『戦記好きキラ転生』更新です。
他の作品も冬休みを利用して、できるだけ更新できるよう努力します。
「アスラン・ザラです! 通告を受け、出頭いたしました!」
運命の少女との再会を避けるため、ヘリオポリスを崩壊の運命から逃れさせることだけには成功していたアークエンジェルが、当面の目的地を決定して舵を切るべき方角へと船足を速めていたのと同じ頃。
彼らを追うザフト軍クルーゼ隊旗艦ヴェサリウスの隊長室で、アスラン・ザラは隊長であるラウ・ル・クルーゼから呼び出しを受けていた。
ヘリオポリス襲撃において、彼は待機命令を無視してミゲルたちを支援するため出撃しながら、ろくな活躍もせぬまま部隊は壊滅して一人だけ無傷で帰投してきた――その“らしくない失態”について釈明するためにである。
「君と話すのが遅れてしまったが、呼ばれた理由は分かっているだろう?」
「はっ・・・・・・命令に違反し、勝手なことをして申し訳ありませんでした!」
「アスラン・・・・・・」
部下の少年兵からの杓子定規で無個性極まりない官僚的答で答えられ、ウンザリさせられたという感想を態度と声に露骨に現させながら、クルーゼは短い呟きだけでアスランの“誤魔化し”を遮っていた。
「アスラン、あまり私を失望させないでくれると有り難い。そのような教科書通りの答弁を聞きたくて呼んだわけで無いことは、言わずとも理解しているはずだ」
「・・・・・・・・・はっ」
「無論、懲罰を科すつもりはない。だが、部下からの正確な報告がなければ有効な策をたてることは難しい。
事情があるのなら、話を聞かせて欲しいと思ったのだ。
そうでなければ、死んでいったミゲル達も浮かばれまい・・・」
その言い方と言葉の選定が、アスランに顔を俯かせ、強張った表情に唇を強く噛みしめさせる。
ラウは立ち上がって相手の傍らまで歩み寄ると、アスランの肩に軽く手を置いて
―――フッ、と。
相手からは見えない位置にある顔の口元に、愉悦に歪む笑みを小さく浮かべ、そして消える。
「・・・申し訳・・・ありません。思いがけないことに動揺してしまい・・・・・・実は連合から奪取し損ねた最後の機体、アレに乗っていたのは月の幼年学校で私の友人であったコーディネイターで・・・・・・まさか、あのような場で再会するとは想像しておらず・・・」
彼としては、“あの”パトリック・ザラの息子が、心の痛みで表情と態度を苦悶に歪ませる無様な姿を見れただけでも元は取れた心地になることは出来てはいたのだ。
所詮、死んだ部下達は赤の他人たちの寄せ集めでしかなく、『コーディネイター至上主義者』の子息達ばかり。
自分の『本当の種族』を知った途端に、殺しにかかってきそうなガキ共ばかりなのだ。死んだところで心の痛みなど感じるはずもない。
――だが、実際に聞かされた情報は、さすがのクルーゼをして驚愕させるに足るものだった。
「ですからどうしても、それが事実か確かめたくて・・・・・・あの機体に乗って戦っているのがアイツなのか・・・・・・本当に“キラ・ヤマト”なのかを確かめるために・・・・・・」
―――“キラ”、“ヤマト”・・・だと――ッ!?
その名と姓を聞かされた瞬間、クルーゼの両眼に超新星爆発のように激しい、だが不吉さを伴う危険な光がほとばしっていた光景を、素顔をおおった仮面は完全に相手の視界から隠し尽くし、察せられることは最後までなかった。
まさか、とは思う。生きていたのか・・・という疑念もある。
同姓同名の別人という可能性もあるだろうが、あの“機体を操って見せた力”は、“彼”でなければ整合性がつきづらく、“彼”であれば全ての現象に説明がつく。
―――だとしたら、許しがたいことだ―――
クルーゼはそう思い、自分が感じた“勘”の正体がなんであったか正しく理解させられる。
忘れられない名であり、忘れがたい忌まわしき姓。
自分が生み出された技術の生みの親の姓であり。
“自ら”を生み出させるため自分を『イケニエ』として必要としたユメの名。
忌まわしきユメが、今の今まで生き延び続けていたというなら、終わらせねばならない。悪夢はいい加減に目覚めなければならない。
その為にも、この少年は役に立つ。
「――なるほど・・・。戦争とは皮肉なものだな・・・・・・動揺するのも致し方がない、仲の良い友人だったのだろう?」
「はい・・・・・・」
「わかった――そういうことなら、次の出撃には君を外そう」
相手の心痛に心底同情している声音で優しく語りかけられながら、部下の少年兵の人事に配慮する気遣いまで見せられてしまったアスランは、逆に「ハッ」となって顔を上げて相手を見上げ―――仮面の下に浮かんだ笑顔は見えない。
「いえ隊長! それは――」
「そんな相手に銃は向けられまい。・・・私も君に、そんな残酷なことをさせたいと思うほど鬼ではないつもりだ。今回は待機していたまえ」
「待ってください! キラは・・・・・・あいつは利用されているだけなんです! だから私に、説得する機会が与えて頂けませんでしょうか!?」
激しく首を横に振って、机の上に身を乗り出さんばかりに強く主張してくるアスラン・ザラ。
期待どおりの反応に、内心でほくそ笑みながらクルーゼは、用意してあった次のセリフを彼に投げかけ、相手はその言葉に息を飲む。
「あいつは、優秀だけど、時々ぼうっとしている時があって、現実主義なところもあるのにお人好しで、だからナチュラルにいいように使われてることにも気付かずに・・・・・・。
ですが彼だってコーディネイターですっ。こちらの言うことが分からないはずがありません! 話して伝えることさえ出来れば、きっとアイツはこちらの話を聞き入れてくれるはずなんです! だから・・・ッ!!」
