そろそろ次の戦闘シーンに行きたいので、書き途中のを完成させる必要ありまして…。
あと涼しくなってきたので、エロとか恋愛要素あるヤツの続きも書きたく。
私だけかもしれませんが、あの手のジャンルは熱いときに書くと更に熱くなってメチャクチャになりやすく…なので書ける内に完成させたい事情もあった次第。
パトリック・ザラは、先のユニウス戦役後半からプラント議長へと就任し、強行的な主戦論によって軍人たちや《ユニウス・セブンの悲劇》によって家族を奪われた遺族たちなどから厚い支持と人気を得ていたコーディネイターの政治家である。
彼は決して悪意的な人柄の政治家ではなかったし、個人的な野心や私欲を満たすため議長職を欲した人物でもない。
だが先の戦争が終わってから2年が過ぎた今、パトリック・ザラの名は『前大戦で最大の戦犯の一人』として目される存在になっていた。
そうなった原因は複数存在する。
彼は、前クライン政権時代から進められていた《オペレーション・スピットブレイク》の攻撃目標を議会の承認を受けることなく、独断で攻撃目標を変更させて地球軍の罠にかかり《サイクロプス》の自爆によってザフト地上軍の大半を戦死させるという判断ミスを犯した。
更には、この作戦に前後して秘密裏に開発されていた、核動力で起動する新型MS《フリーダム》をクライン議長の娘ラクスが、敵の捕虜に無断で譲渡していたことから『作戦の失敗責任は彼らの裏切りにある』として、地下に身を潜めていた前クライン議長を反乱分子として捕殺させた。
それが結果として、彼の悪名を世間に印象づけてしまう事となる。
ザラ自身は本心から相手の裏切りを信じての行動であり、ラクス・クラインが敵軍の捕虜にザフト軍機を譲渡していたことも事実だ。
・・・・・・だが、端から見ると彼のとった行動は、『自分の作戦の失敗責任を政敵に押しつけ』『反乱分子に仕立て上げて口封じのため抹殺した』・・・・・・そんな保身政治家の私欲によるものと一面的には同じものだった。
また、後に地球軍が再び『核の脅威』を復活させてプラントに迫ったことも、ザラが秘密裏に開発させていた『Nジャマー散布下でも核使用を可能にする装置』が地球軍に流出した結果であったことが知られるようになると非難の的となる結果をもたらす。
「元はといえば、お前が余計なものを造らせなければ済んだ話ではないか!」
という世間の声は、未だ余喘を保っていたザラ議長寄りの将校たちを叩きのめし、一度は挙国一致体制を率いるまでに支持を広げていた彼らの勢力は急速に弱体化していくことになる・・・・・・。
それでも尚、ザフト軍内部には未だに亡きザラ議長と、彼の思想に共鳴する者は多く、アイリーン・カナーバ率いる《穏健派》もしくは《講和派》が新たな与党となったことで、彼らの勢力もまた統合《ザラ派》と称されるようになって現在に至っている。
ザラ派という呼び名そのものは、前大戦時から存在していたものだが、党首であるパトリックの死によって組織内部に変化が生じたことで、軍閥としての色を強くした《新ザラ派》もしくは《ザラ派残党軍》とでも呼称するのが適切な集団へと変わりつつある・・・・・・。
そんなザラ派に属していた将校たちにとって、軍事工廠コロニー《アー・モリー・ワン》で行われる新造戦艦の進宙式という軍事セレモニーははなはだ不愉快な行事であり、それと同時に喜ぶべき慶事ともなりうる一大事件だったのだ。
「――デュランダルめ!
腰抜けのカナーバに気に入られて成り上がっただけの青二才如きが、我ら《ザラ派》を式典会場から閉め出すから、こういう事にもなるッ」
アー・モリー・ワンの周辺に配置されているザフト軍艦《ナスカ級》を指揮する艦長の一人が、ブリッジに映る巨大な人工物の光景を睨みつけながら軍靴の底で苛立たしげに床を蹴りつける。
先程コロニー内部から緊急連絡によって敵襲撃が知らされた、新造戦艦《ミネルバ》の進宙式典を開催するにあたって、軍上層部の中でも故パトリック議長と近しい位置にあった人物たちは軒並み会場となるコロニー外の警備任務に割り当てられたことへの怒り故の反発だった。
それでも完全に存在を無視されている訳ではなかったが、一度はプラント権力の中枢を担っていた者達の一員として、落ちぶれた感を消すことが出来るものではない。
ただ一方で、彼らが式典に参列したかったかと言えば、必ずしもそうではなかった。
「艦長! アーモリーワン内部より緊急連絡! コロニーに侵入した所属不明勢力によって新型MS3機が奪取された模様ッ。
グラディス艦長から、『敵が強奪部隊である可能性あり。周辺宙域内に潜んでいるであろう敵母艦の捜索を要請する』とのことッ」
「フンッ! 腰抜け議長に媚びを売って地位を買った売女が偉そうに!
なぜ《ザラ派》の私が、カナーバの後釜ごときの政治ショーのために命をかけて戦ってやらねばならんのだッ!?
