側のスパイ』という嫌疑は言いがかりに過ぎぬものではあったが、一方でガンダムたちはOZの息がかかった連合軍の部隊と生産拠点をピンポイントで狙い撃ちして潰し回っていることは事実でもあった。

 

 

 ――誰かが、連合軍内部の機密情報をガンダムパイロットたちに売り渡すことで、この攻撃は可能になっているのではないか・・・・・・?

 

 

 そのような噂が連合首脳の間で流れ出しているという話を聞かされたのは、会議が終わってすぐのことである。

 ドーリアン自身は、ガンダムを造るのに用いられている技術力なら不可能ではないと考えていたため考慮せずに放った発言だったが、考えてみれば軍内部にそういう噂が流布しても不思議はない常識外れな状況ではあったのだ。

 

 また、ガンダムたちによる連合への攻撃が、連合軍の一方的な武力制圧が原因であったとをドーリアンは確信しているが、一方で。

 現在問題になっている《オペレーション・メテオ》という作戦そのものは、何らの宣戦布告もないままコロニー側から送り込まれたガンダムたちが、一方的に奇襲攻撃を繰り返すことで戦闘状態を発生させているだけなのも事実ではあった。

 先日にはビクトリアで、就寝中のパイロット候補生たちを宿舎ごと爆殺しようとする卑劣なテロまで確認されている程だ。

 

 『候補生だろうと敵は敵。勝つためには手段を選ばず』・・・という冷徹なマキャベリズムに基づけば、現実的で有効な勝ち方と言えなくもなかったが、『正規軍でなくとも敵に属する者なら全て敵』という論法を用いてよいなら、『ガンダムを送り込んだコロニー側の全ては地球の敵』という解釈にも正当性を認めることになってしまうしかない。

 

 連合の首脳たちが言い出していた主張も、あながち論としては間違ったものではなかったのだ。

 本格的な武力衝突を避けることを優先した結果とは言え、重ね重ねの失言にドーリアンとしては言い返す言葉がない。

 

 

「小官としましては、あなたの監視は上からの命令を実行しているだけですので、私個人への敵意を抱かれては困ります。

 お嫌いになるのでしたら、この様な任務を私に与えた軍首脳か、あるいは失言を犯してしまった先日のご自身でも恨んでいただくしか」

 

 冷ややかな声で、見下すようにレディ・アンは容赦なくドーリアンを言葉の槍で追撃する。

 ハリネズミのような女だ、と無言のままドーリアンは思った。

 体中から針を伸ばし、その針を立てたまま自分から相手に突っ込んでいくのを好んでやりたがる女性に、この時のドーリアンにはレディ・アンは映っていたからだ。

 

 よくしたもので、娘のリリーナも父と同じような感想をレディの態度から感じさせられたらしい。

 不快そうに黙り込まされてしまった父に代わって、瞳に熱い怒りの炎を燃え立たせ、見た目とは裏腹に意外なほど激情家なところがある美しき愛娘は勝てぬと承知でOZの女性士官に食ってかかろうとした、その時。

 

 

「特佐、その辺でよいのではありませんか?

 先程から些か言葉が過ぎているように私には見えますが?」

 

 

 ――シャトルの後部座席から、第三の人物が言動をたしなめる声が静かに響き、レディは不快そうに、ドーリアンはやや意外そうな表情で背後へと視線を向けた。

 

 そこには彼と同じく本に視線を落として読書をしていたらしい、端整な顔立ちをした人物が一人で座っていた。

 監視役に派遣されてきたOZ士官の一員ではない、といって連合軍の正規兵でもない。

 軍服を着ておらず、背広のスーツを纏った姿で同乗していることからドーリアンと同じ政治向きの仕事を担当していることが窺い知れる人物。

 

 今回のL1コロニー行きの便に乗船を許可してもらって、特別に同乗していた男。

 クロスボーン・バンガードの総帥一族ロナ家の長男《ハウゼリー・ロナ》が、その男の姓名である。

 

