単に他のデスティニー作書いてるから応用しやすいってだけなんですが、偏りは気になるんで次は何とか出来るよう意識してみますね。
プラントの軍事工廠コロニー《アーモリー・ワン》から奪取された新型MSの逃走を阻止せんとするザフト軍防衛部隊と、侵入者たちの母艦と思しき所属不明の戦闘艦との戦闘は、強奪犯たちのコロニー外への脱出を許してしまったことで、戦いは第二段階へと移ろうとしていた。その寸前にあった。
そんな中。
敵味方が入り乱れ合う、混迷の《アーモリー・ワン》へと人知れず接近してくる、とある物体が存在していた。
それは小規模サイズの隕石だった。
コロニーへの衝突コースではなく、危険視するほどの接近速度でもなく、仮にぶつかった場合でも甚大な被害が出るほどの物量すら持ってはいない。
平凡で無難などこの宙域でも見かけられる、アステロイドベルトからでも流れてきたのだろう極普通の、取るに足らない通常の“石っころ”
だが、宇宙に浮かぶ巨大な密閉空間という特性から、この手の危険にコロニー住人たちは過剰なまでに敏感だ。まして、あの『ユニウスセブンの悲劇』を経験した後となれば尚更に。
普段であれば、危険はないと判断された隕石だろうと、その質量と軌道コースから『万が一の危険性』が優先されてコロニー外壁に設置された迎撃ミサイルが発射され、一定距離まで近づいたデブリは全て事前に排除されるのが、コロニー時代の常識的対応。
だが今は、潜入した工作員たちの破壊工作によって、外への警戒の目が多く潰されていた《アーモリー・ワン》は反応が遅れていた。
発見して警告する者もいるにはいたのだが、この現状で優先事項は低いと判断されて後回しにされ、誰の意識からも昇ることがなかった存在。
それはつまり――隕石の中に潜んでコロニーへと接近してくる『異端者たち』の存在に、《アーモリー・ワン》で戦う者に気付いた人物は誰もいなかった。――という事になる。
「光る物三つ。左35度。上下なし。距離2500」
「識別から見て、ネオ・ロアノーク大佐専用機《エグザス》とザフト軍の《ザク》残る一機は不明」
「コロニー外壁の一部で閃光が確認されてから45秒が過ぎました。《ガーティー・ルー》は一旦後ろへ下がった模様」
小惑星の内側に潜んだまま接近してくる者達の間で、会話が交わされ合っていた。
彼らがいる場所の風景は、一見《ガーティー・ルー》の艦橋を一回りコンパクトにしたものと酷似している。
オペレーター席の位置も、CICの管制官席も、オブザーバーとして同乗できるよう艦長席の隣に設置された指揮官席までもが、同型艦としか思えないほどに酷似した配置の、だが全てのサイズが原型艦の半分程度しか持っていない。
そんな船の艦橋と思しき空間に、野太い男の胴間声が――だが声音には若さが滲む青年の声で、副長席から指示が飛ぶ。
「ユマ様へのMSは!?」
「いま反応を確認しやした! ニーベルの奴が機体を届けるのに成功した模様ですッ!!」
「――よーし! せっかく隕石に偽装して、ここまで接近してきたんだ。派手にドンパチを楽しみに行こうじャねェか。なぁ、オイ?」
それは、『バルーンダミー』と呼称されている偽の隕石だった。
特殊な合成樹脂を素材として、遠目からは隕石に見えるよう偽装された、だが実際には中身がガランドウの収縮可能な入れ物を、戦闘艦の周囲にまとわせることで敵の目を欺くために造られた新技術による産物だ。
表面と内部に潜んでいる戦闘艦との間に広がるスペースには、核分裂の阻害と電波攪乱をするNジャマーではなく熱量感知を阻むためノイズを撒き散らせる細工が施されている。
完全に存在を秘匿するのではなく、わざと複数のノイズを感知させることによって『計算された人工物が発する反応ではない』と敵に誤認させることを目的として開発された物。
秘匿兵装だったソレを途中から使用して航路から外れ、コースを大回りして《アーモリー・ワン》の背後へと回り込むと、ガーティ・ルーを追って出撃してきた敵を挟み撃ちするため彼らは参戦する時期を今の今まで計っていたのである。
