個人的には話づくりが難しい辺りの回と感じており、何回もリテイクし続けたことで遅くなりましたが、さすがに時間かけすぎたので一先ずコレで。
良しか悪しきか分かりませんが、ダメでも次話以降で取り戻していく所存。
戦闘のどさくさに紛れてザフト軍から行方をくらませたアークエンジェル艦内において、転生憑依者の少年が、悲劇の少女との再会を避けられなかった厄介な運命に慨嘆し、主要クルーたちは今後の方針に頭を悩ませていたのと同じ頃。
皮肉にも、反対側の陣営に立つ戦艦の艦橋において、同じ悩みを共有している主従たちが存在していた。
クルーゼ隊の隊長ラウ・ル・クルーゼと、隊の旗艦ガモフの艦長アデスの2人である。
「連合の新造艦の動きは、まだ掴めんのか!?」
「未だ不明。戦闘レベルで散布されたニュートロンジャマーの効果が、まだ残留したままですので・・・・・・」
「チッ! 敵も条件は同じとは思うが・・・・・・厄介な」
索敵担当のクルーから首を振って返答されたアデスは、苦々しい口調と視線で正面モニターを睨みつけ、呻くように声を上げる。
閉鎖空間のコロニー国家であるプラントが、地球軍からの核攻撃を阻止するため開発したニュートロンジャマーは、核分裂そのものの働きを阻害すると同時に、副産物として電波妨害や無線の使用に制限を課すことができ、戦闘時には最新鋭の妨害電波として用いられるのが現在の戦場では主流になっている。
一方で、戦闘艦による索敵行動はリスク・リターンの痛し痒しだ。
どこに潜んでいるか分からぬ敵を見つけるため先を急げば、不意打ちされるリスクが高まり、索敵を厳重にしながら前進すれば、船足が遅くなりすぎる。
中間の妥協点を見いだすしかないのが、昔から変えることの出来ていない艦隊の索敵という現実だった。
「先の戦闘で艦載MS全機を失ってしまったのが痛手でしたな。たとえ新造艦が相手とは言え、ジンでも索敵するだけなら十分だったのですが・・・・・・」
「今更言っても仕方のない話だな。まさか敵のMSの性能があれほどと解っていたなら話は別だったが・・・・・・」
クルーゼの態度は常と変わらず沈着冷静さを維持していたが、語る内容には流石に苦いものが混じらざるを得ない。
先の戦闘で損失していたことが、今になって響いていた。
レーダーや無線に制限が課せられるようになった現在の戦闘で、MSは戦闘力だけでなく索敵の面でも絶大なアドバンテージをザフト軍にもたらす存在となっていた。
母艦が索敵をしながら前進し、その外側にはみ出すように艦載MSを配置すれば効果と範囲は大幅に向上して、見落とす危険性は激減する。
そのMS部隊を、ヘリオポリス内に立てこもっていた連合軍の新造艦攻撃のため全機投入し、敵から奪取し損ねた新型1機と戦艦一隻を沈めるために行った戦闘で敗北したことで全て失ってしまったばかりなのが、現在のクルーゼ隊が置かれている窮状だ。
敵艦から逃げ道を完全に塞いで殲滅するため、《D装備》に換装させて出撃させたのが裏目に出た結果だった。
《D装備》は要塞攻略戦を想定した最重装備だが、逆に言えば対MS戦において優位に立てる武装ではない。
むしろ火力に重点を置きすぎて機動性に欠ける装備は、機動戦でこそ本領を発揮するMS同士の戦闘では敗因になる恐れすらある。
(・・・政府とオーブを引きずり込むためにも、ヘリオポリス崩壊を狙って攻撃させたが、私としたことが敵を侮りすぎた。
2、3機の損失は想定していたとは言え、よもや全滅させられた挙げ句、たった一隻の戦艦とMSすら落とすことができんとはな・・・・・・)
彼は“とある事情”によって、他のコーディネイターたちの多くと異なり『MS操縦の適性をもったナチュラル』が実在していること。
技量次第では『コーディネイターと互角に戦えるナチュラルのMSパイロット』という存在は有り得るという事実の双方を、身を以て知る立場にある。
そのためミゲルが倒されたという報告を受けたときも驚くことではなかったし、自らを退けられた際にも性能差を考慮すれば有り得ないという程ではない。その強敵を相手に多少の損害は当初から見積もりの内でもあった。
