今のテンションに合ってて書きやすいのは、どういう作品か分からず、色々試してる中の一作となります。
アスラン・ザラは奪取した機体ですでにヘリオポリスから脱出し、ヴェサリウスへと帰還した後、MSハンガーを見渡せるパイロットルームで寛いでいる最中となっていた。
分厚く巨大なガラス窓の向こうに覗ける景色では、メカニックたちが忙しく駆け回って怒鳴り声のような指示を出し合っている。普通の声量ではとても聞こえない。
『6番コンテナだ! ジンにD装備をッ』
『作戦開始日時0100時。マシュー機、待機位置へ前進!』
それらの光景を見下ろしながら、アスラン自身はノーマルスーツを着用して出撃可能な状態は維持しているものの、実際には今回の攻撃メンバーから外されて待機組になることが既に決定された後になっていた。
彼と同じく待機メンバーに割り当てられている同僚たち、ディアッカ・エルスマンとイザーク・ジュールが、皮肉な語調で論評するように言ってくる声が聞こえてくる。
「オヤオヤ、D装備だってさ」
「要塞攻略戦でもやるつもりなのかな? クルーゼ隊長は」
チューブに入ったジュースを片手に、ディアッカは寛いだ姿勢のまま、イザークはソファに深々と身を沈めながら他人事のように味方の攻撃準備を眺めやり、せせら笑いを浮かべ合う。
彼らを含めてアスランたち赤服のエースたちには現在、待機命令が出されており、一時的ながらも休憩時間が与えられた形となって弛緩した空気が流れていた。
これは、ヘリオポリスへの潜入と敵新型MS奪取に成功したことへの褒美――という事にはなっているが、実際には母艦のMS搭載可能数が理由になっての結果というのが大きかった。
クルーゼ隊を形成している《ナスカ級》のヴェサリウス、《ローラシア級》のガモフは、両艦共にMS搭載数は6機まで積むことが可能になっている。
エース部隊の名に相応しく、クルーゼ隊は今まで戦死者などの欠員をほとんど出すことないまま今日まで戦い続けてきた猛者たちの集団で、此度の出撃時にも上限一杯までMSを積んだ状態で出向してきていた。
そこにアスランたちが潜入の末に奪取してきた4機の《G》が追加されたのだから、当然のこととして収納スペースが足りなくなる。
無論、ハンガーに入らないからと破棄するような浪費をすることはなく、ワイヤーで牽引するなどして外部から引っ張って持っていく等の工夫がされるのが常なのだが、流石にアスランたちが元々使っていた愛機と共用させ続けられる余裕はザフト軍にもない。
このためアスランたちがヘリオポリス潜入前まで使っていた愛機の《ジン》は、既に他のパイロット候補の緑服メンバーたちに譲られることが確定しており、OSも彼ら用のものへ書き換え作業が完了した後になってしまっていた。
また一方で、アスランたちが奪取してきた《G》は、未だデータの抽出作業が終了しておらず、宇宙用および個人データのOSへのコピーが終わっていないため、出撃したくても機体がない。というのが現在の彼らが寛いでいられている最大の理由だ。
またこれはクルーゼが下した、『全てのジンにD装備への換装』という作戦指示が影響した結果でもある。
メカニックたちの多くが換装作業に割かれてコンピューター操作の専門技師が減り、優先順位もあったことから《イージス》等への調整作業は後回しされる形にせざるを得なかったというのが、その事情だった。
「でも、D装備なんて・・・・・・そんなもの持ち出してしまったらヘリオポリスは・・・」
そんな光景を目にしながら、彼らとは真逆に気遣わしげな口調と視線で疑問視する声を上げるニコルだったが、イザークたちは意に介さなかった。
「しょうがないんじゃなイ? あんな物造っちゃってた国のコロニーなんだからサァ」
「自業自得です。中立とか言っといてさ、これだからナチュラルは信用できない」
