ガンダム二次作   作:ひきがやもとまち

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少し前の要望で【作者風シロッコSEEDの劇場版フリーダム】を読んでみたいお声を頂いてから、少しずつ書いてたのが先程できましたので投稿してみました。
あくまでテスト版であり、本編の流れ的には同じ形に至れるかは別の話になるかもしれませんが、だからこそ今の時点で出しても良いかなと思った次第。

尚、【転生シロッコ】の方だけじゃなく、コッチにも出したのも同じ理由です。
ホントに作品の未来になるか別作品枠になるか分からんかったので、お試し用としては良いかと。


試作品【転生した私はコズミック・イラの立会人になろうFREEDOM】

 

 コズミック・イラの暦を用いて宇宙進出を果たした地球が、初めて経験した大規模な宇宙空間での戦争は、地球連合軍とプラント評議国のものだった。

 その開戦から4年弱・・・・・・。

 地球に住む天然自然から生まれた人類《ナチュラル》と、スペースコロニーに移り住んだ遺伝子調整人類《コーディネイター》との確執は未だくすぶり、地球をめぐる戦いの中で死んでいった者達への想いと怨みに人々の心を囚われ、憎しみという名のメビワスの輪から抜け出せなくさせていた。

 

 それ程の犠牲を払いながら、人々の魂が地球の重力から解放されることはなかったのだ・・・。

 

 そんな状況の中、CE0074。

 《ブレイク・ザ・ワールド》に端を発した先の戦いの中、新たに提示された世界システム《デスティニー・プラン》も提唱者デュランダルの死と共に葬り去られ、ナチュラル・コーディネター間の溝は埋まらぬまま、後にはまた深い悲しみだけが残された・・・・・・はずだった。

 

 だが、宇宙の深淵の中だけでなく、地球の重力の底の一角でさえ。

 葬り去られた過去の遺産を忘れられず、忘れる者を許すことができぬ者達が存在し続けていることを、世界はまだ知らない。

 

 

『忘れはしない、人の愚かさゆえに我らは生まれたという事実を。我らは愚かな人の世を導くため、世界のために生まれた存在だと言うことを。

 そして―――“彼”を殺した“男たち”のことを。

 我々は―――2年間、待ったのだから・・・ッ!!』

 

 

 戦火で傷癒えた鷲は、いま再び舞い上がろうとしている。

 それは同時に、歴史の立会人となることを望む傲慢な男にとって、最後に残った障害となり得るものを排除すべき刻が訪れたことを告げるものでもあった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スーパーミネルバ級MS惑星強襲揚陸艦《ミレニアム》

 『平和維持のための実行力を保有した非国家、非遺伝子差別的な能動的組織』という理想を掲げて設立された世界平和監視機構《コンパス》に所属している最新鋭戦艦である。

 

 その艦内に警報が鳴り響いたのは、地球軌道上で待機中だった母艦へと“彼ら”が帰還して休息を取っていた直後のことだ。

 

『アフリカ共和国、オルドリン自治区領内へブルーコスモス残党と思われる攻撃部隊が侵攻。

 行動探査によると侵攻部隊はカナジ市街から発進したと推測される。会敵予測時刻ネクスト05。

 パイロットは搭乗機へ。ヤマト隊、発進準備。各隊員は速やかに所定の作業を開始せよ』

「えぇッ! もう!?」

 

 警報と共に全艦へと告げられた艦内アナウンスを耳にした瞬間、『シン・アスカ』は思わず悲鳴じみた叫びを反射的に呟き捨てずにはいられなくなっていた。

 無理もない。パイロット待機室で休息を取ろうとしていた彼は、数日ぶりに母艦へと帰還したばかりだったのだから。

 だが無論、そんな事情を頓着してくれる相手ではないことを熟知している彼は、出撃そのものに異論はない。

 疲れはないと言えば嘘になるが、コーディネイターの中でも特に優れた個体の一人である彼には、この程度で根を上げるほど易い経験をしてきた覚えもない。

 

 何より、『尊敬の対象』が率先して出撃するのを彼は疑っていないのだから。

 

 同僚であり同期生でもある少女の手でエスコートされながら無重力空間のモビルスーツデッキを自分の機体へ急ぎ急行する。

 

 だが、そんな彼に対して『尊敬している相手』からコクピットに届けられた指示は、“いつも通り”彼の期待に応えてくれることはなく。

 

『――了解。《フリーダム》突入後、シンは政府施設の防衛を。

 ルナマリアとアグネスは市民の避難を誘導しつつ、オルドリン守備軍を援護』

「えっ!?」

「またぁ?」

 

 コクピット内に響いてきた隊長機からの指示内容を聞かされ、シンと同僚の女性パイロット『ルナマリア・ホーク』は同じように疑問符を交えた感想を口にせずにはいられない。

 反対、という程ではないが、その声には不満そうな色が混じっているのは明らかな口調だった。

 

 そう、“また”なのだ。

 数日ぶりに帰還する今日までの戦いでも、その指示を下してきた隊長は常に自分一人だけで最前線の切り込み役を担い、他の者達は避難民の防衛や討ち漏らしが被害を広げぬよう確実な撃滅役だけしか任せたことが一度もない。

 

 それはそれで、保有する戦力が敵と比べて乏しく、質で勝っても数では大きく劣る平和維持機構という組織の事情を鑑みれば、あながち間違った編成とまでは言えないものでもありはしたが、こうも同じような編成での出撃が続けば意図的な偏りに疑問ぐらいは沸いてくる。

 

 今一人の同僚『アグネス・ギーベンラート』に至っては、ハッキリとした不満を意見として口にする。

 

「隊長、私の機体は接近戦向きです。前線の敵は私が叩きますので、是非ご一緒させてください!」

「隊長! 俺も行きます! 俺だって前大戦では接近戦は得意だったんですから!」

『ダメだ!』

 

 二人の貴下にある若きパイロットたちからの勇ましい言葉に対して、隊長は静かな声音で、だが有無を言わさぬ断固とした口調で拒絶の言葉を返した後、

 

『――戦場を広げたくない。

 今までと同じ手を彼らが使うのは今度こそ阻止しないと・・・』

 

 そう続けられてしまえば、彼らとしても返す言葉がない。

 実際、敵部隊に比べコチラの方が数の上では圧倒的に不利な状況にあるのは事実なのだ。

 旧世紀に記された『戦略爆撃論』という著書によれば、大軍で迫る敵からの空襲を迎撃する側が完全に防ぎきることは不可能なのだという。

 襲ってくる側は1機でも包囲を抜けられれば被害を与えられ、防ぐ側は1機だけでも抜けられてしまえば後方に損害を被らされることを意味する。

 