その程度のことは、人気取りの飾り物に言われんでも分かっておる! 余計な差し出口を叩くなと言ってやれ!」
吐き捨てるように返答する彼らにとって、今回の式典は『穏健派議長の肝いりで建艦された新造戦艦の進宙式』であって、『デュランダルの人気取り政治ショー』でしかなかった。
それを豪奢な軍装で飾り立てる引き立て役になったところで、得するものは何もない。
むしろ仮にそうなっていた時には、今とは逆の罵倒を吐き捨てていただけだったのがオチだったろう。それは彼ら自身も分かっている。
――だが、理屈ではない。そういう問題ですらもない。
ザラ派に属する、『真に国と同胞たちを愛する者』こそ己であると今も信じ続けている彼らにとって、現在の状況そのものが既にして不快さの原因そのものだったのだから。
そんな想いに囚われている彼らにとって、『自分たちの故郷の一つ』であるコロニーを襲撃された今回の一件は不快の限りだったが、同時に起死回生の好機でもあった。
(この一件で、変に敵と馴れ合おうとする連中にもハッキリ分かることだろう。奴らと我らは違うのだということが。
我ら新たな人の種族たるコーディネイターは、もはや旧人類共など必要としていないのだ。我らこそが新たな人の種なのだという現実を、頭の固い連中に分からせてやる)
今回の襲撃は無論のこと、コーディネイターである彼にとって不愉快以外の何物でもない。
だが、この件でナチュラル共の脅威と危険性はハッキリと、市民たちにも理解できるようになることを思えば、『攻撃された末の結果』に対しては好意的な感情を消すことまでは出来そうになかった。
――だが、能力で劣るナチュラルの強奪犯ごときに、ここまで自分たちコーディネイターの基地が振り回されるものだろうか・・・?
その点にだけは首をかしげながら、艦長は母艦を発進させてアーモリーワンから距離を取らせていく。
自分たちから奪った新型MSは《ニュートロンジャマー搭載機》ではなく、通常規格のバッテリーを動力としているため、地球まで地力で逃げ延びるのはエネルギー量的に不可能。
警備の目を逃れるため、コロニーから一定距離を離れたデブリ帯に回収用の小型艦が潜んでいるはず。それを叩く。
そう考えていた艦長は、艦橋から宇宙空間の一角に光が走ったような――そんな気がした。
「・・・・・・なんだ?」
彼が、そう呟いた時。
――艦長の身体は、母艦と共に光に包まれて消滅して、後には瓦礫と化したゴミが漂う無限の漆黒だけが残されていた。
「よぉーし、初手から景気のいい花火で幸先がいいスタートが切れたッ。
ようやく面白くなってきたところで、次々に行こうか!」
名も知らぬザフト軍艦長が指揮していた《ナスカ級》を《ゴッドフリート》によって一撃で轟沈させた地球軍の特殊偽装艦《ガーティ・ルー》の艦橋で、仮面の指揮官ネオ・ロアノークは陽気な声を上げて、戦いの始まりを部下たちに命じる。
それが全ての合図だった。
長らく眠りについていた灰色の巨船は、内部で息を潜めて敵の監視をかいくぐっていた者達と共に覚醒し、冬眠する間に減った胃袋を満たすために、あるいは嵐が過ぎ去るまで耐え続けるだけだった日々への鬱憤を晴らすかのように。
「《ゴッド・フリート》一番、二番機動よしッ。ミサイル発射管、一番から八番《オリンポス》装填完了!」
『こちらモビルスーツデッキ! イザワ機、バルト機、出ますッ』
「応ッ! ここまできて死ぬなよっ!?」
『当然でしょう!? 発進ッ!!』
各所から威勢のいい応答と確認の声とを響かせ合いながら、次の得物へ向かって全速で艦を近づけて混乱を拡大させていく。
既に《ミラージュ・コロイド》は解除が終わって、暗黒の宇宙空間から陽炎のように新型艦の偉容が突如としてアーモリー・ワン付近の空間に出現する光景を、多くのザフト軍関係者が肉眼と電子の目の双方で確認させられていた。
「モビルスーツ発進後回頭20! 主砲照準インディゴ、ナスカ級!
せっかくの花火だ、派手に行こうじゃないか諸君。派手にな。あちらの砲に当たるなよ!」
ロアノークの意味深な号令以下、次々とバラ撒かれるミサイルと主砲の連射によって付近を哨戒中のザフト艦艇たちが撃沈はされないまでも被害を受けさせられていく。
その光景を至近の距離で見せつけられながら、アーモリーワンの防衛を担う軍港内の司令ブースでは、ザフト軍高官が額に青筋を立てて怒りの叫びを上げていた。
「“ミラージュコロイド”、だと・・・・・・!? ユニウス条約違反の装備を平然と使ってくるとは! ナチュラルのテロ種族共がッ!!」
思わず軍帽を床に叩きつけたくなるほどの怒りに駆られる彼から見てさえ至近にしか見えないほど、正体不明の敵艦の位置は近い。
アーモリーワンから目と鼻の先でしかない位置まで、これほどのサイズの軍艦に接近されて察知できなかったという事実自体が、相手が使ってきた手の内訳を現している。
だが、曲がりなりにも条約を結んだ相手国である以上、司令の独断だけで撃沈を許可する訳にもいかない。
「艦型を確認しろ! 地球軍の艦船に類似型はないか!?」
「熱紋ライブラリ照合――該当艦なし! 我が軍の知らない新型艦と思われますッ」
データにない新型艦。おそらく戦後になってから秘密裏に開発されていた新技術を採用した船なのだろう。
その点では自分たちの《ミネルバ》も同様だが、新造艦として進宙式をおこなう寸前だったコチラと違って、相手は船籍さえ推測不可能な所属不明艦。