「あなたに、ドーリアン外務次官の監視という任務が与えられているのと同様、ドーリアン外務次官にもコロニー側の真意を確かめ、地球へと攻め込もうとしているという噂が本当か否かを確認する重大な任務が軍から与えられています。

 片方の任務だけを優先させ、今ひとつの任務達成を阻害する結果を招きかねない言動は、あなたの任務にとっても不適切ではありませんか? レディ・アン特佐」

「・・・・・・失礼いたしました、ハウゼリー上級特佐」

 

 トレーズ閣下のご決断に誹謗めいた言質を弄したドーリアンへの修正を、邪魔されてしまう形となったレディ・アンだったが、今回の場合は相手が悪い。

 敬愛して忠誠を誓うトレーズ様の同盟相手と敵対して、不興を被る危険性は家臣として確かに適切ではなかった。

 

 レディは相手からの警告をそう自分流に受け取ると、ドーリアンに向かっても頭を下げ失言を詫びる。

 意外な立場にいる相手からの意外な援軍に、多少うろたえた思いを内心で隠すのに忙しかったドーリアンは、続くレディの言葉で意外さを更に深めさせられることになった。

 

「ドーリアン次官閣下にも、言葉が過ぎてしまったことを謝罪させていただきます。申し訳ございませんでした」

「・・・・・・いや、いい。君の言う通り、私の方にも落ち度があったことは事実だ。その点で君は間違ったことは言っていなかった。気にする必要はない」

「ご寛容、ありがとうございます。――ですが閣下、そう今回の旅路にご心配は及ばないことを、私からも保証させていただきますよ」

「――?? と、言うと?」

「我々はL1コロニーに到着する前に、宇宙基地へと一度寄港し、そこでドーリアン外務次官の任務が終わるまで待機する予定だからですよ」

 

 レディが放ったその発言は、完全にドーリアンの意表を突くものだったため、即座に適切な返事が思いつかず、何度か口をパクパクと無意味に開閉させることしかできなくなってしまった。

 それは娘も同様で、先程まで怒りに燃える瞳を宿していたリリーナは、意外すぎる展開に目を丸くして何と言って良いのか分からずに視線を泳がせて黙り込んだままになっていた。

 誤魔化すように咳をつき、体勢を立て直して相手の真意を探るため、ドーリアンはらしくもなく当たり障りのない問いで茶を濁す。

 

「・・・・・・いいのかね? 君の任務は私たち親子の監視のはず。てっきりコロニー内でも私たちの後をついて回られ、自由で気楽な宇宙旅行など望むべくもないと思っていたのだがね」

「本当に酷い仰りようですね。とは言え、そう思われるのも当然ですし、私どもも本来はそうすべきところと考えていたのですが・・・・・・とは言え、コロニー代表者たちと次官閣下が話し合われる席上に、私どもは同室を許可していただけないのでしょう?」

 

 この問いにドーリアンは迷うことなく、無言で頷く。

 今回の訪問はガンダムによる攻撃について、コロニー側の真意を確かめ、彼らに地球と敵対する意志がないことを確認することにある。

 

 そのような場に無粋な軍服をまとった者がいたのでは、自由な発言や意見など言えるわけもないし、碌な証言など得られようはずもない。

 またレディは、自分たちの監視という任務が与えられているだけで、外交上の委任などの権限までは与えられていない。外交の場である会議室に入室が許される立場ではないのが今回の任務における彼女だった。

 

「では、同じことです。会議が終わって監視対象が会議室から出てくるのを待ち、結果報告を聞くだけならば、待っている場所が会議室前の路上でも、コロニーに最も近い位置にある宇宙基地であっても、我々にとってはやることに変わるところは何もありませんから」

 

 快活にそう言って、クスリと笑うレディ・アン。

 それは相手の言う通りであったが、そのことが却ってドーリアンの警戒心を刺激せずにはいられない。

 

 ――OZは、ここまで物わかりのいい対応ができる連中だったろうか?