「君の気持ちは分かる。
――だがもし、聞き入れてくれなかったとしたら。その時、君はどうする?」
「そ、それは・・・・・・」
思わず詰まって、たたらを踏んでしまったアスランは――だが、その後ろめたさからくる後退によって、逆にまえへと踏み込む決意を固める力と化す。
頑迷に、強固に、偏狭に、戻れる退路を潰す道を、自らの意思と望みで選択してしまう。
「そのときは・・・・・・・・・私が、彼を撃ちます」
一度は顔を曇らせ、言いよどんでいた彼は上官の顔を見つめながら。
悲壮な決意を込めて、きっぱりと。そう断言する。
そうして攻撃参加の許可を得て退室していく部下の後ろ姿を見送りながら、残された隊長のクルーゼは。
―――望んだ通りに踊るマリオネットの出来栄えに、満足の笑みを浮かべて一人嗤う。
ああ言えば、アスランがその反応を返してくることは予測できる範囲での回答だった。
伊達に彼らを率いる隊長を担っているわけではない。
“友人が原因の危機に対処するため”、“他の仲間たちが危地へと出撃していき”、“自分は友殺しで心が痛まないよう配慮した後方で安全に見ているだけでいい”
・・・・・・そんな風に特権的な立場を一人だけ与えてやれば、却って後ろめたさを強く刺激され前へと出たがる方向に向かいやすいのがアスラン・ザラの心理的傾向だったからだ。
他者より多くの恵まれた待遇や権限を与えられると、逆にそれらを使いたがらず、自ら自制する方向に用いたがる妙な性癖を彼は有している。
育った環境が影響した結果なのだろう。
言うなれば、『善意のひねくれ者』で、『好待遇への天の邪鬼』それがアスランの行動原理であることを、クルーゼは既に把握していた。
ひねくれ者の少年兵を、親友との殺し合いに身を投じさせるには、戦争のリアリズムを語るより、優しく気遣ってやるのが一番だった。
それだけで彼は、勝手に義務感に駆られ、勝手に責任を背負い込んでくれる。
――優秀で、責任感が人一倍強いだけの、世慣れしない独り善がりな子供に戦わせるのは楽でいい―――
クルーゼは、一人きりになって照明を消した室内で薄く笑う。
自分の身体が無理の利きづらいハンディキャップを背負っている以上、しばらくは彼らに“奴”の相手を任せるしかないのだから・・・・・・。
クルーゼ隊が、大天使を“網”の中へと捕らえてしまうための作戦を開始してから20分弱ほど。
当面の目的地を決定して、そこに行き着くための作戦を開始してから一定時間が経過していたアークエンジェルの艦橋内に警報が鳴り響く。
「大型の熱量感知! 戦艦のエンジンクラスと思われます。距離200、イエロー3317マーク02チャーリー、進路ゼロシフトゼロ!」
警報に続いて、アークエンジェルのCIC担当として臨時で索敵なども兼任していたダリダ・ローラハ・チャンドラⅡ世から詳細な敵艦の位置と速度についての情報がもたらされ、艦橋にいた皆の心に一瞬“ゾッ”とした重いモノが内側から込み上げてくる錯覚を覚えさせられる。
「横か! 同方向へ向かってる!?」
「だが、それにしては大分遠い・・・・・・とすると、やはり・・・」
つぶやくナタルの顔に一筋、冷や汗が流れて落ちる。
予測していなかった展開でないとはいえ、出来ることなら外れて欲しい予測だったことは紛れもない事実であり、どうやら自分たちの想定した『予測される中で最悪の作戦』を敵の方が選んで実行されてしまった―――かもしれない。
その予測が、推測ではなく確定した事実になるのは、チャンドラが敵情報について一番重要な一文を伝えてくれた言葉によってになる。
「目標はかなりの高速で移動。横軸で本艦を追い抜きます!
――艦特定、ナスカ級一隻のみです!!」
その結びの報告を聞き届け、艦橋内に同席していたレン・ユウキ二尉は一つ頷くと、淡々とした口調で感想を口にする。
「やはり敵は、こちらの内情を事前に把握した上で攻撃をかけてきているようですな。それもかなり深いレベルの情報まで。
最初から知った上で取ってきているとしか思えない攻撃方法や、戦術ばかりを多用してくる・・・」
特に苦々しいという訳でもなさそうな口調で、他人事のように論評する声が小さく響く。
ザフト軍の作戦行動に当初から疑問点を多く見いだし続けてきたことへの回答が、敵から得られた故の反応だったからだ。
実のところ彼は、ヘリオポリス攻撃開始の時点からザフト軍クルーゼ隊の非合理的で“らしくもない行動”を幾つも散見せざるを得ない状況と展開に疑問を抱き続けていた。
――クルーゼ隊の行動が、あまりにも的確で迷いがなさ過ぎる。というのが、その疑問点だった。
それを裏付ける報告を、射撃指揮の役目を引き継ぐことになったロメロ・パル伍長とナタル・バジルール少尉“臨時”副長との会話によって実証される。
「ローラシア級の位置は! やはり本艦の後方か!?」
「・・・はいっ、本艦の後方300に進行する熱源がありますッ。
おそらくレーダーの索敵範囲ギリギリを航行しながらローラシア級だけがエンジンを切って速度を落として距離を空け、しかる後に本艦の後方へと回り込むコースへと進路変更していたと推測されますが、いつの間に・・・・・・」
敵の操艦能力と艦隊指揮能力の高さに唖然とさせられながら、自らの未熟さを痛感してか唇を噛みしめさせるロメロ・パル“臨時”射撃指揮。
それで確定だった。
――敵は明らかに、人員と物資の乏しいアークエンジェルの懐事情を想定して、コチラの動きを予測した攻撃を取ってきている!!
