ガンダム二次作   作:ひきがやもとまち

81 / 91
昨日の今日ですが、作者の子供時代妄想設定版デスティニーの2話目です。
この話で今作のイメージは大体わかるよう早目に作って出してみました。
こんな感じのガンダムデスティニー外伝的物語~。


機動戦士ガンダムSEED UndeadGIRL THE DESTINY 第2話

 CE72、《血のバレンタイン》の悲劇を発端として始まった地球プラント間の戦争が、一応の終結を見てから約1年半の刻が流れていた。

 大量破壊兵器の応報によって疲弊した両国は、保有する艦艇やMS数等の上限を定めたユニウス条約を締結させ、内心はどうあれ相互理解と平和に共存する社会を目指して歩みはじめる道を選択した――はずだった。

 

 だが条約は締結された当初から、綻びを見せ始めていた。

 プラント評議国は『有事に備えるため』として条文に抵触しない新兵器開発を推し進め、それを口実として地球国家群を主導する大国連合は条約を超過する数の兵器生産をおこなっては隠し持つ。

 

 片方が戦う準備を進めれば、想定敵国も軍備を増強する。その繰り返し。

 だが片方が増やすのを止めれば、今一方も増産を辞めるという訳でもなく、ただリードした戦力差を更に広げることに用いるだけ。結果として相手側も兵器生産を再開せざるを得なくなるだろう。

 

 その流れと結末と、条約の行き着く先を誰もが皆、心の中で予測していた。

 だからこそ誰もが、戦争の終結と条約の締結による平和到来に喝采を上げ、それが恒久平和へと繋がる一歩目だと信じながら・・・・・・心の中で薄々わかっていることでもあった。

 

 ――この平和が、一時の夢でしかないという現実を・・・・・・。

 

 

 

 

 

 そんな偽りの平和な時代を象徴するような存在が、ここにも一つ在る。

 漆黒の宙に雲母のかけらを落としたように、キラリと太陽光を反射して光るものが宇宙空間を無数に舞っている。

 はじめて宇宙に出た者たちの多くは、対象物との距離感をつかめずに戸惑うのがスペースマンたちの常識になっている現在だが、この光景を見誤ってしまう者がいても本人の責任ばかりを問うわけにはいかないかもしれない。

 

 それほどに巨大な存在と、それを守護するために配置された護衛艦隊群との対比が好対照になっている光景だった。

 

 大気のない宇宙空間では離れたものもハッキリと見え、巨大な存在も目の前に置かれた模型であるように小さく映り、その一方で正面前のモニターに映る巨艦は天に届く巨壁のごとく圧倒されてしまうのだ。

 

 その結果、宇宙に浮かぶ巨大な人工物は現在地から遠く、白銀に輝く小さな砂時計の形をした物体として映り、近くの空間を警戒のため巡回している無数の《ローラシア級MS搭載艦》と少数の《ナスカ級高速戦艦》は強大な監視者のように、彼らを見上げる側の者たちの視界には映っていた。

 

 平和を守るための新造戦艦の完成を祝して、盛大に催される完成披露式典に招かれているVIPたちを護衛するため常以上の厳重なガードが敷かれている中を、彼らの敵である地球連合軍の戦艦が一隻だけで敵国の軍事工廠コロニーを目指して単独での航海をおこなっている。

 

 これほどに現在の世界が抱えるアンバランスな軍事的情勢を現している存在も、そうは無い。

 

 

「戦艦一隻だけで敵の本国近くまで潜入し、敵艦隊に囲まれながらの航海ってのも、豪勢な上に思ったよりは乙なもんだね」

 

 肉視鏡から見える、自分たちを周囲から睨みつけてくるような敵艦隊の姿という、精神的健康には良さそうにない光景にギスギスした雰囲気で満たされていた艦橋に、暢気な声で脳天気にも聞こえる感想が響き渡る。

 

 敵である彼らを囲みながらも、通り過ぎるだけで手を出してくることのない戦艦たちは、別に自分たちの来訪を容認しているわけでもなければ歓迎している訳でもなく、ただ『見えていない』だけ。存在していることに『気付いていない』だけでしかない。

 気付かれてしまった瞬間に、四方八方の全てが敵となって完全包囲されて、砲火の嵐に取り囲まれる―――そうなる結末を辿らされるのが必然の関係性が自分たちと敵なのだ。

 

「・・・・・・そのように思うことが出来るのは、大佐だからですよ。我々のような凡人には、忌まわしいモノとしか映りません。小官自身、航海が始まってから胃が痛いですよ」

 

 そんな状況下で胃の痛い思いを味わっていた兵士たちの気分を代弁し、艦長席についた謹厳実直そうな顔をした如何にも軍人という風情の人物が、隣の席に座っている黒服の司令に正直な想いを告げる姿を見て、艦橋内の雰囲気がほんの少し軽くなる。

 

 唇の端をわずかに歪め、目元を微かに釣り上げながら、面白みのなさそうな声と口調で告げられた苦言とも取れる内容。

 知らぬ者が見れば不愉快そうにしか見えぬ艦長の表情が、実は苦笑しているだけであることを付き合いがそれなりに長い司令と部下たちは承知していて、それが分かっている故の雰囲気緩和だった。

 

「そうかい? 俺としては今更気にしたって、どーにもならん場所まで来た後だと思うがね。作戦前のこっちには虎の子が、まだ俺の《エグザス》のみ。この戦力差で戦闘はな・・・。

