改めての、10話投稿となります。コッチが一応、正規投稿版とさせて頂くつもりでいます。
先に出した話もデータは残してますので、ソッチの方が良かったと思われた方は仰ってくださいませ。再検討し直してみます。
「はぁ・・・、はぁ・・・、どうにか、逃げ切ることができた・・・のか・・・・・・?」
荒い息を吐きながら僕は、《ストライク》のコクピットの中から周囲の状況を見渡して一先ずの脅威が、ようやく去ったことを確認して心の中でも安堵の息を漏らしていた。
モニターに映し出された漆黒の宇宙空間には、人工物と非人工物がゴミのように無数に漂っている光景が映し出されており、中の一つに鳥の鶏冠のような飾りが付いた単眼の巨人の頭部が目に映る。
今この瞬間まで、僕と死闘を繰り広げていた敵モビルスーツ《ジン》の残骸・・・・・・多分アスランの同僚のミゲル・アイマンが乗ってた機体なんだと思うけど、コクピットを失った頭部だけの現状では確認する手段なんて残ってるわけがない・・・・・・。
原作でもあった、クルーゼ隊ジン部隊によるヘリオポリスへの第二波攻撃。
それを切り抜けながら脱出も同時にやってのけるという荒技を、僕たちとアークエンジェルは成し遂げることに成功した直後のことだった。
敵にも油断はあったろうし、クルーゼが僕の素性をアスランから聞く前だったという事情もあったかもしれない。
ディアッカやイザーク用の《G》が調整完了前で、急ぐ必要もないと思われていたのも予定を狂わせたんだろうと思う。
そんな幾つもの幸運が偶然に味方してくれなければ、おそらく不可能だったヘリオポリス崩壊を招くことなくザフト軍の攻撃を退けながらの脱出行。
とは言え、それを成し遂げるために払った犠牲は少なくないはずだ・・・・・・コッチだって相当な被害を受けていると思う。
今は戦闘のドサクサに紛れて、なんとか近くの小惑星の裏か何かにでも隠れ潜んでいるんだと思うけど・・・・・・原作と違ってヘリオポリス崩壊で生じたほどの瓦礫がシールドとして流出している訳じゃない以上は、原作より早く敵に発見されると想定して動くしかない状況・・・。
・・・・・・それに・・・
「――!! やっぱり、避けられなかったのか・・・っ」
Pii・・・、Pii・・・、と。
コクピット内に響きだした電子音を耳にしてモニターを操作した僕は、予想していた物体が映し出されているのを確認して思わず不快さで顔を歪めたい気分に駆られてしまった。
「ヘリオポリスからの救命ポッド・・・・・・推進部が壊れて自力航行できないのも同じか・・・」
画面に映し出されている、プラント内で描かれていたエレベーターの中身である箱だけ取り出したような形状の物体。
それは襲撃を受けたヘリオポリスから射出されたらしい脱出ポッドの一つだった。
コロニーの崩壊は避けられたとは言え、対要塞攻略用の武装で攻撃された民間コロニーが完全に無傷で済むわけがなく、かなりの損害を受けたことは予想できる。
多分その中でダメージレベルが危機的状況に陥ったと判断されたブロックがあったんだと思う。
そこから射出されたポッドの一つが運悪く瓦礫に当たってしまって推進部を損傷して航行機能に支障が出てしまった・・・・・・現象としてはそんなところで、珍しくて運が悪くはあっても宇宙時代のガンダム世界では、よくある不幸なアクシデントの一つでしかないとも言える。
・・・・・・ただ僕にとって問題なのは、そのポッドの中に乗っている人の存在・・・。
正確には、その中に乗っていると思しき【一人の少女】が、結果論としてもたらしてしまう巨大な不幸を知っていること・・・それが今の僕が抱える問題だった・・・。
「“フレイ・アルスター”・・・・・・」
ガンダムSEEDの登場人物内では、もっとも評価が別れそうな少女の名前を僕は口にする。
最終的に、ラウル・クルーゼにとって【破滅へ至る扉】を開くための鍵としての役を担うことになる女の子。
あくまで結果論でしかない行動と結末を辿らされた彼女だけれど、フレイ自身はただ父親を失った悲しみと怒りを晴らすためキラ・ヤマトの『力』を求め――その“身体”まで捧げて拠り所になってくれていただけの、悲しくて寂しい孤独な少女に過ぎなかったキャラクター。
