『戦記好きキラ』の最新話です。
あんまキラっぽくないですが…そういう味を目指して現在迷走中…
コロニーの中と外とで複数の戦闘が同時に展開していた、ザフト軍によるヘリオポリス襲撃作戦。
コロニーの中で敗北した軍が、外側での戦いに勝利して内部への侵入に成功しながら、なおも追撃を受け続けているという、めまぐるしく戦況が入れ替わっていく戦場の様相。
そんな中、些か奇妙な平穏と安定とを得られている空間が一カ所だけ存在していた。
その場所は、この戦闘で最も早く被害を受けさせられ、無数の死体が宙に滞留したまま放置され、ごく僅かな者が生き残っているだけの惨状を呈した、完全に敗残の群れと化していたが故に無視されていた軍人たちが詰めている密閉空間。
即ち、【地球連合軍の新造艦アークエンジェル】の艦橋であった。
「・・・・・・つまり、無事だったのは貴官らを含めて、爆発のとき艦内にいた数名と、工兵たちだけと言うことか・・・?」
「はい・・・それも港口側の隔壁周辺には瓦礫が密集しており、撤去するだけで何時間かかるか・・・撤去作業のための重機もありませんし」
「完全に閉じ込められたと言うことか・・・・・・」
ナタル・バジルール少尉は、生き残っていた中では唯一の士官であり、この場にあっては最上位者として臨時に艦長席に座り込みながらも、頭を振って慨嘆する。
(なんと言うことだ・・・・・・これではアークエンジェルの首脳陣は、全滅に等しいではないか・・・!)
ザフト軍による破壊工作によって、艦長以下の主要スタッフたちは軒並み戦死――いや、爆死させられ、艦載機となるはずだった《Gシリーズ》のパイロットもどうやら全滅したらしい惨状。
そんな中で生き残っていてくれたのは、アーノルド・ノイマン曹長他の比較的若いクルーたちで、本来ならば正規要員から連合軍初の《MS搭載艦クルー》としてノウハウを教え広めるための、最初の教え子たちとなるはずだった者ばかり。
彼らには、アークエンジェルの初代クルーに選ばれただけあって、才能と将来性はあったが、それらを開花して生かすための経験が絶対的に不足している。
「それでも何とか、艦を動かすために必要な人員は最低限確保できたことだけは幸いと言うべきでしょう。これで生き残った者が工兵だけだった時には目も当てられません」
「・・・・・・確かに、そうかもしれんが・・・」
考え込んでしまった年若い上司を勇気づけるためか、敢えて現状の良い面だけを見てアーノルドが冗談めいた口調で語りかけ、重苦しくなりかけていた艦橋の空気は僅かに明るさを取り戻す。
確かに彼の言ったとおり、艦を動かすため最低限必須となるスキルを持つ者たちだけは、かろうじて生存者の中から確保することだけは出来そうだった。
トノムラ伍長は管制官としてCICをこなせる知識と技術があり、パル伍長も砲撃士官として訓練を受けたことがあるらしく、今時珍しい性を持ったチャンドラⅡ世も通信傍受や情報解析などの技術を個人的な趣味として会得している。
「私も一応ですが、スペースシップの運転免許を持ってはおります。無論これほどの巨艦を動かした経験などありませんが、時間さえかければ動かすぐらいなら・・・・・・」
「今はそれで十分――と言うしかないのだろうな。・・・・・・いや、待て。なんだ? このノイズは・・・通信妨害だと?」
ナタルは艦長席の脇にある装置をいくつか弄くりながら、その内の一つである通信回線から奇妙な音が発信され続けていることに、ようやく気付く。