 最大戦速で振り切るって手もあるが、相手にはナスカ級もいる。振り切れるか分からん以上、腹を据えるしかないと俺としては思うんだけどねぇ」

「そう割り切れって考えれる者にとっては、それが正しい認識であると小官にも思われます。ですが我らも人間です、考えるだけ無駄なことで悩むのは愚かと承知してはいても、感情に支配されざるを得ません。

 もっとも、コーディネイター並の胃袋と精神性を持っていたなら話は別かもしれませんが」

「“宇宙のバケモノ並の胃袋と精神”とでも表現すべきところなんだろうな。俺らの所属のスローガン的にはさ?」

 

 揶揄するように語られた、上官からの皮肉気な感想を効かされた艦長は、先程よりもハッキリと苦笑していることが分かる表情を浮かべ直しただけで返答を返そうとはせず、礼儀正しく無視することで問題発言とも取られかねない司令官の発言を聞かなかったことにして聞き流す。

 

 当の司令も部下の反応が意味することは理解している。自分のグレー判定な発言に忠実な部下たちを巻き込むつもりのない彼としても、内輪で済ませる前提で言っていただけの言葉だったこともあり、特に回答を求めようとは思わなかった。

 艦長との会話に一区切りを付け、背もたれを倒して背をそらしながら天井を見上げる。

 

 ――異様な格好をした司令官だった。

 なにしろ、顔の上半分を無機的なマスクで覆い隠しているのだから。

 いや、顔だけではない。黒色の軍服はもちろんのこと、掌には白い手袋をはめ、身体の中で外部から見ることができるのは、長い金髪と首筋や手首など服の隙間から覗いた露出している部分だけ。

 

 だが部下たちは誰も、上官の服装に違和感を覚える者はいないようでもある。

 第二次ヤキン・ドゥーエ会戦に参加して大怪我を負い、命からがら生還した傷だらけの身体を人に見られたくないという事情には、むしろ同情と尊敬さえ抱くほど。

 まして、その事情が真実だったと『証拠の身体』を垣間見たことがある者なら尚更に・・・。

 

 そんな部下達の視線と意識を向けられながら、司令官が天井の壁を透かし見るように視線を向けている先で考えているのは別のこと。

 

 

 『宇宙の化け物』

 

 彼らを擁する上役が率いている過激な思想団体《ブルーコスモス》が掲げて、差別対象たる《コーディネイター》を罵倒する際に多用されているスラングがそれだった。

 

 ――化け物・・・・・・随分と曖昧な言い方であり罵倒だと、仮面の司令は心の中でそう思う。

 

 怖くて恐ろしい、普通の人間では抗うことの出来ない力を持った強大な存在というイメージがありながら、一方で『常に人間たちの知恵と絆と工夫によって敗れる邪悪な存在』そんな印象を反射的に受けさせられる。

 『力で人より優れている存在』でありながら『力しか取り柄のない人より劣った下等な怪物』・・・・・・そんな印象を聞く者に与えさせるよう計算され尽くした、悪質な心理誘導の言葉だと彼は思う。

 

(――たしか昔、『キチクベイエイ』って言葉で敵国人を呼んでた軍事国家があったと、戦史の教官が言ってたことがあったな。

 中世期の大戦を今になっても繰り返す・・・変わらんね。俺たち人類も国家ってヤツも・・・。俺たちの言えた話じゃないのは分かっているが・・・)

 

 「鬼畜」とは、力は優れているが、邪悪で野蛮な人を食うデーモンのことなんだそうだ。

 強さだけで全てを支配しうると信じ込んでいる、文明や倫理をまるで持たない野蛮な蛮族達――そのような存在を当てはめて、当時の島国だった軍事国家は自分たちの何十倍も巨大な国土をもつ敵国との戦いを挑んだのだと、彼は戦史の授業で教わったと記憶している。

 

 当時の島国には、それが必要な呼び方であり認識だったのだ。

 自分たちより強大で力の強い敵と戦うに当たって、敵の方が強いと教えれば味方の兵達は恐怖に怯える。だが「弱い」と言えば、そんな相手に劣勢を強いられてきた自分たちの立場を正当化できない。

 

 だから言葉で飾って欺瞞した。

 『力は強い』だが『知恵や文明や倫理はないのだ』と、人々に受け入れられやすい表現を用いてイメージ操作をしたのである。

 

 その国のとった手法と、今の自分たちが属する組織の方針はよく似ている。

 何しろ自分たちはこれから、『宇宙の化け物たちが開発した新型兵器』を奪い取って、味方の精鋭部隊の戦力として用いるため、所属を隠して秘密裏に奪取しに行こうというのだ。

 

 化け物というスラングで人外扱いしている相手を倒すため、化け物が開発した新兵器を奪って、化け物に打ち勝つ聖剣として再利用するための作戦計画・・・・・・欺瞞に満ちているし矛盾もしている。そういう風に感じてイヤな気持ちになれる程度には、彼は客観的で倫理観をもった、汚れ仕事に向かぬタイプの人材ではあったのだ。

 

 そのお陰もあり、汚れ仕事を担う特殊部隊にありがちな、陰鬱で重苦しいムードは彼らの部隊と無縁でいられたことは隊員達にとっては有り難いことでもあった訳だが。

 

 

