ガンダム二次作   作:ひきがやもとまち

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昨晩に書く予定で出せなかった分も合わせた、完全版の状態で7話目をあらためて更新しなおさせていただきました。
だったら最初からやれよ、というお気持ちは痛いほど分かるのですが……眠かったんです。眠くて頭働かなかったんです、ゴメンナサイでした!(土下座)


正規版・戦記好きがキラ・ヤマトに憑依転生 第7話(完全版)

 C.E.70――《コペルニクスの悲劇》を発端として成立した地球連合軍とプラント間の対立は、《血のバレンタイン》の悲劇によって一気に本格的な武力衝突へと発展してしまっていた時代。

 

 そんな時代に《最高のコーディネイター》として生み出された少年、キラ・ヤマトとして生まれ変わっていた前世では戦記物を愛好していた僕個人にとっての初めての戦闘は、ザフト軍のモビルスーツ《ジン》から重突撃銃による2連射を受けることから始まりを迎えることになる。

 

 

 ダダダダッ!!

 

「――よしッ、終わった!!」

 

 イージスと共に機体前方に立っていたジンから初撃が放たれたのと、マリューさんに代わって行っていたOSの書き換え作業が完了したのは、ほぼ同時だった。

 このタイミングでの射撃を回避できた、エネルギーゲージでも損害なしに出来たのはストライクとジンの性能差によるものか、相手のパイロットが嘗めた撃ち方をしてくれたお陰だったのか、あるいはその両方だったからとしか言い様がない。

 

 グォンッ!!

 

 バーニアを軽く吹かして後方へとジャンプして初撃を避け、最初の攻撃をノーダメージで済ませる僕。

 原作のマリューさんが乗っていた機体に便乗していただけだったキラ・ヤマトと違って、僕は敵の攻撃方法を知っている。

 もちろん個々の戦闘という細かいところでは歴史は幾らだって、その場の変化に応じて対応を変えていく部分だけど、少なくとも敵が『最後に取りうる手段』は知っている以上、ムダな消耗はできるだけ避けるよう意識しなければいけなかった。

 

 それにジンの射撃は、動きこそ機敏で正確な動作ではあったけど、最初の位置で棒立ちしながら銃を掲げて撃ってきただけで、禄に横移動しながらの予測射撃すらやっていない。

 完全に『たかがナチュラルが造ったモビルスーツ如き』という視点で、侮った基準での対応をしてきているとしか思えない、適当すぎる攻撃手段。

 

 だけど、最初の攻撃が一発も当たらず避けられたことでプライドが傷つけられたのか、腰部からサーベルを引き抜くと機体に構えさせ、赤く光らせたモノアイを正面の敵ではなく傍らに立っているイージスに向けて点滅させる動きを示す。

 

 前世の記憶では、ザフト軍のパイロットであるミゲル・アイマンがアスランに向かって『お前は早く機体を持って帰投しろ』と告げている辺りのシーンが、この仕草をしていた時だったはずだ。

 この後アスランは躊躇いながらも、イージスのOS書き換えを行った上で母艦に帰投するため飛び立ち、戦場を離脱している・・・・・・その原作の流れを見届けるまでは僕の方でも下手に動き出すことが出来なくて、敵の油断に乗じる選択肢も選べないまま歯がみすることしか出来なかった・・・ッ。

 

 いくら僕が、戦闘の素人だったキラ本人と違って、原作知識持ちの憑依転生者として上手くやれるようになってると言っても、今の段階で《イージス》まで纏めて相手ができると信じ込めるほど、僕は今のキラが持つ能力と自分自身とを高く評価できていない・・・! スーパーコーディネイターの肉体だって万能じゃないんだ!

 

 今はとにかくアスランが戦場を離脱してくれるのを待つしか無い・・・それを確認した瞬間に反撃へと転じれるよう準備を急いでおかなければ!!

 

「武器は・・・・・・あった! 《アーマーシュナイダー》、これか! ――え・・・っ?」

 

 コンピューターに映し出させていた機体スペックデータの中に、目当てのものを見つけて喜びの声を発した僕だったけど――次の瞬間には、近くのモニター内に逃げ惑う人たちの一団が表示されて、思わずズームアップさせた“彼女たち”の後ろ姿に、僕の心とキラ・ヤマトの肉体は矛盾なく完全に同一の悲鳴を上げざるを得なくなってしまう!