 

 そういう意味での警戒心強化である。

 その警戒心が、危険かもしれぬと自身でも思いながら、危ういバランスを崩しかかるような問いをドーリアンに発させる。

 

「・・・・・・ありがたい話だが、それは君の独断による判断かね? それともトレーズ・クシュリナーダからの指示による配慮なのかな?」

 

 目だけに力を込めて、ドーリアンはレディ・アンを見ながら、呟き捨てるように言葉を放っていた。

 “連合からの指示”ではなく、“上からの指示”でもなく、“OZ上層部からの命令”でもない。

 

 “トレーズ・クシュリナーダ個人からの指示”か否かを問いただす言い方を、敢えてドーリアンは用いて相手を試した。

 問われた瞬間、レディは方眉をピクリとだけ微動だにさせたものの、それ以外には反応らしい反応を示すことはなく、

 

「――私たちの訪問理由は、連合内に広まりつつある“コロニー側が地球に攻め込む”という噂話がデマかどうか、真実を確認するためのものです。私個人としても、デマであることを祈る気持ちに嘘偽りはありません。

 宇宙でしか精錬できないガンダニウム合金製のMSガンダムたちによって地球に攻め込まれ、我々OZの得になったことは何もないのが現在の戦況なのですから」

 

 反論の余地のない正論だった。

 不快さと共に、それ以上の応対する言葉の全てを飲み込んで沈黙したドーリアンを乗せたシャトルはその後、月の近くに建設予定だという宇宙要塞の仮説作業指揮所として造られていた基地の軍港へ一度寄港するとレディ・アンたちだけを降ろし、本当にドーリアン親子だけでL1コロニーへと到着できてしまったのだった。

 

 本来それは喜ばしいことであり、普通はそれが妥当な対応だったのだが、現在の情勢とOZのやり方に慣れすぎてしまっている彼にとっては首をかしげざるを得ない。

 

 だが、その疑問と違和感もコロニーに到着してエアロックが開かれて、二人を待っていたL1コロニーの代表者たちが浮かべていた裏表のない歓待の笑顔を見た瞬間には忘れられた。

 ようやく伏魔殿を脱したような気分になれたのである。

 

 

「ミスター・ドーリアン!

 地球が慢性的な経済危機だという地球側から聞こえる話は、どうやらデマのようですな。あなた方だけのシャトルを打ち上げる余裕があるのですからね、羨ましい限りです」

 

 政治に携わる者らしい癖のある面立ちに、真実からの笑みを浮かべて歩み寄りながらドーリアンに握手を求めてくるスーツ姿の男達に応じながら、彼もまた気が軽くなった心で冗談交じりの言い回しを用いて自分の所属を軽く皮肉る。

 

「その程度のデマならまだ可愛いものですよ。連合に広まりつつあるデマは、笑って済ませられるものではありませんから」

「・・・我々が地球に攻め込むという、例のアレですか・・・」

 

 だが、言われた方にとっては冗談で済ませられるレベルを一歩以上踏み越えすぎた話題だったらしく、途端に表情をしかめるとドーリアンに向けたものではない悪意と苛立ちを吐き捨てるように呟かずにはいられない衝動に駆られたようだった。

 

「まったくもって理不尽な話ですよ。“オペレーション・メテオ”とか、“新型のモビルスーツ”とか。どれも我々の知らぬことばかりだと言うのに・・・・・・」

「ミスター・ドーリアン。連合は何故、我々の話を信じてくれないのでしょう・・・? 私たちコロニー側には本当に、何もやましい所などありはしないのに」

「・・・・・・」

 

 話の内容が進んだことで代表たちの笑顔も急速に重苦しいものへと変わっていってしまっていく。

 それらは彼らにとって本心からなる言葉であり、連合からの心ない対応に傷ついている気持ちの訴えだった。

 彼らの陳情を耳を傾けながら、ドーリアンは沈痛そうに瞳を閉じて思い悩むように沈黙のみを返すだけだったが・・・・・・内心の複雑さを隠すための演技を含んだ仕草でもあった。