思い出せば、当初から疑問点は多く存在していたのがザフト軍によるヘリオポリスへの先制攻撃だった。
なんの警告もなしに仕掛けられた、民間人を巻き込むコロニー内でのMS戦闘。
事前にコロニー内へと侵入させていた特殊部隊による爆破工作。
表向きとは言えオーブ職員の身分に偽装していた連合兵たちへの強襲。
まるでブルーコスモスによるテロ攻撃を彷彿とさせるような所業を連続だったのがクルーゼ隊による一連のヘリオポリスに対する攻撃の内訳。
結果として全ての予測が的中していたからこそ見事な奇襲作戦となりえたものの、一つでも間違えっていた場合には自分だけが批判と非難の対象になりかねない強引すぎる力押し。
それこそ、『住民のほとんどが脱出したから』『ユニウスセブンの悲劇』と比べれば大したことのない出来事で済むことが出来ただけなのだ。
脱出に失敗して死んでいた場合には、【ザフト軍から発進した一隻の軍艦によって引き起こされたヘリオポリスの悲劇】として歴史書に記されることになっていた運任せの論評。
・・・・・・知将として知られるザフト軍のクルーゼが、そんなリスキーな戦術を多用するだろうか?
ここまで来ると敵将は、オーブ国の一部と地球軍とが結託して、ヘリオポリス内で新造戦艦と連合軍用MS開発を行っていたという確たる情報を予め知っていたとしか思えない。
敵艦クルーの練度の低さと、完成前に物資搬入の途中だった内情を把握し、主要クルーの大半の戦死を確信している者から見れば、現状のアークエンジェルは性能を発揮することができず、本来のスペックなら可能となる月基地へと直進して合流するルートは実行不可能であると予測するのは難しくない。
きっと今の彼には、小細工を弄すれば弄するほど、内情の苦しさを誤魔化すのに必死な敵の足掻きが透けて見えて見苦しい。・・・・・・そんな心境に立っているのではないか?とユウキは言葉には出さず心の中だけで、敵将の心理をそう予測する。
(・・・どこからか情報が漏れていたと言うことなのだろうが――どこからだ?
『ケナフ・ルキーニ』やらの情報屋辺りが職員を買収して、買った情報をザフトに売ったという可能性もあるが、売った奴らは身分詐称の味方と考えた方が自然というものか。
やれやれ、我らが尊敬しあたわざる代表首長閣下も、つくづく味方からの人望がおありなことで)
内心で肩をすくめながら、心当たりが多すぎる自国の窮状に思わず吐息が漏れそうになるのを抑えるのに苦心させられるレン・ユウキ。
彼の所属するオーブ国は、表面的にはナチュラル・コーディネイターの別なく同じ国民として受け入れている種族間の対立の少ない、現在では極めて珍しい地球国家として知られているし、事実として『異なる種族間の対立問題』という点では自分の国はかなり優れている方だとユウキ自身思ってもいる。
――ただし、政治的対立や勢力争いという分野では他国に勝るとも劣らない、むしろ部分的に超越しているのではないかと思える点が多々見いだされるのが、表からは見えづらいオーブの国内状況だった。
古くから影で汚れ役を担ってきた『サハク家』の一派が戦乱に乗じて戦力拡充の動きが見られ、金策が担当だった『セイラン家』は戦争成金として一山当てたことで議会内への影響を増してきている。
今回の主戦派閣僚による地球連合との密約も、結局のところはオーブ内の内輪もめに端を発した『戦後を見越しての決断』といったところが実情なのだろう。
連合寄りの機械省が結託してヘリオポリスで造らせていたMSの情報をケナフたちに売り飛ばし、そこからザフト軍へ自然な形で流れるように仕向けさせ、今のアスハ政権を追い込みたいだけを理由として、手を結びかねない。
それほどに内外の敵を多く抱えているのが、オーブの実情だったのだから。
「予測してなかった訳じゃないとは言え・・・やられたな。このままだといずれはローラシア級に追いつかれて戦闘になり、追ってナスカ級も駆けつけてくる。逃げるためエンジンを吹かせば前方から転針したナスカ級が先に、って寸法だ」
そんな彼の思考を遮るように、ムウが現状をブリッジ内にいる誰もに分かるよう、分かりやすく如何に『絶望的なほどの戦力差か』というのを説明する声が響いてきて、艦橋内にいるクルー達の心と口に恐怖による沈黙を平等にもたらしていく。
この期に至って、ナタル・バジルールが提案して採用された『敵の目を誤魔化して戦闘を避けてアルテミスへ入港する偽装計画』は完全に破綻したことが確定した。もはや戦闘は避けられない。
戦いを避けられなくなった以上、『戦闘状態に陥った時を想定していたセカンドプラン』への移行を決定せざるを得ないのが指揮官足るものの勤めになる。
「そうなれば、オーブ軍二尉殿の推測した通りの状況ができあがりって形になる訳だが・・・・・・どうする? 艦長さん。
戦うとなれば、俺一人だけじゃ流石に手が足りなくなるのは避けられないが・・・・・・」
「・・・・・・分かっています。こうなってしまった以上、仕方がありません」
苦々しげな口調で呟きながら、マリューとムゥは艦橋内にいるクルーたち唯一の『異端者』を嫌そうな視線で「チラリ」と見つめ、見られた側は軽く肩をすくめる。
別に彼が悪くて起きてしまった現状でないとはいえ、古より敗戦と作戦失敗の予言者が身内からも白眼視されるのを避けられないのは、人類にとって伝統芸能の一つというもの。仕方がないと諦めるしかない。
マリューとしては苦しいところで、自主的に協力を申し出てくれるといっても民間人の、それも他国の中立国に属する少年を自国の新型戦艦死守のため戦場に駆り出させる命令など出したくはない。
『中立だ、関係ないと言ってさえいれば今でもまだ無関係でいられる、まさか本当にそう思っているわけじゃないでしょう?