 

「トール!? ミリアリア!? なんで、まだこんな所に・・・!?」

 

 それは、モルゲンレーテの地下研究施設へと続く道に、カガリを追いかけるため入る前に別れていた友人たちが地上の町中を逃げ惑っている姿だったからだ・・・っ。

 それは同時に、どうやら僕の行動と配慮には歴史を変えれるほどの力は無かったらしいと分かった瞬間でもあった。

 

 今ストライクの背後には、キラ・ヤマトの友人たちがいる。後ろに退くことは彼らを自らの機体で挽き潰すことになり、敵の攻撃を避けることは、彼らを敵の機体に踏み潰させることを意味する羽目になってしまう。

 

 モニター画面に、ジンがサーベルを――『重斬刀』を片手に持って走り寄ってきている姿が映し出されていた。

 動きを止めた『フェイズシフト搭載機』を、接近戦で仕留めようという気なんだと思う。――それはいい! 戦術的に間違った判断というわけじゃない!

 ただ、僕の動きの良さを警戒してなのか、動きが速い! アスランが飛び立って離脱し終える前に対応しなくちゃいけなくなる可能性が高すぎるほどに・・・!!

 

 ビィィィィッン―――。

 

 アスランの乗ったイージスが、フェイズシフト装甲を展開させて空へと飛翔し始める。

 その機影が、一刻も早くヘリオポリス市街から脱出して、レーダーから反応が消えてくれる時を、僕はひたすらに待ち続けることしか出来なかった・・・っ。

 今ヘタに動けば、敵機が武器を持ち変える危険性があった。ここで待ち受けて、剣での攻撃に対処することでしか、僕にはキラ・ヤマトの友人たちを守ってあげられる力が・・・・・・ない!!

 

 ズシン!ズシン!!ズシンッ!!

 

 重々しい足音と金属音を轟かせながら、ジンが迫るッ。

 ・・・威圧感に満ちあふれた光景だった。恐怖心と焦りからスロットルを踏む足に思わず力が入りそうになるのを必死に堪えながら、僕の視線は正面モニターとレーダーとを交互に素早く入れ替わり続ける!

 

 今、イージスがヘリオポリス内壁に近い位置まで差し掛かっていた。市街地からは出たものの、戻ってこようと思えば一瞬で到達が可能な距離でしかない。

 もう少し・・・もう少し・・・・・・内壁の近くまで到着すれば・・・イザークたちが脱出の時に使ったルートまで到達してくれれば・・・・・・ッ!!――よし! 行った!!

 

 レーダーから赤い光点が消滅したことを、視界の隅に一瞬だけでも捉えた瞬間。

 僕の肉体は自分が思考するより早く反応して、レバーを前に押し出す!!

 それはストライクに登録されていたモーションの一つを行わせるスイッチでもあった。

 

『フンッ! 幾ら装甲が良かろうが、そんな動きでッ!』

「く・・・っ!?」

 

 機体同士が接触する寸前まで近づいた距離になったことから、敵パイロットの声が回線に混じってきてストライクの中まで聞こえてくる!

 その声と共に突き出されてくるサーベルの切っ先―――コクピット部を貫いてしまえばフェイズシフトなど意味は無い――その攻撃を回避するため身体を捻らせると同時に前屈みの姿勢になって、屈められた脚部が地面への反動も利用して大きく前へと踏み込みながら体当たりを仕掛けさせる。

 

『生意気なんだよ! ナチュラルがモビルスーツな――なにィッ!?』

「もう止めろぉぉぉぉッ!!!」

 

 ズガァッン!!

 正面から突っ込んできていた敵の機体に突っ込ませる形で、ストライクの機体もまた正面からぶつかっていく!

 互いに大質量同士で衝突し合った衝撃で傷口が開いたのか、マリューさんが「うぐっ!?」と苦痛のうめき声を発するのが聞こえたけれど・・・・・・でも! それもこれで終わりだッ!!