――だが流石に、出撃させた全機が撃墜され、母艦にも逃げられるという結果までは想定外だった。
装備の相性を勘案しても、半数を代償に敵のどちらかは確実に落とせるだろうと踏んでいたのだ。
因縁と私怨がある敵手ムウ・ラ・フラガは、あの攻撃の前には自分の手で愛機を大破させられ、仮に修理が間に合っても動きが縛られるコロニー内での戦闘では実力を発揮しきれるとは思えない。
――ムゥを超えるパイロットが、敵にいたと言うことだろうか。
あるいは―――いや、まさかな。
「これから如何されますか? 隊長・・・・・・まさか、このような事態になるとは想定しておりませんでしたし・・・。
中立国のコロニーを独断で攻撃し、一部とは言え破壊したとあっては評議会も黙ってはおりますまい」
「地球軍の新型兵器を製造していたコロニーの、どこが中立だ」
にべもなく、クルーゼは一片の迷いも後悔もない口調で部下の懸念に答えを返す。
些か苦しい言い分を承知での、強弁だった。
アデスが問題にしているのは、ヘリオポリスの中立違反という『オーブの問題』ではなく、クルーゼが行った『独断専行での越権行為』であることを解った上での回答だったからだ。
「結果として、コロニーそのものは壊れてはいない。住人たちの大半も無事なようだ。
“血のバレンタイン”の惨劇に比べれば、さして問題視するほどの被害ではない」
何か言いたそうにしていた部下に向けて放たれた上官の言葉に、アデスは発言しようとした口を閉ざして息をのむ。
――たしかに、あの惨劇と比べれば“この程度”で済んだコロニーの被害は問題視するほどのものではない。
そういう理屈で、部下を不承不承でも納得させることに成功する隊長クルーゼ。
・・・・・・地球から放たれた核ミサイルによって、1つのコロニーを住民たち諸共皆殺しにした大虐殺と比較して、それより優る悲劇などコーディネイターたちにとって有る訳がないのだから・・・・・・そう考えながらクルーゼは、こうも思うのだ。
――便利な悲劇だ――と。
あの事件を比較対象として持ち出しさえすれば、大抵のことは相手の主張が非人道であると持っていくことが出来る。便利な理屈だった。だからこそ利用価値もある。
まぁ、もっとも。
「とはいえ、だからこそヘリオポリスにこれ以上の被害を与える訳にはいかん。全軍に徹底しろ、敵艦を見つけてもすぐには撃つことのないようにな」
「ハッ!」
そう告げて、苦々しさの源泉になっている一事をアデスに指令するクルーゼ。
連合との密約によって秘密裏に建造されていた新造艦をかくまっていたからこそ、ヘリオポリスというコロニーはクルーゼたちにとって攻撃対象たり得る場所だったのだ。
連合艦がコロニー外へと逃走し、艦載機である連合製MSも一緒に格納しているとあっては、今やヘリオポリスを攻撃すべき理由が自分たちザフト軍には何もない。
下手にオーブの民間人だけしか残っていないコロニーへの攻撃を続行して崩壊させ、住民も虐殺したとあっては、ブルーコスモスだ。
現時点では中立違反のオーブに非が大きい状況下で、わざわざ自分たちの方からプラント側ブルーコスモスと化す必要はない。
だからと言って、半端に独断専行だけを犯して大した成果も上げられていないとあってはクルーゼの立場というものがない。
――プラント評議会からの決定を待たずに独断で仕掛けた攻撃によって、シーゲル・クライン議長が同盟を結んだ相手国オーブが中立の立場を利用して、《ヘリオポリス》で地球軍用のMSを秘密裏に開発していた事実が発覚する。
クラインの信用は失墜し、プラント市民からオーブ国を非難する声も高まるだろう。
オーブが、コーディネイターの居住を公認しているとはいえ地球のナチュラル国家であることへの本能的な不信感もある。
この状況でザラ国防委員長の信任厚いクルーゼが、オーブの中立違反を理由にヘリオポリスを崩壊まで至らせれば、当然“やり過ぎ”をオーブとクラインは糾弾してきただろう。
