ガンダム二次作   作:ひきがやもとまち

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以前に出していた『機動戦士ガンダム 死のデスティニー』の『劇場版FREEDOM』を舞台にしたバージョンのを書いてみました。
まだ本編が完結しておらず、戦後の世界情勢などが予定と変わる可能性もありましたので控えてたのですが、とりあえず【現時点での予定に基づくDESTINY後のFREEDOM世界観】として書いてみた次第。

正式にやる際に変わってた時には、また1から書き直す必要あるので、コッチにも投稿してよいかと思って両方ともに出しました。
変わった時には、コッチだけ残して本編に出した分は消すかもしれなかったので。


読み切り【機動戦士ガンダム 死のフリーダム】

 

 ――C.E.七三。

 《血のバレンタイン》の悲劇を端を発して行われた地球プラント間の2度にわたる対立と武力抗争は、ようやく終結の時を迎えることとなる。

 

 地球連合軍の勝利と、プラント評議国の敗戦という形で、である。

 

 一度は形ばかりの停戦には至っていた両勢力の戦火を再び燃え上がらせたのは、当時のプラント最高評議会議長、故ギルバート・デュランダルの平和への願いと争い続ける世界への絶望によるものだった。

 

 無意味な争いを続ける『現状の世界』を否定した彼は、【今後絶対に人類が戦争を繰り返さないための最終的な防衛策】として提唱した《ディスティニープラン》によって恒久平和が成った世界へと人々を導くため手段も犠牲も厭わなかった。

 

 その過程で、【地球社会の裏側に古くから蔓延り続けた深い闇】を始めて日の当たる場で晒させた彼の行動は、結果として異形の独裁的軍事指導者を台頭させ、自らを破滅に導く切っ掛けを創り出してしまう、皮肉な運命へと彼自身を導いていくことになったのだ。

 

 今や、かつて【世界の裏に潜む必要があった闇】は、存在を秘匿する意味が消失した世界の表側に絶大な影響力を及ぼす黒い闇として人類社会を覆っている―――

 

 

 

 

 そんな太古から続く闇が巨大化して全てを覆い尽くした世界の空に刃向かうように、今ひとつの『青い機体』が暗雲を切り裂き飛翔していく。

 《ZGMF-2000グフ・イグナイテッド》という名を与えられ、前大戦時にデュランダル政権下で開発されたザフト軍MSだ。

 

 ブルーの装甲とシャープな外見をした、重火器を持たない接近戦向きの巨大な機影は一機だけではなく、周囲には同じカラーリングをした同型機がいくつも編隊を成し、同じ目的地へ向けて夜の闇の中を雲に紛れて飛行している。

 

 地上からも空を行く友軍機に呼応するように、陸戦用のザフト軍MSたちが次々とエンジンに火を入れては、グフ編隊と同じ方向目指して進軍を開始する。

 

 《TFA-4DEガズウート》《ZGMF-1017ジン・タイプ・インサージェント》《TMF/A-802W2ケルベロス・バクゥハウンド》

 

 先の大戦時に反連合レジスタンス組織などで配備されていた多くの機体がアフリカ共和国の一都市カナジ市外から発進して一路、同国『オルドリン自治区“旧”経済特区』へ向けて中隊ないし大隊規模の戦力を突入させていく。

 

 

 深夜の夜空を見上げ、その光景を見て“生きていられた者”がいれば、敗戦によって大幅に軍備を縮小させられたザフトの地上軍残党部隊が、かつて同胞たちが暮らす自分たちの領土だった飛び地を征服者たちから奪い返すため、テロ攻撃をかけに行こうとしている――そのように見えた事だろう。

 

 ・・・・・・だが、よく見ると彼らの軍には妙な部分があった。

 MS部隊の発進拠点として用いられたカナジ市の即席MSカタパルトなどには、ザフト軍の旧式移動設備が用いられているのだが、それを操作しているツナギ服をまとった整備兵たちに混じるようにして、『旧地球連合軍の士官用野戦服』を着た姿の者達が散見されているのである。

 