 

『く、クソッ! なんだコイツ!? 急に動きが・・・っ』

「この! そんなものに乗ってるだけで、大した腕もないくせに――っ!!」

『なんだとッ!? 貴様――うおわッ!』

 

 僕は勢いのまま叫びながら、コントロールレバーを押して機体を操作する!

 自棄になっていたとしても構いやしないと、後から考えた時には分かる心理に陥っていたからだった!

 生まれ変わって初めての戦闘、生まれて初めての殺し合いになるかもしれない戦い・・・・・・そんなもの! 未来が分かってたところで勢いで誤魔化すしか自分の心と体を動かす術なんてあるもんかーっ!!

 

「うわぁぁぁぁぁッ!!」

 

 体当たりしながらボタンを押して、腰部から射出された二本の巨大なナイフを掴ませると、ぶつかりながら接触していったジンの機体各所に突き刺しながら切り刻む!!

 腕部! 腰部! それらを繋ぐジョイント部分!! それらの場所に刃を突き立てて切断させる! 実体刃のナイフで切られた箇所からスパークが生じはじめて、構え直そうとしていた腕が力なく、ダラリと垂れ下がる。

 

 敵機体の動きが完全に停止したのを確認した瞬間。

 一瞬の意識の隙間を縫うようにして、ジンのコクピットが開いて緑色のノーマルスーツを纏った人影が飛び出し、後方の空へ向かって飛び上がった光景を視認するのと、この事あるを知っていながら動くことを自制させられていたキラ・ヤマトの肉体が、僕の望んだ通りの仕草を再開してくれたのは、敵パイロットの脱出確認と完全に同じタイミングでの瞬間に重なり合うことになる。

 

 ズバァァァッ!!

 

 レバーを動かし、敵機に突き刺さっていたアーマード・シュナイダーの刃を思い切り『横方向』へと引くように動かさせる。

 丁度コクピットを切断する剣線を描かせる切り方だった。

 

 その後に僕もストライクを後方へと一旦飛び上がって退避させ、安全圏まで飛びすさる。

 次いでジンが、爆発四散した。

 モビルスーツの完全破壊だけあって戦車や戦闘機とは比べ物にならないサイズの火球が発生するけど、それほど大きな爆発ではない。

 

 少なくとも、化学反応による自爆装置を起動させた時よりかは小さな被害で収まった爆発だけが、ミゲルのジンが残した唯一の戦果だった。

 逃げようとする敵パイロットをバルカンで追撃できる肉体は、残念ながらキラに生まれ変わった僕は持ってないけれど、一先ずは安全な戦いの終わらせ方ができたことにホッとしていた。

 

 初陣としては上出来すぎる戦果だったかもしれない・・・・・・そうも思う。

 それでも僕は、そしてキラ・ヤマトの肉体は手に入れた結果に対して、さっきと同じように矛盾ない気持ちで、安心した想いを共有し合うことが出来てたんだ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・でも。

 僕はこの時、失念してしまっていた。

 

 一先ずは僕にとって上出来すぎる結果を手にすることができた初陣だったけど・・・・・・それは『僕に勝ちたかった敵』にとってみれば『屈辱でしかない撤退』にしかなれようがないのが、敵味方という利害が対立し合って一致しなくなったからこそ起きうる特殊な人間関係なんだという現実を・・・・・・。

 

 このとき僕は、自分たちの勝利結果ばかりに気を良くしてしまって、完全に思い煩うことが出来ない心理に陥ってしまっていたのだから・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ! クソッ! なんなんだアイツと、あの機体は!? まるで化け物じゃないか!」

 

 バーニアを吹かしながらコロニー内壁を上昇させて、雲の中へと逃げ込もうとしていたノーマルスーツ姿のミゲル・アイマンは、機体を失って身一つで命からがら脱出するしかなかった無様を晒した自分の姿に激しい怒りを感じながらも、身体一つだけで何が出来るというわけでもなく、逃げ帰るしかない屈辱に身を焦がしていた。

 

 ――たかがナチュラルが操る、ザフト軍の猿真似モビルスーツ如きに《黄昏の魔弾》という異名を奉られた自分が、一瞬にして勝負を決められ、あまつさえ自爆装置さえ発動する寸前に機体ごと一纏めに強制停止を余儀なくされるとは・・・・・・!