だがオーブが中立違反を犯していたことは厳然たる事実である以上、ナチュラル国家から同胞への糾弾はプラント市民にとって受け入れ難い。
そういう状況下で、ザラ国防委員長がクライン議長の責任問題を追及し、地球国家に毅然とした態度で応じればプラント内での支持は高まり、選挙での有利に働き、オーブの国際的な立場は悪化する。
・・・・・・そういう計算で始めさせた攻撃が中途半端に終わった以上、代わりになるナニカを得てから帰国する必要性がクルーゼには“個人的に”存在している身なのだから――
「アデス、改めて聞くが、敵の新造艦の位置、どこだと思うか?」
「まだ追うおつもりということですね? しかし先の戦闘で艦載機すべてを失った今、こちらには既に使えるモビルスーツがありませんが――」
「あるじゃないか。地球軍から奪ったばかりの最新型が、4機も」
「アレを投入されるのですか!?」
思わずアデスは目を見張る。
上官が言っているのが、先頃イザークたちが奪取に成功して持ち帰ったばかりの《デュエル》《バスター》《イージス》《ブリッツ》というらしい、地球軍製MSのことを差していると察したからだ。
確かにスペックデータを見る限りでは、今すぐ実戦投入も可能なほどの優れた性能をもった最新鋭MSではある。
だが奪ったばかりの敵が造っていた機体で、慣熟飛行や模擬戦すらも行わないまま、ぶっつけ本番で敵軍との実戦に投入しようとは・・・・・・
だがクルーゼの見解は、部下のそれとはやや異なる。
もともと先の戦闘で、奪取した敵の機体を使えなかった理由の一つは、データの吸い出し作業が終わっていなかったことが大きかった。
オーブが中立国でありながら地球軍のMSを秘密裏に開発していたからヘリオポリス・コロニーを攻撃したのだ――とは言っても、それはあくまで『ヘリオポリスを独断で攻撃したクルーゼ隊が言っているだけの主張』でしかなく。
事実であると皆に納得させるには、証拠が必要だ。それには奪取した敵の新型MSが最も適切なのは言うまでもない。
流石のクルーゼも、その為の証拠を得るより先に現物を失うリスクまでは回避したかったし、敵の実力をそこまでとは思っていなかった見積もりの甘さもある。
その両方ともが今のクルーゼにはない。
ならば自分たちが、現物を本国まで持ち帰れないリスクよりも、あの機体の完成形を乗せた新造艦と地球軍が合流される危険性の方が、今は優先すべき脅威だった。
「先の戦闘の混乱に紛れて、奴らは既にこの宙域を離脱している可能性も考えられますが・・・」
「いや、それはないな。先の戦いから見ても、奴らの戦い方には素人臭さが見て取れた。イザークたちの破壊工作もまんざら失敗とも思えん。
おそらくクルーの何割かを彼らの攻撃で戦死させられ、他の人員で補って艦を運営していた故の結果だろう。
素人の集団を率いる将としては、危険を伴う成果よりも、リスクを減らすことを優先したいところだろう。
とすれば、下手に動かずジッと息を殺して、少しでも安全に脱出できる時機をうかがっている可能性が高い。とすると・・・・・・」
表示された航路図を見下ろしながらクルーゼは、何者よりも切れる頭脳を高速で回転させ、適切な回答を導き出す。
「奴らは、こちらが動いて隙ができるのを待っている――ならば望み通り動いてやれば、穴蔵から出てこざるを得なくなるしかないということだ。
網を張ろう。ヴェサリウス先行して、この地点で敵艦を待つ。ガモフには、このコースを取らせて索敵を密にしながらついて来させるよう打電しておくのだ。挟み撃ちにする」
「“アルテミス”へのコースで待ち構えて撃つのでありますか? しかし、それのみに絞ったのでは月方面へ離脱された場合に――」
「だからこそ、追い込むのさ。狐狩りだ」
不敵に嗤って、クルーゼは嘯く。
――ナチュラルでも、コーディネイターのエース相手に勝利しうる『OSを搭載させた連合製MS』など、地球軍に渡って量産されてはザフトの戦略だけでなく、自分の計画も大きく狂わされてしまう。
それを阻止するためにも、あの船は現時点で確実に沈めさせる!