 襲う側が守る側より優位な所以だ。

 攻めるに易く守るに難い都市防衛戦という戦いで、攻撃役だけに人員を集中させるのは得策ではないという隊長の判断自体は正しく、合理的で感情に走った部分は見受けられなかったが―――それで彼の心理に歪さがないという証拠になる訳でも待たない。

 

 それでも論としては正論で、それ以上の策を思いつくことも出来なかった部下に割り当てられている2人のパイロットたちと1人の女性兵士が不承不承ながらも納得して出撃準備に戻った後。

 

 指示を下し終えた隊長のパイロット―――穏やかな風貌をして、どこか思い詰めたような瞳を持った青年『キラ・ヤマト』は、聞いている途中だった艦長からの敵情報に改めて耳を傾ける。

 

『敵部隊は中隊規模、おそらくライハかドマで敗れた部隊の生き残りを糾合したものと推測されます。

 まぁ、現地部隊からの報告ではありますが、これまでの経緯から見て大部隊で侵攻可能な余力があるとも考えにくい。多く見積もっていた方が良いとは言え、大隊規模と言うことはないと見てよいかと。

 とはいえ敵も必死らしく、状況が切迫していることだけは確かなようです』

「了解。ハーケン隊はミレニアムの護衛に残します」

『助かります。・・・・・・それと、コレは敵情ではないのですが今一つ報告すべき通信が先程入りまして・・・・・・』

「・・・? なにか、よくない情報でも・・・?」

 

 らしくもなく、言いづらそうに口ごもる報告役の相手、この《ミレニアム》を預かる艦長《アレクセイ・コノエ》の反応にキラもまた、顔に不安の影を落としながら先を促す。

 戦況は余り好ましい状況ではなく、これ以上の悪化を招く恐れが介入してくる危険性はできれば避けたい、というのは彼の偽らざる本心だったが、コノエとしては生憎そういう話題で深刻ぶる趣味を持っている男ではない。

 

『いえ、どちらかと言えば吉報に類するものではあるのでしょう。

 《ネオ・ディサイズ》から増援を派遣するという申し出が届いているのですが、如何がすべきかと思いまして』

「!! シロッコ、さん・・・達の部隊から・・・・・・」

 

 その組織名を聞かされた瞬間、キラの顔に浮かんだ表情とコノエの顔が奇妙にリンクする。

 《ティターンズ》――それはCE70に《ユニウスセブンの悲劇》を発端として始まった地球プラント間による初めての本格的な武力衝突が終結した後に創設された、ザフト正規軍とは異なる独自行動権を持った《特殊治安維持部隊》に与えられた名称だった。

 

 その戦争の中で、感情に駆られた軍部は暴走の兆しを見せはじめ、一部権力者は彼らと結託して敵側に軍事機密を漏洩させ、戦争の激化のみを目的とした大量破壊兵器使用まで至らしめてしまった・・・・・・という苦い教訓から、『政府と軍部の癒着と暴走を監視する第三者機関』の必要性を主張した議員と、その意思に賛同したザフト軍人達によって創設された監査組織。

 

 だが、『暴走する政府首脳や軍部への抑止力』となるために与えられた強力すぎる権限と自由行動権が徒となって、徐々に過激化と暴走と自己矛盾とを繰り返すようになり、最終的には内部崩壊の末に消滅の末路をたどることになる。

 

 シンも一時期、彼らの思想に強く共鳴していた時期をもっている一人だった。

 当時の議長デュランダルが、自らの計画を進める重要な『駒』として彼を求めなければ、あるいは今とは違う所属に立つ未来になっていたやもしれない。

 

 

 ・・・・・・だが、今にして思えば、そんな組織の自壊さえ『彼』にとっては最初から予定されていた筋書きをなぞっただけの必然的な結実に過ぎなかったのかも知れない・・・・・・そうキラには思われる。

 

 

 パプティマス・シロッコは、地球プラント間が最初に争い合った戦いの渦中に出会い、奇妙な交流と共に過ごす時間を得ることになった、役者のような印象を受けさせられるザフト軍の副隊長だった人物だ。

 彼とキラとは当時から幾つか奇妙な縁があり、それに続く戦いでも時に敵対し、時に共同戦線を張り、同じ敵を倒すため強調し合ったこともある。

 

 ―――だが一度として、『味方になった事』だけはない。

 

 そんな奇妙な印象を与えられる人物だった彼は、上司である『ラウ・ル・クルーゼ』と共にティターンズの志に賛同し、初期メンバーの1人として大きく貢献を果たした有力者だったが、一方で変質した組織を見限り離反して、最終的に引導を渡す役を担ったのも彼ら二人が指揮する勢力の手になる結果だった。

 

 そして戦いの後、軍事色が強くなりすぎたティターンズの悪しき部分を全て排除し、新たに『独立外縁部隊』として《ネオ・ディサイズ》を結成させ、初代総帥と副総帥になったのも元ティターンズ幹部でもあるはずの彼ら2人・・・・・・

 

「・・・・・・・・・」

 

 それら過去の経緯が、キラに判断を迷わせる。

 彼はシロッコを悪人だとは思っていない。悪い人だとも、エゴのために他者を平気で踏みにじる人だと感じたことも一度もない。

 

 ただ、『危険な人だ』とは思う。

 出会った時から、その感想だけは変わったことが一度もない。

 

『返答は保留しておりますが、どう回答しましょう? やはり謝絶する形で、我ら独力での事態解決を目指すことで――』

「・・・いえ。今は一人でも多く味方が欲しい、助力に感謝すると伝えてください」

 

 沈思黙考していた隊長の口から告げられた指示内容に、驚いた表情を浮かべていたコノエ艦長だったが、彼が返事をする前に『出撃準備完了、フリーダムどうぞ』というコールがかかり、出撃前の準備中に可能な会話のタイムリミットは終わりを迎える。

 

「行きます。ネオ・ディサイズへの通達も含めて、後のことはお願いします」

『――了解しました。では幸運を、ヤマト隊長』

「キラ・ヤマト、《ライジング・フリーダム》行きますッ!!」

 