そして――キラ・ヤマトの心に消せない傷跡となってしまう女の子でもある・・・・・・。
転生憑依者である僕が、できるだけヘリオポリス崩壊を避けられるよう意識した動きを心がけたのも、漂流している彼女が乗っているかもしれない脱出ポットを見つけてしまうイベントを回避したかったのが大きな理由の一つだった。
・・・・・・見つけてしまったら多分、キラ・ヤマトの肉体は彼女を見捨てることが出来なくなってしまうことは分かっていたから・・・。
それに、キラに宿ったボク個人の心理としても、彼女を悪く思う気にはなれなかった。
そりゃ最初にアニメを見たときには思うところが沢山ある女の子だったけど・・・後になってから全体像を振り返って考えると、彼女の行動は仕方がない部分が多かったんだって分かってきたからだ。
彼女は、『オーブ人ばかり』のアークエンジェル内にあって、一人だけ『大西洋連邦人』の民間人だったんだ。
連合軍初のMSと新造戦艦を秘密裏に建造させていた、『自分たちの暮らしてたコロニーを崩壊させる原因』を秘密裏に造らせていた大西洋連邦の人間・・・・・・。
マリューさんたち軍人だけしか、同じ国の人間が周囲には誰もいない状況。トールやミリアリアだけじゃない、サイでさえ本質的には『よそ者』でしかない関係性にあったのがフレイ・アルスターという『大西洋連邦次官の娘』だったんだ。
日本に住んでいるとイメージし辛かったけど、外国で逆の立場になったときを考えてみたときにゾッとさせられたのを覚えている。
そんな環境に追いやられてしまった時に、同じ学校に通う『外国人の友達』を信じて、想いを共有し合えるのか?と聞かれた時・・・・・・ボクは目をそらさない自信はない・・・。
「・・・くっ、仕方、ないのか・・・・・・」
案の定、原作ストーリーを知っている僕の身体は、意思とは逆に見て見ぬフリすることに激しい抵抗を感じさせてきて、強い脱力感と罪悪感とで心が重くなっていくのを実感させられてしまう・・・見過ごすことが、人を殺すのと同じぐらいの悪感情が沸いてくる・・・。
それは多分、あれにフレイが乗っているかどうかが確実じゃないのも影響してるのかもしれない。
本来のストーリーでは、ヘリオポリスの崩壊が確定したことで脱出ポッドは大量に射出されている流れだったはずで、コロニーが曲がりなりにも残っている状態で緊急脱出の指示がそうそう多く出されているとは思えない。
おそらく戦闘の余波でダメージレベルが限界を超えた一部のエリアから射出された内の一機が、目の前で漂っているコレなんだろう。
それだとフレイが乗っているかどうかは、僕にだって判別することができない。原作知識から外れるからだ。
原作ストーリーを変えようと努力した結果、こんな形で迷うことになるなんて想定していなかった。
「クソ・・・。どうすればいいんだ、こんなの・・・」
知識だけだと対処できない問題を前にして、判断できずに頭を抱えるしかない。
そんなボクが出した結論と選んだ道は―――
「さて、これからどうしたものかね・・・」
原作知識を持った転生憑依者の少年が、選ぶべき道をどうするかで、判断に悩み迷っていたのと丁度同じ頃。
彼と彼の愛機となる機体にとって、長く母艦となる船の中でも『どの道を選ぶべきか?』で悩み迷う者たちが意見を交わし合っていた。
口火を切ったのは、フラガ大尉だった。
無重力空間の宇宙に出ることだけは出来た故に、ブリッジの中を宙に浮いたまま漂いながら、臨時で艦長席についているマリューに語りかけてくる。
「・・・本艦は、まだ戦闘中ですし・・・・・・ザフト艦の位置は掴める?」
「無理ですよッ。戦闘で破損したヘリオポリスの一部が残骸となって流出してますし、中には熱量を持ったままの物もあります。この状態では熱探知やレーダーは・・・・・・」
「向こうも条件は同じだとは思うが――敵が追撃してくる恐れがある、と・・・?」