・・・・・・少なくとも、この時点でのクルーゼの戦略はそういう想定で立案されたものとなっていた。
その認識は、作戦開始を指令した後に私室へと呼び寄せたアスランから聞いた話で誤解だったことが判明するまで続く事になる。
が、この認識の正しい理解と情報はクルーゼにとって、艦載機のモビルスーツを連合の新造艦ごと一刻も早く撃沈すべきと信じる個人的動機に根拠を与えただけの変化しかもたらすことはなかったのだ。
誘い込んだ獲物が網にかかり、戦闘が始まるまでの短い間、深く静かに先行するクルーゼ隊旗艦ヴェサリウスにとっての『サイレントラン』は、こうして始まる―――。
そして再び、彼らの反対側の陣営に立つ戦艦のブリッジでは。
「艦長、私は“アルテミス”への寄港を具申いたします」
敵側と同様に『今後の艦がとるべき方針』を議論していた席上でナタル・バジルール少尉が凜とした声音で発した提案が、堂々めぐりに陥りかけていた議題の場で静かに響き渡る。
その提案に、ハッとした表情で顔を上げた2人の大尉たちは、それぞれの表情で発言者を見つめ返す。
「“傘のアルテミス”にか? ユーラシアの?」
「はい。現在、本艦の位置から、もっとも取りやすいコース上にある友軍の拠点です。
このまま月に進路を取ったとしても途中、戦闘もなくすんなり行けるとは思えず、それらの脅威から守りきるには人員が不足している現状において、それが今もっとも現実的な策かと思われます」
そんな2人の上官たちを迷いのない瞳で見つめ返しながら、ナタル少尉は怖じ気づく素振りは一切見せることなく自身の意見を率直に語った。
不安げな表情で懸念を口にしたのは、マリュー・ラミアスだった。
形ばかりのお飾りとは言え、曲がりなりにも現場における最上位者に祭り上げられた者として、ナタルの意見は有効性は認めつつも危険性がないものではなかったからだ。
「・・・今の本艦が戦える状態でないことは解っています。
でも、《G》もこの艦も、公式発表どころか友軍の認識コードすら持っていない状態よ?
それに、こう言ってはなんだけど・・・・・・この艦とストライクをなんとしても“大西洋連邦の司令部に”持ち帰らねばならない私たちの立場では――」
「承知しております。ですが、事態はユーラシアにも理解してもらえるものと小官は考えます。
現状ではなるべく戦闘を避けるしかない窮状を鑑みれば、、アルテミスに寄港したうえで月本部との連絡を図るのが、取り得る中では最上策と愚考しますが」
「そう理屈通りに動いてくれるものかねぇ~」
次に懸念を表明したのは、ムゥ・ラ・フラガだった。
気“は”合う誰かさんと出会って意気投合した直後だった故なのか、悪い癖が移ってかなりドギツイ直裁的な言い方を使ってしまったのは無意識での行動だったが、言ってしまった以上はやむを得ない。
この場から自主的に席を外して気を遣っている、秘密裏の友軍みたいなものの士官殿に代わって自分なりの意見だけでも述べてやるのが、寝床を軍事工廠代わりに使わせてもらってた側の義理というものだろう。
「・・・・・・フラガ大尉には、なにか異存がおありで?」
「んにゃ、異存ってよりは警告かな? 艦長の言い分じゃないが今この艦は公式発表されてもいなけりゃ認識コードすら持ってない。
オマケに俺らは、表向き民間の輸送会社か工場の職員ってことでヘリオポリスに入港してた身分。言ってみれば今この場にいる俺たち自身は、幽霊みたいなものってことになる」
「ええ、それは無論。ですから、その辺りのやむを得ない事情も友軍であるユーラシア軍なら理解してもらえるはず――」
「で――ノコノコ縄張りに入ってって、艦もGも奪われたマヌケな捕虜になれ、と?」