つまりは、戦闘の勝敗に関係なく、今回の一件で地球軍側の賠償責任を問うことは出来ないと言うことだった。
たとえ捕虜にして自白を得ても、「知らぬ存ぜぬ」を貫き通されてしまえば法的には手が出せない。
それが分かった瞬間、司令官の我慢は限界に達する。
「迎撃! 港内で待機中の艦を出せ! モビルスーツもだ! 最悪の場合、撃沈して構わんッ!」
所属が明らかになる証拠がないのでは、敵艦を拿捕して要人でも確保しない限り、今回の件で地球側に責任を追及することは不可能に近い。
だが反面、コロニーを襲撃してきた所属不明艦は、ただの海賊と何も変わらない。一般犯罪者として刑法で処刑してしまっても非合法には当たらないのである。
司令官が、敵の狡猾さを逆用して報いを受けさせようと思ってしまっても無理からぬ事ではあったが・・・・・・やはりそれは失策だったと言うべきなのだろう。
頭に血が上ってしまい、冷静な判断が一時的にできなくなったようだった。
敵艦はいきなり、アーモリーワンから目と鼻の先に現れて攻撃してきたのである。
軍港にある防衛司令部を射程に収めた至近距離からではない。
防衛側にとって近すぎる位置での出現は、不意打ちする側にとって一定距離は離れた位置ということでもある。
それを考えれば、敵が取ってくる次の手を予測するのは不可能ではなかった。
「許可が出たぞ、艦を発進させろ! 大至急だ! ナチュラルの間抜け共に我らの大地を、これ以上好きにされて堪るものか! ザフト軍の誇りを見せてやれ!」
「ハッ! ――あ!? いえ、待ってください! レーダーに感、モビルスーツです! こ、この距離は・・・・・・本艦の目の前にて、敵がッ!?」
索敵を担当していたブリッジクルーが悲鳴のような叫びを上げたときには、既に手遅れだった。
レーダーに発見されにくい機構が徹底された地球軍の主力MS《ストライク・ダガー》を漆黒の機体色で統一させたカスタム機《ダークダガーL》は、待ち続けた時が訪れたことを確認した瞬間にエンジンに火を入れて躍り出る。
ガス移動だけで密かに接近し続けてきた鬱憤を晴らすため、軍港から出て出航しようとしていたザフト軍の戦闘艦《ローラシア級》のブリッジを攻撃。
司令官のいた司令ブースまで含ませながら、爆発四散して周囲を巻き込んでいく被害によって軍港の出入り口は味方艦の残骸によって封鎖する作戦に利用されてしまったのである。
これでしばらくはアーモリーワン内部から、外の部隊に援軍を送ることは難しくなってしまった。だがコロニー付近には式典防衛のための戦力が残されている。
「さて、ここからが仕事の本番だな。気を抜くなよッ!」
司令官からの言葉に艦長以下、クルーたちは不敵な笑みを浮かべ合い、残された得物たちへと猛禽のように襲いかかっていく。
アーモリーワンを襲ってきた謎の敵との戦いは、コロニーの外側でも始まったばかりだった。
「ダメです! 司令部、応答ありません!」
「工廠内ガス発生、エスパスからロナール地区まで、レベル4の退避勧告発令」
次々ともたらされ続ける凶報の連続に、新造艦ミネルバ艦長タリア・グラディスにはもはや溜息を吐きたい意欲すら失われつつあった。
その逆に吉報らしい吉報は、何もない。タリアでなくとも嫌気が差してくる状況だったろう。
工廠内にある司令部とも、港にある防衛司令ブースとも、先程のやりとりを最後に連絡がつかない。
おそらく双方共に壊滅させられたと見るべき状況ではあったが・・・・・・そういう状況下では自分たちに一体なにをやれると言うのか?と、彼女としては判断に迷わざるを得ない。
「インパルスより連絡! 追撃を振り切りながら飛行していた奪取された三機の内《ガイア》が、外壁を内部から攻撃し始めました! ミラーを破壊して脱出しようとしている模様!」
「か、艦長・・・・・・これ、このままだとマズいですよね? もしこのまま逃げられでもしたら・・・」
「――バサバサと上層部の首が飛ぶでしょうね。私たちには特に関係もない話でしょうけど」
情報収集担当クルーのメイリンからもたらされた話に動揺した副長が告げてきた、いわずもがなの質問モドキに、やや無愛想な態度でタリアはむっつりと返して小心者の副長を更に怯えたようだった。
タリアとしては、分かり切ったことを聞くな、とでも怒鳴りつけなかっただけマシだと思って欲しい心境ではあったが、立場的には言いたくなる彼の気持ちも分からないではない境遇でもある。
――なにしろ自分たちは議長肝いりの新造戦艦とはいえ、単なる『一戦艦の艦長』に過ぎない身なのだ。
式典参加のため会場であるアーモリーワンに停泊しているものの、アーモリーワン防衛部隊に所属しているわけではない。
生まれつき能力に優れたコーディネイターは、ナチュラルたちの軍隊である地球連合と違って上層部からの指示がなければ動くことが出来なくなるような欠点は有していないが、曲がりなりにも軍隊であり、集団行動を旨とする組織の一員である以上は最低限のルールや序列ぐらいは当然ながら存在する。
・・・・・・とはいえ、現地での指揮権では当然のように優先される防衛司令部と軍港の司令ブースが双方共に制圧されたらしき状況で、次に指揮権が委譲される部署はどこになるのか? その部署は現在進行形で無事に機能しているのか? それらを把握して確認できる部隊はいずこにあるのか?