平然と切り捨てる返答を返し、ふんぞり返ったまま微動だにしない彼らの心に、『敵に味方していた嘘吐きの中立国』の不実さを責める気持ちはあっても、そんな嘘吐き中立国に侵入して爆破テロじみた作戦で奇襲を断行し、『宣戦布告もせぬまま攻撃を開始した自分たち』の行動を疑問視する気持ちは些かも存在していないようだった。
相手が悪い奴らなら、悪行を止めるため何をしても許される―――そんな発想が彼らの心には深く根ざして、疑いを抱かなくなった世代が彼らだったからだ。
知性は高くとも10代そこらの少年兵たちを戦場へと自主志願させ、『人殺しをして来い』と命じざるを得ない新興国家プラントが抱える、総人口の少なさと出産率の低下という問題の弊害がここにあった。
ただ『人を殺すため戦場に行け』というのでは、少年たちを戦場に駆り立たたせるには響きが良くないのである。
誰だって自分の子供が『人殺しになって欲しい』と思っている親はいない。出来れば誠実に生きて幸せになって欲しいと願うのが、一般的な子供の親というものであろう。その点ではコーディネイターもナチュラルの親たちでも変わりようがない。
だからこそザフト軍は、『勧善懲悪』に基づくプロパガンダと教育方針に力を入れてきた過去があった。
丁度MSという新機軸の起動兵器が完成したという背景もある。
自分の手にナイフを握って人を刺し殺し、血塗れの相手から呪詛の言葉と憎しみの目を向けられながら、二度と動かぬ死体へと変えていく凄惨な作業を繰り返すのが戦争だと教えるより。
モニターの中に映るカーソルに合わせてトリガーを引くと、遠くで敵機が煙となって爆発して消える―――“だけ”でしかないゲーム感覚の作業こそが戦争なのだと教えた方が、少年少女たちにはウケが良く、志願兵は増えやすかった。
それらの影響を受けて育ったが故の結果として、自分たちの将来を大きく揺り動かす理由になっていくのだが・・・・・・今はまだ彼らに未来の己自身を知れるわけもない。
「それにミゲルが敗れて、クルーゼ隊長も損傷させられたコロニーだという話でもあるしな。大方、奪取し損ねた最後の一機が地球軍の奴らに渡ってしまったのが原因だろう。
ジンでアレを落とすには、D装備ぐらいは必要だからな。仕方がないさ。
――もっとも、誰かが機体を取りこぼすことさえなければ必要のない無益な犠牲だったかもしれないがね?」
「・・・・・・・・・」
揶揄するように言いながら、ディアッカと共に嫌な目つきで見据えた先には、憂いの表情を湛えてハンガーデッキを見下ろしながら宙を漂っているアスラン・ザラの姿があった。
ニコルはそんな仲の良い友達の気持ちを慮って心配そうな視線を向け、イザークたちは僚友の傷ついたプライドに塩を塗り込むのを愉しむようにイヤらしい笑顔を浮かべて笑う。
・・・・・・だが、このとき彼らは完全に勘違いしていた。
アスランが浮かべている憂いの表情は、イザークたちが放った嫌味の痛み故ではなく、ニコルが気遣ったような事柄に対して友人は気にしていられる精神的余裕を持ち合わせることができていない。
このとき実際にアスランが心で思い抱いていた心配事は、ただ一つだけ・・・・・・。
(キラ・・・まさか君なのか? あの機体を操ってクルーゼ隊長を撃退したのは・・・。
確かにアイツなら可能かも知れないが・・・しかし何故? 何故アイツが地球軍なんかに・・・・・・っ)
幼き日に分かれて、再会したばかりの親友。
同胞の中でも優れた能力をもっていた友人と、もしかしたら敵と味方に別れてしまっているかも知れない現在の状況に心痛めて、そればかりしか考えられなくなっていた今のアスランに他のことを不安がれる余裕はない。
想いはすれ違い、時に空転し、それぞれの信ずる正義と必要悪の虚像は区別される基準すらハッキリとしない・・・・・・そんな混迷の戦場で個々人の悩みや迷いは考慮されることはなく。