「・・・・・・そう言やぁ、化け物と言えば“奴さん達の船”の方は、無事にポイントまで到着できてるのかね? 支援する役の味方が、コッチより先に敵さんに見つかって巻き添え食わされるってのは御免被りたいもんだが」

 

 危険な方向に向かいはじめた思考を自覚した仮面の司令官は、気分を切り替えるように話題を転じて、話のネタにする対象を切り替える。あるいは無自覚に、切り替え“させられる”

 

 それら詳しい内的事情を知らされていない艦長は、素直に上官の話題転換に乗っかって“彼ら”の話を口にする。

 

「どうでしょう? 通信封鎖しながらの浸透作戦ですので、こちらから確認することが出来ません。仮に通信可能な状況だったとしても、相手が通じる状態とも限りませんし・・・」

「まっ、それもそうだな。とは言え、信じて支援を委ねるしかないってのも結構クルもんでもあるわけだけど」

 

 兵達の間ではまことしやかに語られている噂話。混沌とした戦場にありがちなオカルトじみた伝説の一種。

 だが、あながち“でっち上げ”とも受け取りづらい、作戦開始前に追加戦力を率いる部隊の司令官として顔合わせをさせられた、味方部隊の異様な司令官。

 

 あんな姿をした軍人が、戦場で役立つとは思えない。

 だが、そもそも役立たずでしかないはずの軍人が、あんな地位にいて、あんな部隊を指揮している説明もつかない。

 まったく意味不明な存在だった。合理主義者で、どうしようもない事柄は深く考えないことをモットーとしている黒服で仮面の司令官も、そのことまで気にしないでいられるほど鉄の胃袋をもっていないことだけは確かな事実のようである。

 

「いずれにしろ我らは、一軍人に過ぎません。そのような判断は分を超えます。我々はただ与えられた任務を完遂する、その一時に注力すべき時と小官は愚考いたします」

「・・・・・・まっ、それが一番正しい物の見方ってヤツだろうな。少なくとも、今のところは」

 

 艦長が話題を切り上げるため、敢えて問題を戦術レベルだけに限定した意見だけを口にし、司令もまた彼の意見の正しさを承認して受け入れる姿勢を示す。

 

 大前提として彼らは、所属を偽り敵国に潜入して物資を強奪するという、極秘任務の最中にある。

 そうである以上、失敗して降伏しても捕虜として扱われることはなく、本国からも「そのような部隊は正規軍に存在しない」と切り捨てられる前提の立場にあることを意味している。

 また、敵に捕まって情報を漏らすことも許されない。

 命惜しさにソレをすれば、本国で帰りをまつ家族や友人達は、『卑劣な裏切り者の身内』として悲惨な末路を遂げさせる理由を自分たちが作ることになるからだ。

 

 その逆に、任務を全うして戦死した場合には、家族には年金や生活保障が与えられて、新司令部内の居住区画で生きていく権利が与えられる取り決めが、作戦に先立って確約されていた。

 こういう任務に従事する者たちの家族が、人質として本国内で最も権力者たちに近い場所で生活させられるのは、昔からよくあること。

 

 彼らとしては任務を与えられてしまった以上は、成功して生きて帰還して家族と再会するか。

 失敗して家族に迷惑がかからぬよう、証拠隠滅で艦ごと自爆して死ぬかの二者択一しか道はない。大人しく腹を決めて任務達成のため全力を尽くすしかないわけである。

 

 

「俺たち自身で出来ることは最善を尽くすだけだ。

 それでも勝負ってのは水物で、失敗するか成功するか生き残れるかは勝手に決めようがないわけだが・・・・・・あとは運だな」

 

 

 敵に気取られぬよう移動する彼らの船が、目的地までまだ遠い。

 

 

 

 

 

 

 

《アーモリー・ワン》

 プラント評議国が保有している軍事工廠コロニーで、約1年半前に終結した《ユニウス戦役》が終わって条約が締結された後、新たに建造された《ザフト軍》の拠点にもなり得る場所である。

 

 常であれば物々しい出で立ちの軍人たちが偉そうに街路を闊歩して、反戦平和主義者の逆賊たちを国家反逆罪で逮捕して回る状況にいつ陥ってもおかしくない、そんな場所と目的と建造理由で造られている軍事色の強いコロニーの一つだが・・・・・・ここ数日ばかりは本来の役割も忘れて、お祭りムードに包まれている地となっていた。

 

 それも戦争故だと思えば微妙な心地を抱く者も少なくなかったかもしれないが・・・・・・大半の者はそこまでのことを考えずに、気楽に純粋に『自分たちの平和』を守ってくれる新たな守護者の誕生を素直に祝福してくれている。

 

 そんなコロニー内の一角で、軍人でありエースを示す赤色を纏っている少女士官ルナマリア・ホークは、ジープの上で悲鳴を上げていた。

 車が進む先だった進行方向上に、式典参加のため移動中だったMSジンが割り込み、危うく踏み潰されてしまいそうになった直後だったからだ。

 

「ハァ・・・危なかったぁ。なんかもう、ゴッチャゴチャねー。下ぐらいシッカリ見て移動しろって感じ」

 

 九死に一生を得る羽目になった、エースとしては不名誉な生還の実績を味方によって与えられてしまったルナマリアが、愚痴るように友軍パイロットの「ヘマ」を罵る声をあげる。

 