「まもなく、主砲射程圏内に入りま―――敵艦発砲のためチャージを確認! 射線から見て標的は《ガーティ・ルー》!!」
「させるかよォ! さっさとコッチもぶっ放しちまえ! 発砲と同時に偽装をパージ! 全艦総力戦用意ッ!! グズグズしてんじゃねぇぞボケが!!」
その内部で、野卑た獰猛な笑みを浮かべて艦橋内を見渡す副長の言葉に、それを聞かされたクルーたちが好戦的な笑顔と、品のないスラングで唱和を返していた。
一見するだけで、規律あるマトモな軍隊とは到底思えない、傭兵部隊とでも言われた方が余程に信じられるほど統一感が感じられない、野蛮な者達が乗った船。
だが彼らには、一つだけ共通する特徴があった。
クルーたちの年齢が、若すぎるのである。
ナチュラルたちで構成されている『地球連合軍』の軍服をまとい、悪ぶった態度や言動で大人びた外見に見せかけているが、その容姿から彼らクルーの年齢が少年兵に類する者だけで編成されている異形の集団。
コーディネイターを否定する大西洋連邦を中心とした地球軍に、なぜ彼らのように子供たちだけが艦の中枢を担う部隊がいるのか?――そんな疑問を見る者に抱かせるであろうことは確実な戦艦から放たれた、戦闘に介入するための第一射。
《ガーティ・ルー》と同じく艦種に固定される形で装備された、だがオリジナルより一回り口径と威力の乏しい《ローエングリン砲》による巨大なビームの束が、偽装を解いた直後の彼らの艦から発射されて宇宙を走り抜ける。
それは奇しくも、ザフト戦艦ミネルバが謎の敵MAに苦戦する味方機を支援するため、敢えて敵母艦を砲撃することで『帰る家をなくす危険性』を示唆するため発砲しようとした瞬間でもあった。
『な、なにッ!? なんなのアレはッ!』
『ミネルバが・・・・・・敵に攻撃されてるって言うのかよ!?』
シン・アスカとルナマリア・ホークは、自機から見て斜め後方に見えたビーム光の軌跡と、レーダーに映し出された母艦の反応を示す位置から導き出される結論に、同じような悲鳴を同じような状況下の中で発することになる。
正面にいるはずの敵と相対している母艦を狙った測背からの攻撃! 敵は最初から二手に分かれて挟撃をしかけてきていたのか? アーモリー・ワン防衛部隊は何をやっていた!?
自分たちの『帰る家』を直接的に砲撃された彼らとしては、味方の不甲斐なさに歯ぎしりしたい思いに駆られるのは当然の状況。
だが、如何に予想外の方角から新たな敵艦が現れたとは言え、シンたちが援護に行くことはできなかった。
彼らもまた、強敵を相手に攻撃を受けている最中だったからである。
全方位から死角を突き、思わぬ方向からビームを飛ばしてくる恐るべき機能をもった、新型MAからのオールレンジ攻撃を。
『くぅ・・・っ! なんなんだよ!? コイツの攻撃はぁッ』
『オールレンジ攻撃!? ドラグーン装備の敵機だって言うの! そんなのどうやって――きゃあッ!?』
『さぁ、奇妙な動きをするパイロットたち諸君! その機体もいただこうかッ!?』
聞こえるはずもない、通信を介さぬロアノークから言葉と共に放たれ続ける無数のビーム攻撃を前にして、シンとルナマリアは思うように動けぬ現状に焦りと苛立ちの叫びを上げる。
奪われた三機の新型MSを追って宇宙へと飛び出した彼らの前に、おそらくは追撃を阻むため新たに現れた一機の機体。
その形状は、地球軍がナチュラル用のOSとMSの開発に成功するより以前に主力兵器としていた宇宙戦闘機モビルアーマー、その進化形と思しき兵装。
だが性能は段違いだった。
それもそのはずで、シンたちが敵機を捉えてライフルの銃口を向けたかと思えば、まったくの別方向から複数のビーム射撃が飛来してくるのだ。
慌てて攻撃があった方角にモニターを向けても敵の姿はなく、レーダーに映る反応もない。