ザフト軍クルーゼ隊は、第二波攻撃隊の準備を着々と整えて作戦開始予定時刻を今や遅しと待ち望む―――。
一方で、ザフト軍と相対する羽目になった中立国オーブ領のコロニー《ヘリオポリス》でも、次の戦いに備えての準備が進められようとしていた。
むしろ混迷の戦場という点では、ザフト軍より敵側の方が遙かに雑然としていたかもしれない。
G奪取には最後の詰めで失敗し、ヘリオポリス攻撃でも敗北と撤退による『攻撃失敗』という結果に終わったとは言え、まがりなりにも戦闘そのものには勝利していたザフト軍に対して、連合側は完全に敗残兵たちの寄せ集め状態に陥ってしまっていたからである。
まずは、散り散りになって各個に応戦していた味方の兵を集結させ、一体誰が生き残っていて、誰が何をやって、現在の状況の何を知っているのか等の情報収集。それらから始めなければ何も出来ないという有様で戦闘準備どころではなかったのだ。
とりあえず順序として、生き残っている者達を誰が率いるかのリーダー決めが最優先でやるべきことだった。以後の方針は、その人物の意思に基づいて選ぶことになるだろう。
そのために三カ所に別れて戦っていた連合軍勢力たちは、一番目立つ存在のアークエンジェルにて合流し、初めて互いにそれぞれが顔合わせと自己紹介をおこない合うことが、今になってようやく可能になっていたのが連合側の事情であり内情だった。
「ラミアス大尉っ、ご無事で何よりでありました!」
「バジルール少尉! ・・・・・・貴女たちこそ、よくアークエンジェルを守ってくれました。おかげで助かったわ」
モニター下方に映し出されている光景に、マリューさんとナタルさんの二人が再会を喜び合っている姿が見えて、僕はようやくホッとした気持ちになって電源を切ると、ストライクのハッチを開けて身体を外へ現していた。
・・・なんだか、久しぶりに風を身体で感じたような・・・そんな不思議な感触がする瞬間だった。
それが未来を知っている転生者故の感覚なのか、それとも生まれ変わってから今日まで過ごしてきた『見たことのない現実の景色ばかり』の世界と、『見覚えのある非現実の景色』とが頭の中で一致するようになり、忘れていた記憶まで蘇ってきたからこその爽快感だったのか・・・・・・それは僕には分かりようがないし、正直分かりたいとも思わない。
下からの視線が集まってくるのを自覚しながら、それでも僕はタラップを握って原作通りのキラ・ヤマトと同じようにナタルさんたちの前へと降りていく。
「・・・おいおい、なんだってんだ? 子供じゃねぇか・・・」
「あの坊主が、アレに乗ってたって事なのか・・・?」
「――ラミアス大尉。その・・・これは、一体・・・・・・」
ヒゲ面をした整備士長のマードックさんの呟きから始まって、ナタルさんからもマリューさんに説明を求める言葉と視線が送られてくるのを、迷ってる表情で沈黙し続けるマリューさん。
原作を見た時から思ってたことだけど、彼女としては性格的にキツい状況だったんだなって、改めてみてるとよく分かる。
なにしろ彼らは、僕が――キラ・ヤマトが『コーディネイターだ』と分かっただけで銃口を向けてくる心理状態にある人たちなんだ。
そんな人たちに僕の素性を説明することは、余り口が上手いタイプじゃなさそうな彼女にとっては凄く難事だったんだろうなって、今になってだけど分かる気がする。
もっとも、今この時だけはアラスカに着いた頃と違って、彼女一人が抱え込む必要はないことも知ってたから、何も言おうとは思わなかったのも事実だけれど。
「あぁ~、感動の再会してるとこ邪魔して悪いんだがー」
「え? あ、あなたは・・・あの機体はもしかして・・・」
「地球軍第七機動艦隊所属、ムゥ・ラ・フラガ大尉だ。よろしく」