 赤い髪色をした活発そうな印象の、十代半ばの少女だった。

 一般的な認識で考えるなら――あるいは、旧来の人類社会におけるナチュラルたちの一般認識では、まだ子供と認識される年齢だが、各人の基礎的能力が高い彼女たちの種族ばかりが暮らす社会では、すでに成人していると見なされるのが一般的な認識となっている年齢でもある。

 

 彼女たち、遺伝子を調整されて誕生した《コーディネイター》と呼ばれる新たな人類たちが、独立戦争の末に建国を勝ち取った国家《プラント評議国》の基準では、それが一般的な認識となっている。

 

「仕方ないよ。こんなの久しぶりってか、初めてのヤツも多いんだしさ。俺たちみたいに」

 

 そんな彼女の愚痴に、運転席でハンドルを切っていた緑色のつなぎを着た整備スタッフの少年兵は、穏やかな声で苦笑しながら味方のジンパイロットを遠回しに擁護する。

 彼らは共にザフト軍兵士の養成学校では同期生の間柄で、配属された船も同じであったが、性格はそれなりに違うようだ。

 

「ふ~ん? その結果として、浮かれた味方の下手くそな操縦のせいで踏み潰されて死んでも、初めてで久しぶりだから仕方ないって見逃せって言える訳?」

「いやまぁ、そういう言い方しちゃったら元も子もないし、俺だって流石にイヤだとは思うけどね」

 

 明け透けなルナマリアの主張はストレートで、直情的な彼女の正確を髪の色と同じく、よく現しているとも言えたが、同僚の整備兵『ヴィーノ・デュプレ』としては今少し気を遣って遠慮した言い方と表現におさえて欲しいと思わないわけでもない。

 

 彼は世の男性たちの多くが未だ、そうであり続けているように、『大人しくて可憐な美少女』を好むタイプの少年だった。

 そこら辺はナチュラルを地球人とだけ呼んで、地ベタの上だけを生活空間の全てとしてきた頃と何ら変わることなき、人類の半分近くにとって伝統といって良い性癖だったからどーしようもない。

 

 その性癖にもとづく基準から見て、先の大戦中に広く名と姿が知られたプラントの姫君にして《平和の歌姫》の異名を奉られた『ラクス・クライン』は彼の好みにピッタリ合致する女性の理想像だったと言える。

 

 

 ――ただ、ルックスと性格は良いのだが、歌や演出などには少し時代錯誤に感じられる部分もあったので、その点を改善して式典に飛び入り参加とかないだろうか?

 せっかくの記念すべき晴れの舞台なんだし、それぐらいのサプライズがあっても罰は当たらないはずなのでは・・・・・・

 

 

 待ち望んでいた式典を目前に控え、浮かれた心の中でそんな風に思考が脱線していたヴィーノだったが、再びのルナマリアの悲鳴と警告の叫びによって現実へと強制帰還させられるのは、最初のジンをニアミスしてから数分と経たぬ次の通路にさしかかった時のこと。

 

「ヴィーノ! 前、前だったら! 次来たわよ避けてッ!」

「・・・へ? う、うわぁぁッ!?」

 

 キキーッ!と、慌ててブレーキを踏みながらハンドルを切って、その日2度目の九死に一生を味わう二人。

 自分にも油断があったとは言え、この短時間で同じ事故を連発されるとは思っていなかった彼としては流石に味方の新兵に対する苛立ちが皆無というわけにもいかなくなってくる。

 

「ふぅ~・・・大体なんだって、こんなコロニーを式典会場に選んだのかしらね? 式典やるためだったら他のコロニーでも向いてるとこあったでしょうし、そっちだったら準備でここまでゴチャつく必要なかったのに」

「え? ・・・ああ、そう言えばそう、かな?」

 

 味方のヘマにようやく憤慨を感じたヴィーノとは裏腹に、二度目となって慣れが出来たのか既にどーでもよく感じ始めていたのか、ルナマリアの方は話題が変わって現実的な疑問を口にするのが聞こえてきて、彼の思考も再び彼女との会話に帰還していく。

 

 相手としては単に、このゴチャついた喧噪をせずに式典がやれる方法があったと文句を言いたかっただけの内容でしかなかったが、意外に具体的で核心を突いた指摘になっていたところは、流石のエースと言って良い彼女の長所だったのかもしれない。

 無意識にそう言うのが出来て思いつける思考は重要だ。ヴィーノとしては少し真面目に考えて答えを出してみようと思える価値はある疑問だったらしい。

 

「・・・・・・たぶん、議長としては内外に示すために、この場所を《ミネルバ》の進宙式に選んだんじゃないかな?

 地球のブルーコスモスとかの勢力に対しては、『プラント側には万全の備えがある。力づくで来ても無駄だ』ってことを分からせるために、力を見せつける。

 逆にプラント内には、議長の方針に批判的な政治家とか、主戦派の軍人なんかに、「コレこの通り準備は万全です」って軍事面でアピールするために。

 「またコロニーがテロ攻撃される危険があるから地球を滅ぼせ」って言ってる人もまだまだいるからねー。そういう人達の心情を考えれば、こーいう演出も必要ってことなんじゃない」

「そんなもんかしら?」

「そーだと思うよ、きっと。そりゃ連合の奴らがやってるみたいな、バカみたいに気取る必要なんてないと思うけど、軽く見られたら奴らまた攻めてくるだろうし、見せつける必要があるってことなんじゃない? きっとさ」