 

 何故ならドーリアンは、知っていたからだ。

 連合がコロニー側の叛意を疑っている理由は、コロニー内部に武力で連合を打倒せんとする過激派の存在を察知しているからなのだということを。

 代表者達の苦言が、コロニー内に潜む過激な者たちの存在を把握していないからこそのものだという事実を。

 

 だから彼としては沈黙で返すしかなかった。

 ドーリアン自身は、その組織に加担しているわけではなく、連合の情報を流していたわけでもない。あくまで話し合いによる解決のため窓口として確保しているだけで、後ろめたい行為に手を染めてはいなかったが・・・・・・彼らの存在を知っていて代表者たちに教えていないことも事実ではあったのだ・・・・・・。

 

「――ところで、今回の訪問では連合なりOZなりから、護衛という名の監視がミスター・ドーリアンたちに付けられられるような無粋は、されませんでしたので?」

 

 重くなり始めた空気を変える必要性を感じたのだろう。

 コロニー側代表団の一人がドーリアンとリリーナの背後に立ったままのシャトルから、続く人影が出てこない方へと視線を向けながら言った言葉に、そういえばと今さらに違和感を思い出したらしい他の代表たちも意外そうな表情を浮かべ直す。

 

 それを見てドーリアンも、蒸し返したところでどうなる話題でもないと割り切ると、苦笑気味な表情を浮かべつつオーバーアクション気味な動作で両手を広げながら、ジョークのように軽い口調で事情を説明する。

 

「ええ。なんでも、“どーせ会議室に入れず外で待っているなら同じ”だそうでして。

 居心地の良い連合宇宙軍基地内にある快適なオフィスで、会議が終わるのを大人しく待っていると、そう言われて送り出されてきましたからね。珍しいこともあるものです」

「ほほぅ? それは確かに珍しい。連合やOZも、ようやく一方的な武力制圧だけが治安維持ではないと少しは学ぶことができるようになった、と言うことでしょうかね?」

「さて。そうだと良いのですが・・・・・・」

 

 皮肉そうな表情を浮かべ、地球連合への辛辣な評価を口にする代表者たち。

 連合からの監視役という、鬱陶しい見張りに聞かれる心配がないと分かったことで日頃から溜まり続けていた不平不満で、一気に口が軽くなりすぎてしまっているらしい。

 ドーリアンとしては責める気はなくとも、苦笑するしかない状況ではあっただろう。

 そして心の中だけで、そっと呟き漏らす。

 

(・・・・・・本当に、そうであってくれれば良いのだが・・・)

 

 不可能と承知で本心から、そう願わずにはいられない立場に彼は立たされつつあるようだった。

 そんなドーリアンたちがコロニーに到着してからホテルに赴き、その場から代表団たちとの会談の場へと移動して、到着初日のスケジュールはなんの障害も妨害も起きることなく無事に終了。

 

 完全には安心できず、「油断させて何か仕掛けてくるのではないか?」と終始警戒感を減らすことができないまま一日を過ごし終えたドーリアンとしては肩すかしを食らわされた気分で、本当にレディたちは会談が終わるのを待っているだけのつもりなのかと、小首をかしげながらホテルの部屋へと戻ってきたドーリアン。

 

 その疑問が解消されたのは、自分の部屋に到着してテレビのリモコンを操作し、ニュース番組に映し出されている映像を見ることができた、夜になってからのことだった。

 

 

 

「ハウゼリー・ロナが、テロに・・・!?」

 

 そのニュースが鼓膜と網膜に飛び込んできた瞬間、思わずドーリアンは座り掛けていた椅子から立ち上がっていた。

 

 テレビには、『ナイス・グロズリー』の幹部が事務所として使っているホテル前の映像が流れており、数メートル四方の事件現場を取り囲んで見物している野次馬たちの映像が映し出されていて、事件の大まかな概要をナレーターが淡々と説明していた。