――それらの事柄がよく分からない、よそ者のタリアたち《ミネルバ》のクルーという状況とあっては、副長でなくとも自己の行動方針を決めるため頭を抱えるのは当然の反応ではあったのだ。
だが、いつまでも届く当てのなくなった司令部からの指示を待ち続ける対応ができる状況ではない。
幸いザフト軍には、ある程度の独自判断に基づく行動が許可されてもいる。
自分たちの責任で、自分たちが取るべき行動と選択を選ぶべき時が迫っていた。
軍の最新型MSの運用艦という、軍の機密情報が満載された対応しかできないという点だけは厄介ではあるが・・・・・・この状況だ。もう機密だなんだと理屈を言っていられる状況ではないだろう。
そう思い、艦全体に対して指示を飛ばそうとした、まさにその時だった。
背後でブリッジの扉が開く音が聞こえて、また新たな凶報が追加されたのかとイヤイヤながら振り返ったところで、
「艦長、状況は!? どうなっている!」
「・・・!? 議長っ?」
驚いたことに、そこに立っていたのはプラント最高評議会の議長その人の姿だった。
彼が国家指導者として進水式と式典に出席するため訪問中であることは、タリアも無論のこと知っていたが今この場に来ているとは思いもしなかった。
見ると相手は護衛どころか、随員すら伴っていない。
一国の最高権力者が単身で、襲撃を受けている最中のコロニー内を戦艦まで来ていたのである。
思わず、状況や立場も忘れて眉をひそめ、「危ないではないか」と相手の立場を弁えない行動に苦言を述べようと唇を開きかけて、
「オーブのアスハ代表との会見中に騒ぎに巻き込まれたのだ。護衛たちは、そのときに敵の工作員と思しき兵に殺されてしまった。
アスハ代表の随員の機転がMSを操縦できると聞かされて、ここまで同乗させてもらったのだ。彼女たちには立場的に現在はガンルームで待機してもらっている。
――それで? 現在の状況はどうなっているのか? 奪われた3機は!?」
「・・・・・・ご覧の通りです。戦況はあまり芳しいものではありません」
自国の最高権力者からの質問に回答しながら内心でタリアは、やや苦い表情を浮かべざるを得ない。
戦闘中のブリッジという『現場』の指揮所に、抗いがたい権力を持った『お偉いさん』が入ってきて嬉しがる艦長は、“おべっか”と接待で出世したがる腐った連中のお仲間だけだ。
少なくともタリアは「腐った奴らの同類」になりたいと思ったことは一度もない自負を持っている真っ当な艦長のつもりだったので、『政府の偉いさん』と同室させての現場指揮など冗談ではない、としか思うことが出来なかったのである。
・・・・・・先程デッキから届いていた報告の一つに、損傷した《ザク》が収容されたというものがあった気がしたが、細かい部分は相手の方が配慮したのか議長が遮ってしまったのか、彼女の耳と心にまで届いていなかったことが今更ながら悔やまれるが・・・・・・それこそ今更の話でもある。
丁度モニターに映し出されていた光景には、《ガイア》に続いてインパルスの隙を突き、火力に優れた《カオス》からの一斉射撃が外壁に向かって発射され、耐熱限界を超えた自己修復ガラスが溶解させられて、コロニーに穿たれた穴の向こう側へと気圧差によって3機の機体たちを急速に吐き出してゆく姿が映っていた。
それを追うように、《インパルス》と、ルナマリアの《ザクウォーリア》まで外へ飛び出していく姿を見つけ、タリアは歯嚙みする。
途中から参戦したルナマリアはともかく、シンの《インパルス》はエネルギー残量が限界に近い。
コロニー外の部隊と未だに連絡がつかないままと言うことは、目前の三機と同等の強敵か大部隊のいずれかが、アーモリーワン周辺の宙域には存在していると考えた方がいい状況。
戦闘中の要請に応じて《フォースシルエット》の発進を独断で許可して換装させ、多少のエネルギー補充はできたと思われるが、急な要請だったため万全な状態でおこなえていた自信はない。
流石に限界だった。
「ミネルバ、発進させます! インパルスまで失う訳にはいきません。
――よろしいですね? 議長」
振り返りながら確認するように念を押すように、あるいは脅迫するかのような口調と表情で問いかけてきたタリアに向かって、デュランダルは重々しい口調と真摯な態度で深く頷きを返す。
「頼む・・・タリア。いや、艦長。君の判断に全面的に任せる、彼らを助けてやって欲しい」
「了解しました。では議長は、戦闘態勢に移行する前に早く下船を――」
「いや。すまないが、とても残って報告を待っていられるほど安穏とした状況ではないようだ。私も共に行かせてほしい、許可してもらえないだろうか?」
「議長・・・・・・」
その返答に眉をつり上げ、タリアは睨むような視線をプラントのトップで“個人的な事情”を有している相手の男に向けて黙り込む。
正直、迷惑な話だった。VIPという名の『お客様』を乗せたまま優雅に戦争ゲームを見物させてやれる自信も余裕もタリアにはない。
たとえ議長の権限であろうと、艦の上では艦長の命令に優るものではないというのがザフトの軍規。
ここはそれを逆手にとって、上の不興を買ってでも無理やり下船させた方が――そのつもりで口を開こうとしたタリアだったが、相手からの反応は彼女の予測をやや凌駕しており、
「それに私には義務に伴う権限もある。この状況下で、プラント評議会議長の座乗艦という立場は、それなりに利用価値があると思うのだが、どうだろうか? タリア」
「・・・・・・」
問われて今度は即座に返す言葉が思いつかず沈黙させられる。