これが今のあなた達の現実です。戦争をしているのよ、あなた方の“世界の外”は』
あの後、彼の旧友である少年たちには偉そうなことを言ってしまった言葉が、今となっては空しく響く。
銃口と緊急事態を笠に着て、尤もらしく言ってしまったけれど、何のことはない。
要約すれば、『自分たちだけでは全滅してしまう。助けて下さい』と、上から目線で命乞いしただけの無様な発言だったことを、発言者であるマリュー自身は自覚していたが正直に言える立場でないことも理解してはいる。
他国の民間人に守ってもらわねば、自国の防衛すらままならない。
それは大西洋連邦軍人の無能を証明するものだ。マリューは率直に、そう思う。
思うが・・・・・・どうしようもない。
この状況を脱するためには、どうしても彼の力が必要で、自分たちが敗れた後にザフト軍が彼らを無事に生かしてくれるとは到底思えない現状では、どうすることも出来なかった。
「――二艦のデータと宙域図をコチラに!
これより本艦は、現状の窮地からの脱出を目的としてプランBへと移行します!
コンディション・レッド発動! 全艦、総力戦用意!」
『敵影艦発見! 敵影艦発見! 第一戦闘配備! 軍籍にある者は、ただちに持ち場につけ!!』
切迫した艦内アナウンスを聞いたキラ・ヤマトは、まだ迷っていた。
キラ・ヤマトの“肉体”が、まだ迷いを捨て切れてないんだ。足が、重い。
けど、完全にじゃない。最初の時の出撃より、ずっと身体の動きは軽いし、心の重しは大分柔らかい。そんな感じがあった。
原作の彼もたぶん、同じようなものだったんだと思う。
彼らに協力してアークエンジェルを生き延びさせる以外に、“僕一人以外の他人たち”を『イケニエ』にして自分だけが助かる道を選ばないで済む方法は、他にないんだって事実だけは・・・・・・キラ・ヤマトも気付いていたんだと、僕は信じたいと思ってもいる。
それに多分だけど、現実的な問題として、そうする以外に僕が生き延びれる道さえ事実上なかったのが、『サイレント・ラン』の実体だったんじゃないかって今では僕自身が思うようになってもいた。
「――あ! トール・・・みんなも・・・・・・どうしたの? その格好・・・」
「ブリッジに入るなら軍服着ろって、あの綺麗だけど偉そうな女の軍人さんに言われてさ」
けど、その途中で原作通りの選択を選んでくれたらしい、軍服に着替え終わって艦橋へいくところのサイたちと遭遇して驚かされなかったと言えばウソになる。
「僕らも艦の仕事、手伝おうと思ったんだよ・・・人手不足なんだろ? 普通の人よりかは機械やコンピューターの扱いにも慣れてるし・・・・・・その、お前にばっか戦わせて守ってもらってばっかりじゃ・・・・・・さすがにな」
「こういう状況なんだもの。私たちだって、出来ることぐらいしたいと思ったから・・・」
「サイ・・・ミリアリア・・・・・・みんな・・・」
原作の流れを変え切れてなかったことを、事実として見せつけられてしまったことに一瞬だけ茫然自失させられるほどショックを受けさせられる思いだったけど・・・・・・けど、それでも何一つ変えられていないって訳じゃないらしい。
「でも軍服はザフトの方がカッコイイんだよな。俺たちのは少年兵のみたいだし階級もないから、なんかマヌケで」
「コラ、生意気を言うな! いいから行くぞ、艦橋にいって艦長代理から役割を割り振ってもらわなきゃならないんだから。
当面は各部署を任されているオーブ兵たちから仕事のノウハウを学ぶことに専念すること、分かったな!?」
『は~い』
案内役兼監視役として付き添ってくれていたチャンドラ伍長からの叱責に、引率役の先生から怒られた時みたいな返事を返す皆の姿に、「ったく・・・」とボヤキを口にしながらも艦橋へ向かっていく伍長からの発言によって、彼らが担う役割が原作と全く同じじゃないことを教えられ、自分のやってきたことが全くの無駄じゃなかったという事実を肉体もまた実感してくれたようだった。
身体の肺が、言葉に詰まったし、胸の辺りに、熱さがあった。
―――少なくとも今の僕は、一人じゃない。
その事実をキラ・ヤマトも実感させられる。
全員から理解されることはないし、貢献すれば一人残らず受け入れてもらえるなんてエゴもいいところ、批判してくる人たちを理由に、賛成してくれる人たちの存在より優先して言い訳がない。
それを理性で分かっていながら、それでも傷つきやすく、善意よりも悪意に弱くて、自分一人で耐えて頑張り続ければ何とかなると信じた道を行きながら、最後まで貫くことも出来ない意志の弱い半端な人間がキラ・ヤマトという少年がもつ本質だった。
その彼として、彼の肉体を与えられて生まれ変わった僕のやるべきことは、整合しきれないキラと世界の隔たりを繋げるための接着剤として機能することだと考えている。
そのためにも、まず今の戦いを乗り切る必要があった。
中立国でありながら、アークエンジェルとガンダムたちを極秘裏に建造していたという一事を以て、『ナチュラルたちと地球軍全部の悪意ある総意』とする理由だって信じ込んでいる今のアスランとは戦うしか他に手段がないから・・・。
ヘリオポリスのことを、『ウズミ代表首長の知らないごく一部の人間が勝手にやった事かもしれない』って、後で自分自身が僕に向かって言っていた言葉を、今の時点で言われたとしても・・・・・・多分、アスランは話を聞こうとしてくれると思うことができないのが、今の僕だったから・・・・・・。
そんなキラ・ヤマトであってキラ・ヤマトには成り切れない、不完全で半端な僕がまず最初に片付けなきゃ前に進むことができない課題の一つが、この『サイレント・ラン』から『フェイズシフトダウン』へと続く選ぶべき道を変えることだった。
「――お断りしますッ! 僕はフラガ大尉から「艦と自分を守ることを優先するよう」言われました、なのにその装備で出撃しろって言うんでしたら僕は嫌です!」
『なんだと、貴様!? 自分から協力すると言い出しておいて、そんな言い分が通るとでも思っているのか! 軍隊は子供の遊び場ではないんだぞ!』
「だから装備を変えて出撃させて欲しいと行っているんです! その装備だと、死にに行くようなものです!