この敵に対してシンは、その類い希なる操縦センス以上に『勘』の良さによってギリギリで回避することに成功していたが、実力で劣るルナマリアは敵からの補足できない攻撃にさらされ、一方的に翻弄されることしか出来なくなりつつある。
『チィッ!! こいつ、馬鹿にして! 私だってこれでも【赤】なんだからッ!!』
『ほぅ?』
彼女が乗る赤い《ザク・ウォーリア》が、一瞬だけ目視することができた敵機と攻撃手段である“ナニカ”に向かって『MMI-M633ビーム突撃銃』を乱射しながら、状況打破のため無謀にも接近しようとして阻まれ、再び押し戻されながら歯嚙みさせられる光景を目にしながら、敵MS《エグザス》の乗り手ネオ・ロアノークは短く感嘆の声をつぶやく。
『よく動く・・・・・・大した腕とも思えん相手なんだがねッ!!』
皮肉気な口調であったが、まごう事なき賞賛が彼の声音にはあるセリフだった。
実際、士官学校で同期だったシンと比べてルナマリアのMS操縦技術は劣るところがあり、射撃の成績でもレイには遠く及ばず、接近戦でこそ彼らとも競い合うことが可能だった。そういうタイプのMSパイロットが彼女だ。
そんなルナマリアが機体各所を被弾しながら、曲がりなりにもオールレンジ攻撃を駆使する敵エース機相手に戦い続けることが可能だったのは、偏に『射撃の下手さ』が理由だったのは皮肉と評すべきなのか何なのか。
射撃下手を自覚している彼女は、撃っても当たらぬ中距離での応戦をさっさと諦めてしまい、微かに視認できた敵機に向かって突撃銃を乱射しながら無謀にも突貫していく戦い方を連発させていた。
これが結果的にネオ・ロアノークの予測を裏切って、暗い宇宙空間を高速飛行するビーム砲を備えた小型兵装ポッドによるオールレンジ攻撃の火線を幾度もの回避に成功してしまっていたのが、この時まで彼女が生き延び続けていた理由だったのだ。
敵機が、自身の得意とする接近戦武装をもたない高速射撃戦特化のMA《エグザス》だったことから、やむなく採っていた戦法が結果論として敵の意図を挫いていたのである。
僚機であるシン・アスカの《インパルス》が「勘」を重視しながらも、動きに合理性がある機体同士でのチームだったことも予想を難しくさせた理由でもあっただろう。
『ルナッ! 大丈夫か!? そんな機体で無理するなよッ』
『くぅっ! できるできないって言ってる場合じゃないんでしょう!? だったら――!!』
だが、そんな『偶然の回避』では当然ながら遠からず限界が訪れる。
予想外の動きで回避できているとは言え、ダメージは着実に蓄積されていたし、被弾箇所が増えることはあっても減る可能性は皆無なのだ。
徐々に、だが確実に、動きが制限される要素が増えていくルナマリアと、彼女との連携が取りにくくなっていく回数と、援護するために必要な機動とが反比例の窮状へと追い詰められていくシンの《インパルス》
そんな状況下で、モニターの一角に映し出された母艦の危機である。
彼らとしては焦らざるを得ないし、焦りが動きを更に固いものへと変えてしまっていく。
しかし、この攻撃によって最も衝撃を受けさせられていたのは、彼らではない。
何時どんな時代状況であろうとも、その被害で心理的衝撃を最も強く受けるのは、『被害者たち自身』なのは当たり前のことなのだから。
その被害者たちのトップを務める二大巨頭、ミネルバ艦長タリア・グラディスと、プラント議長ギルバート・デュランダルは、新たな敵発見と発砲確認の報に驚愕させられることになる。
「ランチャーエイト1から4番、『ナイトハルト』装て――あっ!
新たな敵艦の反応を確認! 位置は、敵艦発砲ッ!!」
「なんですって!?」
「なんだとッ!!」
タリアからの指示に従い、シンたちを援護するため『敵の帰るべき家』へと攻撃用意を調え終わる寸前にあったミネルバの艦橋内に、索敵を担当しているグリーンの男性兵士バート・ハイムからの警告と報告が響いたとき、タリアとデュランダルは同時に驚愕の叫びを上げることになる。
―――やられたッ!!