 その内の一人が、傍らに走ってきた指揮車のジープに飛び乗ると、運転席に座った下士官に向かって大声で問いかける。

 

「よぅし、全機出撃したな! よもや攻撃前に察知されるヘマはしとらんだろうな!?」

「その恐れはありませんッ。潜入させている者からの報告でも市内にいる連中は寝静まり、大人しいものだそうです。我が軍から攻撃を受けることは想像すらできないでしょう」

「決行だ。そのまま永遠に眠っていてもらうとしよう」

 

 報告をする側の部下が着ているのは、ザフト軍の一般兵を現すグリーンの軍服だった。

 報告をされる側の上官が着ている軍服の襟には、地球連合軍の将校を示す階級章が輝いている。

 

 敵対し合う、あるいは敵対“し合った”二つの陣営の軍服をまとって、一つの戦場を共にしている男たち。

 見る者が見れば、先の大戦で良くも悪くも名を轟かせた《大天使》と異名される戦艦を連想することが出来たかも知れない光景。

 

 だが、見てくれに反して彼らは同じ一つの勢力《地球連合軍》に属する単一組織の軍人たちだった。

 いや、正確には単一組織の所属ではない。

 

 地球連合は『コペルニクスの悲劇』に激怒したプラント・ザフト軍の攻撃に敗北し、単独勢力での防衛は困難と考えた地球側主要国家群が手を結び、異なる指揮系統と編成のままでは効率的な運用は難しいことから統合が促されて発足した、軍事同盟とも呼ぶべき連合勢力の名前“だった”。

 

 所詮は敵を同じくするだけで野合しただけでしかない勢力、強大な敵を共有している限り強固な絆で手を結び合わざるを得なくなるしかない。

 

 その絆が近年、脆くも瓦解されつつある。

 それを阻止して、『正統なる地球人類の権利と生存』を守るための戦いを継続させるためにこそ、今日この作戦を彼らは実行することを決断したのである。

 

 ――全ては『宇宙のバケモノ』と結託した、あの『裏切りの者で売女の小娘』を打倒するために――

 

 

「此度のことで今一度、愚民共にも分からせなければならない。

 “我ら”と“奴ら”は違うのだ、という事実を。

 その為にこそ我らは起って、命を捧げる覚悟を固めた。

 これは、その事実を愚かな民衆共に理解させ直すための再教育であり、躾でもある。

 その為にこそ我らは敢えて、穢らわしき宇宙のバケモノ共が造ったブリキ人形だけで事を成すのだ。その意味が分かるな? 軍曹」

「・・・・・・はい、分かるつもりでありますッ」

「うむ・・・。今回の作戦は、我らの偉大な先達たちが先の《ユニウス戦役》において用いた偽装作戦を応用したものだ。

 我らは、降伏と軍備縮小に反対して軍を離反したザフト残党の一派として町を襲撃する。それによって再び地球市民たちに対コーディネイター機運を燃え上がらせる契機とせねばならん。

 大義のため、つまらんプライドは今は捨てろ、軍曹。それが真に地球のためとなる自己犠牲なのだから」

 

 地球軍とザフト軍とが始めて戦火を交えた最初の大戦《ユニウス戦役》が終結した後、《アラスカの虐殺》を口実として強引に併呑を進めてきた南米を始めとする国々が一斉に独立を宣言し、地球軍の分裂を望むザフトから影ながらの援助を受けて対立抗争が激化していた時期が過去にあった。

 

 その際の戦いの中で、一度は地球軍の『英雄』として称えられながら、生まれ故郷への郷愁という小さな範囲での感傷を理由として裏切り者となる道を選んだ幾人かのエースパイロットたちが敵側に脅威となって存在していた。

 

 個々の強さでは比類ない彼らに手を焼いた地球軍は、敢えて汚名を甘受し、ザフト軍MSの機体だけを用いてOSをナチュラル用のものにすげ替え、互いに敵対感情を植え付ける既成事実とするための偽装作戦を実行した経験を有している。

 

 その作戦は同時に二段構えで立案されており、地上部隊が失敗したときに備え、軌道上からコロニーの残骸を落下させ、反乱分子たちが屯した南米のみを壊滅させようという壮大な粛正を実行に移そうと画策したのだ。