――実のところ彼女たちは、ザフト軍の攻撃は半ば“失敗した”と、今の瞬間まで考えていた。
敵は中立コロニーであるヘリオポリス内で、秘密裏に建造されていたアークエンジェルの存在を察知して潜入部隊による攻撃を仕掛けてきて、艦長以下のクルー達もろとも爆破しようと試みたのだと彼女たちは現状の被害から推測していたからだ。
その攻撃は半ば成功させられてしまい、アークエンジェルを動かすため選ばれたクルーたちは大半が『戦う前に爆死』させられてしまい、艦は事実上の半身不随のような状態へと陥ったが・・・・・・敵の思惑を外れて白亜の戦艦そのものは無傷だった。
その事実から彼らは、敵が『アークエンジェルの耐久力を侮った』のが原因で、既に撃沈に成功したものと思い込んだまま帰投したのだろうと類則していたのである。
それはあながち楽観論とも言えぬ判断で、通常の連合艦であれば恐らくそうなっていただろう威力は爆発には込められていた。
たとえ爆弾だけで壊せずとも、周囲の機械類の誘爆や、落下してくる瓦礫の重さで艦橋が潰されてしまえば、それで戦艦の機能はほとんどが失われる。
サブブリッジはあるが、メイン艦橋を失って瓦礫の山に埋もれてしまった状態にされた後では驚異と呼べるほどの力は残されていまい。
だからナタルたちは、敵はそれを狙っていたのだと思っていた。自分たちが生き残っていたのも行幸としか言いようのない偶然の産物であり、敵としては当然自分たち全てを殺し尽くせたと信じているだろうと、そう思い込んでいたのである。
――だがそれなら、このノイズはおかしかった。
繋がらないならいざ知らず、通信を阻害するための妨害電波が発信され続けている証拠だからだ。
戦闘行為と認定されている電波干渉を、戦闘に勝利した後まで行い続けている理由―――まさか!?
「ノイマン曹長、生き残りから確保したスタッフを今すぐ艦橋に招集しろ。大至急だ。集まり次第、すぐさま艦を発進させる!」
「少尉!? 何を仰っておられるのですか!? 無茶ですよ! そんな寄せ集めの人員で戦艦を動かすなんてッ」
「そんなことは言われなくても分かっている! 敵が来る以上、出来なくともやるしかない!」
「え・・・?」
唖然として乗艦の言葉を脳内で反芻するノイマン。
外の状況を知っている者からすれば暢気な反応としか思われようのない鈍さであったが、情報的にも物理的にも孤立させられ、狭い密閉空間の中で閉じ込められていた彼らにとって、それが当然の反応であり、敵が狙っていた『保険』が功を奏した結果でもあった。
「こちらへの攻撃は陽動だ! 敵は本艦への攻撃を餌にして、《Gシリーズ》を誘き出して奪取するつもりでいる! MSを奪われ、艦だけ残っても完全にコチラの負けだ! MS搭載艦はMS無くして意味がない!」
怒鳴るように説明されて状況を理解させられたノイマンは、一瞬にして青ざめた顔色で「ゴクリ」と唾を飲み込む。
本来の艦長達すべてを爆殺されて、死体たちだけが漂う巨大な棺へと変貌させられた指揮所の光景を思い出してゾッとする。
アレほどの惨劇を作り出しておきながら、それが陽動でしかなかったというザフト軍の残酷さと冷酷さに心胆を寒からしめる思いを抱かずにはいられなかったのだ。
「・・・も、もう既に奪われ、手遅れになっている状況に飛び込むだけになる可能性も・・・」
「目的を達成した後の戦場に、戦闘濃度の電波発信を続けている理由はない!