「ふ~ん・・・・・・」

 

 同期生で同僚でもある少年の解説に、ルナマリアは分かったような分からないような、微妙な心地を抱えながら一応は納得することにして、話題を終える。

 どのみちパイロットでしかない自分には、そこら辺の小難しい政治からみの話は分からない。考えるだけムダと割り切って、いざという時には自分に出来ることやるだけだと想い決めて吹っ切れる。

 

 ――ただまぁ、素人意見として個人的に思うことがあったとするならば。

 

 

(私が同期のムカつく女友達に同ような事されたときには、“挑発”としか思わないけど、政治ってやっぱ難しいのね~)

 

 

 そう無自覚に、この式典の核心を突いている感想を抱いていたことに、本人自身が気付かぬまま、彼女はただそう思っただけの個人的感想として終わりを告げる。

 

 

 ――実のところ、ルナマリアたちが気付かぬところで、ヴィーノたちが考えようともしない分野で、彼らが所属する《プラント評議国》と《ザフト軍》は、地球軍との戦争によって深刻な社会問題を抱え込むようになっていた。

 

 彼女たち、ルナマリアやヴィーノという存在が誕生できていること自体が、既にしてプラントが抱え込むようになった国家的な大問題を示している指標になっている事実に、彼らはまったく考え及んでいなかったのだ。

 

 赤服のルナマリアも、緑服の整備兵ながら新造戦艦に配属されたヴィーノも、共に優秀さを認められての任官であり、地位身分に相応しい実力をもっている若さに似合わぬ優れた人材だったが・・・・・・彼らが今の地位に就くことが出来たのには、今ひとつ大きな理由と必要性が存在している。

 

 

 成人した『大人の軍人』が、ザフト軍から少なくなりすぎていたのである。 

 

 

 地球プラントが本格的に武力衝突へと陥った先の大戦の後半、当時のプラント議長パトリック・ザラの独断により《真のオペレーション・スピットブレイク》を断行したザフト軍は、手薄になった敵軍司令部を大軍で奇襲するという作戦案を逆用され、攻め寄せた敵軍ごと本部施設を自爆させるという非常手段によって壊滅的な大損害を被らされ、地上侵攻軍の大半は永遠に損失させられてしまう。

 

 この被害を受けてプラントでは急遽、大規模な徴兵と志願者による軍への入隊、錬成途中だった訓練兵たちの教育課程を大幅に繰り上げ実戦投入する緊急事態体制へと移行していた

 その結果、ザフト宇宙軍は数の上での戦力を回復し、大人たちの永久未帰還で減ってしまった労働人口を基礎能力が高い子供たちが上限年齢を下げることで賄い、社会システムの弱体化を防ぐことに成功することができたのだ。

 

 その後、プラント社会を支える新たな主力となった年齢層は、当時の少年少女たちが担い続けたまま今に至っている。

 現在のザフト軍や一般企業の社員たちの多くは、この時代に少年兵だった者や、訓練生たちが飛び級して卒業させられた者たちが成長した姿となって今日のプラントを支えており、当時の自分たちがいた場所には子供たちの成長した姿が座っている。

 

 表面的には、それで問題は起きていない。

 自然に生まれたナチュラルと比べ、基礎能力が高いコーディネイターの成人年齢は低く、少年と呼ばれる年齢でも大人顔負けの能力を示して社会を支える戦力となれる。ソレが彼らの強みであるからだ。

 

 ・・・・・・だが、その結果。

 軍隊と職場には子供たちが成人となった姿が多く見られ、中等学校には子供たちが少年少女となって座っている光景が目に映るようになってはいたが・・・・・・学校から『子供たち』の数は大幅に激減するようになっていたのだ。

 それが未来のプラント社会に深刻な影を落としていることに、今を生きる彼らは自覚が乏しくなり過ぎていたのである。

 

 減ってしまった人口を元に戻すには、年齢と同じ歳月が必要になるしかない。

 とある社会学者の統計によれば、今のままプラント社会が進んでザフト軍の主力を担う少年兵たちが大人の軍人になり、今の子供たちが少年兵としてザフト軍の主力となった頃。

 

 ・・・・・・ザフト軍士官学校では、人数の定数が6割を切るという試算が、既に評議会には提出されていたという。

 戦争の勝敗とは関係の無い場所と問題によって、プラント社会の未来は危機的状況に陥りつつあったのだ。

 仮にコーディネイターが抱える種的課題の出産率低下が解決できたとしても、女性や少女までエースになれる彼らの社会では、出産人口そのものが低下傾向にあり続けている状況から早期に抜け出せなければ意味が薄い。

 

 その試算を、現プラント議長ギルバート・デュランダルは。

 

 

『具体的な方針を決められていない現状で、市民たちに不安だけを与えることは地球側ブルーコスモスの野心を刺激するだけで、却って危険だ。

 解決策と共に市民たちに示されるまで、公表するのは控えた方が安全だろう』

 

 

 という理由説明によって発表を取りやめにした決定を、プラント市民たちは知らされていない。

 その議長肝いりで新たに開発された戦後初の新造戦艦と、終戦から初めての浸宙式という一大セレモニーに、目と心を奪われていた若い世代のコーディネイター兵士たちは一様にこう言う。

 

 

「でも、これで《ミネルバ》も、ついに着任だ。配備は噂どおり、月軌道になるのかなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――では議長殿の意向としては、我が国からの要望にはお応えできない。と言うことなのだな?」