 

 あまりにもあり得ない、『未来が見えているとしか思えない』ほど鮮やかすぎる勝利であり、完全なる敗北だった。

 ナチュラル如きに、ここまで完膚なきまでに叩きのめされて逃げるしかなくなってしまったザフトの軍人など、自分以外には他に例がないだろう。

 もはや無事に生きて返ったところで、笑いものになる未来は避けようがないのが、彼の確定されてしまった未来と、失われた栄光への可能性。その結末。

 

「許せん・・・絶対に許さんぞ、ナチュラル共め・・・! この雪辱戦は必ずや晴らさせてもらう! 次の戦いこそ、お前たちの最後だと思い知らせてやる!!」

 

 歯を食いしばりながら決意を声に出すミゲル・アイマン。

 だが、一先ず今は母艦への帰還こそが急務だった。復讐戦を挑むためにも、機体と装備がなければどうすることも出来はしない。

 まずは母艦へと戻って事情を説明し、クルーゼ隊長から再戦の許可を与えて頂かねばならないだろう。その為なら頭など幾らだって下げれる。

 敗北と逃走の屈辱と比べたら、プライドを捨てる程度の恥など、どうという程のものではない。

 

 

「ヴェサリウス! 聞こえるか? ヴェサリウス! こちらミゲル・アイマンだ。

 奪取し損ねた敵の反撃によって、機体を撃破されてしまった。単独での宇宙飛行で母艦まで無事に帰投できるか分からないため、可能ならば回収を願う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミゲルから、その報告を受けとった時。

 ヴェサリウス艦長アデスは、嘘偽りなく本心から驚愕させられざるを得なかった。

 

「オロール機の大破に続いて、今度はミゲルの機体までが撃墜だと!? まさか、こんな戦場で・・・っ!」

 

 思わず愕然とさせられて思考を止めさせられるアデス艦長。

 今までクルーゼ隊が、ここほどの損害を被ったことなど今日まで経験したことは一度もなかった。

 ザフト軍内でも一目置かれ、若いながらもエースばかり集められていたエース部隊として勇名を馳せてきていた自分たちクルーゼ隊。

 

 ――だが今日からは、ナチュラルたちによる連合軍を相手に、ザフト軍内で初めて、ここまでの敗北を被らされた無能な部隊として、張り子の虎の代名詞呼ばわりされる羽目になるかもしれない・・・・・・。

 

 実際ザフト軍が連合相手に、こんな小さな戦力との戦闘で、ここまでの被害を出したことなど、かつて無い。

 それこそ、《エンディミオン・クレーター》で行われたサイクロプス自爆に味方ごと巻き込むやり方で損害を被らされた時以来の一方的な敗北だった。

 

 秘密裏に入港していた連合軍のモビルアーマー部隊や、オーブ軍のコロニー守備隊は全滅させたとは言え、所詮それらは頭数。

 勝てるのが当然の敵を倒したと言うだけであって、むしろその程度の敵を相手に大破を1機だけでも出してしまったのは失態とされるものであったし、ましてナチュラルが操るモビルスーツと1対1で戦っての撃墜など・・・・・・。

 

「クルーゼ隊長がおられぬときに、このような事になろうとは・・・・・・隊長とは、まだ連絡が取れんのか!?」

「まだですッ。・・・・・・どうやら戦闘が続いているようでして、こちらから近づかないことには通信だとさすがに・・・」

「く・・・っ!」

 

 苦虫を噛んだような表情になって、アデスはしばし迷う。

 順当通りに行くなら、このまま自分たちは現宙域で留まったまま、クルーゼ隊長が敵艦と敵モビルスーツ双方ともを撃破して戻ってこられるのを待っている方が賢明だった。

 隊長に敵うものなどザフト軍内部でも数えるほどしかおらず、ましてナチュラルたち相手なら言わずもがな。

 

 

 だが・・・・・・いや、だからこそアデスは迷っていた。

 クルーゼの勝利は、彼の頭の中で揺るがぬ前提の一つであり、疑うが故に迷う気持ちは一切無い。

 

 むしろ、隊長が敵部隊を倒して戻ってきてくれれば、全ての解決が可能な状況になっているのが今なのに対して、機体を失ってノーマルスーツ姿で脱出してきたミゲルの現状は、隊長の留守を預かる身として好ましいとは言いがたい。