「あ・・・・・・第二宙域第五特務師団所属、マリュー・ラミアス大尉です」
「同じく、ナタル・バジルール少尉であります」
艦の上方から降りてきてから機体を降りて、マリューさんたちが話してる脇から話しかけてきた、ノーマルスーツ姿の長身で金髪をした白人の男性士官。――つまりムゥさんが僕たちの元へ初めて出会うことになる。
その後、ナタルさんとムゥさんの口から連合軍側が被った被害状況を伝え聞かされて、健在な士官の中では最高位だったマリューさんが、ひとまずアークエンジェルの指揮権を引き継ぐことが決められる原作通りの流れをなぞった後。
「で、アレは? 見たとこ生き残ったクルーってわけじゃなさそうだけど」
「はい・・・ご覧の通り、民間人の少年です。襲撃を受けたとき、なぜか工場区にいて私がGに乗せて共に避難するよう呼びかけたのです。名前は―――」
「・・・・・・キラ・ヤマトと言います。ヘリオポリスの学生で、コーディネイターです」
「キラッ!?」
背後からトールが呼びかける声に背を向けて、相手から名前を告げられるより前に僕は自分から一歩前へと足を踏み出すと、自分から名を告げる道を自ら選択する。
今回の原作と違う行動は、今までよりもキラ・ヤマトの肉体が重しになることはなくて、比較的スムーズにいくことが出来たのが嬉しかった。
彼もまた理解しているんだと思う。トールたちを・・・嫌なことをする道を選ぶよりも、友達を守るのに必要なことをするためだったら・・・・・・それは良いことなんだってことを。
『こ、コーディネイターだって・・・!?』
「・・・! なんなんだよ! アンタら、それは――っ」
「いいんだよ、トール。大丈夫だから」
「キラ!? でもコイツらは・・・っ」
「大丈夫。大丈夫だから―――ありがとう」
敵種族の名前を聞いて、思わずといった風に銃の音を鳴らしてしまう連合軍の兵士たちの反応に、いきり立って彼らの前に出て行って僕のことを守ろうとしてくれる心優しい友達の肩を掴んで、決して痛くないように引き戻しながら僕は語りかけると、連合軍の人たちにも聞こえるよう意思を伝える。
「・・・僕は確かにコーディネイターです。でも中立国オーブの国民で、プラントの市民ではありません。
むしろザフト軍は、僕たちが暮らしてた町とヘリオポリスを、こんな風にした人達です。協力したいと思える理由は、今の僕にはありません・・・」
『う・・・、む・・・・・・』
静かな口調で、感情的にならないよう抑制して事情を説明した言い方が効果的だったのかどうか―――とりあえず連合軍の兵士たちにも戸惑いが生じたことだけは分かる反応だけは得ることが出来たみたいだった。
僕はたしかに戦記物が好きだし、憧れてもいるけど、戦争が好きでしたいと思ってる訳じゃ決してない。キラ・ヤマトも戦争が得意すぎるだけで、本人が戦争をしたいと望んで協力したことは一度もない人だったと僕は今でも思っている。
ただ現実問題として、この状況下でトールやカズイやミリアリアやサイ、友達のみんなを養って生活を保証してもらえるためには、連合軍に僕の力を――スーパーコーディネイターの能力を売り込むしか他に交渉カードが僕の手元には存在していなかった。
その時に出来るだけ良い条件の方が自由度は高くなるし、原作の悲劇を避けられる確率も上げられるかも知れない。
自惚れるわけじゃないけど、原作展開を見る限りでは序盤で頼れるのは、キラ・ヤマトが持つ力のみ・・・・・・だからイヤだけど、本当に凄くイヤだって身体が強い拒絶反応を起こしはじめる境界線を危ういバランスでなんとか綱渡りする手段だって理解してるけど・・・!
それでも僕には、キラ・ヤマトの身体に生まれ変わった僕自身しか頼ることが出来ない状況下で、出来るだけ多くの人を助けられるには、それしかないから!!