「・・・・・・ある、と想定して動くべき状況だと、私は判断しております」
CICを担当してもらっているチャンドラⅡ世伍長に確認をとった上で、慎重に言葉を選びながら何とか答えを返すマリュー・ラミアス。
額や頬には冷たい汗が浮かんで、強いストレスを感じさせられていることが見ている側にも分かって、痛々しい思いにさせられるものの、現状では彼女の責任を代わってやれる者が一人もいない。
あるいは、能力だけならバジルール少尉が、階級だけなら自分が代理になれるかもしれないが、双方ともに地位と立場で難点を抱えている。
フラガはMA乗りで、今は修理中でも機体が治れば前線に赴かねば数が足りない。ナタルは地位が低すぎて、有事の際に他の部下たちが指示に従ってくれるという保証ができない。
場合によっては、前線にいるフラガ“大尉”の指示を、現場のバジルール“少尉”の指揮より優先すべきとする論調がでる危険もある。
人間いざという時ほど判断に迷い、迷った時ほど愚かにも見える選択の根拠を求めて意見対立して、破滅に向かって突き進みたがる悪癖がある。それを避けるためにも形ばかりとはいえ最高位の人間からの指示があった方が人は安心して従うものだ。
そうなれば少なくとも、下っ端が責任を背負い込まされる恐れだけは無い。
「もっとも・・・今攻撃を受けたら、こちらに勝ち目はない状況なのも事実ですが・・・」
「――だな。コッチはさっきの戦闘でボロボロの状態だ。しかもクルーたちの大半は応急処置の陣容とくれば、動かすだけならともかく戦闘はな・・・」
「・・・・・・」
返答を返して、感想を返されたマリューの声と心は重く沈んでいるようだった。
本来の職務が戦闘指揮ではない彼女から見ても、現状のアークエンジェルは満足に戦える状態では全くないと言っていい。
艦長をはじめ正規クルーの大半と、フラガが率いた部隊を失った自分たちに残されている戦力は、先の戦闘が始まるまで未調整だった《ストライク》と、修理が終わっていないフラガ専用MAの《メビウス・ゼロ》がボロボロになった状態で、それぞれ1機ずつがあるのみ。
唯一の救いと言えるのは、ヘリオポリスに駐留していたオーブ防衛軍の残党部隊が、ユウキ二尉からの指示によってアークエンジェルと合流し、マリューの指揮下に入るのを受け入れる旨を表明してくれたことだった。
「私はオーブ軍参謀部から派遣されてきた。ウズミ閣下から直々の勅命を受けている身でもある。緊急事態につきオーブ軍規に従って諸君らは私の指揮下に入ってもらおう」
という論法と威圧的な態度によって、現地部隊を掌握してしまった彼の“ハッタリ”と“詭弁”のおかげもあり、出航準備が思いのほか早く完了できたことがザフト軍の予測を裏切り、脱出成功を可能にする一因となるものだったろう。
如何に建造場所としてヘリオポリスを用立てられても、自分たち連合軍は所詮よそ者たちの寄り合い所帯。
現地での補給や補修にあたって、現地人からの自主的な協力が得られるかどうかは作業スピードに雲泥の違いをもたらす重要な要素。その点で彼の功績は小さなものでは決して無い。
・・・・・・ただ反面、それ故の結果として今のアークエンジェルにとっては、新たな問題となってしまっているのも事実ではある。
現状のアークエンジェルには、大西洋連邦軍人たちとオーブ軍人たちとが共同して動かしている状態にあり、数としては少数派の大西洋連邦人の指揮に多数派のオーブ人たちが従って、オーブ国の中立コロニーで造られた連合軍所属の戦艦を動かしている―――そんな歪すぎる陣容に、現在のアークエンジェルクルーたちはなってしまっているのだ。
また大半のオーブ兵たちが、連合との密約で造られていたアークエンジェルの存在を知らされていなかったという事情も、彼らの心理に負の一面を与えてしまっている部分だろう。
問答無用でコロニーを襲撃してきたザフト軍への怒りが、今は両者が協力し合って危機を脱するため努力する理由となっているものの、それらは何時『コロニーを壊される原因を造ってしまった者たちへの不満』へと転化してしまうか分からない。火薬庫を腹に抱えて宇宙を進んでいるような状態なのである。