 

 ――これ以上の被害と犠牲を出させないよう全力を尽くすのが、軍人としての責務ではないだろうか? 勝利の決まっている戦いのために、命を失う羽目になっては目も当てられない。

 

 敵部隊が未だ健在というなら話は別だったが、幸いなことにコロニー守備隊も連合の船も既に撃沈済みなのだから、宙域の安全は確保されている。

 ノーマルスーツひとつで脱出してきた味方の兵を回収するだけの距離までだったなら、なんの問題も無いだろう―――

 

 

 

「――よし、ガモフに連絡、ヘリオポリス付近にまで前進して接近し、脱出したミゲルの回収せよと! 我が艦も支援怠ることなきよう注意せよ!

 ヴェサリウスより装甲が厚いガモフと言えども、オロールたちの件もある。油断だけはしてくれるなよ」

 

 

 艦長からの命令を受けて、クルーゼ隊の2隻はゆっくりと動き出し、ヘリオポリスへと近づいていきながら距離を縮めていく。

 

 その決断と指示内容こそが、この時を待ち望んでいた男たちを率いる人物の唇に、邪気のない笑みの形を形作らせることには思いも寄らぬままに・・・・・・。

 

 

 

 

 

「よし、今だ! 残っているミサイルを全弾発射しろ! 地上を見下す高いご身分にこだわりたがる連中に、思い切り熱いのぶち込んでやれ!! ファイヤーッ!!」

 

 

 

 そう叫んで、時期を見て反撃に転じるため命令を下したオーブ軍参謀府のレン・ユウキ二尉だったが、現実問題として中立国オーブの中立コロニーでしかない《ヘリオポリス》には、防衛のためとは言え大した装備があった訳ではなかった。

 

 連合との密約によって《Xナンバー》を開発していた国がオーブではあったものの、これはモルゲンレーテと癒着の関係にあった機械相の独断であったことが後に発表されており、それはおそらく事実でもあったのだろう。

 

 だが、それは別にオーブ国元首ウズミ・ナラ・アスハの誠実な人柄を示すものではなく、ただ国内のコントロールと状況把握ができなくなっていただけが理由の全てだったと思われる。

 もともとオーブには《サハク家》という正規軍とは別の非公式な軍事組織が存在しており、彼らは連合軍勝利を予測し、連合寄りの方針を示している。

 《G》の開発も彼らの意によってとまでは思わないが、そうなるよう機械相を誘導していた可能性は高かったかもしれない。

 国の総意として一つの進むべき道たる方針を示せていないからこそ、分裂と独断の火種を大量に抱え込んでしまっているのがオーブという国の特徴だった。

 

 だが、どちらにしろオーブ所有の宇宙コロニー《ヘリオポリス》には碌な武装が設置されていなかったことだけは確かである。

 とはいえ宇宙コロニーであるからこそ、装備しておかざるを得ない武装というものも幾つかは存在し、コロニーへと接近してくる小惑星や隕石などを外壁に当たる前に撃ち落とすか方向を変えるために発射される自動迎撃ミサイルも、中立の立場をとるヘリオポリスが防衛のため有する装備の一つではあったのだ。

 

 レン二尉たちが、今回の攻撃を行う際に発射させたのも、この対隕石用ミサイルだった。

 本来は自動操縦で発射される設備をマニュアル操作に切り替えさせ、そしてザフト軍艦が接近してくるのをギリギリまで待った上で、満を持して速度が遅いミサイルの一斉発射が実行される。

 

 

「っ! ミサイル接近、八時方向!」

「なんだとッ! 後ろか!?」

 

 その攻撃をオペレーターが察知して艦長に報告した時、ヴェサリウスの艦長アデスは思わず巨体を艦長席から立ち上がらせて背後を見やり、振り返ったところで見えるはずのないミサイルの悪意を睨み付ける。

 

「ミサイル、更に接近! 距離約120、3秒後に本艦と接触しますッ!!」

「回避ッ!! 面舵20! エンジン全開ッ!!」

 

 立ち上がりながらアデスは、やるべき事まで失念する男ではなく矢継ぎ早に指示をくだし、脳内では思考を高速回転させながら敵の思惑を読み取っていた。

 