 

 コロニー支社の視察に赴いてきたところを、一見サラリーマン風にしか見えない男によって襲撃を受け、病院に担ぎ込まれたが意識不明の状態が続いているという。

 

 しばらくして犯人グループを名乗る者たちからの犯行声明が届いたことが語られ、

 

 

『ロームフェラと結託しているロナ家は、連合の手先であり、我々のコロニー経済を地球のものとして私物化しようとしている。故に天誅を下した。

 コロニー革命の指導者ヒイロ・ユイ万歳』

 

 

 ―――馬鹿な、とドーリアンは心の中で呻かずにはいられなかった。

 ロナ家の長男が単身コロニーへ赴いてきたのを好機と踏んだ、一部の跳ね上がりが行った暴挙だろうが・・・・・・こんなことをしても却って自分たちの立場を悪くするだけだということが分からないのか!?

 

 そう激しい怒りに内心で打ち震えた後。・・・・・・ふと、レディ・アンの真意を彼はこの時ようやく悟った。

 

「・・・・・・謀ったな・・・レディ・アン・・・・・・ッ」

「え――?」

 

 隣でテレビを見たまま驚いていたリリーナが、父の呟きを聞きとがめて思わず疑問の声を発してしまう。

 彼女には何故この場で、OZの冷たい印象を受けた女性士官の名が出たのか、まるで分からなかったからだ。

 

 娘からの疑問に父親は声に出して答えようとはしなかったが、答えは既に頭の中で完成されていた。

 地球からコロニーへと平和的訪問として訪れた、連合の公的立場にある人間をコロニー側が迎え入れた際。

 コロニー側には当然、彼らの安全を守る義務が発生することになる。

 護衛となる者たちを付けていて、現地警察や政府の忠告を無視した結果として危険な目にあったという場合には、証拠の提出や目撃者の証言次第で自己責任が成り立たせることは不可能ではない。

 

 むろん連合が権力に任せてゴリ押ししてきた時に抗える類いのものではないが、少なくとも自分たちから攻め入る口実を与えることだけは避けることは可能になるだろう。

 

 だが、コロニー側を信用して自身の身を委ねた私服姿でいるところを、コロニー側の過激な不満分子に襲撃されて重傷を負わされたとあっては、説明にも弁明にも事欠いてしまい、圧倒的不利な立場を強いられることになる。

 

 ・・・・・・そうなれば、【ラグランジュ・ポイントの緊張は高まる】のは避けられない。 

 そうなることを望んでいる、軍需企業連合体のロームフェラ財団と、彼らと繋がるOZにとっては、別に誰でも良かったのだ。

 

 ラグランジュ・ポイントに緊張を高めさせられる生け贄として、コロニー側の一方的で非道な襲撃を受けさせられる被害者として使える者なら、ハウゼリーであっても自分であっても、そして・・・・・・年端もいかぬ少女でしかない娘のリリーナであろうとも――

 

 

 急激に危機感の高まりを感じさせられ始めたドーリアンは、翌日からの会談に赴く際には、娘に向かって「必ず警護の者を付けてもらうよう」強く厳命して議場に赴きつつも議題に集中しきれぬまま、上の空な心理状態で2日目、3日目と予定を消火させられていく。

 

 一方で、彼の娘であるリリーナの方は父よりずっと楽観的に事態を見ていた。

 詳しい政治の裏事情を教えられていないという事情もあり、生まれ故郷の地球よりも愛着を感じているコロニーで暮らせる日々を満喫していたのである。

 

「私、今日はちょっと買い物に出かけてこようと思います。せっかくコロニーに来たのに2日もホテルにこもらされたままでは、カビが生えてきそうで困りますから」

「少々お待ちください、今護衛の者を呼び出しますので。・・・・・・先日もあのような事件があったばかりですし、万が一ということも有り得ます」

「いいえ、結構です。昨日一昨日と父の警護で護衛の方も大変だったでしょうから、今日は休んでもらって下さい」

「ですが・・・・・・」

「大丈夫です、ここは地球で出歩くより安全ですわ。どうして地球の人達は、こんなにも平和で紳士的なコロニーの人たちが戦争を起こすと思っているのか不思議なくらいです。

 あくまで悪いのは、コロニーに住んでいる一部の人達だけですから大丈夫です」

 