 その発進シークエンスと共に、幾筋もの光がミレニアムから発して、地球へと向かって落ちてゆく。

 それは自由なる宇宙へ飛び立って尚、重力の井戸の底へ自ら落下してゆくことを渇望し続ける、自分たちを産み落とした母を忘れることが出来ずに縛られ続ける、飛び立つことを放棄した雛鳥たちの帰還にも似て・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アフリカ共和国・オルドリン自治区に隣接するカナジ市では、もうじき地獄が訪れようとしていた。

 漆黒の夜空へと飛行可能MS隊が次々と舞い上がり、地上から浸透させる部隊が戦車隊を随行させながら巨大な足を踏み出していく。

 

 その周囲ではツナギを着た整備兵たちが、忙しく走り回ってはセッティングを終了した機体から発進させていき、揃いの軍服と装備に身を固めた正規兵らしき男たちが鷹のような目で周囲に警戒の視線を送っている。

 

 そして・・・・・・少し離れた場所に立つ建物の中で、彼らを怯えた瞳で窓の外に眺めやり、息を潜ませて静かに抱き合っている母子の姿が遠目に見えた。

 

「《第07小隊》セッティング完了、コースクリア。いつでも発進できますッ」

「《第15戦車中隊》、カナジ市街周囲への配備を完了」

「・・・・・・いよいよだな」 

 

 部下たちからの報告に耳を傾けながら、指揮車に座乗している司令官は小さな声で独白する。

 陸上戦艦などの目立つ母艦は用いることなく、一度分解できるものは幾つかのパーツ事に別けさせ、幾人かのシンパたちに伝手を使って生活物資として運び込ませたものを、現地の工場で組み立て直させたMSや支援パッケージなどが次々と元の姿を取り戻させ、そして夜空へ向かって飛び立っていく。

 

「街の住人たちは、大人しくしているだろうな?」

「はい。何組かが監視を逃れて市外へ逃走しようと試みたようですが、部下が排除しました。それ以降は我々の指示に従い、特に変化らしいものは見られないようです」

「・・・あまり手荒すぎることはするなよ? 大人しく従う者まで殺す必要はない。

 “今のところは、まだ”な・・・・・・」

 

 最後の一言を述べたとき、露悪的な笑みが指揮官の顔に浮かび上がる。

 ――彼らには一様に、強い危機感と市民たちへの侮蔑・・・・・・そして追い詰められた者特有の“焦り”が見えた。

 

 彼らは軍服の形状や階級章、規律ある集団行動に慣れていることから『地球連合軍』に所属していた正規軍人たちの集団であることが判る。

 だが一方で、彼らは地球連合を構成していた主要国の『大西洋連邦』や『ユーラシア連邦』の軍人たちではない。

 

 脱走兵たちの集団だった。

 あるいは、旧軍内部で権勢を誇った軍閥勢力こそが、最初から彼らの本当の所属だったと言うべきかもしれない。

 

 

《ブルーコスモス》

 

 

 それが彼らの所属する勢力の通称であり、組織の根幹を成す思想であり――『コーディネイター根絶』を掲げて活動し続ける思想結社の名前でもあった。

 彼らは『遺伝子調整されたコーディネイター』を『自然の摂理に反した存在』として忌避し、抹殺を目指して各地で過激なテロを続けている。

 

 前大戦、前々大戦では強行主戦派の政治家や高級軍人の私兵ともなっていた過去をもつ彼らは、所属する国家が終戦と同時に政権交代が成されて穏健派の大統領がトップに替わったことから国を見限って離反、戦後も看過しがたい勢力として地球社会に悪影響を及ぼしていた。

 

 ・・・・・・だが、その活動にも陰りが見え始めたことを、彼らは認めない訳にはいかなくなりつつある――。

 

「“例のモノ”も、残っていたラボから摘発前になんとか持ち出すことに成功しましたし、出来合いではありますが使い続ける前提でないのであれば問題ありません」

 

「よろしい。今回の作戦は、確実に成功しなければならんのだからな。

 ・・・我らは今までの作戦で、目的を達成することには成功している。だが、完全とは言いがたい成果だったのも事実だ。その為の消耗も限界に達しつつある・・・」

 

 苦々しげな口調と表情で語る指揮官の顔には、強いストレスによる精神的疲労が見て取れていた。

 

 彼らは今に至るまで幾つかの場所で同じような作戦を実行している。

 “ドマ”“エーロン”“ライハ”・・・・・・その全てにおいて彼らは成功と成果を得てはきたが、その為に甚大な被害を被らされた。上げた成果も被った被害とくらべて相殺できる程かと問われれば、指揮官には唸り声しか返しようがない。

 

 何より、自分たちが攻撃する度、攻撃対象であるコーディネターたちが“地上からいなくなっている”それが何より彼らにとっての難題として重荷となっている――。

 

「この攻撃を成功させ、新たな同士を補充できなければ我らに後はない。

 そして我らが倒れれば、世界は『宇宙のバケモノ』共の手に落ちるだろう・・・・・・それだけは何としても防がねばならんのだッ!!」

 

 決意と共に告げられる指揮官の言葉に、副官は深く頷いて同意を示す。

 彼らには同様の危機感があった。

 

 

 ――『このままでは自分たちナチュラルは旧人類として、新人類と称するコーディネイターたちに滅ぼされる』・・・・・・という危機意識だ。

 

 現時点で能力的に勝るコーディネイターたちが、自分たちナチュラルを滅ぼさないのは奴ら自身が『出生率の低下』という社会問題を解決できずにいるからで、奴らが今より数を増して、その解決策を発見してしまったとき、自分たちより劣る旧人類を生かしておく理由が何かあるだろうか?

 せいぜい奴隷として飼われて、家畜のように生きるのを良しとした一部の者が、命だけは長らえる程度が関の山。

 そうなってから対抗しようにも、能力差を前に我らナチュラルは敗れるしかなく、滅ぼされるのは避けられない。

 

 ―――今だけなのだ、それを避けることが可能にできるのは。

 奴らが出生率という問題を解決できず、種族全体の総数が少ない現時点で奴らを滅ぼさねば、自分たち《弱い側のナチュラル》に勝機は永遠に失われてしまう。

 

(・・・・・・だと言うのに、目の前の生活安定と一応の平和を与えられさえすれば良しとして、我らへの協力を拒んでくる身勝手で利己的な市民共の、なんと愚かで愚劣なことか!!)