幸いユウキ二尉も、そんな危うい窮状にあるのは心得ているらしく、今は壁際にたたずんだまま黙ってコーヒーを飲み、余計な差し出口は控える方針をとってくれているようだった。
この状況下で、味方同士の派閥抗争まで始まってしまったら双方ともに破滅するしかない窮状。それを思えばありがたい対応ではあったものの、心から信頼できる人柄の持ち主でもない以上、マリューとしては胃の痛い思いを味わう理由が増えたことは嬉しくなかった。
「ただ、その点でも敵さんの条件は、こっちと似たようなもんだとは思うがね。
アレだけの《ジン》を一度の戦闘で全機失ったんだ。そうそう簡単に手出ししてこれる状態とは正直思えん」
フラガから付け足された明るい追加情報に、マリューはわずかに血色を取り戻した顔で静かに頷く。
つい先程まで行われていたザフト軍との戦闘中に、第二波として投入されてきた敵ジン部隊の数は、11機が目視でも確認されている。
最初の戦闘でストライクに落とされたものも含めれば、敵艦隊は12機のジンを撃破されて損失したことになる。
ザフト軍艦の《ナスカ級》と《ローラシア級》は、ともにMS搭載可能数は6機ずつだったはずで、単純計算だけなら敵艦隊は機動戦力をすべて失ってしまった状態に陥っており、戦艦同士での対艦戦闘という形でのみ追撃は実行可能になっているはず。
それでも尚、敵艦のクルーたちは正規軍所属の軍人たちばかりで構成され、こちらと違って数合わせの応急処置などする必要もない。
結局、不利であることに変わりは無いのだが、MS部隊と艦隊戦力の双方を相手取らなければならないよりかは多少なりとマシだろう。
「―――敵が、あなた方から奪った《Xナンバー》を実戦投入してくる可能性は?」
その時にボソリと、壁際から放たれた声にマリューは少しギョッとする。
ユウキ二尉が、別段怖がらせるつもりもなさそうな目つきで自分を見つめながら語ってきた懸念について、すぐに迸りかけた否定の言葉を飲み込んで、開きかけていた唇を閉ざして彼女なりに検討してみた上で、再び唇を開いて答えをだす。否である、と。
「・・・・・・そうなる危険性は否定することは、残念ながら現状ではできません。状況を考えれば無いとは言い切れないのも事実ではあります。しかし・・・やはり無いとみるのが妥当ではないかと」
「ふむ。大尉の判断に異論がある訳ではないのですが、よければ理由をお聞きしても?」
「勿論です、ユウキ二尉。まず《Xナンバー》にはプラントにとっても未知の技術が多く用いられており、研究開発するだけの価値が十二分にあるからです。
データだけなら抽出して別の記録媒体に保存することもできますが、やはり実機があるのと無いのとでは技術開発において雲泥の差が出るもの。ザフトがそれを知らないとは思えません」
「なるほどね・・・。確かにそれが常識的には正しい見解か」
マリューの説明は、簡をして要を得ており十分な説得力を有しているものでもあった。
彼女自身が《Xナンバー》開発計画に従事していた一員だったこともあり、数字上のデータだけしかない代物を再現するのと現物があるのとでは、技術的な難易度に差が出すぎるという現実を思い知る数ヶ月を過ごしてきた経験もあって、その言葉には重みもあった。
常識で考えれば、それほどのテクノロジーの塊をやすやすと戦闘の混乱の中で失ってしまうリスクなど負いたがる者などほとんどいない。
仮にいたとしても、目先の益を優先する先の読めない近視眼なバカぐらいなものだ。フラガ大尉の話が真実なら、敵将は“あの”ラウ・ル・クルーゼだ。そんなリスキーなことに手を出したがるとはマリューには到底思うことができない。
だが、この結論に関してだけはユウキよりもフラガの方に、反射的な異論があった。
あのクルーゼに、そんな常識的な作戦予測が通用するだろうか・・・?そう思い、そう声を出そうとした直後のこと。
「なんだと!? ちょっと待て、誰がそんなことを許可した!」
突然にナタルからの罵声が耳に飛び込んできて、言葉が止まる。