命令だから自殺しにいけなんて命令しても、兵士たちが「命令だから仕方がない」って従ってくれるとでも思っているんですか!?」
画面を通して、僕は再びナタル少尉とやり合っていた。
議題になっていたのは、今言ったように出撃する《ストライク》の装備になにを選ぶか?というもの。
彼女の方は原作通り、《エール・ストライカー》での出撃を僕に命じてきていたけど、原作を見て「敵の内情」を知っている僕の判断は彼女の言う通りにするのは危険だというのが分かっていた。だから強硬に反対して出撃命令さえ拒否する暴挙に出ていたんだ。
『誰もそんな事は言っていない! アークエンジェルが吹かしたら、あっという間に敵が来るのだぞ!
それを貴様、この期に及んで命令拒否とは、たとえ入隊した直後の新兵と言えど軍法会議と厳罰を覚悟してもらうことになるぞ! それでもいいと言うのか!?』
「――やりたいなら、やればいいじゃないですか! どっちにしろ、貴女の言う通りにしたら死ぬんだ! どうせ死ぬなら同じことです!
僕がいなくなって艦ごとクルーが全滅する危機を前に、裁判ゴッコで現を抜かしたがる味方殺しの命令なんか聞けるもんかーっ!」
『なっ!? な・・・ッ! 貴様ッ!! わ、私に向かって、なんて口を・・・・・・貴様ッ!!』
あまりにも想定外過ぎる罵倒を言われたせいか、ナタル少尉は激高するより唖然とした表情を一瞬だけ浮かべて言葉に詰まり、なにを言い返していいのか瞬時には分からなくなったらしい空白の間を空けさせられる。
その隙を見逃さずに僕は再度、求めていた要求をブリッジに採用してくれるよう要請を出す!
『《ランチャー・ストライカー》に換装した状態で出撃させて下さい! どうしても《エール・ストライカー》で出ろというのなら、僕は出撃しませんッ。
艦と自分が乗るストライクを守りぬきながら、生き延びられる腕と自信がありませんから!」
ハッキリと僕は断言して、躊躇いを覚えたように、説得して命令を受け入れさせる有効な言葉を探すように計算し始めたらしい雰囲気を漂わせ始めた相手側に、その意図を手短に説明してみせた。
敵が攻撃してくるとすれば出撃してくるMS隊には、奪取したばかりのフェイズシフト装甲を搭載したG部隊が投入されてくるのは確実だと言うこと。
先の戦闘で出撃してきたジンの総数は、ナスカ級とローラシア級が搭載可能なすべての戦力を投入したのと同数だった。なら敵艦隊には既に奪取した機体しかMSがないことになる。
とするなら、敵艦がMSを出撃させてきた以上、それは絶対に奪われた連合軍用の新型しかありえないという計算になるしかない。
実体弾しかなく、ビーム兵器を防ぐ手段のないジン部隊ならともかく、ザフト軍人たちが操縦するストライクと同等の性能をもった新型MS数機を相手どって、素人でしかない僕が操るストライク1機でドッグファイトを演じることになった場合、結果は火を見るより明らかだ。
『――!? 奴らがコチラから奪った《G》を、すべて投入してくると・・・・・・そう言うのか貴様は・・・?』
「それは、分かりません。けど、敵にはそれしか残ってないなら使うしかないと言ってるだけですッ。
そんな相手に一人で立ち向かっていって勝てるとは思えませんし、最後に残ったストライクまで奪われるのは不味いんでしょう!?