 

 当時の作戦は結果的に、ザフトと思しき一部部隊が南米の裏切り者共に味方したことで残念ながら失敗に終わった。また未確認ながらオーブからの寝返り組が裏で暗躍したという噂もあるが真相は闇の中だ。

 

 その愚行、もしくは暴挙を、今ここにいる彼らは再び地球上で復活させるため動き出す。

 かつて宇宙のバケモノ共が暮らしていた地を攻撃し、今では同胞たちが居住している地区を殲滅することによって、憎しみの炎を再熱させてやるために。

 

「此度の作戦によって再び我らの旗の下、宇宙のバケモノ共を滅ぼすための聖戦を再開させる灯火となるだろう。

 この世界が、これ以上どうしようもない事になる前に。本当に手遅れになってしまうより先に、我らの手で世界は守られ、正しく管理されなければ人類は滅びる。

 目先の欲に流される愚かな民衆たちには、それが分からない。

 誰かが道揖斐手やらねばならんのだ。誰かが・・・・・・そして、それはあの“裏切り者の売女”では決してない」

 

 同席することになった上官の発言を聞かされながら、下士官は深く頷いて賛同を返す。

 彼らには共通の危機感があった。

 

 ――このままでは自分たち、天然自然から生まれた地球人類は滅びるしかない――という危機感を。

 戦後になってから、急速に進められる組織および思想の解体が彼らの強迫観念を追い風ともなる。

 

 ・・・・・・もっとも本来なら、こんな作戦をやる必要はなかった。

 戦前からバケモノ共が不当に占拠していた土地を襲撃して、怒り狂って感情的になった『優秀なだけのバカ種族』の憎しみを煽るだけで誘き出すことが可能になる・・・・・・そのはずだったのだ。

 その際に、自分たちの新たなる指導者『ミケール大佐』の名を出せば、美味な餌をブラ下げられた『新人類と称する差別主義者の特権階級共』は、欲望に釣られて我慢できず飛び出してくるのは、より確実になったはず。

 

 全ては、あの忌々しい小娘が推し進める復興政策のせいで・・・・・・!!

 

 

「この犠牲により、戦争が正しき形で終われる切っ掛けとなることを切に願う。

 蒼き正常なる世界のために――」

 

 

 彼なりの使命感と、自己犠牲を尊ぶ声音で上官は語り、部下は頷く。

 何をもって『正しい戦争の終わる形』とするのか? そもそも『何を、誰を守るために戦っている戦争』だったのか?

 

 その答えは、少なくとも彼ら自身に関しては明白すぎるほど明白で露骨な、エゴイズムを理論武装しただけの自己欺瞞に基づいたものでしかないのは行動によって証明されている者達の暴挙。

 

 その為の作戦決行の指令は――――最後まで言い終える寸前に途切れることとなる。

 

 

 ――ドゴォォォォッン!!!

 突如として煌めいた赤い閃光と、耳をつんざくような爆音が轟き渡り、上官たちが乗る指揮車のジープを衝撃が激しく揺さぶられる!

 

「な、なんだ!? 敵襲か!?」

「い、いえ! 違います! 味方機の一部から攻撃が・・・・・・これは反乱行為です!!」

「なんだとォォォッ!?」

 

 信じられない思いで司令は叫び声を上げて後ろを振り向く。

 見ると確かに、コクピット内部のみを入れ替えた《ZGMF-1000ザク・ウォーリア》《ZGMF-601RゲイツR》などの偽装ザフト軍機の一部が、同じように偽装を施した味方機部隊に向かって後ろから発砲し、同士討ちを恐れた友軍に混乱をもたらしていた。

 

 それだけではない。

 暗闇に包まれた闇色の夜空を見上げれば、自分たちが出撃地点としたカナジ市郊外の周囲にある区画からイナゴのように空へ向かって舞い上がりつつある、小さな黒い点の群れが空へと飛び立っている光景が視認できた。できてしまった。

 

「しまった! 謀られたか・・・ッ!?」

 

 その光景を見た瞬間、上官は一瞬にして自分たちが陥っている状況を理解する。

 理性による理論的な思考の結果としてではない。本能的な直感によって、あるいは感情的な反発心と憎悪によって、彼は正確に正しい答えを分かることが出来てしまったのだ。

 

「迎撃しろ! いや、市街地へ向けて攻撃を開始させろ! こうなれば場所はどこでもいい!