確かに相手の言うとおり、今の所属すら曖昧なミネルバにとって『議長直々のご命令』という免罪符は、大抵の無茶をゴリ押しさせるのを可能にする魔法の言葉と言えるほどのもの。
何より事態が悪化し続けて、事が政治レベルにまで及んだ場合、ただの一艦長に過ぎないタリアでは、判断を選ぶことができなくなる恐れが存在している状況が今でもあった。
襲撃者たちの所属は不明だが――十中八九、地球軍だろうが――もし仮にあの部隊の所属が大西洋連邦なりユーラシアのものと確定し、連合軍と再戦するか否かの選択肢に直結するような事態に陥った時。
当然タリアには、プラントを再び戦渦に巻き込むか否かを決めていい立場では全くないのだ。
と言って、本国までお伺いを立てに戻ってから決める時間的余裕などあるはずもない。
それを決めることが可能な権限と責任とを持ち合わせている人物が身近に乗船しているというのは、その点で確かに悪くないメリットであるようにタリアにも思われた。
と言うより、そう考えることで受け入れるしかないと、自分自身を納得させたのである。
そしてそれは、許可を求めた側にも臨むところだった。
――謎の襲撃者の乱入によって、予定していたタイムスケジュールに狂いが生じてしまっていたのが原因だった。
艦長から聞かされた限りでは、大凡は予定をなぞっているとは言え、これ以上の狂いが生じる前に調整をおこなうべき状況。
そう思ったからこそデュランダルは、初手から大盤振る舞いをして見せる必要があったのだ。
だが、だからこそタリアも、そしてデュランダル議長でさえも。
―――その決断を待ちわびていた第三の襲撃者がいることを、想像すらしていなかった。
『システムコントロール全要員に伝達。現時点をもってLHM-BB01《ミネルバ》の識別コードは有効となった。
《ミネルバ》緊急発進シークエンス進行中。A55M六警報発令』
発進シークエンスが進む中で、クレーンによって係留されているミネルバの巨体がゆっくりと移動を開始していく。
メンテナンス用のケーブルが外され、ドックの床と巨大なハッチとが順番に開かれていき、その中を両脇から艦を係留している壁と共に船体は下方へスライドしながら進んでゆく。
船体の下に設けられているハッチが開かれ、その内部を発進ゲートとして係留していたフックから解き放たれたミネルバが大いなる星の海へと投げ出されるように出港する。
その際には、入ってくるとき床になるハッチが、コロニー内部側の上方となって位置を交換する形となり、ハッチを閉ざすことでゲート内を減圧した後、コロニー外壁の一部を兼ねた新たな床としてのゲートが、コロニーから宇宙空間へとミネルバを吐き出す出入り口ともなる。
それが未だに進水式を終えていないミネルバが、宇宙戦艦として初めての宇宙へ漕ぎ出すため用意されていた通路であり手順だった。
如何に無重力空間に浮かぶ人工の大地で建造された宇宙戦艦といえど、コロニー内部から宇宙空間へといる場所を変えるためには『合間の空間』を通らざるを得ないのは通常艦と変わるところはなく。
『無重力の宇宙』と『重力のあるコロニー内』二つの異なる重力に中間地点を人為的に生み出すことでしか、宇宙を行く人工の巨船が星の海へ船出する手段は存在しない。
そして、だからこそ、この瞬間を狙い澄まして待ち構えることが計算尽くで可能だった。
『ドッグダメージコントロール全チーム、スタンバイ。
第2、第6チームは突発的船殻破壊に備えよ――』
そんなシークエンスの一文が聞こえてきた辺りでのことだ。
最初に異変を察知したのは、索敵を担当していた少女士官メイリン・ホークだった。艦載機パイロット、ルナマリア・ホークの妹である。
「ッ!? レーダーに反応! 11時方向にこちらへと急速に接近してくる機影を感知しました!」
「なんですって!? 機種は! 一体どこから現れたというの・・・ッ」
「わかりません! 突然レーダー内にいきなり反応が現れて――機種不明! データに類似機体なし!」
「《イーゲル・シュテルン》起動! 迎撃準備ッ!」
命じながらグラディスは内心で歯ぎしりしたい思いと共に、首をひねる気分とを同時に抱かされることになる。
敵艦はコロニー外でも戦闘が始まったことで、てっきり姿を現したものだとばかり思っていたのだが、この新たな敵が突然に姿を現したというなら些か早計な判断だったことになるかもしれない。
今まで姿を見せなかったと言うことは、ステルス機能に特化した特殊機か、もしくは母艦共々エンジンを切って近くの宙域に留まっていたものから出撃してきたとしか考えようがない。
それによって、出撃後に獲るべき選択と判断は変わってくる。
「・・・・・・まだ付近の宙域に母艦が潜んでいたということか・・・? だとすれば今、外で戦っている者達との関係は・・・・・・」
コロニー付近の空域に敵艦が姿を隠して潜んでいるとすれば、自分たちが慌てて巣穴から出てきたところを狙い撃ちされる恐れがあるが、ステルス機であるなら今の時点で接近してくる目的があるはずだったからだ。
だが、いずれにしろ発進シークエンスが始まってしまっている状態で、係留中の戦艦にできることは少ない。
コロニー側も、出港時の動きが止まる時間帯が狙われやすいことぐらいは承知してもいる。
突発的な船殻破壊から防衛するため、コロニー外側にあるゲート出口付近には他よりも装甲が厚くなるよう設計されているし、対空用の装備もある。
ミネルバ単体でもMSクラスの携行火器でそうそう敗れるほどの柔な装甲はしていない。彼らの出番が来るのは本当に、いざという時だけのはず。