だったら大砲でも持って、艦の上で対空砲の代わりでもしていた方が少しはマシです! 味方の対空射撃と合わせて使えば、運さえ良ければ当たるときだってあるはずですから!!」
『そんな場当たり的なものが迎撃策などと!!―――だが、それしか他に有効な方法がないのも事実なのが現状か・・・・・・仕方がない』
やがて艦長の方にも話を合わせてもらえたらしく、マリューさんからの決定と命令という形で大急ぎでランチャー・ストライカーの装着作業がおこなわれ、僕は原作とは違った装備になった姿でアークエンジェルからの初出撃していくシーンをストライクガンダムに飾らせることになる。
『ローラシア級、後方50に接近ッ』
『メインエンジン始動。同時に特装砲発射、目標前方ナスカ級』
『カタパルト接続、システム・オールグリーン。装備は《ランチャー・ストライカー》を』
そして、始まりの刻が―――訪れる。来て、しまった・・・っ。
『ローエングリン、撃てぇッ!!』
『キラ・ヤマト、ストライク発進だッ!!』
「・・・・・・ッ、りょ、了解ッ!!」
指示が伝えられて、望み通りの装備で出撃できる。条件は整った。
・・・けれど・・・・・・っ
「――はぁ・・・っ! はぁ・・・っ、はぁ・・・・・・ッッ!!」
息が、荒い。動悸が、激しい。心臓が破裂しそうなほど高鳴っている。ドクドク響く音が頭の中まで響いてきて妙にうるさくて勘に障る・・・ッ。
肉体が軋みをあげていた。キラ・ヤマトの身体が全力で戦場に、人殺しに参加しに行くのを嫌がっているのが伝わってくる。
頭が、痛い。目眩が、する。立ち眩みのような症状を感じているはずなのに・・・・・・何故だか思考だけは酷くクリーンで、冷静に計器類を順次確認していって、それで――
「――キラ・ヤマト、ガンダム行きますッ!!」
そして僕は―――出撃した。
キラ・ヤマトとして、コズミック・イラの地球圏に生まれ変わってから初めての戦場に。
この日初めて、民間人として生きてきたキラ・ヤマトという名の中立国の住人が、人生初の戦場へ行くという行動を、僕はキラ・ヤマトと完全に同じ立場で生まれ育った人間として共有することになる。なって―――しまったんだ。
こうして、戦闘は開始される。
・・・・・・後から聞かされた話だけど、この時の戦闘でマリューさんたちは当初、後ろを取られたローラシア級からだけしか、MSによる攻撃はないという前提で作戦を考えていたらしい。
これは先に行われたヘリオポリス崩壊さえ視野に入れた攻撃の際に、ラウ・ル・クルーゼは奪取した機体のうちイージス以外の全てをガモフに収容させて、攻撃隊の編成はヴェサリウスから発した部隊が主力を務めていたのが原因だったらしい。
後の時代になって平和になった後から話を聞くだけだと実感しづらいけど、軍艦が艦載機を何機搭載できるかっていう搭載可能数は重要な軍事機密の一つで、連合もザフト戦艦の正確なスペックまで完全に把握できている訳じゃない。
その知識不足を突かれた形になってしまってたのが、この戦いの内訳だったんだ。
敵の船に何機の機体が搭載できるのか?っていうのは、拳銃を何発撃った後に、いま何発の弾丸が残っている状態か?っていうのを頭の中で計算するのと行動的にはよく似ている。
撃ち尽くして、一発も残ってない状態で人質のこめかみに銃口を押しつけたならハッタリで、一発でも残っていた場合には人質の命を止めに入った側が奪うことになりかねない。
自分たちが対応するため、どう動くかを決めるときの前提条件に、弾丸が何発残っているか? 何機のMSが残っているのか?は大きく行動を左右する。
頭数が多くて、伝統的な宇宙軍を擁している地球軍の軍艦は必然的にスペックを敵にも知られやすくなってしまった後の時代になって久しいのに対して、ザフト軍艦の性能や搭載可能数はおおよその予測はついているだけで確実とまでは言えないらしい。
それら知識量によるアドバンテージを、敵将ラウ・ル・クルーゼに利用されて逆用された形になったのが、この戦いにおける顛末の裏事情だった部分になる。
自分の素性を隠して、連合側がもつ秘匿情報さえ閲覧できる立場の人物と、近い場所で暮らしてきた過去を知られていないからこその、『自分だけは知っている上位性』それを最大限に利用してアークエンジェルを落としに掛かってきたクルーゼ隊だったんだ。
彼にとって唯一の、そして最大の誤算は、『彼が知っている情報の大半』を『彼の敵である僕も知っている情報』でもあるという事実を知らなかったこと。
それが、この戦いの終わり方をも大きく原作と異なる形にさせるのに貢献してくれることになるなんて・・・・・・僕自身も考えてなかった嬉しい誤算の結果でもあった。
「敵戦艦、更に距離650にまで縮まりました」
「MS隊からの定時報告です。『我が方、有利』以上です」
「・・・・・・どうやら、敵もなかなかの武装を有しているようですな。流石のイザークたちも苦戦しているようだ」
敵艦である『足つき』――アークエンジェルを沈めるための先鋒をローラシア級ガモフに任せていたヴェサリウスの艦橋で前線からの報告を受け取りながら、艦長であるアデスは太い感嘆の吐息を漏らさずにはいられなかった。
『有利』などという曖昧な表現を敢えて用いて報告に使ってきた味方MS隊の苦悩を、彼は一瞬にして看破していたのだ。
戦況が有利なのは嘘ではなく、間違いでもないのだろう。
だが反面、有利に進めているだけで未だ敵艦に取り付くことすら出来ぬまま、際だった打撃を与えることには成功できていない―――そういう意味合いでの表現であることを、想像力には乏しいが艦長としては優秀な彼は短い一言から把握できる能力は有しているのだ。