三人ともが目をやると、その先でナタルが通信機に向かって叱責している姿が視界に映り込む。
「バジルール少尉、なにか?」
「はっ、ストライクが帰投しました。ですが、その際に救命ポッドを一隻保持してきたようなのです」
「えっ!?」
代表して問いを発したマリューへの回答を聞かされ、フラガとユウキが顔を見合わせ、思わず男同士で肩をすくめ合う。
その仕草は、声には出さずとも言葉より雄弁に本心を表すものだったかもしれない。
一難去って、また一難
そう互いに思い合っているであろうことを、オーブ軍連合軍2人の癖がある青年士官たちは心の中で確信し合いながら。
「認められない!? 認められないって、どういう事ですッ? 推進部が壊れて漂流してたんです、それを放り出して見捨てておけばよかったと、そう言うんですか!」
結局ボクは――あるいはボクが憑依しているキラ・ヤマトの肉体は、救命ポッドを見捨てるという選択肢がどうしても選ぶことができなくて、原作と同じようにアークエンジェルまで運んでくるという道を選ぶことしかできなかった・・・。
フレイが、この中に乗っているかどうかは―――まだ確認していない。
どう聞けばいいのか思いつくことができなかったし、連れてくる決断を選んでしまった今からだと、乗っているかいないかなんて今更知っても何にもならなかったから・・・。
連れてこない方がいい・・・連れてきてしまった方が彼女にとっても不幸になりかねない・・・・・・そう知識として分かっていながら、それでも見捨てることに凄まじい負担と抵抗感を感じてしまうのが今のボク、キラ・ヤマトという少年の長所でもあり短所でもある性格だったから・・・・・・。
ただ、だからと言ってボクはボクで、心までは完全にキラ・ヤマトと同じになっているわけじゃない。だからこそフレイが乗っている可能性のあるポッドを見捨てるべきかという迷いが生じた。
ボクにはボクのやり方があるし、ボクにはキラ・ヤマトと全く同じ事はできはしない。だからやれることはやろうと思う。
結果として同じゴールに着くだけだとしても、やれることもやらずに同じ失敗を嘆くよりは少しぐらいマシなはずだと信じたい想いがあるのがボクだから。
『すぐに救援艦がくるッ! アークエンジェルは今、戦闘中だぞ! 避難民の受け入れなどできる状態にないことぐらい貴様にも分かっているだろう!? ならば――』
「正気ですか!? “貴方たちのせい”で住んでいたコロニーを壊され人たちが乗っているポッドなんですよ! オーブの民間人が避難民として乗ってるんです!
地球連合軍はそんな相手に、そんな対応をする国だったと、生きて帰った彼らの口から伝わるかもしれないんですよ!? そうなったら国際問題になりかねない! それでもですか!?」
『・・・っ!? そ、それは・・・・・・』
ノイズ混じりで画像の粗いモニター画面の向こう側にあるナタル少尉の声音が、途端に勢いを失って戸惑ったものへと変化していく様がボクの視界でもハッキリと確認することができていた。
それを見てボク自身は内心で、ホッと胸をなで下ろす。
――ガンダムSEEDの物語は、軍人たちが好みやすい『勝つためには法律や条約に価値はない』という類いの理屈が通じやすい軍組織のあり方が罷り通っている世界だ。
核ミサイル攻撃の乱用や、大量破壊兵器の使用、条約違反の連発なんかは、それらガンダムSEED世界の軍隊が持っている代表的な特徴を現していると言っていい。
ただ反面、この世界ではマスメディアやデマゴーグ、印象操作などによって煽り立てた『世論』が政治に強い影響力を持ちやすいという、両極端な特性を同時に兼ね備えている妙な特徴を持ってもいた。
プロパガンダによる効果と影響が大きいから、結果として支配者層も民衆たちへの人気取りを無視することができなくなっているのが、SEED世界特有の特徴の一つだったりするんだ。
あの傲岸不遜なロード・ジブリールでさえ、民衆たちから支持を失うのを恐れて情報を秘匿し、アズラエルはサイクロプス自爆によって全国家軍を統合するため、地球市民たちのご機嫌取りをやってのける羽目になっていた。