その凶報を耳にした直後に、そう思って心の中で歯嚙みしたのはタリアだった。
先ほどニアミスした識別不明の機体が、新たに姿を現した敵艦から発進してきた艦載機だったことを、今になってようやく思い至った自分の迂闊さを痛罵したのだ。
この瞬間まで敵が、当初に確認された襲撃者たちと目前の敵艦しか戦闘に参加する気配が見られなかったため、彼女は敵が単艦で奇襲をかけてきた特殊部隊であると信じ込んでいたのである。
事実上の国境線付近とはいえ、ザフトの勢力圏内でもある宙域深くまで複数の敵艦が潜入可能とは思えなかったという事情もある。
だが現実に敵艦は二隻いたのだ。
それに柔らかい横腹を突かれて挟撃の危機に陥っている現状にある。
どうやって敵がそれを可能にしたかは分からないし、今の自分たちが考えることではないが、対処することと対処する策を考えるのは自分たちの役目である。
タリアは即座に決断して、艦長席脇にあるインカムを取る。
「レイのザクは! まだ修理終わらないの!?」
『いま修復完了しました! いつでも出られますッ!!』
「それなら、すぐに出撃させて新たな敵艦への備えに! ショーンとデイルの《ゲイツR》も準備急いで!」
『りょ、了解ッ!!』
MSハンガーの整備班との通話が終わった直後に、艦体を大きな衝撃が襲った揺れに悲鳴と怒号が艦内に響き渡る。
通信を入れるより先に命じておいた回避行動に従って操艦した結果だった。
おかげで敵艦からの初撃回避に成功したが、それは同時に正面の敵艦――今し方タリアが『ボギーワン』と名付けた正式名称不明の襲撃者たちの母艦とは、先程よりも距離が開いてしまうことをも意味する条件でもある。
元より最初の敵艦ボギーワンの目的は、ザフト軍の新型を奪って地球まで逃げおおせること。新たな敵艦の目的はボギーワンの逃亡を支援するため追っ手を足止めすることなのは、誰に言われるまでもなく自明の理。
その為の攻撃を優先しているのだ。ミネルバを沈めることに拘って、大魚を逃がしてくれるほど安っぽい相手ではない。
『レイ・ザ・バレル、ザク発進する!』
「コースクリアー。バレル機、ザク、どうぞ!」
「アーモリーワン内部から発して、こちらへ向かう光点を確認しましたッ。識別反応なし、速度から見て先ほど掠めた新型かと思われますッ!」
ハンガーからの通信で、レイが敵艦からミネルバを守るため出撃するコールが響く。
それと時を合わせるように、つい先程スィングしていった敵の新型も自らの母艦と挟撃するためか再びミネルバへと向かって急速接近してくる光景がブリッジの窓からでも見ることができていた。
しばらくして、ミネルバから白銀の機体が飛び立っていく姿が見受けられ、その白銀の光へと向かって直進してきた青白い光が激突して火花を散らし、互いに複雑な軌跡を描きながら一定距離を保ったままMS戦を展開させていく。
それら一連の光景を横目で睨み付けながら、プラント議長ギルバート・デュランダルは予想していなかった『新たな敵艦接近』という事実に、激しい苛立ちと不快さを抱かずにはいられない。
(馬鹿な・・・・・・聞いていないぞ、敵艦の二隻があるなどという話は。
そんな艦の情報は、どこの網にもなかったはず。それなのに何故・・・・・・?)
無言のまま、彼は沈思黙考して己の綿密に立てたプランを揺るがしかねない『集めた情報と整合性の取れない敵艦』という存在の実在に、計画の変更が必要か否かの判断を下しかねていたのだ。
彼が聞かされた『新たな敵艦出現』の報告に驚愕の声を上げたのは、その存在が『有り得ないこと』を彼は知っている立場にあったことが理由だったからだ。
アーモリーワンを襲撃してきた《ボギーワン》――大西洋連邦所属の特殊偽装艦《ガーティ・ルー》はいい。
情報筋を通じて、運用する部隊と主要クルーの『関連施設』に至るまで、詳しい把握は既に完了している後なのだ。
さすがに具体的な襲撃による戦闘で、誰が死に、誰が生き残れるかまで正確に察知して動くのは、神ならぬ人の身で不可能な御業ではあったものの、襲撃の目的と目標による条件付けで危険を制御するのは難しいことではなかった。
まして、『漏洩させた情報に存在しない』『唯一の奪うべき新型MS』が敵側に存在していた・・・・・・という条件がタイムリミット付きの敵地潜入作戦中とくれば尚更だ。
(――しかし、形状が酷似した特殊偽装艦の二番艦があるというのでは、話が違う・・・)
条約違反の《ミラージュ・コロイド》を戦艦レベルで搭載した特殊艦の二番艦――そんなものを造れる資金も人員も建艦素材も、先のユニウス戦役で分裂し弱体化した現在の地球各国に残っているはずもない。
その制限は、地球最大勢力のトップに“彼”が返り咲いた程度で変われるものではない。
仮に“彼ら”が手と金を貸してやったところで同様だろう。
先の大戦終結の混乱によって、せっかく手にした地球国家全体の盟主としての座を大西洋連邦は失って、《JOSH-Aの虐殺》より前の段階まで逆戻りしてしまっていた。
南アメリカ大陸では『切り裂きエド』を始めとする旧エースたちを中心とした独立運動が盛んに勃発し、ユーラシア西側の一帯では表面化していないだけで不満が限界値に達する寸前に陥ったままだ。
すでに地球上は、市場としての価値が大幅に目減りしている状態にあるのだ。
戦火であちらこちらが燃え落ちて破壊され、大地が傷跡だらけになった老衰惑星の内側だけに閉じこもったままでは、出来ることに限界があるのだ。彼らに前大戦時ほどの力など残っているはずがなかった。
――だが現実に、敵の二番艦は実在する。
何らかの力が働いた結果、デュランダルが把握していない情報の変化が地球内で起きているという証として。
(これを無視して駒を先へ進めることはできない・・・・・・だが誰だ? 誰が私の書いた筋書きから外れた、別のシナリオへと世界を導こうとしている?