 

 指揮官は内心で、怒りを抑えるため苦労させられる。

 作戦開始直後に交渉を求めて直談判してきた、市民側の代表との不愉快な会話を思い出したのだ。

 

 ――あのような輩が蔓延るから、今のような窮地をもたらすのだと何故気付かないのか!?

 市民共には改めて判らせねばならない。奴らと自分たちは違うのだと言うことを、事実によって。

 

 だが、そのために自らが手を汚すのは失策だ。失策だった。

 先代盟主ロード・ジブリールも、それをやろうとして、却って墓穴を掘る結果をまねいている。

 

 ――市民共に違いを判らせるには、奴ら自身の手で彼らを殺させる必要がある。

 そのための手段も、エサも、用意してきた。抜かりはない。

 

 

「よし、全部隊に通達。《オペレーション・フェニックス》を開始するのだ。

 蒼き清浄なる世界のために、宇宙のバケモノ共に地獄を創らせてやりに行こうではないか?」

 

 

 副官を振り返って命じる指揮官の顔には暗い笑みがあり、命じられた側もそれを共有していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その30分後。

 ブルーコスモスが創ろうとしている地獄の“第一層目”が、カナジの隣オルドリン自治区にて創世されていた。

 

「撃てっ! 撃てぇッ!!」

「怯むな! ここで食い止めるんだ!」

 

 ザフト軍の軍服を纏った兵士たちが、怒号と叫びを轟かせている戦場で、弾幕とミサイルを空に向かって降る雨のように発射し続けている。

 だが、絶対的に数が足りていない。

 地上から打ち上げられた迎撃火線とくらべ、空を切って飛来してくるミサイルと実弾とビームの雨は圧倒的な数で地上へと厄災を降り注がせ、次々と地上にある街の全てを破壊し尽くしてゆく。

 

 深夜1時頃の、街の者達の多くが寝静まる時間を狙って始められた突然の攻撃により、燃えさかる地獄へと変貌させられてしまったオルドリンの街を、だが逃げ切れていない人々が多数残されたままになっている市街地を守り抜くため、必死に彼らは数の暴力の前に立ち塞がり続けているのだ。

 

 しかも攻撃は空からだけではない。

 地上を進軍してくる鋼鉄の足音たちが、先発した上空の《ウィンダム》隊に続いて、《ダガー》隊として街へと到着し、突入を開始しはじめていたからである。

 

 各所で迎え撃つため射程圏内に入ったMS同士が戦闘を開始したものの、形成は空と同様に攻め込まれたザフト軍側が甚だ不利であることに変わりがなかった。

 

 ビルを盾にして迎撃のため重機関銃を乱射させていた次世代型の《ジン》が、襲撃側の《ダガーL》が放ったビームによって貫かれる。

 

 空から猛禽のような速度で舞い降りてくる《ウィンダム》に接近され、サーベルで切り払おうとした機体がビームサーベルで腕を切り裂かれた後、バルカン砲の乱射を浴びて倒れ伏す。

 

 能力的に勝っているはずのコーディネイターだったが、大前提として都市に駐留している防衛部隊は、襲撃してきた側より数が圧倒的に少なかった。

 先の戦争が終結した後、ザフト軍は大幅な軍備縮小と兵士達の民間への復員を促している。ただでさえ人口が多いとは言いがたいプラント本国では戦後復興に当たって優秀な人材を必要とせざるを得ず、戦うことが必須ではなくなった状況下で軍隊ばかりに人手を割いておける余裕は、どこを探してもなかったのだ。

 

 さらに街を守る防衛部隊は、装備も最新鋭とは言いがたい。

 その多くが旧式の《ジン》を次世代型へと改修しただけを主力として用いている。

 敵側が連合軍の開発した、先の大戦時においては新型主力MSだった《ウィンダム》を擁し、前大戦から使い続けている《ストライク・ダガー》の新型《ダガーL》でさえビームライフルを発射可能であるのと比較し、明らかに火力不足の面は否めようがない。

 

 オルドリン自治区があるアフリカは大きく二つの勢力に別れていた過去があり、もともとプラント寄りだった――と言うより地球各国家と仲が良くない地域が北部から西部に広がっていたことから、『過剰な防衛力を配備して彼らを刺激するのは得策ではない』と現プラント議会首班のラメント議長が判断した結果だった。

 

 愚策としか言いようのない判断だっただろう。

 少ない兵力を補わせるには、高性能な少数の兵器を与えるしかない。

 それを怠った結果が、今の惨状を招く遠因となっていた。

 

 数が少なく、装備も貧弱な部隊に守られた自治区は、餓狼達の目には『襲いやすい弱敵』としか映りようがない。欲望を刺激された彼らの襲撃を却って呼び込むことになってしまった。

 

「チクショウ! こんな旧式機だけで、どうやって守れって言うんだよ!?」

「泣き言を言うな! 口の前に手を動かせ! 耐え凌げば援軍がくる! それまで持ち堪えるしか我らに生き残れる道はないッ!!」

「ちぃっ! ファック!!」

 

 MSのコクピット内で、赤色のノーマルスーツと緑色のノーマルスーツを纏った兵士たちが不利な戦況と、敵との戦力差を前にして絶望的な叫びを上げ合う。

 確かに装備の不備は政府の失策によるものだったが、その結果による負担を負わされているのは現在この場にいる兵士たち自身だった。

 いくら政府の無策や無能ぶりを罵ったところで、今を生き残れる一助となれる訳でもない。非難も政権交代のための投票も生きて帰れた者だけに許される特権なのだから。

 

 その点で、今の彼らが置かれた境遇は最悪と言ってよかった。

 敵対している訳でもない隣市からの襲撃を想定していなかったという事もある。

 

 宇宙コロニー勢力の軍隊《ザフト》から地球を守るために結成された《地球連合軍》が開発したMS部隊によって、地球上の都市が攻撃されて破壊されていき、地上に住むコーディネイターの市民たちをザフト軍のMSたちが守るために迎撃戦を繰り広げる・・・・・・

 

 その歪な状況は、かつての大戦で連合の敗北へと至らせる切っ掛けともなった《ベルリンの悲劇》を彷彿させられるものがあった。

 いや・・・・・・それは抽象的な感想ではなかったかもしれない。

 

 よく見れば、街へと攻め寄せてくる連合製MS部隊の背後には、漆黒の夜空よりも尚黒く、暗い、巨大な黒影が燃えさかる劫火の中に浮かび上がっているのが、悪霊のように目撃者の視界と心に映り込む。

 

「あ、あんなものまで投入してくるとは・・・・・・おのれロゴスめ!