我が軍のモビルアーマー隊かモルゲンレーテの部隊かは分からんが、これは未だ抵抗を続けている者がおり、その者のせいでザフト軍が未だ作戦目標を達成できず、戦場にとどまらざるを得なくなっている証拠に他ならん!!」
「・・・・・・っ」
説明とともに断言され、アーノルドも腹を決めざるを得なくなる。
出て行った瞬間に味方が全滅していれば、自分たちは飛んで火に入るなんとやらになるしかないが、味方が全滅して《Gシリーズ》が敵に奪われた圧倒的不利な状態で生き残れる可能性よりは、今出て行った方が少しは生き残れる確率が高まるのが自分たちが陥っている状況なのだと、そう理解して腹を据える他に道がなかったのである。
「そんな理屈を言ってる間に、艦を動かすにはどうしたらいいのか考えろ! ここで敵を突破できねば、我らは生きて地球に帰れる道はないッ! 死にたくなければ出来ずとも、やるんだ!!」
「~~っ!! 分かりました! やりますッ!!」
必死の表情に必死の思いを込めて、操舵士の座席に飛び乗るように着席してレバーを力一杯握りしめるノイマン。
その姿を厳しい視線と謹厳な表情で見下ろしながら、艦長席に座ったまま全体の指揮を執っていたナタルは―――内心では安堵の溜息を漏らしていた。
言った言葉に嘘はない。だから「出来る・出来ない」の問題を大声で主張したいのは自分とて同じではあるのだ。強気な態度と根性論で「やれ」と繰り返すことしかできない今の自分がもどかしくて仕方が無い。
なにしろ彼女自身もまた、年齢と階級が示すとおりに士官学校を卒業したばかりで、ろくな実戦経験もない新米少尉のヒヨッコに過ぎない身の上なのだ。
卵の殻も取れていない、ケツの青いヒヨッコ少尉に指揮されて戦場に行かされるのだと気付いてしまえば、アーノルド達の士気は大きく損なわれることは避けられないだろう。
――窮状に気付かせてはいけない。戦場で正気など保っていても価値はない。
不利を承知で、やらねばならぬという状況が求める必要性を成すため全力を尽くさせる狂気こそが、時に戦場では必要となる・・・・・・。
今になって、士官学校時代の教官から教えられ《ブルーコスモス的》と評されていた軍事論を思い出し、ナタルは苦い思いを胸の中で噛みしめる。
彼女自身は、そのように非合理的な思考を今日まで受け入れきれずに生きてきたが、今この状況下ではその教えが必要であることを痛感せずにはいられない・・・・・・そういう心境に陥っていたから・・・・・・。
「――主動力、コンタクト。エンジン異常なし、アークエンジェル全システム、オンライン・・・・・・発進準備完了!」
「よし! 気密隔壁閉鎖! 総員、衝撃に備えよ! 特装砲発射と同時に最大戦速! アークエンジェル発進!!」
・・・・・・ヘリオポリスの中の更に内側で、そんなやり取りが時間軸的には交わされていた頃。
その当時の記憶の細かい部分をスッカリ忘れて、僕は少々こまった事態を前にして戸惑うことしか出来なくなっていた。
「あ、あの・・・・・・大丈夫ですか?」
「・・・・・・・・・」
目の前で瞼を閉じたまま動かなくなっている作業服の女性、『マリュー・ラミアス』大尉さんの体をどう扱っていいものなのか、僕にはよく分からなくなって先程から視線を右往左往させることしか出来なくなってしまってたんだ・・・。
ミゲルの乗っていた《ジン》を、原作知識も使ってダメージ少なく撃墜したまでは良かったのだけど、本格的なMS戦闘の衝撃は、素人がデタラメに近い挙動で動かしていた原作におけるキラの操縦より、彼女にとっては負担が大きいものだったらしい。
ミゲルが逃げる寸前、「うぐっ!?」という悲鳴が聞こえたような気がしたけど・・・・・・案の定、彼女は傷ついた体にダメージが重なったショックで気絶してしまったみたいで、僕としては気を失っている『年上の美人さん』を前にして、どうすればいいのか分からなくならざるを得なくなってて・・・・・・。