少なくとも、“彼”ではない。おそらく“彼女”でもないだろう。では一体、誰が――)
それが可能な者達の候補が限られすぎている状況の中、戦闘指揮に口出しするのは慎むべき立場にある彼は無言のまま、自らの果たすべき役割に徹し続ける。
世界を導き、次のステージへと進めるための水先案内人としての役目に。
自分たちだけでは、すぐ道に迷って狼に襲われるだけの、哀れな羊たちを平和で安全な地へと導く羊飼いとしての役目こそ、自分の生まれ持っていた果たすべき使命なのだから――
一方で、傍観者に徹することを己の役目として課したデュランダルと異なり、敵と殺し合い撃ち合うことが役割として与えられている者達の果たすべき職務は、未だ混沌とした状況から抜け出すことができていない。
ビシューン!!
互いの機体から発射し合ったビーム光が、無限の闇に飲まれて消えていくのを背景に置き、白と青の二色の機体が互いの真横を擦り抜け合ってビームを撃ち合う!!
「なんだ!? この敵の動き、普通の敵ではない・・・っ」
白色のMS、パーソナルカラーである純白に彩られた《ブレイズ・ザク・ファントム》を駆るレイ・ザ・バレルは、完全に機体を制御している敵パイロットの技量に感嘆と驚愕とを声に出さずにはいられなかった。
量産機とはいえザフト軍の新型MSと、互角のドッグファイトを演じられるOSと性能をもった機体、その性能に振り回されることなく臨機応変に反応して見せるパイロットの判断能力。
その全てが、通常のナチュラルでは有り得ないレベルを誇っている謎の敵。
ナチュラル用のOSを使ってパターン化された動きしかしない地球軍の一般兵ではない、前大戦で投入されたという薬物強化兵士たちの狂的な戦い方とも違っている。
不審な点は、それだけではない。敵機の見た目そのものも異様だった。
青色に塗装された初めて見る敵の機体は、言うなれば《ストライク・ダガー》と《モビル・ジン》を融合させたような歪な形状をもつ存在だった。
バイザー型の頭部や、軽装のアーミー服に似た機体のデザインなど、ベースとなる部分は間違いなく連合製MSのものなのだが。
バイザーの奥に光る赤い光点である《モノアイ・センサー》や、湾曲を多用する各部装甲の形状にはザフト製MSの匂いを感じさせるものが確かにあるのだ。
教条的な思想結社であるはずの《ブルーコスモス》が大きな影響力を誇っている大西洋連邦傘下の地球軍MSには、現れづらいはずの機体の特徴。
それに加えて、この技量だ。レイとしては警戒を強めずにいられる理由は何一つとして見出せるものではない。
「今こいつを落とせなければ、ギルの邪魔になる・・・っ。ここで仕留めさせてもらう!!」
「一体なんなの、コイツって!?