 このままでは―――」

 

 こちらからの迎撃をものともせずに突入してくる機影を発見した隊長格の人物が、絶望的な叫びを口走った時になり、ようやくレーダーと通信機から味方からの援軍がきたのを彼は知ることになる。

 

 さらに、通信機から聞こえてくる声と識別信号に映し出された表示を見たことで、彼の歓喜は頂点に達する。

 彼自身は“その援軍”のことを必ずしも良い感情をもっている訳ではない。

 だが、強さに関しては疑問のでる余地がない者達――

 

 

「《コンパス》が来てくれたか! 先の大戦で我らを負かしたエース共がッ!!

 これで我らの―――勝ちだッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上へと降下しつつある《ライジング・フリーダム》の中から眼下に広がる地上の光景を目撃したキラ・ヤマトは、顔と口元を激しく歪めさせられていた。

 すでに攻撃を受けた市街地は、ヒドい有様になっていた。

 見れば遠くに、身の丈30メートルを超える黒い機影までもが見て取れる。

 

 それでも攻撃開始を前にして、警告のため語りかけるのを辞めることは出来ないのが彼だった。

 

 

「こちらは世界平和監視機構《コンパス》

 攻撃部隊に告ぐ、ただちに戦闘を停止せよ。繰り返す――」

 

 

 その声が聞こえていない、という訳でもないのだろうが無論のこと、その程度で攻撃を辞めるような者達が、このような非道を仕掛けてくるはずもない。

 隊長からの警告を無視して、平然と市民を巻き込む戦闘を継続しようとするブルーコスモスの行動に、『降伏の意思なし』と判断した友軍機たちが格個に散会して攻撃を開始していく。

 

 特に、シン・アスカの怒りは他の者達より激しく強い思いに満ちていた。

 

「コイツら! また、こんな物を!

 いつまでこんな事を繰り返したがるんだ!? アンタたちはァァァーッ!!!」

 

 かつて愛した少女が望まぬ殺戮を強制されていた兵器を再び復活され、あの時と同じように逃げ惑う街の人々に向けてビームを放たせ、モビルスーツ部隊を背後から迫らせている敵に向かって叫びながら、シンはだが感情にまかせて切りこむ道を選ぶことができなかった。

 機体に慣れておらず、自分の戦闘スタイルに向いている性能ではなかったからだ。

 

 このため彼は、盾を構えながら人々の前に降りたってビームライフルを連射するスタンダートな戦い方で応じることしか出来ず、本来の戦い方ではないが味方機の援護射撃を要請せざるを得ない。

 

「アグネス、援護しろ!」

『なに言ってんの! 私の機体は接近戦用! 援護役はあんたよ!』

 

 同僚の女性パイロットから苦々しげな口調で切って捨てられ、不快そうに顔をしかめるシンだが・・・・・・言っていることは正論だった。

 たしかに彼女の機体《ギャン・シュトローム》は前大戦時にエース用として生産された《グフ・イグナイテッド》の後継機として開発された白兵戦に特化しているMSだ。

 少なくともビーム射撃で援護する役には、自分が貸し与えられている《イモータル・ジャスティス》の方が適してはいる。

 

 が、そもそも彼は今の機体を好きで乗っている訳では無い。

 どちらかと言えば乗りたくない機体なのだが、本来のパイロットが不在の間に完成してしまったため調整ができる優れたパイロットが代理を果たすしかなかっただけである。

 

 

 

 対してキラが操る《ライジング・フリーダム》は、敵側唯一の黒い巨体――《X-1デストロイ》と対峙していた。

 かつて前大戦で一度戦って倒したことがある機体で、撃墜数だけならシンの方が熟練している相手だったものの、当時と今では機体が異なる。

 

 果たして当時の自分が使っていた《デスティニー》のように、巨大な刃の対艦刀をもたない一般的口径の火器を多く装備したフリーダムだけで無事に倒せる機体だろうか?

 負けるかもしれない、とは思わない。ただ火力と装甲だけなら比類するもののない敵を相手に一撃でも食らわされることは致命的になりかねないのだ。

 

 戦うからには一気呵成に、一撃必殺で決するつもりで――それがシンの対デストロイの経験から導き出していた必勝戦法だったのだが。

 

「また! ――こんなモノを持ち出してッ!!」

 

 瞬く間に敵機との距離を詰めていくフリーダムは、巨体から分離させたアーム部分から発射されたビームも、接近してくる小さな敵を迎え撃つため発射寸前にあった胸部ビーム砲もものともせず。

 

 機体に装備されている全ての射撃武装を一斉に発射し、逆に発射寸前にあったデストロイ各部の砲口を暴発させられてしまって、頭部もブーメラン型のビーム刃で切り飛ばされた巨体はアッサリと炎の中に音を立てて崩れ落ちてゆく・・・・・・

 

 あまりにも呆気ない強敵だった過去を持つ巨体の敗北を目の当たりにさせられて、思わず愚痴の一つも零したくもなるほど。

 

「・・・くそっ、出る幕ないじゃん・・・」

『やっぱり役者が違うわね~』

 

 ヘルメットの通信から聞こえてくるアグネスの感想に、ムッとさせられはするものの。

 シンとしては相手の言うことが事実ではあったので、言い返すような子供じみたマネをしたいとまでは思わない。

 

 

 ――もっとも、言われた相手が彼女ではなく“アイツ”だったら同じようにできたか分からないけどさ・・・。

 

 

 内心で素直に、そう思わなくもないのが今ではシンの心情だった。

 昔は『フリーダムという機体』にこそ他の何より強い怨みと憎しみを感じたこともあったが、今では様々な出来事が彼の心理をかきまわし続けて、『あの時のフリーダム』と『パイロットのキラ・ヤマト』が頭の中で印象が一致しづらい存在として、彼の中では認識されるようになってきていた。

 

 一方で、一時期上官だったこともある人物とは、幾つかの出来事で直接的に本人自身との因縁があった過去を持っているため、複雑な感情を今でも捨てきれるまでには至っていない。

 当時と全く同じ評価と感情までは抱かなくなってはいるものの、自分にだってプライドはある。

 殴られた時の屈辱や、一方的に怒鳴られたときに悔しいと感じさせられた記憶まで容易に払拭できるものでは残念ながらないのが、生の感情をもった人間という生き物なのだから。

 

 そう思いながらも、そんな事を考えられている現状こそが、シンに戦闘が終わったことを確信させている証拠でもあった。

 