――そう、僕はずっと考えていた想いを実行に移して、身体を震わせていた時。
その時だった。
「あ~、失礼? できれば我がオーブ国の一般市民を“敵国人と同じ種族だから”という理由での罪で、処刑しないで頂けると有り難いのですけどね?」
『!? 誰だッ!』
ジャキ!!と今度こそ音を立てて兵士たちが一斉に銃を構え直して、新たに現れた所属不明の男性に警戒心を露わにしたとき。
・・・・・・僕自身も、思わず頭が真っ白になって、一瞬だけ何を考えているのか自分でもよく分からなくなってしまうことになる・・・。
「え・・・? あなたは・・・一体・・・・・・」
思わずそう呟いたのは、決して演技なんかじゃない。素で驚かされて、気の利いた言葉が何も出なくなってしまってた中で、つい口をついて出てしまっていただけの言葉・・・無意識だった。
知らない男性が、そこに立っていたんだ。
転生者である、原作知識持ちの僕が見たことのない人物が・・・・・・キラ・ヤマトとなった今の僕を見つめてきながら・・・。
「ッ! ユウキ二尉!? あなたも生きておられたのかっ!」
「どーも、バジルール少尉殿。先程ぶりですね、お互い死んでいなかったようで何よりであります」
「・・・・・・バジルール少尉? 彼は、いったい・・・」
マリューさんが、予想外の展開―――と言うより、原作外の展開に対応できなくなって言葉を失ってしまっていた僕の代わりに聞いて欲しいことを質問してくれる声が聞こえてきていた。
そうなんだ。彼は一体何者なのか? それが僕にとっても―――原作知識持ちの転生者である僕にとって一番聞きたい、知りたい情報の最たるものだったから・・・。
「バジルール少尉どの以外の方とは、お初にお目にかかる。オーブ軍参謀本部付き武官、レン・ユウキ二尉であります。
現在は緊急時の特例事項によって、管制センターの臨時指揮も担っている身でありますが―――現場の長は最初の攻撃で爆死されて殉職されたらしく、所員たちも散り散りになって待避するよう命令してしまいましたので、肩書きだけのものと思っていただきたい。以上であります」
「は、はぁ・・・・・・」
・・・・・・あまりにもと言えばあまりに軍人らしくなさすぎる男の人の自己紹介に、マリューさんも同反応を返して良いか分からなくなって、戸惑ったように同じ連合兵の人達を振り返ってる姿が見えるけど・・・・・・コレは流石に彼女を責められそうもなかった。
なんだか・・・雰囲気が違いすぎる人だった。ムゥさんも決して軍人っぽい人じゃない、軽薄そうにも見えてしまう態度の人だったけど、この人はなんて言うか・・・・・・表現しづらい軽さがあって・・・なんて言うかこう・・・なんて言っていいのか、自分でもよく分からない・・・。
そんな僕たちの困惑をよそに、ユウキ二尉と名乗った男性は僕たちに向かって「ニコリ」と笑いかけ。
「まっ、それはそれとして。オーブ軍人としては、彼の身体はできるだけ傷つけんで欲しいですな。
大西洋連邦軍の軍人たちが、自分たちの故郷を壊した敵国人の一人だからと憎しみを抱く気持ちは――まぁ、気持ちという“感情論だけなら”分からなくもないのですがね。
小官としましては帰国した後、ウズミ代表首長閣下に“銃も持たぬオーブの一般市民をコーディネイターだからというだけで撃ち殺されましたが、戦争をしてるんですから仕方ありません。今後の両国との関係的には問題ないかと思われます”―――とご報告するのは格好がつかず好ましくない。
その点は、あなたがた連合軍の方々も賛同いただけると思っているのですが?」
『う・・・、むぅ・・・・・・』
軽い態度のまま、オーバーアクションで両手を広げながら言い切って見せたユウキ二尉という、【見た記憶のないオーブ軍の青年士官】の言い分に、僕は思わず目を見開いて凝視せざるを得なくされてしまう。
この人が何者なのか。なぜ原作にいなかった人物が原作シーンに介入しているのか。
僕と同じ転生者なのか、それとも僕の誕生によって生み出された異分子のオリジナルキャラクターが実体化した存在なのか―――それは分からない。分からないけど・・・・・・これだけは分かることが一つだけある。
それは彼が完全に、この世界にとっての【異端者だ】ということ。
敵とか味方とか、悪い人とかの話とは関係なしに、この人はこの世界の――『機動戦士ガンダムSEED』の世界にとっての異端者で、コズミック・イラという時代における異端者だった。それだけは紛れもない真実だということだけは、僕は確信を持って断言することが出来ること。
軽薄そうな態度と言うより、道化じみた口調で言ってのけてはいるものの、発言内容は脅迫としか受け取りようがなく、それでいて正論でもある指摘。
そして彼の言い分は、ただ彼自身の口を封じればいいというモノでもない。彼が言っているのは、そういう意味の言葉じゃなかった・・・。
「中立だと、関係ないと言ってさえいれば今までのように無関係でいられる状況ではなくなってしまったのが、残念ながら現状のオーブが置かれた状況です。
ですがまさか本当に、『同じ地球の一国だから』というだけで、オーブがいつまでも何をやっても、連合に味方し続けてくれると信じられているわけではないのでしょう?