 ――やられた!というのがアデスの正直な感想だった。

 

 ミサイル攻撃そのものは、まだ回避中ではあったものの、敵の作戦それ自体には見事に引っかけられてしまったことを現在の置かれた状況から即座に理解して、歯がみする思いを味あわされる。

 

 仮にこの攻撃が、ただ自分たちが接近してくるのを待ってから撃ってきただけのものだったなら、彼とてそこまでの敗北感をナチュラル相手に感じなかったかもしれない。

 しかし、この敵が優れていたのは『ヘリオポリスに接近してきた自分たちザフト艦』を近づいてきた時には素通りさせた後、先行したローレシア級が安全に抜けられた位置からヴェサリウスが接近してきた瞬間を狙って発射してきた時間差攻撃によるものだった点にこそある。

 

 ――二重の油断していた隙を突いてこられたか! おのれ、このナチュラル・・・相当にやる!

 

「総員、衝撃に備えよ! 回避行動終了後、即座に反撃に移る! 諸元入力も忘れるな!」

「そんな無茶な!?」

「泣き言を言うな! 敵に殺されたくなければやるしかない!!」

 

 そして、アデスもまたクルーゼ隊の旗艦を任されている艦長だけのことはあり、無能さとはほど遠いコーディネイター兵士の一人でもあった。

 艦を敵の攻撃から回避させると同時に、避け終わった直後の反撃をも視野に入れた回避行動を同時に平行して行わせる・・・・・・頭では出来ていても実際に実行するのは難しい神業を、彼は完璧な形でやってのけて、そして成功する。

 

「・・・か、回避成功! ミサイルは本艦の真横を通過しました!」

「よし! 操舵手は良くやった! 続いて敵ミサイルの発射ポイントを割り出し次第、副砲による反撃に転ずる! ガモフにはそのままミゲルを回収するよう通達しろ!!

 《2連装レールガン》、撃てぇッ!」

 

 回避運動に成功したヴェサリウスは、即座に艦首を向け直して発射ポイントを探り当てると、副砲と対空機銃座による反撃を開始して、これの撃破にも成功する。

 あくまで副砲を使うだけで、主砲を撃たせなかったところに彼の優秀さと冷静沈着な指揮ぶりが洗われていたと言って良かったかもしれない。

 敵が潜んでいると思しきコロニーの外壁部は、内壁との距離が近くなりすぎていたのが、その理由だった。

 

 もし主砲が敵に避けられ、コロニー外壁に命中してしまった時には、自分たちの側がヘリオポリス破壊を意図的に狙って行われてたと解釈されてしまう危険があった。

 本国の決定によってオーブとの開戦も止むなしと決まっていたなら、彼とて遠慮などする義理は些かもなかったとはいえ、現時点では本国ではオーブに対する対応を決めかねているらしい。

 今の時点で自分から問題を大きくしたいとは思わないし思えないアデスとしては、自制しながら撃たせるより他なかったのである。

 

 ――ズバァァッン!

 

 艦橋の肉視窓から見える景色の中で、一つの光がコロニー外壁の一角で発生し、やがて静かになった。

 その光球に手応えを感じ取ったアデスは一つ頷くと、改めて旗艦も回頭させて万が一のためにもヘリオポリスと距離を取るべきかと命じようとした、その瞬間。

 

 グワン、と機体が揺れて小さな爆発のような衝撃が彼らを襲い、アデスは思わず艦長シートの背もたれにしがみつきながら、戦況を把握しようと指示を飛ばす。

 

「どうした!? 一体なにがあった! 各自、被害状況を知らせッ!」

『こちら機関室! メインエンジンに異常ありません!』

『主砲制御室およびハンガーも同様です! ダメージありません!』

『各装甲部のチェックを完了、ダメージレベル・グリーンです。先の攻撃で当艦が沈む可能性は極めて小』

 

 敵の攻撃を避けきって反撃に転じ、倒したと思って確認作業をおこなう瞬間を狙って、本命の一撃を放ってきたと思しき敵将の性格の悪さに反吐が出る思いを味あわされながらも、ダメージレベルの報告から安堵の笑みが自然と浮かんでくる感情を抑えきることはできなかった。