 地球軍からの攻撃にザフト軍から反撃した虐殺になるなら場所はどこでも構わん! 殺せェッ!!」

「了解ッ!!」

 

 破れかぶれになった上官は、瞬時に方針を転換させて最低限の戦果を得られる攻撃へと作戦をシフトさせる決断を下す!

 

 ザフト軍が、かつて自分たちが領有する地球上の飛び地だった『オルドリン自治区プラント経済特区』を取り戻すため夜襲を仕掛ける。

 あくまでオルドリン自治区は自分たちの領土であり、自分たちの住む土地を取り戻すためなら新たに居住していたナチュラルの民間人を虐殺することも厭わない――そういう筋書きにする算段で、彼らは今夜の襲撃をする予定だった。

 

 ザフト軍のフリをしてナチュラルの町を襲えば、どこでも似たような効果は得られるだろうが、その程度の策であれば既に幾度も実行してしまった後であり、あの『狡猾な小娘』に対応策を立てられてしまったことで効果はないことが証明されて久しい。

 

 だからこそ彼らは、より説得力と信憑性をもたせる形で偽装襲撃を実行に移した――そのはずだった。

 だが、どこからか情報が漏れたのか、カナジ市の周囲に存在する他の市街地から次々と連合製のMSが起動して、自分たちを包囲殲滅するため侵攻してきている。

 

「おのれ! 裏切り者め! 売国奴どもめ! 何故そうまでして、旧時代のバケモノ共に肩入れする!? 

 一部の者として自らだけが富み栄え、理不尽や非道が自分たちだけには許される特権だと無条件に信じ込める宇宙のバケモノ共を、なぜ滅ぼさずに生き続ける世界を許せるのだ!?」

 

 上官は車をデタラメに走らせながら、届かぬと承知で敵に回った裏切りの怒りの絶叫を上げ続けた。

 

「我らこそが地球人類の未来を担う者なのだ! コーディネイター共の暴虐から同胞達を解放し、正しき解放戦争の旗を再び掲げるため真の正義を成すために!」

 

 怒りと憎しみを全力で込めながら、彼は叫ぶ。

 《ジェネシス》の斉射による一方的な虐殺を思い出しながら。

 《レクイエム》で一瞬にして焼き殺された悲劇を思い出しながら。

 

「忘れはせんぞ! 戦死することすら許されなかった死者達の流した涙を! 恨みを! 忘れることなど出来るもの――う、うわッ!?」

 

 だが言い終わる寸前、ナニカ大きな障害物にでも盛り上がってしまったのか指揮車は横転し、上官は地面に投げ出されて背中をぶつけられてしまった。

 瞬間、息が止まって意識が飛びかけるが、何とか持ち直して立ち上がろうとし――

 

 

 ―――ジャカリ。

 

 

 ・・・額の目前に、銃口を突きつけてくる軍曹の、無表情な顔を見上げさせられることになる。

 こんな身近にも、卑劣な裏切り者が潜んでいたのだ。

 

「ぐ、軍曹・・・貴様もか・・・・・・ッ!!

 いったい幾ら積まれて小娘に良心を売り渡した」

 

 激しい怒りの視線で部下“だった相手”を憎悪を込めて睨みつけた上官の罵り文句は、またしても最後まで言葉を言い終えることができなかった。

 相手の手にある拳銃に、腰のホルスターに伸ばされかけた上官の右腕を打ち抜かれてしまったからだ。

 

「・・・・・・私の母は、非プラント理事国の生まれでしてね。名前など言ったところで意味のない貧乏国で、ニュートロンジャマーによるエネルギー供給停止の影響をモロに被った国の一つでもある」

「そ、それがどうしたと言うのだ・・・・・・ッ。ザフト軍が、あんなものを地上に撃ち込んだ結果ではないか! そのことで恨むべきはコーディネイター共の方だろう!?