肩をすくめながら道化じみたポーズで言われた発言の内容に、ナタルは思わず唖然となって言葉を失い、マリューたち他のクルーたちでさえ意外さに打たれた表情で軽い言動のエースに視線を集中させる。
彼らとしては、当然の反応だった。
確かに現在アークエンジェルに乗っている主要クルーたちは『大西洋連邦軍』に属する者ばかりで、ナタルが寄港先に指定したアルテミスは軍事同盟下にある相手国とは言え、外国のユーラシア連邦が所有する軍事要塞。
現在は、『プラント評議国』と『コーディネイター』という【外敵】から地球を守るため同じ地球連合軍の主要国に名を連ねる国同士ではあるものの、この戦争の開戦以前から仲がよかったという話はついぞ聞かない国同士でもある関係性。
しかも現在は、地球連合軍内部における序列では大西洋連邦もユーラシア連邦も対等な立場と言うことになっていると来ている。
・・・・・・この状況で自分たちの方からアルテミスに身を寄せに行くのは、美味しい餌を目の前に放り投げて欲望を刺激させるだけではないか?と。
居ないことになっている乗組員たちと、存在していないことになっている最新鋭戦艦と新型MS。
相手が理性を放棄して獣欲に身を委ねるには、十分すぎるほど美味なご馳走だろう、と。
そうムゥは言っているのだった。
「し、しかしユーラシアとて同じ地球の一国であり、我々と同様にザフト軍の侵攻から母国を守らんがため命がけで戦っている戦友同士。そして現在、地球軍がザフト相手に不利な戦況にあるのは周知の事実。
まさか、このような状況下で味方を裏切り私欲に走るなど、軍人として有り得ぬことです」
「そうかねぇ? そこまで仲良しな国同士だったなら、軍事同盟だけで普通の同盟してないものなのかね」
「それが国家同士の関係というものです! 高度な政治的配慮というものがある!
だ、大体それを言われるのでしたら彼は一体どうなのですか!?」
「・・・?? 彼って・・・・・・誰よ?」
「ヤマト少年です! キラ・ヤマトッ!!」
名指しで断言してナタル少尉は溜め込んでいた不満と不信を、この場でハッキリ明言しておいた方がいいと判断したらしい。
売り言葉に買い言葉、という面が影響していたのは確かだが心にもない誹謗中傷を言いたかった訳でもない。
彼女は本心からキラ・ヤマトを――《ストライク》の専属パイロットに“自主志願”して許可されたコーディネイターの少年に強い警戒心を抱くようになっていたのだ。
「蒸し返すようで恐縮ではありますが、やはり私は反対です!
あんな民間人の、しかもコーディネイターの子供に大事な機体を任せ、しかも臨時とは言えパイロットとして正式採用するなど、到底承服できるものではありません!」
「そうは言ってもねぇ・・・・・・さっきも言ったが、あの坊主が書き換えたっていうOSは、俺なんかみたいな普通の人間程度じゃ扱える代物じゃなくなっちまってたからな。
と言って、元に戻させて性能低下させちまった状態じゃ、クルーゼの奴相手と戦える強さを維持できるかどうか」
「しかし彼はコーディネイターですッ!!」
強い口調で、それでも尚ナタルは強硬に反対し続ける。
その顔には明らかに、コーディネイターという『種族への嫌悪』が漂っているのが感じられ、本能的に横目で見ていたマリューはかすかに眉をひそめさせられる。
地球連合の軍人たちの中で、ナタルのような考え方と感じ方をする人間は決して少ない数ではない。
むしろ、能力の違いこそあれコーディネイターも1人の人間に過ぎないという点では自分たちと変わらないと考えているマリューやムゥの方が少数派だったと言っていい。
「我々はコーディネイターの脅威から地球を守るため戦っています! 幾人もの戦友や同胞たちがザフト軍との戦いで命を落とし、死んでいきました!