「先にもたらされたガモフからの報告によれば、敵艦は巨大なビーム砲を装備させたMSを甲板に立たせ、艦砲や対空砲の死角を補わせながらイザークたちの猛攻を凌ぎつつ、盛んにアルテミスへ向けて救援を求めるための通信を打電し続けているとか。
隊長が、ヘリオポリスへ攻め入ったときに不覚を取らされた、あの装備です」
「アレか・・・確かに、アレをもって時間かせぎに徹せられてしまってはイザークたちでも手こずらされるのは、やむを得んだろうな。
あの戦艦自体も相当に強力な武装と装甲を有しているようでもあるし、まったく。・・・・・・厄介な船を造ってくれたものだよ、連合も・・・」
吐息を尽かされながらも、クルーゼの声と表情には余裕があった。
たしかに援軍が来るまで耐え凌ぐための時間かせぎは、撃沈までには手間取らされる戦い方ではあったが、籠城戦は援軍が来ない限りは負けが確定する戦術でもある。
求める援軍の内訳が、時間であったり政変であったり、はたまた『カミカゼ』とやらいう異常気象という場合もあるが、いずれにしろ『期待する援軍が来なければ敗北』という点では変わるところはなにもない。
距離的に見てもアルテミスに通信が届くにはまだ遠く、何より進行方向の頭を自分たちが抑えてNジャマーを散布し続けている状況では、どう足掻いても味方の援軍が敵を突破するより先に辿り着いてくれることは、まず不可能。
つまりは――詰みだ。
強いて気になる点があるとすれば、一つだけ。
「・・・ヘリオポリス攻撃の際に、オロールたちを撤退に追い込んだ例のMAの姿は確認できないままか?」
「はい。ガモフにも再度の確認を取らせましたが、『本艦においても確認された敵戦力はMS1機のみ』とのことです」
「あのMAは、まだ出られん。・・・そう考えて良いようだな」
“あの男”が操る奇妙な武装MAが、戦闘開始から1度も存在を確認できていないこと。それだけはクルーゼにとって一抹の不安となり、シミのように勝利の確信に暗い影を落とす理由になっているものだった。
奴は強く意識する彼としては、あの男にフリーハンドが渡っている現状を無視することも軽視することも出来がたい。
だが一方で、ヘリオポリス攻撃時に奴のMAを行動不能な状態にまで追い込んだのは自分自身の攻撃によるものであって、その時に与えた損害には自信を有してもいる。
問題となるのは、あれから一定時間が経過した今以てなお修理が終わっているのかいないのか? 修理に必要となる特殊武装用の補充部品がモルゲンレーテが有していたのか否か? それらを有していた場合、あの船に提供されて補修に用いられたのか使われなかったのか?
それらの点が勝利への確信を曇らせる疑惑となり、クルーゼの心に慎重さと強い警戒心を抱かせ続ける動機となってきたのだが・・・・・・だが、この段になっても未だ奴の姿が確認できないままならば、修復作業が終わっておらず出撃したくとも出来ないと考えるのが自然なように、クルーゼも考えざるを得なくなってくる。
彼がそう考えるのも仕方のない窮状にアークエンジェルは陥って久しく、今さら奥の院にMA1機を温存し続けることに何か意味なり得なりがあるとは到底思えない。
(・・・『エンディミオンの鷹』が、翼をもがれたまま船の上で砲手として死ぬ、か・・・・・・無様で哀れな結末だな。あの男の息子には相応しい末路だよ、ムゥ・・・)
そうして、勝利を確信する思いが沸いてくれば、そういう暗い感情に基づく愉悦を感じ始めてしまう心は、クルーゼも他の凡人たちと変わらない部分だったらしい。
あの傲慢ちきな男の息子が、宇宙へと飛び立つことも出来なくなって下だけ見下ろしながら死んでいくことを想像すれば、いっそ気持ちが良い清々しさに心洗われる思いがする。
―――その暗い過去にまつわる復讐心という願望が、『油断』に繋がる感情論だということには気付かぬまま・・・・・・。
「敵戦艦との距離630まで接近! まもなく本艦の有効射程圏内に入りますッ」
「――よし、コチラからも攻撃開始だ。射程内に入り次第、砲撃する」
「MSが展開中の宙域にですか!? 主砲の発射は巻き込む恐れが・・・」
「友軍の砲撃に当たるような間抜けは我が隊にはいないさ。彼らの腕を信じてやれ、アデス」
そう言って笑いかけてやったが、副長は不満そうに何か言いたげな表情を無言のまま向けてくるだけ。
不満があっても内心に押さえ込み、命令を遂行する部下であると承知しているが、念のためだ。
「それに我らが撃たずとも、向こうは撃ってくるぞ。それでは結局、射線上にいる味方は巻き込まれる。
逆に我が艦が撃つことで敵艦の動きに制限をかければ、彼らを援護することにも繋がるだろう。違うかね?」
「・・・・・・成る程、たしかに。――よし、主砲発射準備! 照準、敵戦艦!!」
―――これでいい。
部下の号令を聞き流しながら、クルーゼは内心でほくそ笑む。
前後から挟撃された敵は、まさに袋のネズミ。放っておいても追い詰められて死ぬしかない。
――そして、最後のトドメぐらいは、せめて自分の指示した砲撃によって・・・・・・!
そんな誘惑に一瞬だけ、この時にだけ、絶対の勝利を確信して愉悦を抱いてしまった瞬間だけの油断が――――彼の勝利を水疱に帰させた最大の敗因となった!!
「いよっしゃァァァッ!! 待ってたぜ、この時をぉぉぉっ!!」
丁度その瞬間のことだったからである。
ヴェサリウスが艦首に設置されている艦砲を、前方から接近しつつあるアークエンジェルへと砲口を固定して、副砲や対空砲などの火器統制システムが一つの目標へと絞られて登録されてしまった、その瞬間に。
ザフト軍が攻撃を開始するより遙か以前の段階で機体を出撃させ、接近中だったヴェサリウスの到達予測値点へと先んじて到着するため長駆侵攻し。
完全な奇襲攻撃という形となって、ムゥ・ラ・フラガが駆る《メビウス・ゼロ》を急速上昇させながら、持ちうる武装の全てを使って全弾発射する勢いで撃ちまくる!!