 地球軍に恨みを向けるというなら逆恨みというもの・・・・・・ッ!!」

「ええ。私もそう思す。思いました。悪いのは核攻撃から身を守るためと言って、あんなものを地上に撃ち込んで原子力発電所まで停止させたプラントの方だと。

 コーディネイター共が、あんな事さえしなければ死ななくて済んだ命達だったと。あなた方の言い分を受け入れて悲しみを誤魔化し、暴力によって怒りを発散させる快楽に酔いしれたと思います。

 ですが―――」

 

 

「あなた達は、そんな私たちの国から徴発を行った。

 コーディネイターの侵攻から地球を守るための防衛戦争に必要だからと、あなたがた『大西洋連邦が放った核ミサイルの報復』として撃ち込まれたニュートロンジャマーの被害で困窮していた私たちの生まれた貧困国に。

 被災者達への、ろくな支援金も出してこなかった、あなた方の国が戦争に勝つための徴発を・・・・・・」

 

 冷たい声音と冷めた表情で突きつけられた、部下の出身国と一度目の大戦での出来事を聞かされた士官は、こめかみから冷や汗を一筋流す。

 

「そ、それは・・・・・・だが奴らに勝つためには必要なことで―――」

 

「それだけではありません。予想外に悪化した戦局と戦争の長期化によって、資金不足に陥ったあなた方は臨時増税と、徴兵制の範囲拡大を私たちの国にも課しました。

 私は、そのころに連合軍の一兵卒になった一人です。そしてヤキン・ドゥーエ戦を生き残って故郷へ帰ってきた時には、家で待っている者がいなくなっていた一人でもある。

 ニュートロンジャマー散布の被害に巻き込まれて、病院に入院していた母と祖父は、支援物資が戦場優先で後方に届きづらくなった頃に亡くなっていたそうです」

 

「・・・だ、だが・・・・・・しかし・・・悪いのは・・・・・・」

 

「それでもまだ私には我慢ができた。

 “悪いのはコーディネイターだ”“ニュートロンジャマーさえ撃ち込まず俺たちを殺さなければ死なずに済んだ”・・・・・・そう思うことで敵を殺し、それで整合性を付けようとした。

 だって仕方ないでしょう?

 私程度が一人で挑んだところで、かすり傷一つ負わせられない連合を恨んで、結局はなにも出来ずに拳を降ろすしかないよりも、大勢の味方と一緒に殺せる相手を恨んで怒りをぶつける方が、よっぽど現実的な人の恨み方というものですから・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「何より私には、まだ家族が残っていた。一人だけ残ってたんですよ。妹がね。

 ―――その彼女も、もういません。

 《ユニウスセブン落下》の被災者として入院した先の病院で」

 

「そ、それこそ奴らの暴虐の犠牲者ではないか! あれはコーディネイター共が我らへの復讐のため落とした攻撃だ! ならば完全に奴らの攻撃の犠牲者ということに―――」

 

「同感です。同感でした。だから復員していた私も、再び銃を手に取って戦場に戻ったのです。

 ――被災地救援を迅速に進めるための条約を、再び世界各国と結び直して再結成された地球連合軍に。

 そして結局、また失敗したあなた方は増税と徴発と徴兵制を復活させた。

 約束されていた被災地への支援と救助は、おざなりになったままで・・・・・・それが妹の死んだ理由です。

 あれだけの被害を受けた国の病院に、大国からの支援なしで救済活動など滞らないはずもないのに・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・ッ!!」

 

 

 無表情に騙る相手の話を聞かされながら、上官は震えが止まらなくなるのを我慢できなくなってきていた。

 相手を脅迫し、思い止まらせ、あわよくば自分も助かれるだけの交渉条件たり得る《価値ある自分以外のナニカ》を、この軍曹には誰一人、何一つとして持っていない。残っていないのである。

 

 死を覚悟した自らの暴挙に対する罰則として、人質たりえる人間も、物も、場所も、何一つ残っていない相手に対して、一体どんな脅迫なら有効になり得るというのか?