い、いや、そういう場合じゃないってことぐらい分かってるんだけど、どうしてもその・・・・・・前世でそういう経験が皆無だった人生送ってたせいなのか、キラ・ヤマトの体が『DESTNY』で恋人と二人の同棲生活を3年にわたって過ごした後とは違ってるせいなのか・・・・・・なんか頭も体も動きづらくって・・・・・・。
ふと、フレイの時にもこんな感じだったのかな――と下世話な上にしょうもない疑問を抱いてしまう。『初めて』はちゃんと出来てたのか、そんなことを考えることで現実から目を逸らしていた僕だったんだけど・・・・・・そんな時だった。『その姿』が視界に入ってきたのは丁度その時。
「あ・・・・・・そういう流れだったんだ」
納得しながら僕は、ストライクを降下させていきながら―――サイたち、『ミリアリア・ハウ』がいる同級生グループの前に機体を着陸させたのだった。
「はい、これで大丈夫。応急処置だけど、傷の消毒と手当てだけはしといたから」
「うん。ありがとう、ミリアリア。ホントなんて言うかその・・・・・・助かったよ」
「いいっていいって。私たちを助けてくれたのもキラなんでしょ? お互いさまよ」
気安く笑って手を振りながら「気にしなくていい」とジェスチャーしてくれるミリアリアに、本心から僕はホッとさせられていた。
やっぱりキラ・ヤマトの肉体は、女の子にモテやすい割に扱い方が上手くできるようには作られていないらしい。月でラクスとの買い物を楽しんでいるシーンを見たときには、「なんてデリカシーのない男なんだろう」ってバカにした記憶もあったけど・・・・・・今こうして自分の体になってみると前言撤回してでもいいから、そういう技能を早めに習得しておいて欲しかったって本気で思っている僕がいる・・・・・・。
こんな状況下だって言うのに、それでもまだ下世話な話を意識せずにはいられない、思春期真っ盛りだった頃の16歳少年キラ・ヤマトの肉体を持て余し気味になってた僕は、一つ頭を振って元いた位置に戻ろうとした瞬間、思わずギョっとさせられる。
「すんげーなぁ、このガンダムっての」
「動く? 動かないのかな? って言うか、なんでまた灰色になったんだろ?」
「お前ら! あんまり弄るなって」
トールとカズイが、片膝をつかせていた着地させてた『ストライク』の機体に乗って、近くから興味津々な態度で凝視してしまってたんだ!
特にサイは、コクピットに座ってしまって周囲の計器類を見回してしまってまでいる! サイは止めてくれてるけど勢いがなく、弄くることしか注意してくれてない!
マズい! いくら何でこれはマズすぎる行動だ! たしかマリューさんが起きた後に起きてた気がするイベントだったから油断してたとか、そーいうのどうでもいいぐらいにヤバすぎる二人を止めないと!
「危ないよトール!カズイも!早く降りてッ!!」
「?? なんでだよ? さっきまで操縦してたのキラなんだし、いいんじゃないか?別に」
「そーだよ。俺たちだってお前と同じ同じ工業カレッジの学生なんだぜ? ・・・それとも、やっぱりお前じゃなきゃダメだったりするのかよ・・・?」
「そーいう意味じゃなくて、さ・・・・・・」
思わず脱力しかかかりながら、それでも何とか気力を奮い立たせて二人を説得する言葉を探す。結構きつい努力だったけど、やるしかない・・・。
正直はじめて見たときには、僕も二人と似たような感想を抱いてマリューさんが横暴だったように見えてしまったのは覚えているんだけども・・・・・・今なら流石に二人のやってる行動のマズさは分かる。分からざるを得ない・・・。
だって彼らが今やっている行動は、立派に【スパイ行為】に該当してしまっているからだ・・・。
フェイズシフトは現時点で連合しか、あるいはオーブしか実用化に成功してない防御手段としては最高水準を誇る最新兵器だし、トールに至ってはコクピットブロックなんていう最重要な気密の塊をジロジロと目撃してしまった後の状態・・・・・・。
壊れた後の破片でさえ、情報収集のため出来るだけ写真に収めたがってた少佐の話を持ち出すまでもなく、機密情報を持ち出しまくってしまった可能性がありすぎる状態に今の2人はなってしまった後だったんだ!