 

 ――勝敗は決したのだ。

 

 

 敵にとって切り札だったのであろうデストロイが倒されたことで、ブルーコスモス部隊の攻勢は限界に達していた。

 もはや、これ以上の進軍は損害を増すばかりで全く意味がない。

 何より、それで数を減らされすぎれば、『本番の地獄』を創らせるための藁人形が足りなくなってしまう。

 

 

 

 

 

 

「頃合いだな・・・・・・」

 

 味方の巨人機が炎に包まれた町中へと倒れてゆく光景を目撃していたブルーコスモス攻撃隊の隊長は、『作戦の第一段階』が終了して『第二段階』へと移行すべき時がきたのを確信する。

 

「通信をつなげ、全軍に撤退命令を出させる。

 全ての機体に聞こえるよう、“最大出力で”な」

「ハッ! 承知しました!」

 

 副官に命じて通信を繋げさせると、指揮官は至極冷静な口調で味方に対して敗北による撤退を命令する指示を下す。

 

 

「全部隊に告ぐ、我が部隊は戦力を失いすぎたことで戦闘継続は不可能と判断した。

 遺憾ながら作戦を放棄して撤退する。急ぎカナジ市外まで撤退して体制を立て直し、防衛体制を整えるのだ。

 “ミケール大佐を敵の手に渡してはならん! これは最優先事項である! 全機は命を捨ててでも大佐の退却が完了するまでお守りするのだ!” 急げ!!」

 

 

 ――口元に不敵な笑みを浮かべながら・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オルドリン防衛司令部より達する。敵の無線を傍受した、この戦闘の裏にはミケールがいる! 敵部隊の後退は逃走する奴を守るためのものに過ぎない!

 全軍ただちにカナジを制圧して、ミケールを引きずり出せ! 戦乱の元凶を捕らえるのだッ!!』

「「「えッ!?」」」

 

 キラたち《コンパス》の機体たちにも届いた通信の内容を聞かされ、彼らは一様に驚きの声を上げる。

 

 ――カナジにミケールが!?

 

 ミケール大佐は、現在のブルーコスモス残党軍を率いている三代目盟主と言われている男の名だ。

 元大西洋連邦軍の軍人だったが、国や政府よりも国家を私物化していた一部有力者と、その思想に対してこそ忠誠心を抱くようになった人物で、それまでの盟主たちが一応ながら国という縛りがあったのに対して、この男は現場の軍事としてだけで物事を考えるのに慣れているせいか、やり方が時として先代や先々代より悪辣なものになりやすいことで知られている。

 

 そんな人物が現場にまで出てきていて、捕殺することが可能な位置にまで来ている!・・・というのであるなら、確かに危険を冒す価値はあるかも知れない。

 だが、そうでなかった場合、この攻撃続行命令は――

 

 

『警告します! 進軍を中止してください、ミケール大佐はここにはいません!

 これ以上の戦闘拡大はカナジ側市民への被害をもたらすことに!――くそッ! 形勢が変わればコレか・・・・・・っ』

 

 苦々しい声でキラが吐き捨てる声が、通信機越しに聞こえてくる。

 そう。これが近年ブルーコスモス残党が多用するようになった、新たな常套句となっている手段だった。

 

 自分たちから非道な攻撃を仕掛けながらも、その攻撃を途中で辞めて撤退し、自分たちが出撃拠点として利用していただけの『ナチュラル一般市民たち』が住んでいる居住区まで撤退し、『銃で脅され仕方なく従わされていた人質たち』までもを自分たちへの攻撃に巻き込ませて、ザフト軍とコーディネイターへの怨みと憎しみを煽りたて、新たな組織の構成員と思想を拡大するため利用してくるようになっていたのが、今のブルーコスモスのやり方だった。

 

 普通に考えれば、悪いのはブルーコスモスであることぐらい彼らにだって分かってはいる。

 ただ今の世界は、先の戦争と、その前の戦争とで多くの人が多くを失い、かつての戦乱の中でブルーコスモス思想を蒔かれていた地域の人たちも少ない数では決してない。

 

 潜在的に、そちら側へと走りやすい下地がすでに出来てしまった後なのだ。

 精神に深く根を張った、この地層を摘出するためには数世代単位で人と人が、互いを理解していく作業を必要とせざるを得ないかもしれない。

 

 

 ――あるいは、時間も距離さえも飛び越えて、互いの心を正しく理解し合える段階へと、人類が一足飛びに進化することが出来たなら、今すぐの平和到来と共通の敵であるブルーコスモス思想の抹殺に全人類は協力し合うことができたかも知れない。

 

 

 だが、今のコズミック・イラという暦を用いている世界の人類に、それら人の認識力を拡大することが必要な環境になった今も、新たな人の形へと自然に進化することができた者を一人も生み出すことが出来ていない。

 

 あるいはコーディネイターという、遺伝子調整によって過酷な環境への適応を人為的に可能にする技術を生み出してしまったことが、人類が生まれ持っていた生物としての本能を忘れさせてしまっていたのが、コズミック・イラを生きる地球人類の在り方だったのかも知れない。

 

 いずれにしろ、こと戦術レベルの発想力としては、ブルーコスモスの方がコーディネイターよりも環境変化に適応して変化するのが得意にはなっていたらしい。

 

「警告します! ミケール大佐はカナジにはいません! 偽情報で、敵に乗せられているだけですッ!! ――なぜわからないんだ!? こんな事したってッ!!」

 

 コクピットの中でキラは叫ぶ。

 最初から後退を想定した作戦だったからだろう、戦闘の中で敵部隊の位置はカナジ市まですぐの距離まで近づいている。

 両市の間に広がる川を越えてしまえば、既にそこはナチュラルたちの居住区に入ってしまう。

 

 キラたちは、今までの戦いから敵の手を学んではいたが『ミケール大佐』の名を出されたのは、これが初めてだったことで対応を誤らされてしまっていた。

 あまりにも美味な人参をブラ下げられてしまったザフト防衛部隊は、先程までの復讐心も重なり見境を失わされてしまうしかない。

 

 ミサイルランチャーを装備した《ジン》が、後退する敵軍ではなく夜空に向かって砲口を構える。

 無意味な混乱を広げる元凶ミケールを確実に倒すため、人一人をモビルスーツの巨体で探し出すのではなく、潜んでいる街全体を壊してしまえば纏めて圧死させられると考えた故での行動だったのだろう。

 

 そうなってからでは全てが手遅れになってしまう。

 植え付けられていたコーディネイターへの憎しみは拡大され、ブルーコスモスは新たな人員を補充し、更なる混乱を蒔き続けるための戦いを今後も続けていくことが可能になるしかない―――

 

 

「やめろぉぉ―――――ッ!!!」

 

 

 キラが叫んで、機体が加速し。

 ジンたちが構えたランチャーが、一斉に火を噴いてミサイルの雨をカナジ市外に舞い散らかせようとして、そして

 

 

 

 ズドドドドンッ!!!