我々も、戦争をやっているのですよ。プラントと地球連合とは違う戦場ではありますが、我々オーブも同様に。
コーディネイターとナチュラル――その二つに分かれて争うとき、ナチュラル国家が手をむむ相手が、必ずしもナチュラル国家同士とは決まっていないことを肝に銘じておいた方が、皆様方勝利のため役立つかと存じますな」
続く発言に、ギョッとした表情を浮かべて連合の兵士たちは互いに顔を見合わせ、狼狽えたようにユウキ二尉の顔を見やり、薄気味悪そうな表情を浮かべる。
・・・そうなんだ。この世界での戦争は極端に二極化されているせいで分かりづらくなっているけれど結局、戦争であるという事実までは変わっていない・・・。
戦争である以上、そこには利害があるし、自分たちが生き残るため『国エゴ』を軸にした勢力ごとの都合に基づく利害損得の計算と打算がある。それがない戦争なんてあり得ない・・・。
原作でのマリューさんはあえて言及しなかったみたいだけど、この戦争は『コーディネイター国家のプラント評議国』と『ナチュラル国家の地球連合』・・・・・・この二つの分かりやすい勢力だけに別れて争い合っているわけじゃない。
実際には単一勢力のプラントと、ザフトの侵攻に対して国土防衛のため地球上の国家同士が手を結んだゴッタ煮勢力の地球連合――そういう図式で成り立っている。謂わば軍事同盟や、条約機構でしかないのが連合側の事情なんだ。
連合側に付き続ける方が自分たちの国にとって危ういとなってきた時・・・・・・連合加盟国には、プラントに味方して連合に矛を向ける危険性は常に存在し続けている。
事実そうなったのが《ロゴス》の時だった。
だからこそ連合を主導していた大西洋連邦は、オーブに対しても他国に対しても地球の危機を主張して、強硬な態度をとり続けたんだろう・・・。
ユウキ二尉が今言っていたのは、その危険性についてだった。穴が開いてしまえば、誤魔化しても次が空く原因が残ってしまう。
傲慢は綻びを生む・・・・・・殺して口封じしただけでは状況が悪化するだけで、一時凌ぎにしかなりはしない。
『問題解決のためには固定概念から外を見ることが必要だ』・・・・・・彼が言っているのは、そういう事だった。
・・・・・・この人の考えや言葉は、明らかに『敵でも味方でもない第三者の存在』を前提として考えられたものだ。
知性は高くても、割とストレートに感情が行動や選択に現れやすかったのが、ガンダムSEED世界の住人たちで、敵か味方か、コーディネイターかナチュラルかで単純明快なのが世界のカタチだと考えたがる悪癖が人々の心を覆っていた・・・・・・それがこの世界で戦争が終われなくなってる理由の一つになっている大きな部分。
そこから抜け出して、コーディネイターでもナチュラルでもなく、両方ともを全体の一部と考えた思考法をしてたのは、ラウ・ル・クルーゼやギルバート・デュランダルといった極少数派というより例外といった方が正しい人達だけの物語世界。それがSEEDシリーズ。
・・・・・・何となくだけど、このユウキ二尉という人には、彼らと同じタイプのような印象が感じた気がした。
なんて言うか・・・心から相手の無事を喜ぶ言葉と、助かった相手を使い捨てる謀略とを同時に矛盾なく併存させてしまえるような、そんな二面性を使い分けれるペルソナを持った仮面の士官。・・・・・・そんな印象がユウキ二尉にはする。凄く感じさせられてしまえる。
「・・・私たちの負けのようね? 銃を下ろしなさい、貴方たち」
「で、ですがラミアス大尉・・・これは一体・・・。ユウキ二尉もそうですが、彼はその・・・いったい何故・・・?」