 父を出迎えてくれた、ドーリアンに好意的な代表団の一人にそう告げて外出したリリーナが戻ってきたのは、予定を大幅に超過して夕暮れが迫りつつある時刻設定にしてある時間になってからだった。

 

 別に予定を無視したわけではなく、たまたま道端で泣いている女の子を見つけ、『母親にもらったクマの人形』を落としてしまったことを聞かされた彼女は捜索に付き添ってやり、無事に発見して母親の元まで送ってやってから帰ってきたら予想より遙かに長い時間が過ぎてしまっていたことに遅まきながら気付かされた。・・・・・・そういう事情によるものだった。

 

「では、明日も同じ時間にお迎えに上がると、ミスター・ドーリアンにお伝え下さい」

「はい。色々とお世話を掛けてしまって申し訳ありませんでした・・・」

「いえ。何事も起きないのが一番ですから」

 

 ニコリと笑って、護衛役に任じられていた黒人の男性はリリーナを下ろした後、車を走らせて去って行った。

 さすがのリリーナも、現在の状況下で係の者には告げていなかった予定を勝手に組み込むのは悪いと思ったため、連絡だけでも入れたところ護衛に呼ばれるはずだった男性が即座にやってきてしまい女の子の人形探しを手伝ってもらう運びとなったのだった。

 

 お転婆だと父から苦笑交じりに評されやすいリリーナも、これには恐縮せざるを得ず、明日からは今少し行動を自粛しようと心に決めてホテルのロビーに入ろうとした。

 その時だった。

 

「・・・・・・??」

 

 ふと、顔を上げてホテルの上階を見上げた。

 聞こえるはずのない音が耳に届いてきたような、そんな気がしたからだった。

 その音はリリーナの立場では、聞きたくなくとも聞き慣らされてしまう音。父の仕事と所属する勢力柄、無関係ではいられない道具だけが発する音。

 

 ―――それは、銃声だった。

 

 ズダーン! ズダーン!!という、自分がいる位置からでは小さく聞こえる音がホテルの上層階から聞こえたような気がしたリリーナは思わず駆けだし、エレベーターに飛び乗って自分たち親子が借りている部屋がある階のボタンを押す。

 

 ・・・・・・嫌な予感がした。

 外れてくれていればいいと願いながら廊下を走り抜け、部屋の扉を開けて中へと飛び込むと、まだ夕暮れ時とはいえ暗くなり始めた風景の中で照明も付けずにベッドで横たわったまま眠っているようにも見える父の姿を見つけて駆け寄ると。

 

「お父様ッ!?」

「・・・り、リリーナ、か・・・・・・? お、OZにしてやられた・・・・・・」

「お父様! しっかりして下さい! いったい誰がこんな酷いことをっ!? このままでは死んでしまうわ! 早く病院へ――」

「・・・いや、いい・・・どうせ助からん。それより、も・・・最後に、伝えておかなければならないことが・・・・・・ある。お聞き下さい・・・・・・“リリーナ様”・・・」

「え・・・?」

 

 父から、使われたことのない敬称で呼ばれて娘は戸惑い、唖然とした頭と表情で血の気が失せつつある父と“信じている人”の顔を見つめる。

 

「私・・・は、あなたの・・・・・・本当の父ではない・・・。

 あなたの本当の・・・名は・・・《リリーナ・ピースクラフト》・・・かつて、完全平和主義を唱えた・・・ピースクラフト家の、ご息女・・・です」

「お、お父様・・・? 何を言ってる、の・・・?」

「私は・・・その国に代々仕えた、元老院の一人・・・・・・しかし、連合に王国は滅ぼされ・・・逃げ延びた私が、あなたを・・・娘として・・・・・・」

「そんな・・・・・・そんなのウソよッ!?」

 