その彼らを殺し続けた敵は、皆コーディネイターの兵だったのですよ!? 彼だけが例外で、そうはならないと一体誰に保証できると大尉殿たちは仰られるおつもりなのですか!?」
そう。彼女の言うとおり、今の彼らが戦っている相手は全員がコーディネイターという自分たちナチュラルとは違う種族だけで構成されている軍隊なのだ。
その事実が彼女たちの考えを強固なものとする一助となっている。
コーディネイターばかりが敵になり、敵の兵士であるコーディネイターだけが味方を殺し、自分たちが命がけで戦ってでも地球を守らねばならない外敵はコーディネイターだけしか地球圏には存在していない現在の状況。
分かりやすく、単純化された構図による理解と、効率化を進めて無駄を省く理論を尊びやすい軍組織がもつ『好み』には実に合致しやすい特徴が、この戦争では現実のものとして実現されている。
根っからの軍人気質であり、『ナチュラルばかりで構成された大西洋連邦軍』に囲まれて、彼らの価値基準から見て高い評価を得られるよう努力して育ってきたナタルにとっては、そういう「ひねた解釈」というものは思いつかない。
良くも悪くも純粋で、優秀ではあるが単純。
分かりやすく敵味方で色分けされた世界観で―――ハッキリ言ってしまえば『地球征服を企む悪のザフト軍』と『宇宙人から地球を守るため一致団結して戦う正義の地球防衛連合軍』という子供じみた図式で、この戦争を考えてしまっているのがナタル・バジルールという人間の欠点だった。
リアリストに見えて、実はヒーロー漫画的な発想がこびり付いてしまっている己に自覚がない。
そんな彼女と違って捻くれた大人で、「ひねた大人」の友達を得たばかりの上官は、些か以上に意地の悪い部分を悪友から刺激されてしまったらしく、
「いや、そうは言うが彼ってオーブ国籍の人間で、プラント評議国生まれのコーディネイターって訳じゃないって話だったけど? ならザフトとは少し違うんじゃないか?」
「ですが、コーディネイターであることは事実です。プラントとて最初から存在していた国という訳ではない以上、彼も同じである可能性は否定できないのでは?」
「オーブも地球の一国だったはずだが? ユーラシア連邦と同じにな」
「・・・ッ! で、ですがコーディネイターでもあります! 我々の仲間を殺し、戦ってでも地球を守っている相手と同じ種族の少年なのです!!」
「じゃあ、仮にアンタの言うとおりアルテミスに行ったとしてだ。奴らが裏切って俺らを殺してきたら、アンタの中で『ユーラシア人は我々の仲間を殺した敵の種族だ』ってことになるのかね?
そうなった次の日からは、コーディネイターもユーラシア人も敵だから信用できないって、そーいう事かい?」
「~~~~ッ!!! そのような仮定の話に意味など有りません! 無駄な行為に時間を費やすより他にやるべきことがあるはずです!」
「・・・・・・・・・確かに、ね」
そこまで言って気が収まったのか、満足しただけなのか。とにかくムゥは肩をすくめて矛を収め、ナタルは肩を怒らせながらも副長席に荒々しい仕草で座り込むと黙りを決め込んでしまう。
思わず溜息を吐きたくなる立場のマリューだったが・・・・・・ふと先までの会話の流れを思い出し、
(・・・・・・つまり、キラくんを「ストライクのパイロットとして任せる」という決定を、ナタル少尉も受け入れてくれた形になった訳か・・・)
先程まで続いていた無意味としか思えぬ言い合いにも、実は一定の意味と、キラの立場を確保させるという目的があったことに気づいて、マリューとしては先程まで以上にムゥに対して「食えない使いづらい人物」という印象を強める結果となってしまった。
助かりはしたものの、もう少しやりようはないものかと苦情の一つも言いたい気持ちにならざるを得ない。
あるいは、ナタルからキラへの悪感情を分散するという目的なり理由もあったのかもしれない。
いずれにしろ、思想も所属も種族さえも混成部隊の割りには、数の上では偏りが存在している現状のアークエンジェル内において、バランスの維持は重要な問題になり得るかもしれない厄介な問題なのは事実だった。
気を引き締めざるを得ないと感じていた彼女の鼓膜に、それまで『無駄話を続けられていた理由』がCICのトノムラからもたらされたのは丁度この時だった。