 

 

 

 ・・・・・・という爆発音の連続と共に、連なる火球となって全て消滅させられ、夜空に一瞬の花火を咲かせ・・・・・・そして、消えていった。

 

 

「え・・・?」

 

 キラが呆然と呟き、

 

「い、いったい、何が起こったというのだ・・・?」

 

 ブルーコスモス部隊の隊長が、指揮車から身を出して確認しながら呟いていると、

 

「・・・・・・ん?」

 

 不意に、指揮車に映っていた自分の影が大きくなった気がして下を見下ろす。

 すると―――ズシャンっと。

 

 

 上空から巨大な物量が急速降下してきて、彼の身体を一瞬にしてミンチに変えてしまっていた。

 次いで、乗っていた指揮車も彼より一瞬だけ潰された鉄屑スクラップと化し、そうなった一瞬後には爆発四散して、『動いていた棺桶』として乗っていた主の死体を盛大に火葬してくれる。

 

「な、なんだ!? 何があった!」

「お、おい! アレを見ろ! あれッ!」

 

 突然に舞い降りてきた謎の存在によって、自分たちの隊長が一瞬で殺されてしまったブルーコスモスたちは混乱し、中の一人が夜空を指差しながら悲鳴じみた警告を発した時には―――既に手遅れになった後だった。

 

 

 ズシン! ズシンッ! ズシンッ!!

 最初の機体に続いて次々と地上へ舞い降りてきては、カナジ市とオルドリン自治区との間に鋼鉄の壁を築くように布陣してくる、黒いMSの集団。

 

 特徴的なモノアイによって、ザフト軍製であることは分かるものの、どの部隊も正規軍では使用していない最新型の《ギャン・シュトローム》や《ゲルググ・メナース》とも異なる開発コンセプトを辿ったとしか思えない形状を有する重厚そうなMS部隊。

 

 その中で、最初に降り立ってきたズングリとした見た目をもった、重量級の機体から全ての機体に聞かせるように、出力を過剰に上げた音量でパイロットからの警告が届けられることになる。

 

 

 

「私は、ザフト軍独立外縁部隊ネオ・ディサイズの副総帥、パプティマス・シロッコ中佐である。

 諸君らの退路は我らによって封じさせてもらった。もはや諸君らに戻るべき場所はなくなっているのだよ。

 ・・・・・・フフフ、悪いな?」

 

 

 

 含み笑いを湛えた聞き覚えのある声の言葉に、キラも、シンも、一様に目を剥いて“彼”の乗る機体に視線と意識を集中させられる。

 

 そして、そのとき、作戦と戦闘の勝敗は既に決着した後になっていたことを、この場にいる本人たち以外の者は誰も気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オルドリン自治区内での戦闘が事実上終結して、部隊全員に後退を命じられる少し前の刻。

 カナジ市側に残って、ゲストを迎えるための準備を整えていた指揮官の下に部下から報告がもたらされていた。

 

「オルドリン自治区に侵攻した部隊からの連絡がありました! もうじき退き始めるので準備をお願いするとのことであります!」

「そうか・・・予定より少し早いな。《コンパス》なり《ネオ・ディサイズ》の援軍が予想より早く来援したということか・・・・・・よし。

 こちらも都市中央まで後退して、防衛戦を引き直す! 味方車両に通達せよ!」

「了解ッ!!」

 

 部下が頭を引っ込ませて通信機に手を伸ばすのを確認してから指揮官は顔を上げ、

 

「・・・・・・ん?」

 

 ふと、漆黒の夜空の一部に、明るい虹のような光を見たような気がして目をこらす。

 朝日の片鱗でも見えたのだろうか? だが払暁にさえ早い時刻、まだ陽の光が地上から見えるには時間がかかる。

 

「いったい何が―――」

 

 そう呟きを発した時。

 ブルーコスモス指揮官の身体は、ビームの光に覆い尽くされて燃え上がり、一瞬にして蒸発し、命令を伝達しようとしていた部下もろとも車両を地上から消滅させてしまった後になっていた。

 

 混乱する各部隊の頭上からビームの刃が次々と舞い落ちてきては、一機一機を着実に排除していく中。

 町中を占拠していたブルーコスモスの歩兵部隊の間でも、各所で戦闘が繰り広げられていたことに彼らが気付く余裕は与えられることは最後までない。

 

「貴様、反逆か!? 薄汚い裏切り者め!」

「敵襲だ! 天誅を加える!」

 

 とある人質たちを閉じ込めている建物内では、同じ軍服を纏った男たち同士によって銃撃戦が繰り広げられ、出入り口を封鎖するような形で襲撃してきた側の者達が口々に同じ言葉を叫びながら、ブルーコスモス兵士たちを攻撃していく。

 

「《ネオ・ディサイズ》ばんざーいッ!!」

 

 そう叫んだ兵士から投げ込まれた、小型のプラスチック爆弾が視界に入った瞬間に、彼らは一様に恐怖に青ざめさせられ―――そして、意識もろとも消えていった。

 

 

 また、少ない人員で監視しやすいよう数カ所にまとめて隔離していた女子供たちの中で、騒動の音を聞きつけ騒ぐ者が出始める中。

 

「・・・・・・」

 

 一人の女性が、臆病そうにリュックサックを力強くギュッと抱きしめていた。

 よほど大事なものが入っているのか、監視役の兵士が「寄越せ」と命じるのも聞かずに殴られたことで、彼女たちと同じ部屋に閉じ込められてしまった哀れな女性。

 その時の恐怖からか、過剰なまでに周囲を警戒したまま目をキョロキョロと動かし続け――その右手を、リュックから伸びていた細い紐にかけ、引っ張ると同時に光が拡散させられて

 

「――うっ!?」

 

 小さく、呻き声のようなものだけを残して、その場に倒れ・・・・・・二度と動かないモノへと変わってしまう。

 