「~~ッ!! 機関最大ッ! 艦首下げ!ピッチ角60っ!!」
「はっ!? 隊長、なにを――」
「説明しているヒマはない! 死にたくなければ言われたとおり艦を動かせ!早くッ!!」
唯一それを理性ではなく感覚によって察知することができたクルーゼが、仮面の下の顔半分を真っ青に染めながら悲鳴のように叫んだ怒号は、だが彼と同じ感覚を共有できない者達には即座に反応できるものではない。
『うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!』
「――!! 本艦底部より接近する熱源ッ! 例のMAですッ!!」
「な・・・っ!? えぇいクソ!シーウス作動! 機関最大ピッチ角60!」
遅れて対応を指示したアデスだったが、時既に遅かった。
完全に守りを解いて、柔らかい脇腹を晒してしまっていた状態から強かに損害を与えられたヴェサリウスは激しく揺り動かされ、艦内には悲鳴と怒号が乱れ飛ぶ。
「機関損傷大ッ! 艦の推力低下! 敵MAは離脱した模様ッ!!」
「第五ナトリウム壁損傷! 火災発生! ダメージコントロール隔壁閉鎖!!」
「ぐぅぅっ!? やられっぱなしで逃がすものかよ! 小癪な敵MAを撃ち落とせェェッ!!」
「そんな余裕はない!!」
「はぁっ!?」
思わず叫ばれたクルーゼからの続く命令に、訳が分からず驚いた顔を向けるしかないアデス副長。
だが、してやられた敵の奇襲という『終わってしまった出来事』に心と視線を奪われている部下たちと異なり、クルーゼだけには分かっていた。見えていたのだ。
もともと奇襲に成功したとは言え、小型故に火力が乏しいメビウスの攻撃でヴェサリウスを沈めることなど出来るわけがない。
旗艦に損傷を与えられただけでは、健在な僚艦と敵母艦を追い詰めつつある味方MS隊まで退いてやる理由になり得る訳もない。
なら考え得る可能性は一つだ。
ヴェサリウスは、高速艦として敵の『大天使』の頭を抑えるため、先行して行き先を塞ぐ形で布陣していた。
前後から挟撃される布陣だったからこそ、敵艦は後方からの攻撃に対処するのを優先し、遅れて到着する距離のあったヴェサリウスへの防備を疎かにしたのだ。
そのヴェサリウスが今、被弾して損傷を負った。
・・・・・・とすれば当然、敵として取るべき道は。
「フラガ大尉より入電ッ! 『作戦成功、これより帰還する』とのことッ!!」
「――よし! この期を逃さず前方ナスカ級を討ちますッ!!
ローエングリン、1番!2番、斉射用意! フラガ大尉に宙域離脱を打電!
ストライクにも、斉射を邪魔されるのを全力で阻止するように言って!!」
敵の弱体化と作戦成功を見て取って息を吹き返したアークエンジェルが、これまで隠し続けて牙を剥き、奇襲成功の成果を最大限まで拡大するため、利用するため、徹底的につけいるための一撃をヴェサリウスへと叩き込んでやるため動き出す!!
「陽電子バックチェンバー臨界!」
「マズルチョーク電離、安定しました!」
「発射口、解放ッ!!」
「《ローエングリン》、撃てェェェェッ!!!」
「熱源接近! 方位、0,00! いや、わずかだけ左舷に射線がズレている・・・ッ、着弾まで3秒!」
「そこだ! 右舷スラスター最大! 躱せぇっ!!」
「ハッ!!――あっ!?」
その指示に唱和してしまってからアデスはようやく、その『損傷』のことを思い出す。
最初に行ったヘリオポリス攻撃の際に追わされた唯一の損害。
無論クルーゼには報告している損傷だったが、大前提としてアレを食らわされたのは自分であって、事後に報告を受けた側の隊長ではない。
自然、人の心は被害内容を覚えやすく忘れにくいのは、間接的に被害報告を受けた責任者よりも被害者自身であり、その被害者でさえ続発する事態に対処する流れの中で、その被害と目の前の出来事とを重ねて考えられる冷静さを一時的にだけでも失念してしまっていたとしたら、その時は―――
「ローエングリン命中を確認! ナスカ級は航行不能に陥った模様! 旗艦援護のためか、取り付いていたザフトMS隊が本艦より離れていきます!」
「今よ! アークエンジェル転針! 全速で宙域を離脱した後、月基地へ向かうコースを全速で直進!! 急げッ!!」
こうして、クルーたちの練度不足によって性能を発揮できないことが『月の連合軍本体』と合流する道を選べず、ユーラシアの軍事要塞アルテミスに寄港するしか道がなかったアークエンジェル。
追っ手であるザフト軍クルーゼ隊の追撃する足を止めさせるのに成功した彼らは、行く手を遮られる危険性が大きく減少した月基地へのコースに航路を変更させ。
慌ててそれを追う、ザフト軍のローラシア級ガモフとアスランたち連合軍から奪取した《G》部隊の面々。
彼らが互いの任務を全うするためには、月までの進路上での激突は時間の問題となりつつあった。
その途上で、世界の修正力による予期せぬ出会いが待っている運命を、今を生きる自分の知ることしか知らぬキラ・ヤマトの肉体も、キラの知っている全てのことを最初から知っているはずの魂も。
現時点で、その運命を知ることはできていない。
つづく