妙にザラッとして、まるで生きてる人間と別の人が一緒くたになってるみたいで、気色悪い・・・・・・キモいッ!」
一方で、彼と対峙する青色の機体、地球軍製の先行試作型量産機《グリフィン》を操る少女『ユマ』は、持って生まれ“変わらせられた”特殊能力によって感じ取れる相手からの気持ち悪さに表情を歪めている。
普通の生者には感じられないナニカを感じさせられながらの戦闘で本気が出しづらい上に、不快感に耐えながらの操縦を余儀なくされることに苛立たされていたからだ。
その不快感のせいで鋭敏なセンスを妨げられ、全力を出し切れていないことが、エースと思しき相手とはいえ量産機の敵に彼女が手こずる足枷となっていた。
あるいはレイが、ガーティ・ルー隊の指揮官機を相手取っていたなら『生まれの事情』によって、相手と似たような感覚を感じさせられ苦戦する展開となったかも知れないし、千日手となっていた可能性もある。
しかし彼は、幾つかの偶然によってアーモリー・ワンを脱出した3機の新型を追うことができず、結果としてミネルバ防衛のため別の隊長機と1対1のドッグファイトを繰り広げる役を担って今に至っている。
たとえそれが運命のイタズラであれ、あるいは偶然であろうと、戦場では結果が全てだ。どんな理由や経緯があろうと、敵に殺された奴は死んだ敗者で、死んだ人間は生き返れない。
それが戦争の全てで全部で、例外はない。――本来の命なら絶対に。
その数少ない、あるいは唯一かもしれない例外こそがユマという『名を与えられた少女』だったが、彼女はそんな自分を『特別な例外』と考えることに抵抗がないタイプのニンゲンだった。
オマケに自分専用にカスタムされた機体とはいえ、今はコクピットに2人乗りときている。
「グラーフくん! 身体の方、まだ大丈夫そう!? エチケット袋いるっ!?」
「だ、大丈夫ですユマ様・・・お、オレのことはご心配な、く―――ウェェェ・・・」
「時間ないってことは分かったから我慢して! 男の子でしょ!!」
「りょ、了解ぃぃ・・・・・・」
距離が開いて、一瞬だけ生じた空白時間を背後にとりつけた応急処置の座席で身をかがめている、機体の運搬係となってくれた部下の一人に声をかけ、あまり良くない状態にあるのを確認してから内心で小さく舌打ちする。そして少しだけ「オェッ」となる。
彼女が今使っている機体は、他の部下たちと同じ量産機でしかなかったものの、『普通の人間ではなくなった自分』のために専用の調整がされているだけでなく、出力でも同型機より30パーセント向上させた特殊エンジンを搭載されている。
その代償としてバッテリー消費の激しさが通常のものとは比べものにならないため、普通のパイロットたちでは欠陥品にしかなれない代物になっていたが、彼女は操縦技術と『素性の特殊性』によって通常機と同じ運用を可能になさしめた。
・・・・・・とはいえ、今や『ニンゲンじゃない自分』だったら問題ない奇抜な高速機動でも、一緒に乗って同じコクピット内で振り回されている部下の青年パイロットまで大丈夫とは限らないのは当然の反応ではあったのだ。
結果論として振り回している当人としても、『手伝いを頼まれた依頼主』から支援を頼まれただけの任務達成のため、部下の胃をシェイクさせて血反吐ぶちまけながら死体にさせたい願望はない。
「――襲ってきてる人にお尻を向けるのは、女の子として癪だけど・・・・・・今日のところは見逃してあげるしかないか」
そう割り切ると、潔く撤退をおこなうためスイッチを押す。
『思ったよりイイ腕してるね、エイリアンッ』
「っ!? なんだ・・・モールス信号だと・・・?」
突如として、敵MS頭部のバイザーの中で妖しく輝いていた光点が点滅をはじめて、一定パターンを取っている明滅のタイミングから、それが敵パイロットから自分への通信を用いない交信手段であることを察したレイは、その意図を見抜けず困惑させられながらも動きに影響する要素は微塵もなかった。
敵にどのような意図があろうと、どんな理由で行っている行動だろうと、『敵は敵』だ。敵でしかない。
敵は倒さなければ、ギルの身に危険として迫ってくる。彼の邪魔をする者を自分は決して許すつもりはない。
『そっちから奪った機体を返してほしければ――』
「・・・・・・ッ」
相手からなにかを求めてくる信号に応えることなく、躊躇いを覚える心は欠片もなく。
残り少なくなった残弾数の突撃銃を片手に持って乱射しながら、残った片手でビームトマホークを抜き放ち、機体を加速させて動きを停止させて交渉を求めてきた敵機に向かって猛スピードで加速していく。
撃つのを躊躇えば、撃たれる。それは弱さだ、それでは何も守れない。
自らの役割を果たすため、目指すべき目標に至るための道のり。そこに取引が入り込む余地はない。
相手が自分との交渉は可能だと信じ込む、敵の甘さは相手の自由だが、それを尊重してやるべき義務も理由も、自分たちに存在しているはずはないのだから!!