――そんなタリアの予測は的中し、この機体はミネルバを狙って突入してきた訳ではないようだった。
敵接近の報を受けて慌てて閉じ直そうとしていたゲートが閉まりきる前にするりと入り込むと、ミネルバの横をスィングするように通り過ぎながら上方へと向かって飛翔していく。
減圧するため、既に閉ざされた後になっていたハッチに向かって手に持っていたバズーカを乱射して強引に活路を穿つと、その穴を通ってコロニー内部へと侵入していってしまう。
「しまった! コロニー内へと突入しての破壊作業が、奴らの主目的だったというの!?」
思わずタリアは、現在の状況からそう考えて悲鳴のような叫びを上げる。
既に機種不明な謎の機体は、自らが穿った穴を通ってコロニー内部への侵入を成功させた後になってしまった状態だ。
船殻などへの破壊を防ぐために敷かれていた防御機構は、基本的にコロニー外部からと内部から攻撃されることを想定して造られており、出て行こうとする味方の船だけが使われる予定だったゲート内からハッチに攻撃されることは考えられていなかったことが、敵の作戦を成功させた要因の一つだった。
出港する寸前までシークエンスを完了させ、上部のハッチも壊された一部以外は遮蔽された状態にある現状で、ミネルバが新たな敵機を追撃するのは不可能と割り切らざるを得ない。
「・・・・・・やむを得ないわね。侵入された機体への対処は、防衛部隊に任せて本艦はコロニー外で敵母艦の撃沈を優先するものとする。――よろしいですね? 議長」
「――この状況では仕方がない判断だと私も思う。防衛部隊への対処には私の名前を使ってくれて構わない」
「助かります。――ミネルバ、発進!! コロニーを出た直後に攻撃を受ける可能性もある、警戒を怠るな!」
背後の座席を振り返って、渋面の確認を言質として取った後、タリアは改めて敵艦との戦闘と奇襲を視野に入れての処女航海へと船を進ませる決断を命じなおす。
艦長席の左斜め後方に座ったデュランダルも、当初に立てスケジュールを大幅に調整する必要性を生じさせられてしまった『招かれざる客人』の参戦に不快さで顔をしかめながら、頭の中では何より鋭く切れる頭脳をフル稼働させて次なるステージでの調整作業をシミュレートしていく。
艦内でのトップと、艦が属する国家のトップとが同じ一つの事件に対処しながら、全く異なる次元の異なる対策案を自問自答で組み立てながらミネルバは星空の海へと躍り出る。
まるで彼らの行く末を示すかのように、正面に広がる宇宙の闇は深く、ただ暗い。
そして彼らは知らぬまま、生命の存在を許さぬ冷たき無限の虚無へと長き旅の始まりを踏み出す。
自らが初航海へと船出した《アーモリー・ワン》の港に帰ってくることは二度とない、そんなミネルバの運命をクルーたちの誰もが、今はまだ知らぬままに・・・・・・。
こうして・・・・・・ミネルバが飛び立ち、強奪部隊に奪われた三機と、それを追う1機の新型たちとがコロニー内から戦場を宇宙空間へと移し、逃げる者と追う者との熾烈な追撃戦を続行する道を選んだのと同じ刻。
彼らとすれ違うようにして、ミネルバの横を掠めるように飛翔して向かっていった先の目的地で、一つの惨劇が引き起こされようとしていた。
――バタンッ!!
「動くな! 司法局の者だッ!! 両手を挙げて投降しろ、さもなくば撃つッ!!」
緑色の野戦服姿に防弾チョッキとサブマシンガンで武装した、アーモリーワン防衛部隊に属する歩兵部隊が、扉を突き破って突入しながら銃口を構え、その場所にいた人物に向けて警告を発した。
内部からロックを壊されていた鉄製の扉を、力尽くでこじ開けさせた先には、一人の人物が屋上から身を乗り出すようにして、先程まで行われていた《インパルス》と奪取された新型MSたちの戦闘がよく見える位置に立っている。
シンたちミネルバ隊が、奪われた新型MSや敵母艦の対応に死力を尽くしている中で、出入り口である港と司令部の双方を真っ先に潰されて動きを封じられたとはいえ、他の部隊も遊んでいたわけでは無論なく、各々が出来ることで勤めを果たさんと躍起になっていた。
その一つが、軍港近くから異常な量で発信されていた音波を発見したことと、その音波の発信源を割り出させて歩兵部隊を派遣させるというものだった。
「この場所から、異常な数値で発信用の音波が放出されていたことが確認された。貴様が発信器をつかって味方を呼び寄せようとしているのは既に判明している! もはや逃げ場はない! 無駄な抵抗はあきらめろ!!」
「・・・・・・・・・」
殺気だった兵士からの怒鳴るような警告が響き渡るが、相手からの反応はない。
ただ屋上にある手すりに上半身を委ねたまま、向こう側をのんびりと眺めているだけ―――少なくとも外見上からは、そのようにしか見て取れない奇妙な状況。
その場所は、ミネルバの進水式典会場と出港のための特設ドックにほど近い、戦闘に巻き込まれながらも半壊するだけで済んでいるビルの屋上だった。
戦闘によって発生していた煙が、空気循環装置によって急速に洗浄されているとはいえ、まだまだ戦闘の跡が色濃く残り、各所からは破損した精密機器などから漏れ出したと思しきガスも発生している。
つい先日まで、穏やかで平和な日常が過ごされて、子供たちが両親と一緒に式典会場まで足を伸ばし、久しぶりに一大イベントを祝っていたばかりだったはずの場所が、半日も経たぬうちに戦場の地獄へと一変させられてしまった異常な状況下。
その中で、“彼女”だけは特殊だった。
(女・・・・・・の子、だって・・・?)