 

 堅い口調と表情のまま、少女から述べられた舌鋒鋭い言葉の刃を向けられて、対面に座して茶をたしなんでいる人物は、柔らかく微笑みを浮かべながら、問いへの回答を返していた。

 

 ―――その通りである、と。

 

 

「姫のおっしゃることも分かる話です。ですが我々は何も、彼らに無理強いして軍事技術を供与するよう求めているわけではありません。

 故国が一度、連合に滅ぼされたとき難民として我が国へと避難してきた彼らが、この地で生きていくため、暮らしを成り立たせることが出来るようための手段として、持てる技術を活かして努力するのは自然なことであり、仕方のないことでもある。

 ――そうは思われませんか? 姫・・・いや、オーブ連合首長国のアスハ代表」

 

 穏やかな表情と口調ながらも、相手に告げられた指摘そのものは事実であることを認めながら、一歩の譲歩も妥協もするための言質を取らせない相手の鉄面皮に、少女の方は反吐が出る思いを味あわされたが、言っている内容は正論そのものだったため追求を続けることは難しかった。

 

「・・・私とて、なにも彼らの新たな生活にケチをつけようなどと思っているわけではない。

 だが、我がオーブと連合戦のおりに流出した《モルゲンレーテ》の技術者たちだけが有していた技術の中には、条約に抵触しかねない軍事技術も含まれている。

 それらの行き過ぎた軍事利用をやめてさえ頂ければ十分なのだ。その程度のささやかな願いさえ、議長殿にはお聞き届けいただけないのだろうか?」

「残念ながら」

 

 簡明に、柔らかい口調で、だが断固とした拒絶をもって少女からの要望は棄却される。

 彼らが向かい合っている場所は、ルナマリアとヴィーノが軍用ジープを飛ばしていた場所から、それほど離れていない軍事施設内の一角にある応接スペース。

 

 向かい合う少女と対面に座している好青年風の優男は、年齢に差があったが、それ以外の面でも違いが大きく、むしろ同じ部分を見つけることの方が難しい。

 そういう関係性にある国家を代表する男女たちだった。

 

 一人は、《オーブ連合首長国》の代表首長『カガリ・ユラ・アスハ』

 地球の一国家であり、先の大戦では最後まで中立を貫きながらも、その姿勢と高い軍事技術を危険視した連合軍によって侵略され、一度は征服の憂き目に遭い、戦後の混乱と連合の弱体化に乗じて再建を果たした国のトップを務めている少女である。

 今では当時と同じく、宇宙コロニー国家プラントの数少ない地球上の友好国として関係を修復しているが、政府の影響力や社会的立場という点では往事を回復するには至っていない。

 

 今一人の男性は、《プラント評議国》の最高評議会議長『ギルバート・デュランダル』

 現在のプラントとザフト軍を統べているトップに立つ人物で、熱心な講話論者として市民たちの評判は高いが、主戦派の軍人たちからは弱腰な外交姿勢が非難されてもいる若き指導者。

 

 彼らが今の時期に、極秘裏に会談をおこなっている理由と目的は、先の大戦末期に『地球軍の意向に従わぬ国』としてオーブが滅びの道を歩まされたとき、同盟国として難民の受け入れ先を担ってくれたプラントに逃げ延びたオーブ出身の軍事技術者たちの存在が、最近になって外交上の引け目となってオーブに重くのし掛かるようになってきていた。

 

 その改善を求めるための協力要請、というのがオーブ国代表としての主目的だったが・・・・・・カガリ個人としても、この問題には議長から承諾を得たいと強く願う気持ちに今ではなっている。

 

 ―――あまりにザフト軍の力が、強大になり過ぎている。

 それが彼女が自制を強く求める理由であった。

 

「とは言え、私とて連合の国々をいたずらに刺激するほどの軍事力を持ちたいわけではありません。

 ですが姫も知っての通り、地球上では例の《ブルーコスモス》が再び勢力を盛り返している状況にあります。噂では新たな盟主のもと、巨大な後ろ盾となるものまで獲得したとも。

 彼らは組織と言うよりも主義者、あるいはブルーコスモスという主義そのものです。いくら条約を強化しても、それを遵守させる者に意思と力がないのでは、テロを未然に防げるものではありません。

 その時に犠牲者を出さぬため、被害を防ぐためには、彼らの力を必要とせざるを得ないのです。残念ながら。

 彼らはただ、こちらが武器を持たずに話し合いで解決する意思を示しただけで、攻撃を辞めてくれることは決してない危険な者たちです。

 それは姫とて――いや、姫の方がよくお分かりでありましょう?」

「それはっ!・・・・・・そうなのかもしれないが・・・」

 

 相手からの指摘に、その点に関する限りカガリとしては返す言葉がない。

 確かに《ブルーコスモス》と呼ばれる過激な思想結社によるテロ攻撃は、コーディネイターたちの社会にとって深刻な被害と、心理的な軋轢とを深く植え付けるに十分すぎる脅威として地上では再び猛威を振るうようになっていた。

 

 『反コーディネイター』を掲げて各地でテロ攻撃を断行していた彼らは、先の大戦終結間際に盟主《ムルタ・アズラエル》を戦死させられ、当時は地球軍の国防産業理事を務めていた彼に大侵攻失敗の責任を押しつけて保身を図ろうとした大西洋連邦の閣僚たちからも切り捨てられ、見る影もないほど落ちぶれる憂き目に遭っている。