だからこそ、ギルバート・デュランダルのような人物が現れてから、掌で踊らされることになっていく。プロパガンダによる情報操作によって世論で追い詰められていったことがジブリールたちから選択肢を限定させていく流れによって。
そして、それらの流れはSEEDの時点から始まっている。
今回の一件で立場の悪くなったオーブが、『連合軍と組んでも見捨てられるだけ』という国民多数派の総意に押されてプラント寄りの方針をとるようになるのを連合軍は、少なくとも“今の段階では”望んでいない。
今この時の『ただ敵に勝てばいいだけ』な戦場の理屈において正論家で、言ってる理屈も比較的正しいナタル少尉だけど、外交とか政治レベルの問題になった途端に教条的な軍事バカッぷりを晒してしまっていた原作での描写。
その様子から見て、彼女にはこういった方面から話を受け入れやすくする土壌を作ることが、結果として双方の関係性やマリューさんとの仲を険悪にさせないためには必要なんじゃないかとボク的には考えていた。
その一つを実行したわけだけど・・・・・・もう一つ。
いわゆる原作知識持ちの“チート”でズルするやり方を、ボクなりに実践してみようと思う。
「それに、このポッドには、フレイ・アルスターが乗っているみたいなんです。大西洋連邦で事務次官をやってる人の娘です。たぶん彼女が、このポッドには乗っています」
『なんだと? アルスター次官のか? それは確かな話なのか? いや、そもそも一体なぜ・・・』
「分かりません・・・中の様子を聞いた時に、彼女の声が聞こえた気がしただけでしたから・・・。
でもボクたちは、留学してる彼女と同じ学校に通ってる学生同士で、仲のいい女の子も今はアークエンジェルの中にいます。彼女に確認してもらえば分かると思います。
だからあの、ボクが勝手に置いてきちゃったらマズいと思って・・・・・・いけません、でしたか・・・?」
『ふむ・・・・・・』
思案顔で黙り込むナタル少尉。
そんな彼女を見てボクは、別にお偉方の顔色をうかがう保身的な軍人と彼女を同一視するような印象は沸いてこない。キラ・ヤマトの肉体も答えは同じみたいだった。
こんな状況にあるボクたちのような身では、コネでもなんでも物資を優遇して回してくれそうな相手との繋がりは誰だって欲しい。
いざ戦闘になったら地位とか身分なんて、何ほどのものでもなくなっちゃうのかもしれないけど、戦闘になるまでに必要なものを手にするためには有用で、平時が続く間は政府の偉い人たちと仲良くしておいた方が得はあっても損は少ない。そういう風に人の組織や社会はできている。
だから彼女の迷いは、別に悪いものではなかったんだけど――横から見ていて許可を与えてくれた人が、苦笑交じりの声になってしまっているのは仕方の無い展開に見えなくもなかった・・・かな?
『――オーブ国民からの反発を買うリスクと、大西洋連邦政府要人の娘が敵の人質にとられるリスク・・・・・・いいわ、許可します。
今の状況下で、そんな負担まで背負わされるのは堪ったものではないわ』
『分かりました。艦長が――艦長代理がそう仰られるのであれば、小官に異論はありません』
『収容を急いで、敵に見つかるリスクまで追加される前にね』
『ハッ!』
こうしてボクは、原作ストーリー序盤における最大の厄介事案になるかもしれない可能性を持った少女を、自分の意思でアークエンジェルに連れてくる道を選んでしまった。
果たして今の選択が、ボクの未来を――ボクたちの未来をどこに連れて行ってしまう最初の一歩目になっているのか?
それとも変化した歴史の中で、路傍の小石のような一民間人としての運命を彼女に与えてくれるのか?
それは今を生きるボクには、まだ分からない未来の結末。
人が『運命』と呼んでいるものだけが知ることができる結果。
ただ一つだけ、今のボクにも言えること。それは―――
「はぁ・・・・・・けっきょく一難去って、また一難か・・・。
それが本当の意味で、キラ・ヤマトの『運命』だったのかもしれないなぁ・・・・・・」
つづく