 信じていた人に騙され、信じていたものに裏切られ、突然告げられた出生の秘密だけを残して一方的に死のうとしている相手に、リリーナは心の底から否定の言葉を叫んでいた。

 

 ウソだ、と。

 父が父でないなど、ウソだと。

 自分がリリーナ・ドーリアンではなくリリーナ・ピースクラフトなど、ウソだと。

 父だと信じていた人が、死んでいこうとしているのが現実なんて、ウソだ――と。

 

 リリーナは心の底から全てを否定して叫んでいた。

 何も信じたくなかったし、受け入れたくもなかった。

 今までの全てに縋り付いて、今の全てを否定したい想いだけで、ただただ叫んで否定することしかできない今の自分という現実を否定し続ける!

 

「リリーナ様には・・・世の中を動かす人になっていただきたい・・・そう私は願いながら今日まで生きてきました・・・・・・。

 ですが・・・出来ますなら・・・・・・私の“娘”には、普通の女の子として幸せになって欲しいとも・・・・・・」

「お父様!? お父様しっかりしてお父様ァっ!!」

「・・・OZに・・・・・・、そしてクロスボーンに・・・・・・お気を付け下さ・・・・・・どうか、生き・・・て―――」

 

 それがドーリアンが残した遺言となった。

 最後に残った力を振り絞って伝えるべきことを伝え終わった瞬間、糸が切れたようにドーリアンの身体からは力が抜け落ち、リリーナが握って必死に慰めていた片手はベッドの上へとゆっくり落ちていった・・・・・・。

 

 

 ――それから、どれぐらいの時間そうしていただろう?

 大した時間ではなかったはずだ。

 ただリリーナの中で無限の刻のように感じていただけで、彼女の外に広がる空間では現実の時間が流れ、少女一人の感傷など気にすることなく人々を突き動かし続けていたのだから。

 

 そんな時間の流れと空気の対流の中から、複数の足音が自分たちのいる部屋の方へと向かってきているのを、リリーナの鼓膜は感じ取る。

 

 

『ドーリアン氏はどこだ! 他の者はっ!?』

『見張りに付けていた者たちも全員ダメです! どうやら監視に気付かれていたらしく――』

『クソっ! こうなったらドーリアン氏だけでも見つけ出すんだ! なんとしても探し出せぇっ!!』

『ハッ!!』

 

 

 ドカドカと、武装した数人の男たちの足音と声が、銃が立てる金属質な音響と共に響いてきて・・・・・・リリーナの心を激しくかき立て去られる。

 

「許・・・せない・・・・・・」

 

 呟きながらリリーナは右手を伸ばし、おそらく自衛のため応戦しようとして果たせなかったのだろう。

 ベッド脇の枕元に落ちたままになっていたオートマティック式の拳銃を手に取ると、銃口を入り口の方へと向けてピタリと一致させて動きを止める。

 

 そして、部屋のドアを開けて乱入してきた先頭に立つ人物が、父が眠る寝室の扉の向こう側に見えた瞬間。

 

 

「私の身はどうなっても構わない・・・・・・けれど、お父様の命を奪った仇を、私は・・・・・・決して許さないッ!!!」

 

 

 リリーナは――父を殺されたばかりの愛娘に握りしめられていた拳銃は、光を放つ。

 閃光が、少女が流した慟哭の涙を光らせる

 

 

 

つづく




注:ネタバレになりますが、念の為先んじて説明です。
今話の中のハウゼリー暗殺未遂は、原作小説版の彼が経験した死に方を逆用させた、ハウゼリー自身からの提案によるものです。

要はマッチポンプですけど、怪我したのは本当で、助かっただけが違う部分。

彼自身が主張していた【現代宗教論】や、【運命論】を好むロナ家らしい確実性に欠ける作戦として用いていた。……そういう設定でっす。

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