 

 

「もう、私には何もないのです。誰もいないのです。

 守りたい相手も、帰りたい場所で待っていて欲しい人も、誰一人として。

 今の私に、守る必要がある人も、失って惜しい人も、誰も残っていません。

 私がやったことが原因で、誰かが殺されても私は構わない。誰が殺されても、私は気にしない。

 ・・・・・・今の世界に、私が殺されて悲しいと思える相手は、誰一人として残っていないのですから・・・・・・。

 誰一人想える相手がいなくなった世界なら、私自身も、世界も、誰の命も死も・・・・・・この世界で起きる全てのことに、私はもう何も感じる理由がない・・・無くなりました」

 

「ま、待て軍曹。貴官の気持ちも分からない訳ではない。だが今は戦争中で、我々はザフト軍と戦って―――」

 

「だからコレは、仇討ちじゃありません。

 仇討ちは、理不尽に殺された誰かのためにやるものです。

 ならコレは仇討ちじゃない。仇討ちになれない。 

 仇を討ったところで、何かを感じてくれる妹も家族も、もう何処にもいません。

 死んだ人間は、もう永遠にナニかを感じられることは二度とない場所へ逝ってしまった後ですから。だから―――」

 

「だから、コレは復讐です。ただの復讐に過ぎません。

 仇討ちは愛する誰かを理不尽に殺されたからこそ、やる行為です。

 復讐は自分のためだけにやるものです。死んでしまった誰かは必要ありません。

 自分が、自分“たち”が、あなた方を恨んだから、だからヤルんです。殺すためにやったのです。

 あなた方が、正義に酔いしれる作戦を利用して復讐して、殺すことができたなら・・・・・・私の命など、人生など、この世界の未来ががどうなろうと・・・・・・もう、どうでもいい」

 

 唖然とさせられるほどのエゴイズムを見せつけられ。

 今度は逆に上官は、激しい怒りがフツフツと湧き上がってくる己自身を抑えきることが出来なくなっていた。

 

 なんという傲慢! 何という身勝手! 欲望! エゴイズムに満ちた自己陶酔ッ!!

 自分一人の感情さえ満たせれば、それ以外の他人全ても世界も、どうなってしまっても構わないと言い切る相手のエゴに満ちた独白に、彼は死を間際にして始めて純粋に義憤に駆られる心情を抱くことが出来たようだった。

 

 確かに自分たちにも非はあろう。清廉潔白とは到底言いがたい行為も少なくない数をこなしてきたのかもしれない。

 だが、それでも自分たちは世界のために戦っていた。

 自分たちナチュラルの世界を、未来においても残し続けられるように命をかけたのだ。

 その為の特攻じみた偽装作戦だ。

 生還を前提としない都市への潜入攻撃など、使命感と自己犠牲精神なくして出来る訳がない。

 

 どれほどの悪逆を犯そうとも、世界人類のために命を捨てて戦っている自分たちの方が、目の前に立つエゴイズムと欲望だけで人を殺す男より、遙かに上等な存在で正義の定義に叶っている!! そう心から信じることができたから・・・・・・!!

 

 

「・・・・・・言っておきますが。これは私と、この場にいる仲間達だけの勝手な想いだ、などと思わない方がいいですよ?」

「な、なに? 他にも貴様らのような恥知らずの裏切り者がいるというのか!?」

「ええ、もちろん。この地にも、他の拠点の中にも、ユーラシア連邦にも。

 それこそ――ミケール大佐の側近達の中にさえ・・・・・・ね。

 ブルーコスモスという思想と組織その者を、今のあなたと同じ立場にしてから復讐するため、その日のために私たちはパルチザンに入ったんですから。

 裏切りによって内部崩壊し、味方同士の殺し合いの中で地獄の業火に焼かれて死んでいく、我こそ正義と信ずる残党軍・・・・・・これこそ命を捨てて復讐し甲斐があるというもの。そうは思われませんか? 少佐殿」

 

 相手の話を聞き、再び少佐は青ざめて絶望のドン底へと突き落とされる。

 

(い、いかんッ!!)