「そう驚くこともないでしょう? ヘリオポリスは中立国オーブのコロニーですもの。
別にコーディネイターだからといってプラントだけに居住して、“地球上にあるプラント理事国の中立国には住んではいけない”、なんて条文は条約にもなかったはずだけど」
「そ、それは・・・・・・そうではありますが・・・しかし・・・・・・」
「ま、それが正論ってヤツだわな」
ムゥさんが軽い口調で纏めるように口にして―――それが、その場の騒ぎは終幕を告げる言葉にもなってくれる。
「いやぁ、悪かったなー。うちの国の連中が、とんだ騒ぎにしちまったみたいで。アイツらも戦闘でナーバスになって過剰な反応しちまったみたいで。奴さんたちも、ただ艦を守ろうと必死になってただけなんだ。オーブのお偉いさんへの報告は、許してもらえると有り難い」
「いえ、こちらこそ出過ぎたことを申し上げたと反省しております。《エンディミオンの鷹》殿。
噂に名高い連合軍きってのエースと、このような場でお会いできて光栄と言いますか、不幸中の幸いと申しあげるべきなのか、微妙なところであります」
「・・・・・・へぇ。俺のことも知ってる訳か。どーやらアンタとは気が合いそうで何よりだわ。これからよろしく」
「はっ、喜んで。英雄殿。――早速ですが、補給や修復用の物資などはご入り用ではございませんでしょうか?
ここに来るまでの道中にあった施設より色々と掻き集めて参りましたので、何かしら役に立つものがあるかもしれません。ヘリオポリス防衛部隊の残存兵も今は指揮下にいますので、彼らを使えば作業も早くはかどります」
「お、そりゃ助かる。それじゃあ俺の機体を着艦させて、早いとこ修理頼むわ。出来るだけソッコーで、な?」
「ふ、フラガ大尉・・・・・・いきなりそれは、その・・・」
トントン拍子で男二人だけで勝手に勧められていく手打ち話と、共同戦線の役割配分。
今のアークエンジェルが極秘裏に建造されてた戦艦で、完成する直前に襲撃を受けたせいで正式な識別コードさえ与えられていない状態だったからこその曖昧さを利用したやり口だった。
艦そのものの所属が曖昧なところへ、乗っている人間たちまで二つの国の部隊がゴッタ煮で乗り込むなんて指揮系統がメチャクチャになりすぎる状態になるだけなのが普通だけど・・・・・・こういう場合には確かに有効な側面があるんだってこをと思い知らされた感じだった。
なし崩しで、曖昧なままでも強引に進められてしまえる、緊急時だから仕方がないが押し通しやすい。・・・・・・そんな普通の時だったら絶対に役立たないとしか思えない利点を最大限に利用してくる人。それが―――レン・ユウキ二尉という人と初めて出会った日に、僕が抱いた感想だった。
「いやー、しかしコーディネイターの能力は優秀だねー。おかげで助かったぜ。
ここに来るまでの道中、その機体のパイロットになる予定だった連中のシミュレーションを結構見てきたが、ノロクサ動かすにも四苦八苦してたからなぁ。
それと比べて、あの“ラウ・ル・クルーゼ”を撤退に追い込んじまえるなんて、大したもんだ。いやー、本当に有り難かった。助かったぜ、坊主」
「!? 大尉、今なんと・・・・・・その名前は、まさか・・・!」
「―――外にいる部隊は、クルーゼ隊だ。俺もアイツらと戦って被弾させられたんだから間違いない」
ザワワッ!?と、敵軍の中でも有名を以てなるエース部隊が今戦っている敵だったと知らされた連合兵たちに動揺と恐怖が音共に広がっていくのを実感させられていく。
ムゥさんに続いてユウキ二尉も、どうやらクルーゼ隊と抗戦してからアークエンジェルと合流したみたいで、一つ頷いて彼の意見に賛成を露わにする。