 

 更には、プラント側に大量破壊兵器《ジェネシス》を発射させる口実としての核攻撃断行や、世論を煽るためザフト軍に罪をなすりつけて《ジェネシス自爆》で味方の兵士たちを殺戮させたなどの凶行が知られるようになったことで、一般市民たちからも支持を失いバッシングの嵐に晒されるようになっていたはずなのだが・・・・・・それが近年、再び勢力と影響力を取り戻しはじめているという報告はカガリたちオーブ国の耳にも届くようになっている。

 

 彼らのような集団に対して、確かに武器を持たぬだけでは『獲物が楽に殺せるようになった』と餓狼たちを喜ばせるだけになるのは目に見えている。カガリとて彼らの脅威から守るための軍事力増強まで否定しているわけではない。

 だからこそ自分たちオーブも、戦火からの復興と同時進行で防衛力としての軍備再建を推し進めてきてもいる―――しかし。しかしである。

 

 

「だが! 強すぎる力は、また争いを呼ぶ!!

 ザフト軍が今以上に強大化するのを見せつけられた地球側が、恐怖心をかき立てられ軍備増強を推し進めるようになるのは必然的な結実だ!

 そうなれば第二のオーブに、プラントが選ばれるだけではないのか!?」

 

 

 強大化した敵から身を守るため、敵より強力な兵器を開発して武装するようになれば、敵の側でも同じ流れが発生し、自分たちが強くなったから相手も強くなった姿を見て、更に自分たちも強化しなければと、際限ない軍拡競争が幕を開ける。

 

 鶏が先か卵が先かの違いしかない、際限なく続くパワーシーソーゲームは、極端すぎるほどに軍需偏重の社会体制と経済へと至らせて、やがて国の金を残らず軍隊と兵器を造るために吸い上げさせて自滅する。

 そうなる危険が既にプラント側ザフト軍では起き始めているように、商業国家でもあるオーブ首長カガリの目には見えて仕方がなかった。

 

 だが、物事には側面があり、彼女の言うことが正しければ正しいからこそ、逆側の主張もまた然り。

 

 

「いいえ、姫。争いがなくならぬから、力が必要なのです。

 少なくとも今の人類には、ソレしか脅威より自らの生命と家族の安全を守るための手段と選択肢を生み出すことが出来ていないのですから。

 我々が戦いを望んで、戦いを仕掛けた訳ではない。それでも彼らは我らと同胞を殺しに来たのです。それだけはどうか、ご理解いただきたい」

 

 

 先の《ユニウス戦役》が始まった切っ掛けは、地球から放たれた核ミサイルが罪ない一般市民ごとコロニーを業火に包んだ悲劇によるものだった。

 いま現在オーブが責められ、カガリが対応に協力を求めている理由も、大西洋連邦からの言いがかりと言うより、でっち上げを論拠とする政治的圧力をかけられているのが原因で、プラントへ逃れた難民たちは都合のいい口実に利用されているだけでしかない。

 

 そのような相手から権利と自由と生命を守るために力を付ければ、『自分たちを脅かし恐怖心を煽って戦争を起こさせたがっている』と、都合のいい理屈と解釈で他者を責めることばかりしてくるマフィアのような大国に、力を増強する意外にどんな手段が防衛策として有効だというのか? デュランダルはそう主張して一歩も譲らない。

 

「しかし、それでは!・・・あなた方プラント市民たちの心情を鑑みれば、それをするなというのは無慈悲に過ぎるのは分かっているが・・・・・・しかし、それでも・・・っ」

 

 唇を噛みしめて俯きながら、必死に思いと言葉を解そうとする若く美しい同盟国元首の姿には、見る者たちに感銘を受けさせられるものは確かに感じられ、自分の護衛も兼ねて同席していた何人かのザフト軍高官たちは感じ入ったように頷いてる姿が見て取れる。

 

 それらの姿をチラリと流し見てから、対面に座す少女へと視線を戻したデュランダルは、心の中で彼女への評価としてこう呟いていた。

 

 ―――青いな、と。

 

 今回の会見でカガリが問題視して要望を述べてきているのは、プラントに難民として流れ込んだモルゲンレーテ出身の軍事技術者たちによる軍事技術供与をザフト軍がやめるよう求めてのものだ。

 一方で、カガリ自身は再興された母国オーブを2度目の悲劇から守れるよう、国防力強化に勤しんでいる。

 

 

 ――ならば、再建なった祖国の防衛力強化のための力として、彼らに協力を求めれば済むだけの話だというのに・・・・・・そういう使い方をしたがらないところは、まだまだ子供ということさ。お嬢ちゃん。

 

 

 心中で微笑ましい子供の悪あがきを揶揄しながら、何かしらの言葉を続けようと上半身を乗り出そうとした彼だったが―――その時。

 部屋の扉が開いて足早に入ってきたザフト軍の軍服をまとった兵士から小声で告げられた報告に目を細め、言おうとしていた言葉を止める。

 

「・・・・・・失礼、内輪の報告が入ったようでして、すぐ戻ります」

 

 そう言って席を立った彼は、膨張対策が完備された隣室へと報告役の兵士を招き入れ、改めて現場からもたらされた報告内容を脳内にて反芻させる。

 兵は耳元に口を寄せ、彼にこう言ったのだ。

 