「え・・・? き、きゃあぁッ!?」

「落ち着いて! 我々はあなた方の味方です! 人質救出のため派遣されてきました! 監視役の危険分子は排除しましたので、どうか皆さんは安心して我々に従ってください!!」

 

 いざという時のため配置していた自爆要員さえも、的確に排除されていきながら、一つ、また一つとカナジ市を制圧していたブルーコスモス残党部隊は最後の締めとなる作戦で、残存する全ての戦力を結集した計画において。

 

 

 “トドメを刺すため生き残らせてきてやった”自分たちの末路を、最後の瞬間だけは自覚することが果たしてできたか否か―――

 

 

 

 

「繰り返す、ブルーコスモス残存戦力の諸君。既に君たちに戻るべき場所はない、速やかに降伏せよ。無駄死にはするな」

 

 気取った様子で、予想外の事態に慌てふためいている敵部隊に向けシロッコは、『規則を守って見せるため』お決まりの定型文を口にする。

 

 ――が、そこでお約束をお約束通りに守るということをしないのが、パプテマス・シロッコという男の特徴であり味というモノだろう。

 ならば彼としては、そのように演じてみせるのが、最もシロッコらしい形というものでもある

 

 

「・・・もっとも、この戦闘は軍事行動ではなく、諸君らは大西洋連邦軍の所属でもない。

 ただのテロリストとして一般犯罪者として収監され、軍事法廷にかけられることなく、刑法によって通常裁判で罰が決められることとなるだろう。

 そうなればまぁ、死刑を免れる可能性は極僅かだろうが、万が一という可能性もある。部下たちの生命に責任ある身として、極小の可能性に賭けてやるのが人の上に立つものの責務というものとは考えないのかね?」

『シロッコさん!? そんな言い方は――ッ』

 

 キラが慌てて、相手の発言を制しようとするが――遅かった。

 このような降伏勧告を受けて大人しく従う者など、そうはいない。

 

 既に敵部隊には勝機はなく、作戦は破綻させられ、本拠に帰還するための手段は最初から用意してきていないブルーコスモスの残党たちは自暴自棄のようにネオ・ディサイズが立ち塞がっているカナジ市外へと突入しようとビームを放ち、凶刃を振り上げはするものの、

 

 

「・・・・・・フッ、緩いな。

 落ちろ、カトンボ共」

 

 

 せせら笑いを浮かべて、一つのボタンを押しただけで、シロッコは敵の攻撃全てへの対処を既に終えてしまった後になっている。

 ズングリとした見た目のダークイエロー色のMS、その腕の先が急に消えたかと思うと、自分に向かって攻撃してくる敵部隊の横合いから、頭上から、背後から、伸ばされた手の平の先にある指の部分を砲口とした5連装ビーム砲が彼らの集団を纏めて薙ぎ払っていく。

 

 他の部下たちが登場しているMS隊も、巨大で頑丈な盾を構えており、内部に動力源を備えてシールド表面だけを効果対象とすることで可能となった《ラミネート装甲》の巨盾を連ねさせた漆黒の壁は、量産型モビルスーツが携行できる程度が火器で貫ける程度の脆弱なものではまったくない。

 

 やがて背後から、オルドリン自治区の防衛部隊に属するジン部隊が追いついてきたため、ブルーコスモス部隊は一時反転してサーベルを抜いて迎撃のため白兵戦で挑もうとし、

 

 ビシューン!!

 

 と音を立てて発射されたビーム光によって、サーベルを持っていた腕を吹き飛ばされた無防備な姿を敵前に晒す羽目になってしまい、狼狽えざまを見せたところで滅多打ちにされて一機、また一機と嬲り殺しにされていく。

 

 

『この! お前らはミランの仇ーッ!!』

『ひ、ひぃーッ!? た、たた助け・・・・・・ッ』

「!! もうやめろッ! そんなことは――」

『キラ・ヤマト君ッ!!』

 

 

 ザフト兵からの逆襲によって、虐殺されようとしていたブルーコスモスの兵との間に割って入ろうとしたキラの機体に、鋭い声と意識で待ったがかかり、まるで精神的なプレッシャーを感じて居竦んでしまった時のように、キラの心と体は一瞬だけ動きが制止させられる。

 

 それは一瞬の錯覚でしかないものだったらしく、すぐにキラの身体は自由を取り戻したものの、それで何か結果が変わるというものでもない状況。

 

『これは本来、オルドリン自治区防衛部隊が対処すべき戦闘であり、我々《ネオ・ディサイズ》も君たち《コンパス》も求められた支援以上の戦闘をすべき存在ではない。それは分かっているのだろう?』

「それは! ・・・分かって、いますけど・・・・・・」

『無論、彼らがオルドリンとカナジの境界線を越え、戦闘を拡大させ、無辜の市民まで巻き込む無意味な戦闘を展開しようというのであれば話は別になる。

 だが幸いなことに、そうなる寸前で我々が間に合うことができた。ならば、これ以上のことは現地当局と部隊に委ねるべき問題だ。それが《コンパス》の趣旨でもある。そうだろう? キラ君』

「・・・・・・・・・はい。そうだと思います・・・・・・けど・・・」

 

 キラはまだ納得がいかないように、虐殺されているに等しいブルーコスモスMS部隊の惨状が行われている方をチラリと向いて、やがて伏せるように目をそらす。

 敵も一機残らず殺され尽くすまで抵抗を続けるようなことはしないだろうが、僅かな数の生き残りが降伏するまでには今少しの時間がかかる。

 

 その間の抵抗が、彼らの罪をさらに重くさせ、生き残れる可能性をさらに低いものへと変えさせていく。

 

 

 そうなることを知っていて、そうするよう相手を促し、そうなる段階まで敵を泳がせ、被害が出るのを阻止するのを待ち続ける。

 

 その上で、そのような裏面はおくびにも出さずに、世界という舞台で《己という役》を演じ続ける役者として。

 

 

 パプティマス・シロッコになることを自ら望んだ青年は、最終段階の摘みに入った刻がきたことを示す光景を前にして、感慨深い言葉と声で独りごちていた言葉を、この世界では誰も知らない。聞いたことが、ない。

 

 

 

「フフフ・・・・・・アコード共め、遂にしびれを切らして動き出したようだな。

 事態は見えてきた、後は簡単――とまではいかないだろうが、さてどうなるか。

 いずれにせよ私は、友と共に戦い、この手に世界を欲するだけのことだ」

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