「もらった!!――なにッ!?」
『おっと、ドンピシャ。なんちゃって☆』
相手の予想を裏切り、突撃銃を乱射しながら急速接近してくるザクに、狼狽えたような動きを見せていた相手の機体は、だがレイがトマホークを大上段から切り下ろした瞬間に高加速して、別人のような動きで後方へと退避する。
自分が誘い込まれたことを悟ったレイは、内心で舌打ちしながらも取り乱すところは少しもないまま冷静沈着に機体を操作して、適切な機動を実行させて――いこうとしたのだが。
「な・・・っ!? あれは、ハンドグレネイド――ッ」
敵機が飛びすさって、自機が振り下ろしたトマホークの刃が漆黒の虚空を切り裂くだけに終わってしまった、一瞬前まで相手が立ち止まっていた空間。
だが、その場所には罠が仕掛けられていたのである。
近くを飛来していた小さな隕石の裏側に、人間から見れば大型の爆弾が、だがMSからすれば手投げ式のグレネード弾程度のサイズしかない金属の塊を見いだしたレイは、素早く冷静に、だが即座に場を離れさせるためスロットルを大きく退いたが、そのタイミングは僅かに遅い。
――カッ!
と空気がある地上でなら爆音を轟かせたかも知れない白色の光の本流が、一瞬だけ全てのモニターを占拠して自動的にフィルターがかかるまでのコンマ数秒にも満たぬ時間をレイにもたらす。
その数舜の隙を、レイは己の未熟さを恥じ入ることに費やすこととなる。
グレネードの爆発に巻き込まれて損傷させられた――訳ではない。大した爆発が起きなかったからだ。
もともと手投げ式のグレネードは、地上戦と違って空間戦闘では使用方法が極めて限定的にならざるを得ず、要塞の外壁破壊や艦船相手にしか使い道などほとんどない特殊な武装。
それ故にレイは、隠れるように設置されていたグレネードを目にした瞬間に爆発力の大きさだけを警戒して回避行動をとっていた。
だが敵が置いていったグレネードは、ザクが搭載している各種弾頭のどれとも異なり、破片を周囲に撒き散らしながら炸裂する命中率に重点を置いた、地上戦でこそ効果を発揮できる類いのものだったのだ。宇宙空間でのMS戦ではまったく使い道がない。――そのはずだった。
―――ガガガガッ!!!
やや大袈裟な回避運動をとってしまったレイ機に対して、手持ち武装の残弾すべてと《イーゲル・シュテルン》を牽制のために連射し、撃ち尽くした銃器を投げ捨てると機体を反転。
いっそ気持ちよいほどの逃げっぷりで、後ろも見ずに撤退しようとする敵機に対してレイは再度の追撃をかけるため機体を加速――させようとする。だが。
――ガクンッ。
「な、なに・・・ッ!?」
上半身が前のめりのような姿勢に倒れ、下半身だけが前へ向かって進もうとする不自然な体勢へと強制的に変えられてしまい、思うように機体が動かなくなっている異常に彼は気付く。
「バーニアが損傷させられたのか・・・・・・厄介な」
ここまできて敵の攻撃の真意を悟ったレイは、やむを得ず追撃を諦めて母艦に帰投するしかない事実を受け入れるしかなかった。
敵にダメージを与えるのではなく、バーニアの一つを破損させられるだけでも、全速撤退を阻止しようとする追っ手の足を止めさせるには彼女にとっては十分すぎるハンデとなり得る。
たった一発。たったの一カ所。
それを故障させるためだけのために先の攻撃全てがあった。そんな手を使ってくる敵を相手に、万全の状態ではなくなったザク一機で追撃は不可能だ。
見ればミネルバからも、信号弾が宙に向かって放たれて光を発している。
帰還信号の色だった。こちらもまた引き時である。
「・・・・・・だが、あの敵は危険だ。ナチュラルとは思えない、ギルの話にもなかった相手・・・・・・次は仕留めさせてもらう」
感情を交えぬ声音と表情で、その裏側に深くて暗い情念が混じった様々なものを含ませながら――。
それと時を同じくして、シンとルナマリアが苦戦させられていた強敵ネオ・ロアノークとの戦闘も終局をむかえている。
「帰還信号だと!? ――チッ、さすがに遊びの度が過ぎたか・・・ッ」