「艦長! 敵艦隊に動きがありました! ヴェサリウスだけが単独で先行しはじめ、ガモフが索敵のための機能を強めながら速度を緩めて追随する模様ッ。
ヴェサリウスの方は分かりませんが、ガモフは“アルテミス”へのコースをゆっくりと前進開始ッ」
「・・・・・・やっと、敵の陣形に乱れが生じてくれたわね。罠である可能性も否定できない状況だけど、私たちには乗じるしか他に選べる道がない。行くしかないわ」
こうして、待ち続けた状況の変化を確認したマリューたちは、アークエンジェルを発進させてアルテミスへと向かう進路へと艦を進ませる道を選ぶ。
ムゥの言葉を無視する訳ではないが、現実問題として現状の自分たちが持つ力では、それ以外に選べる道はない―――そう思っていたからだった。
・・・・・・・・・しかし。
「しかし正直なところ、君がパイロットに自主志願してくれるとは意外だった。見た感じの印象で悪いが、戦争嫌いだろ? 君って人間のタイプにとっては特に」
「ええまぁ・・・・・・好き嫌いで言えばスゴク嫌いな方だと、自分でも思ってますけど・・・でも・・・」
整備班の作業の合間に、コップに入ったジュースを手にしてクルクルと回しながら、僕はオーブ軍のユウキ二尉と並んで小休止の息抜き会話をしている最中だった。
フレイが乗っている故障した脱出艇をアークエンジェルまで回収した後、僕は結局パイロットになるという話を自分から提案して、マードック曹長を通じて艦長に掛け合ってもらい、少し前に臨時とはいえ正規軍の軍服と一緒に許可が下りたばかりの身になっていた。
その行動に対して、キラ・ヤマトの肉体は当然イヤがりはしたけど、意外にも他のときより抵抗感はずっと小さくて、割とすんなり自分の中でも現在の境遇を受け入れることができてしまったのは、予想外ではあったけれど嬉しい誤算でもあった。
「正直、戦うのは嫌いですし、怖くもある・・・人が乗っていると承知でライフルを撃つときのことを考えたら、想像しただけで出来そうにないなって思うぐらいに・・・。
でも、やらないと死んじゃって、皆も殺されるしかない状況なら、仕方がないって思ってもいるんです。
そういう時に友達を見捨てられる性格をしてませんし、結局ピンチになったら彼らを守るために飛び出すことになるんだったら、少しでも良い条件で同じ結果になった方がいい。そう思って」
「・・・・・・・・・」
「もっとも、連合のためとか地球の危機だとか、プラントやザフトを倒せとか、そーいう大きい範囲のことは今の僕には考えられないんですけどね。目に見える範囲だけを理由に戦うぐらいが精一杯です。
世界のこととか種族とか国とか、ただの学生がいきなり考えるなんて無理でしたから」
「そりゃそーだ」
軽い態度で納得して、アッサリと微笑して受け入れてくれるユウキ二尉。
その割り切りの良さと物わかりの良さには、やっぱり『ガンダムSEED』の登場人物らしさが欠けている謎めいた人物な印象が強まるところがあったけど、それでも話しやすい相手だったことだけは間違いない。
「それに・・・・・・ザフト軍から見ればきっと、僕たちもアークエンジェルの他のクルーたちと同じにしか見てもらえてないんだろうなって思ってもいるんです。
そりゃ、中立国なのに地球軍のMSや戦艦を秘密で造ってたことはオーブが全面的に悪いっていうのは僕にも分かりますけど・・・・・・だからって問答無用で民間人まで巻き込む攻撃を平然と仕掛けてくる軍隊の理性を信用するのも無理ですから」
そう告げた気持ちに嘘はなかったし、連合軍よりずっとマシだとは思っているけれどザフト軍も決して綺麗なだけの理想的な解放軍っていう訳じゃない現実の汚い部分を、メタ情報として知っている転生憑依者の僕にはアスラン・ザラやシン・アスカほどプラントに幻想を抱きたい気分には正直なれない。それは事実だ。
ただ・・・・・・僕がパイロットに自分から志願した大きな理由として、出来るだけ『フレイに会いたくない』って願望が影響した結果だったのも嘘になれない真実でもあったんだ・・・。
そのために僕は、脱出艇を運んできた直後に飛び出していったトリーを追わずに、コクピットに残っていたし、サイたちのいる場所への案内するのもMSの説明も連合軍の人達がやるのをモニター越しに見ているだけで、実体験としての僕は未だにフレイ・アルスターとヘリオポリス内で別れたのを最後に一度も再会することが出来ていない。・・・そういう事に彼女の記憶の中ではなっている、そのはずだ。