これで威嚇するだけで不問に付してくれたマリューさんは、軍人としてどうかと言うぐらいに甘すぎる人だったんだなって今なら分かるよ! 分かるから2人を止めなくちゃ!
このままだと目撃者次第で、本当に銃殺刑の処刑台送りになっちゃうよ本当に!? いやマジで!
「・・・・・・それ実は僕、勝手に乗って動かしちゃってたんだ・・・・・・許可取ってた訳じゃないから、あの人が起きたことに乗ってるとこ見られたら、共犯ってことになって一緒に銃殺刑とかの可能性も・・・・・・」
『ひ、ヒェッ!? ま、ままマジでッ!?』
言われてから急に慌てだして、アタフタしながら機体から飛び降りるような勢いで降りてくる2人。
・・・本当とは言えない話だったけど、必ずしもウソって訳じゃないから仕方がない――かなぁ・・・?
実際、連合軍の機体であるストライクを許可なく使ってたに対して原作では連合軍紀に基づく略式の軍事裁判で死刑が言い渡されるのが妥当だって、ナタルさんが言ってたことあったしね。
たぶん彼女が今の2人を見てたときには、同じ判決を求めてたんじゃないかって、僕は思う。その時に原作のキラと違って軍事知識がある今の僕にはフォローできる自信がないから・・・・・・これぐらいで済んで良かったんだと僕は心から、そう思うことにしておく事にする。
「うっ・・・あ・・・・・・」
「あ。気がつきましたか? キラっ、この人、目が覚めたみたいだよ」
「あ、うん。今行く」
丁度タイミング良く、背後でマリューさんが意識を取り戻したみたいで、ミリアリアが僕の名を呼んでくれて返事をして、その場に早足で近づいていく。
「まだ動かない方がいいですよ、傷に障りますから」
「あ、あなたたち・・・は・・・・・・?」
「工業カレッジの学生です。あっちの彼らが僕の仲間で、気絶したあなたを運ぶのを手伝ってもらったんです」
「そう・・・なの・・・・・・助けてもらったのね。ありがとう・・・」
「い、いえあの・・・すいません・・・・・・」
「・・・・・・??・・・」
目が覚めたばかりで意識がハッキリしていないのか、潤んだような瞳で見上げてきながら、痛みを堪える声で感謝の言葉を聞かされてしまって―――思わず僕は逆に、申し訳なさで謝らずにはいられない心境になるしかない・・・。
特に、後ろの方で顔面蒼白になりながら知らんぷりしながら顔を逸らして、サイに睨まれている友達を庇ってしまっている立場としては、スゴく居心地が悪すぎる状況だったからね・・・。
とはいえ彼女としては、助けてもらった相手にお礼を言ったら逆に謝られて頭を下げても、意味不明すぎて混乱するだけなのも当然の反応なのは分かるので・・・・・・えっと確か、原作でキラが言ってた言葉がそのまま使えたはずだから、それを言おう。同じような態度と口調で言えるか分かんない心境だったけど、今はソレを言うしかない・・・!
「えっと、あの・・・・・・なんか僕、ムチャクチャやっちゃって・・・・・・そのせいで傷口が開いて気絶してしまったのも、元を正せば僕のせいみたいなものですし・・・」
「・・・ああ、そういう・・・こと。いいのよ、気にしなくて・・・結果的にでも、あなたに助けてもらったのは・・・事実なんだから・・・・・・」
「そ、そうですか? そう言ってもらえると助かりますけど・・・」
「・・・もっとも、アレは軍の重要機密だから・・・民間人が無闇に触れてもいい物でもないのは事実・・・だけど・・・・・・私が不甲斐ないから助けてくれたあなたに、責任を問うのは・・・非道だものね・・・?」
「そ、そうかもしれませんね。あは、あハハハ・・・・・・」
―――必死に誤魔化しの愛想笑いを浮かべるしかない僕!!