エグザスのコクピット内で、母艦《ガーティー・ルー》から打ち上げられた複数の色をした光球をモニター内に確認したネオは、自分が強敵たちとの戦いに時間をかけすぎてしまった失態をようやく悟らされることになる。
視線をやった先にある、時刻を示す数字表示と遠目に目視できる母艦と敵艦の小さな光点。
それらから類推した計算として、明らかに作戦予定のタイムリミット限界を大幅に超過してしまっており、他の拠点群から増援が発進されていると予測された時間寸前まで差し掛かりつつある。
これ以上この宙域に留まり続けるのは、リスクが増すばかりでメリットとなり得る要素は何一つとして見出せるものは何もない。
見れば、既に敵の2機は満身創痍ではあるものの、《フェイズシフト》装備の白と赤で色分けされた機体は消耗しながらも健在で、互いを庇い合う機動をやめるような気配はない。
短時間で決着までもって行かせれる自信は、残念ながらネオにもなかった。
「チィ、欲張りすぎは元も子もなくすな・・・・・・撤退するッ」
未練を振り切り、きびすを返して母艦へと帰還するため一直線に飛んでいくエグザス。
自分自身も、敵の新型奪取をになった3人の少年兵たちも、情報になかった『4機目の新型』という予定外のアクシデントによって計画表とタイムスケジュールは大幅に遅延させられたものの、コチラも『相手にとって予想外の援軍』により帳尻合わせができ、敵味方の配置としてはイイブンといったところ。
・・・・・・要するに、まだまだ逃避行の先は長いということだった。
ここで消耗しすぎてしまっては元も子もない。
『確か、『危なくなったら逃げる』だったかな? うちの御大将殿の座右の銘は。部下としちゃ素直に従っとくとしますかね。
フォローしてくれたアチラさんの援軍にも、義理を欠くわけにもいかんようだし』
「に、逃げていく・・・・・・? いや、撤退したのか・・・」
「た、助かったぁー・・・・・・」
軽口を叩きながら機体をとって返していくエグザスを駆るネオと違って、残されたシンとルナマリアの2人は惨憺たる状態に陥らされていた。
赤いザクは片腕と片足を半ばから失って、頭部も破損して完全修復までには相当数の時間が掛かることは明らかな、大破に限りなく近い中破という損耗ぶり。
シンのインパルスにしたところで、バッテリー残量は0まで残り僅かに迫っているまで追い詰められていたのだ。
敵が想定外の動きを繰り返すルナマリアのザクに、当たることもあれば外れることもある攻撃を繰り返し続けて、シンのインパルスに命中させられた攻撃回数をカウントしづらくなっていたことが結果的に幸いした形である。
もし敵があのまま攻撃を続行して、戦闘を継続していたなら30秒先まで持ちこたえられていたか否かは、彼ら2人にも保証の限りではなかったほどに。
ただ逆に言えば、『30秒は確実に持ちこたえられた』という事を意味しているのが2人の感慨であって、味方の増援が来るまで持ちこたえさえすればいい迎撃側としては必ずしも敗北を意味するものではなかったのも事実である。
それらの状況を鑑みて、ザフトの新造戦艦ミネルバ艦長タリア・グラディスは決断をくだす。
「バート、先の戦闘で得た情報をデータベースへと入力してちょうだいッ。
《ボギーワン》に続いて、新たに登録した敵艦を《ボギーツー》とし、これより本艦は奪取された新型MSの奪還ないし破壊を目的として、ボギーワンおよびボギーツーの追跡を続行する!!」
その決定を艦長席の斜め後ろで聞きながら、ギルバート・デュランダルは心中で賛同を返すと共に、自身のプランも予定を早めることを声には出さずに決定していた。
そして、二隻の逃亡艦と一隻の新造艦による長い旅路が――だが、互いにとっての「安全な航海」が始まりを迎えることになる。
長く安全な旅路の先になにが待っていて、ナニが“現在進行形で勃発している”のか。
それを知る者は敵味方すべてを合わせて、たった一人だけしかいない状態で・・・・・・命がけの鬼ゴッコは幕を開ける。
つづく