「私も防衛部隊の生き残りを率いて、敵の旗艦に一発当て逃げしてきましたが・・・・・・部下の中にいた船乗りが見たところ、あれはヴェサリウスで間違いないそうです。クルーゼ隊の旗艦ですよ。
そんな部隊が、中立国でありながら連合に肩入れしてしまっていたとは言え、外交筋から何も言ってこない内に2隻だけの艦隊で攻め込んできて、特殊部隊による内部からの爆破ときた。
・・・・・・完全に、クルーゼ隊だけの独断専行で攻めてきたとしか思えない状況だ。
それだけやっておいて、鼻っ柱に一発食らってスゴスゴ逃げ帰ってきたでは彼の首が物理的に飛びかねない。
始めた以上は、完全に全て壊して目的達成するか、相応の手土産がないと帰りたくても帰れやしません。私が彼でも確実に第二波攻撃を、先よりも苛烈に仕掛けるでしょう」
そう言って、生き残っていたのを率いたという部下たちにトランシーバーで連絡してから僕の方へと振り向いて、視線と声の両方で「君はどう思うかな? 少年」と訪ねてこられたとき。
――――ようやく僕は、キラ・ヤマトに戻ってきた自分を自覚する。
あるいは、キラ・ヤマトだったからこそ上手く反応できなかったのかも知れない。
コミュニケーション能力が高くなく、思わぬ言葉を言われると咄嗟に返すことが出来なくなってしまう。それがキラ・ヤマトの特徴だった。
でも、今の僕はキラ・ヤマトだって、全てのキラ・ヤマトを知った後のキラ・ヤマトでもある。
言葉不足で人見知り過ぎたSEEDのキラ・ヤマトの肉体という枷があるのと同じように、《DESTINY》や《FREEDOM》のキラ・ヤマトだって同じキラ・ヤマトだ。今の僕の身体と同じ流れにあるキラ・ヤマト。
だから、今は言えなかったはずのことでも、後にはきっと言えるようになっていることなら・・・・・・今でもなんとか、言うことぐらい出来る、はず・・・。
「・・・はい。僕もフラガ大尉やユウキ二尉の意見が正しいと思います。
僕があの機体を使ってジンを倒したとき、あの機体はサイたち民間人も躊躇わずに巻き込んで、避難勧告も出さずに攻撃してました。完全に僕たちを“敵”と見なして襲ってきてました。
そして・・・・・・敵からすれば、アークエンジェルと、僕がストライクで見せた力は大きすぎたんじゃないかって思うんです。
大きすぎる力は争いを生みます。
きっと彼らは、自分たちが倒せなかった連合軍初のMSで、フェイズシフト搭載機が残っている限り・・・・・・倒さないではいられない恐怖心を植え付けられてしまった・・・・・・僕には、そう思えるんです・・・・・・」
言葉を切ると、場に重い沈黙が降りてくるのが感じ取れた。
第二幕への準備が、こうして急ぎ始められることになる。
ここで幕引きさせないための、第三幕へと続けさせるための準備が大急ぎで。
そうしてユウキ二尉の助力を得られたこともあり、原作とは人員の内訳が少し変わってしまったアークエンジェルは、連合オーブ防衛部隊残党の両軍が一致団結してことに当たったおかげで、第二波攻撃も乗り切った僕たちはヘリオポリス崩壊を免れるという結果にまで繋げることが可能になった。
けれど、既に最初の攻撃でボロボロになっていたコロニー内に立てこもり続けるのは自殺行為に等しいのに変わりはない・・・。
結局、僕たちは人員と内実が少しだけ変化しただけで、敗残兵と民間の志願者たちという寄せ集めの混成のまま、持てるだけの物資だけを抱えて宇宙へと孤独な船出を余儀なくされることになる。
SEEDシリーズの中で、最も過酷で最も孤独な、キラ・ヤマトたち全員にとって『生存のために孤立した航海』が、こうして始まることになる・・・・・・。
つづく