この状況で、一体それ以外に何が出来るって言うんだ!? ああもうクソッ! こんな事やってる状況じゃないって分かってるはずなのに、なんか体が! いやコレはもう僕自身の方が原因なのか!? なんだかもう本来の自分とキラ・ヤマトが矛盾なく混ざり過ぎちゃってる状況に混乱しちゃって、ああもうクソゥッ!!
「ただ・・・申し訳ないんだけど、あなたはこのまま皆と帰すわけにはいか・・・ないの・・・。軍事機密を見過ぎてしまっているし・・・今のままだと軍事機密漏洩の危険を排除するため、身に危険が及ぶ可能性が・・・・・・あっ!?」
そこまで言ったときだった。
空高くにある一部から―――僕たちが今立っている場所から見上げた天井に描かれている空の映像から、一部が内側へと砕け散って、外側から中へと侵入してきた二つの物体を遠目に映し出すことになったのは!
あの機体は―――《メビウス・ゼロ》と《シグー》!?
まさか!? こんなに早く来るなんてッ!!
「ほう? アレか。ラスティが奪い損ねた最後の1機とやらは」
ムゥの追撃を受けながらも、ヘリオポリス内への侵入を果たしたザフト軍の指揮官ラウ・ル・クルーゼは、下方の一角に鎮座している全長20メートル長の巨人を見つけてズームアップさせると、MS《シグー》の中で勝利の笑みを浮かべながら呟き捨てる。
正確には空からではなく、地上から見上げた空との境目を繋ぐように設置されている、巨大パイプにも似た形状を持つシャフトを突破したクルーゼを追うようにして飛び込んできたメビウス・ゼロに乗るムゥ・ラ・フラガも同様のセリフを放つが、こちらは焦燥に満ちていた。
「チィッ! 最後の一機か! アレまで渡すわけには・・・っ」
前者の声には余裕の嘲弄が混じり、後者の声には焦りと義務感とが色濃く滲む。
それは両者の戦力差と戦局そのものと、そして互いの機体の状態を示すものでもある。
もともと母艦を落とされ、補給を受けられないまま戦闘を継続していたムゥのメビウスは、敵に追いついてきたとはいえ満身創痍の状態に陥っていた。
敵の足を止めること、守り抜くことに気を取られすぎたせいで、攻撃には慎重性を欠き、翻って敵将は自軍の有利さを良く理解している男でもある。
焦る必要はなく、冷静さを維持しながらただ進むだけで、敵は焦りを深くせざるを得ない。心理戦を得意とするクルーゼにとっては最も有利な戦場だったと言ってよい。
その結果として、既にムゥのメビウスはほとんどの武装を失い、《対装甲リニアガン》が一丁だけという有様だ。
連合軍内では彼だけが使いこなせる専用装備とも呼んでいい特殊武装《ガンバレル》は既に一基残らず破壊されてしまった後となり、モビルスーツ相手に直線機動のモビルアーマーで互角以上の戦いを可能にしてくれるオールレンジ攻撃はもはや不可能。
リニアガンも火力は高く、主力武装ではあるとはいえ、本来のメビウス量産機に搭載されているものと全く同じ代物でしかない以上、『ムゥだからこその戦い方』は今の愛機にはできなくなっており、凄腕の一般兵としての戦い方で止めるしか他に手立てがない。
単なる量産機乗りエースとしての力と戦い方で、“あの”ラウ・ル・クルーゼが操るMSを止めることは出来るだろうか・・・? だが、他に手がない以上やるしかない!!