 

 慌てて彼は敵に背を向け走り始める。手に握った砂を投げつけ、無我夢中で近くの林に飛び込むため全速力で疾走していく。

 

 ここで自分が死ねば、各地の同士たちの内部に裏切り者が潜んでいることを知る者が誰もいなくなる。

 そうなれば自分たちの戦いは、これで本当に終わってしまうかも知れないのだ!

 

 そんなことは許されない! ブルーコスモスという思想が生き続ける限り、コーディネイター共から地球と人類を守るための戦いは続く!

 その為にも、思想の種を広めれる存在を、常に残し続けて飛ばし続けていくことこそが、自分たちの果たすべき役目なのだから!

 

 その為にも今は逃げる。見苦しくてもいい、恥さらしでいい。

 なんとしても生き延びて、この情報をミケール大佐の元へ持ち帰り、脱出の必要性を訴えなければならないのだから―――

 

 

「そう、それだ。その顔を見てから殺したかった。

 “あの人”の言ってた通りの反応を返してくれる相手で、私は本当に―――満足です」

 

 

 そんな走り去ろうとしている上官の後ろ姿に向かって、満面の笑みを浮かべた軍曹は容赦なく追撃の弾丸を発砲する。

 

 最初は足を、次は背を、予備の弾丸は沢山あり、周囲の林にはトラップが多く仕掛けられて足止めしてくれる。

 そうなる場所まで、わざと案内して逃がしてきたのだから当然の結末だ。

 

 

 やがて蹲り、静かになった上官の血まみれの背中に向けて、ありったけの予備の弾を全て撃ち尽くした後。

 軍曹は、ポケットから取り出した小さな薬を、ポケットウィスキーで臓腑へと流し込み。

 

 

 

「・・・・・・あ、あぁ・・・・・・母さん、父さん・・・婆ちゃん、爺ちゃん・・・・・・今から、ソッチ、に・・・・・・マ・・・、ユ・・・・・・」

 

 

 

 そして、眠りながら息を引き取った。

 彼らの死体は、燃える景色の中でやがて飲み込まれていき、消火作業が終わった翌日には見分けが付かないほどの状態で発見されたが、階級章以外で判別できるものはナニも見いだすことはできなくなっていた。

 

 

 

 

 

 その結果という報告を聞かされて、一人の少女が傍らに立つ二人の男達に声をかけたのは、その事件から数日が経過した、ある晴れた日の暗がりに包まれた地下室の中でのこと。

 

 

「呼ばれましたよ、“ちょっとファウンデーション王国のイシュタリカ王宮までツラ出しに来いや”だそうです。

 今回の一件を邪魔しちゃったのを不愉快に思って、ヤキ入れたい気持ちにでもさせちゃったんでしょうかね? もしそうなら悪い気も少しはしますが・・・・・・」

「おヤおヤ、まぁアッチが裏から支援して口利きしてやって暴れさせる予定だったお調子者を、コッチだけの無断で処理しちゃいましたからネェ~。

 デュランダルの時と同様に、表には出ない範囲で装備類やら移動手段やら物資輸送やらで優遇してやってたお得意様を勝手に潰されちゃった訳ですから、多少の仕返しぐらいはしたくなるかもしれません。クックック」

 

 粘着質な声音で、蛇のように陰湿そうな眼をもつ男が愉快そうに相槌をうつ声が響く。

 

「・・・で、その呼び出しをどうする気でいるんだ、お嬢。アンタを殺したがってそうなヤツらの穴蔵までコッチから出向いてやんのか?」

「どうするもなにも、国家主権者の女王様から正式にご招待されちゃいましたからね~。その“お調子者のボス猿捕縛のため協力したい”って形での要請を。

 新連合軍指令でありながら、ブルーコスモス狩りを奨励して、公開処刑しまくることで、なんとか“今までと違うかも知れない”程度の信頼だけは得られるようになった身としては、行きたくなくても行かざるを得ないとしか言いようが」