そりゃ狭い艦内で、いつまでも一緒の空間内でいるのから逃げ続けられないことぐらい分かっているけれど・・・・・・誰だって、可愛い女の子が傷つく道を歩む理由に自分がなりたいと思う人は多くない。
サイを始めとして、仲間のミリアリアたちとも余り一緒に過ごす時間は取っていない。
フレイが去って行ったのを見計らってコクピットから抜け出した僕は、マードックさんを通じて艦長に、そしてユウキ二尉にも仲介役をお願いして現在の立場を確保することに成功した。
このまますんなり行ってくれるほど、キラ・ヤマトの肉体が持ってる『女難の相』は弱くなさそうな気もするんだけど・・・・・・なんと言うか、まぁ、うん。
「ああ、そう言えば君から提案するよう頼まれた案だったが、先ほど艦長から許可を取ってくることができたよ。よくは知らないが丁度のその話題で議論が行き詰まっていたところだったらしくてね。
なんとか実行に移すことが出来そうだとさ」
「そうですかっ、ありがとうございます。ユウキ二尉。それとお手間をおかけしてすいません」
「いや、私はメッセンジャー代わりの役を果たしただけだったからな。特に気にされるほどの手間暇がかかった訳でもないので構わんのだが」
そう言って飄々とした仕草で言い切る彼が伝えてくれた情報のお陰で、この次に続く状況の難易度が大分下げることが出来そうで、僕としては心の中で大きく安堵するしかない。
原作を知っている僕にとっては、このヘリオポリスからアルテミスまでの道中をクルーゼ隊からの追撃を隠れ潜みながら駆け続ける『サイレント・ラン』が、酷く無意味で無駄な徒労に終わるしかない『最低のランニング』にしかなれないことを始まるから知っていた。
ただ敵が同じで、『自分だけだと勝てないから』あるいは『自分が勝った後に疲れ切った背中を襲われたくないから』・・・・・・という理由だけで野合したとしか思えない大西洋連邦とユーラシア連邦の同盟関係は、お世辞にも『味方』と呼び合えるほど信頼感がある間柄じゃ全くない。
仮にザフト軍が敗れて、一年かそこらで戦争が終わっていた場合には、確実に『次の倒すべき相手国』になっていたのは間違いなさそうな同盟相手を、「同じ地球の一国だから」という理由だけで無条件に信じられてしまっていたナタル少尉の判定基準には大いに疑問があるシーンだったけど、だからこそ避けられる無駄なら避けておきたいと思うのが当然。
だから僕は、自分なりに考えた案をユウキ二尉に託して、彼からの提案という形でマリューさんたちに奏上してもらうことにした。
自分で言わなかったのは、民間人の身分に信憑性がなかったことと、原作でのナタルさんが抱いていたコーディネイターへの嫌悪感を刺激しないよう配慮したのが理由だったけど、それが功を奏したかどうかはともかく許可だけは得られたみたいで本当によかった。
「しかし、なかなか驚かさせてもらったよ。まさか私と同じことを考える民間人が乗船して、しかも艦内で一機だけのモビルスーツを任された民間人パイロットの少年ときている。
君はどうやら、お仲間の種族内でもかなり上位に入る能力値をもって生まれてきた存在らしい。そんな人物と敵対しなくて済んで、いやよかったよかった」
うんうんと、感心したように何度も頷いてみせるユウキ二尉。
その言葉ぶりから、彼もまた僕と同じ作戦案を既に考えていたことを示すものでもあった。
それは当然のことかもしれない。
だって僕が原作にはない、この作戦アイデアを思いつくことが出来たのは、彼の存在があってくれたお陰だったから。
彼がしてくれたことの成果によって、僕たちは目的地までの道のりを大幅にショートカットすることが可能になる――かもしれない。
それがこれから行われる作戦の結果次第で決まるもの。
「モビルスーツを動かせたって、戦争ができる訳じゃない・・・・・・その通りだと僕も思う。
けど、僕は別に戦争がしたくてモビルスーツを動かすことを選んだ訳でもない。
欲しいもの、願うもの、守りたいものの為に、それらが得られる事をする。
それだけで別にいいのが、今の僕という立場なんだから・・・・・・」
そう。今はそれでいい。
今のキラ・ヤマトは、僕は・・・・・・それでいい時期なのだから――
つづく