発信源を所持していると思しき犯人へと、銃口を突きつけながら警告を発した兵たちの隊長は、だが内心で予想外だった相手の姿に激しい動揺を隠すのに必死でもあった。
そこにいたのは、小さな女の子一人だけだったからである。
短めの茶色の髪に、カーディガンを羽織って短めのプリーツスカートを履いた、普通の服装をした、ごく普通の少女。
まだ十代の前半といったところだろうか?
いくらナチュラルより身体能力が高いコーディネイターと言えど子供扱いされるのが妥当な年齢にしか見えない・・・・・・ごく普通の女の子。
こんな子供が、本当に非人道なコロニー襲撃犯どもの一味なのだろうか?
背後に付き従う部下達からも、動揺がひろがっていく気配が感じられる。
だからこそ隊長は敢えて、強気な態度での命令口調を変えることはしなかった。部下達が動揺する中で隊長が率先して判断に迷えばバラバラになってしまう。
たとえ相手が子供と言えど、この場所から音波が発信されているのは確かなのだから、全てはそれを抑えてから考えればいいことでしかない!!
「――貴様が襲撃犯共と繋がりがある人物だと言うことは、既に調べが付いているん! この場所も包囲した!
貴様に逃げ場はない、あきらめて我々と一緒に――な、なにッ!?」
だが隊長は、次の瞬間に驚愕させられることになる。
身を乗り出すようにして、手すりに上半身を預けるポーズで景色を眺めていた少女は、突然に動き出したと思った瞬間に飛翔して見せたのである。
手すりの向こう側へ向かって。
手すりを飛び越えながら、ゆっくりと―――放物線を描きながら、青い空の見える空間へ・・・・・・
「バ――!! おい、君・・・・・・ッ!!!」
その光景を見せつけられた瞬間に、隊長は思わず任務を忘れて走り出し、少女が消えていった手すりに向かって駆けつける。
自殺だ――そう思ったのだ。
追い詰められ、逃げられないと悟った工作員として育てられていた少女が、口封じのための飛び降り自殺・・・・・・あまりにも後味の悪い幕引きの仕方。
そう思わされ、唇を噛みしめた――――その瞬間。
――グォン!!
と、突如として巨大な青色が、彼に見えていた景色の全てを下から上へと覆い隠し。
一体何が起きたのかと考える間も与えぬまま、彼の身体を細切れに分解して小さな肉片の群れへと生まれ変わらせる。
咄嗟のことで動けなかった彼の部下達は、隊長より僅かだけだが長生きだった。
とはいえ、長く生きれることが幸せと決まっているなら、人生はもっと幸福の色に包まれた美談としてだけ語られるはず。
彼らは事態の急展開を前にして、絶望し、これから自分たちが殺されるのだ、死ぬのだという恐怖と自覚を満喫させられる時間的猶予を与えられてしまった上で、すぐに隊長の後を追わされることになる。
『お待たせしました! ユマ様、早くこちらのコクピットへッ!!』
「グラーフくんかっ、今行く! 待ってて!!」
見慣れぬ蒼色のMSから放たれた、《頭部イーゲルシュテルン・ポッド》の弾雨を浴びせられて全滅させられた治安維持のザフト軍歩兵部隊には見向きもしないまま、下方から飛翔してきて落下中だった相手の足場となった機体をホバリングさせながら。
右手の平に乗っかって回収されていた女の子は、身軽な仕草でハッチの開かれたコクピット内へと滑り込むと、最初から乗っていたノーマルスーツ姿の人物から席を入れ替わるようにして配置を換える。
「状況はどう? 外の戦況はどんな感じになってるっぽい? 仮面のネオくん達はまだ無事なの!?」
「今は分かりませんが、俺がコイツを運んでくるときには有利に戦況を運んでたようです! ステラ嬢ちゃんたちも合流したみたいですし、そろそろ潮時じゃねぇかと副長から伝言です!!」
「・・・・・・そっか。まっ、妥当な判断だろうから仕方ない状況なんだろうけど・・・・・・」
自分用に調整された、大の大人や大柄な少年たちが使うのでさえ難儀しそうなスモールサイズのコクピットシートに深く沈み込みながら、『ユマ』と呼ばれた少女はモニターを動かして、頭部カメラのみを機体が向いている反対側に広がっている光景―――繁華街などの商業施設を映し出させ、
「コーディネイター相手の戦争なら、こういう時に数を減らしときたいところなんだけど――」
ボソリと一人、独白する。
それは彼女が、シェルターに非難しているであろう『民間人たちの虐殺』を望んでいる本心を物語っている独り言だった。
別に彼女は、遺伝子調整されたコーディネイターを忌み嫌い、コーディネイターであれば誰でも殺せと叫びたがる、《ブルーコスモス思想》とか名乗ってるキチガイ快楽殺人趣味に染まるつもりは全くない、正常な趣味の持ち主のつもりだったが、一方で現実的な彼我の勢力差を分析できる目も持っているつもりだ。
種族全体が高いスペックを持って生まれてくるコーディネイターたちは、たとえ訓練期間の短い徴兵されただけの一兵卒でも、ナチュラルの正規兵並みの能力を発揮することができてしまう、数の不足を比較的容易に補うことが可能な存在。
全戦で戦っている兵士が数を減らしても、後方で支えている支援要員がすぐにでも最前線へと送られて穴を埋めることが出来てしまえる、凄まじく厄介な回復能力を持った種族だけで構成された勢力がプラントでありザフト軍なのだ。