 正直ヒヤリとさせられた敵の作戦だったが、やはり性能による差は大きかったようだ。ヘリオポリスが碌な武装を有していなかった点も自軍に有利に働いた理由でもあったろう。

 どちらにしろ、これで障害は何もなくなった―――そう思っていた。だが・・・・・・

 

 

『か、艦長! 今の攻撃と爆発の衝撃によって、推進剤噴出孔の1つが完全にイカレました! 使用不能な状態です!』

「なんだと!? それで、修理は可能なのか!」

『無理ですよ! あんな無茶な機動を短時間で繰り返してたところに一発食らわされたんですッ、保つはずがありません!

 ドックまで帰還して本格的な修復作業でもしない限りは、現場での補修作業だけでは何とか動くまで持って行くのがやっとの状態ですっ』

「・・・なんてことだ・・・・・・」

 

 遅まきながらアデスは、敵の思惑に気づいて片手で顔面を覆い、自分自身の浅慮と油断に痛恨の思いを抱かされずにはいられない。

 敵にとっての本命が何であったのか・・・・・・今ならばそれが理解できる気がした。

 

 ヴェサリウスは高速機動戦艦だ。こと速力にかけては火力重視のローラシア級を大きく上回っている、ザフト軍が誇る新鋭艦。

 ――だが、その速力を宇宙空間で支えているのはスラスターでありエンジンであり、そして推進剤の存在なのだ。

 旋回速度一つをとっても、それ次第で大きく差が出やすい。それが宇宙空間における、物の移動というものだった。

 

 今やヴェサリウスは、本来の最大船速で追撃や追尾ができるのか、確実性が大きく目減りした状態にならざるをえなくなってしまっていた。

 少なくとも故障したバーニアがある方角への移動には、大きな制限がかかることを覚悟するしかないだろう。

 

 それは、“逃げる敵艦”を追う役目を果たす際には、大きすぎる制限になりかねない、小さくとも大きな損傷が自分たちの旗艦ヴェサリウスに深く刻み込まれてしまった瞬間だった。

 

「・・・・・・後は隊長を信じて、委ねるしかあるまい。ここで仕留めていただけさえすれば、次の追撃時があったときのみ有効打たり得る損傷など、子供が投げた石に当たった程度で済ませることができるのですから――」

 

 

 望みと期待と、わずかばかりの不安を込めて、アデスは収容したミゲルとともに艦隊を安全な距離まで後退させて再編し、単独で出撃した白服のエース隊長の帰還を大人しく待つ道を選択することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、今が未来に続いていたなら役に立つ可能性が高い一撃を当てることに成功しながらも、現段階では取るに足らない小さな石礫を巨人に向かって投げて当たったという程度で、巨人の側は倒れることなく痛がっているだけで済んでしまった『出来損ないのダビデ』とも呼ぶべき性格悪き知将レン・ユウキ二尉は、

 

 

「さて、これで俺たちが出来ることは今の段階では何もなしだ。後はコロニー内で戦ってる誰かさんたちが何とかしてくれることを祈るしかない。

 アークエンジェルの方も、たかが手持ちの爆薬程度の火力で吹っ飛ばされるほど、安い金で作った装甲じゃあるまいし、クルーに生き残りがいたなら動かせなくもないはずとは思うんだが・・・・・・」

 

 

 中継装置を使って、発射の指示だけを送れるよう細工しておいた通信施設を用いて行った、ザフト艦への追跡時における足止めを狙った反攻作戦。

 自分たち自身が隠れ潜んでいた場所は、発射ポイントから大分離れた位置を選んでいたのだが、それでも生き残っていた何割かが道連れにされてしまったのは、敵の艦長の優秀さによるところが大きかった。

 

 今回のところは痛み分け・・・・・・いや、この戦闘だけで決着してしまった場合には、一方的に自分の負けということになるしかない、シンプルでもなければフェアでもないゲームに胃が痛い思いを味あわされる羽目になるのがレン二尉の立場だった。

 

 

「やれやれ。後は運に身を委ねるしかないところが、信じて待つしか道が選べない立場の辛いところだねぇー・・・・・・」

 

 

つづく

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