 

 最初の声に対して、反対側の位置に立って背中を壁に預けている男も、ポケットから煙草を取り出し「シュッ」とマッチをこする音を響かせてから言ってきた言葉にも、彼女は本気で言っているのかふざけているのか判断の難しい反応を砕けた口調で返すだけ。

 

 世界の敵であり、人類の敵、平和の敵でもあるらしいロゴスの一員としては、ゴルゴダと承知で行く以外に選択肢なし――と肩をすくめながら同道することが内定している護衛役2人に言い切ってしまう精神性は、今も以前と変わるところがなにも見出せないままの対応で。

 

「――ああ、そう言えば直接的な表現は避けてましたけど、協力の見返りとしてプラントのクライン前議長が提唱して、オーブが成立させた・・・なんて名前でしたかね?

 そうそう、確か『国際平和維持監査機関コンパス』とかいう、なんか詭弁臭い名前の組織への参加を仲介して欲しがってるみたいでしたから、多分ソッチにも招待状が届いてるんじゃないでしょうか? 存外、現地到着時には久しぶりに再会できるかも知れません」

「コンパス・・・・・・あの数こそ極小だが、個々人の戦闘力がバケモノ揃いな平和維持機関の連中と、旧ユーラシア独立革命の源泉でブルコス残党ども最大のスポンサーが同じ国内に一緒にねぇ・・・・・・臭ぇ匂いしかしようがねぇ胡散臭すぎる組み合わせだな。

 残党共に渡ったとかいう、デカブルの出所もあの国なんだろう?」

「ええ、私が直々に部下に調べ直させましたから間違いなく。

 《デストロイ》は、あの国からの支援で半端ながらも完成品を残党共が手にすることが出来ていましタ。

 そーでもなければ、たかが拠点も失って山に逃げ込んだ残党風情がアレほどの代物を、まがりなりにも動かせる状態まで持って行けると思われマス?

 今の連中が拠点にしてるユーラシアって、大西洋連邦が健在だったころは手下の二流国家に落ちぶれてた国ですヨ? その程度の連中が? アレを?」

 

 悪意と見下しを隠そうともせず蔑みも込めて断言する蛇のような見た目の男からの発言に、普通の見た目をしたナチュラルと思しき男は「違いねぇ」と嗤って賛意を示す。

 現在では、事実上の首脳陣に近い存在と化してしまっている三人の意見が一致したことで、彼女たちの行動と選択は決定された。

 

 次の目的地は―――あるいは戦場は、新興のファウンデーション王国が位置するユーラシア国内になるだろう。

 

 

「では、満場一致で納得して頂けたところで出立の準備と、先んじて送り込んでおく人達の選抜を進めて下さい。

 相手がナニカ仕掛けてくると分かり切ってる状況下で、大人しく何もしないまま身一つで招待に応じるのは逆に失礼と言うものですからね。

 ゲストとしてはホストに喜んで頂けるプレゼントを用意するため、事前に相手のことはよく調べてからパーティーに出席するのが、レディのマナーというものだと、お父様は言っておられました。生前にの話ですが」

 

 苦笑とも冷笑ともつかない表情と反応で、自分たちの雇い主であり続ける少女の言葉を受け取った二人の男達を前にして、彼女は思う。

 

 

 ―――ためらうことはない、と。

 それが自分の想いならば。

 

 誰が望もうと、望まれまいと、あるいは存在を否定されて生まれてきた命だったとしてさえも。

 

 自分がしたいと想ったことを、自分が実現するため行動するのを、ためらうべき理由はなにもない。

 

 世界がナニを、誰を、どうなりたいと望もうと。

 世界は、世界で、自分は、自分。

 

 たとえ世界のためナニカしたいと望んで行動したとしても。

 それは、自分の想いで動いた結果でしかなく、世界はナニも自分に話してくれることは決してないのだから―――

 

 

「さて・・・・・・今度は鬼が出るか蛇が出るか、それとも妖怪ババァ女王のお出ましか。

 全ては神のみぞ知る、とでも言うべき所ってヤツでしょうかね」

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