単純な戦力比率だけで比べ合った数字なんかに意味が出来にくい敵であり、回復力の高さと補充された兵士同士のスペックが違いすぎる者同士という関係性では、まともな戦争なんか出来やしない。
ただ・・・・・・そんなコーディネイターだって、なにも産まれたときからMSを操れる身体で母親のお腹から出てくる化け物ではない。
産まれてから数ヶ月で少年に成長して、一年もしないうちに青年まで至るような伝説上の生き物でもない。
平均的スペックが高いコーディネイター社会において、成人と認められる年齢はナチュラルより大分低く、10代半ばには大人と同等に扱われることが可能になるが・・・・・・その年齢に達するまでに『10年と少しの時間が必要』という点ではナチュラルと同じ条件。
なら大人よりも、コーディネイターの子供たちこそ殺す方が効率的だ―――。
ユマと呼ばれた少女は、そういう風に考えるタイプの存在だった。
あるいは、そういう風に“考えてしまうモノ”に生まれ変わってしまった存在と言うべきなのか。
コーディネイター社会では、今のところ出生率の低さが問題になっていると聞く。
なら別に、大人でベテラン兵のコーディネイターたちを大勢殺さなくても、幼いコーディネイターの子供たちばかりを殺戮した方が、プラントというコーディネイター国家を滅ぼしたい場合には有効じゃないか?と少女的には考えてしまう。
放っておいても、大人のコーディネイターは歳を取って老人になり、出産機能は今よりもっと低下していく。
今すぐ殺さなくたって、そうして少しずつ『産める数』を減らしていけば、将来的には一つの種族を絶滅させることができるようになるんじゃないだろうか?
大人たちだけが多く残って、子供たちが一人もいなくなった種族の社会には、数十年後は老人たちだけしか残っていない種族の社会に変わって、いずれ滅ぶ。
そうした方が、今ガンバッテ殺し尽くすより楽だし、犠牲も少なくていい気がする・・・・・・そう思う。
幸い、今の自分たちは所属不明の武装勢力という立ち位置になっている。
この場で何をして、誰を殺しまくったとしても、一応の名分は立つし、国際的には何の証拠もない海賊行為だとでも無関係を主張するのは不可能じゃない―――でも。
「ですが、ユマ様。それでは戦略が根底から―――」
「分かってる、ちょっと思っただけだよグラーフくん。
私は、“彼女”に嫌われちゃいそうな事やる気ない、いい子だからダイジョーブ♪ あはッ☆」
一つ笑って、彼女は愛機を反転させると一目散にミネルバの後を追って追撃戦を開始する。
現実問題として、そこまでやってしまえばプラント側とて証拠だなんだと言っていられないだろうし、国際法を無視してでも感情的な理由で地球との再戦を決断させるには十分すぎる【第二次ユニウス・セブンの悲劇】になりえるだろう。
どーせ選びようがないし、実行できないことは最初から分かり切っていた妄想だったのだ。
理屈だけの計算上でなら有効に見える作戦案も、いざ実際にやってみたら敵味方が思い通りに動かなかったせいで台無しに、なんていう展開は学校で教えられる歴史上の出来事にもごまんとある。
コッチの考えた都合のいい計算通りに相手方も動いてくれるに決まってる前提で実行されるバカ愚行を、自分が再現してバカの後継者になってやる義理は彼女にはなかった。
彼女が義理立てして、恩を感じて、勝利のためなら何でもしてあげたいと思っている人は、今の虐殺を喜びそうなオカマっぽいキモ男じゃない。別のもっと素敵な相手だ。
こんなところで火遊びして、思い人に迷惑かけるのだけはイヤだった。
――それに
「“証拠はない”とか“先に撃ったのはアッチだ”とか。
そんな言い逃れの屁理屈が、家族を亡くした人には通じないって教えてくれた人を、私はもう知ってるから。
だから私は、やらない。有効かも知れなくても絶対に・・・ね」
つづく
*今作版の設定説明。(書き途中なので敢えて情報制限中)
【ユマ】
今作主人公の名前で、シンの妹「マユ」の死体を蘇らせた死人の兵士。
「マユ」が反転したから「ユマ」
【UAM(ユーマ・未確認生命体)】や、漢字名での【夕麻(ゆうま)】「夕暮れ・逢魔ヶ時」なんかの意味も付与できるようにしたかったもの。
朝と夜の間の時間帯としての『夕』という字を伸ばせば使える名前にすることで、「悪性変異はしたが、完全に向こう側にはなっていない」とかの『間』の意味を持たせたかった。
――また、今話で存在がほのめかされた『彼女』と絡めた設定ネーミングになる予定。
実はマユは、死体からウィルスで復活したとき、死んでからの時間経過で脳細胞の幾つかが半ば死んでしまった後だったため、記憶障害があった時期がある設定。
その時じ、自分の『生前の名前』を正確に思い出すことができなかったのを耳にした相手が、聞き取った単語でつけた名前が「ユマ」
そして、今の自分は「ユマ」であって「マユ」ではなく、「マユが死んでユマが生まれる生贄になった」と解釈している設定でもある。
ただし、生まれるためにはマユが必要だったことを認めている設定でもあり、見方を変えれば今の自分にとっての「母親」がマユだったと思ってもいる。
アンデット主人公なので、色々とダーク系やホラーな設定を採用したかった作者。