 

「軍港から市街地へと続く通路で、警備に当たっていた兵士たちが死体となって発見された」

 

 

 と。

 その報告をもたらした兵士に、他にも幾つか確認事項を聞いた上で、デュランダルは出すべき指示を決定する。

 

「・・・侵入者は、市街地へ向かった可能性が高いのだな? よし、密かに捜査要員を増やして、進路上のゲストたちには避難するよう誘導してくれ。

 ゲストたちの安全を最優先し、決してコチラからは仕掛けず、包囲にも敢えて穴を開けて侵入者を外部へと逃れさせてから仕留めるよう徹底してくれ。

 下手に刺激して、追い詰められた敵に人質ごと自爆されるような事態だけは避けねばならんからな」

「ハッ、無論です。ではすぐに」

 

 議長閣下からの指示を現場に伝達するため足早に去って行く兵士の背中を見えなくなるまで追ってから、デュランダルは鋭かった目つきを僅かに和らげると意外さを込めた声音で呟きを発していた。

 

「・・・・・・強攻策で侵入してきたか。多少意外だったが、まぁいい」

 

 それだけ言って、彼は招かれざるゲストが予定通り到着したことを意味する報告に、心の中で安堵の笑みを浮かべていた。

 一般の招待客にも、警備の兵たちにも、ザフト軍高官のほとんどにも知らされていない事実として、この式典には正式な招待客を招くため非公式な招待状が送られている。

 

 各地からVIPたちを招き入れての式典用コロニーと化している今の《アーモリー・ワン》であれば、侵入するための手段や出入り口は無数にある。

 だが何分にも、非公式の招待状を送り届けた、招かれざるゲストからの来訪であるため、通常の出入り口をそのまま素通りするというわけには流石にいかない。何らかの非合法手段によって不法侵入するしか、公式には招かれていない招待客が式典に参加できる方法は存在しないはず。

 

 問題は、その手段としてどの選択を選ぶか?と言うことだった。

 これだけはデュランダルにも指定しようがない。

 

 偽造された招待状で、ゲストたちに紛れて潜り込むか?

 警備担当者かゲストたちを内通者として買収して忍び込むか?

 あるいは―――強硬手段で強引に潜入するか。これらの内どれを選ぶかだけがデュランダルにとっての懸念事項だったが、その答えが今もたらされた形になる。

 

 最も可能性が低いと予想していた選択肢が選ばれるという、些か意外な結果として。

 

「所詮テロリストのやることなど、そんなもの・・・ということか。まぁ手段はどうあれ、無事にパーティ会場には到達できたのだ。それだけでも良しとすべきだろう。

 まるきり失敗という危険性も0ではなかった連中なのだから―――」

 

 

 薄く笑って冷笑し、応接室へと笑顔で戻っていくデュランダルは、心優しい姫君を式典見学へと誘って外へ出る時期が来たことを理解していた。

 

 自分のプランへと至るための計画が、ようやく始まりの時を迎えるのだ。

 幾つかの危険はあり、不確定要素も0ではない。だが既にここまで来たのだ。

 後はただ、突き進ませるだけのことでしかない―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悲喜交々な思惑が交錯し合う、平和維持のための新造戦艦お披露目と、戦後初の浸宙を祝う軍事セレモニー。

 その会場を睥睨して、集まった人々を見下ろしながら穏やかに薄笑いを浮かべているプラント議長と、彼の計画の生け贄になることが内定している集められた多くの人々たち。

 

 だが、そんな中で黒幕を自認する議長と同じように、薄笑いを浮かべながら式典会場を眺めやる、今一人だけの少女の存在を認識している者は一人もいない。

 

 

「あはっ♪ やっぱり自分からパーティ会場まで出てきたんだ。

 警備側の動きから見て、垂らした血と死体を追わせて、人殺しの侵入者が街に向かったとしか思わなかったみたいだしー。

 まずは計画通り、じゃなくって、デュラ君が企んでるプラン通りってことになるのかな? まっ、どっちでも別にいーんだけど・・・・・・って、アレ? あの姿ってひょっとして・・・」

 

「・・・うわ、これは予想外だわ。うちの国のお姫様とデュラ君が一緒に出てくるなんて、“彼女”も予測してなかった超展開・・・どうしよぉ・・・・・・」

 

「う~ん、でもこんな姿見せられちゃったら、きっとお兄ちゃんは大激怒間違いなしなんだろうね。顔真っ赤にして怒っちゃうかな? それとも青くかな?

 楽しみだな~。今どこで、どんな役職について何やってるんだろ?

 会いたいな~。会ってみたいな、久しぶりだな、どんな顔するのか愉しみだな~♪」

 

「まず間違いなく、ザフト軍には入ってるはずなんだけどなぁ~。お兄ちゃんのことだから絶対に。

 守るためだけが目的だったら、オーブ国防軍に入って、防衛力強化に貢献するって道もあったんだけど、お兄ちゃんなら絶対にオーブ軍より攻撃的なザフト軍を選んでるはずだしね、絶対に。

 早く会いたい会いたい、お兄ちゃ~ん。会ったときには最初に言ってあげるんだー。

 “マユでーす♪ はじめましてッ♡”って。どんな顔見せてくれるかなぁ? お兄ちゃんはッ。愉しみだなぁ~、心の底からホントウに」

 

 

 

 

つづく

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。