――実のところ、キラが彼らが突入してくるまで時間を浪費してしまっていたのも、彼らの戦いと損傷具合が理由だった。
原作において、コロニー外から内部に至るまでのムゥたちの戦いと、コロニー内でマリューと語らっていた時との時間軸でのつながりが正確に表示されていた描写はなかった。
このため原作知識持ちの転生者だったキラは、意識を取り戻したマリューから協力を頼まれ、《超高インパルス砲アグニ》を備えたランチャーストライカーパックを見つけ出して運んでくる辺りまでは、安全圏の時間なのだろうと想定して動いていたのである。
だが、この世界での時間軸は予想を大きく超えて短縮されてしまったらしい。
ランチャーストライカーとのドッキング作業はおろか、指示すらされる前に突入されるとは思ってもみなかったのである。
だが、予想外だろうと何だろうと、来てしまった敵には対処せざるを得ない。
「させるかァァァッ!!」
『フ――ッ!』
ガクンと機体を傾けて高度を下げ、下方へと向かって降下してみせたシグーを追ってメビウスも同じ高さで迎撃するが――それが致命傷となる。
何度かの地上までの降下中にドッグファイトを繰り広げながらも、やがてクルーゼは地上にある標的からいったん離れて高度を上げさせ、
『ハッ、終わりだな・・・・・・ムゥ!』
「なにっ! しま・・・・・・っ!?」
戦闘機パイロットとして絶対的に不利な体勢の、相手に上を取られてしまった状況へと陥ったムゥは、相手の思惑を察して自分が乗せられていたことを同時に自覚させられる。
全ては罠だったのだ。自分を誘い出して確実に仕留めるための・・・!
もともと宇宙戦闘用に造られているモビルアーマーの『メビウス・ゼロ』は、コロニー内では重力に縛られて動きが大きく制限される。
そのうえコロニー内の重力は地上に近くなるほど高くなり、上方にいる間はそれ程でもない。高度の違いごとの重力の誤差は、ムゥに感覚を狂わさせて対応と理解を遅らせる原因となってしまっていたのだ。
「くそォォォォォォッ!!」
何とか空から迫り来る敵から守り抜こうと、普段よりずっと重く遅く感じる機体を無理矢理にでも上に向かわせようと、コントロールレバーを力一杯全力で手元まで引っ張ろうとするムゥだったが―――それさえも敵将にとっては予測の範疇を出ない行動に過ぎなかった。
機体に持たせていた武器を切り替え、それまで使っていたマシンガンからサーベルを使った白兵戦モードへと移行させるとシグーを急降下させはじめ、上方からの落下速度も加算させた神速の一斬を以て―――リニアガンの銃身を切り飛ばす。
『地に落ちるとは哀れだな! 重力に捕らわれた鷹というものはッ!!』
「お、おのれクルーゼぇぇぇぇ・・・っ!!」
唯一残されていた武装を失ったメビウス・ゼロの中で、ムゥは無念と怒りの叫びを上げる。
こうなってしまっては現連合軍の最高性能機も、たんなる飛行機となにも変わらない。
長大すぎるリニアガンの銃身によるデメリットを、理解していないムゥではなかったが、この場合他に選べる道が彼にはなかった。
何故なら地上に残されている、最後の《G》に乗るはずだったパイロット候補生は、もういないのだ・・・! 自分が守らなければ全てが水の泡になってしまう・・・! そう彼は思っていたから。
だが、しかし。
ムゥの無駄と承知であらがった必死の努力は、無駄ではなかった。
「ミゲルを退けたほどの敵であるなら、今のうちに沈んでもらうッ!!――なにッ!?」
『うわァァァァァァァァッ!!!』
メビウスを無力化した勢いに乗って、そのまま速度を落とさず最後に残った《G》に、突撃しながらの一撃を叩き込んでやろうと急降下しようとしたクルーゼの前に、猛スピードで地上から迫り来る目に映った。
その機体は真っ直ぐ、上だけでを目指して全速力で飛行しており、地上へ向かって急降下しようとしていた自機との距離は、既に回避不可能であることを計器は示している。
ムゥの横やりを完全に排除するため一旦は高度を上げてから再び降下してきたクルーゼの行動は、キラにストライクへと乗り込んで起動するだけの時間を与えてしまっていた。
その機体を再起動させた瞬間。
転生者であり、次に敵が動く行動を『知ってはいない』までも『同じ可能性が高い行動』を予測可能な原作知識持ちの利を生かし、フルスロットルでストライクを急上昇させ、真っ直ぐ上へ向けて全バーニアを噴出させていたのである!!
「チィッ!? なんなんだこの機体は! あのパイロットは阿呆か!?」
『うわァァァァァァァッ!!!!
ストライク・ロケットぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!!』
両手に構えさせて真っ直ぐ上へと伸ばせている《アーマーシュナイダー》のみを武器として、ただただ真っ直ぐ相手に突っ込んでいく体当たりを断行しようとする敵機に対して、クルーゼは呆れさせられながら、その耐久力と上昇速度に冷や汗を浮かべずにはいられない!
ガキィィィッン!!
金属音が響き渡り、何かが砕け散って、地上へと落ちていく光を乱舞させている光景が目に映る。
衝突を回避しようとして回避しきれなかったクルーゼのシグーが、左腕を損傷して内部機構にもダメージが波及していたのである。
――実戦経験がないキラ・ヤマトの肉体と、知識はあってもキラより能力が低く《アグニ》がない自分には、現時点でクルーゼを撃退できる力がないことを理解していた故に放った転生キラの一撃が、クルーゼに強かな痛撃を叩き込むことに成功したのだ!!
「く・・・っ! 左推進システムに異常だと!? ヤツめ、やるッ!!
――な、なんだ? 今度は何だというのだ!?」
エラーを告げる赤色のランプが点灯しているコクピットの中で、クルーゼは二度目の驚愕を口に出す事態に陥らされてしまう。
突然に近くの山間が爆発したかと思うと、その中なから巨大な白い物体がゆっくりと姿を現しはじめていき、その全貌が窺い知れる頃にはクルーゼにも状況は説明の必要がなくなっていた状態へと激変していた。
「戦艦だと!? 生きていたのか・・・イザークとディアッカめ、口ほどにもないッ!!」
敵にとどめを刺せたかどうかも確認せぬまま帰投してきた部下達の無能さを罵倒しながら、クルーゼは判断に迷う。
――退くべきか? 留まって戦闘を継続すべきか?
敵は明らかに準備不足な状態で戦いを挑んできている。今なら、このまま力押しで攻めることで結果的に押し切ってコールド・ゲームで勝ててしまう。そういう勝利も現実の戦場ではままある事なのだ。
戦術教本にあるように、全てのことが合理的に進んでいるのであれば、戦闘で負ける者など滅多にはいない。
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!』
「またコイツか!? ええい、鬱陶しい!!」
だが、そんな彼に決断を促したのは、またしても先程の白いMSだった。
動きはメチャクチャな癖に、やたらめったら自分に飛びかかってくるので落ち着いて考える余裕すら出来はしない。
ハッキリ言って、素人が無謀な突撃を繰り返しているだけでしかない攻撃だったが、機体の機動力とバケモノじみた耐久力によって行わればクルーゼとて軽くあしらう訳にはいかない物質兵器へと変貌してしまう!!
「ふんっ、仕方があるまい。ここは退くか。後は第二陣のミゲル達に任せるとしよう。
機体の性能に助けられたな、阿呆なパイロット君」
負け惜しみ、という程でもなかったが不快さを込めた嘲り文句を残して一時撤退する道を選択したラウ・ル・クルーゼ。
だが、この戦闘が集結した後。
このとき見逃してやった『阿呆なパイロット』が、自分の出生にも関わる憎むべき『居てはならない存在』だったことを知ることになった時。
彼が仮面の下に隠した素顔で、どのような表情を浮かべていたのか・・・・・・誰も知らない。
つづく